東京大学公共政策大学院
2017 年度「事例研究(ミクロ経済政策・解決策分析Ⅰ)」
復興班
後期報告書
東北地方への中国人観光客誘致
に関する政策評価
経済政策コース
1 年 ショウ シン
経済政策コース
1 年 エン リン
経済政策コース
1 年 チン ジンユウ
要旨
2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災及びこの震災に伴った福島第一原子力発電 所事故が東北地方を中心に各産業界に甚大な被害をもたらしたが、観光産業もその一つ で震災直後から客足が大きく減っている。本研究は、2012 年に日本政府が実施した「マ ルチビザ」政策が、震災で被害を受けた東北地方への中国人観光客誘致に与えた影響を 分析することにより、「マルチビザ」といった観光産業振興に向けた政策の効果を検証 するものである。 本研究は、以下の三つの手順で行う。 ① 震災後、中国人と日本人宿泊者数回復状況の表示 ②「DID」回帰分析による「東北 3 県観光マルチビザ」の政策評価。 ③ Synthetic Control Method を用いた「マルチビザ」政策評価モデルの構築報告書の構成は以下のとおりである。1 節では、マルチビザが登場した背景につい て、説明している。2 節では、分析手法、使用したデータを述べている。3 節では、分 析結果を述べ、4 節で結論と今後の課題を示している。 分析の結果は以下の通りである。まず、第4 四半期日本人と中国人宿泊者数の回復 状況から見ると、東北各県における観光客誘致策は主に訪日外国人観光客を対象に実 施していると考えられる。次に、「DID」回帰分析の結果は、2016 年の分析結果だけ が有意となり、「東北3 県観光マルチビザ」政策の効果が 2016 年から発揮した可能性
がある。最後に、Synthetic Control Method の分析結果からは、「宮城県については、
『東北3 県観光マルチビザ』政策が現地への中国人観光客誘致にプラスの効果が表れ
ているが、福島県については、政策効果が観察できない」と判断した。
また、今後の課題について、Synthetic Control Method を用いた「マルチビザ」政策 評価モデルにおいては、横断面及び時系列データ数の不足という問題が残されてい る。この問題を解決するために、試料数を増やし、より一致度の高い推移グラフを作
成した。しかし、震災後、日本各県が独自の観光客誘致政策を実施したため、被災2
県の第4 四半期中国人宿泊者数の仮想値を推定することが極めて困難になった。そこ
で、本研究においては、Synthetic Control Method の適正さのさらなる検証の余地があ る。
目次
1.はじめに ... 4
2.使用するデータと分析手法... 5
2.1 分析概要 ... 5 2.2 使用するデータ ... 5 2.3 中国人と日本人宿泊者数回復状況の表示... 9 2.4「DID」回帰分析 ... 92.5 Synthetic Control Method を用いた「マルチビザ」政策評価モデルの構築... 12
3. 分析結果 ... 13
3.1 宿泊者数回復状況の表示 ... 13
3.2「DID」回帰分析 ... 16
3.2.1 推移グラフ ... 16
3.2.2「DID」回帰分析の結果 ... 17
3.3Synthetic Control Method を用いた「マルチビザ」政策評価モデル ... 19
3.3.1 割合の推計結果 ... 19
3.3.2 仮想値と実測値の比較 ... 20
4.結論及び今後の課題 ... 22
4.1 結論 ... 22
4.2 今後の課題 ... 23
4.2.1 Synthetic Control Method の問題点 ... 23
謝辞 ... 24
参考資料 ... 26
1.はじめに
2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災及びこの震災に伴った福島第一原子力発電 所事故が東北地方を中心に各産業界に甚大な被害をもたらしたが、観光産業もその一つ で震災直後から客足が大きく減っている。1 国土交通省観光庁によると、東日本大震災 により、2011 年第 4 四半期の全国の延べ宿泊者数は前年の同時期より 8.8%低下し、被 災地東北は24.5%低下した事がわかった。また、ホテル、旅館の震災関連倒産も 45 件 にのぼった。出所:東日本大震災を受けた観光施策の展開 http://www.mlit.go.jp/common/000166484.pdf このような背景から、国土交通省をはじめとした関係省庁は東北地方に外国観光客を 呼び込むために、様々な政策を打ち出した。その中で、注目を集めたのは「東北3県観 光マルチビザ」である。2平成24年7月1日より、日本政府は東北3県(岩手県、宮城県、 福島県)を訪問する中国人個人観光客で、十分な経済力を有する者とその家族に対して、 数次ビザの運用を開始することとした。この数次ビザの有効期間は3年で、その期間内 であれば何回でも訪日できる。ただし、1回の滞在期間は、90日となっている。また、 この数次ビザは、現在中国人の訪日個人観光を扱っている全ての中国側旅行会社を通じ 代理申請ができる。 日本政府がこの政策により東北3県を訪問する中国人観光客が増加し、震災復興に繋 がるとともに、日中間の人的交流が一層促進されることを期待しているが、本当に東北 を訪れる中国人観光客数が増えるかどうかは未知数であり、政策効果はまだ明らかにさ れていない。 そこで、本稿では東日本大震災後の宿泊業を対象とし、東北各県の公式ウェブサイト に整備されている宿泊旅行客統計のデータを使い、2010~2016 年の過去 7 年間に、東 北各県を訪れた日本人と中国人観光客数の変化や推移などを線形グラフで視覚的に示 した。
また、
「東北3 県観光マルチビザ」による中国人観光客誘致への影響を明らかにするために、3「DID」回帰分析法と Synthetic Control Method(合成対照群法)を試みた。
1国土交通省観光庁「東日本大震災を受けた観光施策の展開」
2.使用するデータと分析手法
2.1 分析概要
本研究は、以下の三つの手順で行う。
① 震災後、中国人と日本人宿泊者数回復状況の表示
②「DID」回帰分析による「東北 3 県観光マルチビザ」の政策評価
③ Synthetic Control Method を用いた「マルチビザ」政策評価モデルの構築
2.2 使用するデータ
宿泊者数推移グラフ分析には、東北5 県(岩手県除外)2010〜2016 年の年間と第 4 四
半期の日本人、中国人宿泊者数を、「DID」回帰分析には、東北 5 県 2010~2015 年の第 4 四半期中国人宿泊者数と福島、宮城、秋田 3 県 2011~2016 年、青森、山形 2 県 2011 ~2014 年の第 4 四半期観光地域別中国人宿泊者数を、Synthetic Control Method による仮
想値と実測値の比較分析には、東北5 県プラス4新潟、栃木2 県、2007~2016 年過去 10 年間の第4 四半期中国人宿泊者数を用いている。本研究で使用したデータは、各県の公 式ウェブサイトによって記載されているものである。 1)青森県観光入込客統計(2007-2016) 2)宮城県観光統計概要(2007-2016) 3)秋田県観光統計 (2007-2016) 4)山形県観光者数調査(2007-2016) 5)福島県観光客入込状況(2007-2016) 6)新潟県観光入込客統計(2007-2016) 7)栃木県観光客入込数・宿泊数推定調査結果概要(2007-2016) 4新潟、栃木2 県を含めた分析例について、「第 4 章 4.2.1 の項」を参照 出所:平成27 年福島観光客入込状況調査 https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/177121.pdf
尚、使用したデータについて、以下のことに注意されたい。 ・岩手県について 岩手県では、国籍別の宿泊者数データがなかったため、岩手県を今回の対象から除 くことにした。 ・宿泊者数のみを分析対象にしたことについて 本研究では、宿泊者数のみを分析対象とした。より正確な政策分析をするために、宿 泊者数と日帰り観光客数両方を考える必要があるが、東北各県の観光概要に記載されて いる日帰り観光客数は、「日本人と訪日外国人」のような大まかな分け方によって集計 されたデータである。宿泊者数のデータと違い、国籍別に細かく分類されていないため、 中国人のみの日帰り観光客数を入手することが極めて困難である。そのため、今回は日 帰り観光客を分析対象から除くことにした。 ・第4 四半期のみを分析対象にしたことについて 図2-1 東日本大震災被害情報地図 出所:http://mobile.j-risq.bosai.go.jp/ndis/ 図 2-1 に示すように、東日本大震災の被災地域は主に岩手県・宮城県・福島県の沿岸 部なので、震災後、毎年夏に被災3 県を訪れる観光客数が大幅に減少していく可能性が ある。実際図2-2 にある「2013 年度福島県月別観光客数」を見ると、3 月から 9 月まで の観光客数は、震災が発生した2011 年に急減したが、その後増加しつつあることがわ かった。回復の原因としては、「マルチビザ」政策の実施のほか、5ボランティアツア ーや被災地見学ツアーなどの新しい観光形態の形成も挙げられた。しかしながら、今研 究の目的は、「マルチビザ」政策の効果だけを評価することなので、ボランティアや被 5石巻市「石巻市観光復興プラン」
7 災地見学などの外部要因を制御し、できるだけ他の東北3 県(秋田県・山形県・青森県) と同じ条件下で、「DID」回帰分析を行うために、ボランティアや被災地見学ツアーの ピーク期を含めた第1~3 四半期を今回の分析対象から除くことにした。 図2-2 2013 年度福島県月別観光客数 https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/126891.pdf ・四半期別中国人宿泊者数の推計について 中国人宿泊者数の回復状況を示すために、四半期別の中国人宿泊者数を推計する必要 がある。しかし,宿泊旅行統計には四半期別かつ国籍別のデータが秋田県においてのみ 整備されている。そこで、東北各県が公表している「四半期別観光客入込数の構成比」 に全年の宿泊者数を掛けて、2010~2016 年各年の第 4 四半期の中国人宿泊者数を推計 する。
福島県の四半期別宿泊者数の推計例 第4 四半期の宿泊数が全年にしめる割合 × 福島県全年中国人宿泊者数= 第4 四半期福島県 中国人宿泊者数 出所:福島県統計観光概要2015 https://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/600133.pdf
・観光地域別中国人宿泊者数の推計について 「DID」回帰分析をする前に、東北 5 県 2010〜2015 年第 4 四半期の中国人宿泊者数 の推移グラフを作成し、「DID」回帰分析の要否を検討する必要があるが、推移グラフ に使われている第4 四半期の中国人宿泊者数は、上記の四半期別中国人宿泊者数の推計 方法と同じ、「四半期別観光客入込数の構成比」を利用することにより、推定すること ができる。また、「DID」回帰分析に用いた 2011~2016 年 6 年の第 4 四半期観光地域 別中国人宿泊者数のデータについては、次の図に示すように、まず、各県の観光地域別 観光客宿泊者数のデータから県内の各観光地域を訪れた観光客数が全県の観光客総数 に占める割合を推計する。そして、第一部分のグラフ分析で使った各県第4 四半期の中 国人宿泊者数にこの割合をかけ、各県第4 四半期の観光地域別中国人宿泊者数の予測値 を推計する。観光地域区分は、各県の統計概要に実際に使われている観光地域の分け方 によるものである。 宮城県第 4 四半期観光地域別中国人宿泊者数の推計例 出所:宮城県統計観光概要2015 https://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/600133.pdf
×
宮城県第
4 四半期
中国人宿泊者数
・
Synthetic Control Method について
Synthetic Control Method を用い、「東北 3 県観光マルチビザ」の政策効果を測定する
際には、「DID」回帰分析と違い、山形と青森県のデータが用いられている。この理由 として、次のようなものが考えられる。
Synthetic Control Method のウェイトの推計においては、「マルチビザ」政策実施以前、
いわゆる2012 年以前各県の第 4 半期中国人宿泊者数のみを用いるので、2015 年以降山 形と青森県が実施した観光客誘致策は、ウェイトの推定に影響を及ぼさないと考えられ る。しかし、震災以降、福島県と宮城県の第4 半期中国人宿泊者数の仮想値を求める際 には、2015 年以降の山形と青森県の観光客誘致策は影響を与えてしまう。この問題に ついては、4 章で詳しく述べる。
2.3 中国人と日本人宿泊者数回復状況の表示
一つ目の手順として、東北 5 県(岩手県除外)2010~2016 年過去 7 年間の第 4 四半 期の日本人と中国人宿泊者数を線形グラフで表し、震災後、日本人と中国人宿泊者数の 回復状況を示す。まず、2.2 節のところで述べたように、まず、「四半期別観光客入込 数の構成比」を利用し、2010~2016 年各年の第 4 四半期の中国人宿泊者数を推計する。 但し、四半期別日本人宿泊者数は、すでに各県の観光概要に記載されているので、推計 する必要がない。 次に、第4 四半期の日本人と中国人宿泊者数を県単位でまとめて、プロットし、線形 グラフを五つ作成する。これによって、震災後各県の日本人と中国人宿泊者数の回復状 況を示すことができる。但し、日本人と中国人宿泊者数の桁が違うため、左側と右側の 数が違った二軸グラフを作成する。また、6 年間日本人と中国人宿泊者数の推移グラフ も作成する。2.4「DID」回帰分析
二つ目の手順として、「DID」回帰分析を行い、「東北 3 県観光マルチビザ」の政策 効果を明らかにすることを目的とする。まず、エクセルを使い、東北各県 2010〜2015 年第4 四半期の中国人宿泊者数の時系列変化を線形グラフで表す。次に、震災以降の各
宮城県第
4 四半期
観光地域別中国人宿泊者数
6年間宿泊者数の回復状況について、「付録」を参照年度から震災が発生した2011 年の中国人宿泊者数をひき、増減数を推計する。最後に、 被災した福島県、宮城県と他の東北3 県の中国人宿泊者数の増減数を比較し、変化幅に よって「DID」回帰分析の要否を検討する。「DID」回帰分析が必要だと判断した場合、 上記の中国人宿泊者数データに基づき、さらに観光地域別データを推計し、分析を行う。 ここで、「DID」回帰分析について、詳しく説明する。まず、「DID」というのは、政 策導入前後のアウトカムの値を比べ、その差を政策の効果と見る分析手法、いわゆる「差 分の差分法」である。そして、「DID」回帰分析は、「DID」を用いた時系列回帰分析 のことである。回帰モデル及び説明変数の詳細については以下の通りである。 𝑦 = _𝑐𝑜𝑛𝑠 + 𝛿+𝑡𝑖𝑚𝑒 + 𝛽1𝑡𝑟𝑒𝑎𝑡𝑒𝑑 + 𝛿1𝑑𝑖𝑑 + 𝑢 年ダミー𝑡𝑖𝑚𝑒について、y の値が 2012、2013、2014、2015、2016 年の中国人宿泊者数 となった時、𝑡𝑖𝑚𝑒は1となり、2011 年の中国人宿泊者数となった時、𝑡𝑖𝑚𝑒は 0 となる。 ただし、本研究では、2012 年から 2016 年までの各年度と 2011 年の中国人宿泊者数を 比べて、「DID」回帰分析を 5 回行うことにした。県ダミー𝑡𝑟𝑒𝑎𝑡𝑒𝑑について、y の値が 宿泊者数となった時、𝑡𝑟𝑒𝑎𝑡𝑒𝑑は 0 となる。 「マルチビザ」の効果𝛿1の計算方法について、まず、対照群(青森、山形、秋田)、政 策実施前後の差分をとる。 𝑦 6+16、6+17、6+18、6+19、6+1: 青森、山形、秋田 = _𝑐𝑜𝑛𝑠 + 𝛿+× 1 + 𝛽1× 0 + 𝛿1× 0 + 𝑢 −)𝑦6+11青森、山形、秋田 = _𝑐𝑜𝑛𝑠 + 𝛿+× 0 + 𝛽1× 0 + 𝛿1× 0 + 𝑢 = 𝛿+ 次に、措置群(福島、宮城)、政策実施前後の差分をとる。 𝑦 6+16、6+17、6+18、6+19、6+1: 福島、宮城 = _𝑐𝑜𝑛𝑠 + 𝛿+× 1 + 𝛽1× 1 + 𝛿1× 1 + 𝑢 −)𝑦6+11福島、宮城 = _𝑐𝑜𝑛𝑠 + 𝛿+× 0 + 𝛽1× 1 + 𝛿1× 0 + 𝑢 y 東北 5 県第 4 四半期観光地域別中国人宿泊者数 𝑡𝑖𝑚𝑒 年ダミー2011、2012、2013、2014、2015、2016 𝑡𝑟𝑒𝑎𝑡𝑒𝑑 県ダミー福島、宮城、青森、山形、秋田 𝑑𝑖𝑑 𝑡𝑖𝑚𝑒 × 𝑡𝑟𝑒𝑎𝑡𝑒𝑑 𝛿1 「マルチビザ」の効果 _𝑐𝑜𝑛𝑠 切片 u 誤差
7Wooldridge, J.M. (2013) 8山形県国際戦略(平成 27 年 3 月) = 𝛿++ 𝛿1 最後、措置群・対照群それぞれの差分の差分をとることで、𝛿1が得られる。 𝑦 6+16、6+17、6+18、6+19、6+1: 福島、宮城 − 𝑦6+11福島、宮城 = 𝛿++ 𝛿1 −) 𝑦 6+16、6+17、6+18、6+19、6+1: 青森、山形、秋田 − 𝑦6+11青森、山形、秋田 = 𝛿+ = 𝛿1 ところで、仙台市2011~2016 年の第 4 四半期中国人宿泊者数、そして、青森県と山形 県2015~2016 年の第 4 四半期中国人宿泊者数は、今回の「DID」回帰分析から除くこと にした。仙台市のデータを除く理由として、次のようなものが挙げられる: 1)表 2-1 は東北 5 県、各県庁所在地 2010~2015 年 6 年の第 4 四半期中国人宿泊者数 であるが、これを見ると、他の県庁所在地より、仙台市を訪れた中国人の数のほうが著 しく多いということがわかった。もし仙台市のデータを今回の「DID」回帰分析に加え ると、7 このデータが外れ値になり、モデルの各係数の値に大きな影響を与えるおそれ がある。
(単位:人) 2010 2011 2012 2013 2014 2015 福島 336 215 245 270 206 322 仙台 1956 1346 1788 1406 1710 3178 青森 338 167 134 136 330 647 秋田 179 157 63 100 358 181 山形 208 200 215 506 547 690
表2-1 仙台市と他の 4 県の中国⼈宿泊者の⽐較 2)仙台は、政治、経済などのあらゆる分野における東北地方の中心であり、また、 多くの大学や専門学校などもある「学都」としても知られているので、国際学術交流や、 ビジネス、親族訪問などを目的として、仙台を訪れる中国人もいる。そこで、実際に観 光を目的とした中国人宿泊者数は表2-2 よりかなり少ないと考えられる。もし表 2-2 の データを使うと、大きな誤差が生じるおそれがある。 青森県と山形県のデータを除く原因は、観光客誘致策を実施したことである。8山形 県では、 2015 年から、トップセールスをはじめとする誘客プロモーションとチャータ
ー便の運航増加など、観光客誘致戦略が実施された。また、9青森県では、2015 年に北 海道新幹線の開業がきっかけで、「青函圏周遊」プロジェクトを立ち上げた。さらに、 今年の5 月に、青森空港に天津線が就航したことで、中国観光客が昨年の 3 倍に急増し た。今年青森県を訪れた外国人観光客の宿泊者数は、宮城県を抜き、初めて東北のトッ プに躍り出た。ついては、2015 年と 2016 年の「DID」回帰分析をする際には、山形と 青森県独自の観光客誘致策はマルチビザ政策の効果分析に影響を与える可能性がある と考え、2 県 2015〜2016 年の第 4 半期中国人宿泊者数を除くことにした。
2.5 Synthetic Control Method を用いた「マルチビザ」政策評価モデルの構築
最後の手順として、Synthetic Control Method を用い、「東北 3 県観光マルチビザ」の
政策効果を測定するとともに、「DID」回帰分析法の結果を検証する。Synthetic Control Method は Abadie and Gardeazabal が 2003 年にスペインバスク州のテロ行為が与えた現 地経済への被害を推計するために、提案した方法であり、現在では、時系列データが少 ない場合、地域政策や自然災害の影響を予測する方法として幅広い分野で利用されてい る。 10この方法は、災害以前について、多数のコントロール・グループの加重平均によっ て、トリートメント・グループの経済指標を再現し、そこで得られたウェイトとコント ロール・グループの実際のデータから、災害後のトリートメント・グループの仮想的な 経済指標を作成する。最終的に、災害後に被災地に残る影響は、コントロール・グルー プから合成された仮想的な値と、被災地の実際の観測値との差分によって識別される、 というものである。 本研究では、「マルチビザ」政策実施後の福島県、宮城県第4 四半期中国人宿泊者数 の仮想値が、他県の第 4 四半期中国人宿泊者数の加重平均によって、推定できると考 え、得られた推計値を元に、実測値を比較することで、「マルチビザ」政策の実施によ る福島県と宮城県における中国人観光客誘致への影響を明らかにする。 モデルの詳細については、以下の通りである。
𝑊
∗= 𝑎𝑟𝑔𝑚𝑖𝑛(𝑍
1− 𝑍
+𝑊)
E(𝑍
1− 𝑍
+𝑊) ①
𝜔 = (𝑤
1, ... ,
𝑤
H,)
Subject to:𝑤
1+. . . +𝑤
H=1, 𝑤
H≥ 0 ②
𝑌
1=
𝑌
+∙ 𝑊
∗③
𝑊 ∈ 𝜔 9 青森県観光入込客統計(平成 27 年度) 10 阪神・淡路大震災が雇用に与えた影響 : 事業所・企業統計調査を用いた検証①の行列式と②の制約式を通じて、福島県と宮城県の第 4 四半期中国人宿泊者数の実 測値と仮想値の差を最小にする場合、仮想値の推定に採用した他県の第4 四半期中国人 宿泊者数が仮想値に占める割合を求めることができる。ここで、𝑊∗は仮想値の推定に 採用した青森、秋田、山形3 県それぞれの割合を示している。但し、すべての割合が 0 以上で、割合の合計が必ず1 となる。そして、𝑍1は実際の福島県と宮城県の第4 四半期 中国人宿泊者数で、𝑍+は青森、秋田、山形3 県の第 4 四半期中国人宿泊者数である。割 合を計算する際に注意すべきなのは、「マルチビザ」政策実施以前各県の第4 四半期中 国人宿泊者数だけを使うということである。もし「マルチビザ」政策実施後の中国人宿 泊者数、つまり外生ショックを経た上でのデータを使うと、「マルチビザ」政策が実施 されなかった場合の福島県と宮城県の第 4 四半期中国人宿泊者数の仮想値の推計は不 可能となる。 そして、求められた割合を③に代入し、「マルチビザ」政策実施後、いわゆる2012 年 以降の青森、秋田、山形3 県の第 4 四半期中国人宿泊者数にそれぞれ掛けると、福島県 と宮城県の第4 四半期中国人宿泊者数の仮想値が得られる。その上で、仮想値に基づい たトレンド直線を作成し、これを実測値のトレンド直線と比べることによって、「マル チビザ」政策の効果を測定することができる。
3. 分析結果
3.1 宿泊者数回復状況の表示
図3-1 から図 3-5 は、東北 5 県第 4 四半期日本人と中国人宿泊者数の回復状況を示し ている。それを見ると、第4 四半期中国人宿泊数は、東北 5 県とも、震災直後一旦落下 し、その後回復しつつあるが、2014 年以降、回復の勢いがさらに強くなってきているこ とがわかった、原因としては、近年の東北各空港への日中チャーター便の運航増加や11 各県独自の中国人団体旅行ツアーの運営開始などが考えられる。 一方、日本人宿泊者数の結果を見ると、青森、山形、秋田3 県では、震災直後、第 4 四半期日本人宿泊者数が減少し、その後、横ばい傾向になってきていることがわかるが、 被災2 県(福島県、宮城県)では、震災直後の日本人宿泊者数がかえって増加している。 12増加した要因としては、復興関連の需要などにより、稼働率が上昇し、宿泊客数が増 加したなどが考えられる。 結果をまとめると、東日本大震災後、東北各県が受けた観光産業への被害は、訪日外 国人観光客の急減によるところが大きい。したがって東北各県における観光客誘致策も 主に訪日外国人観光客を対象に実施していることがわかった。 11青森県のインバウンド戦略 12宮城県観光統計概要(平成 23 年度)
3750 2149 3130 2479 2990 5166 8285 21244552249577233056022807092264631 23689772378547 0 500000 1000000 1500000 2000000 2500000 0 2000 4000 6000 8000 10000 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016
宮城県第四半期宿泊者数推移
第四四半期中国⼈宿泊者数 第四四半期⽇本⼈宿泊者数 408 288 507 984 1128 1596 2915 13268151292340 12343201205460130980013671301251200 0 500000 1000000 0 1000 2000 3000 4000 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016山形県第四半期宿泊者数推移
第四四半期中国⼈⼈宿泊者数 第四四半期⽇本⼈宿泊者数 1374 963 921 1306 954 1546 2781 1791020 2883240 2604138 245062227099032661829 2396723 0 500000 1000000 1500000 2000000 2500000 3000000 3500000 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016福島県第四半期宿泊者数推移
第四四半期中国⼈宿泊者数 第四四半期⽇本⼈宿泊者数 図3-1 福島県第四半期宿泊者数推移 図3-2 宮城県第四半期宿泊者数推移 図3-3 山形県第四半期宿泊者数推移1720 900 750 770 1730 3840 4180 1210000 787000 956000 1113000 100600011150001062000 0 200000 400000 600000 800000 1000000 1200000 1400000 0 1000 2000 3000 4000 5000 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016
青森県第四半期宿泊者数推移
第四四半期中国⼈宿泊者数 第四四半期⽇本⼈宿泊者数 1090 700 300 460 1630 1170 1540 731490 716430 713950 677130 675620 651030 695150 0 200000 400000 600000 800000 0 500 1000 1500 2000 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016秋田県第四半期宿泊者数推移
第四四半期中国⼈宿泊者数 第四四半期⽇本⼈宿泊者数 図3-4 青森県第四半期宿泊者数推移 図3-5 秋田県第四半期宿泊者数推移3.2「DID」回帰分析
3.2.1 推移グラフ 東北5 県 2010~2015 年 6 年の第 4 半期中国人宿泊者数をプロットすると、図 3-6 に 示すように、東日本大震災の影響で山形県以外の県の第4 半期中国人宿泊者数が 2011 年に急落し、その後、回復する傾向にある。しかし、この回復を引き起こしたのは「マ ルチビザ」とは言い切れない。下表では、各県2012 年以降の各年度から 2011 年の中国 人宿泊者数を引いた増減数を反映した。これを見ると、「マルチビザ」政策を受けた福 島県と宮城県より、政策を受けていない青森県と山形県のほうが、第4 半期中国人宿泊 者数が上昇していることがわかる。特に、青森県では、2015 年の増減数が 2940 人にの ぼり、福島県の約5 倍、宮城県の約 3 倍になっている。したがって、単なる中国人宿泊 者数の時系列変化を表す推移グラフでは、「マルチビザ」政策の効果を検証するのはま だ不十分であると考えられる。そこで、「DID」の回帰分析方法を使って、「マルチビ ザ」の効果を徹底的に検証する必要がある。 図3-6 東北 5 県 2010~2015 年第 4 半期中国人宿泊者数推移単位(人) H23 第 4 半期 中国人宿泊者数 増減数 (H24-H23) 増減数 (H25-H23) 増減数 (H26-H23) 増減数 (H27-H23) 福島県 964 190 340 -11 581 宮城県 1058 345 16 235 1188 青森県 900 -150 -130 830 2940 秋田県 700 -400 -240 930 470 山形県 288 220 697 841 1305 表3-1 中国人宿泊者数の増減数の推移 3.2.2「DID」回帰分析の結果 分析手法のところで述べたように、本研究では、震災後5 年間(2012~2016 年)と震災 時(2011 年)の東北 5 県観光地域別第 4 半期中国人宿泊者数をそれぞれ比べて、「DID」 回帰分析を5 回行うことにした。 ①2011 年と 2012 年の比較 図3-7 に示すように、2011 年と 2012 年の「DID」回帰分析では、説明変数「did」の 係数は約53 であったが、p の値は 0.381 となっているので、説明変数「did」いわゆる 「マルチビザ」の係数は「危険率5%水準で有意ではない」という結果になり、説明変 数「did」と中国人宿泊者数との間に正の相関関係が認められない。 ②2011 年と 2013 年の比較 図3-8 に示すように、2011 年と 2013 年の「DID」回帰分析では、説明変数「did」の 係数は約12 であり、p の値は 0.846 となっているので、上記の分析と同様に、「危険率 5%水準で有意ではない」という結果になり、説明変数「did」と中国人宿泊者数との間 に正の相関関係がないと判定した。 図3-7 2011 年と 2012 年の「DID」回帰分析
③2011 年と 2014 年の比較
2011年と2014年の結果分析は以下の通りである。図3-9から見ると、説明変数「did」 の係数は-65で、pの値は0.293で、「危険率5%水準で有意ではない」という結果が得ら れた。 ④2011 年と 2015 年の比較
2011年と2015年の結果分析は以下の通りである。図3-10に示すように、説明変数「did」 の係数は32で、pの値は0.586で、「危険率5%水準で有意ではない」という結果が得られ た。 図3-10 2011 年と 2015 年の「DID」回帰分析 図3-8 2011 年と 2013 年の「DID」回帰分析 図3-9 2011 年と 2014 年の「DID」回帰分析
⑤2011 年と 2016 年の比較 図3-11に示すように、2011年と2016年の「DID」回帰分析では、説明変数「did」の係 数は約172で、pの値は0.042となっている。つまり「危険率5%水準で有意」という結果 になり、説明変数「did」と中国人宿泊者数との間に正の相関関係が認められ、「マルチ ビザ」政策に効果があったということがわかった。
これまでの「DID」回帰分析の結果から見ると、2016 年の分析結果だけが有意となり、 全体では有意な結果とならなかった。東北3 県で実施した「マルチビザ」政策の効果が、 2016 年だけから観察された原因として、政策ラグが考えられる。3.1 節の各県第 4 四半 期の中国人宿泊者数の推移グラフから見ると、2016 年の福島県と宮城県の中国人宿泊 者数が2015 年を大きく上回っていることがわかったが、2015 年以前は、どちらも緩慢 な上昇状態を示していることがわかった。したがって、こういった復興に関する政策は、 経済政策と同じ、効果が出るまでは、かなり時間がかかるかもしれないと考えられる。
3.3Synthetic Control Method を用いた「マルチビザ」政策評価モデル
以下では、まず、「マルチビザ」政策実施以前、青森、秋田、山形3 県の第 4 半期 中国人宿泊者数が福島県と宮城県の第4 半期中国人宿泊者数の仮想値に占める割合の 推計結果を述べる。その結果を利用して、「マルチビザ」政策実施以降、被災2 県の 第4 半期中国人宿泊者数の仮想値を計算し、実測値との比較を行う。 3.3.1 割合の推計結果 ここでは、エクセルのソルバーを使用し、割合推定を行う。表 3-2 は、青森、秋田、 山形 3 県が福島県第 4 四半期中国人宿泊者数の仮想値に占める割合の推計結果を示し ている。結果を観察すると、青森、秋田、山形3 県の割合の推計結果は 1、0、0 となり、 福島県第 4 四半期中国人宿泊者数の仮想値が青森県第 4 四半期中国人宿泊者数の実測 図3-11 2011 年と 2016 年の「DID」回帰分析
値から推定できることがわかった。また、表3-3 は 3 県が宮城県第 4 四半期中国人宿泊 者数の仮想値に占める割合の推計結果を示している、これを見ると、宮城県第4 四半期 中国人宿泊者数の仮想値が1/5 の山形県と 4/5 の秋田県第 4 四半期中国人宿泊者数から 推定できることがわかった。 3.3.2 仮想値と実測値の比較 表3-2 割合推定結果(福島県) 表3-3 割合推定結果(宮城県)
1720 900 750 770 1730 3840 4180 1761 964 1154 1304 953 1545 2782 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 synthetic福島県 福島県 図3-12 から 3-13 は、福島県、宮城県第 4 四半期中国人宿泊者数の仮想値と実測値の 比較を示している。2012 年以前、どちらのグラフも仮想値が実測値とほとんど一致し ながら推移しているが、2012 年以降、いわゆる「マルチビザ」政策実施後、仮想値と実 測値の差が生じてきていることがわかった。 福島県のグラフでは、2012~2013 年 2 年の実測値が仮想値より大きい結果となったが、 2014 年以降、実測値が仮想値を大きく下回った。 一方、宮城県のグラフを見ると、2012 年の実測値が仮想値を大きく上回っているが、 2013 年から、趨勢が逆となり、2014 年では、仮想値が実測値よりも大幅に上振れした 結果となった。しかし、2015 年以降、実測値がまた仮想値を上回っていることがわかっ た。 1021 611 345 574 1521 1262 1748 897 512 827 595 770 1196 2024 0 500 1000 1500 2000 2500 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 synthetic 宮城県 宮城県 図3-12 第 4 四半期中国人宿泊者数推移グラフ(福島県) 図3-13 第 4 四半期中国人宿泊者数推移グラフ(宮城県)
これらの結果から見ると、2012~2013 年では、どちらの推移グラフでも、第 4 四半 期中国人宿泊者数の実測値が仮想値より大きい結果となり、「マルチビザ」政策に効 果があったことがわかったが、2014 年では、実測値が仮想値を下回っていることを示 している。しかし、これは必ずしも「マルチビザ」政策に効果がなかったということ を示唆するとは限らない。その理由としては、以下の点が挙げられる。 13震災後、アジアから東北地方を訪れた人の再訪率を他地域と比較すると、相対的に 低い水準にあったため、観光客の増減が激しくなる可能性がある。2014 年に、福島県と 宮城県の第4 四半期中国人宿泊者数の激減も低い再訪率によって、引き起こされた正常 な現象に過ぎないと考えられる。また、ウェイトの推計に用いた試料数(青森県、山形 県のみ)の不足、と青森県・山形県の観光客誘致政策も、震災後の実測値が仮想値を上 回った原因として考えられる。 ところで、福島県の推移グラフから見ると、震災後、中国人宿泊者数は確かに回復し つつあるが、2015 年までは、未だ震災前を下回っていることがわかった。やはり、原発 事故による風評被害がひどいと考えられる。そのため、たとえ「マルチビザ」政策に効 果があっても、風評被害の影響によって、検証できない可能性もある。 したがって、以上の理由から、「宮城県については、『東北3 県観光マルチビザ』政 策が現地への中国人観光客誘致にプラスの効果が表れているが、福島県については、政 策効果が観察できない」と判断した。
4.結論及び今後の課題
4.1 結論
本研究の結果は以下の通りである。第一に、第4 四半期日本人と中国人宿泊者数の回 復状況から見ると、東北各県における観光客誘致策は主に訪日外国人観光客を対象に実 施していると考えられる。 第二に、「DID」回帰分析の結果において、2012~2015 年には、「東北 3 県観光マル チビザ」政策に効果がなかったが、2016 年には、効果があったという明確な結果が得ら れた。政策にラグが生じたので、「マルチビザ」政策の効果が2016 年から発揮した可 能性がある。最後に、Synthetic Control Method の分析結果からは、宮城県については「東北 3 県観 光マルチビザ」政策に効果があったことが確認された。一方、福島県については、原発 事故後の風評被害が、現地への観光客誘致にネガティブな影響を及ぼす可能性があるの
で、「マルチビザ」政策の効果が観察できなかった。また、2014 年は、福島県と宮城県
の第4 四半期中国人宿泊者数の仮想値が実測値を上回っている。その原因としては、東
北地域への低い再訪意向やウェイト推計に用いた試料数の不足、青森県・山形県の観光 客誘致政策などが考えられる。
ところで、「DID」回帰分析の結果は、2016 年だけ有意となっているが、Synthetic Control
Method の分析結果からは、観察期間内である 2012~2016 年には、「マルチビザ」政策 に効果があったということが明らかになった。違う結果になった原因は対照群の計算方 法が違うためであると考えられる。「DID」回帰分析では、2012〜2014 年は、対照群を
青森県、山形県、秋田県の中国人宿泊者数の平均値で、2015 年以降は、秋田県の中国人
宿泊者数で算定する。一方、Synthetic Control Method では、対照群を、青森県、山形県、
秋田県の中国人宿泊者数のウェイトを掛けた合成値で算定する。したがって、違う計算 方法により、得られた対照群の値が違うため、分析結果が相違する可能性がある。 また、本研究の結論は、客観的な根拠によって示すこともできる。142017 年 4 月 21 日に、日本政府は中国人観光客に発給してきたマルチビザの対象地域を東北3 県から東 北6 県に拡大すると発表した。今回の対象範囲の拡大が、従来の「東北 3 県観光マルチ ビザ」政策に効果があったということを間接的に証明しているだろう。
4.2 今後の課題
4.2.1 Synthetic Control Methodの問題点
本研究におけるSynthetic Control Methodを用いた「マルチビザ」政策評価モデルでは、
青森、山形、秋田3県、2年の第4四半期中国人宿泊者数を使って、被災2県(福島県、宮城 県)の第4四半期中国人宿泊者数の仮想値を推定した。すると、今回の分析に当って、横 断面及び時系列データ数の不足による仮想値と実測値の一致度が低いという問題が生 じた。そこで、被災2県の第4四半期中国人宿泊者数の仮想値を推定する上で採用した対 象県を2県増やし、観察期間も3年伸ばすことにした。図4-1は、宮城県第4四半期中国人 宿泊者数の仮想値の推移を示している。但し、今回は、新潟、栃木、秋田、山形4県、 10年(2007〜2016年)の第4四半期中国人宿泊者数が用いられている。結果から見ると、確 かに震災前の第4四半期中国人宿泊者数の実測値と仮想値の一致度が高くなったが、震 災後、仮想値が実測値を大きく上回っていることがわかった。 東日本大震災の発生は、東北だけでなく、日本全国の観光産業にも甚大な被害を与え たため、震災後、15日本各県が訪日外国人観光客を呼び込むために、独自の観光客誘致 策を実施したと思われる。その結果、各県を訪れた外国人観光客数が急増した様子がう かがえる。したがって、震災前、観光客誘致策が実施されていない場合に計算した割合 に、震災後、観光客誘致策の実施により急増した各県の中国人宿泊者数を掛けて得た推 計値を、被災2県の第4四半期中国人宿泊者数の仮想値とみなすのは、適切ではないと思 14外務省「中国人に対するビザ発給要件の緩和」 15新潟県観光入込客統計(平成 27 年度)
741 914 729 1036 654 990 1533 2109 3503 4219 897 1017 548 1072 512 827 595 770 1196 2024 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 synthetic 宮城県 宮城県
われる。そこで、本研究においては、Synthetic Control Methodの適正さのさらなる検証 の余地がある。
謝辞
本稿の執筆にあたっては、多くの方々からご協力を頂いた。とりわけ、講義や報告会 において貴重な助言を賜りかつ熱心なご指導を頂戴した東京大学公共政策大学院の戒 能一成先生及び松村敏弘先生には、この場をお借りして厚く御礼申し上げたい。
戒能一成先生及び松村敏弘先生には、本研究を進める上でSynthetic Control Method を
用いた「マルチビザ」政策評価モデルの構築について、示唆に富んだ貴重なご意見を頂 いた。執筆者としては、この上ない感謝の気持ちをこの場にて述べさせていただきたい。 なお、本稿で示した見解については、全て執筆者個人のものであり、その誤りの全て も執筆者に帰するものである。 平成30年2月 執筆者一同
参考資料
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(2)データ出所
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付録1 2011〜2016 年福島県第 4 四半期観光地域別中国人宿泊者数 地域 第4 四半期観光地域別中国人宿泊者数(人) d2 dT d2・dT いわき2011 101 0 1 0 県北2011 215 0 1 0 県中2011 141 0 1 0 県南2011 54 0 1 0 会津2011 357 0 1 0 南会津2011 65 0 1 0 相双2011 32 0 1 0 いわき2012 187 1 1 1 県北2012 245 1 1 1 県中2012 165 1 1 1 県南2012 69 1 1 1 会津2012 374 1 1 1 南会津2012 78 1 1 1 相双2012 36 1 1 1 いわき2013 207 1 1 1 県北2013 270 1 1 1 県中2013 184 1 1 1 県南2013 76 1 1 1 会津2013 439 1 1 1 南会津2013 89 1 1 1 相双2013 40 1 1 1 いわき2014 159 1 1 1 県北2014 206 1 1 1 県中2014 143 1 1 1 県南2014 60 1 1 1 会津2014 291 1 1 1 南会津2014 61 1 1 1 相双2014 33 1 1 1いわき2015 249 1 1 1 県北2015 323 1 1 1 県中2015 218 1 1 1 県南2015 93 1 1 1 会津2015 490 1 1 1 南会津2015 90 1 1 1 相双2015 82 1 1 1 いわき2016 409 1 1 1 県北2016 615 1 1 1 県中2016 431 1 1 1 県南2016 170 1 1 1 会津2016 851 1 1 1 南会津2016 153 1 1 1 相双2016 156 1 1 1
付録2 2011〜2016 年宮城県第 4 四半期観光地域別中国人宿泊者数 地域 第4 四半期観光地域別中国人宿泊者数(人) d2 dT d2・dT 仙南2011 252 0 1 0 大崎2011 493 0 1 0 栗原2011 43 0 1 0 登米2011 127 0 1 0 石巻2011 107 0 1 0 気仙沼2011 44 0 1 0 仙南2012 355 1 1 1 大崎2012 575 1 1 1 栗原2012 58 1 1 1 登米2012 161 1 1 1 石巻2012 152 1 1 1 気仙沼2012 103 1 1 1 仙南2013 267 1 1 1 大崎2013 424 1 1 1 栗原2013 59 1 1 1 登米2013 115 1 1 1 石巻2013 125 1 1 1 気仙沼2013 85 1 1 1 仙南2014 333 1 1 1 大崎2014 488 1 1 1 栗原2014 81 1 1 1 登米2014 139 1 1 1 石巻2014 148 1 1 1 気仙沼2014 105 1 1 1 仙南2015 268 1 1 1 大崎2015 497 1 1 1 栗原2015 89 1 1 1 登米2015 107 1 1 1 石巻2015 139 1 1 1
気仙沼2015 95 1 1 1 仙南2016 418 1 1 1 大崎2016 838 1 1 1 栗原2016 162 1 1 1 登米2016 182 1 1 1 石巻2016 265 1 1 1 気仙沼2016 159 1 1 1
付録3 2011〜2016 年秋田県第 4 四半期観光地域別中国人宿泊者数 地域 第4 四半期観光地域別中国人宿泊者数(人) d2 dT d2・dT 鹿角市 2011 42 0 0 0 秋田市 2011 129 0 0 0 男鹿市 2011 45 0 0 0 由利本荘市 2011 49 0 0 0 にかほ市 2011 38 0 0 0 仙北市 2011 91 0 0 0 横手市 2011 92 0 0 0 北秋田市 2011 23 0 0 0 能代市 2011 31 0 0 0 大仙市 2011 42 0 0 0 湯沢市 2011 24 0 0 0 小坂町 2011 21 0 0 0 大館市 2011 19 0 0 0 鹿角市 2012 16 1 0 0 秋田市 2012 54 1 0 0 男鹿市 2012 19 1 0 0 由利本荘市 2012 20 1 0 0 にかほ市 2012 16 1 0 0 仙北市 2012 46 1 0 0 横手市 2012 35 1 0 0 北秋田市 2012 11 1 0 0 能代市 2012 15 1 0 0 大仙市 2012 18 1 0 0 湯沢市 2012 11 1 0 0 小坂町 2012 9 1 0 0 大館市 2012 8 1 0 0 鹿角市 2013 25 1 0 0 秋田市 2013 82 1 0 0 男鹿市 2013 30 1 0 0
由利本荘市 2013 29 1 0 0 にかほ市 2013 21 1 0 0 仙北市 2013 81 1 0 0 横手市 2013 51 1 0 0 北秋田市 2013 15 1 0 0 能代市 2013 23 1 0 0 大仙市 2013 28 1 0 0 湯沢市 2013 17 1 0 0 小坂町 2013 13 1 0 0 大館市 2013 12 1 0 0 鹿角市 2014 83 1 0 0 秋田市 2014 289 1 0 0 男鹿市 2014 142 1 0 0 由利本荘市 2014 101 1 0 0 にかほ市 2014 81 1 0 0 仙北市 2014 251 1 0 0 横手市 2014 188 1 0 0 北秋田市 2014 56 1 0 0 能代市 2014 85 1 0 0 大仙市 2014 100 1 0 0 湯沢市 2014 61 1 0 0 小坂町 2014 44 1 0 0 大館市 2014 34 1 0 0 鹿角市 2015 90 1 0 0 秋田市 2015 163 1 0 0 男鹿市 2015 68 1 0 0 由利本荘市 2015 76 1 0 0 にかほ市 2015 59 1 0 0 仙北市 2015 116 1 0 0 横手市 2015 90 1 0 0 北秋田市 2015 41 1 0 0 能代市 2015 58 1 0 0
大仙市 2015 71 1 0 0 湯沢市 2015 48 1 0 0 小坂町 2015 34 1 0 0 大館市 2015 26 1 0 0 鹿角市 2016 69 1 0 0 秋田市 2016 203 1 0 0 男鹿市 2016 86 1 0 0 由利本荘市 2016 97 1 0 0 にかほ市 2016 71 1 0 0 仙北市 2016 163 1 0 0 横手市 2016 92 1 0 0 北秋田市 2016 55 1 0 0 能代市 2016 74 1 0 0 大仙市 2016 96 1 0 0 湯沢市 2016 100 1 0 0 小坂町 2016 43 1 0 0 大館市 2016 42 1 0 0
付録4 2011〜2014 年青森県第 4 四半期観光地域別中国人宿泊者数 地域 第4 四半期観光地域別中国人宿泊者数(人) d2 dT d2・dT 東青地域2011 167 0 0 0 中南地域2011 183 0 0 0 西北地域2011 108 0 0 0 三八地域2011 239 0 0 0 上北地域2011 163 0 0 0 下北地域2011 40 0 0 0 東青地域2012 134 1 0 0 中南地域2012 155 1 0 0 西北地域2012 88 1 0 0 三八地域2012 193 1 0 0 上北地域2012 148 1 0 0 下北地域2012 32 1 0 0 東青地域2013 136 1 0 0 中南地域2013 163 1 0 0 西北地域2013 87 1 0 0 三八地域2013 198 1 0 0 上北地域2013 152 1 0 0 下北地域2013 34 1 0 0 東青地域2014 333 1 0 0 中南地域2014 488 1 0 0 西北地域2014 81 1 0 0 三八地域2014 139 1 0 0 上北地域2014 148 1 0 0 下北地域2014 105 1 0 0
付録5 2011〜2014 年山形県第 4 四半期観光地域別中国人宿泊者数 地域 第4 四半期観光地域別中国人宿泊者数(人) d2 dT d2・dT 村山地域2011 200 0 0 0 最上地域2011 2 0 0 0 置賜地域2011 12 0 0 0 庄内地域2011 74 0 0 0 村山地域2012 215 1 0 0 最上地域2012 13 1 0 0 置賜地域2012 152 1 0 0 庄内地域2012 128 1 0 0 村山地域2013 506 1 0 0 最上地域2013 15 1 0 0 置賜地域2013 159 1 0 0 庄内地域2013 305 1 0 0 村山地域2014 547 1 0 0 最上地域2014 12 1 0 0 置賜地域2014 102 1 0 0 庄内地域2014 247 1 0 0
1744 1210 2288 4437 5087 6958 10873 5845000 5430000 5560000 5430000 5900000 5970000 5440000 0 1000000 2000000 3000000 4000000 5000000 6000000 7000000 0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016
山形県年間宿泊者数推移
年間中国⼈宿泊者数 年間⽇本⼈宿泊者数 付録6 2010〜2016 年東北 5 県年間宿泊者数推移 6000 3610 4690 5720 3890 6660 11840 7821050 107986501058593010748340110608301147340010198820 0 2000000 4000000 6000000 8000000 10000000 12000000 14000000 0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016福島県年間宿泊者数推移
年間中国⼈宿泊者数 年間⽇本⼈宿泊者数 13890 7960 12040 9150 11500 19870 30440 8047141 8416704 8884225 8861731 8615870 9288595 9216753 0 2000000 4000000 6000000 8000000 10000000 0 5000 10000 15000 20000 25000 30000 35000 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016宮城県年間宿泊者数推移
年間中国⼈宿泊者数 年間⽇本⼈宿泊者数6889 2380 4070 4190 5080 11280 17040 3821000 3418000 3609000 4322000 4130000 4439000 4571000 0 1000000 2000000 3000000 4000000 5000000 0 5000 10000 15000 20000 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016