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臨産婦誌第26巻第2号

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Academic year: 2021

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切迫子宮破裂を伴った癒着胎盤の一例

三 浦 理 絵・松 村 由紀子・室 本   仁

湯 澤   映・和 田 潤 郎・森 川 晶 子

佐 藤 秀 平

青森県立中央病院産婦人科

A case of placenta accreta with threatened rupture of the uterus

Rie MIURA, Yukiko MATSUMURA, Jin MUROMOTO Ei YUZAWA, Junro WADA, Akiko MORIKAWA

Shuhei SATO

Department of Obstetrics and Gynecology, Aomori Prefectural Central Hospital

は じ め に  前置胎盤では約 5 ∼ 10% に癒着胎盤を合 併し,既往帝王切開回数が増えるとともに癒 着率は比例して増加することが知られてい る。今回,われわれは 2 回の既往帝王切開瘢 痕部が菲薄化し,切迫子宮破裂と癒着胎盤を 合併した一例を経験したので報告する。 症     例 26 歳 妊娠分娩歴:2 経妊 2 経産(20 歳 骨盤位に て帝王切開,23 歳 選択的帝王切開) 既往歴:特記事項なし 現病歴:2010 年 11 月を最終月経とし,前医 にて妊娠と診断された。妊娠 10 週時には経 腟超音波検査で菲薄化した子宮筋層と,胎盤 付着部分の膀胱側への張り出しを認めていた (図 1)。妊娠 16 週にも同様の所見(図 2)が あり,妊娠 21 週に当科紹介となった。当科 外来でも同様の所見(図 3)を認めた。外来 経過観察後,妊娠 29 週 1 日に周産期管理を 目的として入院となった。 入院時所見:入院時の経腟超音波検査では辺 縁前置胎盤であり,胎盤と膀胱の間の筋層が 不明瞭であった。また,カラードプラエコー によるフローマッピングにて胎盤と膀胱との 間に図 4 のような血流を認めた。経腹超音波 断層法では胎盤は前壁に位置し,膀胱筋層と 胎盤の境界の超音波的透明層(sonolucent zone)は不明瞭であり,膀胱側への胎盤の 突出,placental lacunae などの所見を認めた。 児の発育は正常であった。妊娠 32 週 2 日に 施行した腹部骨盤 MRI 検査では,T2WI 法, FIESTA(fast imaging employing steady state acquisition)法にて胎盤と膀胱との間 に菲薄化した筋層と思われる所見を認めるも のの,それ以外の情報は得られなかった(図 5)。入院安静の下で自己血貯血をしながら帝 王切開を待機した。待機中に子宮収縮や警告 出血は認めなかった。癒着胎盤の可能性が高 い状態として,術前から胎児娩出後の子宮全 摘術を予想した手術を行う方針となった。ま た,膀胱筋層から漿膜へ至る穿通胎盤の可能

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図 1 妊娠 10 週時の経腟超音波検査所見 Ꮚᐑ➽ᒙ䛾⳼ⷧ໬ ⫾┙䛾⭤⬔䜈䛾ᙇ䜚ฟ䛧 ⭤⬔ 図2 妊娠 16 週時の経腟超音波検査所見 ⭤⬔ Placenta lacunae Ꮚᐑ➽ᒙ䛾⳼ⷧ໬ ⫾┙䛾⭤⬔䜈䛾ᙇ䜚ฟ䛧 図 3 妊娠 21 週時の経腟超音波検査所見 ⭤⬔ Placenta lacunae

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性も考慮し,放射線科で前もって子宮動脈塞 栓術ができるように依頼をしておいた。また, 膀胱損傷や尿管損傷に備えて泌尿器科医師の 待機の下で,妊娠 37 週 1 日に選択的帝王切 開術を施行した。 手術所見:臍上までの腹部正中切開で腹腔内 に入ったうえで,子宮底部横切開にて子宮腔 内に入った。児は骨盤先進で娩出した。胎児 娩出後に胎盤の自然剥離徴候を認めず,胎盤 を子宮内に残したまま子宮切開部を縫合閉鎖 した。次に膀胱子宮窩腹膜を切開し開放した ところ,周囲の静脈怒張の程度は軽く,子宮 壁からの膀胱剥離は可能と判断したため,一 期的に子宮全摘術を行う方針となった。膀胱 を剥離すると,菲薄化した子宮筋層から胎盤 が透見できる状態であった(図 6)。手術所 要時間は 3 時間 15 分で,出血量は羊水を含 めて 2297 g であり,前もって貯血しておい た自己血 400 ml を返血した。摘出子宮標本 では,子宮下節部に肉眼的に明らかな子宮筋 層は認められず,切迫子宮破裂の状態であっ た(図 7, 8)。病理組織所見では,薄い子宮 筋層と絨毛組織が直に接着しており,癒着胎 盤の所見であった(図 9)。術後経過は母児 ともに良好で,発熱などの合併症もなく,術 後 10 日目に退院となった。 図 4 入院時のカラードプラ所見 図 5 妊娠 32 週時の骨盤 MRI 検査所見 左:T2W1,右:FIESTA

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考     察  前置胎盤の約 5 ∼ 10% に癒着胎盤が合併 するとされている。その頻度は,無傷子宮で 1 ∼ 5% であるのに対し,帝王切開既往 1 回 で約 14%,2 回で 23%,3 回で 35% と,既往 帝王切開回数と癒着率は比例する1) 。した がって,帝王切開既往妊婦が前置胎盤を合併 した場合には癒着胎盤を念頭に置いての管理 が必須であり,当科でも常に管理上は癒着胎 盤の可能性も考慮している。 図 6 手術所見 菲薄化した子宮筋層から胎盤が透見できる。 図 7 摘出子宮の下節部 図 8 摘出子宮の胎盤付着部の断面 図 9 病理組織所見(HE × 100)  癒着胎盤の診断方法としては,超音波検査 で特徴的な所見が得られ有用とされている2−4)。 本 症 例 で も ① 妊 娠 初 期 か ら の sonolucent zone の消失,②膀胱側への胎盤の突出,③ 膀胱壁と子宮との境界の血流,④ placental lacunae などの特徴的な所見を認めた。また, 2 回の既往帝王切開という病歴からも,癒着 胎盤が予想できた。とくに本症例で初期から 特徴的であったのは,②膀胱側への胎盤の突 出,③膀胱壁と子宮との境界の血流であった。 また,④の Placental lacunae は妊娠のかな

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所見であり,その感度は 79%,陽性的中率 は 92% であったとしている。  本症例の問題点は,まず穿通胎盤か否かの 診断方法であった。超音波所見で前述した② 胎盤の膀胱側への突出を認める症例では,穿 通胎盤の可能性が高くなるとの報告もある。 また,MRI 検査も施行したが,超音波検査 以 上 の 所 見 を 得 る こ と は で き な か っ た。 Warshak ら6) は,造影剤を使用することに より,超音波断層法で診断に苦慮した癒着嵌 入胎盤を正確に診断できたと報告している。 しかし,日本において造影剤は一般的に使用 されておらず,MRI 検査は胎盤が子宮後壁 にある場合には有効であるが,超音波断層法 以上の診断意義は明らかにされていない。そ のほか今回は行わなかったが,膀胱鏡が䮄入 胎盤や穿通胎盤の診断に有効であったとの報 告もある7, 8)。膀胱粘膜は正常でも,膀胱後 壁の鬱血や点状出血の所見が認められること がある。したがって,本症例のように穿通胎 盤も疑われるような症例では,膀胱鏡の所見 も検討すべきであったかもしれない。また, 膀胱鏡で所見があれば,手術に備えての尿管 ステント挿入も有効であろう。  第二の問題点は,胎児の娩出後,子宮を一 期的に摘出可能かどうかであった。本症例は 2 経産婦でありその後の挙児希望は強くな かった。そのため子宮摘出を前提としたが, 術前に穿通胎盤か否かの診断はつかなかった ため,最終的に開腹所見で判断することと なった。膀胱剥離が可能で,かつ出血コント ロールがつけば,一期的に子宮全摘術を行う 方針であった。  当科では前置胎盤の出血対策として,全例 に自己血貯血 1200 ∼ 1600 ml を目標に行っ ており,早産傾向がある場合には早期に貯血 を開始し,返血しながら待機している。また, 今回は出血コントロールが困難になった時に 備えて,子宮動脈塞栓術の準備,ならびに膀 的手術の良い適応であった。  一期的手術と二期的手術のどちらがより有 用かについては,個々の症例によって異なる。 癒着胎盤のうち䮄入または穿通胎盤まで達し ないものは,一期的手術が可能であることが 多い。本症例のように選択的帝王切開が行わ れる場合には,出血のコントロールを目的と した内腸骨動脈バルーン塞栓術併用の有用性 が報告されており,当施設でも今後,検討が 必要であろう。  今回のような手術では,出血のほか,癒着 胎盤による膀胱浸潤への対処が問題となる。 炭竈らの報告9) では,前置䮄入胎盤までで あれば膀胱部分切除を行い,90% は一期的 な手術を完遂できたが,そのうち 12.5% は再 開腹の必要性が生じている。しかし穿通胎盤 では,一期的手術で再開腹を行わなかった症 例は 5 例中 1 例にとどまっていた。  一期的手術での膀胱処置の工夫として Pelosi ら10) は尿管カテーテル,腟内ガーゼタンポン, 膀胱の充満により解剖を明瞭にし,胎盤と膀 胱癒着部の下方に用手鈍的にバイパストンネ ルを作り膀胱,尿管の損傷を防ぐ modifi ed cesarean hysterectomy を考案している。  子宮動脈塞栓術を利用した二期的手術は, 既に出血量軽減に対する有用性が報告されて いる。その一方で動脈塞栓による縫合不全, 感染などの報告も少なくない8, 10, 11) 。計画的 に二期的手術を行う場合には,動脈塞栓術は 帝王切開の翌日に行われている報告が散見さ れる。動脈塞栓術の利点は,内腸骨動脈のバ ルーン閉塞や結紮よりも末梢の栄養血管を造 影にて同定し,選択的に遮断することができ ることである。それにより,側副血行路から の血液流入を抑えることができる。塞栓術の 合併症として発熱,下肢虚血,膀胱直腸壊死, 神経障害などが報告されている9, 11, 12)。当科 でも過去に施行した二期的手術で,動脈塞栓 術後に骨盤内膿瘍を形成し,管理に苦慮した

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症例を経験している。また,子宮動脈からの 塞栓物質が逆流性に卵巣に達し最大 14 % に 卵巣機能障害が生じるとの報告13)があり, その対策として帝王切開時にあらかじめ卵巣 固有靭帯の結紮を行っておくなどの工夫の報 告もある。また,膀胱温存のためにやむを得 ず,胎盤組織が残った病的子宮筋層を膀胱側 に残して膀胱形成を行うこともあるが,その 際には縫合不全を起こしやすい。縫合不全に よる腹腔内への尿漏出に対して,尿道バルー ンカテーテルを 3 カ月留置して自然修復した との報告もある13) 。縫合不全対策としては, 動脈塞栓で完全に血流を遮断するよりも,術 中のみ内腸骨動脈バルーン留置を行うほうが 有用であるとの見解もある14) 。  動脈塞栓術を行うのか,二期的手術におい ても内腸骨動脈内バルーンの併用を行うのか についても,症例によっての適応や合併症対 策も念頭に置き,今後の検討が必要である。 本症例のように一期的に手術が可能な症例 (癒着胎盤までの症例)においては,自己血 や出血時の対応が計画されていれば一期的手 術が有用とも考えられた。  また,本症例では帝王切開瘢痕部が引き延 ばされており,その部分には明らかな子宮筋 層を認めなかった。もしも前置胎盤を合併し ていなければ,切迫子宮破裂として,より早 期の娩出が必要になった可能性も考えられ た。現在,前述した動脈塞栓,メソトレキセー トの使用等によって,前置胎盤,癒着胎盤症 例の子宮温存も行われている。しかし,癒着 胎盤のみならず切迫子宮破裂の危険性も考慮 すれば,至急温存の可否についても慎重な適 応の選択が必要であると考えられた。 結     語  切迫子宮破裂を伴った癒着胎盤の一例を経 験した。一期的手術の良い適応であったが, 診断の面では開腹所見に頼らざるを得ず,今 後同様の症例への更なる検討が必要であっ た。また今後,二期的手術が必要な症例にお いての管理方法を検討する必要もある。 文     献

1 )Grobman WA, Gersnoviez R, Landon MB, Spong CY, Leveno KJ, Rouse DJ, Varner MW, Moawad AH, Caritis SN, Harper M, Wapner RJ, Sorokin Y, Miodovnik M, Carpenter M, O'Sullivan MJ, Sibai BM, Langer O, Thorp JM, Ramin SM, Mercer BM; National Institute of C h i l d H e a l t h a n d H u m a n D e v e l o p m e n t (NICHD) Maternal-Fetal Medicine Units (MFMU) Network. Pregnancy outcomes for women with placenta previa in relation to the number of prior cesarean deliveries. Obstet Gynecol 2007; 110: 1249-1255.

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management of placenta percreta:conservative and operative strategies. Am J Obstet Gynecol 1997; 177:1523-25. 8 )牧野康男,浜田一志,野尻記子,瓦林達比古. 子宮破裂を伴った䮄入胎盤の 1 例.日新生児会 誌.2003; 39: 845-848. 9 )炭竈誠二,板倉敦夫,早川博生,岡田真由美, 太田豊裕,吉川史隆 . 前置嵌入・穿通胎盤の臨 床的検討と治療へのアプローチ.産婦実際 2007;

(7)

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12 )Badawy SZ, Etman A, Singh M, Murphy K,

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川哲司,吉田好雄,小辻文和,秋野裕信.青木 芳隆.広範囲な穿通胎盤症例の膀胱温存法 病 的膀胱の修復とカテーテル留置による膀胱摘出 の回避.産婦実際 2011; 60: 609-613.

図 1 妊娠 10 週時の経腟超音波検査所見Ꮚᐑ➽ᒙ䛾⳼ⷧ໬⫾┙䛾⭤⬔䜈䛾ᙇ䜚ฟ䛧⭤⬔ 図2 妊娠 16 週時の経腟超音波検査所見 ⭤⬔ Placenta lacunaeᏊᐑ➽ᒙ䛾⳼ⷧ໬⫾┙䛾⭤⬔䜈䛾ᙇ䜚ฟ䛧 図 3 妊娠 21 週時の経腟超音波検査所見⭤⬔Placenta lacunae

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