血栓止血誌 24(4):370~379, 2013 急性胸痛・呼吸困難・失神などからショック症 状を呈する広汎型急性肺血栓塞栓症が疑われて最 初に施行される画像診断は,やはりベッドサイド で可能な胸部単純 X 線写真(図 1)と超音波検 査である.前者では心拡大(70%),無気肺・浸 潤影(30%),右肺中間動脈拡大(knuckle sign, 25%),胸水(15%),左第 II 弓拡大(15%),肺 野透過性亢進(Westermark sign, 10%)が主な 所見とされる1).肺梗塞をきたせば肺野に浸潤影 (Hampton’s hump)をきたしうる.鑑別しなけれ ばいけない疾患は,慢性閉塞性肺疾患,特発性肺 高血圧,右心負荷のかかる心疾患,サルコイドー シス,悪性リンパ腫,などである.いずれにして も非特異的であり,少なくとも 15%は異常をき たさないが,これら所見を認めたなら重症度は高 いともいえる. 心臓超音波検査(図 2)は,右室拡大および 壁運動低下,心室中隔奇異性運動,左室扁平化 など2),より直接的に肺塞栓にともなう右心負荷 (submassive type 以上)を描出可能である点でそ の後の患者の予後や治療方針決定に重要である. ショック以上の collapse, massive type では,こ の超音波所見のみで PCPS 下に血栓摘出術やそ れが不可能なら血栓吸引・破砕・溶解などの経カ テーテル治療に移行しなければならない.時に肺 動脈主幹部や右室,右房内の肺塞栓を直接観察で きることもあるが,右心負荷所見のみで中枢型肺 血栓塞栓症の 98%を診断できる.ただし特異度 *東海大学医学部画像診断学〔〒 259-1193 神奈川県伊勢原市下糟屋 143〕
Department of Diagnostic Radiology, Tokai University School of Medicine 〔143 Shimokasuya, Isehara, Kanagawa-prefecture 259-1193, Japan〕
Tel: 0463-93-1121 Fax: 0463-93-6827 e-mail: [email protected]
1985 年 3 月 慶應義塾大学医学部卒業 同 年 4 月 慶應義塾大学医学部放射 線診断科入局 1988 年 7 月 東京都済生会中央病院放 射線科出向 1990 年 7 月 慶應義塾大学医学部放射 線診断科帰室 1991 年 4 月 慶應義塾大学医学部救急 部助手 1995 年 4 月 防衛医科大学校放射線科 講師 1997 年 7 月 フランス トゥールーズ ラ ングエユ大学病院放射線 科臨床研究員 2000 年 4 月 慶應義塾大学伊勢慶應病 院放射線科部長兼講師 2001 年10月 東海大学医学部画像診断 学講師 2004 年 4 月 同 准教授 小泉 淳
肺血栓塞栓症の画像診断
小 泉 淳*Imagings of pulmonary thromboembolism
Jun KOIZUMI*
Key words: chest X-ray, transthoracic echocardiography, computed tomography, magnetic resonance, pulmonary thormboembolism
❖要旨❖ a.急性胸痛・呼吸困難・失神などから急性肺血栓塞栓症が疑われて ショック症状を呈する広汎型患者に対しては,ベッドサイドで低侵襲に施行 可能な心臓超音波検査や胸部単純 X 線写真で拾い上げ,PCPS などで管理 しつつ血管内治療を兼ねた肺動脈造影で確定診断することになる.b.非広 汎型では下肢静脈を含めた CT が第一に推奨される.c.ヨード系造影剤の 使えないアレルギー,腎機能低下症例や,妊婦,臨床的に強く疑われるのに CT で陰性であった場合(末梢性の shower embolism など),血栓溶解療法 の際の治療効果判定例などに核医学検査を施行する.d.MRI は患者管理の 困難性,空間分解能の低さ,撮像時間の長さにやや難があるが,CT を施行 できない場合の代替手段として,また血栓の aging や perfusion など,CT, 核医学検査同等以上の情報を提供しうる. ◆特集:静脈血栓塞栓症の血液検査と画像診断:その課題と展望◆
小泉 淳:肺血栓塞栓症の画像診断 371
フィルター留置や血栓吸引・溶解療法などの治療 へつなげられる意義は大きい.
急性肺血栓塞栓症(APTE)の診断において, 肺動脈造影(図 3)は核医学検査とならぶ従来 の gold standard である.1. pouch defect, 2. webs and bands, 3. intimal irregularity, 4. abrupt nar-rowing, 5. complete obstruction の 少 な く と も 1 つが証明されることで必要とされる.現在では は 10%であり,すべての肺血栓塞栓症に対する 感度は 59%,特異度は 77%である3)ことから, ショック以外の症例で血栓を直接描出できない症 例に関しては確定のための画像診断を続ける必要 がある.ただしその場合でもプローブを切り替え て下肢の圧迫エコー法を追加することで,肺血栓 塞栓症の大部分の原因となる近位部下肢深部静脈 血栓症有無について診断可能であり,下大静脈 A B 図 1 胸部単純 X 線写真 軽度心拡大とともに両側肺動脈中枢部の塊状拡張(→ knuckle sign)がみられる 図 2 心臓超音波検査 A. 短軸像,B. 下大静脈
右室拡大(A 矢印)と心室中隔の左室への軽度圧排(A 点線矢印)がみられたが,血圧は正常であった(submassive type).下大静脈 の呼吸性変動(B)はわずかである
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digital subtraction angiography:DSA や 細 径 カ テーテルの改善も加わり,外来レベルでも肘静脈 穿刺による左右肺動脈の選択的造影が可能であ る.しかしながら,小さな血栓の診断は依然とし て難しく,亜区域レベルの肺塞栓診断における一 致率は,2 名の診断医では 66%,3 名では 13% に過ぎない4). これに対して,急速に普及しつつある multi-detector row CT:MDCT(図 4)では,亜区域 レベルの肺塞栓も診断能の向上がみられ,原因と
A B D C
A B 図 4 Submassive type
MSCT の isovoxel 性をいかして軸位断(A, B)のみならず,冠状断(C, D)などの Multiplanar Reformation(MPR)を作成すると, 結合織やリンパ節などと区別しやすく,肺動脈本幹の血栓(A 矢印)から亜区域枝に至る血栓(D 矢印)が明瞭に描出される
図 3 急性肺血栓塞栓症の血管造影像
右中葉枝分枝の起始部(A 矢印)に血管途絶像および U 字状の陰影欠損がみられる.後期動脈相では,対応する末梢肺実質の潅流欠 損像(矢頭)をともなう
小泉 淳:肺血栓塞栓症の画像診断 373 下肢静脈では 3 分後がスキャン開始の大体の目 安になる.後者であまりに早くに撮像すると静脈 内で不均一に造影剤が到達するため血栓とあやま る可能性があることに注意が必要である.肺動脈 のみを撮像するのであれば 7 秒程度で済むため, 理論的には 3mL/秒×7 秒=21mL の造影で肺塞 栓の診断は可能であるが,肘静脈から肺動脈まで の後押しの必要や,引き続き検索されることの多 い DVT の診断のためにも造影剤の総量は 100~ 150mL(約 2mL/kg 体重)を注入することが多 い.気管支周囲リンパ節や軟部組織(図 5)など なる深部静脈血栓症(DVT)についても,下大 静脈フィルター留置の適応となる proximal DVT のみならず,下腿までの distal DVT の有無ま でワンストップで診断可能5)(感度 93%, 特異度 97%)になりつつある.具体的には,体重や撮 影条件(範囲,時間など)などに合わせ,濃度 300~370mgI/mL 前 後 の 造 影 剤 を 秒 間 2~5mL の速度で撮像時間(秒)をかけた総量を,できる だけ心臓に近い肘静脈などからパワーインジェク タを用いて急速静注し,造影剤の到達予想時間後 にスキャンを開始する.肺動脈では 15~20 秒後,
A B 図 6 多列 CT による微細肺血栓塞栓症 ごく数 mm のひも状血栓だが,軸位断(A 十字交差点)でも冠状断(B 十字交差点)でも肺動脈分枝内に存在することがわかる
A B 図 5 肺血栓塞栓症と紛らわしい軟部組織陰影 軸位断(A)では右肺動脈内血栓(十字交差点)にみえるが,冠状断(B)で観察すると肺動脈本幹に沿って伸びる軟部組織(十字交 差点)であることが一目瞭然である
日本血栓止血学会誌 第 24 巻 第 4 号 374 と紛らわしい時は multiplaner reformation(MPR) を適宜作成することで,どの断面でも血管内に存 在する血栓(図 6)を区別できる.比較的まれで ある上大静脈系の血栓や腫瘍性疾患(図 7)の鑑 別のため,静脈相は胸郭を含めて撮像した方が被 曝を別にすれば有用性が高い. 従来のgold standardとされる核医学検査(図8) と MDCT の急性肺血栓塞栓症診断におけるラン ダム比較試験6)にて CT がより多くを診断でき た(19.2% vs. 14.2%)ことを受け,PIOPED II でも急性肺血栓塞栓症を疑う際にはまず CT を 優先すべきであると勧告している7).しかしなが ら,CT にて APTE を否定した 1,436 人を無治療 で 3ヶ月間経過観察中,7 人が致死的,3 人が非 致死的 APTE を発症したことや,CT で incon-clusive 所見の 20 人中 2 人がシンチグラムで陽性 であった報告もあり,シンチグラムの有用性は依 然として残されよう.具体的には水溶性ヨード 造影剤禁忌例,腎不全患者,妊婦,臨床的に強 く疑われるのに CT で陰性であった場合(末梢性
A B C
A B 図 7 肺動脈原発腫瘍(intimal sarcoma) 肺動脈相(A)のみでは均一な陰影欠損(矢印)であり,肺動脈血栓塞栓症と区別がやや難しい.造影遅延(静脈)相(B)では不均 一な造影効果(矢印)がみられ,腫瘍であることが判明する.冠状断(C)では壁への分布がやや散在性(矢印)で,血栓に比べると やや連続性に欠ける 図 8 肺換気(A)血流(B)シンチグラフィ 気管が描出されている方が換気シンチグラフィである.典型的な V/Q mismatch(矢頭)が示されている
小泉 淳:肺血栓塞栓症の画像診断 375
A B
A
B
C
D
図 9 Dual-energy CT による perfusion image(A)と血流シンチグラフィー(B) 舌区と右 S10 の楔状陰影欠損がほぼ一致する
図 10 ʻAcute on Chronic’ の肺血栓塞栓症
右(A),左(B)肺動脈に沿った曲面再構成画像により,ひも状の急性肺血栓塞栓(A)と石灰化(矢印)を伴って全体に径が狭小 化し閉塞した左肺動脈慢性肺塞栓(B)が対照的である.Volume rendering(C)および MIP(D)では,閉塞した左肺動脈周囲の蛇 行血管(矢頭)とそれに向かう側副路(矢印)としての内胸動脈や鎖骨下動脈分枝が発達しており,原発性肺高血圧症との鑑別に有 用である
A
B
日本血栓止血学会誌 第 24 巻 第 4 号 376 の shower embolism など),血栓溶解療法の際の 治療効果判定例などに有用とされる8).一方,最 近普及しつつある dual-energy CT(DECT)を 用いることで,この血流シンチグラフィーに近似 した perfusion image(図 9)も実用化9)されつ つある.CT の造影剤として通常使用される原子 番号の高いヨードは,低管電圧でより高い吸収率 をきたすことを利用し,異なる管電圧で撮像する ことで肺実質などの生体組織とヨードを分離して 表示することが可能となる.最初は二管球を直 交させて配置しおのおの異なる管電圧で scan す る方法が,後に一管球で高速に管電圧をスィッ チさせて scan する方法も実用化された.上肢か ら急速静注された高濃度の造影剤が上大静脈に 残存することによる beam hardening artifact や, 心拍動や横隔膜などの呼吸による motion artifact
などの問題10)も残るものの,従来の MDCT に
対する付加的価値の証明が待たれる.たとえば, chronic thromboembolic pulmonary hypertension (CTEPH)では,第 1 相の perfusion では急性期 同様に perfusion defect を生ずるものの,第 2 相 では大循環からの側副路(図 10)を受けて逆に 遅延造影効果を示す11)ことなど,従来の血流シ ンチグラフィでは得られなかった情報が示され る.ごく最近では,計算速度の進歩にともない, 従来の 1 回の逆投影で画像構成する filtered back projection(FBP)の代わりに,反複して画像再 構成を繰り返すことで段階的に画像修正する逐次 近似法 iterative reconstruction(IR)が採用され はじめ,低線量で撮影してもノイズやアーチファ クトの少ない画像を得られるようになった.一般 に X 線被曝は管電圧の二乗に比例するため,低 管電圧では大幅な被曝低減につながる.また管電 圧低下による CT 値の上昇は前述のごとく原子番 号の大きなヨードではより顕著であり,結果とし てヨード造影剤による増強効果を高めることにも つながる(図 11).これらにより,懸案となっ ていた全身 CT 検査による X 線被ばくの著しい 低下と造影剤減量の双方が期待されている.さら にキセノンガス吸入を用いた ventilation CT12)も すでに人体応用がはじまっており,今後ますます 肺塞栓症への CT の応用は拡大していくものと予 想される. 一方 MRI では,磁性体を有する患者や,モニ ター・その他の補器を要するような重症患者では 施行困難な欠点はあるものの,放射線被曝がなく, 造影剤を使用してもごく少量,といった多くのメ リットからこの分野でも MRI の応用は拡大しつ A B 図 11 逐次近似法を用いた 150KV(A)対 100KV(B) ヨード造影により通常の 150KV 撮影時には(231.23±29.24H.U.)であった肺動脈は 100KV では 430.63±35.26H.U. と約 2 倍の CT 値へ上昇するのに対し,肺血栓塞栓は 150KV での 61.73±28.19H.U. から 100KV での 53.97±34.15H.U. と大差なく,結果として 100KV でより良好なコントラストが得られる
小泉 淳:肺血栓塞栓症の画像診断 377 応用範囲が拡大(図 12A)しつつある13).また 造影剤を急速静注して広い範囲を一度に撮像でき る dynamic MRA( 図 12B) で は,10~20 秒 程 度と速い撮像時間を利用して血管造影同様に動 脈・実質・静脈相での撮像が可能であり,実質相 は血流シンチグラフィに類似の画像も得ることが 可能である.新鮮血栓・塞栓の T1 値が短縮した ことを逆に利用し,直接血栓を高信号として描出 可能な direct thrombus imaging:DTI(図 13B) も報告されている.理論的には methemoglobin を 反映するため,1 週間程度以後の亜急性期血栓が 高信号に描出されると考えられ,治療効果予測へ の応用が期待される. つある. 血栓・塞栓を陰影欠損として描出するためのい わゆる MR-angiography:MRA は種々の方法が開 発され,目的に応じて使い分けされている.造影 剤を使用しないいわゆる非造影 MRA としては, 撮像面に飛び込んでくる血液の高信号(in-flow 効果)を利用する time-of-flight:TOF 法が古典 的であり,presaturation pulse を併用することで 動静脈を区別して描出可能ではあるが,流速に依 存するため遅い血流や撮像面に平行に走行する血 管の描出が不良となる欠点があり,最近ではほぼ リアルタイムで撮像可能な steady state free pre-cession(SSFP)法が cine mode を含めて比較的 太い肺動脈内の血栓や下肢深部静脈血栓症検索に
A B
図 12 Steady state free precession(SSFP)法(A)と dynamic MRA(B)による肺血栓塞栓診断
SSFP 法では,造影剤を使用しなくても比較的中枢部の肺塞栓(A 矢印)は明瞭に描出されうる.造影剤を急速静注してえられる dynamic MRA では,肺塞栓(B 矢印)のみならず末梢肺野の潅流欠損域(B 矢頭)も楔状に観察される
A B
A B
A B
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Disclosure of Conflict of Interests
The authors indicated no potential conflicts of interest.
文 献
1) 佐藤徹:胸部 X 線.臨床医 30:300-301, 2004. 2) 岡野嘉明:超音波検査.臨床医 30:300-301, 2004.
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A
B
図 13 新旧の肺血栓塞栓症
Dynamic CT(A)では等しく陰影欠損を呈する左右肺動脈内の血栓(矢印,矢頭)のうち,左肺動脈内の血栓のみが MR clotography (B)で高信号(矢印)として描出されており,methemoglobin を含み T1 値の短縮した比較的新鮮な血栓であることを示唆する
小泉 淳:肺血栓塞栓症の画像診断 379
Imagings of pulmonary thromboembolism
Jun KOIZUMI*
Abstract
For the patients with suspected massive type of acute thromboembolism (APTE), chest X-ray and transthoracic echocardiography (TTE) should be performed first and subsequent pulmonary arteriography confirms the diagnosis with possible interventions including percutaneous cardiopulmonary support, etc. Computed tomography (CT) is now the first line diagnostic imaging for the other types of APTE and possible deep vein thrombosis (DVT). Pulmonary perfusion scintigraphy is available for the patients with allergy for the iodinated contrast, renal dysfunction, pregnancy, negative CT finding despite clinically highly suspected APTE, and for the evaluation of subsequent treatments. Magnetic resonance (MR) imaging is possible alternative to CT and may provide more information about thrombus age and perfusion.
Key words: chest X-ray, transthoracic echocardiography, computed tomography, magnetic resonance, pulmonary thormboembolism