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海外の博物館にみる甲殻類の研究体制と標本管理

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C A N C E R 10 (2001), p. 9 -18 9

海外の博物館にみる甲殻類の研究体制と標本管理

朝 倉 はじめに 私の勤める千葉県立 中央博物館では平成元年以 来,伊豆一 小笠原 マ リアナ島孤の自然、誌を 研究 してきた . また私自身さらに ,沖縄調査をすすめ る中で ,多数の 甲殻類標本を採集し研究し続けて いる. そのプロセスの中でのタイプ標本や比較検 討標本を調べることが研究上不可欠となるため , 私は下記のような博物館に行き,標本調査をおこ なってきた . またかつては ,千葉県立 中央博物館 とオーストラ リア博物館の 姉妹提携の話もあり, 私は沼田館長の親書 をも って,オース 卜ラ リア博 物館を訪問し , さまざまな 活動を見聞したことも あ った. こうした経緯をふ まえ, これらの博物館 にみる 主 として 甲殻類の研究体制と ,博物館活動 に関して簡単にレポートしてみたい . なお以下で ホストというのは,私の滞在をアレンジしてくだ さった方のことを,指す . 1 . アメリカ

National M u s e u m of N a

tura1

Hisωry

Smi血 回 凶 佃 Institution (Washington,D .C .) [ ホス ト:Rafael LemaitreJ 図1A-C 言 うまでもなく , スミソニアンは世界最大の博 物館群であり,その一角にあ って,地元ではゾウ の博物館 (入り口に巨大なゾウのレプ リカがある ) として知られるのが,こ の自然誌博物館である (図1 A). ホワイ トハウスへと続くこの博物館群 の建物は ,その規模 の大き さに ,圧倒 的なものを 感じる . この博物館の歴史は19世紀半ばに遡る . 甲殻類学 研究室 を含む無脊椎動物部門は,Spencer F. B泊rd

Akira A sAKURA: Management of the crustacean col-lections and research in the museums in A merica, Australia and Europe.

によ り1856年に創設された . 甲 殻類標本は古くは ]. E. Benedict, Mary]. Rathbun, C . R. Shoemaker, Waldo L. Schmittらに よって研究 され,コレクショ

ンの 基礎 が築かれてきた . 1946年には ,Fenner A Chace,]r.がcuratorとなりのちに主任とな って

いる . その後,さまざまな組織の変革があ ったが, 甲殻類研究者としてこの部門の長であ った中には Horton H. Hobbs, ]r. (1962-1964), R且ymond B.

Manning (1967-1971), Brian Kensley (1991-1995) らがいる . コレクションは巨大で、 ,登録標本点数 は55万 2千ロ ッ トを越え ,こ の 中には何 と2万 4 千ロットのタイプ標本が含 まれる . やや古くはな るが1982年時点での集計で ,世界で甲殻類の属は 5,252を数えるが, そのうち4,800属を所有してい るという . またHobbsの標本を 中心 とするザリ ガニ類のコレクションは ,世界最大級である . 収蔵庫はいくつかの場所に分置されていると , 聞いていたが,私が訪れたのはいわゆる展示室の 隣接した建物だけであるが,研究室は1 フロア ー ごとに ,専 門別 にわかれた形にな っている . 基本 的 には中 央が巨大な 収蔵庫になっていて ,それを 取 り囲む形で研究室が並んでいる . 廊下には ,世 界の著名な甲殻類学者の写真が額に入 って並んで お り,現在は ,数年前に亡くなられた日本甲殻類 学会の会長であ った三宅貞祥先生の写真が,飾 っ てあった . かつては,酒井恒先生と 三重大の椎野 先生の写真が飾 ってあったという . 収蔵庫 (図1 B ) は整理が行 き届いており , ス チール製の棚に ,属 ごとに種のアル ファベッ ト}II買 に1 種類が 1 つの列をつ くるように 置いてあるの で, ちょうど図 書館で本を探すのと同 じ要領で , 簡単に標本を探すことができる . これは広い収蔵 庫ならではの配置で,狭 い収蔵庫しかもたない博 物館は ,標本瓶 をつめて置かねばならず,それを 探すのに苦労するわ けで、 ,ま ったくうらや ま しい

(2)

図1 National Museum 01 Natural History, Smithsonian Institution (Washington, D. C. )司 A:展示 室正面玄関, B: 無 脊 椎 動 物 の収蔵庫司 C : visitor用研究室. Bernice P. Bishop Museum

(Hawaii)司D:古い建物司 E:新しい展示室. 限りである . 未整理標本棚には,科まではわけた が,それ以上はすす んでいない標本が膨大な数あ り, 19世紀の標本も多数あった . なお,収蔵庫は 管理上 ,有無を 言わさず夕方51時になると,断固 として閉められてしまうので ,必要な標本はその 時刻より前に出しておかなければならなかった . 5 時近くになると ,管理担当者が「中に誰かいま すか

J

と大声で叫び,いないとわかるとカギをかけ る音が, よく聞こえていた. もっとも研究者の大 半の人も 5 時になれば,サッサと帰っていたが.

(3)

朝 倉 彰 11 標本データはかつてはカード化されて整理さ れ,現在もそのカードを使うことができるが,そ の大半はすでにパソコンに入力されており ,標本 管理担当にお願いすれば,キーワード( 例えば, 「インド ー西太平洋産j とか「ヤドカリ j など) で検索し情報をプリントアウトしてくれるし,そ の場所を教えてくれる . また観察がおわ った標本 は,返却ボックスがあって,そこに置いておくと, 担当がもとの場所に戻してくれる . Lemaitre氏 の話だと, visitorが間違った棚に返却してしまう と,これだけ広い中から探し出すのが容易で、なく , 無くなってしまったのと同義になってしまうの で,専門の担当に返却再置させたほうが,よいの だと言う . 図書室は,古今東西の甲殻類の分類学の文献や リプ リントが,非常に充実しており,整理も行き 届いていてたくさんのキャビネットに入ってお り,私にとって必要な文献はほとんどそろってい たばかりでなく,なかなか手に入らないで苦しん でいた文献も,ことごとくあった . ここのスタッ フは,昼食はなぜかこの図書室で会食する習慣に なっており,当時その甲殻類研究室にいたBrian K ensley, A ustin Williams, Chris Tudge,

Ra

ymond M anning, R. Lemaitre氏らが楽しそうに集って いた.

私のようなvisitorは,次から次にやってくる ようで ,当時もChris T udge氏や, Lemaitre氏の 知り合いというコロンピアの大学院生数人が, visitorの部屋に私と 同 じように机をもらってい た. 私は, Wildの実体顕微鏡と顕微鏡を置く机 を一つ,書き物机を一つ,本棚を一つもらってい たが,広さとしては,現在の職場でもらっている スペースよりも広く,実に快適であった( 図1 C ). visitor共有のパソコンもあり,論文を書くことも できるし,メールを出すこともできる. この無脊椎動物部門の印象としては , とにかく 研究がしやすい,ということであろう. 建物も , 標本も,文献も,組織体制もあるべき姿で機能し ているといえる . 展示室は大規模で充実しているが,割とオーソ ドックスである .

B em ice

P.

Bish o p M useu m (Hawaii) 図1 D, E 1889年にC harles R eed Bishopによって創設さ れた. 博物館名は彼の奏でカメハメハ王朝家の最 後の王女B emice Pauahi Bishopにちなみ ,王家 の財宝を所蔵する目的でつくられたが,もちろん 現在はハワイ,ポリネシアの歴史,文化と自然に 関する総合博物館である . ハワイ大学とともに この地域をはじめとする太平洋域の生物の研究を 数々おこな ってきて おり,日本の研究者も多数訪 れている有名な博物館なので,知っている人も多 いであろう . しかし意外と言っては何であるが, 自然誌学では非常に有名で、ありながら,かなり 小 さな博物館である. 展示室も , こじんまりとした ものであり,古い建物 (図1 D ) と新しい展示室 (図1 E ) が奇妙な形で並んでいる ( 年間の入館 者数は50万人を越えるというが) . しかしそれだ け研究者のactivityは高く,研究活動がきかんで、, 世界に知られている,ということでもあろう. 現在ここの無脊椎動物を担当している Lucius E ldredge氏は, 一方で太平洋学術会議の最高議 長を務める非常に多忙な方で,またかつてグアム 大学の生物学の教授として ,北マリアナ諸 島の調 査もおこなってきた. 私は ,千葉県立中央博物館 の北マリアナ諸島の調査の際,大変お世話になっ た方でもある . 無脊椎動物標本はポリネシア, ミ クロネシア 産のものが多く ,またグアム大学の研 究者が記載した種のタイプ標本も , ここに所蔵さ れている. U niversity of G u a m (G u a m) 図2 これは 普通の大学であって博物館ではないが, 標本と資料を所蔵する 3つの組織があり, ミク ロ ネシアをはじめとする熱帯太平洋の自然、誌調査の 拠点として,欠かせない場所であるので紹介した い. 私は,ある時期,国際学会や職場の千葉県立 中央博物館のプロジ ェク トで ,毎年この大学を訪 れていた . まずひとつは, 1970年に設立された Marine

La

boratoryであり , ここには収蔵庫があ ってマリアナ諸島とその周辺の海洋生物の標本 が,所蔵されている . 甲殻類は R.K. K ropp, L. E ldredge, D . W oosterらによって採集されたも のである . 実験所全体として , よく空調はなされ

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図2 University 01 G u a m (Mangilao).

ているが,標本は残念ながら一部保存状態のよく ないものもある . その他の無脊椎動物では,貝類 はミクロネシア産の標本が中心で,著名な貝類学 者 の Alison K ay, R. S. Houbruck, G .]. V er meij

らによって同定されている . またサンゴのコ レク ションは ,実験所の教授であった R.Randall氏の 手になるものである . 甲殻類ではないが,グアム大学の本学に は,ハ ーバリウムがありミクロネシア産の標本が多数所 蔵されており,管理は行き届いている . また本学 にあるM icronesiaA rea R esearch C enterは, ミク ロネシアの自然誌と民俗学に関する古今東西の文 献を集めた一大情報センターであり,戦前の日本 人による日本語の文献や,その英訳版もあり ,そ の収集力には驚かされる .

2.

ヨ一口 ッJ'I

百le Natural History M u s e u m (1ρndon, イギ リス ) [ ホスト :Paul ClarkJ 図3

いわゆる大英自然、誌博物館で,大英博物館から 独立して現在の組織がある . 標本は

16

世紀から今 日にいたるまで世界中から収集され,著名な研究 者,例えば,進化論の C.Darwin とA. R. Wallace

をはじめ,植物学者の ].D . H o o ker,地質学者の

Charles Lyell,などの収集した標本がある . 動物 学の 収蔵標本点数は, 2,700万点を越える . また, 有名な探検,航海によって得られた襟本 ,例えば

Challenger, Alert, Investigator, Discoveryの標本 などがある . これらの標本を研究に来る外来研究 者は,年間のべ5,000人日になるという . これら

の標本はSouth K ensington, Tring, W andsworth

などに

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カ所にわけで保管されている. 本館は South K ensingtonにあり,私が訪れたのもそこで あったが,その横に また新しい建物を建築中で あ った . South K ensingtonの建物は非常に美しく, 私はここまで美しい博物館の建物を見たことがな い( 図3) . 研 究室と収蔵庫は ,廊下をはさんで隣接する配 置になっている .甲殻類の収蔵庫はかなり大きく, 十脚甲殻類だけで1フロアーをしめる . 収蔵棚は 古式ゆかしい木製の洋服ダンスのようなもので, ひとつひとつにカギがかかるようにな って いる . したが って見たい分類群の“タンス " を,標本管 理担当に告げて開けてもらうようにする. 収蔵庫 は整理および管理が行き届いており,スミソニア ンと同じく属ごとに種のアルファベット順に

1

種 類が1つの列をつくるように置いてあるので,簡 単に標本を探すことができる. 当然のことながら , 歴史的遺産ともよべる標本群には ,思わず除 って しまうほどである . 未整理標本棚にも ,多数の襟 本があ った . 標本データはカード化されて整理さ

図3 The Natural H istory Museum, London司 展示室正面玄関.

(5)

朝 倉 彰 13 れているが,パソコンデータベース化はされてい ない . 収 蔵庫 は , ス ミ ソ ニ アンとちがって, Clarkさんがいる 限り開いてい た. Clarkさんは いつも7時すぎまで仕事 をしていた . 廊下には,驚くべき量の古今東西の甲殻類の分 類学の文献やリプリントがならんでいて,必要な ものはすべてそろっている , と言っ てよいであろ う. これはまさに歴史の蓄積がなせるわざであろ う. また 別の場所にある図書館で,最新のjournal の情報も十分な数,入手できる .

Clarkさんの持っているvisitorの部屋で ,Wild の実体顕微鏡と顕微鏡を置く 机 を一つ,書き物机 を一つを 一つもら っていたが,ここでも現在の職 場でもら っているスペースよりも広く ,実に快適 であ った. visitor共有のパソコンもあり ,論文を 書くこともできるし,メールを出すこともできる . となりの部屋では ,標本管理担当の人が, アルコ ールの入れ替えやデータの整理で毎日忙しそうに 働いていた. 展示室は巨大かつ充実してお り,多数の展示解 説員が働いていた .

University M u s e u m of Z oology

University of Cambridge (Cambridge, イギ リス) [ホスト : Raymond SymondsJ この博物館の歴史は, 1814年 に 比 較 解 剖 学 Harwood Collectionが寄贈された時に始まる . 古 い 動 物 学 の コ レ ク シ ョ ン の 中 に はC ambridge Philosophical Societyから寄贈されたものがあり , Charles Darwinの標本も多数含まれている. Cambridge というのは町と大学が一体となっ ており , しかも多くの建物が非常に古くまた芸術 的であり ,町 に一歩足を踏み入れただけで,その 歴史を感じ圧倒される . 博物館はその大学の 一角 にあり ,大学の研究室の建物 (図4 ) は古いが, 博物館の建物は1973年 に改築されたビ、ルであり,

5

つの収蔵庫を持ち ,また展示室には, 日本のタ カアシガニが入り口に ある. 甲殻類を含む無脊椎動物 コレクシヨンの代表的 なものは ,

J.

Stanley Gardinerによ ってインド洋 のFunafuti,Rotuma, Laccadives, Maldives, Seychel1esなどの島々の調査 (1898-1903年) から

図4 University of Cambridge (Cambridge) の研究

室の建物.

採集されたものである. その成果は1903-1906年

にThe Fauna and Geography of the Maldive and Laccadive Archipelagos (全2巻) として出版され たほか, Transactions of the Linnean Societyの Vol 氾I-

X¥弓

1 (1907-1925年発行) に多くの論文が 公表されている . また さらに1899-1900年にかけ ておこなわれたマ レ一半島へのSkeat Expedition の標本も有名で,これはW . F. Lanchesterによ っ て研究されたものである . またSouthern Cross Expeditionの標本 ,A. W iI1eyによ って採集された Iρyalty IslandsとN e w Britainの標本, Chal1enger 号航海の標本も 一部所蔵されている . 研究スペースは迷路のように複雑で,狭い廊下 が入り組んでいて , しかもいたるところにカギが かかっており,何度か迷子になりそうにな った. 収蔵庫 と襟本整理観察の部屋がドアを隔てて隣接 する作りにな っている . 標本は現在整理中という こと で,収蔵庫は階問みただけであり,私が見たい 標本は ,Symondsさんが探してひとつひとつ持 っ てきてくださ った. ただ標本データはすべてカー ド化 されているので , カード で標本をすぐに指定 できる . 19世紀から今世紀初頭にかけての貴重な 標本が,アルコール標本として良好な状況で、保管 されていた . 管理の良さに は驚くばか りである . 展示室 はこじんまりとし て地味であ るが,大学 博物館の原点的なものともいえ よう.

Nationaal Natuurhisch M u s e u m (Leiden, オ ランダ) [ ホスト :C. H .

J.

M. FransenJ

(6)

ランダの自然、誌に関する資料を 1 カ所に集めて, この博物館は発足したといわれる . 1878年に地学 と動物学は分離し,前者は 一般の閲覧ができたが,

f

走者には展示室はなかった . 組織的にはこの

2

つ は1989年に再統合され, 1998年に大きな展示室を 持つ新しい建物が完成している . 1998年に私も参 加したアムステルダムでひらかれた国際甲殻類学 会の際には ,参加者全員に案内パンフレットが配 布された . 展示室は地球,生命 ,生態系などをテ ーマとした展示室や ,

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才までの子供を対象にし た体験ゾーンなどがあり,従来のこの古式ゆ かし き博物館を知る人には,想像もつかないような , 現代的な (

?

) 内容である . 甲殻類の研究にと っては,歴史的に非常に重要な 博物館であり,その研究者には古くはW ilher m de Haanから始まり,Jan Adrianus H erklots, Johanners Govertus de M a n, Hilbrand Boschma, A1ida M . Buitendijk, Lipke B. Holthuis氏らが名を連ねる.

また日本人にとって研究上重要なコレクションと して, Philip Franz von Siebold (179

6-

1866) 収集 の日本産の標本がある . Sieboldはオランダ軍の 箪医 として 日本 にわたり長崎の出 島 で暮らし, 1822年から1829年にわたり多くの日本産の標本を 収集した . Sieboldの標本に関する詳細な情報は, 熊本大学の山口隆男先生の著作で知ることができ る. 私が訪れた時にも,山口隆男先生が長期滞在 中であり,またそのほかシンガポールからPeter N g さんとその

2

人の生徒さんが来られていて , カニの標本を調べていた . なお ,私も 含めてこれ らの人たちは, Fransen氏の手配で,この博物館 御用達のB & Bに宿泊していたが,そこのおばさ んはちょ っと怖いが,快適な宿である . 私が訪れた時は古い方の建物であるが

i

夜浸標 本の収蔵庫は 十分なス ペースで,標本も整然とそ して余裕をもって並べられてあり ,非常に探しや すい. ただし,古い標本は , ビンのフタにことご とくパテで封がしである . これは油とゴムとパラ フインを溶かしてまぜあわせ,煮詰めてつくるの だそうである . しかし,観察するためには,いち いちパテの封を切らなければならず,かなりの難 儀である . 山口隆男先生の話では,その封を切っ た物を,再びパテで封をするための人を 雇 うお金 があまりないので,あまり切らないでほしい,と 博物館側から 言 われたという . 私も,はなはだ気が 引けながらも,いくつか封を切らせていただいたが. H olthuis先生は ,驚くべきたくさんの甲殻類の 文献を所有しており,それがゲストルームに開架 されているので,見ることができるが,コピーを すると古い文献は傷むので,見るだけである . た だし ,どうしてもコピーしたい場合には 言っ てくだ さい, とHolthuis先生が言 われたので ,大先生 に頼むのは恐れ多くも恐縮ながら,いくつかお願 いした . Siebold標本には乾燥標本もたくさんあ るが,乾燥襟本としては,保存状態は悪くはない. 現在は, 1997年に新しく立てられた21階建ての 標本棟があり,ライデン ーの高さを誇 っていると きく .

Natunnuseum Senckenberg (Frankfurt a m main,

ドイツ ) フランクフルト中央駅から歩いてほど近いとこ ろにあり , となりにはゲーテ大学もある文教地区 にある . 現在の館長は ,甲殻類学者として著名な Michael Turkay氏 である . 甲殻類の登録標本は2 万

5

千ロ ッ トにおよび,標本点数としては

25

万点 におよぶ . また未登録標本は約

1

万点あるという. 標本の管理は非常に行き届いてお り,使いやすい. 私が訪れた時 (1993年) には,中国人の研究者が 何人も十胸l甲殻類の標本を調べていた . 現在,中 国とドイツでの共同プロジ ェクトが進行中とのこ とであ った. またその時は,ゼンケンベルグ十脚 甲殻類シンポジウムと日が近いせいもあり,アメ リカからR a faelLemaitre氏,ニ ュージーランド からColin M cLay氏も標本調査に来ていた . 展示室は 巨大である . 1993年当時の展示は新し くはなか ったが,大型生物の標本や複製を多数と りそろえ,非常に見応えがあ った.

M u詑u m national d'Histoire naturelle (Paris,

フランス ) [ ホスト:Nguyen Ngoc-HoJ 1793年に創設されたこの博物館は,さながら世 界の十胸l甲殻類研究のメッカのようなところであ る . 古くは, H . M ilne EdwardsやE .L. Bouvier をはじめとし,現在まで ].Forest, M. D. Saint

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朝 倉 彰 15 Laurent, D . Guinot, N. Ngoc-Ho など,多数の著

名な研究者を輩 出 している . またこの博物館に研 究室をもっ A.Crosnier (0 R訂'O M)の尽力に より, 世界中の甲殻類研究者がここを訪れ,次々に大き な業績をあげているのは,よく知られている. 日 本からも多くの研究者が訪れている. 所蔵標本は, 甲殻類研究者にと っては宝の 山のようであ り,歴 史的遺産の大きさを感じる. 私が使わせていただいたのは, H o 先生の研究 室の手前の部屋で、あったが,木造であるが堅牢な っくりであった. その建物の屋根裏( ? ) 部屋に は, オーストラリアからDianaJones さんと Peter Davie さんが来られていて,こちらはC rosnier さんの手 配による研究基金になるものである,とのことで あった . 私が行く直前まで,下関水産大学校の林 健一先生が来ておられた . また ,同時期 ,貝類学 の研究室には九州大学の松隈さんが,来られてい たが,いずれにしても , こうして世界中からひ っ きりなしに研究者が訪れている . 歴史と由緒ある博物館にしては ,そしてまた研 究室の建物が古く地味な割には ,展示が驚くべき, 度肝を抜くような現代的かつ奇抜な,そして大規 模なというか,大きな仕掛けのある展示である . これは,時の大統領が博物館が好きで,多額のお 金をか けて新しい展示をつく ったら ,このように なった,という . 多数の標本と模型,凝った照明 と音響を駆使し,また透明なエスカレーターが建 物の中を上下し,現代劇の舞台か,ロックコンサ ー卜か何かのようである . しかし自然、誌を学ぶの に,ここまで,もの凄い展示にする必要があった のだろうか? しかし一見の価値ありである .

3.

オーストラリア W e s t e m Australian M u s e u m (Pe巾 )[ ホスト : Diana Jones] 図5 A, B

1891

年にPerth M u s e u m としてスタートしたの で,

100

年以上の歴史があ り,生物 はもちろん歴 史,考古も含めた総合博物館である . 現在の建物 はかなり新しく( 図5 A ) ,特に展示室はきれい である . 組織はかなり大きく ,私が滞在したのは パースにある本館だけであるが, そのほかに6 つ の分館 (W estern Australian Maritime M u s e u m ,

Fremantle History M useu m, Samson House, Albany Residency M useu m

Geraldton Region M useu m

M useu m of the Goldfields) がある. 現在,収蔵 標本点数は全分野あわせて

200

万点を越える. ま たこの博物館はオーストラリア内の大がかりな海 洋生物相の調査を行い,それが大部の論文集とし て出版されている . この博物館には,かつてG. J. M o rgan という人 がヤドカリの研究をしていたが, なぜか突然その 研究をやめ,博物館もやめてしま っていた . 同僚 のDiana Jones さんは,あの時はショックだ った と言っていた. しかし昨年から ,何とこの博物館 の館長に就任し,私もいろいろとお話しを伺うこ とができたが,館長というのは非常に忙しい職で, もう研究はすっかりやめているが,時々趣味でザ リガニの標本をさわることはある,ということだ った . 液浸標本 (図5 B ) の収蔵庫は地下にあり ,研 究室は3階以上にあるため ,標本 をとりに行くと きには買い物カゴのようなも の を持って,エレベ ーターで行き来していた . エ レベーターは,安全 管理のために,特定のカギを持った人でないと動 かせないようになっており ,visitor もそれを借り るわけであるが,エレベーターを呼ぶときも,階 を指定する時も,そのカギを差し込んでやらなけ ればならない. 収蔵庫は狭くはないが,標本がい っぱいであふれんばかりであった . その大半はオ ース トラリア産のものである . タイプ標本は ,別 の小部屋に置いてあり,非常に重たいドアを2 つ 開けないと中に入れないような,きわめて厳重な っくりである . 標本データはパソコンに入力されており,そこ から検索することができる . 研究室には甲殻類の 分類学の文献やリプリントも ,それなりにそろ っ ているが,これは主としてG. J. Morgan 氏と D. Jones さんの努力によるもの だとい う. またそれ とは 別 にが, 関連journal がくる図書室も 別 フロ アーにあり ,必要な文献は ほぼそ ろう . Jones さんがもっている visitor 用のスペースは , 最大で4 名が入るくらいの広さで,私が滞在中に は,Jones さんの指導を受けている大学院生一人, データベースの整理にきているボランテイアが一

(8)

5 Western Australian Museum (Perth)

A:

展示室正面玄関司

B:

液浸標本.

Australian Museum (Sydney)

C:

正面玄関.

Queensland Museum (Brisbane).

D:

展示室正面玄関.

E:

甲殻類の展示 人, そして私の3 人 で使 っていた . 展示室は あま り大 きくない . 最近オープンした 子 供 向 けの

DiscoverγRoom

は,手 に と っ て さ わ れる標本が多数ある . この展示室は ,地元の企業 の共同出資によってできたもので ,出 資 し た 企 業 名がたくさん掲示されて い た.

Australian M u s e u m (Sydney)

図5 C

1827

年 に 創 設 さ れ, オーストラリアで最も古い 博 物 館 で あ る . 研 究 論 文 集 の

Records of the

(9)

朝 倉 彰 17 A ustralina M useu mも1890年に発刊され,今日ま で続いている . クモガニの分類学で有名なD es Griffin氏は長らく館長として,釆配をふるってい た (1976年から1998年まで) . 登録されている甲 殻類標本は約6万ロットあり, 4,700ロットあま りのタイプ標本がある . 1989年,オーストラリア博物館の著名な魚類学 者のD r. Paxton博 士 が,来日した際,千葉県立 中央博物館の宮正樹氏を訪れ,講演会をおこない, また標本調査を行ったが,その時に両館の姉妹提 携の話が出 ,私が中央博側の代表とな って沼田真 館長の親善を持って1990年7月,同館に滞在し , 館長 ・副館長以下各部門部の人と会い,その活動 をレポートした . その後,予算のメドがつかず, この計画は凍結してしまったが,以下にその様子 の概略を述べたい. ただしこれはあくまでも,当 時の状況であり ,現在はもっと進歩した状況にな っているかもしれない . また私が滞在したのはシ ドニーにある本館のみであるが,ほかに分館とし て,グレー トノくリア リーフのフィールドステーシ ヨンカ{Lizard Islandにある. 研究体制J[ ホスト :].1ρwery,R. Springthorpe, S. ]. K eableJ :研究部門としては,地球科学,進 化生物学,無脊椎動物学 (蜘形類,昆虫,員類各 研究室) 海産無脊椎動物学 (甲殻類,練皮動物, 多毛類,海洋生態系各研究室) ,脊椎動物学( 魚類, 両生 ・j隈虫類,鳥類,晴乳類,陸上生態系各研究 室) からなる . 研究室の体制はかなり複雑である が,基本的に研究プロジェクトをくむscientific o箇cerとそれを補佐する technical 0箇cerとから なる. またscientific officerにはresearch assistant, research scientist, senior research scientistの3つ の職階があり,これらになるためには博士の学位が 必要である . またこれらのうち,研究費を直接受 け取り,研究プロジェクトを組むのが後2 者であ

る. technical 0血cerもtechnical assistant, technical officer, senior technical officerの3つの職階があ

り,修士または学士の学位が必要である. technical o血cerは, research scientistおよびsenior research scientistが組織する研究プロジ ェクトに加わり研 究商で補佐しまた自分の研究とする . これらの人 たちにより発表される論文は年間, 140編以上に およぶ. 研究費は, 日本 円 に 換 算 し て 年 間 約 6,000万円であり,財源はニューサウスウエルズ 什│ から82.8%,博物館活動で得られる収入が7.6% で,固からの研究費が1.4%である . 収蔵庫の管理体制[ ホスト :P. B erentsJ : 本館 にある収蔵庫は空調設備が整っており ,

i

夜浸標本 関係の収蔵庫には ,火災の時に噴射されるへロン ガスの大きなタンクが,天井にいくつも取り付け られ,それらは煙センサーにより動くことにな っ ていて,なにやら不気味である . 乾燥標本の収蔵 棚 は,電動式スチール製である. 全体として収蔵 スペースが不足していて,シドニー市内のあちこ ちのピルや倉庫を借りて,持って行 っているとい うことだ ったが,だんだん新しく借りるところが 遠い所になりつつあり ,問題だという. 標本の登 録は,多くのボランテイアによって行われている. 主として,学校の理科の先生を定年退職している ひとが,週の決ま った時間に来て作業をおこな っ ている. 標本登録のデータベ ース用パソコンは, 各部門ごとに1 台の中央機と 5 台の入力用端末機 がある . 標本類は研究部のtechnical officerの指導のも と,資料管理部の研究員技術員により維持管理さ れている . 資料管理部の人員は,標本管理研究技 術員が11人,標本管理研究技術補助員が3人,標 本管理研究員が5 人,プレパラーターが 1 人, タ イピストが1 人,そしてそれに加えて多数のボラ ンテイアという大所帯である. 日本の自然誌博物 館では , これほど大きな資料管理部門をもっ博物 館は無い . 展示[ ホスト :R. JoynerJ : 展示部は,展示に 関するとりまとめ役を担うが,独自の事業は無く, すべて研究部 ・教育部 ・普及部などとの協議の結 果から,スケジューリングそして具体的な展示工 事の事務をおこなうものである . ただし工事自体 は,民間の業者に委託する . 展示としては10年に 一度変える常設展( 無料) ,年4 回の有料の特別 展,そして移動博物館がある . なお ,展示室は広 いが,全体としてはかなりオーソードックスであ る. レプリカの出来は,あまり新しくないせいも あり,日本の現在の水準からみれば,あまりよい とはいえない .

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体制としては ,展示デザイン ・マネージメント が11人,視聴覚機器係が2人,展示技術員が14人, そして多数の展示作業ボランティアからなる,と いうこれまた大変な大所帯である . デザイナーは 美 術大学でデザインを専門に勉強した人を採用 し,博物館で自然誌関係のデザインに関する卜レ ニングコースをうけさせ,教育していく. 図書館[ ホスト :M. KumjavJ : 非常に立派な自 然誌系の研究用の中央図書館がある . journalが 驚 く ほ ど に 網 羅 的 に 多 数 あ り , 同 館 発 行 の

A ustralian Natural HistoryとRecords of Australian M useu mとの交換で約2,000種類,購入で1,000種 類がはいってきている. 司書が3名,司書助手が 5名,タイピストが1名いて,私が訪れた時には さらに何と9人の作業員が登録作業を行っていた . 広報普及部[ ホスト :P . D em pseyJ : 7名のス タッフがいて博物館自体の宣伝,特別展の宣伝な どの,あらゆる宣伝をおこなっている . 主に常設 展や博物館自 体 の宣伝は 新聞 ・雑誌 ・観光案内 誌など,特別展はテ レビなどのメディアを使う . またあらゆる博物館事業に ,広報普及部のスタッ フが加わって,宣伝方法を検討している. 日本の 博物館では,広報普及と教育を,混同して考えて いるところもあるが,本来まったく別物であり, 合理的かつ効果的な宣伝活動をおこなうには,こ のように独立した広報普及部があるべきである と,いえる . 教育部[ ホスト :Sarah MainJ : 教育活動は主 に下記の5つある . (1)展示解説員が,博物館の 展示室を案内する . 展示室つきで解説やデモをお こなう E xplainerと,ツアー客を引き連れて館内 をめぐるガイドGuideとがある . (2)展示室を 利 用した教育プログラムとしては ,こども ,小学生, 上級学校の生徒たちが,学校教育と関連した内容 あるいはそれを補いさらに深めるために,展示室 の展示を使って教育をうけるための解説や演習が ある . また小学校や上級学校教員を 目指す人 (特 にそのようなコ ースのある大学の 学生) , または すでに教員になった人でさらに専門性を深めよう とする人が,博物館の展示室を使った教育プログ ラムがある . (3)博物館外へのサービスでは,移 動博物館として4種類の展示が9つの都市の主に 図書館 ・ホール ・大きなショァピングセンターな どをまわり,展示期間は6週間である . また「箱 の中の博物館 (Box Service) J といって大きなジ ュラルミンケースに ,あるテーマに 基づいた ,標 本・パネル ・ゲーム ・クイズ ・ビデオテープ・カ セットテープなどが入っていて,これを小学校な どに貸し出す . (4)出版物サービスとして教育用 のポスター,パネル,小冊子等の印刷物を,つく る. (5)常設展,特別展,などの展示替えの時に ワーキンググループをつくり, 専 門的な知識をわ かりやすくリライトしたりする役割をはたす. この部の体制としては,大学で上級学校 (日本 の中学 ・高校にあたる) の教員免許を取得した人 により構成され,教育係が9人,プレパラーター が2人 ,Explainerとしての展示解説員が19人, M useum Guideとしての展示解説員が5人,ボラ ンテイアの展示解説員が

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人からなる .

Queensland M u s e u m (Brisbane) [ ホスト :Peter DavieJ 図5 D,E

自然、誌のほか,アボリジニの歴史などもあつか った総合博物館で, Brisbaneにある本館の他に

6つ の 分 館 (M useu m of Tropical Q ueensland,

M useu m of North W estem Q ueensland, C obb & Co. M useu m, Q ueensland Sciencentre, M useu m of

La

nds, Mapping and Surveying . W oodworks M u seu m) がある( 私が訪れたのは本館) . 甲殻 類の登録標本点数は2万2千ロットを越え,特に 十 脚 甲 殻 類 が 充 実 し て い る . 標 本 は 主 と し て Q ueenslandで採集されたものであるが,熱帯オ ーストラリア,アジア,西太平洋,インド洋産の 標本も数多くあり,古い物では1880年代からのも のがある. この博物館の無脊椎動物研究部門の特徴は,何 と言ってもその合理的な部屋の配置であろう . 研 究室と廊下をへだてて標本作成整理室があり,そ の奥が収蔵庫になって い る. 私が訪れた時には, 何人ものボランティアの人が,エビやカニのソー テイングをおこなっていたが,研究と標本化と収 蔵が一体となったスペースでおこなうことがで き,実に便利である . ( 千葉県立中央博物館)

図 1 National Museum 01  Natural History ,  Smithsonian Institution  (Washington ,  D. C
図 3 The Natural H istory Museum ,  London 司
図 4 University  of  Cambridge  (Cambridge) の研究 室の建物. 採集されたものである. その成果は 1903‑1906 年 に The Fauna and Geography of the Maldive and  Laccadive  Archipelagos  (全 2 巻) として出版され たほか, Transactions of the Linnean Society の Vol 氾 I‑ X¥弓 1 (1907‑1925 年発行) に多くの論文が 公表され
図 5 Western Australian Museum (Perth) 司 A: 展示室正面玄関司 B: 液浸標本. Australian  Museum (Sydney) 司 C: 正面玄関

参照

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