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アンドロゲン低下による骨盤底筋の萎縮と全身性運動効果の基礎的検証

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 47 巻第 5 号 385 ∼ アンドロゲン低下による骨盤底筋の萎縮と全身性運動効果の検証 392 頁(2020 年). 385. 研究論文(原著). アンドロゲン低下による骨盤底筋の萎縮と 全身性運動効果の基礎的検証* 吉 岡 潔 志 1)2)# 松 本 智 博 1) 中 村 晃 大 1) 土 屋 吉 史 1) 瀬 古 大 暉 1) 北 嶋 康 雄 1) 沢田雄一郎 3) 小 野 悠 介 1). 要旨 【目的】アンドロゲン低下による球海綿体筋・肛門挙筋の筋萎縮に対する自走運動の効果を検証し,併せ て,アンドロゲン低下による筋萎縮が他の骨盤底の筋にも共通する特徴であるかを検証する。【方法】3 ヵ 月齢雄性マウスを対象とし,去勢術を施す群,去勢術後に自走ケージで飼育する群,偽手術群に無作為に 分けた。手術から 8 週間後に,後肢筋および骨盤底筋の重量,筋線維直径を測定した。 【結果】後肢筋の 重量に 3 群間で差はみられなかった。球海綿体筋と肛門挙筋は去勢により顕著に萎縮したが,自走運動に よる変化は認められなかった。長趾伸筋の筋線維直径は去勢の影響を受けず,尿道括約筋では有意に小さ い値を示した。【結論】全身性の自走運動ではアンドロゲン低下による球海綿体筋,肛門挙筋の萎縮を抑 制することができなかった。また,アンドロゲン低下による筋萎縮は,骨盤底筋に共通して見られる,身 体部位単位での筋の特徴であることが示唆された。 キーワード メンズヘルス,アンドロゲン,骨格筋. 筋ジストロフィーをはじめとする遺伝性筋疾患におい. はじめに. て,病態発現部位は一様ではなく病型によって影響を強 7).  排泄制御機能の維持は QOL にとって重要である。排. く受ける身体部位が異なることが知られている. 泄制御には,おもに骨盤底に存在する筋(以下,骨盤底. 病態発現部位は,筋の使用頻度や速筋・遅筋といった既. 1‒4). 。この. 。効果的なリハビリテーション. 知の筋性質の違いでは説明することができず,身体部位. 介入の確立のためには対象となる筋の特性について理解. という単位で筋特性や筋の制御が異なっていることを示. する必要があるが,筋の生理学的知見の多くは四肢筋を. 唆している。身体部位単位の筋の違いは,発生期に遡る. 対象とした研究により得られたものである。近年,身体. ことができる。最もよく研究されているのは頭部中胚葉. 内の筋は均質ではなく,身体部位という単位で異なる特. 由来の頭部筋と,体節由来の四肢筋の違いである。これ. 筋)が関与している. 性をもつことが明らかにされつつある. 5)6). 。たとえば,. らの筋は発生期に必要な遺伝子発現が異なることが知ら れている. *. Castration-Induced Pelvic Floor Muscle Specific Atrophy and the Effect of Voluntary Wheel-Running Exercise 1)熊本大学発生医学研究所器官構築部門筋発生再生分野 (〒 860‒0811 熊本県熊本市中央区本庄 2‒2‒1) Kiyoshi Yoshioka, PT, MSc, Tomohiro Matsumoto, PT, PhD, Kodai Nakamura, PT, MSc, Yoshifumi Tsuchiya, PhD, Daiki Seko, MSc, Yasuo Kitajima, PhD, Yusuke Ono, PhD: Department of Muscle Development and Regeneration, Division of Organogenesis, Institute of Molecular Embryology and Genetics, Kumamoto University 2)株式会社 SENSTYLE 脳梗塞リハビリセンター熊本 Kiyoshi Yoshioka, PT, MSc: Rehabilitation Center for all customers with Stroke and Cerearovascular diseases Kumamoto Center 3)愛媛大学大学院医学系研究科泌尿器科学講座 Yuichiro Sawada, MD, PhD: Department of Urology, Ehime University Graduate School of Medicine # E-mail: [email protected] (受付日 2019 年 9 月 13 日/受理日 2020 年 2 月 13 日) [J-STAGE での早期公開日 2020 年 7 月 10 日]. 8‒11). 。また,成体においても頭部筋と四肢筋. は筋再生の速度が顕著に異なることが報告されてい る. 12). 。我々のグループでも発生起源の異なる頭部筋と. 四肢筋において,加齢やがんで見られる筋萎縮や筋再生 制御が異なっていることを示唆する結果が得られてい る. 13)14). 。このことは「年をとると筋は小さく弱くなる」. 「トレーニングをすると大きく強くなる」というような, これまで筋の特徴として受け入れられてきた教科書的概 念を覆すような違いが,発生起源・身体部位単位で存在 する可能性を示すものである。排泄制御に関与する骨盤 底筋においても,四肢筋とは異なる発生をしていること が報告されている. 15). 。このことから,成体内において.

(2) 386. 理学療法学 第 47 巻第 5 号. も骨盤底筋が四肢筋とは異なる特徴をもっていることが. の筋サンプルを用いた。術傷は縫合糸にて閉創した。. 予想され,骨盤底筋の特性を理解することは効果的なリ. Cast+Ex 群マウスは一日 9 km 程度走行していた(Data. ハビリテーション介入確立のために重要である。. not shown) 。これは過去の野生型マウスによる自走運.  男性の排尿障害と深いかかわりをもつ前立腺は,アン. 動を用いた他の研究と同程度の走行距離であり,手術の. ドロゲンの刺激を受け肥大することから,前立腺肥大症. 影響による自走ホイールの不使用がないことを確認し. や前立腺がんに対する有効な治療法として,睾丸摘出. た. や,薬剤を用いたアンドロゲン除去療法(Androgen. 動物実験委員会の承認を得て行った(承認番号;A30-. deprivation therapy;以下,ADT)が選択される. 16). 。. 23‒26). 。本研究は長崎大学動物実験委員会,熊本大学. 098, 1703161367-25) 。. 近年,ADT を選択した前立腺がん患者において,治療 開始後に肛門挙筋が萎縮することが報告された. 17). 。ま. 2.筋萎縮評価. た,マウスのアンドロゲン低下モデルにおいて,骨盤底.  手術から 8 週後に,後肢筋(前脛骨筋,長趾伸筋,腓. に存在する肛門挙筋および球海綿体筋は,後肢懸垂等の. 腹筋,足底筋,ヒラメ筋)および骨盤底筋(球海綿体筋,. 筋の廃用 / 脱負荷による筋萎縮モデルでは見られない. 肛門挙筋)の筋サンプルを回収し,筋重量を測定した。. ようなスピードで,劇的に萎縮することが知られてい る. 18)19). 。筋萎縮の防止には対象筋の運動が効果的であ. 3.筋線維単離 27). 。長趾. るが,骨盤底筋は患者自身が対象筋をイメージすること.  長趾伸筋と尿道括約筋の筋線維を単離した. が難しいことに加え,理学療法士による筋収縮の確認も. 伸筋の表層にある前脛骨筋を先に剥離し,筋に直接ピン. 患者への配慮と手技の双方の面で困難である。また,ア. セットが触れないよう起始腱と停止腱を剖出し,筋線維. ンドロゲン低下による肛門挙筋および球海綿体筋の萎縮. へ過度な張力がかからないよう後肢から取りだした。尿. は,筋の廃用や脱負荷が原因ではないことから,対象筋. 道括約筋は,尿道を輪状に取り囲むように存在してお. の運動ではなく『アンドロゲン低下の副作用』であるこ. り,尿道を 5 mm カットし尿道ごと取りだした。採取. と に 着 目 し た 介 入 方 法 が 有 効 で は な い か と 考 え た。. した筋を,0.2 % の Type I collagenase(Worthington). ADT によるアンドロゲン低下に起因する他の副作用と. を含む DMEM(Gibco)1.5 ml に浸し,37℃でインキュ. して,疲労感,筋出力低下,脂肪蓄積,骨量低下による. ベートした。インキュベート中,10 分ごとに転倒混和. 16)20). 。一. し溶液を浸透させた。長趾伸筋は 90 分,尿道括約筋は. 方,ADT を選択した前立腺がん患者に対する運動療法. 150 分インキュベートし,筋線維がほぐれたのを目視で. は,これらアンドロゲン低下による副作用の改善効果が. 確認した。筋線維の付着を防止するためにあらかじめ. あること,全身性の代謝に関与する各種血液指標におい. 5% BSA in PBS でコートした,深底 dish にほぐれた筋. 骨折リスクの増加等があり問題となっている. ても改善傾向がみられることが報告されている. 20‒22). 。. 線維を移し DMEM 中に浮遊させた。浮遊した筋線維を.  そこで本研究の目的は,睾丸摘出によるアンドロゲン. 実態顕微鏡下で観察しながら BSA コートしたパスツー. 低下モデルマウスを用い,アンドロゲン低下によって起. ルピペットでほぐしながら回収した。回収した浮遊筋線. こる肛門挙筋および球海綿体筋への,全身性の自発運動. 維は DMEM で希釈した 2% PFA(Nacalai tesque)に. による影響を検証することとした。併せて,骨盤底筋の. て固定した。. 性質を理解するため,アンドロゲン低下により劇的な筋.  尿道括約筋には様々な定義があり,大きくは,尿道を. 萎縮を呈するという,肛門挙筋・球海綿体筋の既知の特. 括約する平滑筋である内尿道括約筋と,横紋筋である外. 徴が,他の骨盤底筋にも共通するか否かについて検証. 尿道括約筋とに分けられる. した。. 横紋筋は多核の細胞なので,筋線維を形成する尿道括約. 対象および方法 1.睾丸摘出を用いたアンドロゲン低下モデルマウスの 作成. 28). 。平滑筋は単核の細胞,. 筋はすべて外尿道括約筋である。尿道の括約に関与する 横 紋 筋 は さ ら に, 骨 盤 底 筋 群(Pelvic floor muscle; PFM)からなる横紋筋の一部として尿道を括約する横 紋筋,および尿道壁自体を形成する横紋筋(Peri-urethral.  3 ヵ月齢の雄マウス(C57BL/6J)計 27 匹を用いた。. sphincter;以下,PUS)に分けられる。本研究で筋線. 麻酔下にて睾丸摘出術を施す Cast 群(7 匹)と,偽手. 維直径を測定したのは,骨盤底筋とは独立した,尿道壁. 術を施す Sham 群(7 匹) ,睾丸摘出術を施した後に自. 自体を形成する尿道固有の PUS である。. 走ホイール付きケージ(メルクエスト,RW-15s)で飼 育する群を Cast+Ex 群(8 匹)とし,以上の 3 群に無. 4.筋線維直径の測定. 作為に分けた(図 1-A)。また,遺伝子発現,タンパク.  Bungarotoxin(BTX, Thermo)により,筋線維の中. 質発現の評価には手術を行わない非介入の個体(5 匹). 央部に 1 ヵ所だけ存在する神経筋接合部を染色した。各.

(3) アンドロゲン低下による骨盤底筋の萎縮と全身性運動効果の検証. 387. 図 1 各群マウスの体重,体重比握力,体重比筋重量 A)各群の模式図.3 ヵ月齢雄性マウスに偽手術を施した Sham 群と,去勢術を施した Cast 群を作成した. 術後に自走ホイールケージで飼育した Cast 群を Cast+Ex 群とした (Sham; n = 7, Cast; n = 7, Cast+Ex; n = 8) . B)各群の体重を示す.***; p < 0.001 vs Sham, ##; p < 0.01 vs Cast.C)各群の体重比握力を示す.後肢筋お よび骨盤底筋の体重比筋重量.測定したすべての後肢筋で群間に有意差はみられなかった.D)各群の体重比 筋重量を示す.Cast 群,および Cast+Ex 群の骨盤底筋(肛門挙筋,球海綿体筋)の体重比筋重量は,Sham 群と比較し有意に小さい値を示した.****; p < 0.0001 vs Sham, n.s.; not significant, mean ± SEM.各プロッ トは個体の値を示す.E)球海綿体筋および肛門挙筋の代表例を示す.Scale bar = 5 mm.. 筋線維の中央部を顕微鏡(Olympus)にて撮影し,神. ments)を用いた。マウスに測定グリップを前肢手部に. 経筋接合部の両端から 100 μ m の点 2 ヵ所で筋線維直径. て把持させ,尾部を牽引し,測定グリップを離した際の. を測定し,その平均値を一本の筋線維直径とした。筋線. ピークのトルク値(N)を記録した。測定は 5 回 3 セッ. 維直径はマウスから 30 本測定し平均値をその個体の筋. ト行い,最大値を各個体の握力とした。. 線維直径とした。 6.遺伝子発現評価 5.筋機能評価.  3 ヵ月齢の雄マウス(C57BL/6J;非介入)の前脛骨筋,.  前肢握力の測定は,Fujita らの方法を一部改変し行っ. 長趾伸筋,球海綿体筋,肛門挙筋,尿道括約筋のサンプ. た. 29). 。 測 定 に は 小 動 物 用 握 力 計(Columbus Instru-. ルを回収した。Isogen II(ニッポンジーン)を用いて.

(4) 388. 理学療法学 第 47 巻第 5 号. RNA を抽出し,ReverTra Ace kit(Toyobo)を用いて cDNA を合成し,遺伝子発現解析サンプルを作成した。. 結   果. Real-time qPCR を,Thunderbird SYBR quantitative.  体重は Cast+Ex 群で有意に小さな値を示した(図. PCR mix(Toyobo)および,CFX96 Touch real-time PCR. 1-B) 。各群で体重比握力の差は認められなかった(図. detection system(Bio-Rad)を使用して行い,検量線法に. 1-C, p > 0.05) 。体重比筋重量は,後肢筋(前脛骨筋,長. て定量した。ターゲット遺伝子特異的なプライマーは以. 趾伸筋,腓腹筋,足底筋,ヒラメ筋)においていずれの. 下のものを使用した。TATA box binding protein [forward. 群間にも差は認められず,骨盤底(球海綿体筋,肛門挙. 5’-CAGATGTGCGTCAGGCGTTC-3’ and reverse. 筋)の筋では Cast 群,Cast+Ex 群ともに Sham 群と比. 5’-TAGTGATGCTGGGCACTGCG-3’]; Androgen receptor. べ有意に小さい値を示した(図 1-D, p < 0.0001) 。また,. [forward 5’-CAGGAGGAAGGAGAAAACTCCA-3’ and. Cast 群と Cast+Ex 群の間に後肢筋,骨盤底筋すべてで. reverse 5’-ATTGACAAGGCAGCAAAGGAATC-3’].. 有意な差は認められず(図 1-D, p > 0.05) ,全身性自発 運動による骨盤底筋萎縮への影響はみられなかった。. 7.タンパク質発現解析.  尿道括約筋は尿道を取り囲むように存在しており(図.  プロテアーゼ阻害剤(ナカライテスク,04080-24)を. 2-A),筋重量の測定が困難である。そこで,四肢筋で. 含む RIPA バッファー(Wako,182-02451)を用いて,. ある長趾伸筋と併せて筋線維を単離し,各群の筋線維直. BioMaseher II(ニッピ)にて筋組織をホモジナイズし. 径を計測し比較した。長趾伸筋の筋線維直径は,Sham. た。遠心分離を 12,000 g,4℃にて 10 分行い上清を回収. 群と Cast 群の間で有意差は見られなかった(図 2-C,. した。BCA protein assay kit(Thermo Fisher Scientific). Sham 群,56.4 ± 1.6 μ m;Cast 群,53.9 ± 1.4 μ m, p >. にてタンパク質濃度を測定し SDS-PAGE 用サンプル. 0.05) 。一方,尿道括約筋の筋線維直径に有意差がみら. バッファー(ナカライテスク)にて 2 μ g/μ l のタンパク. れ,アンドロゲンシグナル低下による顕著な筋萎縮が確. 質サンプルを作成し,熱変性(95℃,5 分間)を行った。. 認 さ れ た( 図 2-D,Sham 群,35.6 ± 1.0 μ m;Cast 群,. ミニプロティアン TGX ゲル(Bio-Rad, 4561086)にて. 23.4 ± 2.0 μ m, p < 0.001)。. 電気泳動によりタンパク質サンプルを分離後,トランス.  骨盤底筋がもつアンドロゲンシグナルの感受性の高さ. ブロット Turbo ブロッティングシステム(Bio-Rad)に. の原因を探索するため,非介入マウスを用いて,骨格筋. より PVDF 膜(Bio-Rad, トランスブロット Turbo)へ. 間のアンドロゲンレセプター(以下,AR)の遺伝子発. 転写した。スキムミルク(5% in TBS-T)にてブロッキ. 現量を qPCR にて検出した。球海綿体筋と肛門挙筋の. ング後,一次抗体反応(4℃,overnight) ,および HRP. 遺伝子発現は,四肢筋である前脛骨筋,長趾伸筋よりも. 標識二次抗体反応(室温,60 分)を行い,化学発光検. 有 意 に 大 き な 値 を 示 し た( 図 3-A, vs 前 脛 骨 筋,p <. 出を行い,CCD カメラ(GE ヘルスケアジャパン)にて. 0.00;vs 長趾伸筋,p < 0.0001) 。一方,尿道括約筋と前. 検 出 さ れ た バ ン ド の 撮 影 を 行 っ た。 一 次 抗 体 に は,. 脛骨筋,長趾伸筋の間に有意差は認められなかった(図. Rabbit anti-androgen 抗体(Abcam, ab3509)を,二次. 3-A, p > 0.05) 。次に,AR タンパク質発現量をウエスタ. 抗体には anti-rabbit IgG, HRP-linked 抗体(CST, #7074). ンブロットにて検出したところ,尿道括約筋の AR タン. を用いた。タンパク質発現解析の補正に用いられる. パク質発現は他の筋と比較し顕著に高かった(図 3-B, p. Tubulin を mouse anti- β Tubulin 抗体(Abcam, ab11309). < 0.0001) 。球海綿体筋,および肛門挙筋は四肢筋と比. にて検出したが,Tubulin のタンパク質量は身体部位の. 較し,AR タンパク質発現量が高い傾向にあるものの有. 異 な る 筋 組 織 間 で 大 き く 異 っ て い た た め(data not. 意差は認められなかった(図 3-B, p > 0.05) 。. shown)補正はメンブレン上の総タンパク質量を検出し て行った。メンブレン上に転写された総タンパク質量. 考   察. の検出には Pierce reversible stain kits for membranes.  本研究において,睾丸摘出によるアンドロゲン低下モ. (Thermo scientific)を用いた。取得した画像の解析は. デルマウスを用い,筋応答の身体部位による違いを検証. 画像解析ソフト Fiji(NIH)にて行った。. した。睾丸摘出から 8 週間後に,球海綿体筋,肛門挙筋 は劇的に萎縮した。これまでに,AR のノックアウトマ. 8.統計. ウスにおいても,球海綿体筋や肛門挙筋の重量が,顕著.  2 群間の比較には対応のない T 検定を,多群間の比較. に低値を示すことが報告されており. には一元配置分散分析を用い,有意差を認めた場合に. られた結果は,睾丸摘出術によるアンドロゲンシグナル. は,多重比較検定に Tukey の方法を用いた。統計処理. 低下に起因するものと考えられる。一方で,四肢筋の筋. には,GraphPad Prism8(MDF)を用いた。有意水準. 重量については,アンドロゲンシグナル低下モデルマウ. は 5% とした。. スにおいてわずかに萎縮するという報告. 5)18). ,本研究で得. 5)18). と,変化.

(5) アンドロゲン低下による骨盤底筋の萎縮と全身性運動効果の検証. 389. 図 2 去勢による単離筋線維の直径の変化 A)尿道括約筋の模式図.尿道を輪状に取り囲むように存在している尿道固有の横紋筋を単離した.B)単離 した Sham 群,Cast 群から単離した代表的な単離筋線維画像.PH, phase contrast; DAPI, BTX; bungarotoxin のマージ画像を示す. BTX により染色された区間をブラケットで示す.Scale bar = 50 μ m.C, D)長趾伸 筋と尿道括約筋の Sham 群と Cast 群の筋線維直径.各プロットは一本の筋線維直径を表し,棒グラフは個体 の平均値を表す.各群の平均値を下に示す(n = 4).***; p < 0.001, n.s.; not significant, mean ± SEM.. 図 3 アンドロゲンレセプター(AR)の遺伝子およびタンパク質の発現解析 A, B)非介入の野生型マウスから筋サンプルを採取した.A)AR の遺伝子発現量(n = 5).前脛骨筋の平均 値に対する比で表す.**; p < 0.01(vs 前脛骨筋),†††; p < 0.01(vs 長趾伸筋),#; p < 0.05(vs 尿道括約筋) B)ウエスタンブロットによる AR タンパク質発現解析の典型例と定量データ(n = 5).前脛骨筋の平均値に 対する比で表す.***; p <0.001(vs 尿道括約筋),mean ± SEM.. がないという報告 9)30)があるが,球海綿体筋・肛門挙. 本研究では,四肢筋では去勢による変化は見られず,球. 筋と四肢筋の萎縮率に大きな差があることは一致した見. 海綿体筋と肛門挙筋では筋重量が顕著に低下するという. 解となっている。また,筋出力については骨格筋特異的. 結果が得られた。. な AR ノックアウトマウスの四肢握力が 7% 低下すると.  骨格筋は全身に分布しているが,身体部位という単位. いう報告がある. 31). 。本研究で用いた 3 ヵ月齢で作成し. で性質の違いが存在することが近年の研究により示唆さ 13)14). 。身体部位単位での筋特性の違いは,発. た去勢モデルでは,発生から成長期にかけての AR シグ. れている. ナルの影響はなく,筋の成長には四肢筋であってもアン. 生時に獲得していると予想される。骨盤底筋と後肢筋は. ドロゲンシグナル欠損の影響があることが考えられる。. どちらも体節より発生する。後肢筋の前駆細胞は遠位に.

(6) 390. 理学療法学 第 47 巻第 5 号. 向かって遊走し,左右の後肢筋を形成する。一方で,骨. 加え,アンドロゲンシグナルに関与する他のパスウェイ. 盤底筋の前駆細胞は,左右の肢芽から中央に向かって遊. についても,骨格筋ごとに検証していく必要があり,今. 走し,体軸中央部で筋を形成する. 15). 。球海綿体筋と肛. 後の検討課題である。. 門挙筋は図 1-E で示すように連結した筋であり,直腸を.  ADT による種々の副作用に対して運動療法が効果的. 取り囲んでいる。球海綿体筋と肛門挙筋がもつ『アンド. であることがこれまでに多く示されている. ロゲンシグナル低下により劇的に萎縮する』という既知. 究で,全身性の自発運動による球海綿体筋および肛門挙. の筋特性が,骨盤底という身体部位単位で共通するもの. 筋の萎縮への影響を調べたが,睾丸摘出による劇的な筋. か否かを検証するため,発生期に同様に形成される尿道. 萎縮を抑制することはできないという結果に至った。骨. 括約筋の応答を調べた。尿道括約筋は,尿道内に存在し. 盤底・骨盤周囲の筋を対象とした運動療法による介入. ており,筋重量測定が困難である。そこで,筋線維を単. は,特にウィメンズヘルスの領域で積極的に行われてい. 離し,筋線維直径を測定したところ,長趾伸筋では群間. る。骨盤底筋トレーニング(Pelvic floor muscle training;. に差が見られなかった一方で,Cast 群の尿道括約筋は. 以下,PFMT)は尿失禁のリスク軽減に効果があるとさ. Sham 群と比較し有意に低値を示した。直径の変化を体. れているものの,集団アプローチによる PFMT の費用. 積の変化に換算すると,尿道括約筋の直径減少は,劇的. 有効性については懐疑的である. な筋萎縮であるといえる。以上より,アンドロゲン低下. トレーニングの際に骨盤底および骨盤底筋を意識するこ. によって顕著な萎縮を示すという応答は,直腸を取り囲. とが難しく,対象者が多くなる場合には介入者による骨. む球海綿体筋および肛門挙筋だけの特徴ではなく,骨盤. 盤底筋意識づけのための個別指導時間が十分に確保でき. 底・会陰部という身体部位単位での筋特性であることが. ない可能性が考えられる。骨盤底筋群の意識的な収縮の. 示唆される結果が得られた。. 難しさは問題となっており,これまでにも PFMT 時のバ.  これまでに,球海綿体筋と肛門挙筋の AR タンパク質. イオフィードバックによる効果が検討されている. 20‒22). 。本研. 1)2). 。その原因として,. 35)36). 。. 32). 本研究においても対象筋を絞った介入が必要であること. 本研究では,有意差はみられなかったものの四肢筋と比. が示唆された。対象となる骨盤底筋を明確に絞って介入. 較し高い傾向がみられた。また,球海綿体筋と肛門挙筋. することと併せて,四肢筋とは異なる骨盤底 / 骨盤底筋. は,四肢筋と比較し AR の遺伝子発現が高かったが,予. がもつ性質の解明と理解を今後進めていくことは,よ. 想に反し尿道括約筋の AR 遺伝子発現は四肢筋との違い. り効率的なリハビリテーション確立への一助となると考. が見られなかった。さらに興味深いことに,尿道括約筋. える。. 発現が四肢筋と比較し高いことが報告されている. 。. の AR タンパク質発現量は,球海綿体筋 / 肛門挙筋と比 べても非常に高いことが明らかとなった。本研究では,. 結   論. アンドロゲンシグナル低下による劇的な筋萎縮を呈する.  運動には ADT による副作用に対し様々な陽性的効果. という特徴は骨盤底筋で共通しているものの,AR の遺. があることがこれまでに報告されているが,全身性の運. 伝子発現,タンパク質発現には骨盤底筋間でも大きな差. 動ではアンドロゲン低下による骨盤底筋の萎縮を抑制す. があり,単純にこれらの四肢筋との差が,骨盤底筋のア. ることができず,対象筋を直接のターゲットとする筋力. ンドロゲンシグナルへの感受性が高いという特徴を決定. トレーニング等の介入を検討する必要があることを示唆. しているわけではないことが示唆された。AR は細胞質. する結果が得られた。また,アンドロゲン低下モデルマ. でリガンドと結合し,核内移行し,アンドロゲン受容体. ウスの球海綿体筋や肛門挙筋でみられる劇的な筋萎縮は. 33). 尿道括約筋においても見られたことから,アンドロゲン. よって,AR が細胞内のどこに存在しているか,という. シグナルに対する高い感受性は,骨盤底という身体部位. 点がアンドロゲンシグナル応答を詳細に調べる際に必要. 単位で共通した筋特性であると考えられる。身体内の筋. となる。本研究では,定常時の骨格筋間の特徴の違いを. を一様なものと捉えるのではなく,骨盤底特異的な筋特. 比較するため,遺伝子・タンパク質発現は非介入マウス. 性をさらに解明していくことは,メンズヘルス・ウィメ. で調べたが,アンドロゲンシグナル低下時の変化が異な. ンズヘルス領域のリハビリテーション介入にとって貴重. る可能性や,筋サンプルを組織全体で採取しており,筋. な知見となる。. 結合配列に結合して種々の遺伝子発現を調節する. 。. 組織に含まれる他の細胞の影響があった可能性が考えら れる。また,AR タンパク質特異的なユビキチンリガー ゼである Skp2 により,ユビキチン化を介してその量が 調節されているという報告もある. 利益相反  本研究に関連する,開示すべき利益相反はない。. 34). 。四肢筋と骨盤底. 筋でみられた筋応答の違いを明らかにしていくには,こ. 謝辞:本研究の一部は,日本理学療法士協会の「平成 30. れら因子による調節が身体部位によって異なる可能性に. 年度理学療法にかかわる研究助成」を受けて実施した。.

(7) アンドロゲン低下による骨盤底筋の萎縮と全身性運動効果の検証. 文  献 1)Woodley SJ, Boyle R, et al.: Pelvic floor muscle training for prevention and treatment of urinary and faecal incontinence in antenatal and postnatal women. Cochrane Database Syst Rev. 2017; 12: CD007471. 2)Dumoulin C, Hay-Smith J, et al.: Pelvic floor muscle training versus no treatment, or inactive control treatments, for urinary incontinence in women: A short version Cochrane systematic review with meta-analysis. Neurourol Urodyn. 2015; 34: 300‒308. 3)Dorey G: Restoring pelvic floor function in men: review of RCTs. Br J Nurs. 2005; 14: 1014‒1021. 4)Goonewardene SS, Gillatt D, et al.: A systematic review of PFE pre-prostatectomy. J Robot Surg. 2018; 12: 397‒400. 5)Harel I, Nathan E, et al.: Distinct Origins and Genetic Programs of Head Muscle Satellite Cells. Dev Cell. 2009; 16: 822‒832. 6)Widmer CG, Morris-Wiman J: Limb, respiratory, and masticatory muscle compartmentalization. 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(8) 392. 理学療法学 第 47 巻第 5 号. 〈Abstract〉. Castration-Induced Pelvic Floor Muscle Specific Atrophy and the Effect of Voluntary Wheel-Running Exercise. Kiyoshi YOSHIOKA, PT, MSc, Tomohiro MATSUMOTO, PT, PhD, Kodai NAKAMURA, PT, MSc, Yoshifumi TSUCHIYA, PhD, Daiki SEKO, MSc, Yasuo KITAJIMA, PhD, Yusuke ONO, PhD Department of Muscle Development and Regeneration, Division of Organogenesis, Institute of Molecular Embryology and Genetics, Kumamoto University Kiyoshi YOSHIOKA, PT, MSc Rehabilitation Center for all customers with Stroke and Cerearovascular diseases Kumamoto Center Yuichiro SAWADA, MD, PhD Department of Urology, Ehime University Graduate School of Medicine. Purpose: Pelvic floor muscles play an important role in excretion control and thus maintaining their function is crucial to quality of life. The aim of this study was to examine muscle atrophy in a mouse model of androgen deprivation and the effect of voluntary wheel-running exercise on pelvic floor muscles. Methods: Castration and sham-operation were performed on 3-month-old male mice (C57BL/6J). Castrated mice were randomly housed in cages equipped with a running wheel. After 8 weeks from the operation, muscle samples were collected from limb and perineal (Limb muscles: tibialis anterior, gastrocnemius, extensor digitorum longus, plantaris and soleus. Perineal muscles: bulbospongiosus and levator ani). Myofibers were isolated from extensor digitorum longus and peri-urethral sphincter and the diameters were measured. Results: Castration significantly decreased perineal muscles’ mass and myofiber diameter of periurethral sphincter, whereas limb muscles were not affected. Voluntary wheel-running exercise cannot ameliorate castration-induced muscle atrophy in pelvic floor muscles. Conclusion: Whole-body exercise cannot prevent pelvic floor muscle loss caused by androgen deprivation and thus it is suggested that target-muscle-specific training needs to be considered for the intervention. Key Words: Men’s Health, Androgen, Skeletal Muscle.

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