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テレビニュースの流れにおける海外特派員の役割 : 韓国の日本支局特派員の事例研究

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SUMMARY

  Key Words: Gate Keeper, Foreign Correspondent, Oversea News Report, Broadcasting in South Korea

  The purpose of this study is to focus on the foreign correspondent in Tokyo who works for a major South Korean TV network. At a semi-structured interview, the correspondent was asked about his daily activities as a broadcaster with respect to the international flow of information from Japan. It was found that the correspondent tended to choose topics on politics and economics in response to requests from superiors at the news desk of the network. As the middle person in this routinized process, the correspondent acted as a gatekeeper, selecting and relaying topics from Japan to the South Korean audience.

  How those media outlets choose and report topics is a reflection of the lasting effects to mutual national images of the colonization of the Korean peninsula by Japan until the end of World War II. For the South Korean news media, monitoring and repor ting on the actions and comments by Japanese statesmen concerning worshipping at Yasukuni Shrine, revisionism in schoool textbooks, or territorial issues seem to be a high priority in selecting news reports about Japan for a Korean audience. In the daily foreign reports of Korean news programs, this kind of close observation and reporting about Japan is second only to reporting on matters related to the United States.

テレビニュースの流れにおける海外特派員の役割

 ― 韓国の日本支局特派員の事例研究 ― 

長 谷 川 倫 子

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第 1 章 はじめに

 本論は,国家間の情報の流れの諸問題を考える一環として,海外に派遣されその国で収集 したニュースを本国に伝える役割を担う海外特派員の活動の実態に焦点をあてて考察するこ とを意図している。これはまた,200 年から,本学の国際コミュニケーション研究所 (Center for International Media Communication Studies=CIMS)において継続されている研 究の一環でもある。CIMS ではメディアのグローバル化が実感させられる今日においても, 国家間の情報の流れにおける格差の問題は解決策が容易に見つけられない問題であり,情報 発信のあり方は,その国家に対するイメージの形成に大きな役割を担っているという問題意 識を出発点に,外国の報道機関の特派員として日本発の情報を伝えている人びとの実態その ものを把握しようとする調査が実施されている1)  まずは,日本新聞協会のデータを用いて日本における海外特派員の実態を人員配置の数字 から概観することにしよう。図表 1 は,日本でジャーナリズム活動を行う海外特派員と日本 図表 1 出身・派遣地域別にみた海外特派員 %(人)  地 域 日本に滞在する海外特派員海外→日本 海外に駐在する日本人特派員日本→海外 北 米 2.2() 2.2(1) ヨーロッパ 0.(2) 2.(11) アジア 1.(1) .(20) オセアニア・南米・ アフリカ・中東 2.( 2) .( 1) 100.0(2) 100.0(00) 出典:日本新聞協会『日本の新聞 200 DATA BOOK』(社団法人日本新聞協会,200    年)1―21 頁より作成

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から外地に派遣されている特派員を,各出身地・派遣先地域ごとに比較したものである2) これをみると,日本から外地へ派遣されているジャーナリストは,北米,ヨーロッパ,アジ ア地域に集中してはいるものの,それぞれの地域に万遍なく特派員が派遣されていることが わかる。また,それとは対照的に日本で外国の報道機関に働くものたちをみると,欧米出身 者がその数では圧倒していることがわかる。  これはどの国を見ても,国際報道においてはロイター,AP などの欧米の報道機関がその カバーする地域や,取材スタッフの数,活動の規模や,送信される記事量においても凌駕し ているという実情を反映したものである。しかしながらその一方で,アジア諸国においては, 双方から特派員が派遣されていることもここからはわかる。これらは,欧米の報道機関から 送出される記事が量的には圧倒してはいるものの,それと並行して,アジア地域においては, それぞれの国家間でそれぞれのニュース・フローのルートが確立され,それぞれの国内にマ ス・メディアのマーケットが形成されることで,それぞれの国民のニーズにあった国外情報 が,アジア地域内で行き交うさまを示唆するものである。このような状況はまた,広い国土 と多民族・多民族から構成され国内の情報でさえ欧米のメディアに依存しなければならない というような国の情報環境とは異なり,中国をはじめ,各国の経済発展が目覚しいアジア地 域の相互関係の特異性を感じさせられるものでもある。  本学の国際コミュニケーション研究所では,200 年の 12 月に日本在住の海外報道機関の 特派員を対象者としたアンケート調査を実施した)。日本の情報発信のあり方を問う上で, ジャーナリズム活動を行う海外特派員の果たす役割の重要性に着目して作成された調査票で は,日本から海外にむけて情報発信の役割を担う海外特派員たちの日頃のジャーナリズム活 動の実態に加え,ジャーナリストとしてのキャリア形成過程,これまでの職歴,日本でのジ ャーナリズム活動を通して感じていることなども尋ねた。  さらに,この調査票の巻末には自由回答欄があり,この欄のアジア地域の報道機関から派 遣されている特派員たちのコメントには示唆に富むものが散見された。それらは,日頃のジ ャーナリスト活動を左右する日本の情報公開の実情や,記者クラブのような日本のジャーナ リズム土壌の閉鎖性などを指摘してくれたものが大半を占めていた欧米のジャーナリストた ちのものとは異なり,同じアジア地域でジャーナリズム活動を行うものとして感じ取ったこ とを率直に表現するものであった。  ある特派員は「日本の経済と国力は本当に強いと感じます」と述べており,また「日本の 流行文化,電化製品に興味を持っているので特派員として日本社会のいろいろな方面に触れ て取材活動は楽しい」という感想もあった。「情報大国といわれる日本であるが,閉鎖的で, 情報操作も感じる。各省庁の対外情報開示も進んでいない上に,欧米系とアジア系への対応 の差に加え,アジアの中をみても中国に断然優位を感じる」と,アジアの視点からの日本に 対する辛口のコメントもあれば,「相対的にみてより言論の自由はある」(中国系メディア)

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といった,自国の状況と照らし合わせた率直な意見もあった。中でも,日本の対アジア外交 とそれに対するアジア諸国の反応とのギャップを実感させられる機会の多いジャーナリスト としての意見であろうか,「ほとんどの日本人は歴史を知っていないため,歴史問題におい て他国の国民の感情を理解できない」というものは印象的であった。  また,これらアジア諸国出身の特派員からの意見は,そのほとんどが正確な日本語で書か れており,意見の大半が英語によるもので占められていた欧米のジャーナリストたちのもの とは,この点に関しても対照的であった。アジア諸国から派遣されている特派員の日本語能 力の確認は,派遣元の報道機関がホスト国をどう捉えているかを示すものであり,言語から みた国家間の関係性についても示唆に富むものであった。  200 年  月に中国で起きた反日デモは,中国の対日観を実感させられる出来事であったが, この事件に対する諸外国の主要新聞の論調を比較すると,欧米とアジア地域の新聞は異なっ た反応を示していたことがわかる。海外立法情報調査室が世界の主要な新聞の論調を調べた 調査報告書によれば,欧米の新聞は日本の歴史教科書問題,小泉首相の靖国参拝などの歴史 感覚の欠如と近隣諸国の感情を理解していないという問題点を指摘しながらも,中国側が, 意図的に容認ないし利用した点も指摘し,その外交姿勢への懸念や両国の関係悪化の要因を 冷静に分析している。それとは対照的に,アジア地域の新聞の論調は,日中関係の悪化を懸 念しつつも,日本の歴史認識が引き起こした問題であるという論点が中心となる論調が多く 見られたという)。この出来事は日本人の中国イメージに多大な影響を与えるものであった が,日本からの情報発信のあり方についても考えさせられる機会ともなった。内閣府大臣官 房政府広報室が 200 年の 10 月に日本で実施した世論調査の結果では,日本の対外広報に関 して,「諸外国の対日理解には誤解や理解の不十分な面がある」としているものが . パー セント,「諸外国の対日批判に関する反論に不十分な面があるから」としているものが 2.2 パーセントであった。これらは,外国の対日観に影響を及ぼす日本からの情報発信のあり方 に対して何かが必要であるというのが今の日本人の共通認識であることを再確認させられる 数値でもある)。歴史的な経過や地理的な要因からみて,日本にとってこれからのアジア諸 国に対する情報発信は最重要課題であるにもかかわらず,これまでにアジア地域の特派員に 焦点をあてた先行研究が見当たらないことは,本研究でアジア地域をとりあげる根拠の一つ となった。  上記のような経過を経て,ここではケース・スタディとして韓国の放送局のニュース報道 の事例を取り上げ,韓国の放送局の特派員に対してインタビューを実施した。ニュース・フ ローの視点から日本在住の特派員に焦点をあてる理由の一つは,テレビのニュース番組が, 限られた放送時間枠とその中で取り上げるニュース項目の量的な希少性と,それが送り手の ニュース・バリューを反映したシンボリックなテクストであるだけでなく,国内の最大公約 数の視聴者に世界の出来事を伝えるという役割をもつという点である。どのようなメッセー

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ジがどのようなプロセスを経て,受け手に到達するのかというニュース・フローのあり方を 問うことはまた,アジアに対する日本からの情報発信のあり方を考えるきっかけにもなるだ ろうと考えた。  今日のテレビニュース番組の実情をみると,どのテレビ局も,終日にわたり複数の放送時 間枠を設けており,ほぼ同じ内容のビデオ・クリップが,繰り返し放映されている。また, インターネットの普及によって,視聴者が放送局のウエブサイトにアクセスし,これを何度 も繰り返し視聴することが可能となり,もはやテレビのニュースクリップは一過性のもので はなく,限定的ではあるものの繰り返し視聴が可能な記録メディアとなった。この意味にお いて,テレビ・メディアが国民の意識を補強し統合する側面は強化されているといえるだろ う。韓国を取り上げた理由としては,IT 化を遂げた先進国であり,テレビの普及率や放送 局のネットワーク形成状況などにおいても,日本との比較分析が容易であるという点が挙げ られるが,本論では,韓国の放送の現状についてもふれる。  今回の調査方法としては,アウトレットの内容分析など,さまざまなアプローチが考えら れたが,韓国の大手テレビ局の東京特派員から調査協力を得られたこともあり,インタビュ ーを実施し,本論文ではその結果をまとめることにした。現在進捗中のプロジェクトとして, 日韓のニュース番組の比較研究も並行的に行っているが,調査協力のタイミングから,特派 員の調査を先に実施することにした。このようなアプローチは,コミュニケーション学の分 野では,10 年にホワイト(White)が,アメリカの地方新聞の編集局での参与観察によっ て,ニュース素材の選別の実態を扱ったゲートキーパーの研究がその嚆矢とされている。  日本においてこれまでに実施された国際報道の視点からのテレビニュースの研究としては, 武蔵大学で 1 年以来,10 年ごとに国際テレビニュースの比較分析が行われているものが ある)。このプロジェクトにおけるニュース分析の対象は,日本,アメリカ合衆国,英国, ブラジルのニュース番組であり,アジア地域の国のニュース番組は含まれていない。また, ニュースの分析にディスコース分析)という新しいニュース・テクストの分析方法の実践を 試みている伊藤ら(200 年)の研究も,ニュース分析の一つの方法として興味深いアプロ ーチである。しかしながら,これまでの国際報道や国際ニュース研究の対象は,あくまでも テレビや新聞のアウトレットの数量的分析やテクスト分析をベースにそこから放送の実情を 探るという方法を踏襲しており,ニュース素材が現地でどのように集められ,どのような編 集プロセスを経て,ニュース・テクストとして作り出されていくかを明らかにした先行研究 はあまり多くない。その理由の第一は,ニュース・ルームや海外支局,ゲート・キーパーの 役割を果たす海外特派員の研究は,関係者以外のものが調査協力を得る機会は皆無という調 査実施の困難さという一言に尽きるだろう。アジア地域に焦点をあて,また先行研究の少な いテレビニュースの送り手研究であるという点は,そのインタビュー調査が実現可能になっ た時点で,大いにその意義を見出すことができた。

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 本稿は以下のような構成となっている。ます第 2 章では,これまでのニュースの流れの国 家間格差に関する先行研究をたどった。これまでの研究の経過を追うことで,本調査の前提 となるコミュニケーション研究の領域における研究課題を確認した。次に第  章では,本調 査で韓国の報道機関を調査対象とした根拠となるべく,韓国メディアを扱ったこれまでの先 行研究をたどり,また韓国の放送の実情にもふれた。第  章では,ニュースの流れの研究, 日本からの情報発信,韓国における日本報道における海外特派員の役割などの視点から,今 回実施したインタビュー調査の結果を詳述する。 第 2 章 問題意識と先行研究  ニュース報道における国際情報の流れの研究は,第二次世界大戦後にメディアのあり方を グローバルな視野で問う必要性が叫ばれるようになってから本格化した。その中でも,この ような研究の嚆矢でもあり特筆に価するのは,マックブライド委員会が国際的なニュースの 流れにおける情報格差を明らかにし,その打開策を探ることを意図した試みであった)  これは,海外情報の入手を欧米の通信社に依存せざるを得ない状況にあり,災害や紛争な ど極限的な出来事以外は先進国のメディアに登場する機会がほとんどないという状況にある 第三世界の国々から情報格差の是正を求める声からによるものであった。全世界を見渡すと, 国際報道におけるニュースの供給は欧米の大手通信社などの報道機関の寡占状況にあり,自 国のメディアが独自に国外ニュース用の素材を海外から入手することが困難であったり,自 国の利益やメディアの受け手の関心を優先する大国のメディアの関心をそそらない弱小国に とっては情報発信やメディアによって自国のイメージをアピールしたりことが容易ではない 状況にある。  南北問題ともかかわる国家間の情報の流れのギャップの問題は,グローバル化がすすみメ ディア環境が大きく変貌を遂げつつある今日においてもいまだに解消されない課題であると いえるだろう。結局打開策を見出せなかったマックブライド委員会の提言ではあったが,メ ディアのグローバル化の進んだ今日においても,情報格差の問題はメディア研究者の間で共 通認識とされている。  国家間の情報の流れが,必ずしも均一的なものではないことを実証する研究やその理由や メカニズムを解明しようとするこれまでの研究としては,国家体制のありかた,ゲート・キ ーパーの活動の実態やその役割,ニュース選別に影響を与えるニュース・バリュー,情報の 流れを左右する要因としての国家間の文化的類似性などさまざまなアプローチの方法がこれ までの研究で提示されている)  情報の格差を実証する方法として,これまでに採用されてきた方法は,新聞や雑誌などに 掲載されたニュースの内容分析によって,数量的に比較することで検証する方法である。そ

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の最も代表的なものは,ガーブナー(Gerbner)とマーバーニー(Marvanyi)が,世界の主 な国を代表する新聞の海外に関する記事を計測して比較したものである10)。その結果はま た,情報量を面積で表した地図として表示され,実際の世界地図との比較により,現実の世 界とは食い違ったものとなることを示し,国家間の情報格差の存在を明らかにした。  このような分析方法は,個々の国家間のニュースの流れの比較へと展開していく。 1年にハート(Hart)が,アメリカとカナダの主要新聞  紙をそれぞれ選び,海外ニュ ースのスペースとその中で,お互いの国の記事がどのくらい出現するかと比較したものがあ るが,カナダの新聞におけるアメリカに関する記事の占める割合は高いのに対して,アメリ カの新聞の中で,カナダの占める記事は少なく,先進国間にもその情報量に格差があること を実証している11)。また,一連の先行研究のなかで,アジア地域に焦点をあてたものは,極 めて少ないが,ジファード(Giffard)が 10 年に,発展途上国と先進国に区別してアメリ カの通信社が発信する記事を比較したものによれば,アジア地域から発信される記事は全体 の 2 パーセントを占めていたが,その  分の 1 は日本からの記事であったことが明らかに なっている12)。テレビにおける国家間格差を調べたものとしては,ラーソン(Larson)が, 12年から 11 年にかけてアメリカの各三大ネットワークで扱うニュースを国ごとに集計 し,出現頻度の高い国からランク付けを行い比較したものがある1)。これによれば,最も言 及される頻度が高いのは,自国のアメリカであり,ABC の扱ったアメリカ合衆国に関する トピックは全体のは .0 パーセント,CBS は 0. パーセント,NBC は . パーセントと 圧倒している。このリストの中における,日本と韓国に関するニュースの分量をそれぞれみ ると,ニュース番組に登場した比率とその国別ランキングの順位は以下のような結果となっ た1) 日本 ABC .1%(1 位) CBS .%(1 位) NBC .2%(1 位) 韓国 ABC 1.%(2 位) CBS 1.%(22 位) NBC 2.1%(20 位)  日本・韓国のメディアにとって,アメリカは,マス・メディアのなかで言及される頻度の 最も高い国の一つであるにもかかわらず,アメリカ国内のメディアにはほとんど登場しない ばかりか,同じアジア地域の国家であっても,このような扱いの違いがあることが明らかに されている。これはモウラナ(Mowlana)の,国際ニュースは先進国から発展途上国へと, 先進諸国の主な通信社を通じて流れ,その内容にはアメリカとヨーロッパ諸国に関するもの が圧倒しており,その先進間にも不均衡が存在するという指摘を実証するものである1)  10 年代から 10 年代にかけて,国際マス・コミュニケーション学会によって行われた 研究から得られたメディアの扱う国際ニュースの特徴に関する知見としては,「海外ニュー ス報道において,その選別の基準は似通っており,まずは自国の出来事や登場人物を強調し ている」,「海外ニュースに最も頻繁に登場するのは,北アメリカと西ヨーロッパ地域の出来

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事であり,それ以外の地域が扱われるのは,紛争や災害などの異常な出来事の発信地となっ たときである」,「国際ニュースの重要な発信源は,大手国際ニュース通信社と同様に,それ ぞれの国の通信社や報道機関の特派員である」というものであり,国家間の情報格差は現在 に至っても解消されない問題として,より多くの情報をより早く送り届けられることでグロ ーバル化が加速する社会においても解消されない問題であることは共通認識になってい る1) 第 3 章 韓国メディアの先行研究とテレビ視聴の実体  200 年の韓国ドラマ『冬のソナタ』ブームは,戦後の日韓関係の大きな転換点となった と言っても過言ではないだろう。一本の純愛ドラマとそれを愛好する中高年女性たちの社会 現象がソフトパワーとなって,テレビドラマを中心として日韓の映像メディアのランドスケ ープに大きな影響を与えたことは確かである。マス・メディアにおいても,この社会現象は 大きくとりあげられたが,これをジェンダー論やメディア論の立場からとらえようとする研 究もすでに登場している1)  また IT 化を国家的レベルで推し進めた韓国に見られる新しい現象に注目した研究も登場 している。その代表的なものを挙げると,韓国における E―デモクラシーの台頭について述 べた玄(200 年)の研究1),またオルターナティブ・メディア台頭の一つとして韓国にお けるフリー・ペーパーの躍進について分析を行っている李と金(200 年)の研究1)がある。 また,韓国の雑誌出版の実情を紹介したガイドブックも登場している20)。現時点で本論の研 究に最も近い文献としては,世界のメディアが日本をどう扱っているかを各国ごとに検証し た石澤らの『日本はどう報じられているか』(200 年)の中で,黄が韓国を取り上げたもの がある21)。黄によれば,韓国のメディアの中で最も多く報じられる国の一つである日本のニ ュース報道であるが,その報道姿勢においては,戦後一貫して反日の立場からのレポートに 終始していることは変わらないという。黄はこれに世代論の視点も加味しながら,韓国メデ ィアの反日の姿勢が,時代とともにいかに推移したかを解説している。  本論ではメディア史の中で韓国を扱った研究をリビューしなかったが,この領域でも新聞 の歴史などにその研究対象が限定されていた時代を経て,韓国メディアの新しい分野を扱っ た研究成果が発表されており,日本における韓国のマス・メディア研究は多様化の時代を迎 えている。しかしながら,それでも韓国メディアの日本観を扱った研究は,まだまだ多いと は言い難い。以下では,韓国の放送メディアの状況について概観しよう。  韓国のテレビ放送は 11 年に全国ネットワークの公共放送の「韓国放送公社」(KBS)22) が開局したことによって産声をあげた。1 年には最大の民間放送である「文化放送」 (MBC)2)がテレビ放送を開始した。10 年から 1 年にわたる言論統制政策を経て,

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11年には,ソウル地域をカバーするローカル局としてソウル放送(SBS)が開局した2) 現在では,これら三大放送局が,それぞれ全土にネットワークを形成し,テレビは韓国全体 をカバーするメディアとなっている2)。200 年の韓国におけるテレビ受像機の普及率をみ ると,100 パーセントとなっており,テレビ受像機を所有している世帯の数は 12 億  千 万であり,ここからも,韓国のテレビ放送が,すでに成熟期に到達していることがわかる。 また,ケーブル・テレビの普及率は 0. パーセントとなっている2)  普及率の高さとともに,どのようにテレビが視聴されているかをみてみよう。リサーチプ ラス研究所が 2002 年  月から  月に行った調査によると,テレビを毎日見ていると答えた ものは,.0 パーセントであり,平均テレビ視聴時間は  時間 1 分であり,視聴者が最も 高い満足度を示している番組のジャンルはニュース番組であったという2)  200 年に東京とソウル在住の人びとに実施した調査結果の示す数値は,韓国の人びとに とって,テレビとテレビニュースが重要な位置を占めていることを示している2)。表 2 はこ の回答者の答えたテレビ視聴時間の平均値を日本と韓国で比較したものである。これによる と,平日のテレビ視聴時間は,日本人が 2 時間 0 分,韓国人が 2 時間 1 分であり,休日の 視聴時間は,日本人が, 時間  分,韓国人が  時間 2 分となっている。このテレビ視聴 時間全体の中で,テレビニュース番組が占める比率はどのくらいになるのかをみると,平日 の韓国人のテレビ視聴時間のうち,ニュースは .0 パーセント,休日は 2. パーセントに なることがわかった。日本人の方をみると,平日は . パーセント,休日は 2.1 パーセン トとなっており。日本と韓国ともに,ニュース番組が,テレビ視聴時間のかなりの部分を占 めていることがわかる。また,テレビ視聴時間を年齢階層別にみると,高齢になるほどテレ ビ視聴時間が長くなる点に関しては日韓共通であったが,若年層をみると,テレビ視聴時間 は韓国のほうが短くなっている。  また,韓国の人びとがテレビをどう評価しているのかを他のメディアと比較してみると, 表 2 テレビ視聴時間の日韓比較  (平均値,単位:分) 日   本 韓   国 テレビ視聴時間:平日 11.(1.) 1.1(11.) テレビ視聴時間:休日 22.2(22.) 20.(20.) ニュース番組の視聴時間:平日 .( 0.) .( 2.) ニュース番組の視聴時間:休日 1.( .) .( 0.) 新聞購読時間:平日 2.( .) 2.( .) 新聞購読時間:休日 2.( .2) 1.( 0.) 注:数値は 0 分と答えたものを含むもの。また,( )内は 0 分と答えたものを含む数値。 出典:平成 1 年度科学研究費研究成果報告書:橋元良明他「調査からみたネット利用,対 人関係,社会心理の日韓比較」平成 1 年  月,210 頁より作成。

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テレビは「信頼できる」と答えたものが . パーセント(新聞は 1.%),「重要である」 と思っているものが 1. パーセント(新聞は 1.%),「有益である」とするものは . パ ーセント(インターネットは 1.%),さらに「面白い」2. パーセント(インターネット は 1.%),「影響力がある」. パーセント(インターネットは 10.%),「必要性を感じる」 .1パーセント(インターネットは 1.%)となっており,韓国のテレビ・メディアは新聞 やインターネットに比べて,はるかに高い評価を得ていることがわかる。  また IT 化の成果として,韓国ではインターネットを用いてニュースを再視聴できる VOD (Video on Demand)も普及している。番組や放送局によって無料と有料のものに分かれて いるが,ニュース番組のみに限らず,現時点ではあらゆるジャンルの番組を好きな時間にダ ウンロードして視聴することが可能となっている。2002 年に実施された韓国の IT 化の実情 を調べた調査によると,ここでインターネットによる再放送(VOD)を見たことがあると 答えたものは . パーセントであった。この VOD を利用しているものの内訳をみると,1 日に 1 回以上利用しているものが,1. パーセントとなっており,その中でニュース番組を 再視聴しているものは,ドラマ,映画,バラエティの次に多く,10. パーセントであった。 また,ジャンルごとに,VOD 利用者を年齢階層や性別でみると,「ニュース」を再視聴して いるものは 0 歳代が . パーセント,0 歳代 20. パーセント,男性 . パーセントと, 特定の層においてニュース番組の VOD が浸透していることがわかった2)  上述のデータから,韓国において,テレビが日常生活に浸透し,VOD の普及によって, リアルタイムだけではなく,繰り返し視聴され,重要なものとして認知されていることがわ かったが,その中でもニュースは娯楽番組と並んで重要な位置を占めている。番組編成を紹 介した KBS の年次報告書をみると,KBS の番組全体のうちニュースの占める割合は,TV1 では,2. パーセント,TV2 では 1. パーセントとなっている0)。また,同様に,MBC の ウエブでも,ニュースの比率は,21. パーセントとなっている。また,KBS の年次報告書 には,国際報道に対する姿勢として独自の取材網で現地から迅速で性格なニュース報道とそ の分析を行うことが明言されており,また MBC のウエブでは,特派員を派遣先を地図で示 していることからも,国家を代表する報道機関として,国際ニュース報道の重要性を謳って いることがわかる。  表  は,韓国の報道機関別にみた,海外特派員の派遣先を見たものである。日本も含め, この地域におけるアメリカの影響力の大きさから,アメリカに多くの特派員が派遣されてい るのは納得できるが,ここで気がつくのは,テレビ,新聞ともに,日本にも多くの特派員を 派遣していることである。このデータからも,韓国メディアにとって,日本に関する報道は 重要な部分を占めていることが推測できる。

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第 4 章 特派員インタビュー  へスター(Hester)は,国際報道において海外特派員たちがニュース素材を選ぶ時の拠り 所は,それらが「時宜を得ていたり,重要であったり,人びとの関心を呼ぶ良質なものや感 動を喚起するかどうか」であり,彼らは,「受け取る人たちが,自分のメディアを通じて, 表 3 韓国の報道機関別にみた特派員の派遣先 中 国 フランス ドイツ 日 本 アメリカ KBS(韓国放送) ○ ○ ○ ○ ○ MBC(文化放送) ○ ○ ○ ○ ○ YTN(連合通信ニュース) ○ ○ ○ SBS(ソウル放送) ○ ○ ○ ○ ○ 連合ニュース ○ ○ ○ ○ ○ 朝鮮日報 ○ ○ ○ ○ 東亜日報 ○ ○ ○ ○ 韓国日報 ○ ○ ○ ○ ハンギョレ新聞 ○ ○ ○ 中央日報 ○ ○ ○ ○ ソウル新聞 ○ ○ ○ ○ 文化日報 ○ ○ ○ ○ 世界日報 ○ ○ ○ 済民日報 ○ 釜山日報 ○ 京郷新聞 ○ 韓国経済新聞 ○ ○ ○ ○ 毎日経済新聞 ○ ○ ○ ファイナンシャル・ニュース ○ ソウル経済新聞 ○ 毎日スポーツ ○ ○ スポーツ朝鮮 ○ ○ スポーツ・トゥデイ ○ ○ スポーツ・ソウル ○

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見聞きすることを望んでくれるに違いないと想定し,それに見合うだけの価値があると思 う」と述べている1)。本章では,韓国のテレビ放送局の東京支社での特派員インタビューか ら得た知見を詳述するが,今回の調査における質問には,日々のジャーナリズム活動の実態, ニュース素材の収集方法,ニュース送稿のプロセス,記事選択における本社とのやり取りや その判断基準,東京支局の様子などが含まれている2) スタッフ・ルームとスタッフの構成  このテレビ放送局の東京支局は,日本の大手テレビ放送系列局の一室を使用しており,そ の面積は 20 坪程度である。ここは事務所件スタジオを兼ねており,ここから本国のテレビ 番組向けに映像を直接送信することも出来るようになっているばかりでなく,この片隅には, 特派員自らが日本の風景をバックに本国の放送に生で出演することが可能なスタジオを兼ね た放送設備も整えられている。調査協力者の所属する韓国の放送局と,東京支局に一室を提 供している日本側の放送局が協定関係にあることから,韓国の放送局も,この日本の放送局 に同様の規模のオフィス空間を韓国支局のために提供しているという。  本社とは電話回線で逐次連絡を取り合えるようになっており,インタビューを行った応接 セットの近くにホットラインにあたる直通通信用の受話器が設置されていた。ゲート・キー パーの情報伝達の実態を概念化したマクネリーのモデル)が発表された 10 年代末は,現 在ほど国際電話も普及しておらず,送信された記事原稿に対するフィードバックが容易では ない時代でもあり,このモデルでは,現地の出来事から地域のレポーター,支局の特派員を 経て本国の編集室のスタッフへのニュース原稿がリレーされるにあたり,個別のやり取りが 双方向的なものではなくそれぞれが分断されている状況でニュース・素材がメディアの媒体 にまで辿り着くさまが図式化されている。しかしながら,このインタビューで知りえた限り においては,東京支局と本社のニュース・ルームとのやり取りは,ほぼ同時進行的・双方向 的に行われており,マクネリーのゲートキーパー・モデルに見られたニュース・リレー担当 者間の分断性はもはや存在しない。このオフィスはあたかも編集室の出先機関のような印象 を受け,地理的・時間的な制約を超えて,本社のニュース・ルームをグローバルに拡張する メディア環境の進化は,まさに国際報道の現場も大きく変えようとしていることがわかる。  この東京支局に働くスタッフは  名で,その内訳は,特派員 2 名,カメラマン 1 名,取材 コーディネーターが 1 名,に加え日本の放送局との連絡や会計などの庶務を担当するスタッ フ 1 名(日本人)から構成されている。また,通訳及び翻訳の業務は,日本での滞在期間の 長いカメラマン,取材コーディネーターが中心に行っている。東京支局には,放送局の報道 の姿勢を熟知した入社後 20 年くらいを経過した特派員(部長クラスに相当する)が派遣さ れる場合が多く見られ,本調査の対象者もその例外ではないという。また,この調査協力者 が知りえる限りにおいて,東京に滞在する韓国からの放送局関係の特派員は 20 名から 0 名

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ほどになるという。  この放送局が海外特派員を派遣している地域をその拠点となる都市名で挙げると,ワシン トン D. C.,ロサンゼルス,ニューヨーク,東京,パリ,北京,モスクワ,香港,ベルリン の  ヶ所になるという。それぞれの派遣先の人数は派遣されている特派員の語学力などによ って調整しており。例えばパリの駐在員が中東問題までをカバーできるような語学力を備え ている場合は他の人員を他の地域にといったように,ケース・バイ・ケースで柔軟に調整し ているという。海外からのニュース素材を入手するにあたり,調査協力者の所属する放送局 にとって,東京支局はどのくらい重要であるのかを尋ねてみたところ,日本(東京)は,ア メリカ(ワシントン D. C.)に次いで 2 番目に重要な取材拠点として位置づけられていると いうことであった。 その活動内容  今回インタビューを行った特派員は,本国への送稿作業に加え,時にはテレビやラジオへ 出演することもあり,本国の放送時間にあわせるために,その毎日のスケジュールは厳しい ものとなっている。この放送局のニュース放送のスケジュールは表  に示したとおりである。 テレビ放送は朝  時, 時, 時,12 時,1 時,1 時 0 分,21 時,0 時の時間帯にそれぞ れニュース番組が編成されている。また,この特派員たちは,ラジオのニュース番組も担当 しており,この放送時間帯は, 時,12 時,1 時となっている。この中で最も重要なもの は 21 時台のテレビ放送のニュース番組であり,録画した内容を流したり,番組の内容やト ピックによっては生放送を行うこともあるという。また,記事だけを送る場合もあるという。 このようにニュース番組の時間枠にあわせたニュース素材の準備のために,特派員の毎日は 忙しいものとなっている。  本国のニュース放送に合わせるべく行う調査協力者の 1 日は,まず朝  時の日刊紙のチェ 表 4 平日のニュース番組の時間帯 放送時間 :00~ :0 :0~ :0 :0~ : 12:00~12:0 1:00~1:20 1:0~1:0 20:~21:0 00:0~00:

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ックから始まる。ここでは,読売,朝日,毎日,産経などの全国紙に加え,スポーツ新聞も 毎日網羅的に目を通している。この作業をしていると,朝  時の NHK のニュースが始まり, ここから地上波のテレビニュースのチェックが始まる。NHK のニュース番組に加え,ニュ ース素材の使用が可能という点もあり,提携している日本の放送局の報道番組のチェックも 重要な日課である。  特派員 2 名は交代でシフトを組んでいるが,まず一人の 1 日のシフトは以下のようにな る: ① 朝  時から  新聞朝刊の見出しを中心にチェック ②  NHK 朝  時, 時のニュースをチェック ③  昼ごろ休み(11 時から 1 時頃にかけて) ④ 1 時退社  もう一人は, 時 0 分頃に出勤して 1 時頃に退社するというシフトで,二人の特派員は 交互にこのシフトを交換し合っている。  特派員たちは,上記の日常のルーティーンでもあるマス・メディアのチェック以外に,日 本の記者を直接取材したり,メディア関係者以外にも政治情勢などを探る上で欠かせない人 びとにも機会があれば取材することもあるという。この日課以外にも,放送素材の収集のた めに,都心に出かけて,市街地の様子を映像に収めたりする仕事が加わる。これらの日課は, あくまでも大事件のない時のものであり,ビッグ・ニュースが飛び込んできた時の活動は言 及するまでもないだろう。 伝えていること  この特派員が本国に伝える日本に関するテーマは,政治・経済関連のテーマが中心となっ ている。以下は,インタビュー対象者に,この半年間の間に,本国の放送枠の中で大きく取 り上げられたおもな出来事を列挙してもらったものである: 月 竹島(独島)問題,巨人イスンヨプ 月 ワールドカップ時の日本在留韓国人の応援 月 北朝鮮ミサイル発射問題に対する日本の反応 月 小泉前首相の靖国参拝 月 自民党総裁選 10月 北朝鮮核問題

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 これらを見ても,放送の内容は,政治問題や経済問題が中心となっているが,これには二 つの理由がある。まず一つ目の理由は,韓国国内の視聴者が,日本の関するニュースに対し ては,歴史問題などの政治的・民族的なテーマを求めているという点である。韓国の人びと にとっての日本に関するニュースの最大の関心事は,竹島問題,教科書問題,従軍慰安婦問 題,靖国問題に対する日本の政治家や日本の世論の動向である。日韓の歴史的な経過から, 韓国の視聴者の国民感情には,このようなニュースを求めるものが圧倒しており,最大公約 数の受け手に応えるという公共的要素を強くもつメインストリームのメディアにあたるネッ トワーク局のニュース番組では,このような内容のニュース・ストーリーが語られやすい。 インタビューで,この特派員は,ここで挙げた出来事を,韓国メディアが当然取り上げるべ き自明のものとして列挙した。  ニュース放送に登場する日本関連のトピックは,本調査の協力者の東京の特派員一人の判 断によって選ばれたものではなく,時間的制約と限られた放送時間枠のなかに何を選ぶのか という特派員と本社のスタッフの協議の結果でもある。言い換えれば,本国の視聴者の関心 を予測して,彼らが求めていると想定する合意点にたどりつくまで,現地でニュース素材を 集めるスタッフと本社のニュース・デスクとのやり取りは繰り返される。時には,このよう なやりとりの結果として,不採用になるトピックもあるという。限られた時間枠の中に視聴 者のニーズに応じたトピックを選別してくみ込むことを短時間で決断しなければならない放 送メディアにおいて,最終的な判断を本社に委ねるのは自然なながれといえるだろう。前も って本社からテーマを指定されて取材を行う場合も,特派員自ら探し出したテーマやトッピ ックを取り上げる時も,オンエアーにあたり,最後にゲート・キーパーとしての決断を下す のは本社のスタッフたちであると,この調査協力者も述べていた。想定される韓国の視聴者 の好みに合わせて取り上げられるトピックが選別されていくことで,日本報道で扱う素材は, 歴史的・民族的なトピックに絞りこまれ,ニュース放送用に加工されたものがシンボリック な形の表出となって受け手に送り届けられ,視聴者たちの日本イメージが補強されていく。 韓国のニュース報道における日本の姿は,まさにこのようなプロセスを経て日夜送出と消費 が繰り返されている。  ニュースの送り手たちが予見する韓国の視聴者のニーズが,ニュース選別における最も重 要な鍵となるが,この調査協力者の場合,記事の選択に影響を与えているもう一つの理由は, 職務の負担から政治・経済のテーマで手一杯であるという物理的な側面であった。この調査 協力者も政治・経済以外にも機会があればじっくり取材をしてみたいと思っているテーマや 具体的な取材対象者などがあるものの,人員と仕事の量とのバランスから他のテーマを取り 上げる余裕がないというのが実情であるという。最近の韓流ブームの結果として,日本の大 手放送局から逆に取材を受けることもあると述べていたが,やはり,この支局の仕事の中心 は政治・経済をテーマとしたニュースを韓国の視聴者に伝えることにあるようだ。

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 実際のニュース報道のテクストがどうなっているのかを見たのが,次頁の参考資料である。 これは,この放送局の 21 時のニュースで報道された 200 年の  月の小泉首相の靖国参拝の ニュースの実例である。このビデオ・クリップには,今回の調査協力者でもある特派員自ら も名前を出して番組にも出演している。韓国のニュースの報道スタイルをみると,アンカ ー・デスクでは,男性と女性が二人でトピックの紹介をしていく点では,NHK のニュース やアメリカのスタイルに近い。また,それぞれのニュース・ストリーの最後に必ずその記事 の送信者の名前が紹介されており,アメリカのニュース報道のスタイルを踏襲していること を窺わせる。朝の日本の民間放送のニュース番組のほとんどが,新聞記事のクリップを用い て,スタジオの有識者のコメントとテレビ・コマーシャルに占領され,現地からの独自取材 の映像が極めてわずかであるのとは対照的に,韓国のニュース番組は,記者自らが録画して きたニュース素材をしっかり伝えるオーソドックスな方法を取っており,民間の放送局でさ えも,コマーシャルに分断されることなく,真摯に特派員からの海外レポートを放送してい る。  韓国のニュース番組の中で,日本を扱ったテーマが多いか少ないかについては,今回の調 査では検証できなかったが,同時並行的に行っているプロジェクトである日韓のニュース番 組の内容分析で明らかにする予定である。

(17)

参考資料:ニュースにおける日本報道の事例

― 小泉総理の靖国参拝

―  200年  月 1 日(21 時ニュース:1 分 1 秒)      ビジュアル構成とテロップ       語 り 〈アナウンサー(男)〉 小泉日本総理が,結局今日私達の光復節(植 民地解放記念日)に靖国神社参拝を強行しま した。 〈アナウンサー(女)〉 どのみち非難されるのなら,むしろ今日が参 拝するのに適切な日だというコメントまでし ました。東京の○○○特派員がお伝えします。 〈特派員〉 小泉総理は今日の朝早く官邸を出発し,参拝 客の歓呼の中で,第 2 次世界大戦 A 級戦犯 が合祀されている靖国神社参拝を強行しまし た。 小泉総理の靖国参拝は 2001 年総理就任以後 回目で,これまで実行に移せなかった  月 1日の参拝を退任の前に結局強行したので す。 現職総理の  月 1 日の参拝は,去る 1 年 中曾根康弘元総理以後,21 年ぶりです。 彼は去年とは違って,えんび服で一般人が利 用していない本殿にあがり参拝しました。 簿名録にも内閣総理大臣小泉純一郎で署名し ました。 これは総理の資格としての,明らかな公式参 拝です。 小泉総理は韓国と中国の非難に対して露骨に 不快感を表しました。 画面:デスク テロップ:(日章旗+小泉首相参拝写真) +靖国参拝強行 画 面:官邸出発の様子 テロップ:小泉日本総理参拝 今日午前  時  分 画 面:靖国神社の前で,日章旗を振り ながら,歓呼する人たち 画 面:参拝様子  ①本殿に向かう総理  ②靖国神社空中撮影 テロップ:現職総理では 21 年ぶりに      月 1 日参拝  ③本殿参拝様子 テロップ:えんび服姿で本殿で参拝

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〈小泉総理(官邸記者会見)〉 字幕:「どうしても問題化しようとする勢力 がある。ならば今日が適切な日ではないか。」 〈特派員〉 今日の靖国神社参拝周辺では,参拝に抗議す る市民団体とそれを阻止する右翼団体の間で 小競合いがあるなど,緊張感が漂いました。 〈特派員〉 日本のメディアは小泉総理が任期末まで参拝 を強行したため,靖国問題が来月の自民党総 裁選挙と次期政権の最大課題になると伝えて います。 東京より○○○ニュース○○○(特派員)で した。 画 面:首相官邸での記者会見様子 音 声:(日本語) テロップ(翻訳):どうしても問題化しよ うとする勢力がある。ならば今 日が適切な日ではないか。 画 面:抗議する団体と阻止する警察官 などが体当たりする様子 画 面:靖国神社のトリイの前

(19)

注        

1)日本に限らず,この領域の先行研究はあまり多くない。これまでの代表的なものとしては,日 本に関しては木村昌人=田所昌幸『外国人特派員 こうして日本イメージは形成される』(日 本放送出版協会,1 年),江口浩『【TOKYO 発】報道戦争』(晩聲社,1 年)などがある。 またアメリカの特派員にアンケート調査を実施したものとしては Hess, Stephen International

News and Foreign Correspondents(The Brookings Institution, 1)がある。

2)日本新聞協会『日本の新聞 200 DATABOOK』(日本新聞協会,200 年)1―21 頁。 )アンケートの結果は以下の 2 点の報告書にまとめられている:    報告書「日本の国際情報発信における諸問題を考える―海外報道機関のジャーナリスト調査 を踏まえて」200 年  月 11 日,日本マス・コミュニケーション学会春季研究発表会 ワーク ショップ ,関西大学にて配布。    東京経済大学国際コミュニケーション研究所 国際情報発信研究会「報告書『日本における 海外報道機関記者(1)』」コミュニケーション科学 2,200 年 ―1 頁。 )海外立法情報調査室・課 外交防衛課「反日デモをめぐる諸外国の論調」『調査と情報』第 号(国立国会図書館,200 年  月 2 日) )内閣府「外交に関する世論調査」平成 1 年 10 月   http://www.cao.go.jp/survey/h1/h1-gaikou/index.html 参照。 )200 年度の  回目の研究成果は,国際テレビニュース研究会,報告書「国際テレビニュース 比較研究 200 ―ブラジル,イギリス,アメリカ,日本」武蔵社会学論集『ソシオロジスト』 (200 年)No. :11―2 に所収されている。また論文としては,吉田文彦「日米英伯  カ国 のテレビニュース番組にみる海外ニュースの特徴」武蔵大学総合研究所紀要 1 号,200 年, ―12 頁がある。 )伊藤守編『テレビニュースの社会学 マルチモダリティ分析の実践』(世界思想社,200 年)。 「ディスコース分析」とは単語の使用頻度や紙面の面積,登場時間数などを用いてメッセージ の分析を行うのではなく,メッセージの意味作用に着目して,言語学に用いられる統語論・意 味論の視点から,メディア・テクスト全体に付与された意味を問う分析方法である。この研究 法の背景や研究の経過については,前掲書 1―22 頁に詳述されている。 )1 年 11 月 22 日パリで開催されたユネスコ第 20 回総会における「マス・メディア宣言」の 採択の過程で誕生したマクブライド委員会以降,情報が需要と供給の法則によって支配される 商品として扱われるのではなく,自由な情報の流れの成果として,国家間の情報の流れが確保 され,バランスの取れたジャーナリズム活動が行われるためには何かなされるべきかが問われ るようになった。この研究成果はマクブライド委員会/永井道雄監訳『多くの声,一つの世 界』(日本放送出版協会,10 年),ジム・リックスタット=マイクル・アンダースン/堀川 敏雄訳『国際報道の危機』(財団法人新聞通信調査会,1 年)をはじめ多くの著作として刊 行されている。 )長谷川倫子「ニュース情報の国際的な流れをめぐる諸問題」東京経済大学大学院コミュニケー ション学研究科編『日本の国際情報発信』(芙蓉書房出版,200 年)1―12 頁 参照のこと。 10)Gerbner, George and G. Maravanyi, “The Many World of the World’s Press,” Journal of

Communication 2―1(1): 2―. 

(20)

Quarterly 0 : 0―.

12)Giffard C. (1) “Developed and Developing Nation News in U.S. Wire Files to Asia,”

Journalism Quarterly 1 : 1―1.

1)Larson James F. Television’s Window on the World : International Affairs Coverage on the U.S. Networks(Ablex Publishing Corporation, 1)

1)Larson 前掲書 pp. ― より抜粋。

1)Mowlana, Hamid, Global Information and World Communication(Longman, 1)

1)Annabelle Srebany-Mohammadi “The ‘World of the News‘Study’: Result of International Cooperation,” Journal of Communication, Winter 1, vol. , no. : 121―12.

1)その代表的な文献としては,城西大学 ジェンダー・女性学研究所編『ジェンダーで読む〈韓 流〉文化の現在』(現代書館,200 年),林香里『「冬ソナ」にハマった私たち 純愛,涙,マ スコミ……そして韓国』(文藝春秋社, 200 年)などがある。 1)玄武岩『韓国のデジタル・デモクラシー』(集英社,200 年)その他にも,呉連鎬/大畑龍次 =大畑正姫訳『オーマイニュースの挑戦―韓国インターネット新聞事始』(大田出版,200 年), キム・テクァン=イ・サンボク『韓国が警告するメディア・ビッグバン』(白夜書房,200 年) も参考になる。 1)李虎栄=金京煥「韓国における無料新聞の紙面構成と広告に関する研究―「メトロ」,「AM」, 「ザデイリーフォーカス」の事例を中心に―」(200 年)『マス・コミュニケーション研究』 No.  0―10 頁。 20)舘野文他『韓国の出版事情―初めて解き明かされる韓国出版界の現状―』(出版メディアパル, 200年),これらの研究の他に,メディア史の分野で韓国のマス・メディアを取り上げた研究 もあるが,ここでは言及しなかった。 21)黄盛彬「新世代が主導する『新しい反日』―過去にとらわれないナショナリズムの出現―」, 石澤靖治編『日本はどう報じられているか』(新潮社,200 年)1―20 頁。

22)英文の正式名称は Korean Broadcasting System である。日本の NHK と協力関係にある。 2)英文の正式名称は,Munhwa Broadcasting Corporation である。日本のフジテレビと協力関係

にある。MBC は民間放送でありながら,その株の 0 パーセントを KBS が所有している。また, 韓国では MBC 開局に先駆けて,TBC(東洋放送)という民間放送が開局したが,これは, 10年の言論統合政策のおりに,KBS に統合された。

2)英文の正式名称は Seoul Broadcasting System である。日本テレビと協力関係にある。 2)ソウル地域を例にとると,KBS1,KBS2,KBS(教育),MBC,SBS の  チャンネルが視聴 できるようになっている。 2)電通総研編『情報メディア白書 200』(ダイヤモンド社,200 年)210 頁。 2)報告書:モバイル・コミュニケーション研究所「ネットヘビー社会韓国の実像」200 年  月。 2)平成 1 年度科学研究費研究成果報告書:橋元良明他「調査からみたネット利用,対人関係, 社会心理の日韓比較」平成 1 年  月,210 頁より作成。 2)報告書:モバイル・コミュニケーション研究所「ネットヘビー社会韓国の実像」200 年  月, ― 頁。   調査実施期間:2002 年 11 月 2 日から 12 月 1 日   調査対象者:韓国全土 12 歳から  歳までの男女 1 名(多段階地域抽出法による)

(21)

0)KBS Annual Report 200/200: http://english.kbs.co.kr/KBS_Annual_Report.pdf 参照。 1)Hester, Al,(1)“Theoretical Consideration in Predicting Volume and Direction of Information

Flow,” Gazette 1: pp. 2―2. 2)インタビューは,200 年 11 月 1 日に,東京の支局において実施された。インタビューの前日 に北朝鮮の「核問題をめぐる  カ国協議合意」というビッグニュースもあり,本国での放送の ための準備が徹夜の作業となってしまったにもかかわらず,調査協力者の特派員はわれわれの インタビュー依頼に快く応じてくれた。調査協力者への配慮から,実名や所属報道機関の名称 は本稿では明記しないものとした。また,インタビューは韓国語で行われた。 )マックネリー(McNelly)が 1 年に発表した国際的なニュースの流れの図式化である。情 報伝達装置の中に位置するゲート・キーパーたちのリレーによってニュースが送り届けられる までを,それぞれの部署で働くジャーナリストのパーソナルなリレー作業の組み合わせに焦点 をあてたモデルである。図は Watson, James and Anne Hill, Dictionary of Media &

Communica-tion Studies(Arnold, 2000), pp. 12―1 参照のこと。 参 考 文 献 〈邦文〉 伊藤守編『テレビニュースの社会学―マルチモダリティ分析の実践』(世界思想社,200 年) 江口浩『【TOKYO 発】報道戦争』(晩聲社,1 年) 川竹和夫,杉山明子編著『メディアの伝える外国イメージ』(圭文社,1 年) 木村昌人・田所昌幸『外国人特派員 こうして日本イメージは形成される』(NHK ブックス,1 年) 黄盛彬「新世代が主導する『新しい反日』―過去にとらわれないナショナリズムの出現―」,石澤 靖治編『日本はどう報じられているか』(新潮社,200 年)1―20 頁。 国際テレビニュース研究会『国際テレビニュース比較研究 200 ―アメリカ・日本・イギリス・ブ ラジル―(内容分析編)』(武蔵大学総合研究所,200 年) 權藤猛「新聞記事に及ぼす記者の心理的影響」『新聞学評論』1 号,12 年 ジム・リスクタット,マイケル・H・アンダースン共編/堀川利雄訳『国際報道の危機』上・下 (財:新聞通信調査会,1 年)[Jim Richstad & Michael H. Anderson, Crisis in International

News(Center for Cultural and Technical Interchange Between East and West, Inc, 11)] 東京経済大学国際コミュニケーション研究所 国際情報発信研究会 報告書「日本の国際情報発信 における諸問題を考える―海外報道機関のジャーナリスト調査を踏まえて」200 年  月 11 日, 日本マス・コミュニケーション学会春季研究発表会 ワークショップ ,関西大学にて配布。 東京経済大学国際コミュニケーション研究所 国際情報発信研究会「報告書『日本における海外報 道機関記者(1)』」コミュニケーション科学 2 ―1 頁。 門奈直樹『ジャーナリズムの科学』(有斐閣,2001 年) ユネスコ「マクブライド委員会」/永井道雄監訳『多くの声,一つの世界』(日本放送出版協会, 10年)[The MacBride Commission, Many Voices, One World(Rowman & Littlefield Publisher’s Inc., 200)]

吉田文彦「日米英伯  カ国のテレビニュース番組にみる海外ニュースの特徴」武蔵大学総合研究所 紀要 1 号,200 年,―12 頁。

(22)

〈英文〉

Allan, Stewart, News Culture(Open University Press, 2000)

Cook, Timothy E. Governing with the News: The News Media as a Political Institution(The University of Chicago Press, 1)

Giffard, C. (1) “Developed and Developing Nation News in U.S. Wire Files to Asia,” Journalism

Quarterly 1. 1―1.

Hachten, William A. The World News Prism: Changing Media, Clashing Ideologies Second Edition(Iowa State University Press, 1)

Hart, Jim A. (1) “The Flow of News between the United States and Canada,” Journalism Quarterly 0: 0―.

Hester, Al, (1) “Theoretical Consideration in Predicting Volume and Direction of Information Flow,” Gazette 1: pp. 2―2.

Korea Press Foundation, The Korea Press 2002(Korea Press Foundation, 2001)

Larson, James Television’s Window on the World: International Affairs Coverage on the U.S. Networks, (Ablex Publishing Corporation, 1)

Paterson, Chris and Annabelle Sreberny eds. International News in the Twenty-First Century, (University of Luton Press, 200)

White, David Manning(10)“The‘Gate Keeper’: A Case Study in the Selection of News”

Journalism Quarterly 2 : 2―0

本稿は 2005 年度東京経済大学学内個人研究奨励費の研究成果を公表するものである。 また,インタビュー調査協力者には,この場を借りて,心より謝意を表したい。

参照

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