• 検索結果がありません。

Cognitive Studies, 22(2), (June 2015) Reconstructing explanations perform a crucial role not only in the progress of science, but in educatio

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "Cognitive Studies, 22(2), (June 2015) Reconstructing explanations perform a crucial role not only in the progress of science, but in educatio"

Copied!
12
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

●研究論文●

 説明転換における事実参照に関する実験的検討

寺井 仁・三輪 和久・松林 翔太 

Reconstructing explanations perform a crucial role not only in the progress of science, but in educational practice and daily activities including comprehension of phenomena. We focused on the transition of attention on a key fact that contradicts the preceding explanation and has a central role in its reconstruction. We used a short story as an experimental material in which the participants first constructed a prior explanation and reconstructed it. The experimental results are summarized as follows. First, when the prior explanation was rejected, a new explanation was required, after attention on the key fact was inhibited. Second, hypothesized premises not inconsistent with the prior explanation were sought to protect the prior explanation. Third, the explanation reconstruction was facilitated by having the participants focus on the key fact. Last, attention on the key fact was recovered through explanation reconstruction.

Keywords: eye movement analysis(眼球運動測定), explanation construction(説明構 築), explanatory shift(説明転換), reading comprehension(読解), reinterpretation(再 解釈), representation change(表象転換)

1.

は じ め に

人は外界の情報をありのまま受け入れ,理解して いるわけではない(Hanson, 1958;村上, 1980).例 えば,「カモとウサギ」や「若い女性と老婆」に代表 される多義図形を暫く見ていると,対象の見え方が がらりと転換することを誰もが経験する(Jastrow, 1900; Boring, 1930).このような対象に対する認 識の根本的な転換は,錯視といった低次の知覚的現 象だけでなく,問題解決における洞察や科学的発見 のようなより高次の問題解決活動においても認め られる現象である(e.g.,三輪・寺井, 2003; Kuhn, 1962).このことから,現象に対する理解という高 次の認知プロセスにおいて,このような認識の転換 は重要な役割を果たしていることが予想される.

An Experimental Study on Explanation Reconstruc-tion through ReinterpretaReconstruc-tion of Key Facts, by Hitoshi Terai (School of Human-Oriented Science and Engineering,Kinki University), Kazuhisa Miwa (Graduate School of Information Science,Nagoya University), and Shota Matsubayashi (Graduate School of Information Science, Nagoya University).

1.1 説明の再構築 現象に対する理解は,2つの方法によって進めら れる.1つは「記述的な理解」であり,もう1つは 「説明的な理解」である(Simon, 2000).記述的な 理解とは,実験や観察によって確認された現象に関 する性質や特徴について理解することである.一方, 説明的な理解とは,それらの現象が生じる理由や, その背後にあるメカニズムについて理解することで ある.記述的な理解に対して,説明的な理解におい ては,現象に対するより深い理解が求められる. 既知の現象が矛盾無く説明されたとしても,必ず しも,未知の現象に対してその説明が有効であるこ とは保証されない.これまでの説明では解釈するこ とができない現象の観察が契機となり,ある説明か ら別の説明への説明の再構築が進められる.説明す ることができない現象が生じると,そこにある種の 認知的不協和が生まれ,その不協和を解消するため に新たな説明を構築しようとする.人間は一般に, 説明の構築に関して極めて積極的であり,説明不可 能な現象を放置しようとはしない.Dunbar (1995)

(2)

は生化学研究室における研究活動において,想定 内の現象よりも,想定外の現象に対して,科学者は より多くの推論を行うことを示している.また,よ り身近な,日常的な出来事においても,当初抱いて いた期待が裏切られた場合には,自然と説明的推論 が起動することが知られている(Clary & Tesser, 1983). 1.2 説明転換とキーファクト 説明の再構築の中でも,ある現象に対する説明が 根本的に転換する場合がある.本研究ではこれを 「説明転換」と呼び,(1)古い説明を精緻化したり, 部分的に拡張したりするのではなく,(2)説明の構 造や説明の構成要素の意味が,先行説明から根本的 に変化するような説明の再構築を行うことと定義す る.以降,古い説明を「先行説明」,転換後の新し い説明を「転換後説明」と呼ぶ. 説明転換は,先行説明を否定し,先行説明の根本 的な見直しを迫る事実(「キーファクト」と呼ぶ) によって特徴付けられる.説明転換は,キーファク トを合理的に解釈しようとする努力を通して達成 される.すなわち,説明転換の前後において,キー ファクトの意味は根本的に変化する. 例えば,物質が燃える現象(燃焼)は,初期には, 燃素説による説明,すなわち“ 燃焼とは,物質から の燃素の放出である ”という説明がなされていた. しかし,この説明では合理的に解釈できない“ 燃焼 に伴う質量の増大 ”という事実が観察されたことを 契機として,新たな説明の構築が要請された.この 質量の増大という事実が,ここでのキーファクトと なる.燃素説から酸素説による説明の転換,すなわ ち“ 燃焼は酸素の結合である ”という説明への転換 は,燃素説を否定する事実であるキーファクトを解 釈しようとする試みを通して達成されることになっ た(Mason, 1953). 1.3 説明転換の困難さ しかしながら,これまでの常識的知識を乗り越 え,一旦構築された説明を破棄し,説明の根本的な 転換を行うことは容易ではない.根本的な転換を伴 う新しい説明へシフトするよりも,古い説明を修正 したり,補助説明を加えることにより,それまでの 説明を守ろうとするのである.そのような場合,古 い説明を守るために,その説明を支持するキーファ クト以外の事実や未だ観察されていない仮想的実体 が仮定されることも少なくない.先に例示した燃素 説においては,燃素説の下でキーファクトを整合的 に支持するための仮想的元素として,負の質量を持 つフロギストン(燃素)の存在が仮定された.燃素 説では,燃焼による質量の増大を,負の質量を持つ フロギストンが放出されることによって生じる現象 として解釈しようと試みたのである.一方,転換後 説明である酸素説では,「火は元素である」という 古代ギリシャ以来の一般常識を乗り越え,キーファ クトである燃焼による質量の増加について異なる解 釈が行われ,仮想的実体を導入する事なく物質の燃 焼についての説明が可能となった(図1). このような説明転換の困難さは,学習の場面に おいても確認されており,日常経験から獲得された 素朴理論が現象のより良い説明の獲得を阻害する ことが知られている(Vosniadou & Brewer, 1992; Watts & Zylberstan, 1981).そして,ある現象に 対して一旦先行説明が構築されると,それと矛盾 する事実が観察されたとしても,その事実を受け入 れ,先行説明を転換し説明を再構築することは困難 となる.例えば,Chinn and Brewer (1998)は,大 学生を対象に恐竜の絶滅をテーマとした実験的検討 を行い,学生が保持する先行説明と矛盾する事実が 提示された場合,その事実が無視されたり保留され たりすることを明らかにした. また,学習場面のように意図的な説明が求められ る状況でなくても,例えば,文章の読解といった状 況においても,人は記述された内容をもとに予測的 な推論を行っており(Campion, 2004; Graesser & Clark, 1985; Graesser, Singer, &Trabasso, 1994), 映画のように物語を受動的に鑑賞するような状況に おいても同様であることが知られている(Magliano, Dijkstra, & Zwaan, 1996).このことから,小説や 映画のストーリーの理解においてもキーファクトは 重要な役割を果たすことが理解される.例えば,ミ ステリー小説などでは,物語の序盤において読者を ミスリードさせ,先行説明として誤った枠組みによ る物語の理解が促される.一旦先行説明が構築され ると,それに基づく物語の解釈が進められる.しか しながら,物語の進行に伴い,先行説明に基づく予 測とは矛盾するキーファクトに相当する事実が提示 され始め,その解釈を通して,物語の理解の転換が 促され,カタルシスが生じる.

(3)

1 説明の転換と事実との関わり 先行説明を守るため,キーファクトの再解釈は行わ れず,それ以外の事実や未だ観察されていない仮想 的実体に依存した解釈が行われる.転換後説明で は,キーファクトの再解釈に基づき説明が構築され るため,キーファクト以外の事実は不要となる. 以上のように,先行説明と矛盾するキーファクト の再解釈を通した説明転換とその困難さは,科学的 発見といった長期に渡る説明活動だけでなく,日常 的な学習の場面や文章の読解といった対象の説明的 な理解を伴う活動に深く関連する現象であることが 理解される. 1.4 説明転換と注意の遷移 先行説明と矛盾するキーファクトに再び注目し, 再解釈することが,説明転換においては重要な意味 を持つ.このような説明の再構築過程は,一旦構築さ れた先行説明が心的制約となり,先行説明に囚われ 続けるという意味において,洞察問題解決に通じる 特徴を持つ(Knoblich, Ohlsson, Haider, & Rhe-nius, 1999; 開・鈴木, 1998).例えば,Knoblich, Ohlsson, and Raney (2001)や寺井・三輪・古賀

(2005)では,問題解決を阻害していると考えられ

る心的制約により,情報の探索に偏りが生じること, そして,そのような偏りが,問題解決を通して緩和 されていくことが視線挙動の分析により明らかにさ れた.

また,Grant and Spivey (2003)は,洞察問題の 一つである放射線問題(Duncker, 1945)を対象に, 視線の誘導による問題解決パフォーマンスの改善効 果について実験的な検討を行っている.実験では, 問題解決に成功した参加者がよく注視していた刺激 箇所に,他の参加者の視線を誘導することにより, 問題解決のパフォーマンスが向上することが示され ている. 以上の洞察問題解決の過程において認められる, (1)問題解決初期の心的制約に対応した注意の偏 り,および(2)問題解決過程における注意の偏り の解消,加えて(3)視線の誘導による注意の操作 と問題解決パフォーマンスの改善の効果は,洞察問 題解決と説明転換の類似性から,説明転換の過程に おいても認められることが期待される. 1.5 目 的 先行研究においては,先行説明からの説明転換 の困難さや,キーファクトの無視や保留といった キーファクトに対する振る舞いが明らかにされて きた.一方,説明の再構築が求められる状況におい て,キーファクトへの注意がどのように推移してい るのかについては明らかにされていない.先に述べ たように,新しい説明への転換には,キーファクト の再解釈が不可欠である.それにもかかわらず,多 くの場合,古い説明を支持する仮想的実体が仮定さ れ,キーファクトの再解釈が先送りされることが予 想される.仮想的実体の仮定は,先行説明と矛盾す るキーファクトへの注意を抑制し,それに伴い説明 の根本的な転換が阻害される可能性がある. このようなキーファクトに対する注意の抑制と説 明の再構築の過程でのキーファクトに対する注意の 回復に関して,本研究では,以下の4つの仮説を検 討する. 仮説1 ある事実に対する説明が成り立たなくなり, 別の説明が必要になった時に,いったんその事 実,すなわちキーファクトに対する注意が抑制 される. 仮説2 先行説明の保護においては,キーファクト 以外の事実に目が向けられ,先行説明と矛盾し ない事実に注意が移行する.実際に観察されて いない仮想的実体の導入によって,先行説明を 保持しようとする場合がある. 仮説3 キーファクトへの注意の誘導が,説明の再 構築自体を促進する. 仮説4 説明活動を通して,抑制されたキーファク トに対する注意の回復が認められる

2.

実 験 課 題

説明の再構築におけるキーファクトに対する注意 の遷移を捉えるため,本研究では,短い物語文を実 験課題に用いた.人は,省略的に表現されることが 多い文章表現に対して,明示されない情報の付加や 推論を行いながら意味の統合を進めることが知られ ている(Seifert & Robertson, 1985; Rumelhart &

(4)

2 床屋課題(実験1において使用) Ortony, 1977). そこで,本研究では,このような文章理解の特性 を利用し,Gardner (1978)の床屋課題を改変した ものを課題文として実験に用いた(図2).この課 題では,(1)先行説明として,最初に想起される知 識に基づき自動的な処理によって説明の構築がなさ れ,(2)発想の転換が必要とされる新たな説明を 構築することが要請され,(3)キーファクトを再解 釈することによってはじめて仮想的実体を仮定する ことなく合理的な説明が可能となる. 本課題では,“2つしか床屋のない町で,床屋を 探している主人公が,髪が整えられていない‘ 店 主Aの店 ’,または,髪がよく整えられた‘ 店主B の店 ’のどちらに入るか ”について問われる内容と なっている.この問いに対し,参加者は,“ 身だし なみを整えている店主は腕も良いだろう ”といった 知識のもと,店主の髪の毛に関する事実に着目し, “ 主人公は髪をサッパリと整えている店主は床屋と しての腕が良いと考え店主Bの店を選ぶ ”という説 明(先行説明)を構築することが予想される.しか しその後,この説明による予想を裏切る結末(“ 主 人公は髪がボサボサの‘ 店主Aの店 ’に入った ”) が提示され,なぜそのような結末になったのかにつ いて,説明が求められる.Gardner (1978)によれ ば,転換後説明は,“ 床屋が二軒しかないため,二 人の店主は互いに髪を切りあっている.髪がサッパ リしている店主Bはもう一方の髪がボサボサの店 主Aの髪を切っていたため,腕が悪いと考えられ る.また,逆に,髪がボサボサの店主Aはもう一 方の髪がサッパリした店主Bの髪を切っていたた め,腕が良いと考えられる.”となる.ここで,店 主の髪の毛に関する事実が,キーファクトになる. 課題文にはキーファクトとなる事実以外にも実際 には結果と関連しない事実が複数存在している.そ のため,キーファクトの再解釈を行わずに,他の事 実に基づく説明を構築することも可能である.し かしながら,キーファクト以外の事実に基づく説明 を構築した場合,初期の先行説明による矛盾(髪を サッパリと整えている方が床屋として腕が良いと考 えられるにもかかわらず,髪がボサボサの店主の床 屋に入った)は解消されないことになる.そのため, 仮想的実体を導入せず,矛盾なくこの物語の構造を 理解するためには,キーファクトの再解釈が不可欠 となる.

3.

実 験 1

実験1では,仮説2を検証するため,先行説明を 否定した後,説明の再構築を求めた.これに加え, 本研究の目的に対する実験課題の妥当性を検証する ため,課題文を提示された参加者の多くが,実験者 が意図する先行説明を構築し得るかについても併せ て検討を行った. なお,本課題において想定される先行説明と転換 後説明の定義は次の通りである. 先行説明 髪をサッパリと整えている店主は床屋と しての腕が良いと考えられるため,主人公は, 髪がサッパリと整えられている店主の店に入る. 転換後説明 町に二軒しか床屋が無いことから,髪 がボサボサの店主がもう一方の髪をサッパリと 切ったと考えられ,主人公は,髪がボサボサの 店主の店に入る. 3.1 参 加 者 大学生56名(分析では,データ欠損のあった3 名を除外)が参加した. 3.2 課 題 図2に示した床屋課題を実験課題として用いた. 3.3 手 続 き 実験では,結末部分を除いた床屋課題を提示し,

(5)

“ 主人公がふたつの店のうちどちらを選ぶか ”につ いて考えながら読むよう教示した.そして読み終 わった後,“ 主人公がどちらの床屋に入ると思うか ” についての結末の予測と,“ なぜそのように予測し たか ”についての詳しい記述が求められた.その後, 結末を提示し,再度,その結末に至ったと考えられ る説明を構築することを求めた. 3.4 結 果 実験の結果から,分析対象者53名中,46名が髪 がサッパリしているバリーの床屋に入るとの予測を 行い,その内44名が先行説明に基づく説明を行っ ていた.直接確率検定の結果,本課題を初めて読ん だ参加者の多くが先行説明をもとに“ 髪がサッパリ と整えられた店主の床屋に入る ”と予想することが 明らかとなった(両側検定:p < .01). 先行説明を構築した参加者が,結末提示後に構築 した説明は,大きく4つに分類することができる (表1).転換後説明以外に構築された説明は主に, キーファクト以外の場所または時間に関する事実に 本文にはない仮定(“ その店は車の修理工場の近く にあった ”,“ 夕方だったため ”等)を複合したもの であることが確認された.χ2検定の結果,4つの説 明のカテゴリには偏りが認められ(χ2(3) = 10.8, p < .05),Ryan法による多重比較の結果,転換 後説明よりも場所と時間に関する事実に基づいた 説明がより多く行われていることが明らかとなった (p < .01, p < .01). 以上の結果から,床屋課題をはじめて読んだ参加 者の多くが,著者らが予測した先行説明を構築する ことが確認された.図3に実験課題における説明 (先行説明,転換後説明)と事実(キーファクト,時 間および場所に関する事実,課題文には現れない仮 想的実体)との関係をまとめる.本実験を通して, 本課題が,キーファクトの再解釈を通した説明の再 構築のプロセスを実験的に捉えるための課題として 有効であることが確認された. また,説明の再構築において,先行説明が保護さ れていることを確認するため,再構築された説明の 記述内容を,(1)先行説明による望ましい結果に 関して直接言及し,その上で,別の理由を付加した 記述(直接言及),(2)“ ∼するしかなかった ”と いったように,先行説明による望ましい結果を含意 した記述(含意),(3)そのような判別が不可能 表1 再構築された説明 !" # $%& '()!" * +,-./01234567689:;<=>7.?@ABC1D7EFGH8IE28 JK!" LM N@OP1D7EJK5QRS,;,TUVWX28 YZ!" L[ \]U.?@^WD_87X2WX28 +,` LL a !"#$bcde,!"@fWDghijRAklCmID7Enop5qrID7Es 図3 実験課題における説明の転換と 事実との関わり 表2 再構築された説明と先行説明の関係 !" # $%& '()* + ,-./0123-45671689:;<=>-? @?@ABCADEFGHIJ=23KLMN0GOP QRS45FTAU7GOP:;<=V06E6719 WX YZ [\S]^_=VL`D1671-IHabAL]^_ =VScT7GOGIdOGOPVS:;<=V06 E671689 efgh iY ,=jkR-:;<=V68lOmnoLp71689 な記述(判別不能)の3つに分類した(表2).先 行説明を構築し,再構築した説明が転換後説明でな かった41名の記述を分類した結果,7名の記述に おいて,先行説明による望ましい結果が直接言及さ れていることが確認された.また,13名の記述に おいて,先行説明による望ましい結果が含意されて いることが確認された. 説明の再構築においては,先行説明が否定されて も,(1)キーファクトを再解釈し転換後説明に移行 することは少なく,場所や時間といった先行説明と 矛盾しない事実に目が向けられ,さらに本文中には 現れない仮想的実体を伴った説明がなされること, そして,(2)多くの参加者が先行説明の保護を示 唆する言及を行っていること,が明らかとなった. これらは,仮説2を支持する結果である.

(6)

4.

実 験 2

実験1では,先行説明が否定されても,その他の 事実や仮想的実体による説明がなされ,キーファク トの再解釈がなされにくいことが確認された.そこ で,実験2では,キーファクトへの注意を促すこと によって,キーファクトの再解釈とそれに基づく説 明の再構築が促進されるかについて検討を行い,仮 説3について検証を行う. 4.1 参 加 者 大学生41名が実験に参加した. 4.2 課 題 実験課題は実験1に用いたものを踏襲し,一部, 床屋の店内に関する記述(図2の店内に関する記 述)を先行説明がより構築されやすくなるように変 更した. 4.3 手 続 き 最大8名の小集団実験で,課題文の提示やデータ 取得はすべてコンピュータを通して行った.実験1 と同様,先行説明構築と説明再構築の2つのフェー ズから構成された. 実験条件は,課題文の提示の直前に,“赤文字に なっている箇所が手がかりとなっている”と教示を 行い,課題文のキーファクトを赤く表示することで, キーファクトへの注意を促す条件(ハイライトあり 条件,21名)と,そのような注意を喚起しない統 制条件(ハイライトなし条件,20名)の2つを設 け,参加者間で比較を行った.参加者には,先行説 明構築フェーズにおいて,床屋課題をコンピュータ スクリーン上に提示し,結末の予測とその説明を 求めた.その後,参加者に結末を示し,説明再構築 フェーズとして,結末に対して理にかなった説明を キーボードから入力することを求めた.説明の入力 が終わると,“ 誰もが納得する理にかなった説明が 他にもあるので,もう一度考えてください ”との判 定結果が画面に提示された(参加者には“ 入力され た説明は別室の実験者が判定している ”との教示を 行った上で,実際にはすべての入力に対して同様の 応答が返された).説明再構築フェーズは最大15 分とし,転換後説明が構築されるまでのデータを分 析の対象とした. 4.4 結 果 実験1と同様,先行説明構築フェーズで参加者が 構築した説明は,そのほとんどが先行説明であった (ハイライトなし条件:20名中18名,ハイライト あり条件:21名中19名). 先行説明構築フェーズで先行説明を構築し,なお かつ,説明再構築フェーズで1回以上説明を再構築 した参加者を対象に(ハイライトなし条件:16名, ハイライトあり条件:19名),説明再構築フェーズ で参照された事実(転換後説明を構築できた参加者 についてはその直前まで)について検討を行った. なお,説明構築の際に参照された事実は説明の記述 内容から判定した. 構築された説明における各事実の参照率を図4 に示す.事実(キーファクト,場所,時間)と実 験条件(ハイライトあり,なし)の効果について 2要因混合分散分析を行った.その結果,実験条 件および事実の双方において主効果は認められず (F (1, 33) = 0.40, ns; F (2, 66) = 0.55, ns),両要 因間の交互作用が有意であった(F (2, 66) = 13.52, p < .01).下位検定の結果,場所の事実とキーファ クトにおいて,ハイライトあり条件となし条件の間 に有意な差が認められた(p < .05, p < .01).ま た,ハイライトあり条件において,事実の単純主効 果が認められ(p < .01),Ryan法による多重比較 の結果,キーファクトと場所および時間の事実との 間に有意な差が認められた(p < .05, p < .05).ハ イライトなし条件においても,事実の単純主効果が 認められ(p < .01),キーファクトと場所および時 間の事実との間に有意な差が認められた(p < .05, p < .05). 以上の結果から,ハイライトあり条件で注意が喚 起されたキーファクトを積極的に再解釈しようと 試みていたことが分かる.一方,ハイライトなし条 件では,キーファクトに基づく説明は少なく,注意 が喚起されなければキーファクトを再解釈しないま ま,場所や時間といったその他の事実をもとに説明 がなされていたことが確認された. 次に,一度は先行説明を構築した参加者のうち, キーファクトを再解釈して転換後説明を構築できた 参加者の累積割合を図5に示す.各条件において転 換後説明を構築できた人数について,5分,10分, 15分の時点でそれぞれχ2検定を行った.その結 果,課題開始後5分の時点では条件間に有意な偏

(7)

4 説明の再構築において参照された事実の割合 図5 転換後説明を構築した参加者の累積割合 りは見られなかったが(χ2(1) = 2.07, ns),10分 後および15分後において有意な偏りが認められた (χ2(1) = 6.26, p < .05; χ2(1) = 7.79, p < .01). 以上の結果から,キーファクトへの注意の喚起に より,説明の再構築が促進されることが確認され, 仮説3が支持された.

5.

実 験 3

実験1および2を通して,先行説明と食い違う キーファクトが観察されると,(1)キーファクト 以外の事実に基づいた説明が行われること,また, (2)キーファクトへの注意喚起が説明の転換を促 すことが明らかになった.しかしながら,キーファ クトへの注意の推移がどのように変化していくのか については,明らかにされていない.そこで,実験 3では,先行説明が否定された後の,キーファクト に対する注意の推移,つまり,キーファクトへの注 意の抑制(仮説1)とその回復のプロセス(仮説4) を眼球運動測定により明らかにする.説明の再構築 中の眼球運動を捉えることで,事実に対する注意の 配分に関して,意識には上らない変化も含めて量的 に捉えることが可能になると期待される. 5.1 参 加 者 大学生31名が実験に参加した.眼球運動が取得 できなかった参加者4名,結末が与えられる前に正 しい説明と予測を行うことができた6名を除いた 21名を分析対象とした. 5.2 課 題 課題解決中の眼球運動を取得するため,課題文を 1画面内に納める必要から,提示される事実は,導 入と結末に加え,これまでの実験を通して説明の再 構築で重要な役割を担うことが明らかにされたキー ファクト,場所および時間に関する事実のみとし, 店内に関する事実(図2中の店内に関する記述)を 除外したものを用いた.なお,導入については前述 の理由から簡素にした上で,二人の床屋が仲の良い 友人同士であるという記述を追加した1). 5.3 手 続 き 実験は個別に実施し,課題に取り組んでいる間の 眼球運動を眼球運動測定装置(Tobii T60)により 記録した. これまでの実験と同様,本実験も,先行説明構築 と説明再構築の2つのフェーズによって構成され た.先行説明構築フェーズにおいて,参加者には, 床屋課題が提示され,結果の予測とその説明が求め られた.また,ここでのキーファクトに対する注視 を続く説明再構築フェーズでのキーファクトへの注 視に対するベースラインとして記録した. 続く,説明再構築フェーズの始めに参加者に結末 が示され,“ クイズの答えとして独創的で驚きのあ る説明 ”を構築することを求めた2).回答のタイミ ングは任意とし,説明が誤っていた場合は,正解で ないことを実験者が伝え,再度説明を試みるよう参 加者に促した.制限時間は15分で,説明再構築中 1)実験課題の正答率が低いこと(実験 1 および実験 2 の 結果を参照),および,転換後説明を構築するまでのプロ セスを捉える必要から,転換後説明の構築がより容易に なることを意図した. 2)1)と同様の理由から,説明の転換を促す教示を追加し た.

(8)

6 先行説明棄却後の各事実への注視の推移 の各事実への注視を記録し,転換後説明が構築され た場合はそこで終了した. 5.4 結 果 以下の分析では,仮説1および仮説4を検証す るため,先行説明が棄却された後,キーファクトに 対する注視の抑制とその回復の傾向について検討す る.なお,分析対象とした21名の参加者中11名 は平均377.4秒(SD: 192.9)で転換後説明を構築 した.以下では,先行説明の棄却後の5分間を分析 対象として,各事実に対する注視割合の推移を検討 する. 注視割合の算出は,問題中に現れるすべての文 を対象に,導入,場所,店主(キーファクト),時 間,および結末の各事実に対して興味領域(ROI: Region of Interests)を設定し,全ROIに対する 注視回数を元に算出した.なお,各事実に対する注 視割合は,各事実を構成する文字数をもとに正規化 を行った.また,キーファクトに対する注視割合の ベースラインとして,先行説明構築フェーズにおけ るキーファクトへの注視割合を同様に算出した. 仮説1および仮説4を検証するため,説明再構 築フェーズにおける各事実への平均注視割合につい て,以下の2点から検討を行った.1点目は,キー ファクトへの注視割合が先行説明構築フェーズにお けるキーファクトへの注視割合(ベースライン)と 比較して差異が生じていたかを明らかにする.2点 目は,キーファクトへの注視割合がその他の事実へ の注視割合と比較して差異が生じていたかを明らか にする. 先行説明の棄却後における場所,時間,そして キーファクトの各事実に対する平均注視割合の推移 を図6に示す.先行説明棄却後の5分間を1分毎 に分割し(t1≤ 1分, 1分< t2≤ 2分, 2分< t3 ≤ 3分, 3分< t4≤ 4分, 4分< t5≤ 5分),各 事実への平均注視割合を算出した.なお,5分以内 のいずれかの区間中に転換後説明を構築した参加者 のデータは,その区間を含め以降の分析から除外し た(除外した参加者はt3以降1名,t4以降2名, t5以降1名であった). 先行説明が棄却された直後のt1において,キー ファクトへの注視割合とベースラインを対象にt検定 を行った結果,有意差は認められなかった(t(20) = 1.63, ns).また,各事実への注視割合について1 要因3水準の参加者内分散分析を行ったところ,主 効果が有意であり(F (2, 40) = 9.13, p < .01), Ryan法による多重比較の結果,キーファクトおよ び時間に関する事実への注視割合よりも場所に関す る事実への注視割合が有意に高いことが確認された (p < .05). 次に,t2を対象として同様の分析を行った.キー ファクトへの注視割合とベースラインを対象にt 検定を行った結果,キーファクトへの注視割合が ベースラインよりも有意に低くなっていることが 確認された(t(20) = 2.93, p < .01).また,各 事実への注視割合について1要因3水準の参加者 内分散分析を行ったところ,主効果が有意であり (F (2, 40) = 4.50, p < .05),Ryan法による多重 比較の結果,場所および時間に関する事実への注視 割合に対してキーファクトへのそれが有意に低いこ とが確認された(p < .05). 続く,t3, t4および t5において同様の分析を

(9)

行った結果,キーファクトへの注視割合とベース ラインとの比較,および各事実への注視割合の比 較のいずれにおいても,差異は認められなかった (t3 : t(19) = −1.16, ns, F (2, 38) = 1.77, ns; t4 : t(17) = 0.22, ns, F (2, 34) = 0.03, ns; t5 : t(16) =−0.59, ns, F (2, 32) = 0.41, ns). 以上の結果から,先行説明が棄却された直後の t1では,キーファクトへの注視割合とベースライ ンとの間に有意差は認められなかったものの,場所 に関する事実への注視割合が他の事実と比較して 有意に高くなっていたことが明らかにされた.この 結果は,問題文の順序効果が影響していたものと考 えられる.つまり,3つの事実は,場所に関する事 実,キーファクト,そして時間に関する事実の順に 問題文中に位置していた.一方,続くt2において は,場所の事実の次に位置しているキーファクトへ の注視割合はベースラインのそれに比して有意に減 少していることが確認された.加えて,場所と時間 の事実に対してキーファクトへの注視割合が有意に 低くなっていることが確認された.t1とt2の結果 から,説明の再構築が求められる状況においては, 先行説明と矛盾するキーファクトへの注意が抑制さ れることが確認され,仮説1が支持された. 一方,t1, t2に続くt3以降においては,キーファ クトへの注視割合は,キーファクトのベースライン との比較,および場所と時間の事実に対する注視割 合との比較のいずれにおいても有意な差異は認めら れなかった.このことから,t1およびt2において 抑制されていたキーファクトへの注意が,t3以降 において回復する傾向にあることが確認された.こ の結果から,仮説4が支持された.

6.

考 察

本研究では,説明の転換におけるキーファクトの 再解釈に焦点を当て,新しい説明への転換におけ るキーファクトに対する注意の抑制とその回復のプ ロセスについて実験的な検討を進めてきた.その結 果,先行説明とキーファクトの矛盾が生じた後,説 明の再構築に至るプロセスにおいて,キーファクト に対する注意の抑制について,次の2点が明らかと なった.(1)先行説明とキーファクトの矛盾が生じ た後,先行説明と矛盾するキーファクトへの注意が 低下し,キーファクト以外の事実に注意が向けられ た(仮説1を支持).(2)先行説明と矛盾するキー ファクトに対して,実際には観察されていない仮想 的実体の導入を伴い,キーファクト以外の事実をも とに説明が行われた(仮説2を支持). また,キーファクトに対する注意の回復において は,次の2点が明らかとなった.(1)キーファク トへの注意を喚起することにより,説明の再構築が 促進された(仮説3を支持).(2)説明活動を通し て,キーファクトに対する注意の回復が認められた (仮説4を支持). 以下では,キーファクトに対する注意の抑制,回 復,および喚起の観点から考察を行う. 6.1 キーファクトに対する注意の抑制 科学の歴史においては,anomalous dataと呼ば れる従来の理論からは予期されない事象の観察が, 理論の転換を促す役割を担ってきた(Kuhn, 1962; Kulkarni & Simon, 1988; Dunbar, 1995).しか しながら,anomalous dataが観察されても,従来 の理論を即座に転換して新たな理論を構築するこ とは難しく,これまでの理論を守るために anoma-lous dataの再解釈が遅れることになる.このよう なanomalous dataに対する反応は,実験的にも確 認されており,仮説や理論に合わないデータの無視 や保留が行われ,すでに構築された仮説や理論を 保持する傾向にあることが知られている(Chinn & Brewer, 1993, 1998; Mason, 2001). 自身が有する概念に反する事実が観察された際に, それがどのように理解されるかのついては,文章理 解の観点からも検討が行われてきた.Chan (1997) は,中高生を対象とした発話プロトコルに基づく分 析から,説明文の読解における認知活動について, 新たな情報をそのまま受け入れるという低次のレベ ルから,知識を再構する高次のレベルまで,5つの レベルによって整理している.そして,レベルの低 い活動では,自身の素朴概念と対立する言明の無視 や,都合の良い解釈が行われることが確認されてい る.また,Lispon (1982)は,小学生を対象に文章 の読み取りと事前知識との関係を実験的に検討して おり,事前知識を有していない場合に比して,誤っ た事前知識を有している場合に,事前知識と矛盾す る内容の獲得が難しいことを示した. 本研究の結果から,先行説明と矛盾する事実であ るキーファクトが観察されると,(1)キーファクト への注意は抑制され(仮説1),それと同時に,(2)

(10)

キーファクト以外の事実や仮想的実体により先行説 明が維持され(仮説2),キーファクトの再解釈が 進まないことが明らかにされた.これらの結果は, anomalous dataや既有の概念と対立する事実の扱 いに関する先行研究における結果と整合的である. 加えて,本研究では,観察される数多くのデータ のいくつかが理論と不整合を起こすという状況で はなく,先行説明の根幹を揺るがし,なおかつ,そ の現象自体の明確な説明が求められる状況における キーファクトの再解釈を扱った.このような状況に 置かれた場合であっても,キーファクトへの注意が 抑制されるという事実は,すでに構築された理論に 合わないデータを再解釈することが如何に困難であ るかを示している. 6.2 キーファクトに対する注意の回復 本研究が対象とした説明の再構築過程は,先行説 明による制約からのある種の飛躍的思考を伴う説明 の転換という意味において,洞察問題解決に通じる 特徴を持つ.洞察問題解決においては,心的制約に 囚われた状態から,Aha! experienceに代表される ように飛躍的な問題解決が経験され,問題解決に至 るプロセスを言語化することは困難である(三輪・ 寺井, 2003).一方,その背後では,問題解決を阻 害する制約に基づいた失敗経験の積み重ねが,制 約の緩和を促し,制約を逸脱した行動の増加が認め られることが明らかにされてきた(Knoblich et al., 1999;開・鈴木, 1998;寺井他, 2005). 洞察問題解決と説明の再構築の類似性から,本研 究では,説明の転換が求められる状況においても, 初期の説明に囚われつつも,その背後では,一旦抑 制されたキーファクトへの注意が緩和されるプロセ スが存在することを予測した(仮説4).本研究に おける眼球運動を用いた注視点の分析から,一旦 抑制された先行説明と矛盾するキーファクトへの注 意が,回復する過程を捉えることができた.種々の 洞察問題を用いた洞察問題解決研究では,洞察問題 解決プロセスの理解や予測,そして,一般的な問題 解決プロセスとの差異に関する議論において,制約 緩和の理論が一定の成功を収めてきた.前述の議論 は,洞察問題解決研究における制約緩和の理論が, 説明転換という現象の理解においても有用であるこ とを示しており,制約緩和という観点の重要性を示 唆するものである. なお,実験2における注意の喚起による説明転 換の促進の結果から,説明転換の正否がキーファク トへの注視の差異として認められることが予想され る.しかしながら,実験3の参加者を転換後説明の 構築の正否の観点から,分析を行ったところ,キー ファクトへの注視割合に統計的な差異は認められな かった.今後は,参加者を増やす事により,意識的 な説明活動とキーファクトへの注意の推移の関係に ついてより詳細な検討を試みる予定である. 6.3 キーファクトに対する注意の喚起 すでに形成された仮説や概念に囚われずに,事実 に目を向けることは,たとえそれを明確に意識した としても困難であることが指摘されている(Bilalic, McLeod, & Gobet, 2008; Thevenot & Oakhill,

2008).例えば,ルール発見課題を用いたBilalic et al. (2008)の研究では,一旦解法を発見した参加 者に対して,より良い解法が存在するため,それを 探すことが求められた.その結果,参加者は顕在的 には初期の解法以外を探索していたと報告している にもかかわらず,潜在的にはすでに発見した解法に 関する事実に注意を向けてしまうことが明らかにさ れた.これは,意識的な努力に関わらず,一旦形成 された仮説や概念に従って行動が制限されることを 示唆している. 本研究では,先行説明と矛盾するキーファクトに 対する注意を喚起することによる,キーファクトの 再解釈の促進(仮説3)について検討が行われた. その結果,先行説明と矛盾するキーファクトに注意 を喚起した場合,そのような注意の喚起が行われな かった場合と比較して,課題の中盤から終盤にかけ てはキーファクトの再解釈に基づく説明の転換が進 んだ一方,序盤ではそのような差は認められなかっ た.これは,キーファクトへの注意を喚起してもな お,先行説明に矛盾するキーファクトへの注意が抑 制されていた可能性を示唆している.

7.

ま と め

本研究では,説明の再構築のプロセスを対象に, 特に,説明に基づく予測を覆す決定的な事実である キーファクトへの注意がどの様に変化し,その再解 釈が進められるのかを実験的に検討してきた.その 結果,キーファクトの再解釈は後回しにされ,その 他の事実や仮想的実体に注意が向けられこれまで

(11)

の説明を維持することが確認された.そして,先行 説明が棄却された後,一旦はキーファクトへの注意 が抑制される一方,説明を繰り返す中で,キーファ クトへの注意が回復していく過程が認められた.ま た,キーファクトへの注意の喚起が説明の再構築を 促すことが確認された.今後は,説明の再構築とい う意識的で論理的な思考とその背後で進む説明転換 に向かう準備過程という視点から,更なる検討を進 める予定である.

 文 献

Bilalic, M., McLeod, P., & Gobet, F. (2008). Why good thoughts block better ones: The mech-anism of the pernicious Einstellung (set) ef-fect. Cognition, 108 (3), 652–661.

Boring, E. G. (1930). A new ambiguous figure. American Journal of Psychology, 42, 444– 445.

Campion, N. (2004). Predictive inferences are represented as hypothetical facts. Journal of Memory and Language, 50 (2), 149–174. Chan, C. (1997). Knowledge building as a

media-tor of conflict in conceptual change.Cognition and Instruction, 15 (1), 1–40.

Chinn, C. A., & Brewer, W. E. (1993). The role anomalous data in knowledge acquisition: A theoretical framework and implications for science instruction. Review of Educational Research, 63 (1), 1–49.

Chinn,C.A.,&Brewer,W.E. (1998). An empirical test of a taxonomy of responses to anomalous data in science. Journal of Research in Sci-ence Teaching, 35 (6), 623–654.

Clary, E. G., & Tesser, A. (1983). Reactions to unexpected events: The naive scientist and interpretive activity. Personality and Social Psychology Bulletin, 9, 609–620.

Dunbar, K. (1995). How scientists really rea-son: Scientific reasoning in real-world labo-ratories. In R. J. Sternberg, & J. Davidson (Eds.), The nature of insight, 365–396. MIT Press.

Duncker, K. (1945). On problem-solving. Psy-chological Monographs, 58 (270), 1–113. Gardner, M. (1978). Aha! insight. New York: W.

H. Freeman & Co.

Graesser, A. C., & Clark, L. F. (1985). The gen-eration of knowledge-based inference during

narrative comprehension. In G. Rickheit, & H. Strohner (Eds.), Inference in text process-ing. Amsterdam: Northholland: Elsevir. Graesser, A. C., Singer, M., & Trabasso, T.

(1994). Constructing inferences during nar-rative text comprehension. Psychological Re-view, 101 (3), 371–395.

Grant, E. R., & Spivey, M. J. (2003). Eye move-ments and problem solving: Guiding atten-tion guides thought. Psychological Science, 14 (5), 462–464.

Hanson,N.R. (1958). Patterns of discovery. Cam-bridge University Press.

開 一夫・鈴木 宏昭(1998). 表象変化の動的緩和理 論: 洞察メカニズムの解明に向けて. 『認知科 学』, 5 (2), 69–79.

Jastrow, J. (1900). Fact and fable in psychology. Boston: Houghton, Mifflin.

Knoblich, G., Ohlsson, S., Haider, H., & Rhe-nius, D. (1999). Constraint relaxation and chunk decomposition in insight problem solv-ing. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 25 (6), 1534–1555.

Knoblich, G., Ohlsson, S., & Raney, G. E. (2001). An eye movement study of insight problem solving. Memory & Cognition, 29 (7), 1000– 1009.

Kuhn, T. S. (1962). The structure of scientific revolutions. The university of Chicago Press. Kulkarni, D., & Simon, H. (1988). The processes of scientific discovery: The strategy of exper-imentation. Cognitive Science, 12 (2), 139– 176.

Lispon, M. Y. (1982). Learning new information from text: The role of prior knowledge and reading ability. Journal of Reading Behavior, 14 (3), 243–261.

Magliano, J. P., Dijkstra, K., & Zwaan, R. A. (1996). Generating predictive inferences while viewing a movie. Discourse Processes, 22 (3), 199–224.

Mason, L. (2001). Responses to anomalous data on controversial topics and theory change. Learning and Instruction, 11 (6), 453–483. Mason, S. F. (1953). A history of the science –

Main currents of scientific thought. London: Lawrence & Wishart Ltd.

Rumelhart, D. E., & Ortony, A. (1977). The representation of knowledge in memory. In

(12)

R. C. Anderson, R. J. Spiro, & W. E. Mon-tague (Eds.), Schooling and the acquisition of knowledge, chap. 4, 99–135. Hillsdale, NJ: Lawrence Erlbaum Associates.

Seifert, C. M., & Robertson, S. P. (1985). Types of inferences generated during reading. Journal of Memory and Language, 24 (4), 405–422. Simon, H. A. (2000). Discovering explanations. In

F. C. & Wilson R. A. Keil (Ed.), Explanation and cognition, 21–59. Cambridge, MA: MIT Press.

Thevenot, C., & Oakhill, J. (2008). A general-ization of the representational change theory from insight to non-insight problems: The case of arithmetic word problems. Acta Psy-chologica, 129 (3), 315–324.

Vosniadou, S., & Brewer, W. F. (1992). Mental models of the earth: A study of conceptual change in childhood. Cognitive Psychology, 24 (4), 535–585.

Watts, D. M., & Zylberstan, A. (1981). A survey of some children’s ideas about force. Physics Education, 16 (6), 360–365. 寺井 仁・三輪 和久・古賀 一男(2005). 仮説空間と データ空間の探索から見た洞察問題解決過程. 『認知科学』, 12 (2), 74–88. 村上陽一郎(1980). 『動的世界像としての科学』. 新曜社. 三輪 和久・寺井 仁(2003). 洞察問題解決の性質–認 知心理学から見たチャンス発見–.『人工知能学 会誌』, 18 (3), 275–282. (Received 10 Feb. 2014) (Accepted 28 March 2015) 寺井 仁(正会員) 2006年名古屋大学情報科学研究 科博士後期課程修了.博士(情報 科学).同年名古屋大学附属図書 館研究開発室助教,2008年東京電 機大学情報環境学部助教,2010年 名古屋大学大学院情報科学研究科 / JST CREST特任准教授を経て,2015年4月よ り,近畿大学産業理工学部准教授.洞察,創造性, 科学的発見,予期しない現象の原因同定,説明の再 構築など表象の転換を伴う高次認知過程に興味を 持っており,心理実験および計算機モデルの両面か ら研究を進めている. 三輪 和久(正会員) 1984年名古屋大学工学部卒業. 1989年同大学大学院工学研究科 博士課程修了(情報工学専攻).工 学博士.1989年同大学情報処理教 育センター助手,1993年同大学大 学院人間情報学研究科助教授を経 て,2004年より名古屋大学大学院情報科学研究科 メディア科学専攻教授.1991年から1992年,米 国Carnegie Mellon University, Dept. of Psychol-ogy, visiting assistant professor.認知科学,人工 知能,教育工学の研究に従事.とりわけ,発見,創 造,洞察,協同など,人間の高次思考過程に興味が ある. 松林 翔太 2010年名古屋大学情報文化学部 卒業.2012年名古屋大学大学院情 報科学研究博士前期課程修了(メ ディア科学専攻).修士(情報科学). 現在,株式会社NTTドコモ勤務. 説明の再構築における認知過程に 関心がある.

図 6 先行説明棄却後の各事実への注視の推移 の各事実への注視を記録し,転換後説明が構築され た場合はそこで終了した. 5.4 結 果 以下の分析では,仮説 1 および仮説 4 を検証す るため,先行説明が棄却された後,キーファクトに 対する注視の抑制とその回復の傾向について検討す る.なお,分析対象とした 21 名の参加者中 11 名 は平均 377.4 秒( SD: 192.9 )で転換後説明を構築 した.以下では,先行説明の棄却後の 5 分間を分析 対象として,各事実に対する注視割合の推移を検討 する

参照

関連したドキュメント

これらの先行研究はアイデアスケッチを実施 する際の思考について着目しており,アイデア

本節では本研究で実際にスレッドのトレースを行うた めに用いた Linux ftrace 及び ftrace を利用する Android Systrace について説明する.. 2.1

(ページ 3)3 ページ目をご覧ください。これまでの委員会における河川環境への影響予測、評

③ 新産業ビジョン岸和田本編の 24 ページ、25 ページについて、説明文の最終段落に経営 者の年齢別に分析した説明があり、本件が今回の新ビジョンの中で謳うデジタル化の

То есть, как бы ни были значительны его достижения в жанре драмы и новеллы, наибольший вклад он внес, на наш взгляд, в поэзию.. Гейне как-то

この点について結果︵法益︶標準説は一致した見解を示している︒

妥当性・信頼性のある実強度を設定するにあたって,①

KK7 補足-028-08 「浸水 防護施設の耐震性に関す る説明書の補足説明資料 1.2 海水貯留堰における 津波波力の設定方針につ