土壌の基本的物理性による力学性・構造性の予測
山田宣長NUMERICAL ESTIMATION OF MECHANICAL AND
STRUCTURAL PROPERTIES OF SOIL BASED ON
THE FUNDAMENTAL PHYSICAL PROPERTIES
NoriyoshiYAMADA
Using36soilsamplesinKagawaprefbcture,autherstudiedontheapplicabilityofmeasured
valueoffundamentalphysicalpropertiesofsoilto estimateunknown mechanicalandstruCtural properties“
Multipleregressionanalysis,uSinglOfactor−SOf’fundamentalphysicalpropeTtiesofsoilasthe
predictor variables,and both6fActors ofsoilmechanicalproperti占s and9factors ofsoil
StruCtur・alpropertiesasthecliterionvariables,ShowsthefbllowlngreSultsII
(1)Maximum drγdensityandoptimummoisture contentcan beestimated atO.1%levelby
factorsconcernedwithsoilconsistency.
(2)Internal魚iction coefficient,COhesion and uncon貞ned compressive strength ofsoilcan be estimatedatl%levelbyfactorsconcernedwithsoilgradation”
(3)pFrmoisturecharacteristicscanbe estimatedatl%1evelbytwovaliablesamongthree;
thatsaresandfiiction,1iquidlimitandplasticltyindexu
(4)Each maximum dry density and effbctive soilmoisture a‡einterpreted gr・aPhically on Plasticitychartandtriangularsoilclass浦catiomchart,reSPeCtively‖
(5)Allmechanicalpropertiesexceptshearstrength,anda11struCturalpropeTtiesexcepthighly
decomposable organic matter can be estimated numerically by fundamentalphysical propertiesofsoil巾 キーワード:土壌の物理性,土壌構造,土の力学性,重回帰分析.
Ⅰ 緒
土壌が非常に複雑な物理・・工学的性質を有することは古くから知られており,実験方法として.IIS に定められたものは,基本的物理性や力学性を中心にして12種類にも及んでいる.また農業土木分 野への応用上不可欠な土壌の構造性に関する項目など,.HSに定められていない重要なものも少な くはないり これらのうちで基本的物理性に関する項目は,ほとんどの報告書等で必須の基準測定項目であり, 比較的簡便な方法によるものが多いが,力学性・構造性に関する項目の中には,①測定や計算に長 時間を要するもの,②専門的な技術や高価な器械を必要とするもの,③規格や適用性に不十分な点 があるもの,など問題点をもつものが多く,実用上の弊害となっている. 近年土壌肥料学会では,比較的簡単な物理性や土壌国有の性質から複雑なパラメ・一夕や性質を求 める「土壌翻訳関数」が提唱されており,ここではその趣旨を活かして,土壌の基本的物理性によ る力学性や構造性の予測を行い,それによる省力化の可儲性について検討を加えた.香川大学農学部学術報告 第50巻1号 50
Ⅱ 土壌翻訳関数に関する従来の主な研究
土壌翻訳関数(Pedotransfer・function)とは,比較的簡単な物理性や土壌固有の性質から複雑なパ ラメ一夕や性質を求める関数と定義されている.. 土壌の持つ諸特性を簡単に表示する試みは古くから行われており,その結果とくに物理因子相互 間の関連性がある程度明らかとなっている. たとえば横瀬・山田1)は,実験報告書の簡略化を目的として砂質土の理工学性実験結果の相互関 連性を検討し,13の物理ひ工学的因子のクラスタ分析および主成分分析の結果から,締固め¶力学 特性を粒度,コンシステンシーなどの基本的物理性で判定している小 それによると,pdⅧXをY,L..L小をⅩとした場合 Y=−0..0132Ⅹ+2け20(r・=0.863***) 也n¢をY,砂分をⅩとした場合 Y=0..00907Ⅹ+0..08(r・=0.655***) など,土壌のいくつかの力学的特性が基本的物理性によって表示できた.その意味においてこれら の一∵次式は,−−∴種の土壌翻訳関数とみなすことができる.. 最近の研究において張ら2)は,水分ポテンシャル理論が複雑な間隙形態に関係なく,水のエネル ギ状態と畳との関係を水分保持曲線として提供することを利用して,関東ロ−ムの表層土の土壌水 分特性曲線に対七て VanGenuchten 式が最もよい近似を与えることを示した.. それによると,飽和度は S=〔1+(ah)ナm で表され,a,n,mは定数である.. そのときスケ−リング係数に影響する主な因子は,土壌の間隙率,強熟減量,礫分合畳であった. 張ら3)はさらに圃場における水分保持曲線の空間変動をスケーリングによって処理した. それによると,同一土層の土壌構造の相似性を仮定すると,水分保持曲線のばらつきはマトリッ クポテンシャルに−・定のスケ−リング係数を乗じて操作でき,唯一・の基準水分保持曲線が求められ る− なかでもGaIdneI式 β=Ch−d (βは体積含水率,hは水のサクション:cm・H20) は,最も適当な推定式であった. 神山・大塚4)は土壌情報システムを用いて土壌特性億を作成するに際して,仮比重(乾燥密度) から有効水分を算定することを試みた.. それによると,両者は砂分が60%以下の場合には Y=−0.189Ⅹ+0..346 60%以上の場合には Y=−0叫268Ⅹ+0.590 で表され,有効水分量は土壌型,全炭素量,粘土の非晶質含量とは直接関係がなかった. 宮崎・西村5)は,固相特性長と間隙特性長の定義により形状係数を導入し,乾燥密度関数を定義 した上で,空気侵入量と飽和透水係数のスケーリングを行った.. その結果,空気侵入量と透水係数が,容積重と真比重の関数になることがわかった. さらに団粒土へのモデルの拡張を通じて,実際の土壌のスケーリングに応用し,従来のKozeny− Carmanの式よりも優れていることを示した. これらの結果を総合的に判断すると,土壌翻訳関数における説明変数としては,測定が容易な土壌の基本的物理性に加え,構造を表すマクロな因子としての仮比重(乾燥密度)が非常に重要であ るものと考えられる. ただし,本研究においては仮比重の借は三相分布のうちの固相率で代用している.すなわち 仮比重=固相率×土粒子の密度 であり,土粒子の密度は供試試料のほとんどが2”5∼2..7(g/cm3)と変動幅が小さいことから, 十分代用が可能であるものと判断した.
Ⅲ 研 究 方 法
解析は香川大学農学部農地工学研究室所有の,香川県の土壌の物理性デ」夕べ1−スに記載されて いる36種類の土壌を対象としたけ その測定項目は表−1に示す 表−1 予測に用いた測定項目 基本的物理性 ①土粒子の密度(t/m3) ②砂分 (%) ③シルト分(%) ④粘土分 (%) ⑤液性限界(%) (参固相率(%) ⑥塑性限界(%) ⑨液相率(%) ⑦塑性指数 ⑲気相率(%) ⑪締国儀大密度(t/m3) ⑲最適含水比 (%) ⑩練返団粒 (%) ⑲耐水性団粒 (%) ⑲非耐水性団粒(%) ⑳綿毛化団凝 (%) ⑳平均質盈直径(mm) ⑬内部摩擦係数 ⑮セン断強度(105pa) ⑲粘着力(10∼pa) ⑯−・軸強度(105pa) 力学性 ⑳pfO..0水分量(%) ⑳pfl..5水分畳(%) ⑳pF3…0水分量(%) ⑳有効水分量 (%) ←(共通項目)† ⑳高分解性有機物(%) ⑳強熟減量 (%) ⑳BOD (ppm) 構造性 測定項目のうち基本的物理性は粒度,コンシステンシーおよび三相分布に関連する項目とし,力 学性は締固め試験,勢断試験および−・軸圧縮試験にそれぞれ対応する各項目をとっている.また構 造性は団粒試験,pf試験,有機物含有量試験に対応し,そのうち有機物含有量試験に関連する項 目は基本的物理性の項目としても採用している. Ⅲで論述した土壌翻訳関数の概念を活用すると,多くの土壌計測,調査などで行われる,いわば 必須の測定項目で,実験自体が比較的簡便な基本的物理性の数倍から,目的に応じて選択され,実 験自体が比較的煩雑な力学性や構造性を統計的手法により数量的に予測することが重要であるもの と考えられる. 具体的解析法としては垂回帰分析を用いた.すなわち表−1からわかるように,基本的物理性は 10+3項目,力学性は6項目,構造性は9+3項目であり,(》∼⑦の基本的物理性を説明変数とし て⑪∼⑲の力学性(目的変数)を,(∋∼⑲と⑳∼⑳を説明変数として⑩、・⑳の構造性(目的変数) をまた①∼⑲を説明変数として⑳∼⑳を,それぞれ重回帰式で表した. 有意性の判定は5%水準を基準とし,実用上の簡便性に配慮して説明変数は3個以内にとどめた.香川大学農学部学術報告 第50巻1号 52
Ⅳ 結果ならびに考察
(1)重回帰分析結果 垂回帰分析結果は表−2および表−3に示すとおりである.. 表中の数億は有効数字3桁で表し,相関係数の有意水準は*5%,**1%,***0.1%である.ま た−は,有意な垂回帰式が得られなかったことを示している. 説明変数の選択にあたっては,それ以上数を増加しても相関係数が向上しない場合には2個以内 であっても打切りとした.すなわち,⑬内部摩擦係数は②砂分の−・次式で表されているが,取扱と しては重回帰式の特例として−算出された結果である。 表−2には力学性を基本的物理性で表した場合の重回帰式が示されており,セン断強度(内部摩 擦係数と粘着力との和)を除いてすべて予測が可能である.とくに締固めに関する2項目(⑪, ⑫)はすべてコンシステンシ−(⑤,(む)で,また強度に関する3項目はすべて粒度(②,③, ④)によって予測が可能である点に特徴がある. 唯一予測不能であった⑮セン断強度についても,⑬内部摩擦係数と⑲粘着力とを合計することに よって数量的に予測が可能となる. このように土壌の力学性は基本的物理性によってかなり適正な予測が可能であるが,−・般的には 表・−2に示された傾向とは異なり,締固めに関する項目を粒度で,また強度に関する項目をコンシ 表−2 基本的物理性による力学性の予測 目的変数 説明変数 重回帰式 相関係数 ⑪絆園最大密度 ⑤LL 圧)門 Y‖=−0〝0170Ⅹ5+0〟00615Ⅹ7+2,.27 r=0.871… ⑲最適含水比 ⑤LL(むPI Y.z=0.677Ⅹ5−0.395Ⅹ7−2。46 r=0..816… ⑬内部摩擦係数 ②砂分 Yl。=0..00907Ⅹ2+0小0839 r=0‖655… ⑯粘着力 ②,(乱④ Y,。=0.0277X2+0..0385Ⅹ。+0..0365Ⅹ。−2..59 r・=0り469−● ⑮セン断強度 ⑩−・軸強度 ②,③,④ Y扉=−0.127Ⅹ2−0.0976Ⅹ。−0.106Ⅹ。+13.1 r=0.555… 表−3 基本的物理性による構造性の予測 目的変数 説明変数 意図帰式 相関係数 ⑳練退団粒 ②砂分 ⑦pI ⑲耐水性団恕 ①,③,⑨ ⑲非耐水性団粒 ①,⑧,⑳ ⑳綿毛化団粒 ⑦pI⑨液相 ⑳平均質量膚径 ②,④,⑧ ⑳pfO“0水分量 ②砂分 ⑤LL ⑳pF1..5水分量 ②砂分 ⑦pI ⑳pf3.0水分量 ⑤LL ⑦pI ⑳有効水分量 ②,③,④ Y】7=0.115X2+0.180Ⅹ7−8.95 Y柑=66..6Ⅹ1+0い238Ⅹ2+0一.596Ⅹ9−191 Y】9=23.6Ⅹl+0.00464Ⅹさ+0.254Ⅹ㍗−57.8 Y20=0.00967Ⅹ?+0.0157Ⅹ9−0.280 Yg∫=−0..ユ94Ⅹ2−3..03Ⅹ。+1“06Ⅹ∂+ユ22 Y22=0..238Ⅹ2+1り15Ⅹ5−9…50 Yz3=−1.19Xz+0い370Ⅹ7+112 Yz4=0‖402Ⅹ5+0..282Ⅹ7−3..45 Y25=−0..451X2+0..382X3+0..0960Ⅹ。+38..5 r=0.857●−● r=0.780… r=0681− r=0小845●● r=0.662● r・=0.949…● r=0.965… r=0..963…● r=0..979●●● ⑳高分解有機物 ⑳強熟減量 ②,⑥,⑧ ⑳BOD ②,①,⑦ Y27=−0.0623Ⅹz+0..143X6−0..0654Ⅹ8+10.1Ⅰ・=0..767■■ Y28=0..269Ⅹ2−1い15Ⅹ。+0..324Ⅹ7+3り09 r=0..750●●ステンシーで説明している場合が多くみられる(6).したがって表−2の結果は香川県の土壌に対し
ては適合性が高いが,その他の土壌,とくに火山灰土や重粘土など,今回の僕試試料に含まれてい
ない種類の土壌に対する適用に際しては注意する必要がある.
表−3には構造性を基本的物理性で表した場合の畳回帰式が示されており,⑳高分解性有機物を
除いてすべて予測が可能である.⑳高分解性有機物が予測不能であったのは,植生などの土地利用の差異が大きな影響を及ぼして
いるためと考えられ,その他の項目についてもpF特性に関連する4項目(⑳,⑳,⑳,⑳)を除
いて有意水準がやや低い.これは土壌の構造性がかなり人為的作用によって変動するものであるこ
とを示している.とくに有機物については,基本的物理性を測定する際の前処理段階において除去されるのが−・般
的であり,構造性に対する有機物の影響が予測において欠如し,その結果有意性が低下しているも
のと考える.また今回使用したコンシステンシーの測定には風乾土壌が使用されているが,改定JISの測定法
では原則として生土を使用することになっており,今後のデータにおいて適合性の向上が期待でき
る. (2)土のエ学的分類の応用土壌の基本的物理性の測定結果は−・般に土のエ学的分類に利用され,塑性図や三角座標によって
図示されている.そこで塑性図や三角座標による力学性や構造性の簡易予測を試みた.それらのう
ちで塑性囲(⑤液性限界+⑦塑性指数)による⑪締固最大密度の予測図を図−1に,また三角座標
(②砂分+③シルト分+①粘土分)による⑳有効水分量の予測図を図−2に,それぞれ示す.
図−1からわかるように,液性限界と塑性指数の数億から締固最大密度が予測でき,たとえば液
性限界が60%,塑性指数が30%の土壌は締固めにより最大1.4t/b3の密度が得られる・
dI姦悪壁割 20 40 60 80 100 120 液性限界WL(%) 図−1 塑性図による練固め密度の予測香川大学農学部学術報告 第50巻1号 54