香川大学農学部学術報告 第33巻 罪1号 59∼63,1981
製造条件が和三盆糖の一般成分に及ぼす影響
松 井 年
行EFFECTS OF REFIN工NG CONDIT工ONS ON CHEMICAL
COMPOS工TIONS OF WASANBON−TO SUGAR
ToshiyukiMATSUI
Colorintensityandchemicalcompositions suchas reducingsugar,freeaminoacid,titratableacidity, and3−deoxyglucosone(3DG)were determinedin WasanbonNtO prOducedin modelsysterns by mixing With centrifuging granulatedcanesugar and Wasanbon−tO mOlasses.
rhe data obtained wer・eanalyzed statistically by the three wayclassi董icationmethodforthepurpose Of土inding whether the changesin the qualities o董Wasanbon−tO Were Significantly affected by such factorsascentrifugation time(A),mOistureof Shiroshita−tO(Pre−refined sugar)(B),and numberof Centrifugalrotations(C).
The ef董ect of moisture of Shiroshita−tO(B)showed significantly differentatl%1evelon allthe chemical compositions examined in this report
TheIe Were nO Significant differences among colorintensities o董Wasanbon−tO after processed by di董ferent re董iningprOCeSSeS. 和三盆糖を遠心分蜜楷製法で調製後,色度,一顧成分一還元糖,遊離アミノ酸,酸度と3−デオキシグルコソンを 定慮した. 得られたデー一夕ーを遠心分離時間(A),白下糖水分含量(B)と回転数(C)などの揖子の影響度見るために, 3元配置法で分散分析した. 白下糖の水分では,この報告のすべての一・般成分で1%水準で有意差を示した. 和三盆糖の色虔は有意差がなかった. 緒 和三盆糖の糖製法は,製造された白下糖を原料にして加圧分蜜する「押し」と水で練ってさらしていく「研ぎ」の 2工程をくり返す手押し法(18闇紀後半から現在まで行なわれている製造法で,現在では極上品に限られている) と,!∃下糖を遠心分離機で分蜜する遠心分蜜法に大別される.手押し法による和三盆糖製造に関する総説(1ト(8),分 析(4)∼(8)についての報告はあるが,遠心分蜜法による和三盆糖製造に関しては,検討されていない..そこで,組成の 均一・な白下糖を得るために,本報ではグラニ.ユ・一帖に廃糖蜜を加えて白下糖を製造した小 さらにこの自下糖を遠心分 蜜して和三盆糖を作り,遠心分離機の回転数,回転時間,【〕下糖の水分含鼠が和三盆糖の一・般成分に与える影特につ いて検討したので報告する. 試料および実験方法 1.試料の調製 市販グラニュー糖2.5kgを入れた5Jのど−カーに水1/を加えて,120℃のオイルバス中で充 分に溶解した.別々のビーカーに廃糖蜜(1978年2月製)25(癌を加えて水分含盟約14%,9%,7%まで蔚詰め た.10分間撹拝後60℃のオイルバスに保存し急冷を防ぎ,さらに,室況で放冷し白下糖を得た.調製された自下糖 和三盆糖に関する研究(第15報)
香川大学農学部学術報告 罪33巻 第1署(1981) 60 を50gずつ布袋に入れ,所定時間,所定回転数で遠心分離した.
2.・一般成分 嗣報(4)(5)(8)に従って,水分,灰分,還元糖,ショ糖,酸度,遊離アミノ酸(アスパラギンとして換
算),3一デオキシグルコソン(以下3DGと略す)を定温した. 線度分布は,2,500rpmで30分間分蜜処理後前報(5)に従った. 3.測定値の解析(9)自‘下糖の中の砂糖結晶は偽縮も多く不安定な状態のものと考えられる.そのため製造盾後と 時間が経過した後では,結晶状態が異なってくるので,不純物の付着状態も異なってくる.白下糖製造後,初めに分 蜜した和三盆糖と,最終分蜜との間には時間的に差がある.従って,白下糖調製時に十分に結晶を安定させていない ため,遠心分離機にかける脾序をランダムにして,誤差を統計的に均一イヒすることが妥当と考えられる.遠心分蜜械 精製の場合は,遠心分離機の操作法と自下糖の水分含藍の影響が主として考えられるので,3元配置分析により検討 することにした.すなわち,遠心分離機回転時間(A),自下糖水分含鼠(B),遠心分離機回転数(C)の3因子とし,A因子はAl;25分,A2;30分の2水準,B因子はBl;13.18%,B2;9・14%,B3;6・93.%の3水準・
C因子はCl;2,250rpm,C2;2,500rpmの2水準とした.水分含鼠Bl∼B3のものを各々1回製造し4つの 布袋に各々自下糖50gを入れ,所要時間,所要回転数で遠心分離した・分蜜した和三盆糖を40℃の定温乾燥機で12時 間乾燥し,分析に供した.分析は1試料につき2回分析した.得られた測定値を2回のくり返しのある3元配置法に ょって分散分析を行なった.なお,プログラムほ農林研究センター報告(10)のものを使用した. 実験結果および考察 調製した自下糖の成分分析地名々3回の平均値堰Tablelに示した.粗皮分布は100gの自 ̄F糖を分葱後,エクノ Tablel.Composition of Bl,B2,and B3Shiroshita−tO(%onwet basis)
Bl 】 B2 ト B3
6.93 0.29 6.92 0.06 0.06 87.60 0.14 30.0 1l.2 14.0 *Calculated as glucose**Calculated as acetic acid ***Calc111ated as asparagine
Table2.Particle distribution of Bl,B2,and B3Shiroshita−tO after centrifugation
SizeofmeshIBllB2
B3 1*GranulatedSugar
65mesh(0.208mm),35mesh(0.417mm),16mesh(0.991mm), 9mesh(1.981mm)
松井年行:御三盈傭の一般成分に及ぼす影響 61
ール処理し,違鼠%で示し各試料3回の平均で示した(Table2).
1)還元糖に及ぼす影響 分析されたすべての定温俵をTabユe3に示した.還元糖の分散分析値をTable4に示 した.
Table3.Quantitativechanges of reducingSug−ar,i‡ee amino acid,titratable acidity,and3−deoxyglucosone duringCentIifuging process
(mg/100gOn drybasis) Titratable acidity
Measured value 一
高㌃千忘言孟
Reducing sugar t Free amino acid
3HDeoxyglucosone Measured value Measured value三重]二重垂
Measured value FactoT
A B C FirstSecond First 】Second
420 1730 2380 920 2220 2580 860 1650 2200 420 2180 1 1 1 1 1 2 1 2 1 1 2 2 1 3 1 1 3 2 2 1 1 2 1 2 2 2 1 2 2 2 2 3 1 2 3 2 14.00】 ユ4.43 4.67 4.68 9.42 13.45 5.68 −
−.二
2250llOり09
2820 童 18.00 78.41 47.88 64.86 68.11 48.27 ア2.64 68.11 5.67 800 1530 2250 560 2220 8・04i 8・71 18.13 ≧14.10 33.61ト 73.64 2420 岳 2090】12.44 Al:25min Bl:13.18% Cl:2,250Ipm A2:30min B2:9.14% C2:2,500‡pm B3:6.93%Table4.Analysis of variance table of reducingSugaI Factor l ss J df l ms I Fo 0.08 6.25 ().09 0.27 0.24 7.33 0.01 0.13 14小40 7.64 * 284.27** 8.09 * 12.27** 21.82** 333.09** 0.36 A B C AXB AXC BXC AXBXC EIfOf Total 1 2 1 2 1 2 2 12 23 0、,08 3.13 0.09 0.14 0.24 3.66 0.005 0.01
A:Centrifugationtime B:Moisture o董Shiroshita−tO
C:Number o王rotations *:Significant at5%1evel **:Signi壬icant atl%1eve1 3因子ともその主動果は有意で,lT下糖合有水分(B)は1%水準で,逆心分離機伺転灘(C)と遠心分離機収用 時間(A)は共に5%水準で有意となった. 遠心分離機使用時問による還元糖の可Z均残留量はAl(25分)で1.724g,A2(30分)で1.606gであった.回転 時間を5分間延ばすことで0“118g(5%水準,0.092g)という有意な滅少を示した. 自下糖含有水分による還元塘の平均残留盈は,Bl(水分13.18%)で1.120g,B2(水分9.14%)で1.527g,B
香川大学農学部学術報告 滞33巻 解1号(1981) 62 3(水分6.93%)で2.347gとなった.水分をB3からB2にすると還元糖減少盛・は0.820g(1%水準,0.159g), 9.14%から13.18%にすると0.407g■減少するという有意な減少を示した. 遠心分離械同幅数による還元糖の平均残留量はCl(2,250rpm)で1.726g,C2(2,500rpm)で1.604gとなっ た. また2因子交月.作用BXCが1%水準で,AXB,AXCが5%水準で有意であった.常法によりそれぞれについ て1元配置法による憤交分解(11)(12)(1$〉を行ない各因子,すなわち水分含盈と回転数,回転時間と水分含藍,回転時間 と回転数の関係について回帰式を調べた.AXBのうちのAl,BXCのうちのClだけに宙線関係が5%水準で成 立」Jたが,それ以外は砥線関係,2次曲線関係とも成立せず,全体の傾向を数式化できなかった. 2)遊離アミノ酸に及ぼす影響 遊離■アミノ酸の分散分析値をTable5に示した.主効果に関して言えば,自下 糖の水分合盈だけがl%水準で有意差を示した.
Table5.Analysis of varianCe Of free amino acid,titratable acidity, and3−deoxyglucosone
jご:、・し・ご】.、汗..、ここ.・i.ミ・ニー亘,!こl、満∴止廿.・判り:く、・h;肌用..・
FactoI 弓 ms A B O一・83 / 47い54粕AB
lO.64 * BxC 133.09**AxBxC /
l・57 m S mS 0.20 147.13** 29.30 2.3() 1.41 450.70** 12“09 1.34 992.10** 1.59 106.64 40.22 1020.45** 4.19 A:Centrifugation time B:Moisture of Shiroshita−tOC:Number offOtations
Degree of freedoms are the same as Table4.
*:Significantat5%1evel **:Significant atl%1evel 自下糖含有水分による遊離アミノ恨の51∠均残留過は,Blで6.6mg,B2で9.8mg,B3で11.3mgとなった. 水分をB2からBlにすると遊離アミノ酸減少鼻は,3.2mg(1%水準,2.3mg)となり有意な減少を示した.し かし,B3からB2にしても1.5mg(5%水準,1.6mg)となり有憩な減少を示さなかった.交互作用BXCは1 %水準で,AXCは5%水準で有意となったが,頂交分解の紙果は,敵組慄係,2次曲線関係とも成立しなかった. $)酸度に及ぼす影響 酸度の分散分析結果をTable5に示した.主効果のうち自下糖の水分含騒が1%水準で, 遠心分離機回転時問が5%水準で有意となった. 自■下糖含有水分による酸度の・くF均残留駄はBlで22.4mg,B2で26.1mg,B3で31。Orngであった.B3から B2にすると酸度減少ノ鋸ま4.9mg(1%水準,34mg),B2からBlでは3.7mgとなり,各々有意な減少を示し た. 遠心分離機回転時開化よる酸度の平均残留猫ほCiで27.6mg,C2で25.4mgとなった.ClからC2にすると 酸度減少毘は2.2mg(5%水準,2小Omg)となり,有意の減少を示したり 2因子交互作用BXCは1%水準で有意 となったが,酷交分解の結果Cl,C2は直線関係,2次曲線関係とも成立しなかった. 4)3−デオ車シグルコソンに及ぼす影響 3DG合環の分散分析酢果をTable 5に示した.主効果のうち自下 糖の水分合堀だけが1%水準で有意差を示した. 自下糖含有水分による3DGの平均残留鼠は,Blで49.5mg,B2で56.9mg,B3で71。4mg−となった.水分 をB3からB2にすると3DG減少鼻は14.5mg(1%水準,8.5mg),B2からBlにすると7.4mg(5%水準, 6.1mg)となり,有意な減少鼠を示した.交互作用BXCは1%水準で有意となったため,l元配置による直交分 解を行ない数式化を試みたがCl,C2共に直線関係,2次曲線関係は成立しなかった.
5)L,a,も値(色度)について 和三盆糖を60メソシュの締を通して経度をそろえ,L,a,b値を測定した
松井年行:和三盆糖の一・般成分に及ぼす影響 63 が,L(84.9∼87.4),a(1.3∼2.2),b(13.20′)15.20)とな−り,主効凰 交互作用のすべてに有意差は認められな かった. 3元配置分析を行ない,交互作f引こ有意澄のあったものは,1元配笛による直交分解を行なった.還元糖のBXC のうちClだけが赦線憫係が成立したが,C2は数式化できなかった.他の交互作用も,直線,2次曲線関係が成立. せず数式による交互作用の推定はできなかった.また,変数変換(14〉による交互作用の消去も試みたが成功しなかっ た.この原因は,製造直後と時間が経過した後では,結晶状態が異なるためになんらかの関数関係も見いだされない ためと考え.られる.しかし,主効果では,水分含鼠を多くすることで,和三盆糖に残留する還元糖,遊離アミノ酸, 酸度,3DG含盈ほ各々1%水準で少なくすることができた. 本研究を行なうに当り,終始御指劉、ただいた大阪府丸大学農学部,北岡正三郎教授に感謝致します.なお,本報 告は1980年3月,日本食品エ.兼学会,第27回大会(東涼)にて講演発表を行なった. 文 (1)山中 啓:調理科学,5,123(1972), (2)松井年行:食品工業,17,31(1974). (3)lLl中 啓:化学と生物,14,194(1976). (4)松井年行,山田勝治:栄養と金粉,28,371(1975). (5)松井年行:食品工払 26,32(1979). (6)大庭景利,柳田文雄:食品工蕊,9,252(1962). (7)山中 啓:食品工誌,21,438(19ア4). (8)松井年行:食品工払27,307(1980). (9)木村俊夫:実験計画法の手ほどき,南江蛍,P9 (1976). (10)野中舜ニ:農林研究センタ・一報告,A第2号,奥 献 野千恵子,鈴木 茂,大塚稚妊,河井智康,永井隆 夫編,農林水産技術会議事務局,P.53(1968). (11)鴨居郁三,篠崎 隆,松本信ニ,谷村和八郎,小 原哲二郎:食品工誌,25,431(1978). (12)石川 寮,藤森利芙,久木 均:実験計画法(上) 薄暮化学同人,P。.130(1974). (13)田口玄血:滞3版実験計画法(下),丸薄,P.660 (1977). (14)津村脊郎,奥野忠一・,畑村又好訳,スネデか−, コクラン統計的方法,岩波苫店,P.313(1977). (1981年5月30日受現)