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2015.4 Copyright (C) 2015 JETRO. All rights reserved. 航空宇宙産業は欧州経済を支える主要産業の一つであり、欧州航空宇宙防衛産業協会 (ASD)の発表によれば、欧州全体の航空宇宙産業の売上高は 1,384 億ユーロ、就労者数 は約52 万人に上る(2013 年)。主にフランス、英国、ドイツ、イタリア、スペイン、ポー ランドなどが欧州の航空宇宙産業を支えている。本報告書では、エアバスを中心に欧州の 民間航空機産業における技術開発動向、サプライチェーンに関する情報、欧州の航空機・ 部品産業への参入を目指す日本の中小企業の動きなどをまとめた。(ジェトロ日刊紙「通商 弘報」に2014 年 11 月~2015 年 3 月、記事掲載したもの。記載内容は執筆時点の情報に基 づく。)
目次
1. 技術開発の動向 ... 1 (1)3D プリンター技術や宇宙飛行の商業化に注目-航空宇宙産業サプライヤー見本市 が開催- ... 1 (2)航空宇宙部品製造で 3D プリンティング使う動き活発に (米国・イタリア・フラン ス) ... 3 (3)電気推進航空機の開発進めるエアバス-訓練用小型機は 2017 年末の実用化目指す ………...6 2. 調達・サプライチェーン、日本企業の動き ... 9 (1)1 次サプライヤーへの委託と連携を深める-エアバスの新たな調達方針(1) ………...9 (2)サプライヤー支援のためのイニシアチブ示す-エアバスの新たな調達方針(2) ……….11 (3)日 本 企 業 、 エ ア バ ス な ど に 積 極 売 り 込 み - 航 空 商 談 会 「 エ ア ロ マ ー ト 」 ……….18 禁無断転載 【免責条項】 本レポートで提供している情報は、ご利用される方のご判断・責任においてご使用下さい。 ジェトロでは、できるだけ正確な情報の提供を心掛けておりますが、本レポートで提供し た内容に関連して、ご利用される方が不利益等を被る事態が生じたとしても、ジェトロ及 び執筆者は一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。1. 技術開発の動向
3D プリンター技術や宇宙飛行の商業化に注目-航空宇宙産業サプライヤー見本市が開催 (1) - 航空宇宙産業のサプライヤー専門見本市「エアテック(Airtec)」が 10 月 28~30 日、フラ ンクフルトで開催された。世界 45 ヵ国から出展を含め 450 社が参加し、商談が活発に行われた。 今回特に注目されたのは、3D プリンターなどを活用したデジタル製造技術や宇宙飛行の商業化 だった。 ・150 社のバイヤーが企業商談会に 宇宙航空機産業における主要市場のドイツでは、世界各国の関連企業や研究者らから注目さ れる国際見本市が開催される。その 1 つが、10 月 28~30 日に開催された「エアテック」だ。今 回の出展者は 300 社と前年比で 40%増加した。外国企業は 70%を占め、航空宇宙産業関係者 5,206 人が来場した。出展者には中小企業がまだ多いが、ティア 1 サプライヤーも増加の傾向に あるようだ。今回は、3D プリンターなどの付加製造、複合材料、代替燃料、宇宙飛行とその 商業化、の 4 つのテーマに注目が集まった。 エアテックの特徴は、出展企業が新製品を出展するほか、企業商談会も行われることだ。企 業にとって既存のパートナーとの関係をさらに強化しながら、新しいパートナーとの関係を構 築できる場となる。 商談をより効率的に行うため、主催者はマッチングサービスを提供している。今回は出展者 300 社と 150 社のバイヤーが企業商談に参加し、3 日間で商談が 1 万件ほど行われたという。主 催者は「他の航空宇宙関連見本市に比べ、機体メーカーは販売するためではなく、購入するた めに足を運び、企業商談に参加する。その点は特に中小企業にとって機体メーカーとビジネス を構築するいい機会だ」と述べた。今回もボーイングやエアバスといった機体メーカーのほか、 川崎重工業、ロールスロイス、ボンバルディアなどが企業商談に参加した。 ・45 ヵ国から 450 社が参加、日本は 1 社のみ 製品の出展と企業商談会に加えて、エアバス、川崎重工業、ミュンヘン工科大学、欧州宇宙 機関、ドイツ航空宇宙センター、ドイツ連邦航空局など企業や研究機関などの講演があった。 強度と耐久性に優れた軽量素材への需要が高まりつつあることから付加製造に関する講演が多 かったほか、宇宙飛行の商業化に関する講演も目立った。ドイツ航空宇宙センターのロルフ・ ヘンケ教授は講演で、民間企業による航空宇宙分野への投資拡大の必要性を強調した。 今回のエアテックには世界 45 ヵ国から計 450 の企業が参加したが、日本からの参加は川崎重工業のみだった。主催者は「機体メーカーからは日本の出展者を増やしてもらいたいとの声が 多い。日本企業の製品や技術に対する関心や需要は高い」と述べた。次回のエアテックは 2015 年 11 月 3~5 日に開催の予定。 ・2013 年の国内売上高は初めて 300 億ユーロ超す 航空宇宙産業は 10 万 5,538 人の雇用を支えており、ドイツの主要産業の 1 つとなっている。 ドイツ航空宇宙産業連盟(BDLI)によると、ドイツ航空宇宙産業の 2013 年の売上高は 305 億 9,900 万ユーロと前年比 7.8%増だった(表参照)。初めて 300 億ユーロを超え、過去最高を記 録した。 売上高を分野別にみると、民間航空が 7 割を占め、防衛・安全保障と宇宙がそれぞれ 22%、 8%を占めた。 また製品グループ別にみると、航空宇宙システムが 181 億 8,100 万ユーロと前年比 7.0%増と なり、全売上高の約 6 割を占めた。装備品(全売上高の 22%)、駆動技術(14%)、素材技術・ 部品(3%)が続く(表 1)。 ・フランスが輸出入とも最大の貿易相手 2013 年の航空宇宙機・同部品の貿易は、輸出が 347 億 7,861 万ユーロ、輸入が 217 億 14 万ユ ーロと、それぞれ前年比 2.3%減、8.5%増だった。ドイツの貿易全体に航空宇宙機・同部品が 占める割合は輸出が 3.2%、輸入が 2.4%だった。 輸出を国別にみると、エアバスが本社を置くフランスが 45%を占め、アラブ首長国連邦 (UAE)、中国、米国が続く。日本向けは伸びたものの 24 番目の輸出先で、輸出に占める割合 も 0.7%にとどまった。
表1.ドイツ航空宇宙産業の売上高
2012年
2013年
航空宇宙システム
16,996
18,181
装備品
6,324
6,839
駆動技術
4,169
4,181
素材技術・部品
876
937
合計
28,382
30,599
(出所)BDLI
(単位:100万ユーロ)
輸入を国別にみると、フランスが約 6 割を占め、輸出と同じく 1 位となった。以下、英国と 米国が続く。日本からの輸入は前年から減少し、輸入先としては 12 位だった。 (2014 年 11 月 28 日 デュッセルドルフ事務所 ゼバスティアン・シュミット) 航空宇宙部品製造で 3D プリンティング使う動き活発に (米国・イタリア・フランス) (2) 金型や溶接を必要とせず、デジタル模型を基にさまざまな造形が可能な 3D プリンティング (積層造形)技術。世界の航空宇宙産業界で、この技術を用いた航空宇宙部品の製造に着手す る動きが活発化している。 ・ボーイングがB787 などの部品に採用 3D プリンティング技術を航空宇宙部品の製造に採用することで、航空機の軽量化とそれに伴 う温暖化ガスの排出削減が可能になるとされている。さらに、エンジン燃焼機の燃料噴射装置 など、これまで別々に製造した複数の部品を1 つに溶接して作っていた装置を、最初から単体 の装置として製造することで、製造時間の短縮も可能になる。 ボーイングは航空宇宙産業界で3D プリンティング技術採用の先駆け的存在といわれている。 「USA トゥデイ」紙(電子版 2012 年 7 月 10 日)は、ボーイングが 3D プリンターで製造さ れた部品の採用を約300 種類へと急増させ、B787「ドリームライナー」を含む 10 種類の航空 機用に計2 万 2,000 個の部品を量産済みだと報じた。 ・GE アビエーション子会社はイタリアの専用施設で試作品 直近では、ジェットエンジン大手のGE アビエーション(米国)とその子会社も、3D プリン ティング技術を使った部品生産のための取り組みを加速させている。 2013 年 8 月に GE アビエーションの子会社となった、航空装備品・システムメーカーのアビ オ・アエロ(イタリア)は同年12 月、イタリア北部ピエモンテ州カーメリに、3D プリンティ ング施設を落成した。施設はこの技術に特化した専用施設としては世界最大規模(2,400 平方 メートル)で、60 機の 3D プリンター、チタンアルミナイドといった合金粉末を製造する噴霧 器2 台、装備品の熱加工設備 2 台を収容できるという。開所式にはフラビオ・ザノナート経済 開発相(当時)が出席し、イタリアが世界市場で先駆的役割を担うために不可欠な産学連携の 好例だと述べた。 アビオ・アエロの先端製造技術部門責任者のマウロ・バレッティ氏は、2014 年 12 月 2 日に フランス・トゥールーズで開催された「エアロマート・サミット」で、同社の2 つの 3D プリ ンティング技術が、材料やニーズに応じて使い分けが可能だと説明した(表2)。
表 2.アビオ・アエロの 3D プリンティング技術 出所:アビオ・アエロウェブサイトおよび「エアロマート・サミット」での同社による説明を基に作成。 バレッティ氏は電子ビーム溶解(EBM)技術の活用例として、(1)チタンアルミナイド製の 低圧タービン(LPT)ブレードを製造する際の材料廃棄率が従来技術を使った場合より低くな ったこと(材料はリサイクルも可能)、(2)既存技術では製作できなかった形状の 64 チタン合 金製の滑油分離機を製造し飛行実験に成功したこと、(3)これまで製造に 5 ヵ月を要した 64 チタン合金製のエアダクトを、たった5 日間で 1 ミリという薄い幅のものを安価に製造できた ことなどを紹介した。 同氏はさらに、アビオ・アエロが製造しているのはまだ試作品だが、既に一定の製造実績が あり、材料粉末製造から部品完成まで自己完結した製造環境が整っていると強調した。 ・GE アビエーション、2015 年からエンジン部品を大量生産 GE アビエーションは 2014 年 7 月のファンボロー国際航空ショー(英国)で、3D プリンテ ィング技術によるジェットエンジンの噴射ノズルを米国アラバマ州オーバーンで製造する計画 を発表した。製造される噴射ノズルは、GE とスネクマ(フランス、サフラングループ傘下の エンジン大手)の合弁事業「CFM インターナショナル」において開発され、最も売上高の多い ジェットエンジン「LEAP」に使用される。「LEAP」は 2016 年から、エアバス A320neo、ボ ーイング737MAX、中国の COMAC919 の各機体へ搭載される予定だ。 GE アビエーションの計画では、2013 年 4 月に開所した既存のアラバマ工場(30 万平方フ ィート、2 万 7,870 平方メートル相当)へ 5,000 万ドルを追加投資して、2014 年末に設備を導 入し2015 年から生産を開始する。同施設へは、2015 年末までに 3D プリンターが少なくとも 10 機設置される予定だが、最大 50 機超まで収容できる。CFM インターナショナルは、1 台当 たり噴射ノズルが20 個必要になる LEAP を 6,000 台受注済みだ。これを受けて GE アビエー ションは、中長期的な大量生産に向けた設備整備を急ピッチで進めることになる。この施設で、 噴射ノズルの年間生産個数を2015 年に 1,000 個、2020 年までに 4 万個超へ拡大する目標を掲 げている。これに伴い、新たに最大300 人を雇用することにしている。 電子ビーム溶解(EBM) 高温加工(700~1,000度)で、導電材料の金属 粉末を電子ビームで溶解させる。1時間当たり 50立方センチの形成が可能。表面粗さは15Ra ナノメートルで、DMLSより粗い。 直 接 金 属 レ ー ザ ー 焼 結 (DMLS) 低温度加工(30~200度)で、非導電材料の金 属粉末をレーザーで焼結させる。1時間当たり 10立方センチの形成が可能。表面粗さは4Ra ナ ノメートル。
GE アビエーションは、ジェットエンジン産業界では初の量産用 3D プリンティング施設であ り、3D プリンティング技術を用いてここまで複雑な装備品を製造するのも初めて、と自負する。 噴射ノズル以外の装備品についても、研究開発拠点があるオハイオ州シンシナティにある積層 技術センターでの開発を経て量産化の準備が整った段階で、生産していく余力があるという。 ・ロッキード・マーティンも衛星部品を製造中 航空・宇宙製造大手のロッキード・マーティン(米国)も2014 年 1 月、3D プリンティング がコストを 48%、サイクルタイムを 43%も減らし資源の浪費を防ぐとして、チタン製の衛星 搭載部品の製造時に3D プリンティングを取り入れている、と発表した。将来的には複合部品、 さらには衛星全体の形成を目指して、開発に取り組むという。 (2014 年 12 月 17 日 パリ事務所 上田暁子、キャロリーヌ・アルチュス)
電気推進航空機の開発進めるエアバス-訓練用小型機は 2017 年末の実用化目指す (3) エアバス・グループは、完全電気推進の訓練用小型飛行機「E-ファン 2.0」の 2017 年末か らの販売開始に向け、フランスで研究開発を進めている。さらに電気推進商用機の 2050 年ま での実用化を目指し、ドイツで研究する予定だ。 ・欧州委策定の環境目標達成に貢献 エアバス・グループは今後 30 年で、音が静かで飛行時に二酸化炭素(CO2)排出がない電 気航空機の実用化に取り組む。これは欧州委員会が策定した「フライトパス2050~航空機産業 のための欧州の展望」に定められた「2050 年に輸送人キロ1当たりのCO2 排出量を 2000 年比 で75%削減する」という目標達成に貢献するものだ。 同グループは、完全な電気推進の大型商用機の開発にはまだ 20~30 年かかると認識してい るが、環境に優しくより経済効率の良い航空機を目指し複数の技術開発プログラムに取り組ん でいる(表3)。 ・E-ファン 2.0 の飛行に成功、2017 年末には商業化へ 最も実用化が近いE-ファン 2.0 について、エアバス・グループで研究開発プロジェクトマ ネジメント兼国際関係担当のアニエス・パイヤール氏が、航空宇宙分野の商談会「エアロマー ト・トゥールーズ」の会期前日の12 月 2 日にトゥールーズで開いた「エアロマート・サミッ ト」で解説した。 パイヤール氏によると、同グループの研究開発を担うエアバス・グループ・イノベーション ズが、フランスの中小企業アエロ・コンポジット・サントンジュ(ACS)とともに E-ファン の設計に着手したのは2011 年後半のこと。約 6 ヵ月という短期間で、バッテリーで充電され る電気モーターによって推進される超小型試作機(E-ファン 1.0)を設計。同機の試験飛行に 成功し、より大型の2 席ある E-ファン 2.0 の訓練用小型飛行機を開発することになった。 1 旅客人数とその旅客を輸送した距離(キロ)を掛け合わせたもの。
E-ファン2.0
バッテリ ーのみで推進する
(初級レベル
完全電気推進の2席の訓練用小型飛行機
向け)。
E-ファン4.0
距離・航続時間拡張のための燃焼エンジンをも搭載した
小型飛行機(フルライセンス取得用)、
、4席の訓練用
および一般航空市場向け飛行
機。
E-スラスト
分配型電気推進システム。将来の電気・ハイブリ ッド商用機の新たな推
進システムの基礎となり得る。
DA36 E star 2
2席のハイブリッド電気モーター機。
出所:エアバスHP 、「エアロマート・サミット」でのエアバス・グループによる説明
表3. エアバスが研究に取り組む電気推進に関する主な計画の例
E-ファン 2.0 試作機は 2014 年 4 月、アルノー・モントブール経済・生産再建・デジタル相 (当時)の出席の下、ボルドー・メリニャック空港で初の公開飛行を実施した。航続時間は30 分に達した。パイヤール氏は、目標である独立飛行時間1 時間、1 日当たり飛行可能時間 5 時 間を達成するため、さらなる研究が必要で、E-ファン 2.0 は全て複合材構造のため機体重量は 600 キロ足らずと軽く、最高時速は 220 キロ出る、と説明した。 4 月の公開飛行の後、エアバス・グループの新たな 100%子会社であるボルテールが、E-フ ァン2.0 と 4 席型の E-ファン 4.0 の製造とサービス提供に向けた開発をしていくことでエア バス・グループ・イノベーションズと合意した。パイヤール氏はさらに、E-ファン 2.0 の工業 生産に当たっては10 のパートナー(6 企業、4 研究機関)がコンソーシアムを組んでおり、う ち3 社〔エブトロニック(Evtronic)、ACS、セルマ・テクノロジーズ(Serma Technologies)〕 は特に優れた中小企業だ、と強調した(表4)。 エアバスは4 月以降、まずは E-ファン 2.0 の 2017 年末サービス提供開始を目指すと公言 している。パイヤール氏はこの目標をあらためて確認し、「4~5 年以内に世界中で発売するこ とが目標」「5 年がかりの計画で、予算総額は 5,000 万ユーロ」とも付け足した。中小企業 3 社 が関与していることで、中小・ベンチャー企業を支援する官製ファンド「フランス公的投資銀 行(BPI France)」が 2,000 万ユーロを出資することになっている。 ボーイング787 型機も「電気飛行機」と呼ばれることがあるが、B787 の推進力は従来型の エンジンから得ているため、E-ファン 2.0 が実用化されれば「初の完全電気推進航空機」とな る。E-ファン 4.0 については、商業化の目標期限はまだ設定されていない。パイヤール氏は、 大きな席数の航空機を完全電気推進にする具体的な開発計画は現時点ではない、とした。 E-ファンの最終組み立てラインは、フランス政府が支援する「未来産業プラン2」の一環と 2 フランス政府が 2013 年 9 月 12 日に発表した、技術革新支援と国際競争力強化のための 34 項目 から成る産業再興計画。項目の1 つに「電気航空機と新世代飛行体」が含まれている。
エアバス・グループ
電気飛行機。
主なサプライヤーとしてDaher-Socata。
エブトロニック
再充電システム
サフラン
推進システム
ゾディアック・エアロスペース
バッテリー、および電気システム
ACS
構造材料、複合材
セルマ・テクノロジーズ
―
(出所)「エアロマート・サミット」でのエアバス・グループによる説明を基に作成表4.「E-ファン2.0」開発におけるパートナー企業とその役割
して、ボルドー地域の自治体らの協力も得て、アキテーヌ地域圏内に新設される予定だが、パ イヤール氏は「圏内のどこになるかは調査中であり、その結果次第」と話した。 E-ファンは、5 月末~6 月に開催されたベルリン国際航空宇宙ショー(ドイツ)、7 月のフ ァンボロー国際航空ショー(英国)でエアバス・グループの目玉として披露され、注目を集め た。同グループは11 月 12 日、米国「サイエンス」誌の「2014 年ホワッツ・ニュー大賞」を 航空宇宙分野で受賞したと発表した。 ・ドイツに設置予定の研究所でハイブリッド商用機を開発 エアバス・グループは 2012 年から、ロールス・ロイス(英国)と分配型電気航空宇宙推進 系(DEAP)プロジェクトで連携している。その主な例が、ハイブリッド型の電気商用機実現 に向けた「E-スラスト」の基礎研究だ。E-スラストは、従来のターボファンエンジンの代わ りに電動ファン6 基を機体に搭載するものだ。機体に搭載されたガスタービンによって電動フ ァンの駆動力を供給するという。 エアバス・グループのジャン・ボッティ最高技術責任者(CTO)は「ル・フィガロ」紙(電 子版4 月 25 日)のインタビューで、「これは80~100 席クラスのリージョナルジェット機のハ イブリッド化実現に向けた試金石だ。2050 年までの実用化を目指す」と述べた。 ボッティ氏はさらに、「E-ファンがフランス国内で進行中であるのと異なり、E-スラスト は欧州他国のパートナーとともに推進している計画だ」と述べた。エアバス・グループは、電 気モーターの開発に当たるシーメンス(ドイツ)およびダイアモンド・エアクラフト(オース トリア)と2013 年に覚書(MOU)を締結しており、3 社でミュンヘン近くのオットブルンに 研究拠点「E-エアクラフト システム ハウス」を建設して 2017 年から稼働させ、電気推進航 空機のハードウエアやシステムを試験する予定だ。この研究所はエアバス・グループの「E ロ ードマップ(電気航空機実現に向けた工程表)」の中核を担うという。なお、エアバス・グルー プ、シーメンス、ダイアモンド・エアクラフトの3 社は 2013 年 6 月にウィーンで、共同研究 中のハイブリッド電気モーター機「DA36 E star 2」の試作機の飛行に成功している。 (2014 年 12 月 19 日 パリ事務所 上田暁子、キャロリーヌ・アルチュス)
2. 調達・サプライチェーン、日本企業の動き
(1) 1 次サプライヤーへの委託と連携を深める-エアバスの新たな調達方針(1) エアバスは今後2 年以内にサプライヤーを再構築し、従来の垂直統合による一貫生産方式を 改め、1 次サプライヤーへの委託と連携を深める。トゥールーズで開催された「エアロマート・ サミット」での同社サプライチェーン統括責任者エリック・ザナン氏の講演概要を2 回に分け て報告する。 ・右肩上がりの需要、アジア・太平洋が牽引 ザナン氏は2014 年 12 月 2 日、トゥールーズで開催された「エアロマート・サミット」の講 演の中で、エアバスの新しい調達方針を語った。 同氏によると、2014 年の世界の旅客輸送予測は有償旅客キロ数(RPK)ベースで前年比 5.4% 増、2014 年 1 月の貨物輸送実績は有効貨物トンキロ数(FTK)ベースで前年同月比 4.6%増と なった。エアバスは今後 20 年で新たに約 3 万機の航空機が必要になると予測しており、地域 別にみると必要機数が多いのは、アジア大洋州(全体の 38%)、欧州と北米(ともに 20%)、 南米(8%)、中東(7%)、CIS(4%)、アフリカ(3%)の順だという。 また、エアバスがサプライヤーと協力して大口需要に対応する直近の例として、2014 年末の カタール航空へのA350XWB 機引き渡しを挙げた。 ・品質・生産力の向上、技術革新などが中長期課題 ザナン氏はエアバスのサプライチェーンにおける3 つの中長期課題を示した。 (1)期限と品質の順守で目標達成率(受注数量に対する納品数量の率)を 99%に上げること。 需要が拡大する中で実績を出せるよう、チェーン内部での投資が重要。 (2)競争力と産業化。ボーイングとの厳しい競争において、コスト削減と生産数量拡大の面で も努力が必要になる。 (3)技術革新。リスクを伴うがコスト削減につながるため、最善の競争力強化策であり、サプ ライヤーとの議論・連携を深めていく。特に注力する分野は、燃料効率の改善〔e タクシ ー3、燃料電池、次世代型エンジン、重量削減〕、客室における快適性の向上(旅客密度の 改善、機上でのタブレット・モバイルの「接続性」の強化)など。 3航空機の車輪に電気モーターを搭載することにより、メーンエンジンを動かさずに走行を可能に するシステム。運航中に排ガス量が最大となるのは、滑走路の走行時のため。・サプライヤーからの購入率が高まる
ザナン氏はさらに、エアバスは2 年以内にサプライチェーンの再構築を行うだけでなく、サ プライヤーとの付き合い方も変えると述べた。これはエアバスのサプライヤーからの購買率が、 約30 年前に登場した A320 と A330 が 5~6 割だったのに対して、最新の A350 では 8 割に達 することが示すように、サプライヤーとの協力強化は今後一層重要になると強調した。 従来、エアバスは垂直統合による一貫生産の下、「ビルド・トゥー・プリント方式」(設計図 を渡し生産のみを委託)で1 次サプライヤーへ装置と機器の生産を委託し、エアバス本体は機 体の組み立てを行ってきた。今後はこれを変え、エアバス本体では機体製造のシステム・イン テグレーターと技術の購入に注力し、1 次サプライヤーに主要装置の生産のみならず設計段階 から任せる「デザイン・アンド・ビルド方式」を採用して、リスクを共有するという。 これに伴い、サプライヤーに対して以下の変化を求めるとザナン氏は説明した。 (1)国際化。例えば、多くのサプライヤーが現在、国外にも拠点を持つ。 (2)サプライヤーの企業規模、サプライヤーとの契約額、サプライヤーによる生産数量を小か ら大へ。 (3)航空品質保証システム「QSF」4の A 認証を持つサプライヤーに対して「(製造作業場の 他所への拡大」という位置付けで生産委託を行ってきたが、今後はB 認証や C 認証を持 つサプライヤーに対する包括的ワールドパッケージ型アプローチを採用する。サプライヤ ーとの最短契約期間は現状の3 年から 5 年へと延長し、実績が良ければさらに 5 年の契 約延長を可能とする。 (4)多数の単一部品サプライヤーと個別取引することをやめ、垂直統合する。提携やジョイン トベンチャーを推進する。 (5)従来の生産主導型の展望ではなく、リスクを共有するパートナーらと一体的な展望を持つ。 (6)「防衛の遺物」から脱却し、より民間・産業志向となること。 同氏は質疑応答で、エアバスの1 次サプライヤーの数を現在の約 1,800 からどのように削減 するのか問われ、単一・標準部品や機械加工分野では少し減らす必要があるが、特定分野を除 き極端に減らすことはないと回答した。また、優秀な中小企業はエアバスのサプライヤーの下 請け企業(2 次サプライヤーなど)になり得ると述べた。 (2015 年 1 月 29 日 パリ事務所 上田暁子、キャロリーヌ・アルチュス) 4 「QSF-A」は委託元から試験済み素材の提供を受けて作業場で受託生産する際の認証。2 次サプ ライヤーへの再委託は認められない。「QSF-B」は素材を調達し受託製造する際の認証。「QSF- C」は研究開発を含む受託製造をする際の認証。
(2) サプライヤー支援のためのイニシアチブ示す-エアバスの新たな調達方針(2) エアバスは、新たな方針に基づくサプライチェーンの再構築の実現に向け、サプライヤー支 援のためのイニシアチブを打ち出した。2014 年 12 月 2 日にトゥールーズで開催された「エア ロマート・サミット」における同社の講演概要報告の後編。 ・業界団体や政府からの財政支援も得る エアバスのサプライチェーン統括責任者のエリック・ザナン氏は、調達方針の変更(上述(4) 参照)に伴いサプライヤーに変化を求めた一方、エアバス自らもサプライヤー支援のために以 下の取り組みを主導する、と語った。 (1)サプライヤー品質向上プログラムの実施。 (2)柔軟なロジスティクス・ソリューションの展開。 (3)エンドツーエンド(サプライチェーンの上流から下流まで)の品質・生産管理や再委託削 減のための重点戦略イニシアチブのサプライヤーへの提示と2015 年末からの実施。 (4)フランス航空宇宙工業会(GIFAS)や政府からの財政支援を得てのサプライヤー支援。 (5)2~4 次サプライヤーにおいて問題が生じる場合に備えてのサプライヤー組織図の作成。 (6)サプライヤーとの間で交わす契約関連書類の簡素化。 ・オンラインプラットホームを有効ツールとして紹介 ザナン氏はさらに、サプライチェーンを管理するための既存のオンラインプラットホームの 有用性を紹介した。エアバス・グループを含む航空大手10 社・グループ5が共有する「エア・ サプライ・ハブ」だ。 これは、2011 年に発足した 5 社6による産業協力の枠組み「ブースト・アエロ・スペース」 のプログラムの一環としてエアバス・グループが主導するもので、オンラインプラットホーム はドイツのサプライオンが提供し、2012 年から運用が開始されている。1 次サプライヤーの顧 客であるメーカーからの情報が2 次以下のサプライヤーへも迅速かつ正確に伝わることで、サ プライチェーンにおけるボトルネック(チェーン全体のオペレーションスピードを下げる制約) の改善に役立てる仕組みだ。 ザナン氏は「エア・サプライ・ハブ」を、サプライヤーが短時間で質の良い情報を得るのに 有効なツールだと紹介。同プラットホームへは2014 年 10 月現在で約 1,000 社が参加している 5 2014 年 10 月時点で、エアバス・グループ、サフラン(傘下のエアセルとラビナル)、タレス、ゾ ディアック・アエロスペース、アエロリア、ATR、リープヘル・アエロスペース、プレミアム・ア エロテック。 6 エアバス・グループ、エアバス、ダッソー・アビエイション、サフラン、タレス。
が、2015 年にはサプライヤーが新規に約 50 社組み込まれる見込み、と同氏は述べた。 ・航空機構造物部門には中韓も参入 2014 年 4 月時点でのエアバスの航空機構造物部門の主要サプライヤーは 20 社(表 5)。本社 の所在国・地域別にみると、欧州が16 社(フランス 6、ドイツ 4、その他 6)、米国が 2 社、ア ジアが2 社(中国 1、韓国 1)だった。中国・天津では、習近平国家主席の 2014 年 3 月のフラ ンス公式訪問を機に、エアバスと中国航空工業(AVIC)との合弁事業が強化されている。 表 5. エアバスの航空機構造物部門の主要サプライヤー 企業名 本社 所在地 2013 年 売上高 同部門の主な商品・サービス エアバス関連ニュース AERNNOVA スペイン ― ・航空機構造物(A350、A380、ヘ リコプターSUPERPUMA) ― AEROLIA フランス 11 億 4,000 万 ユーロ ・航空機構造物 ・2014 年 10 月、AEROLIA(フランス)と SOGERMA(フランス)が合併計画を発表。合 併により、売上高 16 億 5,000 万ユーロの欧州 首位、世界 3 位の航空機構造物グループが 誕生予定。両社の主要顧客であるエアバス の生産性向上への貢献が、新会社の目標の 一つ。 ALENIA AERMACCHI イタリア 33 億 4,330 万 ユーロ ・航空機構造物(A380 の機体中 心部分、A320 ファミリーの翼の縦 通材、A321 のセクション 14) ― AVIC INTERNATIONAL (中国航空工業) 中国 580 億ド ル ・ターボプロップ地域路線用旅客 機(ARJ21) ・2014 年 3 月、オランド・フランス大統領と習・ 中国国家主席の同席のもと、エアバスとの間 で (1)中国・天津の A320 ファミリーの最終組 立ラインに関する合弁事業「FLAC 事業」を 10 年延長することで合意。第 2 期(2016-25 年) ではアジア全域への引渡しを拡大し、2017 年 以降は A320neo ファミリーの組立も行う。(2) 中国における広胴型航空機の完成作業のた めのセンター設置に向け協働することでも合 意。 ・2014 年 10 月、エアバス、天津保税区ととも に、A330 の完成作業および引渡しのための センターを天津に開設することを、覚書締結 により再確認した。
BELAIRBUS ベルギ ー ・A 318、A319、A320、A321、 A330、A340、A350、A380 のスラ ット、フラップシステム ― DAHER SOCATA フランス 9 億 6,000 万 ユーロ ・複合材サブアセンブリー、フェア リング、導管。 ・A380、A350、A330/340、A320 ファミリー、A400M。 ・エアバスのヘリコプター ・2014 年 10 月、Airbus Helicopters(フランス) との間で、同社のドイツ工場の周辺に位置す るロジスティクスセンターから、製造・メンテナ ンス・補修に関するライン、および改造に関す るロジスティクスサービスを提供することで合 意。 DIEHL AIRCABIN ドイツ 3 億 4,000 万 ユーロ ― ・2014 年 7 月、顧客満足のための取組を評価 する「エアバスサプライヤー大賞」で銀賞を獲 得。 EFW ドイツ ・複合構造物 ・2012 年 2 月、エアバス、ST Aerospace(シン ガポール)と、旅客機 A330 を貨物機へ転用す るプログラム「A330P2F」の開発で合意。 FACC オースト リア 5 億 4,700 万 ユーロ ・操縦翼面 ・翼構成部品 ・フェアリング ・A320 ファミリー、A330、A340、 A350XWB、A380 ・2014 年 7 月、A320 ファミリーの翼端装置「シ ャークレット」の製造を含むワークパッケージ でエアバスと合意。 FOKKER オランダ 7 億 6,200 万 ユーロ ・軽量構造物 ・モジュール ・降着装置 ・エアバス、FOKKER(オランダ)、TENCATE(米 国)の間で、2010 年から開始された「航空機 の主要構造へ適用可能な熱可塑性プラスチ ックの技術革新プログラム(TAPAS)」が、 2017 年末までの次の段階へ入ることが 2014 年 1 月、発表された。予算は 2,430 万ユーロ。 オランダの中小企業(Airborne Composites、 KVE、DTC、KE-works、CODET)や大学がパ ートナー。 GKN AEROSPACE イギリス 22 億 4,300 ポ ンド ・翼・尾部構造物 ・A350XMB の翼桁など ― KOREA AEROSPACE 韓国 ― ・固定翼、回転翼 ・機体(エアフレーム) ・2012 年 1 月、A320 の翼下構造物を 2012~ 25 年に独占供給することでエアバスと合意し たとの報道多数。
LABINAL POWER SYSTEMS フランス ― ・航空機構造物 ・2013 年 12 月、エアバス、サフラングループ、 Honeywell(米)は、A320 ファミリーの電気輸送 ソリューションの開発で合意。 ・2014 年 1 月、サフラングループは電気関連 事業を Labinal Power Systems へ統合。 LATECOERE フランス 6 億 2,110 万 ユーロ ・A330 の機体上層翼 ・A350 のノーズフェアリング ・A380 のノーズ機体構造の内部 ・2013 年に 8,000 万ユーロ欠損し、2014 年 2 月に建て直し計画を開始と報道。 ・2014 年 10 月、「負債の再交渉のため、投資 ファンドの管理下に置かれる見通し」と報道。 LATELEC フランス 1 億 8,520 万 ユーロ ・電子機器ラック ・電気ハーネス ・テストベンチ ― PFW ドイツ 2 億 9,190 万 ユーロ ・装備品 ― PREMIUM AEROTEC ドイツ 16 億ユ ーロ ・機体セクション(A350 XWB の炭 素繊維複合材材料から成る機体 構造と全ての機体セクション。A 318~A 321、A 330、A 340 の 19 セクション)。 ・A380 の機体の外板パネル。 ・2013 年 12 月、A320neo の機体セクションを 納品。 SOGERMA フランス 5 億 3,350 万 ユーロ ・航空機構造部品 ・複合航空機器 ・AEROLIA の欄参照 SPIRIT AEROSY STEMS 米国 60 億 ド ル ・航空機構造物(エアバス A 320、A350 XWB 、A 380) ― TA-VAD 米国 ― ・主要機体構造(翼、胴体、部分 組立品、尾部)の設計と製造) ・装備品 ・2014 年 5 月、現役運用中のエアバス A319、 A320 へ翼端装置「シャークレット」を装備する ための翼補強キットを、複数年にわたり供給 する旨発表(約 1 億 6,000 万ドル)。初の納品 は 2015 年初を予定。 ・2014 年 1 月、350 XWB の機体構造の装備品 の供給でエアバスと合意(約 3,000 万ドル)。 (出所)企業名は「Airbus Procurement Organisation & Major Suppliers」(2014 年 4 月)より。企業名の改称等を反映。売上高は 各社ホームページもしくは各社への問い合わせ結果。商品・サービスは各社ホームページ。エアバス関連ニュースは各社ホー ムページもしくは報道。
注目の企業動向としては、2014 年 10 月にフランスのアエロリアとソジェルマによる合併計 画の発表があり、合併により欧州最大の航空機構造物グループが誕生することになる。また、 EFW、フォッカー、ラビナル・パワー・システムズの例にみられるように、外国企業同士や産 学連携による開発での提携の動きも活発だ。機種別には、単通路型航空機として世界で最も売 れているA320 ファミリー機に関する話題が多いのが特徴だ。 また、2014 年 4 月時点のエアバスの材料部門の主要サプライヤーは 16 社だ(表 6)。本社の 所在国別にみると、最多が米国の7 社、続いてフランスが 3 社、カナダが 2 社、ドイツ、オー ストリア、スウェーデン、ロシアが各1 社だった。 表 6.エアバスの材料部門の主要サプライヤー 企業名 本社 所在地 2013 年売上 高 同部門の主な商品・サービ ス エアバス関連ニュース ALCOA 米国 230 億ドル ・鋳造(アルミニウム、超合 金、チタニウム) ・押出成形、ファスナーシス テム、鍛造 ・プライマリーアルミニウム ・2013 年 12 月、複数年にわたるエア バスへの高付加価値アルミニウム、 チタニウム部品の鍛造(1 億 1,000 万 ドル)でエアバスと合意。 ALERIS 米国 43 億ドル ・アルミニウム圧延・押出成 形製品(直接冷却および連 続鋳造コイル-圧延仕上も しくはコーティング、プレート、 押出成形) ・リサイクル製品(各種合金、 アルミニウム鋳塊、マグネシ ウム) ・ETS Schaefer 社のセラミッ クファイバー製品 ・2011 年 6 月、(1)2012~16 年にわた りエアバスの世界事業向けにアルミ ニウムのシートとプレートを供給する こと、(2)エアバス向けにスクラップを リサイクルすること、(3)新たなプレー トミルをエアバス向けに中国で供給す ることで合意。 AUBERT & DUVAL フランス 7 億 5,900 万 ユーロ ・素材(含むステンレス、超合 金) ・圧延製品(バー、鋼塊)、鍛 造、鋳塊の半製品、シート・ プレート、部品(自由鋳造お よび型打ち鋳造、熱間等方 圧による部品) ・2014 年 7 月、エアバスは同社に対 し、納期を厳守しない場合、鋼板のサ プライヤーを変更せざるを得ないと文 書で警告。2014 年 7 月時点で、同社 の製造は 2014 年予算の 20%に留ま っていると報道。
BÖHLER オースト リア ・特殊鋼 ・シート・プレート ・溶接材料 ・鍛造製品 ・2014 年 3 月、A320neo のエンジンに 使用 される 鍛造 材を 供給 予 定と発 表。 CYTEC FIBERITE 米国 19 億ドル ・素材(含む強化樹脂製品成 形材料・樹脂システム、炭素 繊維) ― HEXCEL 米国 16 億 7,820 万ドル ・炭素繊維、補強部材、強化 樹脂製品成形材料 ・接着剤 ・工具材 ・2014 年 9 月、A350XWB の複合主要 構造における需要に応えるため、フラ ンスのルシヨンヘ 2 億 5,000 万ドルを 投資し炭素繊維の工場を設立するこ とを発表。 KAISER 米国 13 億ドル ・プレート、シート、コイル ・硬質合金の成形 ・軟質合金の押出成形 ・硬質合金ロッド、バー ・チューブ、パイプ ・ワイア、ロッド ― LISI AEROSPACE フランス 6 億 6,400 万 ユーロ ・ファスナー ― MAGELLAN AEROSPACE カナダ 7 億 5,213 万 カナダドル ・砂型鋳造 ・2013 年 11 月、エアバスへ A350XWB の機体の構造部品を供給することで 合意(向こう 4 年間、4,500 万ドル) MECACHROME フランス 3 億 1,500 万 ユーロ ― ・2014 年 3 月、エアバスからナント所 在 の サ プ ラ イ ヤ ー 2 社 ( Jallais Industrie と Qualite Service Atlantique)を取り戻し、ナント地域に おける欧州メーカーによるエアバス A350 の組立チェーンにおけるその存 在感を高めたと報道 OTTO FUCHS ドイツ ・合金(アルミニウムとマグネ シウム)押出形成 ・合金(アルミニウム、マグネ シウム、チタニウム、ニッケ ル)鍛造 ・合金(アルミニウム、マグネ シウム、チタニウム、ニッケ ―
ル)の機体タービン用圧延リ ング PCC 米国 83 億 6,100 万ドル ・鍛造 ・2014 年 3 月、エアバス A350 への部 品 供 給 で 重 要 な 位 置 を 占 め る Aerospace Dynamics International (米国)の 6 億 2500 万ドルでの買収に 合意。 RIO TINTO ALCAN カナダ 124 億 6,300 万ドル ・アルミニウム鋳塊 ・金属アルミニウム(SGA) ・アルミニウム精錬ソリューシ ョン「AP Technology」 ― RTI 米国 7 億 8,330 万 ドル ・自由鋳造 ・被覆 ・溶接、摩擦攪拌(かくはん) 溶接 ・ミル圧延 ― SKF スウェー デン 635 億 9,700 万 ス ウ ェ ー デン・クロー ナ ・航空機体、航空エンジンと ギアボックス向けの、軸受、 シール、ロッド、ストラット、精 密エラストマー装置、フライ バイワイヤ装置 ― VSMPO-AVISMA ロシア 16 億 1,224 万ドル ・チタニウム(鋳塊、ビレット、 スラブ、圧延リング、シーム レスチューブ、熱間圧延 棒 材・シート・プレート、ブレー ド、冷延シート・プレート、溶 接チューブ) ・フェロチタン ・アルミニウム(鋳塊、パネ ル 、 押 出 成 形・ 冷 形成 パ イ プ) 2014 年 7 月に、 ・シームレスのチタニウムのチューブ と関連材料の開発について、エアバ ス機の水圧システムに使用する目的 で、エアバスと覚書を締結 。 ・エアバスにより、A320neo のパイロ ンの新たな鍛造と側面パネルの供給 元として選ばれた。初回納品は 2015 年を予定 。 ・A350XWB 用のチタニウムの鍛造の 荒削加工の発展について、エアバス と合意。初回納品は 2015 年を予定。 (出所)表 5 と同じ (2015 年 1 月 30 日 パリ事務所 上田暁子、キャロリーヌ・アルチュス)
(3) 日本企業、エアバスなどに積極売り込み-航空商談会「エアロマート」 航空機部品・関連機器の商談会「エアロマート・トゥールーズ」がフランス・トゥールーズ で2014 年 12 月 3~4 日に開催された。参加企業の要望に応じて主催者が商談を設定するのが この商談会の売り。参加した日本企業は「エアバスをはじめとする欧州の関連メーカーの情報 を収集し、接触する場として最適」「決定権限が上位のバイヤーと会えた」などと語った。 ・2 日間で 1 万 5,000 件の商談 10 回目の開催となった「エアロマート・トゥールーズ」は、華々しい飛行実演や大掛かりな 展示を伴う「パリ国際航空宇宙展(パリ・エアショー)」とは異なり、実務的な商談会だ。主催 者が参加者の要望に応じて商談をセットするマッチングシステムを売りにする。主催したBCI エアロスペースによると、開催2 日間を通じて 45 ヵ国から 1,300 社、2,500 人が参加し、1 万 5,000 件の商談が行われたという。 日本からはジェトロが運営したジャパンパビリオンに中小企業7 社が参加したほか、隣接し た愛知県ブースに5 社・団体が参加し、欧州をはじめとする世界の航空機関連メーカーと商談 した。 ・エアバスとの商機は日本企業にも これまで日本の航空業界は米国ボーイングとの関係が強かったが、エアバスとも無縁ではな かった。英国で航空産業分野のコンサルティングをしている吉倉隆治氏によると、日本企業は 30 年以上前のエアバス「A320」の開発段階から機体構造物の分野でプロジェクトに参入して おり、その後も厨房設備(ギャレー)、炭素繊維、搭載電子機器分野での参入が続いている。他 方で中国も、エアバスが中国航空工業(AVIC)との A320 ファミリー(A318、A319、A320、 A321)の最終組み立てに関する合弁事業を強化し、アジア全域への引き渡し拡大を予定してい るなど、エアバスとの関係において存在感を示しつつある(2015 年 1 月 30 日記事参照)。 日本企業とエアバスの間で今後もビジネスが進む可能性について、吉倉氏は「日本の航空業 界とボーイングとの長年のパートナーシップを考えれば、エアバスが中国との関係を強化する のは自然の成り行き。しかし、中国でもエアバスやボーイングと競合する機種を製造している ため、エアバスが中国に対して行う技術開示や連携には限界があるだろう」とした上で、「日本 企業が得意な分野(炭素繊維を含む新素材、マイクロテクノロジーを含む精密機械加工、環境 に配慮した製造方法、正確な生産管理)で、新たにエアバスの1~3 次サプライヤー(Tier1~ 3)となる可能性は十分ある。さらにエアバスは昨今、既存のサプライヤーに対して外国の優良 パートナーと組んで国際化することを求めており、その意味でも日本企業に関心を寄せている と思われる」と分析する。
・エアバスから1 次サプライヤー紹介の提案も ジャパンパビリオンにはエアバスも来訪した。面談した出展企業からは「エアバスはサプラ イチェーンの再構築に当たり、日本企業とボーイングの関係が強いことは承知の上で、風穴を 開けるべく日本のサプライヤーを探しており、事前調査も行っているようだ」との感想が寄せ られた。 日本企業の中にも、エアバスとの関係構築を主目的に参加したところが散見された。初参加 した東京特殊印刷工業(本社:東京都世田谷区、配管識別テープ、内部部品用銘板)のディレ クター小島洋子氏は「ボーイング向けには納入実績があるため、今回はエアバスが定めるスペ ックに対応しているという認定を受けることを目標に参加した。エアバスの異なる部門の3 人 に会い、配管識別テープの素材や静電用スイッチに関心を持ってもらった」と語った。ほかに も、ボーイングへは既に導入済みで、エアバスの1 次サプライヤーとの直接取引を目指して参 加した企業があった。 エアバスと面談した日本企業の中には、1 次サプライヤーを紹介するという提案を受けたと ころもあった。UCHIDA(本社:埼玉県入間郡三芳町、複合材の設計)もその 1 社で、エアバ ス・ジャパンから欧州の1 次サプライヤーの紹介を受けた。同社の運営管理副責任者の荻野理 仁氏は「1 次サプライヤーからは具体的に提案する力量を問われていると感じた」と語った。 ・バイヤーへの積極的な営業と関係維持がカギ 出展した日本企業にエアロマートへの取り組みと成果を聞いた。多摩川精機販売(本社:長 野県飯田市、制御装置)開発営業本部部長の瀧川整氏と主任の北澤真也氏は「事前準備が出展 成果の8~9 割を左右する。主催者に商談の設定のリクエストは 30~40 社分出した。e メール でのやりとりも大事だが、実際に会うことが非常に重要」と述べた。これが奏功して同社では、 数年前からコンタクトが途切れており、まだ取引実績のないサフラングループ(フランスの防 衛・航空・通信分野の総合企業体)と面談し、角度センサー、モーターおよびそれらを組み合 わせた電動アクチュエーター(駆動装置)に関心を示してもらえたという。 商談会で最大限の成果を出すには、会期が始まってからも主催者へ商談の設定を依頼したり、 ほかの出展者へ飛び込み営業したりする積極性が必要だ。商談時にはまず「欧州での実績」を 問われることも多いようだが、たとえ実績がなくても、貴重な商談の場を最初の実績作りに活 用しない手はない。三光刃物製作所(本社:名古屋市、工業用刃物)代表取締役の森島裕貴氏 は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)用ドリルを取引してくれる可能性のある商談先(加 工業者、工作機械メーカー、商社、機体組立業者など)をできる限り回ったと語る。同業の切 削工具メーカーに対しても、当該企業が製作していないため補完的に提供できる刃物を、取引 先の機体メーカーへ一緒に売って欲しいと提案したという。
出会ったバイヤーとの関係を維持していくことも大切だ。1 年半前から国外展開を本格化し、 国際的な認知度の向上を目的に出展した菱輝金型工業(本社:愛知県一宮市、複合材成形設備) 執行役員の服部幹由氏は、2013 年 4 月にカナダ・モントリオールのエアロマートへ出展したの を皮切りに、世界各地で開催されている商談会へ継続的に参加してきたことで(シアトル、名 古屋を経てトゥールーズが4 度目)、バイヤーとなじみになり、アポイントが取りやすくなった と語る。知り合ったバイヤーと「次回の商談会で会おう」といったように継続的に連絡を取り 合い、対面する機会を得ることが重要だと同氏は語った。 (2015 年 3 月 12 日 パリ事務所 上田暁子)