目 次 1. は じ め に 2. 所 得 税 の 役 割 と 課 税 最 低 限 2.1 所 得 税 と 所 得 税 の 役 割 2.2 課 税 最 低 限 の 水 準 2.2.1 課 税 最 低 限 の 現 状 2.2.2 課 税 最 低 限 の あ り 方 3. 課 税 最 低 限 の 設 定 3.1 課 税 最 低 限 の 設 定 方 法 3.2 税 収 可 能 性 曲 線 の 導 出 3.3 課 税 最 低 限 の 設 定 4. 最 低 生 計 費 と 課 税 最 低 限 4.1 生 活 保 護 と 課 税 最 低 限 に つ い て 4.2 最 低 生 計 費 と 課 税 最 低 限 の 比 較 5. お わ り に 1
1.は じ め に 近 年 、 わ が 国 で は 所 得 税 の 課 税 最 低 限 を め ぐ る 議 論 が 盛 ん に 行 わ れ て い る1)。 課 税 最 低 限 は 、 平 成 14 年 度 の 税 制 調 査 会 の 基 本 方 針 に お い て 、 「 一 定 の 基 本 的 な 控 除 の 積 み 上 げ た も の で あ り 、 そ の 水 準 は 納 税 者 と 非 納 税 者 を 分 か つ メ ル ク マ ー ル と な る だ け で は な く 、 す べ て の 納 税 者 の 課 税 所 得 金 額 を 左 右 す る 」 と さ れ て い る2)。 課 税 最 低 限 の 水 準 を 適 正 に す る こ と は 、 国 民 の 税 負 担 を 適 正 な 水 準 に す る 上 で 重 要 な 問 題 で あ る 。 課 税 最 低 限 を め ぐ る 議 論 と し て 、 そ の 根 幹 と な っ て い る の が 、 人 的 控 除 で あ る 。 こ の 人 的 控 除 の 基 本 的 な 項 目 と し て 、 基 礎 控 除 、 扶 養 控 除 、 配 偶 者 控 除 が 挙 げ ら れ る が 、 こ れ ら の 控 除 額 に つ い て 、 基 礎 控 除 、 配 偶 者 控 除 、 扶 養 控 除 の バ ラ ン ス を 考 え 、 水 野 (1985)は 、 「 中 所 得 者 の 生 計 費 の 重 圧 感 を 考 慮 し て 扶 養 控 除 を 他 の 控 除 よ り 高 く す る べ き で あ る と い う 」 議 論 を 紹 介 し て い る3)。 上 記 以 外 の 課 税 最 低 限 に 関 す る 議 論 と し て は 、 大 島 (1981)が あ り 、 「 給 与 所 得 控 除 は 、 給 与 獲 得 の 必 要 経 費 で あ る た め 、 基 礎 控 除 な ど の 人 的 控 除 と 同 一 視 し て 課 税 最 低 限 に 含 む べ き で は な い 」 と し て 、 そ の 課 税 最 低 限 水 準 に 焦 点 を あ て た 研 究 が あ る4)。 ま た 、 佐 々 木 (1997)は 、 「 最 低 生 活 費 と 比 較 検 討 さ れ る べ き 課 税 最 低 限 は 人 的 控 除 の み で あ ろ う 。 」 と し て お り 、 社 会 保 険 料 控 除 や 給 与 所 得 控 除 を 課 税 最 低 限 に 加 え て い る こ と に 疑 問 を 投 げ か け 、 さ ら に 「 全 納 税 者 が 適 用 可 能 な 控 除 を 最 低 生 活 費 控 除 の 観 点 か ら 課 税 最 低 限 と す る べ き で あ る 」 と し て い る5)。 2005 年 現 在 、 日 本 の 所 得 税 の 課 税 最 低 限 は 、 配 偶 者 特 別 控 除 の 上 乗 せ 部 分 が 廃 止 さ れ た た め 、 標 準 世 帯 (夫 婦 子 二 人 の 世 帯 )で 約 325 万 円 と な っ て い る6)。 1) 2005 年度の税制調査会は、定率減税の見直し、課税ベースの拡大、税率構造、諸控除の見直しにとり くむ と して い る。 課 税最 低 限の 議 論と し ては 、 課税 最 低限 の 水準 と して ド イツ の 判例 と 日本 の 判例 を 比較 し た三 木(1994) と、給与所得者の給与所得控除と人的控除の視点から分析した林(20 00)などがある。 2) 税制調査会ホームページ「あるべき税制の構築に向けた基本方針」
http:// www. mof.go.jp/si ngi kai/zeicho/tosin/140614c. htm 引用。 3) 水野(1985) p.107 引用。
4) 大島(1981) p.122 引用。 5) 佐々木(199 7)p.232 引用。
6) 2005 年現在、所得税の課税最低限の水準(夫婦子二人の世帯で 3 25 万円) と個人住民税の課税最低限の
税 制 調 査 会 は 、 課 税 最 低 限 の 国 際 比 較 を 行 っ た 上 で 、 こ れ ま で 日 本 の 課 税 最 低 限 の 水 準 が 高 か っ た と し て 、 こ の 水 準 の 下 方 修 正 が 適 切 で あ る と し て い る7)。 こ の 点 に つ い て は 、 次 章 で 現 在 の 課 税 最 低 限 の 水 準 を 主 要 国 と 比 較 し て 検 証 す る が 、 そ の 結 果 、 税 制 調 査 会 の 見 解 に は 若 干 の 疑 問 が 呈 さ れ る 。 国 際 比 較 は 、 そ の 時 の 為 替 レ ー ト や 国 民 所 得 水 準 の 相 違 が 基 準 に 大 き く 影 響 す る こ と か ら で あ る 。 そ こ で 本 稿 で は ま ず 、 最 適 課 税 論 の 立 場 か ら 課 税 最 低 限 の 水 準 は 、 い か な る 要 因 に 左 右 さ れ る こ と に な る か を 考 察 す る 。 理 解 を 深 め る た め に 、 数 値 例 を 用 い た シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 分 析 も お こ な う 。 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 分 析 で は 、 公 平 性 の 嗜 好 や 労 働 供 給 の 弾 力 性 な ど に よ り 課 税 最 低 限 の 水 準 が 左 右 さ れ る こ と を あ き ら か に す る8)。 次 に 、 本 稿 で は 現 実 の 政 策 提 言 に 耐 え う る 最 適 な 課 税 最 低 限 の 水 準 を 最 低 生 計 費 の 基 準 か ら 検 討 し て い く こ と に す る 。 最 低 生 計 費 と 課 税 最 低 限 の 水 準 の 比 較 を 行 う こ と の 意 義 は 、 最 低 生 計 費 は 、 人 が 最 低 限 生 活 す る こ と が で き る 水 準 と し て 、 憲 法 25 条 の 「 文 化 的 で 最 低 限 度 の 生 活 」 を 根 拠 と し た 生 活 保 護 法 の 生 活 扶 助 基 準 を 用 い ら れ て 算 出 さ れ て い る こ と に あ る 。 課 税 最 低 限 の 最 低 の 水 準 を 見 る こ と で 、 ど の 程 度 ま で 最 低 限 の 水 準 よ り 高 い 生 活 水 準 を 達 成 し て い る か ど う か を 検 証 す る こ と が で き る 。 2. 所 得 税 の 役 割 と 課 税 最 低 限 こ の 章 で は 、 ま ず 所 得 税 の 意 義 を 踏 ま え 所 得 税 に 求 め ら れ る 役 割 を 確 認 し 、 水準( 夫婦 子 二 人の 世 帯で27 0 万円) は異なっているが、個人住民税は、地方税としての租税の原則である 「応 益 負担 の 原則 」 を満 た す必 要 があ り 、国 税 の課 税 最低 限 の水 準 より 個 人住 民 税の 課 税最 低 限の 水 準が 低 いと し ても 直 ちに 問 題が あ ると は いえ な い。 個 人住 民 税の 課 税最 低 限の 水 準を 国 税と 一 致さ せ るべ き であ る とす る 議論 も ある が 、本 稿 では 、 特に 所 得税 の 課税 最 低限 に つい て 検討 し てい く 。 7) 2004 年度の税制調査会の答申では、個人所得課税に関して「平成 1 1 年度から実施している定率減税を 含め 累 次の 減 税の 結 果、 主 要国 と 比較 し て極 め て低 い 税負 担 水準 と なっ て いる 」 とし て いる 。 税制 参 考資 料 集(2003)p.8 引用。 3
課 税 最 低 限 に 関 す る 変 遷 を 見 て い く 。 現 在 の 税 制 の 基 盤 と な っ て い る シ ャ ウ プ 勧 告 以 降 の 税 制 調 査 会 の 議 論 を 中 心 と し て み て い き 、 課 税 最 低 限 を ど の よ う に 決 定 し て い く べ き な の か 、 適 正 な 水 準 と し て ど の よ う な 基 準 を 用 い る べ き な の か に つ い て 検 討 し て い く 。 2.1 所 得 税 の 意 義 と 所 得 税 の 役 割 所 得 税 は 1887 年 に 国 家 経 費 の 増 加 に 伴 い 、 主 と し て そ の 財 源 調 達 を 目 的 と し て 創 設 さ れ た9)。 1950 年 、 シ ャ ウ プ 勧 告 に 基 づ く 税 制 改 正 が 行 わ れ た 。 シ ャ ウ プ 勧 告 で は 、 直 接 税 中 心 の 税 制 が 提 案 さ れ10)、 そ の 中 で も 所 得 税 が 最 も 重 要 な 租 税 で あ る と し て い る 。 直 接 税 中 心 の 税 制 が 提 案 さ れ た 理 由 と し て 、 直 間 比 率 、 公 平 性 、 所 得 税 の 景 気 自 動 安 定 化 装 置 が 挙 げ ら れ て い る11)。 直 間 比 率 と は 直 接 税 収 入 と 間 接 税 収 入 の 比 率 の こ と で あ る 。 シ ャ ウ プ 勧 告 で は 、 直 間 比 率 は 、 国 民 の 納 税 義 務 に 対 す る 自 覚 の 程 度 を お お ま か に 示 す も の で あ り 、 ま た 、 担 税 力 に 応 じ た 課 税 が 行 わ れ て い る か ど う か を 示 す も の で も あ る と し て お り 、 一 般 に 間 接 税 に は な い と し て い る12)。 直 接 税 の 公 平 性 が 間 接 税 よ り 優 れ て い る 点 は 、 所 得 税 な ら 個 人 の 担 税 力 の 相 違 に 応 じ た 課 税 を す る こ と が で き る が 、 一 般 に 間 接 税 で は 担 税 力 に 応 じ た 課 税 が で き ず 、 低 所 得 者 に と っ て 税 負 担 率 が 高 ま る た め 、 逆 進 性 が 生 じ る こ と で あ る 。 所 得 税 の 景 気 自 動 安 定 化 装 置 と は 、 好 況 で あ る 場 合 に は 所 得 税 は 累 進 税 率 が 採 ら れ て い る た め 、 よ り 税 負 担 が 増 加 し 、 イ ン フ レ ー シ ョ ン を 抑 え る こ と が で き 、 不 況 の 場 合 に は 、 よ り 低 い 税 率 が 適 用 さ れ る か 、 所 得 が 課 税 最 低 限 以 下 に な る た め 、 税 負 担 が 減 少 す る こ と で あ る 。 所 得 税 は 、 シ ャ ウ プ 勧 告 か ら 国 民 が 納 税 し て い る と い う 意 識 を 持 た せ る 点 お よ び 租 税 原 則 の 公 平 性 の 観 点 か ら 優 れ た 税 で あ る こ と が う か が え 、 所 得 税 に は 8) 最適課税については、本間・橋本(1985) がある。さらに詳しくは、本稿第 3 章参照のこと。 9) た だ し 、 井 手 (1959)は 、 当 時 日 本 は 、 産 業 資 本 主 義 の 段 階 に 来 て お り 、 商 工 業 収 益 や 、 金 利 収 入 等 を 課 税 対 象 に 含 む 税 制 を 樹 立 す る の は 当 然 の 成 り 行 き で 単 に 収 入 目 的 だ け で な く 、 税 制 の 合 理 化 、 近 代 化 の 目 的 も 持 っ て い た と 考 え ら れ る べ き で あ る と し て い る 。 詳 し く は 井 手 (1959)を 参 照 さ れ た い 。 10) た だ し 、 シ ャ ウ プ 勧 告 の 所 得 税 に は 法 人 税 も 含 ま れ て い る 。 法 人 税 は 所 得 税 の 源 泉 徴 収 と し て 位 置 づ け ら れ て い た 。 詳 し く は 佐 藤 ・ 宮 島 (1982)を 参 照 さ れ た い 。 11)直 接 税 の 長 所 に つ い て は 八 田 (1988)を 参 照 さ れ た い 。 4
担 税 力 に 応 じ た 課 税 が 求 め ら れ て い る こ と が 分 か る 。 現 在 、 所 得 税 法 で は 、 所 得 を 給 与 所 得 、 利 子 所 得 、 事 業 所 得 、 譲 渡 所 得 等 10 種 類 の 課 税 所 得 に 分 類 し て い る13)。 こ れ は 、 各 所 得 の 源 泉 に お け る 担 税 力 の 違 い か ら 、 応 能 負 担 の 原 則 に 則 す る た め に 分 類 さ れ て い る 。 所 得 税 の 役 割 は 、 主 と し て 所 得 の 再 分 配 と 財 源 調 達 で あ る 。 つ ま り 、 政 府 が 財 政 政 策 や 金 融 政 策 を 行 う た め に 必 要 な 財 源 を 確 保 す る こ と 、 お よ び 政 府 が 徴 収 し た 税 金 を 高 所 得 者 か ら 低 所 得 者 に 分 配 し て 所 得 格 差 の 是 正 を 行 う こ と で あ る 。 こ の 他 、 担 税 力 に 応 じ た 課 税 を 行 う こ と が 挙 げ ら れ る 。 所 得 税 の 負 担 は 、 課 税 最 低 限 と 税 率 の 累 進 度 に よ っ て 決 め ら れ て い る 。 現 行 の 所 得 税 制 で は 、 総 合 課 税 制 度 が 採 ら れ て お り 、 非 課 税 所 得 、 退 職 所 得 及 び 山 林 所 得 以 外 の 所 得 を 合 算 し 、 そ の 合 計 所 得 か ら 種 々 の 所 得 控 除 を 差 し 引 い た 金 額 を 課 税 所 得 と し て い る 。 非 課 税 所 得 は 、 損 害 賠 償 金 、 給 与 所 得 者 の 通 勤 費 等 が 含 ま れ る14)。 退 職 所 得 、 山 林 所 得 は 申 告 分 離 課 税 制 度 が と ら れ て お り 、 分 離 し て 税 額 を 計 算 し 、 確 定 申 告 に よ っ て 納 税 す る15)。 退 職 所 得 の 納 税 額 は 、 退 職 所 得 か ら 控 除 額 を 除 き 、2 分 の 1 を か け て 課 税 退 職 所 得 を 求 め 、 所 得 税 の 累 進 税 率 表 に そ っ た 税 率 を 掛 け て 決 定 さ れ る 。 山 林 所 得 の 納 税 額 は 、 山 林 所 得 か ら 控 除 額 を 除 い た 金 額 が 課 税 山 林 所 得 と な り 、 課 税 山 林 所 得 を 5 分 の 1 に し て 税 率 を 掛 け 、 5 倍 し た 金 額 が 納 税 額 と な る 。 課 税 所 得 が 330 万 円 以 下 の 部 分 に は 10% 、 900 万 円 以 下 の 部 分 に は 20% 、 1,800 万 円 以 下 の 部 分 に は 30% 、 1,800 万 円 超 の 部 分 に は 37% の 税 率 を か け て 納 税 額 が 算 出 さ れ る (表 2− 1 参 照 )。 こ の 金 額 か ら 配 当 控 除16)、 外 国 税 額 控 除 等 の 税 額 控 除 を 差 し 引 い て 所 得 税 の 負 担 額 が 決 定 し て い る 。 表 2− 1 現 行 の 累 進 税 率 表 12) シ ャ ウ プ 使 節 団 (1946)p.9 参 照 。 13) そ の 他 配 当 所 得 、 不 動 産 所 得 、 退 職 所 得 、 山 林 所 得 、 一 時 所 得 、 雑 所 得 が あ る (所 得 税 法 第 23 条 、 第 24 条 、 第 26 条 、 第 27 条 、 第 28 条 、 第 30 条 、 第 32 条 、 第 33 条 、 第 34 条 、 及 び 第 35 条 参 照 )。 14) 所 得 税 法 第 9 条 、 第 10 条 、 第 11 条 参 照 。 15) 所 得 税 法 第 22 条 参 照 。 16) 所 得 税 法 92 条 参 照 。 5
課税所得 税率 330万円以下 10% 330万円超∼900万円以下 20% 900万円超∼1,800万円以下 30% 1,800万円超 37% 2.2 課 税 最 低 限 の 水 準 こ の 節 で は 、 課 税 最 低 限 の 水 準 を 考 察 す る た め に 、 ま ず 現 状 に つ い て 触 れ 、 諸 外 国 と 比 較 し 、 そ の 上 で 、 政 府 税 制 調 査 会 の 課 税 最 低 限 に 対 す る 議 論 を 中 心 に 課 税 最 低 限 の 役 割 、 課 税 最 低 限 を 決 定 す る 指 標 、 課 税 最 低 限 を 構 成 す る 諸 控 除 の 変 遷 を 見 て い く 。 2.2.1 課 税 最 低 限 の 現 状 先 に も 述 べ た よ う に 課 税 最 低 限 は 、 基 礎 的 な 控 除 を 積 み 重 ね た も の で 、 そ の 水 準 を 超 え る と 税 金 が か か る 水 準 の こ と で あ る 。 政 府 は 所 得 税 の 課 税 最 低 限 を 所 得 控 除 で あ る 基 礎 控 除17)、 扶 養 控 除18)、 配 偶 者 控 除19)、 特 定 扶 養 親 族 控 除 20)、 社 会 保 険 料 控 除21)、 お よ び 給 与 所 得 控 除 に よ っ て 決 定 し て い る22)。 給 与 所 得 控 除 と は 、 給 与 所 得 を 得 る た め に 必 要 な 経 費 を 実 額 控 除 か 概 算 控 除 で 給 与 所 得 か ら 差 し 引 く 制 度 で23)、 実 額 控 除 は 、 必 要 経 費 が 給 与 所 得 控 除 を 超 え る 際 に 、 特 定 支 出 控 除 と い う 制 度 を 使 用 し て 、 特 定 の 項 目 に 該 当 す る 経 費 を 控 除 す る 制 度 で あ る24)。 は じ め に で も 挙 げ た よ う に 、 政 府 が 設 定 し て い る 課 税 最 低 限 の 定 義 に つ い て は 議 論 が あ り 、 課 税 最 低 限 に 給 与 所 得 控 除 、 社 会 保 険 料 控 除 を 含 む べ き か ど う か と い う 問 題 が あ る 。 和 田 (1982)は 、 「 課 税 最 低 限 は 、 家 族 構 成 に 応 じ た 最 低 生 活 費 と み な さ れ て き て い る 。 」 と し25)、 給 与 所 得 控 除 は 、 経 費 で 最 低 生 17) 所 得 税 法 第 86 条 参 照 。 18) 所 得 税 法 第 2 条 第 34 項 2 号 お よ び 同 第 84 条 参 照 。 19) 所 得 税 法 第 2 条 第 33 項 お よ び 同 第 83 条 参 照 。 20) 所 得 税 法 第 2 条 第 34 項 2 号 お よ び 同 第 84 条 参 照 。 21) 所 得 税 法 第 74 条 参 照 。 22) 所 得 税 法 第 28 条 第 3 項 23) 実 額 控 除 と は 、 実 際 の 経 費 の 金 額 (概 算 経 費 は 所 得 税 法 第 28 条 参 照 )。 24) イ ギ リ ス で は 実 額 控 除 の み で あ り 、 概 算 経 費 と い う 制 度 は な い 。 25) 和 田 (1982)p.143 引 用 。 6
活 費 で は な い と し て い る 。 課 税 最 低 限 の 役 割 を 最 低 生 計 費 の 控 除 と す る と 、 給 与 所 得 控 除 を 課 税 最 低 限 に 含 む べ き で は な い と す る べ き で あ る が 、 平 成 15 年 度 現 在 、 納 税 者 人 口 の 約 80% が 給 与 所 得 者 で あ り26)、 給 与 所 得 者 が 納 税 者 の 大 部 分 を 占 め て い る 現 状 に お い て 給 与 所 得 控 除 を 課 税 最 低 限 含 め た ほ う が よ り 一 般 的 で あ る と い え る だ ろ う 。 社 会 保 険 料 控 除 に つ い て は 、 納 税 者 が 保 険 料 を 納 め て い る と い う 前 提 は あ る も の の 、 給 与 所 得 者 、 事 業 所 得 者 に か か わ ら ず 広 く 適 用 さ れ て お り 、 課 税 最 低 限 に 含 め る べ き で あ る と 考 え ら れ る 。 表 2− 2 人 的 控 除 の 控 除 額 人的控除の種類 控除額 基礎控除 38万円 配偶者控除 38万円 扶養控除 38万円 特定扶養控除 63万円 表 2− 2 は 、 現 在 の 所 得 税 制 に お け る 基 礎 的 な 人 的 控 除 で あ る 基 礎 控 除 、 扶 養 控 除 、 配 偶 者 控 除 、 及 び 政 府 が 課 税 最 低 限 に 組 み 入 れ て い る 特 定 扶 養 控 除 の 控 除 額 を 表 し た も の で あ る 。 こ の 他 の 所 得 控 除 と し て は 、 障 害 者 控 除27)、 寡 婦 (寡 夫 )控 除28)、 勤 労 学 生 控 除 等 が あ る29)。 な お 、 こ の 人 的 控 除 額 は 、 同 居 特 別 障 害 者 以 外 の 人 の 控 除 額 で あ る30)。 現 行 の 基 礎 的 な 人 的 控 除 の 控 除 額 は 、 基 礎 控 除 、 配 偶 者 控 除 、 扶 養 控 除 が 一 律 38 万 円 で あ り 、 分 か り や す い 制 度 と な っ て い る 。 他 の 人 的 控 除 で 課 税 最 低 限 を 構 成 し て い る 特 定 扶 養 控 除 が 63 万 円 と な っ て い る (表 2− 2 参 照 )。 図 2− 1 は 、 日 本 と 諸 外 国 の 所 得 税 の 課 税 最 低 限 を 独 身 者 、 夫 婦 子 一 人 世 帯 、 夫 婦 子 二 人 世 帯 別 に 表 し た も の で あ る 。 な お 、 日 本 、 フ ラ ン ス 、 ド イ ツ で は 社 会 保 険 料 の 控 除 が 認 め ら れ て い る が 、 ア メ リ カ 、 イ ギ リ ス で は 控 除 が 認 め ら れ 26) 財 務 省 財 政 金 融 研 究 所 (2005)p.49 参 照 。 27) 所 得 税 法 79 条 参 照 。 28) 所 得 税 法 81 条 参 照 。 29) 所 得 税 法 82 条 参 照 。 30) 同 居 特 別 障 害 者 と は 特 別 障 害 者 で あ る 扶 養 親 族 で 、 納 税 者 、 納 税 者 の 配 偶 者 、 ま た は 納 税 者 と 生 計 を 一 に し て い る そ の 他 の 扶 養 親 族 と 常 に 同 居 し て い る 人 。 7
て い な い 。 ま た 、 日 本 、 ア メ リ カ 、 ド イ ツ 、 フ ラ ン ス で は 扶 養 控 除 が 存 在 す る が 、 イ ギ リ ス で は 、 所 得 控 除 と し て の 扶 養 控 除 は 廃 止 さ れ て お り 人 的 控 除 は 基 礎 控 除 の み で あ る31)。 た だ し 、 ア メ リ カ 、 イ ギ リ ス で は 税 額 控 除 が 充 実 し て お り 、 税 額 控 除 と し て 両 国 と も 児 童 税 額 控 除 が あ り 、 そ の 他 ア メ リ カ で は 勤 労 所 得 税 額 控 除 、 同 様 の 制 度 と し て イ ギ リ ス で は 勤 労 税 額 控 除 が 採 用 さ れ て い る 。 勤 労 所 得 税 額 控 除 は 、 所 得 控 除 額 が 所 得 税 額 よ り 多 い 場 合 そ の 差 額 を 還 付 す る 制 度 で あ る 。 勤 労 税 額 控 除 は 、 世 帯 の 税 ・ 社 会 保 険 料 支 払 後 所 得 が 、 基 準 額 よ り 少 な い 場 合 に 支 給 さ れ る 制 度 で あ る 。 児 童 税 額 控 除 は 、 ア メ リ カ で は 、17 歳 未 満 の 子 供 一 人 に 対 し て 年 収 が 一 定 額 に 達 す る ま で 満 額 1,000 ド ル (約 10.9 万 円 )が 控 除 さ れ 、 年 収 が 一 定 額 を 超 え る と 、 徐 々 に 減 額 さ れ る32)。 イ ギ リ ス で は 、 子 供 一 人 あ た り に 対 す る 税 額 控 除 だ け で な く 、 子 供 の い る 全 て の 世 帯 に 定 額 が 控 除 さ れ る 33)。 0 100 200 300 400 500 600 日本 アメリカ イギリス ドイツ フランス (単位:万円) 独身者 夫婦子一人 夫婦子二人 出 所 : 『 財 政 金 融 統 計 月 報 』 第 636 号 p 49 よ り 作 成 。 図 2− 1 諸 外 国 と 日 本 の 所 得 税 の 課 税 最 低 限 31) イ ギ リ ス の 基 礎 控 除 は 高 齢 者 ほ ど 高 額 に な り 、 65 歳 未 満 は 4,895 ポ ン ド (約 96.9 万 円 )、 65 歳 か ら74 歳 未 満 は 7090 ポ ン ド (約 140.3 万 円 )、 74 歳 以 上 7220 ポ ン ド (約 142.9 万 円 )と な っ て い る 。 (2005 年 4 月 現 在 )。 32) 詳 し く は 岩 田 (2002)p.75 を 参 照 さ れ た い 。 8
現 在 、 日 本 で は 、 所 得 税 の 独 身 者 の 課 税 最 低 限 は 、114.4 万 円 と な っ て お り 、 夫 婦 子 一 人 の 世 帯 の 課 税 最 低 限 は 220 万 円 、 政 府 が 標 準 世 帯 と し て い る 夫 婦 子 二 人 に お け る 課 税 最 低 限 は 325 万 円 と な っ て い る 。 (図 2− 1 参 照 )34)。 図 1 を 見 る と 、 日 本 の 課 税 最 低 限 の 水 準 は 、 単 身 世 帯 で は 、 ア メ リ カ よ り も 高 く 、 イ ギ リ ス 、 ド イ ツ 、 フ ラ ン ス よ り も 低 く な っ て お り 、 夫 婦 子 一 人 の 世 帯 で は 諸 外 国 の ど の 国 よ り も 低 い 水 準 と な っ て い る 。 そ し て 、 夫 婦 子 二 人 の 世 帯 に お い て も 、 諸 外 国 の ど の 国 よ り も 低 い 水 準 と な っ て い る 。 こ の よ う に 、 諸 外 国 と の 比 較 か ら 、 日 本 の 課 税 最 低 限 の 水 準 が ア メ リ カ の 単 身 世 帯 を 除 き 、 諸 外 国 よ り も 低 い 水 準 で あ る こ と が 分 か っ た 。 た だ し 、 は じ め に で も 挙 げ た よ う に 、 課 税 最 低 限 の 国 際 比 較 は 、 国 民 所 得 水 準 の 違 い 等 の 問 題 点 が あ り 、 単 純 に 比 較 す る こ と が で き な い 点 に 注 意 し な け れ ば な ら な い35)。 2.2.2 課 税 最 低 限 の あ り 方 課 税 最 低 限 の 水 準 は 、 シ ャ ウ プ 勧 告 以 降 、 税 制 改 正 が 繰 り 返 さ れ る 度 に 変 化 し て き た 。 シ ャ ウ プ 勧 告 が 行 わ れ た 当 初 は 、 低 所 得 層 の 負 担 が 重 か っ た た め 1955 年 に 至 る ま で ほ ぼ 毎 年 の よ う に 基 礎 控 除 、 扶 養 控 除 の 引 き 上 げ が 行 わ れ て い た (付 表.1、 付 表 .2 参 照 )。 そ の 後 、 1950 年 代 後 半 に 入 り 戦 後 復 興 を 果 た し た た め 、 国 の 財 政 状 態 、 国 民 の 経 済 状 態 に 応 じ た 税 体 系 を 模 索 し て い く こ と に な る 。 1960 年 度 の 税 制 調 査 会 は 政 府 の 「 国 民 所 得 倍 増 計 画 」 に 沿 っ て 経 済 発 展 を 促 す た め に 減 税 を 行 う こ と を 決 め 、 業 種 に よ っ て 税 負 担 が 異 な る こ と 、 世 帯 構 成 に よ る 担 税 力 の 違 い お よ び 高 校 に 進 学 す る 15 歳 を 境 と し て 教 育 費 を 中 心 に 生 計 費 が 増 加 す る と い う 観 点 か ら 給 与 所 得 控 除 の 定 額 控 除 、 お よ び 配 偶 者 控 除 33) 詳 し く は 青 木 (2004)p.189 を 参 照 さ れ た い 。 34) 1 ポ ン ド を 198 円 、 1 ド ル を 109 円 、 1 ユ ー ロ を 135 円 で 換 算 し て い る 。 35) 蜂 屋 (2001)は 、 国 民 所 得 水 準 の 相 違 を 考 慮 す る と 日 本 の 課 税 最 低 限 の 水 準 は 、 ド イ ツ 、 フ ラ ン ス よ り 低 く な る と し て い る 。 ま た 、 ア メ リ カ 、 イ ギ リ ス の 税 額 控 除 を 考 慮 し た 課 税 最 低 限 の 水 準 と 日 本 の 課 税 最 低 限 の 水 準 を 比 較 し て お り 、 日 本 の 課 税 最 低 限 の 水 準 は 、 夫 婦 子 二 人 の 世 帯 で は 、 イ ギ リ ス の 課 税 最 低 限 の 水 準 と ほ ぼ 等 し く な り 、 ア メ リ カ の 課 税 最 低 限 の 水 準 よ り 高 く な る こ と を 示 し て い る 。 9
の 創 設 、 満 15 歳 以 上 の 扶 養 親 族 の 控 除 額 を 引 き 上 げ る 提 案 を し た36)。 配 偶 者 控 除 つ い て は 夫 の み が 所 得 を 稼 得 し て い る 場 合 で あ る と し て も 、 夫 の 稼 得 に 妻 の 家 庭 で の 働 き に よ る 貢 献 が 大 き く 、 そ の 控 除 額 を 所 得 者 で あ る 夫 の 基 礎 控 除 額 と 同 額 に す る こ と で 、 片 働 き 世 帯 と 共 働 き 世 帯 の 負 担 の バ ラ ン ス も 改 善 さ れ る た め 、 基 礎 控 除 額 と 同 額 の 控 除 額 を 設 定 す る 提 案 を し た37)。 1963 年 度 の 税 制 調 査 会 で は 日 本 の 所 得 税 制 が 累 進 税 を と っ て お り 、 消 費 者 物 価 の 上 昇 の 影 響 に よ り 、 所 得 税 の 負 担 が 実 質 的 に 増 加 し た 点 、 課 税 最 低 限 の 水 準 が 諸 外 国 と 比 べ て 低 い 水 準 に で あ る 点 、 お よ び 納 税 人 員 の 増 加 と い う 観 点 か ら 、 課 税 最 低 限 の 引 き 上 げ を 提 案 し て い る 。 所 得 税 の 負 担 を 緩 和 す る た め に は 、 累 進 度 の 緩 和 を 行 う よ り も 、 課 税 最 低 限 を 引 き 上 げ る こ と に よ っ て 、 名 目 所 得 の 増 加 に よ る 実 質 的 な 税 負 担 の 増 加 を 調 整 す る こ と が で き 、 低 所 得 者 の 負 担 を 緩 和 す る こ と が で き る た め 、 課 税 最 低 限 を 引 き 上 げ る べ き で あ る と し て い る38)。 1964 年 度 の 税 制 調 査 会 の 答 申 で は 、 課 税 最 低 限 を 定 め る 基 準 と し て 、 マ ー ケ ッ ト ・ バ ス ケ ッ ト 方 式 に よ っ て 基 準 生 計 費 を 算 出 し 、 こ の 基 準 生 計 費 を 用 い て 設 定 さ れ て い た が 、 こ の 算 定 方 法 以 外 に 、 所 得 税 の 所 得 再 分 配 機 能 、 税 務 の 執 行 能 力 の 観 点 か ら 、 就 業 人 口 に 対 す る 納 税 者 割 合 を 取 り 入 れ る こ と を 提 案 し て い る39)。 現 在 、 課 税 最 低 限 は 給 与 所 得 控 除 、 社 会 保 険 料 控 除 、 基 礎 控 除 、 配 偶 者 控 除 、 扶 養 控 除 、 特 定 扶 養 控 除 に よ っ て 構 成 さ れ て い る 。 1964 年 度 の 税 制 調 査 会 の 答 申 で は 、 マ ー ケ ッ ト ・ バ ス ケ ッ ト 方 式 に よ る 基 準 生 計 費 が 4 人 世 帯 と 5 人 世 帯 で 大 き く 異 な り 、 そ の 要 因 と し て 年 齢 構 成 を 挙 げ て い る 。 当 時 、4 人 世 帯 と 5 人 世 帯 で は 、 5 人 世 帯 の 方 が 年 齢 が 高 く な る た め 、 生 計 費 が 高 く な る と し て お り 、 マ ー ケ ッ ト ・ バ ス ケ ッ ト 方 式 に よ る 年 齢 別 の 栄 養 所 要 量 の 変 化 、 生 活 保 護 に 基 づ く 保 護 基 準 額 を 算 出 し て い る 。 そ の 結 果 か ら 、 扶 養 控 除 の 額 が 相 対 的 に 少 な い こ と を 指 摘 し 、 課 税 最 低 限 の 引 き 上 げ 36)税 制 調 査 会 (1960)pp.2-5 お よ び pp.39-56 参 照 。 37)税 制 調 査 会 (1960)pp.44-48 参 照 。 。 38)税 制 調 査 会 (1963)pp.6-14 参 照 。 39)税 制 調 査 会 (1964b)p.9 参 照 。 10
を 提 案 し て い る40)。 1964 年 度 の 税 制 調 査 会 の 答 申 で は 、 配 偶 者 控 除 は あ く ま で 生 計 費 を 控 除 す る た め の 制 度 で あ り 、 配 偶 者 控 除 と 基 礎 控 除 を 同 額 に す る 理 由 が 乏 し い と い う 点 に 加 え て 、 当 時 の 財 政 状 態 を 勘 案 し た 結 果 、 配 偶 者 控 除 の 引 き 上 げ は 、 基 礎 控 除 に 対 し て 少 額 に な っ た が41)、1966 年 度 の 税 制 調 査 会 で 1960 年 に 創 設 さ れ た 経 緯 か ら 考 え て 同 額 に す べ き で あ る と し て お り42)、1967 年 度 の 税 制 調 査 会 の 答 申 で 、 課 税 最 低 限 を 引 き 上 げ る 際 に 、 配 偶 者 控 除 額 と 基 礎 控 除 額 を 等 し く す る 改 正 案 を 示 し た 。 扶 養 控 除 に つ い て は 、1965 年 度 の 税 制 調 査 会 の 答 申 で 、 扶 養 控 除 の 額 が 年 齢 に よ っ て 1 万 円 の 差 が あ る が 、 1 万 円 程 度 の 差 で あ れ ば こ の よ う な 格 差 を 廃 止 す る べ き と い う 意 見 が 紹 介 さ れ て お り43)、1966 年 度 の 税 制 調 査 会 の 答 申 で 、 課 税 最 低 限 の 引 き 上 げ と 同 時 に 、 税 制 の 簡 素 化 の 観 点 か ら 扶 養 控 除 の 年 齢 区 分 を 廃 止 し た44)。1974 年 度 に は 基 礎 控 除 、 配 偶 者 控 除 お よ び 扶 養 控 除 を 異 な る 水 準 に す る と 、 一 般 納 税 者 に と っ て 理 解 し に く く 、 納 税 者 が 理 解 し や す い 制 度 に す る た め に 、 租 税 原 則 で あ る 簡 素 化 の 観 点 か ら 基 礎 控 除 、 扶 養 控 除 お よ び 配 偶 者 控 除 全 て 一 律 の 控 除 額 設 定 を 提 案 し た45)。 1966 年 度 の 税 制 調 査 会 の 答 申 で は 課 税 最 低 限 の 機 能 を 4 つ に 分 類 し て お り 、 課 税 最 低 限 の 機 能 は 、 「 ① 所 得 の う ち そ の 当 時 の 国 民 生 活 水 準 か ら 見 て 必 要 と さ れ る 生 計 費 に あ た る 部 分 を 課 税 の 対 象 外 に お く こ と 、 ② 所 得 税 の 納 税 者 数 を 税 務 行 政 で 処 理 可 能 な 程 度 に す る こ と 、 ③ 低 所 得 層 の 累 進 度 を 緩 和 す る こ と 、 ④ 家 族 構 成 等 に 応 じ て 税 負 担 に 差 等 を 設 け 応 能 負 担 に 適 合 せ し め る こ と 」 と し て い る46)。 こ の た め 税 制 調 査 会 は 、 課 税 最 低 限 を 決 定 す る 際 に 平 均 国 民 所 得 、 納 税 者 人 員 の 推 移 、 基 準 生 計 費 と 課 税 最 低 限 の 対 比 、 消 費 水 準 の 動 向 を 用 い て 課 税 最 低 限 の 引 き 上 げ を 提 案 し た 。1967 年 度 の 税 制 調 査 会 の 答 申 で は 、 課 税 40)税 制 調 査 会 (1964a)pp.14-19 参 照 。 41)税 制 調 査 会 (1964a)p.9 参 照 。 42)税 制 調 査 会 (1966)p.41 参 照 。 43)税 制 調 査 会 (1965)p.19 参 照 。 44)税 制 調 査 会 (1966)p.43 参 照 。 45)税 制 調 査 会 (1974)p.3 参 照 。 46) 税 制 調 査 会 (1965)p.37 引 用 。 11
最 低 限 の あ り 方 に つ い て 検 討 し て お り 、 そ の 中 で 、 人 的 控 除 の 仕 組 み に つ い て 述 べ て お り 、 人 的 控 除 は 、 基 礎 控 除 、 配 偶 者 控 除 、 扶 養 控 除 を 組 み 合 わ せ る と い う よ り 、 世 帯 人 員 の 増 加 に 応 じ て 控 除 額 を 逓 減 し て い く ほ う が 簡 素 化 の 点 か ら も 良 く 、 人 的 控 除 の 生 計 費 を 考 慮 す る 性 格 に も 合 致 し て い る と し い る 。 ま た 、 納 税 者 人 口 に 対 す る 給 与 所 得 者 の 割 合 が 増 加 し て い る 点 か ら 給 与 所 得 控 除 の 改 正 、 お よ び 引 き 上 げ を 提 案 し て い る47)。 1974 年 度 の 税 制 調 査 会 は 、 給 与 所 得 の 担 税 力 の 弱 さ を 指 摘 し た 上 で 給 与 所 得 者 の 税 負 担 軽 減 を 重 点 と し た 減 税 案 を 提 案 し て い る 。 簡 素 化 の 面 か ら 給 与 所 得 に 対 す る 定 額 控 除 を 廃 止 し 、 定 率 控 除 制 度 の み に す る 。 低 所 得 者 を 配 慮 す る た め の 措 置 と し て 、 最 低 限 度 の 控 除 額 を 設 定 し 、 定 率 控 除 の 額 が 最 低 限 度 額 を 下 回 る 場 合 に は 最 低 限 度 額 が 控 除 さ れ る 制 度 を 構 築 し 、 事 業 所 得 者 の 経 費 に は 最 高 限 度 額 が な い こ と か ら 、 業 種 間 の 負 担 の 公 平 を 図 る た め に 給 与 所 得 控 除 の 最 高 限 度 額 の 廃 止 を 提 案 し た48)。 こ の 他 、1974 年 度 の 答 申 で は 、 課 税 最 低 限 を 定 め る 基 準 と し て マ ー ケ ッ ト ・ バ ス ケ ッ ト 方 式 に よ る 基 準 生 計 費 を 用 い て い た が 、 課 税 最 低 限 の 引 き 上 げ が 進 ん だ 結 果 、 課 税 最 低 限 の 水 準 が 基 準 生 計 費 、 人 事 院 で 算 出 さ れ て い る 標 準 生 計 費 を 上 回 っ て い る こ と 、 課 税 最 低 限 の 水 準 を 設 定 す る 上 で 、 貯 蓄 を 行 う こ と が で き る 水 準 基 準 に し て い く た め 、 生 計 費 と 課 税 最 低 限 の 水 準 を 比 較 す る こ と が 、 あ ま り 重 要 で な く な っ た と し 、 課 税 最 低 限 を 設 定 す る 場 合 、 蓄 積 水 準 、 納 税 人 員 の 推 移 、 所 得 水 準 、 生 活 水 準 、 物 価 水 準 の 上 昇 に よ っ て 調 整 を 加 え て い く べ き で あ る と し て い る49)。 1987 年 度 の 税 制 調 査 会 の 答 申 で は 、 世 帯 と し て の 税 負 担 を 軽 減 す る た め に 配 偶 者 特 別 控 除 の 創 設 、 給 与 所 得 者 の 申 告 を 促 進 す る た め に 特 定 の 支 出 を 控 除 す る 特 定 支 出 控 除 制 度 の 導 入 を 提 案 し て い る50)。 た だ し 、 配 偶 者 特 別 控 除 に 関 し て は 公 平 性 、 効 率 性 の 観 点 か ら 、2003 年 度 の 税 制 調 査 会 で 上 乗 せ 部 分 の 47)税 制 調 査 会 (1967)p.10-12 参 照 。 48)税 制 調 査 会 (1973)pp.4-6 参 照 。 49)税 制 調 査 会 (1971)pp.76-79 参 照 。 50)税 制 調 査 会 (1987)pp.3-4 参 照 。 12
廃 止 が 提 案 さ れ て い る51)。 1988 年 の 税 制 調 査 会 の 中 間 答 申 で は 、 教 育 費 等 の 支 出 が 増 加 す る 一 定 の 年 齢 層 の 税 負 担 を 緩 和 す る た め に 扶 養 控 除 の 割 増 控 除 の 創 設 を 提 案 し て い る52)。 た だ し 、2003 年 度 の 税 制 調 査 会 の 答 申 で は 、 諸 控 除 の あ り 方 と し て 経 済 社 会 の 変 化 に 適 宜 対 応 し 、 中 立 的 な 税 制 を 構 築 す る た め に 、 人 的 控 除 の 割 増 、 加 算 措 置 を 是 正 し 、 人 的 控 除 の 簡 素 化 お よ び 集 約 化 を 行 う 必 要 が あ る と し て い る 53)。 1998 年 に は 景 気 対 策 と し て 一 年 間 限 定 で 定 額 の 特 別 減 税 を 導 入 し54)、 そ の 後 1999 年 の 税 制 調 査 会 で 恒 久 的 減 税 と し て 定 率 減 税 の 導 入 が 提 案 さ れ た55)。 2000 年 の 税 制 調 査 会 の 答 申 で は 、 課 税 最 低 限 の あ り 方 に つ い て 、 国 民 の 生 活 水 準 が 相 当 程 度 向 上 し た 現 状 で は 、 生 計 費 の 観 点 か ら の み で な く 、 公 的 サ ー ビ ス の 費 用 を 国 民 が 広 く 分 か ち 合 う 必 要 性 を 踏 ま え て 総 合 的 に 検 討 し て い く べ き で あ る と し て い る56)。 2004 年 度 の 税 制 調 査 会 の 答 申 で は 、 少 子 高 齢 化 が 進 ん で い る た め 、 世 代 間 の 負 担 の 公 平 を 確 保 す る た め に 、65 歳 以 上 の 高 齢 者 の 課 税 最 低 限 が 公 的 年 金 控 除 、 老 年 者 控 除 に よ っ て 、 担 税 力 に 応 じ た 税 負 担 が 課 せ ら れ て い な い た め 、 公 的 年 金 控 除 、 老 年 者 控 除 の 縮 減 が 提 案 さ れ て い る57)。 こ れ ま で 税 制 調 査 会 の 議 論 を 検 証 し て き た 。 税 制 調 査 会 の 議 論 か ら 課 税 最 低 限 の 役 割 は 、 主 に 最 低 生 計 の 非 課 税 、 納 税 人 員 を 一 定 に 保 つ こ と 、 世 帯 構 成 を 考 慮 し た 税 負 担 を 課 す こ と に あ る と 考 え ら れ る 。 近 年 の 答 申 で は 、 国 民 が 受 け る 公 的 サ ー ビ ス の 費 用 を 広 く 国 民 が 負 担 す る べ き で あ る と う い う 観 点 か ら 、 税 を 「 薄 く 、 広 く 」 課 税 す る よ う に 提 案 し て お り 、 人 的 控 除 の 簡 素 化 が 進 め ら れ て い る 。 そ の 結 果 、 最 低 生 計 費 の 基 準 で は な く 、 効 率 、 簡 素 を 重 視 し て 課 税 最 51)日 本 租 税 研 究 会 (2003)p.7 参 照 。 52)税 制 調 査 会 (1988)p.13 参 照 。 53)日 本 租 税 研 究 会 (2003)pp.6-7 参 照 。 54)日 本 租 税 研 究 協 会 (1998)p.5 お よ び p.21 参 照 。 55)定 率 減 税 は 、 所 得 税 の 税 額 か ら 20% を 控 除 し 、 個 人 住 民 税 の 所 得 割 の 税 額 か ら 15% を 控 除 す る 制 度 で あ る 。 控 除 額 の 最 高 限 度 額 は 所 得 税 の う ち25 万 円 、 住 民 税 の 所 得 割 は 4 万 円 と な っ て い る 。 税 制 調 査 会 の 答 申 に つ い て は 、 日 本 租 税 研 究 会 (1999)pp.8-9 参 照 。 56)税 制 調 査 会 (2000)pp.90-91 参 照 。 57)日 本 租 税 研 究 会 (2004)p.9 参 照 。 13
低 限 の 水 準 が 設 定 さ れ て き て い る 。 し か し 、 広 く 国 民 に 負 担 を 求 め る た め に 、 人 的 控 除 の 縮 小 を 行 い 、 高 齢 者 に 租 税 負 担 を 求 め て い く と し て も 、 応 能 負 担 の 原 則 に 照 ら し 、 最 低 生 計 費 を 侵 食 し な い よ う に 課 税 最 低 限 を 決 定 し な け れ ば な ら な い 。 そ の 上 で 、 所 得 税 の 役 割 で あ る 所 得 再 分 配 、 財 源 の 調 達 を 行 う こ と が で き る 課 税 最 低 限 を 設 定 し な く て は な ら な い 。 3.課 税 最 低 限 の 設 定 こ の 章 で は 課 税 最 低 限 の 設 定 に 関 し て 、 最 適 課 税 論 の う ち 最 適 線 型 所 得 税 論 の 立 場 か ら 、 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 分 析 を 行 い 、 適 正 な 課 税 最 低 限 の 水 準 を 検 討 し て い く 。 3.1 課 税 最 低 限 の 設 定 方 法 こ の 章 で は 、 最 適 課 税 論 の う ち 、 最 善 の 方 法 で は な く 、 利 用 可 能 な 税 体 系 で あ る 次 善 の 最 適 課 税 論 を 用 い て 、 現 実 に 基 づ い た 課 税 最 低 限 を 求 め て い く 。 本 稿 で は 所 得 税 の 課 税 最 低 限 の 水 準 を 求 め た い の で 、 最 適 課 税 最 低 限 の 水 準 を 対 象 と す る 最 適 所 得 税 論 を 考 察 す る 。 最 適 課 税 論 に は 最 適 線 型 所 得 税 論 と 最 適 非 線 型 所 得 税 論 が あ る 。 最 適 線 型 所 得 税 論 に 基 づ い た 所 得 税 制 で は 、 納 税 者 が 直 面 す る 税 率 が 一 定 と な る た め 、 所 得 に 応 じ た 納 税 額 が 簡 単 に 求 め る こ と が で き る よ う に な り 、 租 税 原 則 の 一 つ で あ る 簡 素 な 税 制 を 構 築 す る こ と が で き る 。 ま た 、 控 除 が あ る 比 例 税 は 、 単 な る 比 例 税 で な く 、 平 均 税 率 累 進 性 を 満 た す た め 、 累 進 税 と な り58)、 現 行 の 税 制 に 近 い 税 体 系 と な る 。 最 適 非 線 型 所 得 税 論 を 用 い る と 、Sadka(1976)や Seade(1977)ら に よ っ て 示 さ れ て い る よ う に 、 「 能 力 の 上 限 と 下 限 を 設 定 し た 場 合 、 最 適 限 界 所 得 税 率 は 、 能 力 の 上 限 と 下 限 に お い て ゼ ロ に な る 」 と さ れ て い る59)。 こ れ は 、 高 所 得 者
58) 詳 し く は 、 Musgrave and Thin(1948)を 参 照 さ れ た い 。
59) Seade(1977)206 ペ ー ジ お よ び p.214。 邦 文 の 文 献 と し て は 、 本 間 ・ 橋 本 (1985)、 井 堀 (1989)、 小 西 (1997)が 詳 し い 。
の 限 界 税 率 を 低 下 す る こ と に よ っ て 、 高 所 得 者 の 勤 労 意 欲 が 増 加 し 、 よ り 低 所 得 者 に 再 分 配 で き る 金 額 も 増 加 す る た め 社 会 的 厚 生 が 増 加 す る た め で あ る 。 現 行 の 累 進 税 率 表 に 基 づ い た 所 得 税 制 を 考 え る と 、 所 得 が 増 加 す る と と も に 限 界 税 率 が 徐 々 に 逓 減 し 、 ゼ ロ に な る 税 制 は 、 一 般 に は 理 解 さ れ に く い 。 ま た 、 最 適 非 線 型 所 得 税 論 は 、 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 分 析 を 行 う 上 で も 定 式 化 が 複 雑 で 困 難 で あ る 。 実 際 に シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 分 析 を し た 既 存 研 究 と し て は 、 入 谷 (1986)な ど が あ る 。 本 稿 の 目 的 は 、 税 率 構 造 で は な く 課 税 最 低 限 の 議 論 で あ る た め 、 モ デ ル を 簡 略 化 し 、 最 適 線 型 所 得 税 論 を 用 い て 考 察 し て い く 。 最 適 線 型 所 得 税 論 に は 、 連 続 型 の 最 適 線 型 所 得 税 論 と 離 散 型 の 最 適 線 型 所 得 税 論 が あ り 、 本 稿 で は 、 離 散 型 の 最 適 線 型 所 得 税 論 を 用 い る 。 連 続 型 の 最 適 線 型 所 得 税 論 の 場 合 、 能 力 の 異 な る 家 計 が 無 数 に 存 在 す る こ と に な る が 、 離 散 型 の 最 適 線 型 所 得 税 論 の 場 合 、 家 計 の 戸 数 が 限 ら れ て お り 、 よ り 現 実 的 な 値 を 算 出 す る こ と が で き る 。 課 税 最 低 限 の 設 定 に は 、 離 散 型 の 最 適 線 型 所 得 税 論 の モ デ ル を 用 い て 、 社 会 的 厚 生 関 数 を 最 大 化 す る 所 得 税 制 を 求 め る 。 社 会 的 厚 生 関 数 は 全 家 計 の 効 用 に 依 存 し て 決 定 す る 効 用 関 数 で 、 こ の 関 数 を 最 大 化 す る こ と に よ っ て 中 立 性 お よ び 公 平 性 の 両 方 を 考 慮 し た 税 制 を 求 め る こ と が で き る 。 ま ず 、 次 節 で は 、 本 稿 で 用 い る 最 適 線 型 所 得 税 論 の モ デ ル を 構 築 す る 上 で 必 要 な 前 提 条 件 を 述 べ 、 モ デ ル の 展 開 を 行 う 。 こ の 展 開 し た モ デ ル に 、 現 在 の 家 計 の 収 入 、 余 暇 を 『 賃 金 セ ン サ ス 』 の 値 を 用 い て 、 実 際 に シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 分 析 を 行 い 、 社 会 的 厚 生 関 数 を 最 大 化 す る 課 税 最 低 限 と 限 界 税 率 を 算 出 す る 。 3.2 税 収 可 能 性 曲 線 の 導 出 こ こ で は 、 各 家 計 は 、 貯 蓄 を 行 わ ず 、 稼 得 は す べ て 消 費 に ま わ す も の と す る 。 ま た 、 稼 得 は 勤 労 所 得 の み で あ り 、 家 計 は 勤 労 所 得 に の み 課 税 さ れ る も の と す る 。 ま ず 、 こ の 節 で は 、 最 適 所 得 税 論 に よ る 課 税 最 低 限 の 設 定 を 行 う た め に 、 税 収 可 能 性 曲 線 の 導 出 を 行 う 。 税 収 可 能 性 曲 線 は 、 各 家 計 に 分 配 さ れ る 給 付 額 (以 下 で は 人 頭 補 助 金 )が 等 し く な る 限 界 税 率 と 人 頭 補 助 金 の 組 み 合 わ せ に よ っ て 表 さ れ る 曲 線 で あ る 。 各 家 計 は 消 費 と 余 暇 か ら 効 用 を 得 て い る も の と し 、 効 用 関 数 を コ ブ ・ ダ グ ラ 15
ス 型 で あ る と 仮 定 す る と 、 各 家 計 の 効 用 関 数 は 、 (3− 1)式 で 表 さ れ る 。
)
1
ln(
)
1
(
ln
i i ia
c
a
L
u
=
+
−
−
(
i
=
1
,
2
,
3
,
L
,
I
)
(0≤ Li <1). (3− 1) た だ し 、u
iは 所 得 階 級i
番 目 の 効 用 を 表 し 、c
i は 消 費 量 、(
1
−
L
i)
は 余 暇 、 は 労 働 と 余 暇 の 選 好 比 率 を 示 し て い る 。 ま た (3− 1)式 の よ う に 家 計 の 効 用 関 数 を 設 定 す る と 、 各 家 計 の 予 算 制 約 式 は 稼 得 を す べ て 消 費 に ま わ す た め 、 (3− 2)式 の よ う に 表 す こ と が で き る 。a
G
L
w
t
c
i=
(
1
−
)
i i+
(
i
=
1
,
2
,
3
,
L
,
I
)
(
0
< t
<
1
)
. (3− 2) た だ し 、t
は 限 界 税 率 、 は 賃 金 率 、 は 労 働 時 間 、 は 人 頭 補 助 金 を 表 し て い る 。 各 家 計 の 効 用 最 大 化 問 題 は 、 (3− 2)式 を 制 約 と し て (3− 1)式 を 最 大 化 す る と い う 最 適 化 問 題 を 解 く こ と で 求 め ら れ る 。 iw
L
iG
)
1
ln(
)
1
(
ln
:
u
ia
c
ia
L
iMax
=
+
−
−
(
i
=
1
,
2
,
3
,
L
,
I
)
. (3− 3)subject
to:ci = (1−t)wiLi +G(
i
=
1
,
2
,
3
,
L
,
I
)
. (3− 4) 各 家 計 の 効 用 最 大 化 の 一 階 の 条 件 は 、 以 下 の 式 の よ う に 表 す こ と が で き る 。 た だ し 、λ
は 最 適 化 問 題 を 解 く た め に 用 い た ラ グ ラ ン ジ ュ 乗 数 で あ る 。0
=
−
λ
ic
a
. (3− 5))
,
,
3
,
2
,
1
(
i
=
L
I
( )
1
0
1
1
=
−
+
−
−
−
i iw
t
L
a
λ
)
,
,
3
,
2
,
1
(
i
=
L
I
. (3− 6)0
)
1
(
−
+
=
+
−
c
it
w
iL
iG
(
i
=
1
,
2
,
3
,
L
,
I
)
. (3− 7) (3− 5)式 、 (3− 6)式 、 (3− 7)式 を 用 い て に つ い て 解 く と 、 労 働 供 給 関 数 を 導 出 す る こ と が で き る 。 労 働 供 給 関 数 は (3− 8)式 に な る 。 iL
i iw
t
G
a
a
L
)
1
(
)
1
(
−
−
−
=
. (3− 8))
,
,
3
,
2
,
1
(
i
=
L
I
次 に 、 政 府 の 予 算 制 約 式 の 定 式 化 を 行 う 。 政 府 の 予 算 は 、 家 計 の 稼 得 が 勤 労 所 得 の み で あ る た め 、 各 家 計 の 賃 金 率 と 労 働 供 給 量 の 積 に 、 限 界 税 率 を か け た 各 家 計 の 納 税 額 の 総 和 で あ る も の と す る 。I
は 家 計 の 戸 数 を 表 し て い る 。 16∑
==
I i i iL
w
t
GI
1(
i
=
1
,
2
,
3
,
L
,
I
)
. (3− 9) (3− 8)式 を (3− 9)式 に 代 入 し てG
に つ い て 解 く と (3− 10)式 が 得 ら れ る 。I
ta
w
ta
t
G
I i i)
1
(
)
1
(
1−
−
=
∑
=(
i
=
1
,
2
,
3
,
L
,
I
)
. (3− 10) こ の (3− 10)式 を 用 い て 現 実 の デ ー タ に 基 づ い た 限 界 税 率t
と 人 頭 補 助 金G
の 組 み 合 わ せ を 求 め て い く 。 こ こ で は 、 厚 生 労 働 省 の 『 賃 金 セ ン サ ス (平 成 15 年 度 )』 の 年 齢 階 級 別 男 子 勤 労 所 得 を 用 い て 賃 金 率 を 算 出 す る 。 家 計 の 戸 数 は 、 勤 労 者 の 人 数 と し て (3 −10)式 に 代 入 し て 税 収 可 能 性 曲 線 を 導 出 し て い く 。 税 収 可 能 性 曲 線 は 、 を 0% か ら 徐 々 に 引 き 上 げ て い き 、 そ の と き のG
の 値 を 求 め る こ と に よ っ て 導 出 さ れ る 。 こ こ で 求 め ら れ るG
は 、 家 計 ご と に 配 布 さ れ る 補 助 金 で あ る 。t
(3− 10)式 の で 示 さ れ る 人 頭 補 助 金 は 、 課 税 最 低 限 の 値 に 対 応 し て い な い 。 通 常 の 課 税 最 低 限 を 求 め る た め に は ど う す れ ば よ い の だ ろ う か 。 課 税 最 低 限 の 値 を 求 め る た め に は 租 税 関 数 を 定 式 化 す る 必 要 が あ る 。 租 税 関 数 は 、 所 得 に 対 す る 税 負 担 額 の 値 を 求 め る た め の 式 で あ る 。 本 稿 で 用 い ら れ て い る 課 税 最 低 限 の 値 は 、 図 3− 1 の で 表 さ れ て い る 。G
D
租税関数 所得(Y) 税負担額 (T) D G 0 T=tY-G 17図 3− 1 租 税 関 数 図 3− 1 は 、 縦 軸 が 税 負 担 額 を 示 し て お り 、 税 負 担 額 が 負 の 値 を と る 場 合 は 現 金 が 支 給 さ れ る 。 横 軸 に は 所 得 が と ら れ て い る 。 図 3− 1 を 式 に 直 す と 、 家 計 が 負 担 す る 納 税 額 は 、 家 計 が 納 め る 納 税 額 を
T
、 所 得 をY
と 表 さ れ る た め 、 所 得 に 限 界 税 率 を か け た 金 額 か ら 人 頭 補 助 金G
を 差 し 引 い た 金 額 で と な り 、 (3− 11)式 で 表 す こ と が で き る 。G
tY
T
=
−
. (3− 11) こ の (3− 11)式 のT
が 0 に な る と こ ろ の X 軸 の 値 が 課 税 最 低 限 に な る 。 課 税 最 低 限 をD
と す る と 、D
は 、 (3− 12)式 の よ う に な る 。t
G
D
=
. (3− 12) こ の (3− 12)式 か ら 得 ら れ る 値 が 課 税 最 低 限 に な り 、 図 3− 1 の 点 に な る 。 ま た 、 課 税 最 低 限 の 値 を 決 定 す る た め に は 、 賃 金 率 、 労 働 供 給 量 、 労 働 と 余 暇 の 選 考 比 率 で あ る の 値 が 必 要 と な る が 、 の 値 を ど の 程 度 に す れ ば よ い か 分 か ら な い た め 、 ま ず の 値 が 税 収 可 能 性 曲 線 に 与 え る 影 響 を 分 析 す る た め に 、 の 値 と し て 0.3、 0.5、 0.7 の 3 種 類 を 用 い て 税 収 可 能 性 曲 線 を 導 出 し た 。D
a
a
a
a
税収可能性曲線 0 100 200 300 400 500 600 700 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 t G a=0.7 a=0.5 a=0.3 図 3− 2 税 収 可 能 性 曲 線 18図 3− 2 は 、 縦 軸 に 人 頭 補 助 金 、 横 軸 に 限 界 税 率 を と り 、 各 の 値 に お い て 導 出 さ れ た 税 収 可 能 性 曲 線 を 示 し た も の で あ る 。 図 3− 2 を 見 る と 、
a
が 0.3 の と き に 、 最 適 な 限 界 税 率 は 、t
が 0 か ら 0.54 の 範 囲 に あ り 、 最 適 な 課 税 最 低 限 の 範 囲 は 、0 円 か ら 約 89 万 円 と な っ て い るa
60)。 ま た 、 が 0.5 の と き は 、 最 適 な 限 界 税 率 が 0 か ら 0.59 の 間 に あ り 、 最 適 な 課 税 最 低 限 の 範 囲 は 、 0 円 か ら 約 158 万 円 と な り 、 が 0.7 の と き は 、 最 適 な 限 界 税 率 は 、 0 か ら 0.65 の 間 と な り 、 最 適 な 課 税 最 低 限 の 範 囲 は 0 円 か ら 約 245 万 円 と な っ た 。 つ ま り 、a
が 増 加 す る と 、 限 界 税 率 が 上 昇 し 、 税 負 担 が 増 加 し た 場 合 で も 労 働 供 給 を 抑 制 す る 効 果 が 減 少 し て い く こ と に な る 。 こ れ は 、 が 増 加 す る こ と に よ っ て 余 暇 へ の 選 好 が 低 下 し て い く こ と に よ る も の でa
の 値 が 高 く な れ ば な る ほ ど 最 適 な 限 界 税 率 が 高 く な る 可 能 性 を 示 し て い る 。a
a
a
既 存 の 研 究 で は 、 信 頼 で き るa
の 値 を 算 出 し て い る も の が 少 な い た め 、 本 稿 で は 消 費 と 余 暇 を 等 し く 選 好 す る も の と し てa
の 値 を 0.5 と 仮 定 し て 課 税 最 低 限 の 水 準 を 検 討 し て い く 。 3.3 課 税 最 低 限 の 設 定 こ の 節 で は 、 の 値 と し て 0.5 を 用 い た 社 会 的 厚 生 関 数 を 求 め る 。 ま ず 、 税 収 可 能 性 曲 線 を 導 出 し た 際 に 算 出 し た を (3− 13)式 に 代 入 し 、 社 会 的 厚 生 関 数 を 求 め る 。 こ こ で は 、 公 平 性 の 指 標 と し て γ を 用 い る 。 γ が 1 で あ る 場 合 す べ て の 家 計 が 平 等 に 幸 福 を 追 求 す る こ と に な り 効 用 関 数 の 総 和 が 社 会 的 厚 生 関 数 と な る 。 仮 に γ が マ イ ナ ス の 無 限 大 で あ る 場 合 は 、 最 も 恵 ま れ な い 家 計 の 効 用 を 最 大 に す る こ と に な る 。 表 3− 1 は γ が 1 の 場 合 の 最 適 な 限 界 税 率 、 人 頭 お よ び 補 助 金 社 会 的 厚 生 の 値 を 表 し た も の で あ る 。 (3− 13)式 の は 社 会 的 厚 生 関 数 を 示 し て い る 。a
iu
SW
∑
=
Iu
iSW
1
(
)
γγ
i 1= . (3− 13) D 60)図 3− 2 の は 人 頭 補 助 金Gを 求 め た も の で あ る 。 課 税 最 低 限 を 求 め る た め に 、 を 求 め た 上 で 、 労 働 供 給 の 時 間 を 年 間 で1 と 置 い て い る た め 、 算 出 さ れ たDの 値 に 労 働 供 給 の 平 均 を 掛 け て 算 出 し た 。 19表 3− 1 社 会 的 厚 生 関 数 の 計 測 結 果 (γ = 1 の ケ ー ス ) t SW G 0.11 45521059 113.8762326 0.10 45520941 104.1360527 0.12 45520634 123.4861561 0.09 45520296 94.26766236 0.13 45519650 132.9637336 0.08 45519138 84.27306486 0.14 45518088 142.3068304 0.07 45517482 74.15422198 0.15 45515933 151.5132659 0.06 45515343 63.91305502 表 3− 1 よ り 、 計 測 の 結 果 、 限 界 税 率 が 0.11 の と き に 社 会 的 厚 生 の 値 が 最 大 に なり 、
G
の 値 は 113.87 と な る 。 こ れ を 課 税 最 低 限 の 値 に 直 す と 、 約 256.91 万 円 と な っ た 。 し か し 、 日 本 の 最 適 な 税 制 を 求 め る 際 に 、 功 利 主 義 的 な 価 値 判 断 を 採 用 す る こ と が 正 し い と は 限 ら な い 。 そ の た め 、 異 な っ た 価 値 判 断 に つ い て も 見 て い く 。 以 下 で は 、 γ が 1 以 外 の 社 会 的 厚 生 の 値 を 推 計 し た 。 パ ラ メ ー タ の 推 計 は 、 既 存 の 研 究 を 見 る と 、 現 実 に 実 現 さ れ て い る 税 制 の 累 進 度 の 状 況 か ら 逆 算 し て γ の 値 を 求 め て い る も の が 多 い 。 本 間 ・ 跡 田 ・ 井 堀 ・ 中 (1987)に よ っ て 推 計 さ れ て い る 1983 年 度 の パ ラ メ ー タ は γ が − 0.1 か ら − 0.3 の 間 に あ る と し て い る 。 ま た 橋 本 (1998)の パ ラ メ ー タ の 推 計 で は 、 γ が − 0.3 か ら − 0.33 と な っ て い る 。 両 者 の 推 計 結 果 を 参 考 に し て 、 γ を 既 存 の 研 究 の 値 か ら −0.3 で あ る 場 合 を 標 準 ケ ー ス と し て 、 以 下 で は 議 論 を 進 め て い く 。 20-34275009.15 -34275009.11 -34275009.07 -34275009.03 -34275008.99 -34275008.95 0.1251 0.1253 0.1255 0.1257 0.1259 0.1261 限界税率 社会的厚生の値 図 3− 3 γ =− 0.3 の 場 合 の 限 界 税 率 と 社 会 的 厚 生 図 3− 3 は 、 縦 軸 が 社 会 的 厚 生 の 値 で 社 会 全 体 の 満 足 度 の 高 さ を 示 し て い る 。 横 軸 は 限 界 税 率 を 示 し て い る 。 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン で 推 計 を 行 っ た 結 果 、 限 界 税 率 が 0.1256 の と こ ろ で 社 会 的 厚 生 の 値 が 最 大 と な っ て お り 、 そ の と き の の 値 は 、 約 128.81 と な り 、 課 税 最 低 限 の 水 準 に 直 す と 約 254.51 万 円 と な っ た 。 こ れ ら の シ ミ ュ レ ー シ ョ ン か ら 公 平 性 へ の 価 値 判 断 が 上 が る と 限 界 税 率 が 上 が り 、 課 税 最 低 限 の 水 準 が 下 が る 結 果 と な っ た 。
G
一 般 的 に は 、 公 平 性 の 嗜 好 が 上 が る と 所 得 再 分 配 機 能 を 強 化 す る こ と に な り 、 高 所 得 者 か ら よ り 多 く 税 金 を 徴 収 し て 低 所 得 者 に 分 配 す る こ と に な る た め 、 課 税 最 低 限 の 水 準 が 上 が る こ と に な る 。 し か し 、 本 稿 で は 、 税 率 が 一 本 の フ ラ ッ ト な 税 体 系 を モ デ ル と し て い る た め 、 高 所 得 者 が 直 面 す る 税 率 と 低 所 得 者 が 直 面 す る 税 率 が 等 し く な る 。 そ の た め 、 図 3− 4 に 示 し て あ る よ う に 、 公 平 性 の 嗜 好 が 上 が り 、 高 所 得 者 か ら 多 く 税 金 を 徴 収 し よ う と す る 場 合 、 限 界 税 率 を 引 き 上 げ な け れ ば な ら ず 、 一 方 で 人 頭 補 助 金 の 水 準 も 引 き 上 げ な く て は な ら な い た め 、 課 税 最 低 限 の 水 準 が 下 が る 場 合 が あ る 。 21租税関数 所得(Y) 税負担額 (T) D G 0 D' G' γ=-0.3 γ=1 図 3− 4 γ = − 0.3 の ケ ー ス と γ = 1 の ケ ー ス の 租 税 関 数 図 3− 4 は 、 図 3− 1 と 同 様 に 縦 軸 に 税 負 担 額 を と り 、 横 軸 に 所 得 を と っ た も の で あ る 。 た だ し 、 γ =1 の 場 合 の 課 税 最 低 限 を 、 人 頭 補 助 金 を
G
と し て お り 、 γ = −0.3 の 場 合 の 課 税 最 低 限 はD
D′
、 人 頭 補 助 金 はG′
で 表 さ れ て い る 。 ま た 、 γ =1 の 場 合 の 限 界 税 率 を 、 γ = − 0.3 の 場 合 の 限 界 税 率 をt
と す る と 、 1t
2D
D
>
′
と な る 条 件 は (3− 14)式 の よ う に な る0
)
(
t
2−
t
1D
′
−
G
+
G
′
>
. (3− 14) (3− 14)式 を 整 理 す る と (3− 15)式 の よ う に な る 。 0 2 ⎟ 2− 1> ⎠ ⎞ ⎜ ⎝ ⎛ ′ − t t G G . (3− 15) こ こ で 、 で か つ で あ れ ば 、 は 1 以 下 で あ る た め 、 (3− 15)式 は 常 に 成 り 立 つ こ と に な る 。 つ ま り 、 限 界 税 率 を 引 き 上 げ て 、 人 頭 補 助 金 を 増 加 さ せ る と 必 ず 課 税 最 低 限 が 引 き 下 が る こ と に な る 。 税 率 が 一 本 で あ る 線 型 所 得 税 論 の 限 界 が こ こ に あ る 。 仮 に 税 率 が 二 本 あ る 場 合 で あ れ ば 、 高 所 得 者 の み の 限 界 税 率 を 引 き 上 げ る こ と が で き 、 本 稿 の よ う に 、 公 平 性 へ の 嗜 好 が 高 ま っ て い る の に 、 課 税 最 低 限 の 水 準 が 下 が る 状 態 が 生 じ な い 可 能 性 が あ る 。 1 2t
t
>
G
′
>
G
t
1 表 3− 2 公 平 性 の 嗜 好 と 労 働 供 給 量 の 変 化 22γ=1 γ=-0.3 t 0.11 0.1256 男性労働者 ∼17歳 0.414437584 0.401490181 18∼19 0.432181364 0.42191897 20∼24 0.447869638 0.439981212 25∼29 0.458615054 0.452352636 30∼34 0.466485568 0.461414126 35∼39 0.472046408 0.467816438 40∼44 0.475110001 0.471343617 45∼49 0.476620234 0.473082381 50∼54 0.476559401 0.473012343 55∼59 0.475411037 0.471690207 60∼64 0.46482734 0.459504973 65歳∼ 0.461229305 0.455362479 Liの平均 0.460116078 0.454080797 Li 表 3− 2 は 、 公 平 性 の 嗜 好 で あ る γ = 1 の 労 働 供 給 量 と γ = − 0.3 の 労 働 供 給 量 を 示 し た も の で あ る 。 表 3− 2 か ら 公 平 性 の 嗜 好 が 上 が る と ど の 所 得 階 級 で も 労 働 供 給 量 が 減 少 し て い る こ と が わ か る 。 先 に 述 べ た よ う に 、 γ が 増 加 す る と 限 界 税 率 が 上 昇 し 、 人 頭 補 助 金 が 増 加 す る 。 そ の た め 、 (3− 8)式 の が 増 加 す る こ と に な り 、
t
も 増 加 す る た め 、 (3− 8)式 の 第 1 項 は 変 化 し な い が 、 第 2 項 が 増 加 す る た め 、 労 働 供 給 が 減 少 す る こ と に な る 。 つ ま り 、 公 平 性 の 価 値 判 断 が 変 化 す る と 労 働 供 給 に 影 響 を 与 え る こ と が う か が え る 。G
こ の 章 で 算 出 し た 値 は 、 最 適 課 税 論 に よ っ て 算 出 さ れ た 課 税 最 低 限 の 水 準 で あ る 。 そ れ ゆ え 、 算 出 さ れ た 課 税 最 低 限 の 水 準 は 、 そ の 水 準 を 下 回 る 所 得 の 人 に 対 し て 補 助 金 が 支 給 さ れ る 水 準 で あ る た め 、 政 府 の 標 準 世 帯 と 単 純 に 比 較 し て 低 い 水 準 で あ る と は 言 え な い 。 ま た 、 こ の 課 税 最 低 限 の 水 準 は 、 公 平 性 の 価 値 判 断 が 異 な れ ば 変 化 す る61)。 本 稿 の モ デ ル 用 い た パ ラ メ ー タ は 、 現 実 の デ ー タ か ら 求 め た 値 で は な い 。 そ の た め 、 本 稿 で 算 出 さ れ た 値 は 、 あ く ま で 数 値 例 に 過 ぎ ず 、 政 策 提 言 に 用 い る う え で 適 当 な 値 で あ る と い え な い 。 そ の た め 、 次 章 で は 、 よ り 現 実 的 な 値 と し て 最 低 生 計 費 を 用 い て 課 税 最 低 限 の 水 準 に つ い て 検 討 し て い く 。 61) 井 堀 (1989d)は 最 適 課 税 論 の 限 界 と し て 、 公 平 性 の 価 値 判 断 に 依 存 す る 点 を 挙 げ て い る 。 234.最 低 生 計 費 と 課 税 最 低 限 こ の 章 で は 、 最 低 生 計 費 の 値 と し て 生 活 扶 助 基 準 を 用 い 、 課 税 最 低 限 の 水 準 に つ い て 不 平 等 度 の 尺 度 と し て ジ ニ 係 数 を 用 い て 考 察 し て い く 。 ま ず 、 第 1 節 で は 、 最 低 生 計 費 の 値 と し て 生 活 扶 助 基 準 を 用 い る こ と の 意 義 に つ い て 見 て い く 。 4.1 生 活 保 護 と 課 税 最 低 限 に つ い て 生 活 保 護 が 最 低 限 の 生 活 水 準 を 営 む こ と が で き な い 者 に 支 給 さ れ る た め 、 課 税 最 低 限 の 水 準 の 下 限 と し て 適 当 で は な い か と い う 議 論 が あ る 。 こ の 議 論 に つ い て 過 去 に 、 所 得 税 の 課 税 最 低 限 が 当 時 の 理 論 生 計 費 を 下 回 っ て お り 、 所 得 税 が 課 税 さ れ る こ と に よ っ て 、 憲 法 25 条 に 規 定 さ れ て い る 「 最 低 限 度 の 生 活 」 を 侵 害 さ れ て い る と し て 、 課 税 最 低 限 の 水 準 は 、 最 低 生 計 費 を 控 除 す べ き か ど う か に つ い て 争 わ れ た 訴 訟 が あ っ た 。 岡 村 (1999)は 、 東 京 地 方 裁 判 所 、 東 京 高 等 裁 判 所 、 最 高 裁 判 所 の 判 決 (東 京 地 判 1980.3.26、 東 京 高 判 1982.12.6、 最 判 1989.2.7)を 例 と し て 取 り 挙 げ 、 所 得 税 法 に お け る 課 税 最 低 限 の 水 準 が 低 い こ と に 対 す る 違 憲 性 を 主 張 で き る 可 能 性 が あ る の は 「 課 税 に よ っ て 憲 法 が 保 障 す る 最 低 限 の 生 活 を 現 実 に 侵 害 さ れ た 場 合 に 限 ら れ る 」 と し て い る62)。 所 得 税 を 納 め る こ と に よ っ て 実 際 に 最 低 限 度 の 生 活 を 営 む こ と が で き な く な っ た 場 合 、 課 税 最 低 限 の 水 準 に 関 し て 違 憲 性 を 主 張 で き る 可 能 性 が あ る と す れ ば 、 課 税 最 低 限 の 水 準 の 下 限 と し て 最 低 生 計 費 を 用 い る こ と が 可 能 で あ る と い え る 。 課 税 最 低 限 は 、 税 制 調 査 会 の 議 論 か ら 、 少 な く と も 従 来 は 最 低 生 計 費 に 税 金 が か か ら な い よ う に す る こ と 、 お よ び 納 税 人 員 を 調 整 す る こ と を 主 た る 目 的 と し て 設 定 さ れ て い た 。2 章 で も 述 べ た よ う に 、 1964 年 度 の 税 制 調 査 会 の 答 申 で は 、 マ ー ケ ッ ト ・ バ ス ケ ッ ト 方 式 に よ っ て 食 料 費 や エ ン ゲ ル 係 数 を 算 定 し 、 62) 岡 村 (1999)p.18 引 用 。 24
そ の 値 を 基 準 生 計 費 と し て そ の 水 準 を 上 回 る よ う に 扶 養 控 除 を 設 定 し て お り 63)、1966 年 度 の 答 申 で は 、 課 税 最 低 限 の 機 能 の ひ と つ と し て 、 「 所 得 の う ち そ の 当 時 の 国 民 生 活 水 準 か ら 見 て 通 常 必 要 と さ れ る 生 計 費 に 対 応 す る 部 分 を 課 税 の 対 象 外 に お く こ と 」 を 挙 げ て い る64)。 こ れ ら の 議 論 か ら も 最 低 生 計 費 を 課 税 最 低 限 の 下 限 と し て 用 い る こ と が 妥 当 で あ る と 考 え ら れ る 。 生 活 保 護 費 は 憲 法 25 条 の 理 念 に 基 づ き 、 困 窮 の た め に 最 低 限 度 の 生 活 を 維 持 す る こ と が で き な い 国 民 に 支 給 さ れ る65)。 生 活 保 護 法 に 基 づ い た 生 活 扶 助 基 準 は 、 最 低 限 度 の 生 活 を 営 む 上 で 必 要 、 か つ 十 分 な 金 額 で な く て は な ら ず 、 ま た 、 そ の 金 額 を 超 え て は な ら な い こ と に な っ て い る た め66)、 担 税 力 の 有 無 を 見 る ひ と つ の 指 標 で あ る と い え る 。 現 在 、 生 活 扶 助 基 準 は 水 準 均 衡 方 式 で 算 定 さ れ て い る 。 水 準 均 衡 方 式 は 、 水 準 均 衡 方 式 が 採 用 さ れ る ま で 用 い ら れ て い た 格 差 縮 小 方 式 を 発 展 さ せ た も の で あ る 。 格 差 縮 小 方 式 は 、 導 入 さ れ た 背 景 と し て 、 一 般 世 帯 と 被 保 護 世 帯 の 消 費 水 準 の 格 差 が 拡 大 し て い た こ と が あ り 、 こ の 格 差 を 暫 時 縮 小 し て い く た め に 、 改 定 の 指 標 と し て 、 政 府 が 発 表 し て い る 経 済 見 通 し の 民 間 最 終 消 費 支 出 の 伸 び 率 を 基 礎 と し て 、 そ の 値 に 格 差 縮 小 分 を 加 え て 、 生 活 扶 助 基 準 の 改 定 率 を 決 定 し て い く 方 式 で あ る 。 水 準 均 衡 方 式 は 、 格 差 縮 小 方 式 と 同 様 に 、 政 府 経 済 見 通 し の 民 間 最 終 消 費 支 出 の 伸 び 率 を 基 礎 と す る の は 変 わ ら な い が 、 格 差 縮 小 方 式 は 、 そ の 指 標 が 実 績 で は な い た め 、 見 込 み 値 と 実 績 と の ず れ が 生 じ る 。 水 準 均 衡 方 式 は 、 こ の ず れ を 調 整 す る た め に 、 前 年 度 ま で の 一 般 国 民 の 実 際 の 消 費 支 出 水 準 等 を 考 慮 し て 、 生 活 扶 助 基 準 の 改 定 率 を 決 定 し て い く 方 式 で あ る 。 生 活 保 護 は 、 生 活 扶 助 、 教 育 扶 助 、 住 宅 扶 助 、 医 療 扶 助 、 介 護 扶 助 、 出 産 扶 助 、 生 業 扶 助 、 葬 祭 扶 助 の 8 種 類 に 分 類 さ れ る 。 医 療 扶 助 と 介 護 扶 助 は そ の 性 質 上 、 現 物 給 付 に よ る こ と を 原 則 と し て お り 、 そ の 他 の 扶 助 は 金 銭 給 付 に よ る こ と を 原 則 と し て い る 。 扶 助 の 性 質 の 違 い か ら 出 産 扶 助 や 生 業 扶 助 、 葬 祭 扶 助 は 一 時 的 な 支 給 と な り 、 生 活 扶 助 、 教 育 扶 助 、 住 宅 扶 助 は 先 に 挙 げ た 5 つ 63) 税 制 調 査 会 (1964a) p.19 お よ び 税 制 調 査 会 (1964b)p.9 参 照 。 64) 税 制 調 査 会 (1966)p.37 引 用 。 65) 生 活 保 護 法 第 1 条 参 照 。 66) 生 活 保 護 法 第 8 条 参 照 。 25