商業科(簿記)学習指導案
広島県立芦品まなび学園高等学校 教諭 上田中 康夫 1 学年 2年次,3年次,4年次選択クラス 2 単元名 手形の取引 3 テーマ 商業科簿記会計分野における実践力を育成する授業の工夫 4 テーマと本単元のかかわり 本単元の手形取引は,ビジネス活動において現金取引では不可能な商業取引を可能にし,経済活動を円滑 かつ活発にする役割を果たしている。この手形取引の考え方は,銀行における為替業務やファクタリングの 仕組みを理解する上でも重要であると考え,次のような授業の工夫を行った。 第一に,手形取引が一連の流れに沿った学習となるように指導計画を作成した。そのことにより,手形取 引がビジネス活動においてどのような役割を果たし,どのようにかかわっていくのかを理解させることがで きると考えた。 第二に,手形に関係する複数の立場を同時に学習するよう工夫した。会計事実には必ず複数の関係者が存 在し,相反した取引がそれぞれの立場で成立する。取引を複数の立場で考えることができる力を身に付ける ことで,ビジネス活動における取引の仕組みや考え方を理解させたいと考えた。 第三に,取引を分解し,何がどのように変化したのかを簿記特有のルールから思考・判断させる学習活動 を取り入れた。 このような学習を通して,生徒は会計事実を把握し,ビジネス活動とのかかわりを考えながら,手形取引 の重要性や役割を理解し,合理的・能率的に記帳する実践力の育成につながると考える。 5 単元について ○単元観 本単元は,高等学校学習指導要領商業「第10 簿記」内容(2)「取引の記帳」ウ債権・債務に位置付く。 高等学校学習指導要領解説商業編によれば,本単元は「手形の振出し,受取り,裏書きなど基本的な手形に 関する債権・債務の記帳方法について理解させる。次に,手形の書換え,不渡り,荷付為替手形,特殊な手 形取引の意味及び処理法に触れる。」と記されている。約束手形,為替手形の仕組みについては,科目「ビ ジネス基礎」において,売買取引と代金決済の単元で学習することになっているが,本校では「ビジネス基 礎」を学ぶ機会はない。したがって,ここでの学習は,手形取引のしくみを理解させながら,実務の中でど のような役割を持ち,どのようにして取り扱われていくのかを理解させる指導を取り入れる。また,教科書 では「第13章 手形の取引」と「第27章 特殊な手形の取引」に区分されているが,手形に関する一連の取 引を理解させるために,あわせて指導する。 ○生徒観 2年次・3年次・4年次の生徒は単位制であり,科目選択をしている。簿記を選択した理由はさまざまで あるが,本当に興味・関心があって履修している生徒は少ない。卒業後,簿記の資格を生かして進学・就職 を考えている生徒ではないが,授業に取り組む姿勢は真面目で,意欲的に取り組む。 聴講生は簿記に関心を持ち,実務に役立てようという思いで受講している。 理解度に差があるが,生徒と聴講生がお互いに助け合いながら学習を進める様子も見られ,雰囲気の良い クラスである。 ○指導観 本校は普通科であり,履修する商業科目も少なく,商業に関する学習を専門的に深めることは難しい。し たがって学習内容が,技術の習得に重点をおいた指導とならないように,思考を深め判断する学習活動を取 り入れていく。 手形の取引は生徒にとって,経験のない代金決済方法であるが,ビジネス活動においては重要な取引であ る。手形の基本的な仕組みや流れ,手形関係者の取引を理解させ,学習した内容がビジネス活動でどのよう な役割があるのかを主体的に考えることができるように指導する。 少人数なので,生徒の実態を把握しながら,ポイントとなる箇所では丁寧な指導をしていく。また,学習 していく中で生徒が学習内容を整理できる教材を用い,意欲的に取り組んでいけるように指導する。6 単元の目標 商品代金の決済に用いられる約束手形・為替手形のしくみと,手形債権・手形債務の発生・消滅の関係を 明確に理解するとともに,手形に関する取引の記帳及び受取手形記入帳・支払手形記入帳に関する知識と技 術を身に付ける。 7 単元の評価規準 関心・意欲・態度 思考・判断 技能・表現 知識・理解 手形の振り出し,受 け取り,決済,裏書譲 渡,割引に関する取引 に関心を持ち,取引の 記帳に自らすすんで取 り組もうとしている。 手形の種類及びしく み,手形に関する取引 を簿記特有のルールか ら考察し,適切に判断 し,仕訳しようとして いる。 手形債権・手形債務 の 記 帳 に 関 す る 基 礎 的・基本的な技術を身 に付け,手形に関係す る補助簿に合理的・能 率的に記録・計算・整 理する。 手形債権・手形債務 の 記 帳 に 関 す る 基 礎 的・基本的な知識を身 に付けるとともに,手 形の種類と意味及び手 形に関係する補助簿の 役割を理解する。 8 指導と評価の計画(全7時間) 次 学習内容(時数) 関 考 技 知 評価規準 評価 評価方法 1 約束手形の取引 為替手形の取引 (2時間) ○ ○ ◎ ・約束手形,為替手形の記帳に関する基礎 的・基本的な知識を身に付けている。 ・手形の振り出し,受け取り,決済に関する 取引の記帳に自らすすんで取り組もうとす る。 ・為替手形のしくみ,手形関係者における取 引を簿記特有のルールから考察しようとし ている。 ワークシート 観察 発表 定期考査 2 手形の書き換え 手形の不渡り 手形の裏書譲渡 手形の割引 保証債務 自己受為替手形 荷付為替手形 (4時間) (本時2/4) ◎ ○ ○ ・手形に関する取引を簿記特有のルールから 考察し,適切に判断し,仕訳しようとして いる。 ・手形債権・手形債務の記帳に関する基礎 的・基本的な技術を身に付けている。 ・手形債権・手形債務の記帳に関する基礎 的・基本的な知識を身に付けている。 ワークシート 観察 発表 定期考査 3 受取手形記入帳 支払手形記入帳 (1時間) ◎ ・手形に関係する補助簿に合理的・能率的に 記録・計算・整理している。 ワークシート 観察 9 本時の展開 (1) 本時の目標 ①手形の裏書譲渡の意味を理解し,裏書譲渡における取引の仕訳をする。 ②手形取引の意義について,簿記特有のルールから考察し,適切に判断する。 (2) 観点別評価規準 ①手形に関する取引を簿記特有のルールから考察し,適切に判断している。(思考・判断) ②手形債権・手形債務の記帳に関する基礎的・基本的な技術が身に付いている。(技能・表現) (3) 準備物 教科書 「新簿記」実教出版 ワークシート「§5 手形の裏書譲渡」 模擬約束手形
(4) 学習の展開 学習活動 指導上の留意事項 評価規準 評価方法 ・既習事項の確認 商品売買取引における代 金決済方法を考える。 ・ワークシートと模擬約束手形を配布す る。 ・約束手形に商店名(振出人・受取人) を記入させる。 ・取引の分解と仕訳を確認させる。 ・ビジネスでは取引先が複数あり,約束 手形の振り出し,受け取りのみの取引 では,煩雑になることに気付かせる。 ・裏書譲渡について考える。 ・府中商店から福山商店あて に振り出された約束手形を 模擬約束手形で作成し,裏 書 き の 記 入 に つ い て 考 え る。 ・手形の裏書譲渡における取 引について分解する。 ・仕訳を行う。 ・裏書譲渡の仕組みについて 考える。 ・生徒の意見の予想 ①為替手形を用いる。 ②受け取った約束手形を他人に譲る。 ・手形に記入されている支払約束文句と して「府中商店は,あなたまたはあな たの指図人に支払います」と記載され ていることに気付かせる。 ・支払約束文句に注目させ「裏書譲渡」 という方法があることを説明する。 ・手形関係者の立場を明らかにする。 手形の支払人→府中商店 手形の受取人→福山商店 ・裏面の支払委託文句に「被裏書人また はその指図人へお支払ください」と書 かれていることに気付かせる。 ・手形関係者の立場を整理する。 手形の支払人→府中商店 福山商店の指図人→尾道商店 ・手形金額を受け取る権利が福山商店か ら尾道商店へ移動したことを理解させ る。 ・机間指導を行い,生徒の理解を確認す る。 ・約束手形2枚で用いた取引と,裏書譲 渡した場合の取引を比較し,仕訳の違 いについて確認させる。 ・生徒の意見の予想 ①約束手形を2枚必要とした取引が1 枚の約束手形で決済される。 ②既習の為替手形の取引より,手続き が簡単である。 ③約束手形は2者の取引であったが, 裏書きをすることによって多数の関 係者が存在することになる。 ④手形の受取人ではなくなったが,裏 書をした約束手形の支払いに責任が ある。(保証債務の発生) ・保証債務の発生については,被裏書人 の立場から考察するよう指導する。 ・手形に関する取引を 簿記特有のルールか ら考察し,適切に判 断 し て い る 。 ( 思 考・判断) ・手形の記帳に関する 基礎的・基本的な技 術 が 身 に 付 い て い る。(技能・表現) ・手形に関する取引を 簿記特有のルールか ら考察し,適切に判 断 し て い る 。 ( 思 考・判断) 観察 ワークシート 観察 ワークシート ワークシート 発問:手形取引を簡素化す ることができないか
・ 本 時 の 学 習 内 容 を 確 認 す る。 ・次時の予告をする。 ・手形取引の存在が,ビジネスにおいて 重要な役割を果たしていることを説明 する。 ・手形取引は信用取引を柱に,現金取引 では不可能な取引を可能にすることが できることを説明する。 ・手形や小切手は,ビジネスの中でどれ くらい流通されているのかを説明し, 小切手・手形の取引が企業にとって重 要であることを理解させる。 通貨の流通高(平成19年12月現在) 約85兆9千億円 小切手・手形の交換高(平成19年) 約463兆3千億円 ・ワークシートを回収する。 ・銀行に裏書譲渡することで現金化する ことができる取引について学習するこ とを説明する。 10 参考文献 ・高等学校学習指導要領 文部科学省 ・高等学校学習指導要領解説商業編 文部科学省 ・吉野弘一(2002) 『商業科教育法 -21世紀のビジネス教育-』 実教出版 ・日本商業教育学会(2006) 『教職必修 最新商業科教育法』 実教出版 ・日本銀行Webページ 「http://www.boj.or.jp/」 ・全国銀行協会Webページ 「http://www.zenginkyo.or.jp/」 ・会計屋さんのメモ帳Webページ 「http://www.k3.dion.ne.jp/~afujico/index.htm」 ・『動物たちと学ぶ手形・小切手のはなし』 全国銀行協会 ・梅垣幸雄(1996) 『入門簿記早わかり』 増進堂