montecarlo-igo : 2012/10/10(11:34) (1/233)
まえがき
本書は最近のコンピュータ囲碁の中心的な手法になっているモンテカルロ 法について理論と実践の両面から解説したものである.コンピュータ囲碁の 研究は(チェスよりは遅いが将棋よりは早く)1960 年代から始まって世界中 で盛んに進められてきたが,手が広すぎてチェス,オセロや将棋などで有効 であった探索の手法がそのままでは使えずになかなか強くならなかった.研 究が始まって 40 年ぐらい経ってもまだアマの級位者のレベルに留まってい た.それがモンテカルロ法が有効であることが 2000 年代半ばにわかってか ら急速に強くなり,一気にアマ高段者のレベルに達した.インターネットの 早碁(持ち時間が短い囲碁の対戦)ではアマ 6 段として対局している.プロ 棋士との対戦も始まっている(19 路盤はまだハンディをもらっているが,9 路盤はハンディなしで対局している).本書はそのモンテカルロ法について 理論を美添一樹氏,実践を山下宏氏というそれぞれの第一人者が解説したも のである. モンテカルロ法というのはフォン・ノイマン(ノイマン型コンピュータに 名前が残る,情報処理や物理学やゲーム理論など数多くの業績を残した有名 な研究者である)が発明した手法で,確率統計などによく用いられている. たとえば円周率を求めるのに,円の中と外にランダムに点をたくさん置いて いって全体のうちどれくらいの点が円の中にあるかの割合を数えるというの がモンテカルロ法である.このモンテカルロ法を囲碁に適用すると,ある局 面で次の手を決めるときに,黒と白がランダムにその局面から終局までたく さんの回数を打って勝敗をカウントし,その中で最も勝率の高かった手を次montecarlo-igo : 2012/10/10(11:34) (2/233) ii まえがき の一手として選ぶということである.あまりに単純な方法なのでコンピュー タ囲碁の関係者は誰もこれで強くなるとは思わなかった.さすがにこのまま では強くならなかったのだが,UCT と呼ばれる工夫を加えることによって劇 的に強くなった.これまでのコンピュータ囲碁の常識からは考えられなかっ たことである. チェスは 1997 年にコンピュータが世界チャンピオンに勝った.将棋もコ ンピュータが竜王/名人に勝つのは時間の問題になっている.囲碁はいつに なったら棋聖/名人/本因坊に勝てるのか,ちょっと前まではコンピュータ が弱過ぎて話題にすることさえためらわれたが,モンテカルロ法のおかげで 話題にできるようになってきた.今のコンピュータ囲碁の強さは 10 年前程 度のコンピュータ将棋の強さに近い.ということは,あと 10 年経てばコン ピュータ囲碁もプロ棋士と対等に戦えるレベルになっているかもしれない. モンテカルロ法だけではプロ棋士に勝てないかもしれないが,プロ棋士に勝 つための基盤をモンテカルロ法は与えてくれたと思う. 本書で興味を持ってくれた人がぜひコンピュータ囲碁の開発に加わってく れるととてもうれしい.ぜひ一緒にトッププロ棋士に勝つコンピュータ囲碁 を目指そう. 2012年 8 月 26 日 珍しくまだ暑い函館にて 松原 仁