経済産業省 御中
平成
30 年度質の高いエネルギーインフラの海外展開
に向けた事業実施可能性調査事業
(イラク国南部油田放散ガスの有効活用と
CO2・SOx
排出量削減に向けた事業性調査)
調査報告書(和文)
2019 年 3 月 15 日
東洋エンジニアリング株式会社
は じ め に
本調査は、経済産業省委託事業「平成 30 年度質の高いエネルギーインフラの海外展開に 向けた事業実施可能性調査事業」の一環として実施したものである。 本調査事業(以下、本事業)は、イラク南部地域で燃焼・放散されている油田からの随伴 ガスをイラク国内で処理・回収しクウェートに輸出すると共に CO2 及び SOx の削減によ る地球環境の保全を目指すプロジェクト(以下、本プロジェクト)に関する事業性調査を行 うものである。本プロジェクトの実施に当たっては、財政が圧迫されているイラクの資金負 担を軽減すべく日本企業(含む当社)とクウェート国営企業が出資を検討している特別目的 会社(Special Purpose Company、以下 SPC)によりイラク国内のパイプライン・ガス処理設 備の建設並びに操業を行い、クウェートから支払われるガスの通行料(Toll)収入からコス ト及び利益を回収する事業スキームの適用を考える。 イラクにとって放散ガスの削減は国家として優先度の高い課題の一つであり、クウェー トはエネルギー政策の転換により発電用ガスの安定した供給の確保が喫緊の課題となって いることから、本プロジェクトの実現は両国に対して極めて多大な裨益をもたらすことが 出来る。一方、本プロジェクトの実現に向けて両国政府間による直接交渉が 2014 年より行 われているが、未だにガス価格を含めた諸条件の合意に至っていない。膠着した現状を打破 するには中立な第三者による調整が求められており、本プロジェクト形成の橋渡しを行っ た当社が本事業を実施しその成果を提案することにより本プロジェクトの推進に結び付け たい。 イラク・クウェート両国政府とも本プロジェクトの早期実現を期待しており、本事業の報 告を基にガス売買契約の締結・SPC の設立等の事業環境の整備を行った上で、2023 年初か らのイラクからクウェートへのガス輸出の開始を目指す。目 次
序論 ... 12 1.1 経緯 ... 12 1.2 イラク・クウェート両国にとっての意義 ... 13 1.2.1 イラク側政策動向 ... 13 1.2.2 クウェート側政策動向 ... 14 1.2.3 裨益効果 ... 14 1.3 本調査の目的 ... 15 イラク油ガス田の現状 ... 16 2.1 イラク油ガス田の概要 ... 16 2.2 ガス利用状況 ... 20 2.3 パイプライン現状 ... 22 調査に必要な情報収集・調査・分析 ... 26 3.1 ガス供給油田の選定 ... 26 3.2 ガス生産量と輸出可能量 ... 26 3.3 ガスの性状 ... 26 設備計画の前提と概要 ... 27 4.1 各対象油田からのガス輸出量 ... 27 4.2 主要設備容量計画 ... 28 4.2.1 設備ブロックフロー ... 28 4.2.2 マテリアルバランス ... 28 4.2.3 主要設備容量計画 ... 28 設備計画 ... 29 5.1 設備構成 ... 29 5.2 コンプレッション・ステーション(CS :Compression Station) ... 30 5.2.1 コンプレッサー ... 305.2.2 ガス脱水設備(Gas Dehydration Unit) ... 30
5.2.3 露点コントロール設備(Dew Point Control Unit) ... 30
5.2.4 酸性ガス除去設備(Gas Sweetening Unit) ... 31
5.3 ガスパイプライン ... 32
5.4 その他の必要な設備 ... 32
5.6 設備建設費 ... 32 プロジェクトの経済性検討とガス売買価格設定メカニズムの提案 ... 34 6.1 経済性検討の目的 ... 34 6.2 検討の範囲と方法 ... 34 6.3 プロジェクトの経済性検討の方法 ... 34 6.4 検討結果 ... 38 6.5 感度分析 ... 38 6.6 ガス価格の考慮 ... 39 6.7 ガス価格に関する提案 ... 39 6.7.1 原料ガス価格固定 ... 39 6.7.2 製品ガス価格固定 ... 39 事業性検討 ... 40 7.1 事業スケジュール ... 40 7.2 EPC スケジュール ... 41 CO2/SOx 削減効果検討 ... 42 8.1 CO2/SOx の排出抑制量に関する国際的枠組み ... 42 8.1.1 UNFCCC 下におけるイラクの温室効果ガス削減目標 ... 42 8.1.2 GGFR 下のイラクの取組 ... 42 8.2 CO2/SOx 削減効果 ... 44 日本企業の優位性の確認と日本への裨益 ... 45 9.1 日本企業の優位性の確認 ... 45 9.2 日本への裨益 ... 45 9.2.1 機材・ソリューションの供給 ... 45 9.2.2 事業からの収益 ... 46 9.2.3 油田の安定操業 ... 46 イラク側への提言・次期フェーズでの検討事項 ... 47 現地との面談・ワークショップ ... 49 11.1 事業開始前の調査経緯 ... 49 11.2 第 1 回イラク側との面談 ... 49 11.3 第 2 回イラク側との面談(ワークショップ) ... 49 11.4 第 3 回イラク側との面談(最終報告会)未実施 ... 50
図目次 図 2-1 イラク南部油関連インフラ施設 ... 17 図 2-2 イラク油ガス田施設 ... 17 図 2-3 イラク油生産量・フレアされたガス量月次推移 ... 21 図 2-4 既設南部ガス処理プラントブロックフロー ... 21 図 2-5 イラクパイプラインネットワーク(Dry Gas) ... 23 図 2-6 イラクパイプラインネットワーク (LPG) ... 24 図 2-7 イラクパイプラインネットワーク (NGL) ... 25 図 4-1 ブロックフロー ... 28 図 5-1 コンプレッション・ステーション/デガッシング・ステーション取り合い図 ... 29 図 5-2 ガス脱水設備概念図 ... 30 図 5-3 露点コントロール設備概念図 ... 31 図 5-4 酸性ガス除去設備概念図 ... 31 図 6-1 経済性検討の範囲 ... 34 図 6-2 経済性検討の方法 ... 35 図 6-3 炭化水素燃料のスポット価格(2002/01–2018/10) ... 37 図 6-4 NGL と原油・天然ガスの相対価格推移 ... 37 図 6-5 NGL 価格推移 ... 38 図 6-6 LPG の CP 価格推移 ... 38 図 7-1 事業スケジュール ... 40 図 7-2 EPC スケジュール ... 41 図 8-1 世界のフレアガス排出国トップ 30 ... 43
表 目 次
表 2-1 イラク油ガス田入札概要 ... 19 表 6-1 原料・製品価格 ... 36 表 6-2 炭化水素ガスの容積あたり低位発熱量 ... 39
単位・略称の一覧 本報告書では、以下のとおり単位、及び略称の統一を図る。 単位 本報告書での表記 意味 備考 /d 一日あたり 1bbl/d = 一日あたり一バレル: BBD と表す /yr 一年あたり 1bbl/yr = 一年あたり一バレル barg ゲージ圧 絶対圧力と大気圧の差 BBL バレル(油体積) 1BBL = 159 リットル 1,000BBL は kBBL と表す BBL/d は BBD と表す BBL/STB rb/STB 油容積係数, Bo 地表条件における単位体積の原油または天然 ガスが油層またはガス層で占める体積 degC 温度(摂氏) degC = 5/9*(degF-32)
degF 温度(華氏) degF = 9/5*degC + 32 ft フィート 1ft = 0.3048m inch " インチ 13 3/8” = 13 と 3/8 インチ 1inch = 25.4mm lb 重量ポンド 1lb = 453.59g BTU British Thermal Unit 熱量の単位
mol% モル分率 NM3 空気量 標準(基準)状態の空気量 Pa パスカル 1Pa = 0.000145psi ppm 百万分率 1ppm = 0.0001% psi 1 平方インチあた り 1 ポンド(Pound per square inch(圧力 の単位) 約 6,895Pa = 0.068 気圧 psia 絶対圧 ゲージ圧にその地域での大気圧を足したもの。 psig ゲージ圧 scf 標準立法フィート 1scf = 0.0283m3 百万立方フィートは MMscf、1兆立方フィート は Tscf と記載。 STB ストックタンクバ レル 標準状態(60degF、14.7psi)での原油の体積を 示す。 ton 1000 キログラム
本報告書での表記 意味 備考 USD 米国ドル MMUSD は百万ドル VA ボルトアンペア 皮相電力を示す単位 W ワット 有効電力を示す単位 1KW = 103W、1MW = 106W 略称 本報告書での表記 正式名称・意味など AG Associated Gas
API American Petroleum Institute BGC Basrah Gas Company BOC Basra Oil Company CAPEX Capital Expenditure
CBI イラク中央銀行 (Central Bank of Iraq)
COP24 国連気候変動枠組条約締約国会議(The 24th Conference of the Parties to the Nations Framework Convention on Climate Change)
CPF Central Processing Facility CS Compression Station DCS Distributed Control System DG Dry Gas
DPCU Dew Point Control Unit DS Degassing Station EOR Enhanced Oil Recovery
ECA 輸出信用機関 (Export Credit Agency)
EIA 米国エネルギー情報局(U.S. Energy Information Administration) EPC Engineering-Procurement-Construction
ERP Enhanced Re-development Plan FDP Field Development Plan FEED Front End Engineering Design
FID 最終投資判断(Final Investment Decision) FS 事業性検討 (Feasibility Study)
GDU Gas Dehydration Unit GGFR Global Gas Flaring Reduction GHG 温室効果ガス(Greenhouse Gas) GIIP Gas Initial in Place
本報告書での表記 正式名称・意味など
GMP 産出ガスの有効活用のための国家計画 (Gas Master Plan ) GMP 報告書 2015年に当社および三井物産株式会社が作成したJICA向け「イラ
ク国天然ガス需給計画に係る現況調査プロジェクト報告書」 GOR 原油生産において随伴するガス量と採取する油量との比率 (Gas oil
Ratio)
GSU Gas Sweetening Unit GT ガスタービン Gas Turbine
GTC ガスタービン駆動圧縮機 Gas Turbine (driven) Compressor GWC Gas Water Contact
H.H. Henry Hub アメリカ国全体での天然ガスの先物取引価格の指標 HP High Pressure
HSE Health, Safety & Environment IC 地域間融通(Interconnection)
IEA 国際エネルギー機関(International Energy Agency)
IENA イラクのエネルギー問題を研究する活動(Iraq Energy Academy) IG2K Iraq Gas to Kuwait
IMEC イラクの省庁間エネルギー委員会(Inter ministry Energy Committee) INES イ ラ ク の エ ネ ル ギ ー 活用 に 関 す る 国 家 戦 略 ( Integrated National
Energy Strategy)
IOC 国際石油開発会社(International Oil Company) IRR 内部収益率(Internal Rate of Return)
IS Islamic State
ISO International Organization for Standardization
JBIC 国際協力銀行 Japan Bank for International Cooperation
JCCP 一般財団法人 JCCP 国際石油・ガス協力機関(Japan Cooperation Center Petroleum)
JETRO 日本貿易振興機構 Japan External Trade Organization
JICA 独立行政法人 国際協力機構(Japan international Cooperation Agency) JOGMEC Japan Oil, Gas and Metals National Corporation
KOC Kuwait Oil Company KPC Kuwait Petroleum Company LNG Liquefied Natural Gas LP Low Pressure
本報告書での表記 正式名称・意味など
METI 日本国経済産業省 Ministry of Economy, Trade and Industry MoE イラク電力省 (Ministry of Electricity)
MoO イラク石油省 (Ministry of Oil) MOU Memorandum of Understanding MP Middle Pressure
NA Not Applicable
NACE 米国防蝕技術協会(National Association of Corrosion Engineers) NGL Natural Gas Liquid
NOC 国営石油会社 (National Oil Company) NPV 現在価値(Net Present Value)
OPEX Operating Expense
PDP Preliminary Field Development Plan PI 収益性指標 (Profitability Index)
PPP 官民共同取組(Public-Private Partnership) Pre-FS Preliminary Feasibility Study
SCADA 監視制御システム(Supervisory Control And Data Acquisition System) SGC South Gas Company
SOC South Oil Company SPC Special Purpose Company
SRU 硫化物回収設備(Sulfur Recovery Unit) SSC 硫化物応力腐食割れ Sulfide Stress Cracking TEG トリエチレングリコール Triethylene Glycol
TOYO 東洋エンジニアリング(株) (Toyo Engineering Corporation) TSC Technical Service Contract
要 約
イラクの油田地帯でフレアされているガスは、経済性および環境汚染の点から長年に亘り 問題視されているが、この課題の解決を含めてイラク政府はフレアガス量をゼロにする世界 銀行のイニシアティブに賛同し、2030 年までにフレアガスを削減することを目指している。 一方、隣国のクウェートでは近年の人口増加により電力需要が急増しているため、クウェー ト政府は発電能力の増強を優先課題としており、これに伴い不足する発電用のガスを輸入す る政策に転じている。イラク・クウェート両政府は、双方の課題解決のための有効な措置と して、イラクからクウェートへのガス輸出について交渉を行い、2016 年には両政府間でガス 取引に関して基本合意に至ったが、今日に至るまでガスの取引価格に関する交渉が決着して いないため、ガス取引の実現に至っていない。本調査では経済性の観点からのガス取引の実 現性および環境負荷低減効果の検討に加え、ガス取引価格の取り決めにおいて中立な立場の 視点に立ったガス価格の設定方法を提案することで、両政府間合意への道筋を示すことを目 的としている。 イラクは 2017 年に世界第 5 位の原油埋蔵量が確認されており、ガス埋蔵量も世界第 12 位と 上位に位置しているが、国内のガス処理設備および関連インフラ設備が整備されていないた めに、2018 年 12 月時点で国内のガス生産量の半分以上を占める約 1,700MMscfd のフレアガ スを排出している。かかる状況の改善に向けてイラク政府はフレアガス削減策として Basrah Gas Company(BGC)によるガス処理設備の改修・建設を進め、2018 年 12 月時点では約 1,000MMscfd の随伴ガス回収が可能となったが、国内のガス処理設備やパイプライン等の関 連インフラは未だ充分に整備されておらず、ガス供給の設備が整うまでの一時的な措置とし てイランからガスを輸入している。 今回の調査で対象とする油田に対して、ガス組成の違いや各油田のガス輸出可能量等により、 対象油田の組み合わせを考慮した上で、経済性の検討を行った。 輸出のために必要とされるパイプライン、昇圧設備やガス処理設備等を含めて EPC コスト を積算した。 本ガス取引事業の経済性検討においては、上記 EPC コストをベースに CAPEX を、また類 似設備の実績より OPEX を算出し、経済性の指標として IRR(内部収益率)および NPV(正 味現在価値)を計算した。原料・製品価格は国際指標となる米国 EIA(エネルギー情報局)公 表値を使用し、ガス価格は米国の Henry Hub(H.H.)価格を適用した。また、処理後のガスの うち C1~4 は製品としてクウェートに販売し、C5+留分はイラク国内で自消することを前提と している。 今回は随伴ガスが調査対象であるが、随伴ガスはその性状が油田ごとに異なり、かつ生産期 間による変動もある。そこで、ガス組成と各ガスの低位発熱量を考慮することにより、各組 成ガス価格でなく、それらを合わせた Composite Gas 価格を原料ガス価格、製品ガス価格として各々USD/MMBTU として求めた。その求められた Composite Gas 価格を用いて、イラクか らのガス輸出価格とクウェートのガス輸入価格について以下のやり方で考察した。 ・原料ガス価格を今回の随伴ガス成分(C1~C4)の Composite Gas 価格に近い価格に固定し、ク ウェートへの製品ガス価格を変動させる。 ・製品ガス価格を今回の製品ガスの Composite Gas 価格に近い価格に固定し原料ガス価格を 変動させる。 今回検討を行ったガス取引事業は、当社を含む本邦企業とクウェート国営企業が出資する特 別目的会社(SPC)を事業主体として設備の建設と運営を担うことを想定しているが、設備が イラク国内に建設されることやガス輸出量の保証の観点からイラク国営企業や対象鉱区の操 業権を持つ海外企業の参画も有効であり、事業スキームに関しては両政府と協議を行って決 定していく。本調査結果に基づいて、今後イラク・クウェートに対し、最新のデータに基づ いたより詳細な Feasibility Study(FS)を 2019 年後半に実施することを提案する。FS に基づ いて投資判断がなされれば、その後 2021 年から建設(EPC)に着手し、建設完了後その 2 年 後の 2023 年からクウェートへのガス輸出を開始することが可能になる。 国連気候変動枠組条約加盟国であるイラクは、2020 年から 2035 年までの間に温室効果ガス の 14%(年間約 50 百万 t)削減を目標としており、今回のガス輸出プロジェクトにおける温 室効果ガス削減量はその目標に対して、大きな割合を占めることができることが確認できた。 さらにフレアガス削減は温室効果ガス削減に加えて SOx/NOx/ブラックカーボンなどの大気 汚染の原因となる排出物の削減にもつながる点で、イラクの環境汚染改善に大きく貢献する と言える。 一方、日本企業への裨益としては、ガスパイプライン用鋼管、昇圧設備関連の回転機器、監 視制御システムなど、日本企業による機材の供給や関連するサービスの提供が挙げられる。 本調査の実施にあたり、イラク石油省とは計 2 回の協議を行っている。これに加えて 2 月末 までに実施を予定していた最終報告会は、3 月上旬にイラクを訪問した際にも実施できてい ない。 本調査の実施期間中にイラク・クウェート両国の石油省・国営石油会社幹部の人事異動が行 われたため、両国に対する調査結果の報告をタイムリーに実施することが出来なかったが、 イラクおよびクウェート双方が共にメリットを享受することができる本事業の実現に向けて 引き続き対処していく。
序論
1.1 経緯イラクは世界銀行 Global Gas Flaring Reduction(GGFR)事務局によると 2017 年時点にお いて世界第 2 位のフレアガスの排出国であり、同国内においても長年に亘り経済並びに環 境上の観点から大きな課題とされている。湾岸戦争(1990 年~1991 年)以前には、イラク Rumaila 油田からクウェートの Ahmadi までパイプライン(全長 170km、輸送能力 400MMscfd) を通じて随伴ガスが輸送されていたが、1990 年のクウェート侵攻を契機に送ガスが停止さ れ、それ以降はイラク南部地域における放散ガスの有効利用についての具体的な対策が講 じられていない。
2012 年に世界銀行(以下、世銀)による支援を受けて Booz & Company 社が作成した「イラ クのエネルギー活用に関する国家戦略(Integrated National Energy Strategy、以下 INES)」の 中で、イラク国内でガス生産量の約 40%(当時)がフレアガスとして大気中に放散されて いることに起因する大気汚染や温室効果ガス排出問題が提起され、最優先の対応策として クウェートへの輸出が推奨されている。イラクで大量のフレアガスが放散されているのは ガスパイプラインやその処理設備が十分に整備されていないためで、INES 報告では Master Gas System の立案を技術コンサルタントに依頼する必要性が提案されている。これに関連 し当社および三井物産株式会社は 2013 年に「イラク国天然ガス需給計画作成に係る現況調 査プロジェクト(Gas Master Plan、以下 GMP)」を独立行政法人国際協力機構(Japan International Cooperation Agency、以下 JICA)から受託し、イラク国内のガス需給につき調査 を行う中で、国内でのガス活用インフラの完成までの一時的な放散ガスの活用方法として クウェートをはじめとする近隣国へのガスの輸出を提案している。当社は GMP 報告書作成 以降、イラク石油省に対し放散ガスの有効利用方法としてクウェートへの輸出が最も即効 性があることを提案していたが、2018 年 4 月に来日したイラクのアバディ首相(当時)か ら当社に対して早急にクウェートへのガス輸出を実行したいと協力を求める旨発言があり、 イラクに対して具体的な実行手法について継続して提言を行っている。 一方、クウェートは、2010 年には 400 億 KWh/年だった国内の電力消費量が、2018 年に は 540 億 KWh/年と年々増加する傾向にあり、発電用のガス需要増への対策が必要とされて いる中で、イラクからのガス輸入の早期実現が求められている。この様な状況を踏まえて、 2016 年 5 月にクウェートのジャービル首相(当時)が来日した際、安倍首相に対してイラ クガスのクウェート向け輸出に対する日本政府の支援要請がなされた1。 イラク・クウェート両政府間のガス取引に関する交渉は、2016 年 12 月に基本合意に達し たが、未だにガスの取引価格の合意に至っていないためガス取引のためのインフラ整備も 1 2016 年 5 月に KPC より聴取。
着手されていない。 上記のイラク・クウェート両国のニーズが合致している状況下、有限であるガス貯蔵量や 環境への影響を考慮すると、イラクで生産された随伴ガスをクウェートへ輸出することに よるフレアガスの削減は喫緊の課題であり、懸案となっている両国間交渉を合意に導くに は、第三国による中立的な視点からの経済性の評価並びにガス取引価格決定の指標を示す ことが求められている。 1.2 イラク・クウェート両国にとっての意義 1.2.1 イラク側政策動向 イラク政府は INES によるフレアガス対策の必要性の指摘に対して、2017 年に世銀が提 唱した 2030 年までにフレアガス量をゼロにすることを目指す「Zero Routine Flaring by 2030」 イニシアティブに賛同すると共に、2018 年にはルアイビ石油大臣(当時)が「2021 年まで にフレアガス量をゼロにする」計画を発表している。これらの目標を達成すべく、South Gas Company、Shell、三菱商事による合弁企業である Basrah Gas Company(以下 BGC)や Baker Hughes 社がイラク南部の油田におけるガス処理設備の建設を進めているが、国内のフレア ガスは年々増加しており、2018 年 12 月には 1,715MMscfd が記録され、現在計画されている ガス処理設備が完成しても 2021 年までにフレアガスを完全に無くすという目標の達成は難 しいと見られている。 イラクは国内でのガス需要を満たすため 2017 年からイランより発電用ガスを輸入し一部 の発電所で使用しているが、これはイラク国内で放散されている随伴ガスを発電用に処理 し発電所に輸送するための設備が十分でなく、そうした設備が完成するまでの期間はガス がフレアされ続けざるを得ない状況にあるためである。国内インフラの整備に十分な資金 投入ができていない背景には、2014 年夏頃からの Islamic State(以下 IS)の勢力拡大による 国防費の増加および原油価格の暴落による国庫収入減少のため、イラクの財政が圧迫され ていることがある。 2018 年 6 月に実施された国民議会選挙の結果を受けて新政権が発足され、財政面では IS の掃討に向けた国防費の減額や原油価格上昇により前年度よりも多くの予算が経済施策の 実行に割り当てられているが、比較的治安が安定している南部地域でも、電力・水をはじめ とする生活インフラの整備不良や高い失業率によりデモが多発し治安が悪化するなど政情 の不安定さはいまだに払拭されていないため、政府主導によるインフラ整備及び雇用拡大 政策の早期具体化が求められている。
1.2.2 クウェート側政策動向
クウェートは石油収入への依存を減らすために経済の多様化を目的とした「クウェート ビジョン 2030」の一環として、初期段階として 2015 年度から 2019 年度までの 5 年間を対 象とした開発計画(Kuwait Development Plan、KDP)を策定しており、官民取組(PPP)によ る約 500 のインフラプロジェクトに対して、1100 億 USD 以上の投資を計画している。また 2017 年に「New Kuwait」と称するビジョンを立ち上げ、クウェートを 2035 年までにビジネ ス及び文化の中心地とすることを目標として掲げている。 こうした開発計画の中で重要視されている分野の一つが電力問題で、クウェートの人口 は国外からの労働者の流入もあって、世銀の統計によれば 2017 年時点では 10 年前に比べ ると約 1.7 倍の 410 万人に増加しており、電力需要が急速に増加している。政府は 2013 年 時点で 15,700MW であった発電容量を 2025 年には 27,000MW まで増強する方針を立ててい る。又、電力価格に関しては、これまでは豊富な石油収入を背景にした財政補助により、水・ 電力料金は原価の 5%程度に抑える福祉政策が取られていたが、電力需要の増大と 2013 年 以来繰り広げられていた石油収入の減少による財政悪化を食い止めるための補助金削減の 論議が、2017 年 7 月に産業部門の電力料金を 12.5 倍に値上げすることで一旦決着したも のの、さらなる値上げが検討されている。クウェートでは天然ガスを発電、海水淡水化、石 油化学製品、Enhanced Oil Recovery(EOR)等に利用しており、2015 年に石油・天然ガスの 上流開発を管理するクウェート国営石油開発会社(Kuwait Oil Company、以下 KOC)はガス 生産量を 2030 年までに約 2 倍、3,000 MMscfd に増やす目標を発表している。
クウェートは 2019 年 1 月の Japan Cooperation Center Petroleum(以下 JCCP)シンポジウ ムで 2040 年までに非随伴ガス生産量を 2,000MMscfd まで増産する目標を発表しているが、 現時点では国産のガスは石油生産の随伴ガスが主体であるため、増大するガス需要に対し て国内だけでは増産分を早急に手当てすることができず 2008 年以降はガスの純輸入国とな っている。特に真夏の電力使用量ピーク時には国内生産分では供給が不十分となるため、不 足する燃料ガスを輸入する政策に転じ、現在 LNG の輸入受入基地の建設を進めている。ま た、エネルギー政策の転換により、2030 年までに電力量の 15%を再生可能エネルギーで賄 うという目標を掲げている。 1.2.3 裨益効果 フレアガスの削減を優先度の高い課題とするイラクにとって、現在フレアしているガス を他国へ輸出することにより外貨が獲得できると共に、国内の CO2 および SOx 削減による 大気汚染対策と健康被害対策にも寄与することができる。またこれまで財政的に余裕がな く実行されていない国内のガス関連設備に関しても、クウェートへのガス輸出のために建 設されるガス処理設備やパイプラインが事業期間終了後にイラクの資産に帰属することは イラクにとって大きな利点である。一方、クウェートにとっては電力需要の急増に対応する 発電用ガスの安定供給の確保が喫緊の課題であり、隣国であるイラクからのガス輸入はも
っとも即効性のある手段であって、イラク・クウェート両国間のガス需給バランスを考慮す ると、ガスの輸出入事業は両国にとって多大な裨益をもたらすことができる。 1.3 本調査の目的 本調査は、イラク南部地域において大気中にフレアされている油田からの随伴ガスを分 離・回収し隣国のクウェートに輸出するプロジェクトに関して、経済性を含めた実施可能性 について調査することを目的としている。本プロジェクトが実現した場合、イラクにおいて 発生する CO2 及び SOx が削減されることになるため、両国間のガス取引が環境へ与える 影響についても検証する。 イラク・クウェート間のガス取引は両国のガス需給や環境への負荷を考慮すると早急に 実現されるべきものであるが、両政府間でガスの取引価格が長期間合意されず交渉が行き 詰まっている現状を打開するため、本調査ではガス取引価格決定のための参考となり得る ガス価格設定方法を提示することで、イラク・クウェート両政府間合意への道筋を示す。 また本調査では、ガス取引の実現に向けてイラク・クウェート両政府から日本政府による 支援や日本企業への協力が要請されてきた経緯を踏まえ、日本製資機材の採用のみならず 当社をはじめとする日本企業が事業に参画することで中立な視点に立った事業運営を提案 する。
イラク油ガス田の現状
2.1 イラク油ガス田の概要イラクは世界有数の原油・ガス生産国である。US EIA Country Analysis Report 2018によ れば、2017年末において確認埋蔵量は以下のように報告されている。
確認原油埋蔵量 149 Billion barrels (Boe)
世界第5位(9% Global, 18% Middle East) 確認ガス埋蔵量 135 Trillion cubic feet (Tcf)
世界第12位 約3/4が原油生産に伴う随伴ガス イラクの原油・ガス生産はイラク石油省の月報(Website)によれば、2018年12月におい てイラク全体で以下のように報告されている。 原油生産量 4,465 kBPD(イラク南部*1 :3,934 kBPD) 原油輸出量 3,726 kBPD(イラク南部 :3,195 kBPD) ガス生産量 3,159 MMscfd(イラク南部 :2,741 MMscfd) ガスフレア量 1,715 MMscfd(イラク南部 :1,619 MMscfd)
*1 イラク南部とは国営石油会社 Basra Oil Company、Thi-Qar Oil Companyおよび Missan Oil Companyの管轄する油ガス田として分類されている。
ここで原油生産量と輸出量の差は国内消費であり、国内の製油所および油焚き発電所へ の供給であるが、その多くは製油所向けである。
イラクの既発見油ガス田は大小合わせて100以上あり、イラク国土全体に分布している。 原油生産量でみると、その約89%が南部に位置している。しかも、所謂 Super Giant Fieldと 呼ばれる大規模な油田は、ほとんど南部に集中している。(下図2-1および2-2参照)
図 2-1 イラク南部油関連インフラ施設 (出所:SEP Global Platts)
図 2-2 イラク油ガス田施設 (出所: Oxford Iraq Report)
イラクは 2009 年以来、油ガス田の開発を国際石油開発会社(IOC)に開放して、これま でに 5 回の入札作業(License Round)を実行し、現在ではそのいくつかの開発作業が進んで きており、原油生産量も 2009 年の約 2,400 kBPD から、2018 年には約 4,500kBPD にまで増 加している。各 License Round において示された、2009 年生産量、目標生産量、埋蔵量を下 表に示す。(表 2-1 イラク油ガス田入札概要)これによれば、合計原油生産量は 12,000 kBPD 以上となり、サウジアラビアをしのぐ大胆な数字となっている。その後、2012 年 IEA Iraq Energy Outlook Report や、World Bank が主導した 2013 年 Integrated National Energy Strategy Report を受けて、目標原油生産量は下方修正され、2015 年 GMP 報告書では、ピーク生産量 は約 9,000 kBPD として、ガス供給量を算出している。以後さらに、一部目標原油生産量の 下方修正が行われたので、本調査ではそれを反映している。報道によれば、イラク石油省は 新たな目標として、6,000 kBPD ぐらいを目指しているものと思われる。 IOC の提示していた、目標生産量達成年度の多くは 2017 年となっていたが、現実には達 成できておらず、初期生産(Early Production)の段階のまま開発作業は中断していた。その 大きな要因は、IS による戦費拡大と石油開発予算の減少と各 Operator への支払い遅延によ るものである。
表 2-1 イラク油ガス田入札概要 (出所: 2015 年 GMP 報告書)
Iraq License Round Summary 1st round results (June 29-30, 2009)
Field Name Contractors TargetMain Production2009 productionTarget ReservesBbbl Rumaila BP, CNPC Oil 1,000 2,850 17.8 West Qurna 1 EM, Shell Oil 270 2,325 8.6 Zubair Eni, Oxy, Kogas Oil 205 1,200 4.0 Missan Group CNOOC, TPAO Oil 86 450 1.6 1st. round total 1,561 6,825 32.0
2nd round results (Decmber 11, 12, 2009)
Field Name Contractors TargetMain Production2009 productionTarget ReservesBbbl West Qurna 2 Lukoil, Statoil *1 Oil 0 1,800 12.9 Majnoon Shell, petronas Oil 55 1,800 12.6 Halfaya CNPC, Petronas, Total Oil 3 535 4.1 Garaff Petronas, Japex Oil 0 230 0.8 Badra Gazprom, Kogas, Petronas, TPAO Oil 0 170 0.1 Qaiyarah Sonangol Oil 2 120 0.9 Najmah Sonangol Oil 0 110 0.9 Ahdab *2 CNPC Oil 115 200 0.7 2nd. round total 175 4,965 33.0 *1 Statoil phased out in Mar 2012
*2 Single source contract
3rd. round results (Oct 20, 2010)
Field Name Contractors TargetMain Production2009 productionTarget ReservesBbbl Mansuriyah Kuwait Energy, Kogas, TPAO Gas 0 na 3.3 Akkas Kogas, KazMunaiGas Gas 0 na 2.1 - 4.0 Siba Kuwait Energy, TPAO Gas 0 na 0.1 3rd. Round total 0 na max 74
4th round results (May 30 - 31, 2012)
Field Name Contractors TargetMain Production2009 productionTarget ReservesBbbl Block 8 Pakistan Petroleum Oil/Gas na na na Block 9 Kuwait Energy/Dragon/TPAO Oil na na na Block 10 Lukoil/Inpex Oil na na na Block 12 Bashneft/Premier Oil ma na na
2.2 ガス利用状況 イラクにはガス田の開発計画もあるが、2018 年末現在まだ生産に至っておらず、前述の 統計数値はすべて随伴ガスである。生産された随伴ガスの一部はガス処理施設により回収 されている一方、生産量の約半分(54%程度)のガスは、有効活用されずに大気燃焼されてい る。イラクに限らず、一般的に随伴ガスは廃棄物という観念が従来からあり、回収設備への 投資は必要最小限にとどめ、原油生産を優先してきたが、世界的な環境問題への関心とその 取組みの推進、エネルギー有効活用という時代の潮流を受けて、ようやくイラクも取組みを 開始したものの、現在道半ばである。下図 2-3 は石油省の資料に基づいて、これまでの各生 産量、フレアガス量の月次推移を示したものである(2008 年 9 月~2018 年 12 月)。取組み の目玉はフレアガスを削減すべく、BGC にてガスを処理する為のガス処理設備の改修・新 設が進められていることであり、2,000 MMscfd のフレアガスを回収することを目標として いる。報道によれば 2018 年 12 月時点では約 1,000 MMscfd の回収まで開発が進んでいる。 BGC が処理するガスは、契約上南部 WQ Phase-1、NS-Rumaila、Zubair の随伴ガスであり、 イラク南部にある老朽化していた2つの既設ガス処理プラント(設計能力 1,050 MMscfd)、 及び、 CS(Compression Station)の改修が進められた。回収・処理したガスのうち、Dry Gas は国内発電用に、LPG は国内消費と一部は輸出に、NGL も輸出に有効活用されている。
図 2-3 イラク油生産量・フレアされたガス量月次推移 (出所:イラク石油省 Web 月報)
下図 2-4 は既設南部のガス処理プラントの Block Flow を表している。
図 2-4 既設南部ガス処理プラントブロックフロー (出所: 2015 年 GMP 報告書)
Dry Gas to users & Northern Gas System Connection
Design Capacity (2 Trains) Raw Dry Gas 350 MMscfd (Extraction) 330 MMscfd (Surplus) Liquid
Broad cut liquids Raw Dry Gas
Liquid
Dry Gas Dry Gas
Raw Dry Gas LPG/NGL LPG/NGL Export
Liquid Broad cut liquids bUmm Qasr Terminal Design Capacity (2 Trains) Design Capacity (3 Trains) Receiving & Storage
350 MMscfd x 2 (Extraction) 4,400 MTD x 3 To Kuwait (Closed)
Luhais Field DS/CS/GDU N-Rumaila Field
DS/CS/GDU N-RumailaNGL Plant
S-Rumaila Field
DS/CS/GDU NGL PlantKAZ 3,000 MTD LPGKAZ LPG Plant Zubair Field
DS/CS/GDU
IRT/IST LPG DEPOT 3,000 MTD LPG
2.3 パイプライン現状
2015 年時点で調査した、イラク国内ガスパイプラインは、Dry Gas(C1+C2)、LPG(C3+C4)、 NGL(C5+)ごとに、それぞれネットワークが存在する。GMP 報告書で報告したネットワー クを下図 2-5, 2-6, 2-72に示す。北部と南部を接続する国内の Strategic Pipeline、Baghdad
National Pipeline、North Pipeline、隣国への輸出、あるいは輸入に供する Syria pipeline(Old & Newly Planned)、Kuwait Pipeline、Iranian Pipeline、その他計画中の BABUCCO Pipeline, Arab Gas pipeline などがある。既存のパイプラインについては、現在もほとんど変わりないと思 われるが、現状のパイプラインの状態、使用状況、能力等及びその他計画中のパイプライン の進捗状況などについて、さらに調査が必要である。
イランからのガス輸入は、2017 年に Baghdad および Basrah への 2 系統の国境を越えるパ イプラインが建設され、輸入を開始している。イラン側は、IGAT#6 からのパイプラインを 使用し、South Pars のガス田で生産、Assouleh で処理した Dry Gas を輸送している。輸入ガ スの供給先は北部、南部の特定の発電所としており、イラク国内のガスパイプラインネット ワークからは独立しているものと思われる。輸入契約はイラク国内の電力需要を満たすこ とを目的としているが、国内のガス供給インフラが整うまでの一時的な対応ということで、 4 年契約としている。将来的にはイラク国内パイプラインネットワークに接続し、EU ガス マーケットへの供給の可能性がある 本調査と関連するクウェートへのガス輸出パイプラインについては、GMP 報告書による と、40”のパイプラインにて Raw gas をクウェート Ahamadi のガス処理 Plant へ送気してい たが、クウェートへの侵攻後は Close されている。Iraq 側のパイプラインは、既に他の目的 に転用されていると同報告書では報告されていたが、現在の状態についてより詳細な回答 を受領することになった。
2 図 2-5, 2-6, 2-7 は Oxford Iraq Report 2010、および、Iraq MoO との Workshop(2011)、にて得られた情報 その他一般情報をもとに、当社が作成。
図 2-5 イラクパイプラインネットワーク(Dry Gas) (出所:2015 年 GMP 報告書)
図 2-6 イラクパイプラインネットワーク (LPG) (出所:2015 年 GMP 報告書)
図 2-7 イラクパイプラインネットワーク (NGL) (出所:2015 年 GMP 報告書)
調査に必要な情報収集・調査・分析
3.1 ガス供給油田の選定 本調査を実施するにあたり、イラク石油省から検討用の資料・データを取得する予定であ ったが、本調査期間内に入手することができなかったことから、2015 年に実施した、「イラ ク国天然ガス需給計画に係る現況調査プロジェクト報告書」(GMP 報告書)のデータをベー スにして、以後公表されている油ガス田開発計画の変更を加味した上でクウェートへの輸 出可能なガス量を算定することとした。 なおイラク国内では 3 つのガス田の開発が進められているが、そのうち 2 つは北・北西 部にあり(Akkas ガス田及び Mansuriyah ガス田)、輸出事業の対象外となる。南部の Siba ガ ス田は将来対象となりうるが、本調査では除外した。従って、本調査では随伴ガスだけを対 象とする。 クウェートは、電力の国内需要の伸びに比べてガスの生産が追い付かないため、LNG を 輸入する方向で LNG 受入基地の建設中であるが、より安価なパイプラインガスがあれば歓 迎である。一方、イラクは、随伴ガスを有効活用する為のインフラ建設が進まない中で、フ レアしているガスを輸出したいというニーズがある。両政府間で並行して進められてきた 協議の中では、ガス取引価格以外はほぼ合意に達している。 3.2 ガス生産量と輸出可能量 GMP の報告書では、原油生産量からガス・油比(GOR:Gas-Oil-Ratio scf/bbl)を用いて随 伴ガス量を算出していたので、本調査でも同一の手法を用いた。随伴ガスの量が算出するこ とができれば、その組成から、各成分のガス量を求めることが出来る。 ガス生産量は、2018 年からから 2037 年までの年度ごとの生産 Profile を作成して、経済性 検討等のデータとした。生産随伴ガスの一部は、油田の操業に必要な電力を供給する自家発 電装置の燃料に使用されるため、その分を差し引いた量を輸出量とした。(INES Report や GMP 報告書 で採用された割合いに基づき仮定した) 3.3 ガスの性状 随伴ガスの性状として、2015 年に実施した GMP 報告書のデータから、3.1 章で選定され た油田の組成を用いた。一般的にイラク南部の油田のガスは北部と比べて比較的重質であ り、メタン留分は少ない。随伴ガスの量から各成分の量を計算し、次章以降で述べる諸検討 に用いた。ここで C1 と C2 は Dry Gas、C3 と C4 は LPG (Liquified Petroleum Gas)、C5 よ り重質の炭化水素は NGL (Natural Gas Liquid) と定義する。設備計画の前提と概要
「各対象ガス田からのガス輸出量」、「必要となる設備容量」は、第 3 章 ガス輸出可能量の 検討結果をもとに求めた。本章の設備計画の結果は、経済性検討並びに EPC コスト積算に 用いられる。その概略フローを以下に示す。 4.1 各対象油田からのガス輸出量 ガス輸出量は経済性検討や EPC コスト積算に対する重要なインプットである。以下に述べ る背景・理由を考慮しながら、後続の検討作業並びに結果を見据え、ケース検討を行った上 で対象油田からのガス輸出量を求めた。 1) ガス輸出総量は、これまでのイラク、クウェート両国との協議の中で提示されたガ ス量を超えないものとする。 2) 随伴ガスの引取り権益を、イラク政府が 100%保有していない油田の場合、他権益 者の合意を取り付ける必要がある。 3) 随伴ガス性状により、サワーガスの場合、酸性ガス除去設備が必要になり、その分 の建設・運営費用が必要となる。一方スウィートガスであれば不要。 4) NGL は、プロセスコンプレッサー・露点コントロール設備のプロセスで便宜上全 量分離され、LPG と Dry Gas のみ クウェートへ送気するものとした。コンプレッ ション・ステーションで分離された NGL は、BGC が引き取る。Dry Gas と LPG は、クウェート側の既設ガス処理プラントで分離されることを想定しており、本 調査の設備計画検討対象から除外した。4.2 主要設備容量計画 4.2.1 設備ブロックフロー 前章で算出した各油田のガスをクウェートに輸出するためには、以下のような設備が必 要である。(下図 4.4 ブロックフロー参照。) 尚、各設備の仕様等については、第 5 章 設備計画でその概要を述べる。 図 4-1 ブロックフロー 4.2.2 マテリアルバランス 前章第 3 章で求められたガス輸出量をもとに、上図における各 Stream No.の主要な Milestone 年度のマテリアルバランスを算出した。 4.2.3 主要設備容量計画 前章で求められた各々の油田から輸出される量のガスを処理するために必要な主要設備 容量とその必要時期を求めた。
DS :Degassing Station (Separator) GDU :Gas Dehydration Unit MT :Metering CS :Compression Station DG :Dry Gas BC :Booster Compressor DPCU : Dew Point Control Unit AG :Associated Gas BGC :Basra Gas Company GSU :Gas Sweetening Unit
Fuel ② ③ ①
Dry Gas + LPG ⑤
④ NGL
Fuel ⑦ ⑧ ⑨ Reservoir or Sulfur Recovery H2S/CO2 ⑥ ⑩ Dry Gas + LPG ⑱ ⑲ ⑳ ⑫ ⑪ NGL Fuel ⑭ ⑮ ⑬ Dry Gas + LPG ㉑ ⑰ ⑯ NGL ㉒ ㉓ CS, GDU, DPCU DS Acid Gas GDU &
Re-injection GSU CS, GDU, DPCU Export Compressor M et er in g M et er in g K uw ait B ord er DS CS, DP, DPCU DS BGC GPP (KAZ/NR) & Export M et er in g
設備計画
5.1 設備構成 本事業実施可能性調査の対象スコープとしては、その地理的・設備機能の観点から「コン プレッション・ステーション」と「ガスパイプライン」の二つに大きく分けられる。 コンプレッション・ステーションは、既設デガッシング・ステーションとの取り合いがあ り、パイプラインは、送出先であるクウェート側ブースターステーションとの取り合いがあ る。それらの概要を以下の図 5.1 コンプレッション・ステーション/デガッシング・ステーシ ョン取り合い図に示す。 「コンプレッション・ステーション」と「パイプライン」の設備概要については、5.2 章以 降で述べる。 図 5-1 コンプレッション・ステーション/デガッシング・ステーション取り合い図 Scope ofDegassing DS :Degassing Station (Separator) GDU :Gas Dehydration Unit MT :Metering Station CS :Compression Station DG :Dry Gas BC :Booster Compressor (Existing) DPCU : Dew Point Control Unit AG :Associated Gas BGC :Basra Gas Company
GSU :Gas Sweetening Unit Fuel ② ③
①
Dry Gas + LPG Scope of ⑤ Compression
Station (by SPC) ④ NGL
Fuel ⑦ ⑧ ⑨ Reservoir or Sulfur Recovery H2S/CO2 ⑥ ⑩ Dry Gas + LPG ⑱ ⑲ ⑳ ⑫ ⑪ NGL Out of Scope of Compression Station (by SPC) Fuel ⑭ ⑮ ⑬ Dry Gas + LPG ㉑ ⑰ ⑯ NGL ㉒ ㉓ M et er in g K uw ait B ord er DS CS, DP, DPCU DS BGC GPP (KAZ/NR) & Export M et er in g CS, GDU, DPCU DS Acid Gas GDU &
Re-injection GSU CS, GDU, DPCU Export Compressor M et er in g
5.2 コンプレッション・ステーション(CS :Compression Station) 5.2.1 コンプレッサー コンプレッション・ステーションにおいては、デガッシング・ステーションからの随伴ガ スをパイプラインへ送出するための圧力にまで昇圧することを目的に、複数の往復同式コ ンプレッサー(プロセスコンプレッサー)と、大容量の処理済ガスをパイプラインへ送出する ことを目的に遠心式コンプレッサー(輸出用コンプレッサー)を直列に組み合わせて設置す る。
5.2.2 ガス脱水設備(Gas Dehydration Unit)
ガス脱水設備(GDU)は、ガス中の水分を除去して、送気中にガスパイプライン中の水分 の凝縮による腐食を防止する設備であり、プロセスコンプレッサーの下流に設置する。通常 TEG(Tri-ethylene Glycol)溶液にガスを通過させ水分を吸収、除去するプロセスである。水 分を吸収した TEG は再生塔で熱を加えて水分を除去したのち循環使用する。概念図を以下 に示す。 図 5-2 ガス脱水設備概念図
5.2.3 露点コントロール設備(Dew Point Control Unit)
プロセスコンプレッサーの下流に露点コントロールユニット(DPCU)を設置する。圧縮 されたガスを冷却して、重質の炭化水素(NGL 留分)を凝縮して分離する。これにより、 後流のパイプライン中での重質炭化水素の凝縮による脈動を防止することが出来る。概念 図を以下に示す。
Dry gas
H2O
Wet gas
Heat
Rich TEG
Lean TEG
図 5-3 露点コントロール設備概念図
5.2.4 酸性ガス除去設備(Gas Sweetening Unit)
H2S、CO2 が含まれる随伴ガスは、サワーな成分(H2S、CO2)を除去して後、スウィー トなガスに処理してから送気する。通常、アミンの溶液中にガスを通過させ、サワー成分を 吸収・除去する。サワー成分を吸収したアミン溶液は加熱により吸収したサワー成分を除去 (再生)してから循環使用する。除去した酸性ガス(Acid gas)は油井でガス圧入する。酸 性ガス除去設備概念図を以下に示す。尚、スウィートガスと想定される随伴ガスには、本設 備の設置は必要ない。 図 5-4 酸性ガス除去設備概念図
Dry gas +LPG
Raw gas
Refigerant
NGL
DPCU
Sep
ar
at
or
Sweet gas Acid gas
Sour gas
Heat Rich amine Lean amine
5.3 ガスパイプライン 対象油田とクウェート側ブースターステーションを結ぶガスパイプラインの仕様は、 以下を想定している。 ・材質:炭素鋼 ・敷設方式:埋設 5.4 その他の必要な設備 輸出ガスの計量設備を輸出用コンプレッサー下流に設置する。クウェートへの最大輸出 ガス量を超える場合の余剰ガスを BGC に送気するガスライン、及び NGL を BGC に送油す るラインについてもそれぞれ必要である。その他付帯設備として監視制御システム、電極防 食システム、ピグシステムなどが必要である。 5.5 検討対象外の設備 本調査において、コスト積算および経済性検討から除外した設備は以下のとおりである。 1)各油田の生産井、坑井設備、ギャザリングシステム、デガッシング設備 (DS :Degassing Station)等油田開発計画に含まれる設備 2)酸性ガス処理については、酸性ガス除去設備のみを対象とし、除去した酸性ガス は油層に再圧入することを想定している。その際に必要な圧縮機や圧入井、脱水 設備は油田開発当事者の範囲とし対象外としている。 3)クウェート国境からブースターステーションまでのガスパイプライン、ガス処理 設備 5.6 設備建設費 コスト積算は、前述の設備容量、仕様、サイズ等をもとに、当社の社内データを使用して、 設備毎に容量スライド、ユニットレート積算、要素比率積算の内、適切な手法を用いて積算 を実施した。 EPC コスト積算を行うにあたっては、以下の前提条件を設定した。 全ての設備は新設とする。新設コンプレッション・ステーションは、既設デガッシン グ・ステーションの隣に設置されると想定した。新設コンプレッション・ステーショ ンと既設デガッシング・ステーション間の取り合い点ならびに条件は、前述に示す通 りである。必要な用役は既設デガッシング・ステーションから供給される前提にして いる。
特別目的会社のスコープは、イラク領域内であり、EPC コストの積算範囲も同じくイ ラク領域内としている。
イラク国内のパイプライン敷設ルートの土地収用は、イラク政府の責任の下に行う 前提とし、土地買収価格は EPC コスト積算には含めていない。
プロジェクトの経済性検討とガス売買価格設定メカニズムの提案
6.1 経済性検討の目的 本章では、イラク南部地域において燃焼し、放散されている随伴ガスを処理・昇圧し、内 陸パイプライン経由でクウェートに輸出するプロジェクトの経済性を検討すると共に、現 在イラク・クウェート間で合意に至っていない両国間のガスの売買価格について、中立的な 立場から合理的な価格設定のメカニズムを提案する。 6.2 検討の範囲と方法 プロジェクトとしての経済性検討の範囲を図 6-1 に示す。 図 6-1 経済性検討の範囲 経済性検討の範囲は、複数の油田から回収される随伴ガスを引き取り、脱水・昇圧・露点 調整・再昇圧、酸性ガス除去を行い、埋設パイプラインにより両国間の国境においてクウェ ートに輸出するまでとする。 6.3 プロジェクトの経済性検討の方法 経済性検討は、指標として汎用されている IRR および NPV 法を用いることとし、その方 法の概要を図 6-2 に示す。図 6-2 経済性検討の方法
1) 5.6 章で算出された設備建設費(EPC コスト)に EPC コスト以外の費目を加えて CAPEX とする。CAPEX の算出に際しては、2017 年 12 月に IHS CHEMICAL が刊 行した Process Economics Program Review 2017-15 を参照した。
CAPEX として EPC コストに上乗せする一般的な費目としては ・プロジェクト形成にいたる費用 ・プロジェクト開発費用 ・官庁許認可費用 ・FID にいたるまでの諸経費 ・ファイナンス費用 などがある。 2) 4.1 章で算出された随伴ガスを原料とし、直近の市場ガス価格を原料ガス価格とす る。 3) 4.1 章で算出された製品ガス(C1~C4)を製品とし、最近の C1/C2 価格および C3/C4 価格を製品価格とする。C5+留分(NGL に相当)はイラク国内で BGC に渡すとし、 その価格は直近の NGL 価格の見合いとする。 4) OPEX は以下の項目を含むものとする。 ・運転要員費 ・保守要員費 ・一般管理費 ・外部用役購入費 設備構成検討 残存簿価検討 感度分析 設備仕様設定 CAPEX/OPEX 推算 ガス価格 検討 天然ガス 生産計画 物質収支計算 原料、製品の 価格設定 総売上算出 総支出算出 IRR/NPV 算出
・保守経費 ・保険経費
5) 建設期間・運転期間を想定のうえ Microsoft Excel に内蔵されている IRR 関数・NPV 関数により IRR/NPV を求める。 6) インフレーション、エスカレーション並びに売掛・買掛は考慮しないものとするが、 運転期間が比較的短いため、経済性評価に当たっては運転終了後の設備の残存価 格を考慮することとする。 7) 原料・製品価格は表 6-1 に示す最近の米国 EIA 公表値を用いることにする。 尚、ガス価格の指標は、シェールガスの開発により世界最大の天然ガス産出国となり今後 ガス取引市場において主導的な役割を果たすと見られている米国の Henry Hub 価格を用い ることとする。 表 6-1 原料・製品価格 原料・製品種類 単価 単位 備考 原料ガス 4.0 USD/MMBTU H.H.価格を採用 C1/C2 mix 4.0 USD/MMBTU H.H.価格を採用 C3/C4 mix 400 USD/ton サウジ CP も考慮 C5+留分 50 USD/BBL US NGL 価格を参考とした H2S/CO2 0 無価格とした 原料・製品価格の参考例を図 6-3, 6-4, 6-5 に示す。 図 6-3 に示すように MMBTU あたりの価格は C1 /C2/ C3/ C4/ NGL の順に高くなる傾向にあ る。随伴ガスはこれらの混合物であり、MMBTU あたりの価格は一般的にメタン含量が高い リーンガスより C2-C4 を多く含むリッチガスの方が高い傾向になる。LPG 価格はサウジ Contract Price, CP も参照した(図 6-6)。
図 6-3 炭化水素燃料のスポット価格(2002/01–2018/10)
図 6-4 に示すように、MMBTU あたりの価格は NGL が原油をやや上回るレベルで推移して いる。一方で図 6-5 のように NGL 単独の価格のデータも公開されている。本検討では US NGL 価格を参照した。
図 6-5 NGL 価格推移 図 6-6 LPG の CP 価格推移 (出典:http://www.ogcts.co.jp/service/lpg/pdf/lpgkakaku.pdf) 6.4 検討結果 上記に基づき年度別支出と売上と IRR/NPV を算出した。 6.5 感度分析 算出された IRR/NPV に対し、原料価格・製品価格の絶対値から判断して±20%範囲で各 ケースの感度分析を試みた。
6.6 ガス価格の考慮 随伴ガスはその性状が油ガス田ごとに異なり、かつ生産期間による変動もある。本節で はガス価格について、ガス組成に各ガスの低位発熱量を乗じた合計をガス合計量で除すこ とにより見かけの composite gas 価格を求め、イラクからのガス輸出価格とクウェートのガ ス輸入価格を考察した。 各ガス成分の低位発熱量を表 6-2 に示す。 表 6-2 炭化水素ガスの容積あたり低位発熱量 ガス 低位発熱量(BTU/SCF) C1 910 C2 1,630 C3 2,371 C4 2,977 C5 3,679 6.7 ガス価格に関する提案 上記の経済性検討に基づき、ガス価格取り決めのためのメカニズムを以下の通りについ て検討した。 その1: 原料ガス価格を固定し、製品ガス価格の傾向を検討する。 その2: 製品ガス価格を固定し、原料ガス価格の傾向を検討する。 6.7.1 原料ガス価格固定 原料ガス価格を C1-C4 の Composite Price に近い価格として、クウェート側が必要とする 製品ガス価格を変動させ、製品ガス価格の受容価格を検討した。 6.7.2 製品ガス価格固定 クウェート側が必要とする製品ガス価格を Composite Price に近い価格として、イラク側 の原料ガス価格を変動させ、原料ガス価格の受容価格を検討した。
事業性検討
7.1 事業スケジュール 本事業を実施するにあたり、図 7-1 に示す事業スケジュールを想定している。 図 7-1 事業スケジュール 本事業実施可能性調査(Pre-FS)結果に基づき、イラク・クウェートとの協議を実施する。 その協議の中で、二国間調整を行いながら、前提条件を固めると共に、次のステップとして、 更なる事業実施可能性調査(Feasibility Study)を実施する。 この Feasibility Study 結果に基づき、後続の重要なアクティビティである、ガス売買契約 (Gas Supply Agreement)、特別目的会社(SPC)設立、ファイナンスアレンジメントが行わ れることから、Feasibility Study を詳細かつ必要十分な範囲で実施することは、本プロジェク トの成否を左右すると言っても過言ではない。 イラク・クウェート両国間ガス価格協議は、Pre-FS の結果に基づいて行われるが、ガス売 買契約締結は、Feasibility Study 完了後、その結果に基づいての本格的な協議を経てなされ る。 同様に、Feasibility Study 結果に基づき、最終投資判断に向けて各々、特別目的会社(SPC) 設立、ファイナンシングアレンジメントがなされる。 EPC ワークは、次章 7.3 に示す実施体制をとることにより、最終投資判断後速やかに開始 することが可能となる。プロジェクト期間として約 2 年間を想定しており、その後ガス輸出 が開始されることとなる。 項目 前半 後半 前半 後半 前半 後半 前半 後半 前半 後半 前半 後半 Pre-Feasibility Study (Pre-FS) イラク、クウェートとの協議 継続協議 Feasibility Study (FS) Post FS ガス売買契約 (GSA) 特別目的会社 (SPC)/ ファイナンシング 最終投資判断 (FID) EPC 準備 実行(Phase-1) ガス輸出 2023 2018 2019 2020 2021 20227.2 EPC スケジュール 現時点にて想定する EPC スケジュールを図 7-2 に示す。 図 7-2 EPC スケジュール 最終投資判断後の EPC 作業開始を速やかに行うべく、それまでに実行可能な準備作業(例 えば、現地調査、データ収集、設計ベース作成、実行体制の構築等)を前述のスケジュール 項目(Feasibility Study, 特別目的会社設立、ファイナンシング等)の期間中に、実行できる 範囲で行っておく。 コンプレッション・ステーションは、コンプレッサーが全体工期を律するので、その仕様 確定ならびに購入作業を優先する計画立案が必要となり、完了までには約 24 カ月かかると 想定している。 パイプラインは、EPC 開始次第速やかに確定させる仕様をもとに、パイプ供給ベンダー を決定し、工事計画に従って現地に納入後、イラク工事業者によって敷設される。今回の物 量及び敷設条件を考慮し、24 カ月以内にパイプライン敷設 EPC を完了することを想定して いる。 番号 項目 -第2四半 -第1四半 第1四半 第2四半 第3四半 第4四半 第5四半 第6四半 第7四半 第8四半 0 最終投資判断 1 パイプライン EPC 先行準備作業 設計 調達 工事 2 コンプレッション・ ステーション EPC 先行準備作業 設計 調達 工事 先行年 1年目 2年目
CO2/SOx 削減効果検討
8.1 CO2/SOx の排出抑制量に関する国際的枠組み
随伴ガスを燃焼して大気中に放散されるフレアガスの削減に関連して、イラクは次の国 際的枠組みに参加している。
(1) 国連気候変動枠組条約(UNFCCC)
(2) GGFR (Global Gas Flaring Reduction)(世界銀行が組織する官民共同取組=PPP)
8.1.1 UNFCCC 下におけるイラクの温室効果ガス削減目標 イラクは国連気候変動枠組条約の加盟国であり、2015 年の COP21 で合意されたパリ協定 に参加している。 2015 年の COP21 に提出された国別の目標を記した文書に拠れば、イラクは 2020 年より 2035 年の間に温室効果ガスの排出を 14%削減することを目標としている。2035 年における 14%は CO2 換算年間約 50 百万トンに相当する。 温室効果ガス削減のメニューの一つとして随伴ガスの有効利用が挙げられている。 一方、UNFCCC 事務局に 2017 年に提出された温室効果ガス削減のロードマップを記述する イラクの報告書に拠れば、1997 年の温室効果ガスは CO2 換算で年間約 72 百万トンであり、 そのうちの 75%の 54 百万トンが、フレアガスを含むエネルギー部門からの排出量である。 8.1.2 GGFR 下のイラクの取組 イラクは世界銀行(World Bank)が組織する 2015 年に発足した官民共同取組(PPP)であ る GGFR (Global Gas Flaring Reduction) に参加している。
GGFR の目標は、(1)新規開発油田における Zero Flaring (随伴ガスの完全回収と利用) 順守と(2)フレアガス放散中の既存油田については 2030 年までに Zero Flaring の達成、で ある。 GGFR の報告によれば、全世界の石油生産に伴う随伴ガスのうち、未利用のまま油田にお いて放散されているガスは年間約 1400 億 m3と推計されている。 CO2 放出による気候変動への影響にとどまらず、フレアガス中に含まれる SOx、NOx、ブ ラックカーボン(煤煙、いわゆる PM2.5)は深刻な大気汚染による健康被害を油田地帯住民 にもたらすばかりでなく、地球の大気循環によって氷河や極冠に降り積もるブラックカー
ボンによる融氷の効果も気候変動上の大きな脅威であるといわれている。 GGFR には、①石油企業 ②産油国政府 ③国際金融機関が参加しており、それぞれ、① 油田への適切な投資と操業 ②GGFR を促進する法的・制度的枠組みの提供 ③GGFR を促 進する金融面配慮によって、目標の達成に貢献することをコミットしている。イラクにおい ては政府が GGFR に参加している。 世界銀行 GGFR 事務局の 2018 年の発表に拠れば、2017 年のイラクにおけるイラクの随 伴ガスの燃焼・放散量は、首位のロシアの約 200 億m3に次ぐ、第 2 位の 178 億m3弱であり、 全世界の放散量の 12.7%を占める膨大なものとなっている。 また、イラクの場合、GGFR への参加にも拘わらず、石油生産の回復に伴って、2013 年か ら 2017 年の 4 年間に約 133 億m3から 178 億m3弱に 25%増加していることが問題視されて いる事情もある。 図 8-1 世界のフレアガス排出国トップ 30 (出所: NCAA/GGFR)
一方、イラクとしても、かかる事情を放置、座視しているわけではなく、事務局には GGFR に取り組んでいる関係者(イラク政府および GGFR に参加している石油会社)の実績が複 数報告され、2018 年 11 月にはイラクのガドバン新石油大臣がフレアガスの回収利用に積極 的に取り組もうとする姿勢も現地報道されている。 8.2 CO2/SOx 削減効果 本プロジェクトで回収を予定する随伴ガスを燃焼させたフレアガスとしての放出量を算 出した。 UNFCCC のパリ協定におけるイラクの温室効果ガスの目標である 14%、2035 年において 年間約 50 百万トンの削減にたいして、大きな寄与を果たす結果が得られた。 また、GGFR におけるフレアガスとして燃焼される随伴ガス削減効果においても、2017 年 におけるイラクの随伴ガス放出量である年間約 180 億m3に対して、同様に大きな寄与を果 たす結果が得られた。 いずれのケースにおいても、本件の遂行は温室効果ガスの削減に関するイラクの国際的 コミットメントの実現の鍵を握るものといえる。
日本企業の優位性の確認と日本への裨益
9.1 日本企業の優位性の確認 本プロジェクトの実現のためにはイラク・クウェート両国間の利害を調整することがで きる中立な第三国の関与が求められている。 事業運営段階においても中立性の維持が求められるため、本プロジェクトの目的が完遂 されるまでは日本企業の関与が両国政府から求められており、日本企業の参画により両国 が多大な裨益を享受できる事業を実現することができる。 本プロジェクトの立地するイラク南部地域は、イラクの主要な石油・ガス生産、国内外へ の供給を担い、イラク内においても人口の稠密な地域であるが、IS の跳梁に由来する治安 の悪化が経済の悪化を招き、経済の悪化に起因する失業が治安の回復に悪影響を与えてい る事情にある。経済の悪化、治安への不安は日本企業を含む多くの外国企業の関連するプロ ジェクトのコストを押し上げ、多くのプロジェクトが遅延、中断する要因ともなっている。 本プロジェクトの遂行が創出する多くの雇用は失業の解消と治安の安定に資するものであ り、それによる日本のプレゼンスの向上はイラクにおける日本企業の活動全般に良い影響 をもたらすことが期待される。 9.2 日本への裨益 9.2.1 機材・ソリューションの供給 本プロジェクトの設備のうち、日本企業に優位性があり、日本企業より供給が期待できる ものは次の通りである。 ガスパイプライン(Gas Pipeline)用大口径鋼管日本企業が製作する鋼材は National Association of Corrosion Engineers 米国 防蝕技術協会(NACE)基準を満たし、世界基準と比較しても高い品質水準 であり、多くの供給実績を保有している。特にエネルギー用途を中心とした 大径鋼管に関しては、世界各国で油ガス田を中心としたエネルギー輸送に使 われている。また他の特徴として、パイプラインの安全性評価に関わる技術 を有しており、種々のシミュレーションと共に実管での破壊性安全実験も可 能である。 昇圧設備(Compression Station)関連回転機械 イラクからクウェートへのガスの送り出す昇圧設備に使用される高性能の回 転機械類には日本製品に優位性がある。それらの回転機械類とは、(1)往復 動式(レシプロ式)のプロセスコンプレッサー と(2)その駆動機(誘導