<報文> ペンタダイアグラムを活用した豚舎排水処理施設の簡易診断
12ptあき 〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.2(2018)
16 *Diagnostic Method of Pig House Drainage Treatment Facility Utilizing Penta Diagram
**Yoshihisa NAKAYAMA,Reiko SHIMADA(宮崎県衛生環境研究所)Public Health and Environmental Science Office, Miyazaki Prefectural Government
***Toshiaki MISUMI(宮崎県環境森林部環境管理課)Environmental Management Division, Environment and Forestry Department, Miyazaki Prefectural Government
<報 文>
ペンタダイアグラムを活用した
豚房施設排水処理施設の簡易診断
*中山能久
**・島田玲子
**・三角敏明
*** キーワード ①ペンタダイアグラム ②豚房施設 ③排水処理施設 ④排出水 要 旨 生物的硝化脱窒素法による排水処理施設においては,稼働状況を確認するには専門的な指標を用いて行うことが一般的 であった。今回,考案したペンタダイアグラムに処理水の理化学試験結果をあてはめることにより,豚房施設排水処理施 設の処理状況を視覚的に図示する手法を提案する。この手法を用いることにより,水質汚濁防止法に規定する排水基準項 目のみを用いて,簡易的に豚房施設排水処理施設の稼働状況を診断することが可能になる。 1.はじめに 水質汚濁防止法に規定する特定施設の一つである豚房 施設においては,一般的に生物処理法により,排出水の 処理が行われている。生物処理法においては,排水処理 施設の維持管理にMLSS(活性汚泥濃度),SVI(汚泥容量 指標),SRT(汚泥滞留時間),HRT(水理学的滞留時間) といった指標が用いられるが,こういった指標は行政職 員にとっては馴染みが薄く,排水処理施設の稼働状況を 知るには,専門業者による診断を待たざるを得ない。 今回,水質汚濁防止法に規定する排水基準項目である 理化学検査結果のみを用いて豚房施設の排水処理施設の 稼働状況を簡易的に診断する手法を提案する。 2.生物的硝化脱窒素法 豚房施設から排出される排出水は,一般的に図1の過程 (生物的硝化脱窒素法)を経て処理されている1)。 図1 豚房施設排出水の処理過程 畜産施設の排水処理においては,集められた原水は, まずばっ気槽で好気条件下において酸化分解(好気処理) が行われる。この過程においては,原水中に含まれるア ンモニア性窒素は硝酸性窒素に変化し,pHは酸性側に移 動する。 CxHyOz + O2 → CO2↑ + H2O NH4+ + 2O2 → NO3- + H2O + 2H+ その後,嫌気条件下に移行し嫌気分解(嫌気処理)が 行われる。この過程においては,処理水中の硝酸性窒素 は窒素ガスとなり大気に放出される。このとき,pHはア ルカリ性側に移動し,その結果pHは中性付近に収束する。 NO3- + 5H → 1/2N2↑ + 2H2O + OH -最後に,沈殿槽や膜透過法を用いて,処理水中の固形 物(主として活性汚泥)を除去して,排出水として場外 に排出する。 以上のことをまとめると,処理水の性質は,水処理が 進行するに伴い表1のような推移を示す。 表1 処理水の性質の推移 原水 好気処理後 嫌気処理後 BOD 高 低下 さらに低下 pH アルカリ性 酸性化 中性化 NH4-N 高 低 低 NO3-N 低 高 低 64<報文> ペンタダイアグラムを活用した豚舎排水処理施設の簡易診断 12ptあき 〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.2(2018) 17 3.使用した基準項目 3.1 アンモニア又はアンモニウム化合物 排水基準を定める省令の規定に基づく環境大臣が定め る排水基準に係る検定方法(以下,「告示法」という。) による測定値を使用した。 3.2 硝酸化合物 告示法による測定値を使用した。 3.3 水素イオン濃度(pH) 告示法による測定値を使用した。 3.4 生物学的酸素要求量(BOD) 告示法による測定値を使用した。 4.ペンタダイアグラムと排水処理施設の診断 4.1 ペンタダイアグラム 豚房施設の排水処理施設を稼働状況を簡易的に診断す る手法として,前述の理化学試験結果を,図2に示すペン タダイアグラムにあてはめる方法を提案する。なお,図 中のpH以外の単位は,いずれもmg/Lである。 図2 ペンタダイアグラム 図の上段に生物学的酸素要求量(以下,「BOD」という。), 横軸に水素イオン濃度(pH),下段左にアンモニア又はア ンモニウム化合物(以下,「アンモニア性窒素」という。), 下段右に硝酸化合物(以下,「硝酸性窒素」という。) をプロットしている。 水素イオン濃度(pH)については,中央をpH7.5とし,左 端がpH8.5以上,右端がpH5.5以下と,左右で非対称な数 直線としている。これは,処理前のpHが概ね8.5~9.0で あること,好気性処理後はpHが一旦5.5以下まで達するこ と,及び最終的な処理水のpHが7.5付近に収束することに よる。 BODについては,排水基準値である160mg/Lを含む形で 図中の最大値を200mg/Lとしている。 アンモニア性窒素及び硝酸性窒素についても,利便性 を高める観点から,BODに合わせて最大値を200mg/Lとし ている。 以下に,実際の処理水の測定結果をペンタダイアグラ ムに導入した例を示す。 4.2 パターンその1 図3 パターンその1 BODとアンモニア性窒素が高く,pHも塩基性を示してお り,ペンタダイアグラムが左側に大きく張り出した形に なっている。これは,原水の性質が強く残っている形で, 好気条件下における酸化分解(硝化)が進んでいない状 態を示している。 そのため,ペンタダイアグラムがこの形をとる時は, 好気性処理過程の不具合(処理槽が小さい,ばっ気不足, 好気性微生物相の不調など)が疑われる。 また,この状態の処理水は,臭気(アンモニア臭)が 強いことが特徴としてあげられる。 4.3 パターンその2 図4 パターンその2 BODとアンモニア性窒素は低下したものの,硝酸性窒 素が高く,pHが酸性を示しているため,ペンタダイアグ ラムが右下に張り出した形になっている。これは,好気 性条件における分解(硝化)は行なわれたものの,その 後の嫌気条件における分解(脱窒)が進んでいない状態 を示している。 そのため,ペンタダイアグラムがこの形をとる時は, 嫌気性処理過程の不具合(ばっ気過剰,嫌気性微生物相 の不調,栄養不足など)が疑われる。 この状態の処理水は,臭気はなく,外観上は排水処理 が正常に行われた状態(パターンその3)と見分けがつ 65
<報文> ペンタダイアグラムを活用した豚舎排水処理施設の簡易診断 12ptあき 〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.2(2018) 18 かない。 4.4 パターンその3 図5 パターンその3 排水処理が正常に行われた場合,BOD,アンモニア性 窒素及び硝酸性窒素はいずれもゼロ付近まで低下し,pH は7.5付近を示すため,ペンタダイアグラムは図5のよう に,ほぼ中心に収束する。この状態の処理水が,排出水 として理想的な状態である。 4.5 その他のパターン 排水処理が正常に行われた場合,その過程で処理水の 性質はパターン1→2→3の順に変動するため,パターン1 又は2の性質を持つ処理水は処理が不完全であると判断 できる。 ここで,排水処理施設が正常に稼働していない場合, 処理水が1~3以外のパターンを示すこともある。 図6 その他のパターン 図6は,実際の処理水で示されたパターンで,アンモニ ア性窒素及び硝酸性窒素がともに除去できており,pHも 中性付近であるにも関わらず,BODが高いという,特異的 な形を示している。この処理水は浮遊物質量(SS)の数値 が高く,活性汚泥の流出が認められていた。そのため, 水処理自体は順調に稼働したものの,沈殿過程がうまく 機能せず,流出した活性汚泥がBODのみを引き上げたもの と考えられた。 5. まとめ 考案したペンタダイアグラムに理化学試験結果をあて はめることにより,生物的硝化脱窒素法を用いて処理を 行う豚房施設排出水の処理状況を視覚的に図示すること が出来た。また,専門的な指標を使うことなく,行政に よる排出水検査結果のみを用いて,簡易的に排出水処理 施設の稼働状況を診断することが可能になった。 一方で課題としては,まず,現状,豚房施設に特化し たものであるため,牛房施設やその他の業種についてこ の形のまま適用しても不都合が発生することが予想され る。また,4.5にて示したように,水処理過程(好気性/ 嫌気性)以外の要因による水質変動については,その都 度考証を必要とする。 今後,本法の適用事例を蓄積していきたい。 6. 引用文献 1) 公害防止の技術と法規編集委員会:新・公害防止の 技術と法規2014 水質編 技術編,71-103 109-112,一 般社団法人産業環境管理協会,2014 66