原 著 〔東女医大誌 第56巻 第6号頁 453∼461昭和61年6月〕
糖尿病患者における血奨β・Thromboglobulin濃度と
PF−4濃度の臨床的検討
東京女子医科大学 糖尿病センタ一 片ダギリレイコ カワゴエ ミチ ヒラタ ユキマサ小田桐玲子・川越
倫・平田幸正
東京女子医科大学 ラジオアッセイ科デムラ ヒロシァカシヒロコ
出村 博・明石弘子
(受付 昭和61年2月13日)Clinical Studies on Plasmaβ・Thromoboglobulin and Platelet Factor・4 in Diabetics
Reiko ODAGIRI, Michi KAWAGOE and Yukim盆sa HIRATA
Diabetes Center, Tokyo Women’s Medical College
Hiroshi DEMURA and mroko AKASHI
Division of Radioassay Center, Tokyo Women’s Medical College
Avariety of platelet functional disorders in vitro has been reported in diabetics.
We studied the plasmaβ一Thromboglobulin(=β・TG), and platelet factor−4(=PF−4)concentration in healthy subjects and diabetics without renal insufficiency, cerebral thrombosis, severe liver dysfunction,
hyperlipemia, various infections, using radioimmunoassay methods.
The results obtained were as follows:
1)The concentration(mean±SD)for plasmaβ一TG(ng/ml)in 52 helthy subjects and 152 diabetic
patients were 22.5±9.5 and 78.5±56.4:for plasma PF−4(nglm1)6.4±3.0,38.9±293 respectively.
The concentration for plasmaβ一TG and PF−4 were statisitcally significantly higher in diabetic
patients(p<0.001).
2)Correlation coefficient between plasmaβ一TG and PF−4 concentration was O.837.
3)Plasmaβ一TG, PF−41evels were correlated with metabolic control, but the both levels were耳ot
correlated with the degree of diabetic retinopatly and therapeutic measure used,
4)The concentration of plasmaβ一TG was correlated with 2h creatinine clearance(r=一〇.785).
5)Changes of plasmaβ一TG, PF−41evels, before and after treat!nent were investigated in new星y
diagnosed diabetis mellitus at one months for six months.
There were observed significant reduction of plasmaβ一TG and PF−41evels after treatment. However, both levels were elevated despite of decrease of blood glucose in some patients.
Based on these data, it is concluded that elevated plasmaβ一TG and PF−41evels in pooriy controlled diabetics may reflect support platlet activation and hypercoagulable states.
はじめに 糖尿病はインスリンの作用不足を基本病態とす る代謝疾患であるが,高頻度に血管障害を合併す ることが1つの特長である.微少循環領域に発生 し,糖尿病に特異的と考えられている細小血管症 の成因の一部分に血小板によるmicrothrombus
の形成が知られている.糖尿病患者の血小板機能 に関して,現在までに初二一の検査では,粘着 能の充進1),凝集能の充進2),ADP, adrenalin, collagen等の血小板凝集惹起物質に対する感受 性の二進3),さらに,これらの凝集惹起物質の存在 下で,アラキドン酸よりprostaglandin−E−like materia1の合成の充進4)などの異常が指摘されて いる.しかし,これら勿 厩云70の検査結果が伽 ”勿。の状態をどの程度反映しているかは明らか でない,platelet factor 4(以下PF−4と略す)は 1951年5),β一tromboglobulin(以下,β一TGと略す) は1962年6)に初めて,その存在が知られた血小板 特異蛋白であるが,近年になり,その生化学的性 質が明らかになり7)8),血小板の崩壊や凝集により 血漿中に放出されるβ一TG, PF・4の測定は, Radioimmunoassay法の確立9)10)により勿。勿。 での血小板消費の状態を推定する簡便な指標とさ れている.しかしこの2つの血小板特異蛋白は, アミノ酸構成では,類似点があるが5)7),物理学的 性質は異りη8)11)不明な点が少なくない.私共は, 糖尿病患者につき,血漿β一TG, PF−4濃度を測定 し,臨床病態との関連につき検討した, 1.対象および方法 対象は当科外来および入院中のII型糖尿病患者 で腎不全,脳i血栓症,重篤な肝機能障害,高脂血 症,感染症,肥満度30%以上の肥満者,抗血小板 抑制剤の投与中のものを除外した152名(男性75 名,女性77名),平均年齢50.4歳(24∼69歳)にっ き,早朝空腹時に,1.5%EDTA 500μ1入りJMS 10ml用採血管(針21G)を用い,肘静脈より採血 (5.0∼5.5ml),血糖(glucose oxidase法)測定後, 針をとりゴムキャップで栓をし,氷中に静置,3 時間以内に4℃2,000G,10分間遠心分離i,その上 澄0.5日目を検体とした. β一TG濃:度はβ一TGリアパック(Amersham
International plac. Buckinghamshire. Eng−
land.), PF−4濃度は, PF−4 RIA kit(Abbott, Laboratories Osk. Ridge. Tennessee, USA)に
より測定した.また同時に採血,測定し得た glycosylated hemoglobin(HbA1:HPLC法)は 102名であった.2時間クレアチニンクリアランス を施行しえたものは42名であった.初診時空腹時 血糖値180mg/dl以上の未治療糖尿病患者26名 (男性12名,女性14名),平均年齢48.5歳(34∼64 歳)には,一定の治療開始前と1ヵ月,6ヵ月後 の代謝状態の改善にともなうβ一TG, PF−4濃度の 推移につき検討した. 対照とした健康成人54名(男性24名,女性30名), 平均年齢27.9歳(19∼51歳)であった. 結 果 1.健康成人の血漿β・TG, PF4濃度 健康成人54名の同一検体より測定した血漿β一 TG濃度は22.5±9.5ng/ml(M±SD), PF−4濃度 は6.4±3.Ong/ml(M±SD)であった. II.糖尿病患者について 1)糖尿病患者の血漿β一TG, PF−4濃度 空腹時採血.し同一検体で測定しえた血漿β一 TG, PF−4との相関関係はy=一9.27±0.48x r= o.837と良好であった(Fig.1). 2)空腹時血糖値と血漿β一TG, PF−4濃度 空腹時血糖値120,140,160,180(mg/dl)未満 と180mg/dl以上,未治療に分類し血漿β一TG, PF−4を比較した.空腹時血糖値の上昇にともない 血漿β一TG, PF−4濃度は順次高値となり,ことに 空腹時血糖値が180mg/dl以上にも上昇すると, 血漿β一TG濃:度は128.0±552ng/ml, PF−4濃度 は53.4±29.4ng/mlと健康成人(β一TG:22,5± 9.5ng/ml, PF−4:6.4±3.Ong/ml),糖尿病患者の ng/ml Σ 」 150 100 50 擁=152 y=一9.27十〇.48)【 r=0.8377 誓. =,’. 50 100 150 200 β一TG(ng/mD
Fig. l Correlation between PF−41evels andβ一TG levels
(ng/m1) 200 150 100 50 0
_P<0・001一
_. 「一一一一一P<0.001====一一一』一一』一一1一一學嚢弼;(・g畑
β一τG . . . 100 il i{ ;1、 75 50 25 0 「一一Pく0・001=一====一一一一一一一一一一一一一一一丁一無塩
PF4 i ’ 王:M±so %:norma8 range熱しL_
120> 140> 160> 180> 180< non 120> 140> 160> 180> 180< non treated treatedFaSting blOOd gl腿COSe(mg/dl)
Fig.2 Relationship between fasting blood glucose andβ一TG, PF−41evels
うち空腹時血糖値が180mg/dl未満である各群に 比し明らかな高値を示した(いずれもp<0.001) (Fig.2). 3)HbA、値と血漿β一TG, PF−4濃度 血糖のコントロール状態を良く反映するHbA、 濃度を8.5,10.5,!2、5(%)未満と12.5%以上を 示したものに分け,血漿β一TG, PF−4濃度を比較 するとHbAl濃度10.6%以上になると両老共に高 値となった.即ち血漿β・TGはHbAlが12.5%未 満では102.3±49.1ng/ml,12.5%以上94.2±49.4 ng/mlと健康成人(22.5±9.5ng/ml)HbA、 8.5%未満(53.4±15.4ng/ml),10.5%未満 (62.7±18.Ong/ml)に比し,明らかに高値であっ た(p<0.001,p<0.005, p〈0.01).また血漿PF− 4濃:度もHbA1濃度が8.5%未満(18.4±6.4ng/ ml),10.5%未満(20.2±6.8ng/ml),12.5%未満 (38.2±24.8ng/ml),12.5%以上(35.6±23.4ng/
mD血糖コントロール状況の悪いもの,即ち
HbA1の高いもの程有意に高値であった(Fig.3). 4)空腹時血糖値別の血漿β一TG, PF−4濃度と 糖尿病性網膜症 空腹時血糖値120,140,160,180(mg/dl)未満と 180mg/d1以上に分類し,糖尿病性網膜症(Scott分類)0,Ia∼II, IIIa, IIIb以上とに区分して,各々
の血漿β一TG, PF−4濃度を比較すると,空腹時血 糖値180mg/dl以上のものでは糖尿病は網膜症の 有無に関係なく,血漿β・TG濃度は100ng/ml以 上となり,またPF−4濃度も25ng/ml以上を示すも のが大部分であり,糖尿病性網膜症の程度と血漿 β一TG, PF−4濃度には一定の関連が認められな かった(Fig.4). 5)HbA、濃度別における血漿β一TG, PF−4濃度 と糖尿病性網膜症の関係 HbA1濃度を8.5,10.5,12.5(%)未満と以上
に分け,糖尿病性網膜症の進行度,Scott O, Ia∼II, IIIa, IIIb以上に分類して血漿β一TG, PF・4濃:度を 比較すると,HbA1濃度と糖尿病性網膜症の程度 とには明らかな関連は認められず,HbA、の高い もの程血漿β一TG, PF−4濃:度が高値であった(Fig. 5). 6)糖尿病の治療法と血漿:β一TG, PF−4濃:度 糖尿病の治療法を食事療法単独群(56名),食事 療法と経口血糖降下剤併用群(51名),インスリン 使用者群(54名)に分類し,各群を空腹時血糖値 別にみると,空腹時,血糖値の高いもの程(180mg/ dl以上),血漿β一TG, PF−4濃度は高値となった.
ng/m1 200 150 100 50 o β一TG ng/ml PF−4 一P<o・oI一 一P<0・005一一「
1
3 鑑 喜 重100 F=油島季蝉「「’
王・肚so 彦勿:nOr隅a「ra“ge 75 50 25 0 i蕪
「 し と物§
Fig.3 8.5>10.5> 125> 12.5< 8.5> 10.5> 12.5> 12.5< (%) HbA1 60ncentrationRelationship between HbA、 levels andβ・TG, PF−41evels in diabetics
(ng/ml) 200 150 100 50 ’[ {3} れ 上 β一TG 下 ロ 1 11 ・・
アb
(ng/mD 、両, T ・轟1・,ゴ\{L180<
,・2Ψ一・・、3)ll)〔4ン16・〉
く 髪1・6・!14。. 量1・P百・18。> 120> 16〕 (1D 100 丁 射 75 180<藤1 50
O Scott 25 0 PF・4 (4) ( }:n腿mber 王 M±so 楽 non treated FBG (mg/dD } {2)b(41 (5) (4 (ワπ180<豪 ノく ラ /↓18。< {71 (5 σ) く ひ て ゆ くでゆ {6 {10韓
140> 180>4㌔60> 120> 11)O Ia∼II IIIa Hlb∼ O Ia∼II 【na I∬b∼
Retinopathy(Scott)
Fig.4 Diabetic retinopathy andβ・TG, PF−41evels according to the Fasting blood glucose
インスリン使用者群で若干高値傾向が認められる 7)未治療糖尿病患者の治療経過による血漿β一
ものの,治療法別の差異は認められなかった(Fig, TG, PF−4の推移
(ng/mD 200 150 100 50
識
{6} β一TG■志
(3)T
(4) HbA1 (%) 12.5> 12.5< の,。戸 } 灘
霧獺鶴鰯灘1
〔↓ユ活,
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蔑灘
00 1a∼II 正IIa IIIb∼
(ng/ml) 100 75 50 25 o 114 PF・4
/
T一 ( ) :n腿mber 王:M±so盃\コ _
霧
)馳A1 (%} 書2.5>細隙絡繰轍
8.5> 1a5>O Ia∼II II【a II匡b一
Retinopathy(Scott)
Fig.5 Diabetic retinopathy andβ一TG, PF−41evels according to the HbAI levels
(ng/ml) 200 150 100 50 0 β一TG (ng/m9
瑚轄,
〔81 (91継
(18} {13) 100 50 180> 可40> 120> (10)25
Diet Oral lmsulin
alone agents 0 PF−4 て ロ ねど 王:M±SD ※ :non treated
針篇
、ム∼△ 180く 140> {18} 120> {1ω (9} 180> {8〕 〔131∠
て ロ ての ぼゆ導〆i勿多灘
Oiet Oral Insulin
alone agents
τreatment
Fig.6 β一TG, PF−4 1evels and treatment m
diabetics 濃度10.8層17.4%であった26名の治療前の血漿 β一TG濃:度は28.0∼200.Ong/ml,平均値105.4± 77.Ong/mlであることよりβ一TG濃度100ng/ml を境に2群に分類し,治療開始後1ヵ月,6ヵ月 に採血し,血漿:β一TG, PF・4を測定した.治療法 は,最初の1ヵ月間は全例食事療法のみとし,そ の後は食事療法単独のもの8名,食事療法と経口 1血糖降下剤併用13名,インスリン使用4名であっ た. 治療開始前の1血奨β一TG 100ng/ml以上を示し た群(実線)14名のうち,治療開始してからさら に上昇したもの(5名)と順次低下してゆくもの (9名)が観察された.治療前の値より,高値となっ た5名のうち3名は,空腹時血糖値が118,124, 140mg/dlと改善したが, HbA1は9.5,10.2,
10.8%と高く,3気中2名は肥満者(肥満率
21.5%,26.4%)で6ヵ月後には,糖尿病性網膜 症の進展(0→II, IIIa→IIIb),残り1名は治療 開始7ヵ月後に心筋梗塞をおこした.治療後順次 血漿β一TGの低下した9名全例のHbA1は9.5% 以下となっていた.しかし1名のみ6ヵ月後の眼 底所見はScott II→IIIaと進展していた. 治療前血漿β一TG濃:度100ng/ml以下を示した 群12名(破線)にも,治療開始より,治療前より 高値となったもの(4名)と順次低値となったも の(8名)がみとめられた.この4名の治療6カ{“9/ml} 200 150 100 50 0 (ng/耐) PF−4 :number :M±SD ひ一一一つ B・下6 100ng/ml> o−o B・TG 100ng/ml< 50
よ論撒
be響ore IMo 6Mo 7reo魯men, o蝕er曾re劇曾men, FBG(mg/dl) 400 300 200 100
be「ore IMo 6Mo
τre耐men暫
u齢er,redme㎡
Fig.7
after treatment
Changes ofβ・TG, PF−41evels before and
0 .,巳 ・ . ・
燈1・.・
・三・. ’●A二.. ・ 亭’ .. n=152 y=186.6十(」」10B)x r==一〇.3073 0 5 10 15 β一TG/PF・4 ratioFig.8 Correlation between Fasting blood glucose andβ・TG/PF・4 ratio 月後の空腹時血糖値は102∼134mg/dl, HbA1 8.0∼9.4%と糖尿病の代謝状態は改善されたもの の,血漿β一TGは62∼124ng/mlと高く,この4名 中肥満したままの2名(肥満度28.5%,32.2%) に糖尿病状網膜症の増悪(II→IIIa, IIIa→IIIb) の傾向がみられ,1名は一過性脳虚血発作がみら れていた.一方治療開始後に血漿β一TGの低下し て来た8名には全例血管合併症の進展もなく,か つ肥満しているものはいなかった.また血漿PF・4 も類似の経過を示していた(Fig.7). 両群とも治療法と血管合併症との間には一定の 関係はみとめられない. 8)空腹時血糖値と血漿β一TG/PF−4比 血管合併症の進展したものでは,血漿β一TG, PF−4濃度は高い.即ち血漿β一TGとPF・4の比率 の低いもの程伽伽。における血小板機能の充進 が推定される.空腹時血糖値と血漿β一TGとPF− 4の比率を検討すると,血糖値が高く,血漿β一TG/ PF・4が低いもの,即ち空腹時血糖値180卑g/dl以 上,β一TG/PF・4比2以下のものが152名評39名あ り,このうち糖尿病性増殖性網膜症を有したもの は14名みられた(Fig.8). 9)腎機能と血漿β一TG濃度の関係 ミ200
9
年 鴨 150 100 50 0 ○ G ● n二43 y=一〇.42フx十88.689 r=一〇.785 ’ ・・二∵. 50 1002h Ccr(m2/min}Fig.9 Correlation betweenβ一TG and creatinin
clearance(2h) 糖尿病患者152名中血漿β一TGと2時間クレア チニン・クリアランス(2h Ccrと略す)を同時に 測定しえたものは43名であった.血漿β一TGと2h Ccrとは負の相関関係が認められた(Fig.9). 考 察 糖尿病患者における血液凝固系の異常は,すで に報告されている1)∼6).血小板放出反応時に1血小 板より血漿中に放出される血少板特異蛋白である
β一TG, PF−4濃度は伽。勿。での血小板機能を反映 すると考えられている7)∼10).糖尿病とβ一TG,との 関連についてCampbe11ら12)は,糖尿病と対照群 との間に有意差はないと報告したが,Burrows ら13)は,糖尿病患者では血漿β一TG濃度は,有意に 上昇するが,糖尿病性細小血管症の進展とは,関 連がないと述べ,Prestonら14)は,細小血管症を合 併していない未治療糖尿病患者の血漿β一TG濃 度は上昇していたが,食事療法あるいは経口血糖 降下剤による治療開始後3∼5週後に正常化した ことより血漿β一TG濃度の上昇は合併症に由来 することは否定的と考えられる. PF−4については,星山ら15),栗原ら16)空腹時血 糖値が140mg/dl以上のコントロール不良時では 良好時に比較して,その血中濃度が上昇し,年齢, 罹病期間,糖尿病性網膜症の軽・重には関連ない と,それぞれに報告された. 塚田ら17)は,常に同一人が採血した試料を用 い,血漿β一TGとPF−4濃:度を測定し,両者の問に はr=0.78の相関を認めたが,血奨β一TG濃度が 正常値,PF−4濃:度が高値の場合が10%であり,逆 の場合が11%認められ,いずれか一方のみを測定 した場合には,約10%の異常が見落されることを 指摘している.今回私共の成績では,血漿β一TG 濃度とPF−4濃:度との間にはr=0.83の良好な相 関関係が得られており糖尿病病態との関連を検討 した. 健康成人(54名)の血漿β一TG濃度, PF4濃度 は22.5±9.5ng/ml,6.4±3.Ong/ml(珂±SD)で あり,糖尿病患者(152名)では78,5±50.4ng/ml, 38.9±29.3ng/mlと有意な高値を呈した(p< 0.001),糖尿病患者では,血漿β一TG, PF−4濃度と もに広範囲な変動がみられたため,空腹時血糖値 120,140,160,180mg/dl未満と以上に分類し,両 濃度をみると,空腹時血糖値の上昇にともない,両 濃度は順次高値となり,ことに空腹時血糖値が180 mg/dl以上では,それ以下のものに比較して有意 な差異を認めた(p〈0.001),またHbA1濃度につ いても,HbA1濃:度が高くなるにつれ,血漿β・TG, PF−4濃度共に有意な高値となった. また,糖尿病性網膜症の程度別に,空腹時血糖 値およびHbA1濃度別に分類し,比較したが,網膜 症の程度との間には一こ口関連は認められず,や はり,血糖値の高いもの,HbA1濃度の高いもので 血漿β一TG, PF−4濃度が高値となった. 糖尿病の治療法を食事療法単独群,食事療法と 経口血糖降下剤併用群,インスリン使用群に分け, さらに各群を空腹時血糖値により分類し,血漿β一 TG, PF−4濃:度を比較すると,治療法別との間にも 関連はみとめにくく,血糖値の高いもの程,血漿 β一TG, PF−4濃度が高値であり,諸家の報告14)∼16》 と一致した成績であった. 糖尿病患老では,一般に高脂血症を伴うことが 知られ,図には示していないが,糖尿病患者で空 腹時採血し測定し得た総コレステロール250mg/ dl,中性脂肪160mg/d1未満の正常値群(20名)と, 以上であった高脂血症群(11名)の血漿β一TG, PE4濃度は,正常群30.6±8.6ng/ml,10.2±4.2 ng/mlであり,高脂血症群42.5±9.6ng/ml, 13.6±6.5ng/mlと明らかに高脂血症群で高値と なり(p<0.005),かつ空腹時血糖値の高いものが 多い傾向を認め,星山ら15)も同様なことを報告し ている. また,栗原ら16)は,血漿β一TG濃度と血清クレア チニン値とは極めて高い正相関を認めるが,血漿 PF−4濃度とは相関しないと報告し,私共も2時間 クレアチニン・クリアランスを施行時に,同時に 血漿β一TGを測定し,血漿β一TGと2時間クレア チニン・クリアランスとは負の相関がみられた (r=一〇.78).これらのことより,総コレステロー ル250mg/dl,中性脂肪160mg/dl以上,腎不全の合 併しているものは,今回の対象より除外し検討し たところ,糖尿病患者における血漿β一TG, PF・4 濃度は,糖尿病性網膜症の重症度や治療法には関 係がなく,血糖値および血糖コントロール状態に 影響されているものと推定された. 空腹時血糖値が180mg/dl以上となると,血漿 β一TG, PF−4濃度は著しく高値となることより,空 腹時血糖値180mg/dl以上を呈した未治療糖尿病 患者につき,治療前の血漿β一TG濃度を100ng/ml 未満群と以上の著しい高値群に分類し,一定の治 療開始後1ヵ月,6ヵ月の推移を観察した(Fig.
7).血漿β一TG濃度100ng/m1未満群でも高値群 でも,治療後,血糖値,HbA濃度の低下,即ち血 糖コントロール状態の改善にともない血漿:β・ TG, PF−4濃度は低下するものと,より高値とな り,糖尿病性網膜症の進展や,心筋梗塞,一過性 脳虚血発作をみた症例があり,これらの症例は, 肥満,代謝状態の改善がゆるやかであった.諸 家14)∼16)の報告では血糖コントロール状態の改善 に伴い高い血漿β・TG, PF・4濃:度は低下すると報 告し私共とは異っていたが,塚田ら17)は,経過中, 高値の持続したものに心筋梗塞で死亡した症例を 認め,糖尿病症例の中には,持続性に血小板が活 性化され,慢性の血栓準備状態にあるものが存在 することを指摘している. 少数例であるが,血管合併症を併発した症例で は,血漿β・TGとPA−4濃度が高値で,かつ血糖値 の高いものがみられ,また,β一TGとPF・4を同一 検体で測定した時には10∼15%の相異が認められ ること,この両者の比率が二値であること17),珈 碗名。における血小板機能の二進が推定されるこ とより,その比率を求めた.即ちβ一TG/PF−4を求 め,空腹時血糖値との関係をみると明らかな相関 は認められなかった(Fig.8)が,β一TG/PF−4比 の低いもの(2以下)では血小板機能の四二が推 定される17).空腹時血糖値180mg/dl以上のもの に,糖尿病性増殖性網膜症の症例が多い傾向を示 した. 結 語
健康成人,糖尿病患者につき空腹時血糖値
HbAl,血漿β一TG, PF−4濃:度につき検討した. 1.健康成人に比し糖尿病患者では,血漿β一 TG, PF−4濃:度は有意な高値を示した. 2.糖尿病患者における血漿β一TG, PF−4濃度 は腎不全,高脂血症を除外して検討した所,空腹 時血糖値,血糖コントロール状態に影響されると 推定された. 3.血漿β一TG, PF−4濃:丁子に高値で,かつ血糖 値の高いものは,血小板放出反応の促進と1血液凝 固系の二進が推察された. 昭和59年5月第27回日本糖尿病学会総会に於て発 表した. ラジオ・アッセイ科,佐藤邦男氏に感謝の意を表し ます. 文 献1)Heath, H., et al.:Platelet adhesiveness and aggregation in relation to diabetic retinopathy.
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