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青酸中毒に関する研究

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Academic year: 2021

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(東京女医大回第27巻第6号頁298 303Hξ{禾U32年6月目

青酸中毒.に関.す.る研’究.

東京女子医科大学法医学教室(主任吉成京子教授) 酒. サカ 根 ネ 岩 1り .井

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(受付昭和32年4月1611).

緒 言 青酸塩類の作用は極めて複雑でその毒物学上の 位路とついては現II三においてもなお議論のあると ころである。.血液に対する特異な所見から頚L液毒 ときれたごともあり,またζの毒物が動物性或い は植物性原形質を激しくおかすところがら原形質 毒とみなきれることもできるが多くの学者はこれ を呼吸毒に算えている。 今回私共は青酸塩め投与方法を2,3とりあげて その主として呼吸,一血圧所見より青酸塩による巾 毒死を検討した次第である。 文献的考察 どの成瀬こも青酸塩中毒②症状があヴられているが 主な症塗は卒中型を訂し,.服用鋒数秒で隊蜘.頭痛が おこり・頭に血が91まり・眼がく. 轤ン・lb悸力屯し■・ 胸が苦し.くなり,ついで呼吸が著しく苦しく.なり,喘

息発鯉三吟身に騨が綻り・集棉.殉・1嫡.

は心臓は早鯨をうち,.曄孔は極度に散大.している。呼 吸は青酸の匂いがする。. 全経過ぽ極砕て多墨服用した場合は■分以内,.そう でない場餌5−130分に回る.鯵も.あるということ である。青酸の作月∫についてはKOb6rt(ユ906)1)も言己 .載しているように」血液に対す作用,.心臓に対する作用, 新陳代謝に対する作凧.神経系統に対する作用などの 広い領域にわたっている.。Hoppe・Seyler(1867)2)ll.k

CN化合物朔職争つ三物卿浜中から.耳C恥

’thとの化合伽?繍を徽と愚くζ締財恥モ

グnビ.ンであるとした.またPreyer(1867)52はC. N とHbとの化合物をチアンヘマチ.ン.としノニ/t まナ・K・b・岨試験管四・煙て’9’ ’rンメ瞥モグ ・ビンを認めた、,しかレ後にはチアンメトヘモグnビ ンと子アンへ一eグnビソとが岡田めものであることが わかったレチアンヘマチンは動物木内では隼成されな いことがわがった。(古畑法医学lC fkる).4)しかし聖の 後Ott・・SChmitt(193(})5)は動物蝉t}こ越・てHCN中 毒に際し単に細胞外においてのみ僅少のチアンヘモグ Nビンを形成するが赤血球内部に着いてはなんらスベ クトルム上のHbの変化脅証明しなかったと述べてい る.SCh6nbein(1867)6)}よ OHbはHL・02を分解する けれども青酸を有するHbは全然この作用を失ったこ とを見,赤血球は青酸によってその生理的機能を失い その結果呼吸が抑制きれるものである、と述べている。 Warburg(1929)7!らは生体内酸化磯蔽は解媒体として り鎌の影響に.4.り酸素之肺食する.ζと.によっておこる .がHqNは紐織舞対して⑳鉄塩を灘するty)・鉄 .の触媒作用秩わせる≧述r・ tt.・’G・ppert(1889)8)は青 酸中毒時の血色Pt.の酸…響町助}ホ正常と少しも変り なもしたがって青酸中毒の本態は過剰の陵素の存在 下における組織の内窒息であ.ると結んa:}る。Keilin (1勉5)9ηま細胞の酸素呼吸に対してはチ1・クN ptムが 寮要な役割を演ずるものであることを認め,青酸はチ トクN一ムσ∼作用を端回するものであるとi撮告した。 福島(1935)1・),tlま青酸中毒におけ.るウサギの血液反 び肝臓の還元グルタチオン含有壁の増加をみとめてい る6し.か.し吉沢.(1936)11).ヘ青酸中遡きの血液カタラ 7ぜ・..グ岬チか旧びに酸素容1解ついて研究を .行いこ.れら3者g)裁少魏甚大ではなくt.したがって青酸 .q卿ゆ雄!調して獄なる1麟硬とめがたく・ 青酸中毒死の本態は直後呼吸中枢を麻回せしめる結果

Setsuko SAKAI, Nagashi NEMOI”O, & Chimko IWtA’ M’ OTO一(Dept−of一一Legal−MedL Tokyo Wornen, s Medical College) : Studies on the potassium cyanide poisQning.

.=.一’

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21 であろうと推測している’。そもそも古く青酸は鎮静剤 として医療に用いられたこともあるといわれる。 また一方青酸中毒死の経過が極あて迅速であるとこ ろがらイキナリ呼吸申枢及び痙攣中枢;迷走神経中 枢,血管運動中枢などの重要中枢を刺戟し麻痺に陥ら しめるであろうことは多くの学者の推察するところで ある。 G6ppertは青酸の呼吸中枢に対する作用は脳組織内 の窒息によるものであろうと述べている。 次にPreyerはCN化合物中毒においては心臓迷走 神経め中枢刺戟により心臓機能の掬制を来し心搏緩徐 となり遂に死亡するといっている。‘ ワた同氏は大量で は心臓の反射機能中枢が麻痺し更に大量では心筋自身 をおかすものであるといっている、岡部(1937)!2)は青 酸化合物中毒死の死型を血液ガス分析において研究し 青酸ヵり中毒死の死型は組織の生活機能障害において あるいは心臓障害が比較的早期た現れたり,あるいは 呼鮫障害が早期に現れるものであろうと述べ,青酸カ リの組織生活機能を阻止するのは中聞分解に対しては 著じい阻止作用を示さず,更にこれより進んだCO2 にまで分解する過程において最も著しい障害をもたら すものであろうと述べている。 以上のように青酸化合物は生体内において呼吸酵素 と結合し組織酸化現象を障害し,あるいは呼吸中枢あ るいは心臓反射中枢を侵しまた学者によっては直接心 筋をおかすとし,その中毒死に対する諸説はまだ一致 していないようである。 実験方法 動物は2Kg前後のウサギを用いπ。動物の頸部を 切開して象管及び右側頸動脈を露出し,これらに夫々 気管カユユーレ,血管カニ:t一’一レを挿入しビニ回プレ管 をもつてタンブール,水銀マノーメーターに誘導し, 内圧変化をキモグラムに採取した。青酸カリは1%溶 液を作成し,.筋肉内lq 1 cc/kg及び0.5cc/kgを注射, 、他は静脈内に0.5cc/kg,腰椎管内には0.5cc/kg注入 した。 実験成績 一般に青酸カリ注射後キモグラム上に変化が発 現するまでの時間を前駆期とし,呼吸困難血圧上 昇,全身痙攣をみる時期を痙攣期とし,一血圧下 降,呼吸困難のおさまった時期そして瞳孔散大, 眼瞼反射消失せる時期を仮死期とする。 キモグラムNo.1は筋肉内に青酸カリ10mg/kg 注射せる例である。注射後前駆期は呼吸振巾が次 第に増大し血圧は一旦やや上昇の傾向を示したが 徐々に下降を示した。痙攣期に入ると著明な呼吸 困難を示し血圧は120∼130前後まで上昇するが仮 死期に入るに及び痙攣性呼吸振動を20∼30秒間続 け血圧は急降下を示す。血圧は多くの場合廃絶す るまでの問に一つの凸形カーブを残す。全経過3 例平均157秒であった。 第、 1・

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第 2 図

第 3 図

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23 第 キモグラムNo.2は筋肉内5mg/kg注射せる 例である。No.1の例と略同様であるが仮死期に おける末期呼吸が著明であり全経過が目立って長 い。 キモグラムNo.3は静脈内に5 m9/kgの青酸 カリを注射せる例である。極めて短い前駆期にお いてみるべき所見がないま、に痙攣期に入る。呼吸 曲線,.血圧曲線上に前者と何ら変った所見がない けれども全経過が極めて迅速であった。

キモグラムNo・4は腰椎管内に5mg/kgの青

酸カリを注入せる例である。注入後前駆期に入る・ や否や血圧は下降し呼吸はやや不規則を呈した。 痙攣期の呼吸困難は特別相異する所見をみとめな い。血圧は100一)120mmHg前後の上昇である。、 ただ仮死期の末期呼吸が頻回みとめられる傾向が ある。 以上キモグラムをみて,青酸力.リ中毒所見はそ の投与方法によってはあまり相異を示さなかった が第1表にみるように投与方法の如何により各期 の発現時間または持続時間が多少異るようであ る。即ち5mg/kg投与の筋肉内,、静脈内,腹椎 管内の各全経過時闇は243秒,56秒並びに219秒で ある。前駆期の持続時圏は62秒・・8秒・41秒であ る。痙攣i期持続時間は30秒,13秒,33秒,仮死期 4 断期における持続旧聞(実験3例平均値)

前駆期痙攣期仮死期

筋 注 麟魂了1・∼・・4・一”63 1 63∼・S・ ・・m・/kg階繍分率1(・5・・)1(1・・)1(59・9) 筋 注 開始∼終了 0∼62 69∼92 92∼234 ・m・/k・禰田田〔(26・・)・1(・2・・);(…7) 静副臨∼終了1 ・・一・1・一・・1・・∼56 5皿9/kg」持続百分率(14・ 3)(23・2)(62・5)

灘内塵一細・一・・4・一741・4一・・9

・m・/糾持緬分率L(・8・7)(・5・・)(66・2) 単位 秒ゴ括弧内は% のそれは142秒,35秒,1菊秒である。即ち各期の 持続時間は静脈注射例において著明に短い。筋肉 内注射例と腰椎管内注射例では前駆期は腰椎管内 注射例が筋肉内注射例より遙かに短かい。痙攣期 及び仮死期は腰椎管内注射例において筋肉内注射 例より大であったがその差は著明なものではなか った。全経過時間を100とすると,各期の持続時 間百分率は表中に示したようである。即ち前駆期 の持続時聞百分率は,静脈内注射例,腰椎管内注 入例,筋肉内注射例の順に小である。痙攣期持続

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時間百分率は,静脈内注射例,腰椎管内注入例, 筋肉内注射例の順に大である。仮死期持続時聞百 分率は侮れも略同じであった。 「10mg/.9筋肉内注射例では,5 mg/kg.筋肉内 注射例に比較し前駆期が短かく,痙攣期は長く, 仮死期も短かく,全経過時間は著明に短縮してい た・以上の関係は青酸中毒症状の激しさについ て,単にキモグラム上では判断し得ない特徴を把 握するのに便利である。即ち前駆期が短かく,痙 攣期の長い、もの程激症であるということは一般臨 床方面において例えば潜伏期の短かく激症期の長 い程重態であるのに類似する。即ち静脈内青酸カ リ注射例において最もその中毒は激症であり,つ いで腰椎管内注入例,ついで筋肉内10mg/kg注 射例,最後に筋肉内5mg/kg注射例である。 考 按 実験成績の結果,同一投与方法においては投与 :量の大なる程激症を示したことは言を配せずして 明らかなところであるが,体内にとり入れられた 青酸カリ量は同一であっても投与方法の相異はそ の症状の激しさを異にした。このことは体内にお ける青酸カリの分布状態によるものであろうか。 静脈内注射は直接血行を通って心臓から体内各臓 器に分布される。 腰椎管内に注入された青酸カリは脳脊髄液で稀 釈され脳室内に入りまた軟膜腔内にも入り脳周囲 を灌概して脳の静脈洞に吸収される。ついで一血行 に入るわけである。即ち青酸カリを含んだ脳脊髄 液1ま組織リンパ液のごとく脳質をうるおすわけで ある。したがって腰椎管内にとり入れられた青酸 カリは一方稀釈されて直接中枢神経系に作用し, 一方より稀釈きれて血.行を介して中枢神経系並び に一般組織酸化を妨害するものであろう。成書に よれば脳脊髄液の新生並びに吸収の速度はヒトで 毎分0.3cc程度であるといわれる。したがって腰 椎管内に注入された青酸カリの分布は血行におけ る運搬分布の様式と異り髄液と青酸カリ溶液聞の 濃度の差による拡=散が主なものではなかろうか。 ともかく静脈内に投与された場合の如く急遠度に 各主要臓器の生活現象を阻止するものとは老えに くいにもかかわらず極めて急激に中毒死を招来す る。筋肉内に心構された青酸カリは筋肉内のリン パ液と混じ,毛細管より血行並びにリンパ管内に とり入れられることは老察に容易である。したが って血行にとり入れられた青酸力.りの濃度も勿論 大切であるけれども血行またはリンパ系または他 の経路を介して中枢神経系の内の生命中枢に達し た青酸カリの濃度の如何がその中毒死に対する症 状の激しさと速度とを左右するものではなかろう か。即ち1血行における青酸カリの稀釈分散は極め て大であると老えられるにも拘らず運搬速度が極 めて大なるために症状は前駆期を殆んどみないし また症状も激しいのであろうか。腰椎管内に注入 された青酸カリは脳脊髄液の移動の緩徐なるに拘 らず血液中におけるものより比較的小なる稀釈の まま中枢神経系をうるおすため前駆期の後比較的 急速なる激しい症状を発するものであろう。また 筋肉内に投与された青酸カリは前二者に比して分 散が大きいため,その症状発現はやや遅れまた症 状もやや軽症であったのだろうか。 基礎実験として筋肉内に1%溶液0.2日目/kg即 ち2mg/kg投与では1時間後には瞳孔反射再現し て死を免れたし・P・1%溶液0・25cc/kg即ち0・25 mg/kg静脈内注射ではウサギは死を免れた。岡部 は0.1%KCN溶液0.8cc/kgにおいても死を免れ たと述べている。また0.1%0.5cc即0.5mg/kgを 脊髄腔内注入では40分後に死亡した。 青酸中毒死に関し,青酸の作用叉はどの部分を 特に侵して死に到らしめるものであるかの点に関 しては未だ一致した見解はないようであるが多く の学者は青酸を呼吸毒とみなしている。即ち組織 呼吸を阻止することは同時に中枢神経系において も同様で,したがって,青酸中毒死は体内諸組織 の内窒息であると同時に中枢性窒息死でもあると いうのが大かたの見解である。 今回私共の行つts”q’験の内,腰椎管内青酸カリ 注入例は中枢神経系の内窒息による呼吸死である ことが主であると賜えられる。 む す び 青酸カリ10mg/kg,5. mg/kg筋肉内注射,5 mg/kg静脈注射,同量腰椎管内注入において呼 吸,血圧所見を中心として,前駆期,痙:攣期,仮 死期の3期に分けて観察を行った。 その結果投与:方法同一では投与量の大きい程, 申毒症状激烈であることは言を要しないが投与:量 同一では静脈注射,腰椎管内注入,筋肉内注射の 順に激症を示した。しかして腰椎管内青酸カリ注 入による中毒死は圭として中枢神経系のうち窒息 一 302 一

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による中枢性呼吸死であると考える。

稿を終るに際して終始御懇篤なる御指導と御校閲を

賜った吉成京子教授に心からの感謝の意を表レます。

主要文献

1) Kobert, R : Le, hbuch d, lntoxikation Bq. 2

(1906)

2) Hoppe−Seyler, E. F. G:Virchows Arch: f. Pathol. Anat. 38, 435 (1867)

3) Preyer, W.T:Virchows Arch. f. Patho.

Anat. 40, 125 (1867)

4)古畑種基:法医学,(1948)

5) ’Otto−Schmidt:Deutsch. Ztschr. f. ges. ge一

,richtl. Med. 27 (,4),’,219 (1936)

6) Sch5mbein, F :Ztschr. Physiol. Chem. 16,

340 (1867)

7) Warburg, O.H:Biochem. Zeitschr. 214, 64

(1929) .

8) Geppert, T:Zeitschr. f. Klin. Med. 15, 208

u 307 (1889)

9) Keilin, S. C. D:Pr6c. Roy. Soc. 98, 312 (1925)

10)魑島正利:満洲医学雑誌,22,635(1935) 11)吉沢圭男:東北医学雑誌,19,955,966(1936) 12)岡部柾雄:北海道医学雑誌15(下),3196(1937) 13)松田幸次郡1生理学講座,11(3),63(昭26)

参照

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