原
著
〔東女医大誌 第64巻 第3号頁 243∼249平成6年3月〕肝細胞癌におけるnucleolar organizer regions(AgNORs)と
組織学的悪性度.との対応
1)東京女子医科大学 消化州内科学教室(主任 林
2)昭和大学医学部 第二病理学教室・ カワセチヅコ サイトウ アキコ ハヤシ川瀬千津子1)・斎藤 明子1)・林
カワセ ノリオ 明月タ ヒデカズ川瀬 紀夫2)・太田 秀一2)
直諒教授) ナオアキ 直.諒1) (受付 平成5年11月22日目AComparison of Argyrophilic Nucleolar Organizer Regions(AgNORs)and
Histological Grade of Mal量gnancy in Hepatocellular Carcinoma
Chizuko KAWASE1}, Akiko SAITO1), Naoaki HAYASHI1),
Norio KAWASE2}.and Hidekazu OTA2) DDepartment of Gastroenterology(Director:Prof. Naoaki HAYAS.HI) Tokyo Women’s Medical College 2)Second Department of Pathology, School of Medicine, Showa University We used the silver colloid staining technique to identify argyrophilic nucleolar organizer reg量ons (AgNORs)in 40 non−tumor liver parenchyma specimens, and.38 well・differentiated,18 moderately differentiated., and 3 poorly differentiated hepatocellular car¢ihoma(HCC)specimens obtained by needle biopsy from 60 cases of HCC. Mean AgNOR count(number of AgNOR per nucleus)in HCC was 4.23±2。58,alevel Significantly higher than that in non・tumor cells(1.83±0.35)(p<0.0001). Among HCC specimens, mean AgNOR count increased in correlation with histological grade of malignancy. Morphological classification based on the relation between the number of intra・and extra− nucleolar AgNORs revealed four types of AgNOR pattern,へB, C and D. In type B, the number of AgNORs significantly increased in correlation with histolog量cal grade of malignancy. In types C and D, this correlation was not present across the full range of differentiation. In contrast, type A showed the reversed trend, with the number of AgNORs decreasing with histological grade of malignancy. Statistically, mean AgNOR count showed a positive correlation with grade of hiStological malignancy, but a few cases showed no difference in mean count between tumor and non・tumor tissue. In these cases, type A AgNOR numbers were lower and type B numbers higher in tumor cells than in non− tumor cells. These findings suggest that type A ahd B AgNOR counts may be useful in the differentiation of maligna叫from benign hepatic tissue. The present study demonstrates the diagnostic value of AgNOR counts in HCC,and emphasizes the importance of AgNORs in the morphological classification of this disease. 緒 言Nucleolar organizer region(NOR)は
ribosomal RNA遺伝子が局在するDNAのloop
であり,Howel11), Plotonら2)のone−step silvercolloid methodにより染色法が簡便化され,銀穎
粒として観察可能となった(AgNORs).その後
Crockerら3)が腫瘍形態学に導入して以来,種々
の悪性腫瘍においてAgNORs数と細胞増殖能と
一243一
の相関,良悪性の鑑別や悪性度の検討が示されて
いる.しかし肝細胞癌を用いた検討はまだ数少な
く4)吻,その評価は確立されていない.そこで我々
は肝細胞癌における良悪性の鑑別や悪性度の指標
●TypeA TypeB TypeC TyρeD
図1 AgNORsのtype別分類
羅鐘竃
図2 AgNORsのtype別分類
a 内部か均一な大型の好銀性穎粒て核小体に一致すると考えられる(type A
AgNOR)(←A). b 大型の好銀性穎粒の内部に穎粒状のdotを認識てきる(type B AgNORs)(←B). c 顯粒状のdotか数個集合し,周囲に明瞭な好銀性穎粒を伴わ ない(type C AgNORs)(←C). d 散在性の穎粒状のdot(type D AgNOR)(← D).(AgNOR染色)として,AgNORsの数および型(type)が有用で
あるか否かを病理組織標本と対比し検討した.
対象および方法
1990年1,月から1993年4月にエコー下生検およ
び手術標本より得られた肝細胞癌60例(男50例,
女10例,35∼79歳,平均60.5±8.4歳)の非腫瘍部
40ヵ所と腫瘍部59ヵ所(53結節,径平均20.9±13.4
mm)を対象とし, AgNORs数およびtype別
AgNORs数を比較した.症例はいずれも背景に慢
性肝炎あるいは肝硬変の慢性肝疾患を有し,非腫
瘍部は画像上明らかな結節性病変のない部分とし
た.さらに腫瘍部は分化度盛に高分化型38ヵ所,
中分化型18ヵ所,低分化型3ヵ所で検討した.31
例(高分化型17,中分化型12,低分化型2)につ
いては同一症例で非腫瘍部と腫瘍部の比較を行
なった.[AgNORs染色法]
いずれも21ゲージPTCD針にて生検後検体を
10%ホルマリンで24時間固定し,パラフィン包埋
後3μm厚で薄切した.AgNORs染色はCrocker
ら3)の方法に準じた.すなわち,2%ゼラチン加
1%蟻酸液と50%硝酸銀を1:2の割合で混合し
た染色液を用い,染色は遮光下にて30分間室温で
反応させ,蒸留水で十分洗い流し,脱水透徹後封
入した.[AgNORsの分類および測定法]
AgNORsは太田,川瀬ら8)9)の分類に従い,存在
様式および大きさによりA,B, C, Dの4つの
typeに分けた(図1,2).すなわち, type Aは
内部が均一な大型の好銀唇頬粒で核小体に一致す
ると考えられるもの,type Bは大型の好銀性穎粒
の内部に穎粒状のdotを認識できるもので核小体
内のAgNORsと考えられるもの, type Cは穎粒
状のdotが数個集合し,周囲に明瞭な好銀性顯粒
を伴わないもの,type Dは散在性の穎粒状の小さ
なdotである.AgNORs数の測定は,核100個につ
きそれぞれの数を100倍の油浸レンズ下でカウン
トし,核1個あたりのAgNORs数(平均
AgNORs数)およびtype別のAgNORs数を算
出した.有意差検定にはWilcoxon−Mann−Whitney
test, Paired Wilcoxon testを用いた.結 果
1.非腫瘍部,腫瘍部におけるAgNORsの比較
(表1)
平均AgNORs数は,核1個あたり非腫瘍部で
1.83±:0.35,腫瘍部では4.23±2.58であり腫瘍部で有意に増加していた(p〈0.0001).Type別の検
討では,核100個あたりtype Aは非腫瘍部
112.6±27.9,腫瘍部60.4±42.4と非腫瘍部で有意
に増加しており(p〈0.0001),逆にtype’B, C,
Dの数は平均AgNORsと同様に腫瘍部で増加
し,特にtype Bは非腫瘍部53.3±47.1,腫瘍部
319.4±244,6とその傾向が強くみられた(p〈
0.0001).2.分化語別にみたAgNORs
腫瘍部を分化度別に分けて検討すると,平均
AgNORs数は非腫瘍部1.83±0.35と高分化型
3.50±1.67との間に明らかな差を認め(p<
0.0001),中分化型4.56±1.78,低分化型11.61±
4.68と,分化度が低い程AgNORs数は多かった
(図3).Type別AgNORsの検討では, type Aは
分化度が低くなるに従って減少する傾向が(図4
a),type B, C, Dは分化度が低くなるに従って
増加する傾向がみられ(図4b, c, d),特にtype Bにおいては有意差を認めた(p<0.05).
3.同一症例での検討
31症例で同一症例における非腫瘍部,腫瘍部を
表1 非腫瘍部,腫瘍部におけるAgNORsの比較
Type of AgNORs/100 nuclei(mean±SD)No. of cases Mean AgNORs/nucleus@ (mean±SD)
A
B
C
D
non−tumor 狽浮高盾 40 T9 1:鑑1:ll}111㍊1コ・
農、盟:1}
;:湛、::均…1:怨1::}
*pく0.0001, **p〈0.001, *串*p<0.005一245
雪 碧
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き 忌 く 葱 睾 18 16 14 12 10 8 6 4 2二三Ω5「堪1「
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non−tumor well mod poor 。1:ll。1:ll.1:ll望1:ll(mean±SD) 図3 非腫瘍部,分化度別肝細胞癌の核1個あたりの平均AgNORs数
well:well−differentiated hepatocellular car− cinoma, mod:moderately differentiated hepa− tocellular carcinoma, poof:poorly differentiated hepatocellular carcinoma.比較検討した.結果平均AgNORs数は非腫瘍部
1.81±:0.39,腫瘍部4.60±2.97と腫瘍部で有意に増加した.しかし腫瘍部の平均AgNORs数が少
なく,非腫瘍部と明らかに区別し得ない症例も存
在した.そこで,腫瘍部の平均AgNORs数が高分
化型肝細胞癌の平均値より低い3.0以下の症例
(n=8)について検討してみると,平均AgNORs
数の差が少なくとも,type別のAgNORs数では
非腫瘍部はtype Aが,腫瘍部はtype Bが多く,
両者に差がみられた.特に症例7ではtype別の比
較が不可欠であった(表2).
考 察
Nucleolar organizer regions(NORs)は核小
体の形成に深く関与しており,その領域では
DNAがRNA polymerase Iによりribosomal
RNAに転写されている.この部分の非ヒストン
蛋白(RNA. polymerase I, C23 protein, B23
protein etc.)は銀染色により観察可能であり,
argyrophilic nucleolar organizer regions
表2 同一症例における非腫瘍部,腫瘍部のAgNORs
の比較Case
Type
of AgNORs/100 nucleiNo
Diagnosis Mean*A
B
C
D
1 .獅盾氏│tumor 1.49 67 65 2 15 well 2.22 36 166 2 18 2 non−tumor 1.64 146 9 0 9 well 2.43 82 119 3 39 3 non−tumor 2.17 149 55 2 11 well 2.54 59 190 0 5 4 non−tumor 1.64 65 21 1 5 well 2.11 72 128 3 8 5 non−tumor 1..68 85 79 0 4 well 2.75 16 252 0 7 6 non−tumor 1.68 85 79 0 4 we11 2.65 25 229 4 7 7 non・tumor 1.76 124 49 0 3 well 1.79 79 88 0 11 8 non−tumor 1.47 126 15 0 6 we11 2.61 48 174 4 35 傘Mean AgNORs of tumor/nucleus<3.0, well:we11−differentiated hepatocellular carcinoma. (AgNORs)と呼ばれている1)2).近年乳癌10),悪性 ツンパ腫11),悪性黒色腫12),胃癌13),大腸癌8),食 道癌14),腎癌15),前立腺癌9)など種々の悪性疾患でAgNORs数と良悪性の鑑別や悪性度との関係が.
検討され,悪性細胞でその数が増加することが知
られている.さらに細胞増殖能の指標である
DNA flow cytometryのS期細胞数, Ki−67陽性細
胞数,BrdU標識率とAgNORs数との正の相関が
報告さ.れ16>∼18),AgNORs数が細胞増殖能の指標
として有用であることが示唆されている.
肝細胞癌においても上部でAgNORs数が増加
すること4)∼7)やAgNORs数とBrdU標識率が相
関することが報告されている19)20).しかし,その形
態と悪性度との比較については城ら7)の報告がみ
られるのみである.
太田ら8)は大腸腫瘍における検討でAgNORIs
の形態を4typeに分類し,腺腫,腺腫内癌の腺腫
部分,腺腫内癌の癌部分,癌の順にtype Aが減少
し,type Bが増加することを報告している.肝細
胞癌についても境界病変から高分化型肝癌に至る
病変の白白の鑑別が大きな問題となっているが,
このtype別AgNORsが何らかの情報になるの
一246一
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Type C AgNOR (d) Type D AgNOR
非腫瘍部,分化度別肝細胞癌の核1GO個あたりのtype別AgNORs数
NS:not signi丘cant. 一247一 、ではないかと考え,同様の分類を用いて検討を行
なった.その結果,平均AgNORs数はこれまでの
報告と同様に非腫瘍部に比し腫瘍部で有意に増加
し,腫瘍の分化度が低くなる程数の増加が認めら
れた.Type別AgNORsでは, type Aは非腫瘍部
で多く,腫瘍の分化度が低くなるに従って減少す
る傾向がみられ,一方type B, C, Dは非腫瘍部よ
りも腫瘍部で多く,分化度が低くなるに従って増
加する傾向があり,特にtype Bで明らかに有意
差を認めた.Crockerら4)は組織学的に良悪性の診断が困難
であった肝細胞癌症例のAgNORsの検討で,
AgNORs数(核1個あたり)が“low”AgNOR
counts(range 2.7∼3.5)の4例は再生検などに
より最終的に良性と“high”AgNOR counts
(range 6.1∼9.3)の3例は最終的に悪性と診断さ
れたと報告している.しかし我々の検討では,表
2に示したごとく肝癌のなかにも平均AgNORs
数の少ないものがあり,平均AgNORs数のみで
は非腫瘍部と腫瘍部を明らかに区別し得ない症例
が存在した.これらについてはAgNORsのtype
別検討,特にtype Aとtype Bを比較することに
より両者の差が明らかになることがわかり,
AgNORsの形態学的検討の有用性が示された.
AgNORsについてCrockerら21)は核小体に一
致すると思われる単一のAgNORsは休止期の細
胞で,核小体内に穎粒のdotとして認識できる
AgNORsは増殖細胞でしばしば認められると述
べているが,これらはそれぞれ今回の形態分類の
type A, type B AgNORsに相当し,非腫瘍部で
type Aが多く,腫瘍部でtype Bが多いという著
者らの成績に一致するものと考えられる.一方城
ら7)は肝癌のエタノール局面後の再発群と非再発
群を悪性度の指標として,AgNORsを周囲のen・
hanced marginが明瞭なもの(T1−NORs)と不明
瞭なもの(T2−NORs)の2種類に形態分類し,再
発群でT2−NORsの増加が有意に認められT1・
NORsには有意差がなかったとして, T2−NORs
の重要性を強調している.T1−NORsは我々の
type Aとtype BにT2−NORsはtype Cとtype
Dに相当するものであり,type Aとtype Bが重
要と考えられた我々の結果とは相違がみられた.
これは再発群を悪性度の指標としている点や
AgNOR染色法の微妙な相違もその要因と考えら
れる.近年画像診断の進歩により肝臓の小結節病変が
発見される機会が急速に増加し,その質的診断に
エコー下肝腫瘍生検が広く行なわれるようになっ
た.我々は良性悪性の病理組織学的な判定に,結
節内に残存する門脈域への異型細胞の浸潤(門脈
域浸潤)を1つの指標としている22).しかし針生検
の標本内には門脈域が含まれることが少ないた
め,口悪の鑑別に苦慮する症例も経験される.こ
のような境界領域の病変に対しAgNORsの形
態,存在様式の検討,特に核小体内の顯粒の検討
を行なうことによって,組織診断のみでは鑑別し
得ない悪性度をとらえられる可能性があると考
え,更に症例を重ね検討中である.
結 語
肝細胞癌においてAgNORs数および
AgNORsの型について検討した.
1)肝細胞癌症例でAgNORs数は非腫瘍部よ
り腫瘍部で有意に増加していた.
2)分化度別では,分化度が低くなる程
AgNORs数は有意に増加した.
3)Type別AgNORsの検討では, type Aは腫
瘍部よりも非腫瘍部で多く,腫瘍の分化度が低く
なる程減少する傾向がみられた.一方type Bは
腫瘍部で多く,腫瘍の分化度が低くなるに従って
増加した.4)平均AgNORs数のみでは非腫瘍部と腫瘍
部を明らかに区別し得ない症例で,AgNORsの
型,特にtype Aとtype Bを比較することにより
両者の差がみられ,AgNORsの形態学的検討の有
用性が示された.
稿を終えるにあたり,研究にご協力を賜りました昭
和大学第二病理学教室風間和男教授に深甚なる謝意
を表するとともに,AgNOR染色をご指導頂きました
佐々木ヨシ子技師,加藤ルミ技師に深謝いたします.
また切除標本を提供してくださいました消化器外科
高崎 健助教授,並びに病理所見のご指導を頂きまし
一248一
た千葉大学真核微..