三重県立看護大学大学院
平成
28 年度修士論文
題目:精神障害者の家族に対するソーシャルサポートと
家族自身の人生に対する肯定的な認識との関連
学籍番号
214607
氏名 松田 陽子
目次 【本文】 Ⅰ.はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 1.我が国の精神保健医療福祉の動向と家族への支援・・・・・・・・・・・・・1 2.精神障害者の家族が抱く否定的な認識と肯定的な認識・・・・・・・・・・・1 3.否定的な認識を肯定的な認識に変化させる 3 つの要因・・・・・・・・・・・2 4.ソーシャルサポートと精神障害者の家族の肯定的な認識・・・・・・・・・・2 Ⅱ.研究目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 Ⅲ.概念枠組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 1.用語の操作上の定義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 2.概念枠組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 Ⅳ.研究方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 1.研究デザイン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 2.対象者・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 3.データ収集の方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 4.調査内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 5.分析方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 6.倫理的配慮・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 Ⅴ.結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 1.対象者の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 2.PPC 尺度の信頼性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 3.精神障害者の家族自身の人生に対する肯定的な認識の実態・・・・・・・・・9 4.ソーシャルサポート尺度の内容と信頼性の検証・・・・・・・・・・・・・・10 5.ソーシャルサポートの有無と PPC スコアの平均値の比較・・・・・・・・・・11 6.家族の人生に対する肯定的な認識(PPC スコア)に対する階層的重回帰分析・12 Ⅵ.考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 1.精神障害者の家族自身の人生に対する肯定的な認識の実態・・・・・・・・・13 2.精神障害者の家族のソーシャルサポートと家族自身の人生に対する肯定的な認識 との関連・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 Ⅶ.研究の限界・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 Ⅷ.臨床への示唆・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 Ⅸ.結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18 【引用文献】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19 【資料】 1.対象施設への調査依頼文書 2.対象者への調査依頼文書 3.対象者への調査用紙
1 Ⅰ.はじめに 1.我が国の精神保健医療福祉の動向と家族への支援 近年、我が国の精神保健医療福祉施策は、「入院医療中心から地域生活中心」へ推進し ており、その一環として地域サービスの充実が進められている 1 )。しかし、精神障害者 の地域生活の支え手として家族の存在は依然大きい。日本においては、精神障害者と家族 との同居率は、約 7 割と高く 2 )、社会資源の充実は図られているものの家族が精神障害 者の地域生活を支えているのが現状である。 そのため、現在の精神科訪問看護や精神科多職種アウトリーチにおいては、本人はも とより家族に対する支援にも多くのケアが提供されており 3 )、精神科訪問看護では、家 族に対するケアが診療報酬として算定可能なケアとして認められている 4 )。また、家族 会や家族への心理教育も精神障害者の家族への直接的な支援として重要である 5 )。家族 への支援は、精神障害者の症状再燃や再入院を予防すると同時に、家族の心身の健康や負 担感、否定的な感情表出(EE)を軽減することによって、再発や再入院を予防している と考えられている 5 )。このように、家族への支援は我が国における精神障害者の地域生 活を支える1つの方策として、非常に重要なものになっている。 2.精神障害者の家族が抱く否定的な認識と肯定的な認識 精神障害者の家族は、家族が精神疾患を患うことにより、将来の不安や日常生活の制 約、後悔などの困難を感じている 6 )。そして、統合失調症の介護負担感に関する調査に おいては、介護負担感を感じている母親は健康状態が悪く、肯定的な介護経験に乏しいこ とが示されている 7 )。このように、精神障害者の家族は困難や介護負担感など「本人の 世話を誰かに任せたい」や、「どのように関わっていいかわからない」といった否定的な 認識をもつことが明らかとなっている。 その一方、統合失調症患者をもつ母親は、困難な事態を乗り越え、家族が当事者のケ アに主体的に取り組み回復を実感することで、病状を受け入れ、回復後の生活に希望を持 ち、未来に託す希望が生じる 8 )。躁うつ病疾患をもつ患者の家族においても、初期には 恐怖や不安が生じ、怒りや絶望を感じるが、次第に現実を受け入れ始め、最終的には現在 の生活を肯定的に捉え、これからの生活に新たな希望を抱く経験をする 9 )。 近年では、苦痛や困難を経験したからこそ得ることができた肯定的な変化が着目され ており 1 0 )、逆境下における成長を表す複数の概念や尺度がいくつか提唱されている。 レジリエンスという概念は、困難な状況にも関わらず上手く適応していく過程・能力・結 果であり、個人の特性や環境への適応プロセスを含むものである 1 1 )。ベネフィット・ ファインディングは、困難な状況を経験し効果的な対処に着目し、慢性疾患やトラウマテ ィックな経験から肯定的な変化を示す概念である 1 2 ) 1 3 )。また、Perceived Positive Change(以下 PPC)は、非加熱血液凝固因子製剤により HIV に感染した血友病患者を 対象に、肯定的変化・否定的変化を双方向から検討する指標として開発されたが、発達障 害やダウン症児の親においても肯定的変化があることが明らかになっている 1 4 )。
2 3.否定的な認識を肯定的な認識に変化させる3つの要因 精神障害者の家族がケアを経験することによる肯定的な認識に影響を与えるものとし て、①精神障害者の精神症状や治療年数、②家族自身の健康状態、③周囲からの支持とな るソーシャルサポートの3つの要因が先行研究から示されている。 第一に、精神疾患を患った初期の頃は症状が活発かつ不安定であり、まだ疾患の知識が 乏しく対応に慣れていない家族は疲弊している。統合失調症患者の家族が、家族自身の落 ち着きを取り戻しケアの過程を振り返るには、症状の軽快と再発を経験し、5 年程度の期 間を要することが示されている 8 )。時間的経過に伴い、家族の心理状態は「混乱期や過去 を志向する時期」「未来へ向かう時期」へと順に移行する。しかし、精神障害者の精神症状 が重篤または不安定な状態の場合は、家族の心理状態が「未来へ向かう時期」へ移行する ことが難しい 1 5 )。精神障害者の症状が安定していることは、家族が人生に対し肯定的な 変化が生じる要因であると考えられる。 第二に、家族自身の健康状態について、発達障害やダウン症の障害児の親を対象に PPC 尺度を用いて親の肯定的・否定的変化を調査した研究では、精神健康度が不良であること は PPC の否定的変化に影響を及ぼしていることが示されている 1 4 )。このことから、精 神障害者の家族における精神健康は、家族自身の人生に対する肯定的な変化に影響を与え る1つの要因であると推察される。 第三に、ソーシャルサポートによる影響が示されている。精神科領域におけるソーシャ ルサポートとはある人のソーシャルシステムとしてその人が生活している一般的な社会環 境における積極的な相互作用である 1 6 )。そのサポート源は母親、配偶者、家族、友人、 近隣の知人、聖職者や専門家であると示されている 1 6 )1 7 )1 8 )。また、精神障害者の家 族にとってのソーシャルサポートはストレスに対する緩衝機構として機能し、家族間、専 門家、友人や近隣からのサポートが精神的な健康に間接的な作用があると指摘されている 1 9 )。 精神障害者やその家族は、社会からの精神疾患に対するスティグマ(偏見や差別)も 強いことから、地域生活だけでなく周囲の人から孤立しがちである。そのため、医療職 は、精神障害者の家族に対し、家族同士の交流のための家族会の支援、疾患教育などを含 む家族心理教室を行っている。そして看護職は、様々な職種による援助の方法をコーディ ネートする役割を担っており、ソーシャルサポートが保たれるような援助を行っている。 また、看護職自身が、重要なソーシャルサポート源の一つであり、家族に対し悩みを聞き 助言を行っている。 4.ソーシャルサポートと精神障害者の家族の肯定的な認識 精神障害者の家族が、精神障害者の生活を支える経験の過程において、精神的に肯定的 なプロセスに至るには、家族や専門職からのソーシャルサポートが影響していることが欧 米にて示されている 1 9 )2 0 )。そして、肯定的なプロセスに至るには、ソーシャルサポー ト以外に家族の疾患に対する知識、専門家との関わりが影響していることが示されている 1 9 )。また、精神障害者をケアする家族のQOL に焦点をあてた研究では、家族自身が「現 状が安定し、良い状態だ」 と捉えている家族においては、家族間のコミュニケーションが
3 とれ、病院や地域のサポートを受けていることが影響していることが示されている 2 0 )。 また、精神障害者の家族の回復には、家族の危機的な状況を乗り越える力が必要であり、 この危機的な状況を乗り越える力を支える要因として、感情的なサポートを受ける経験、 自己価値を見出す経験、社会資源からのサポートを受ける経験が示されている 1 1 )。 我が国においては、精神障害者の家族のソーシャルサポートを測定する尺度が開発さ れ、ソーシャルサポートの高さと生活満足度の高さ及び精神的健康度との間に関連が示さ れている 2 1 )。人間は困難を経験することで成長し、別の困難を乗り越える力を身につ けていくためには、様々な強みや支援を活用することが重要である。精神障害者の家族 が、人生に対し肯定的な認識が生じることは、個人の能力だけでなく、他者や社会からの サポートが影響していることが示されているが、その具体的なサポート源はまだ明らかと なっていない。 精神障害者の家族が、人生を肯定的に認識し、精神障害者の家族自身が人生に対し肯 定的な認識を保つことができるためには、家族自身が他者との社会的関係が築いていける ことが重要である 1 1 )。人生の困難が生じたときに、困難を経験することで成長し、困 難に挑戦することが生きがいにつながると考えるポジティブ心理学においても、乗り越え ていくべき人生の課題や挑戦に、心理的影響、人間的影響、社会的影響があると考えられ ている 2 2 )。 そこで本研究では、地域で生活し精神障害者との生活を経験している家族の人生に対す る肯定的な認識を明らかにする。また、家族自身の人生に対する肯定的な認識と、家族自 身のソーシャルサポートとの関連を明らかにする。また、精神障害者の家族の肯定的な認 識には、ソーシャルサポートの他に、家族自身の精神的健康、家族の特性、精神疾患を患 っている当事者の特性が関連していることも検討する。 Ⅱ.研究目的 本研究の目的は、1.精神障害者の家族が自分の人生に対してどのくらい肯定的な認 識を持っているのかを記述的に明らかにし、2.精神障害者の家族が受けているソーシャ ルサポートと家族自身の肯定的な認識との関連を明らかにすることである。 Ⅲ.概念枠組み 1.用語の操作上の定義 1)精神障害者の家族 精神障害者の家族とは、統合失調症、うつ病、躁うつ病など精神疾患を患っている方の 母親、父親、夫、妻、兄弟などの家族とする。ただし、親が精神疾患を患っており、子が 家族の場合は除く。 2)肯定的な認識 精神障害者をケアするという経験を通して得た、自分の人生に対する肯定的な認識。 3)ソーシャルサポート
4 社会的相互作用の中における個人がよりよい生活をおこなうための心理的・物理的資源 とする。本研究では、山口ら 2 1 )の先行研究を参考に、情報的サポート、情緒的サポー ト、手段的サポートの 3 分野が適切であると判断した。これらの 3 分野から5つのサポ ート源を選択し、配偶者、子ども、友人・知人、同じ立場の家族、医療者(看護師・医 師)とした。 2.概念枠組み Ⅳ.研究方法 1.研究デザイン 自記式質問紙からのデータ収集による横断研究を実施した。 2.対象者 対象者は、地域で生活している方を対象とするため、精神科外来に通院している精神障 害者の受診に付き添っている家族とした。先行研究より肯定的な認識の段階ではないとい われている初診の家族、診断の告知が行われていない家族、外来時に医師が入院予約を行 った患者の家族は除外した。また、精神障害者の子どもは除外した。 3.データ収集の方法 精神障害者の家族自身の人生に対する 肯定的な認識・否定的な認識 PerceivedPositiveChange(PPC) ソーシャルサポート(情報的・情緒的・手段的) サポート源5つ ①配偶者から ②子どもから ③友人から ④同じ立場の友人から ⑤医療職から 精神障害者(当事者)の特性 ①性別 ④住まいの状況 ②経過年数 ⑤手帳の有無 ③入院回数 精神障害者の家族の特性 ①性別 ④暮らし向き ②年齢 ⑤精神的健康(GHQ) ③当事者との続柄 ⑥就業状況
5 精神科病院 2 施設にて、診察終了後に対象者に対して、調査の概要について説明をし、 調査を依頼した。記載したアンケート用紙の回収は、返信用封筒に厳封の上、3週間を目 処に研究者宛に郵送するよう依頼した。対象者の調査への協力は、アンケート用紙の返送 をもって同意されたものとみなした。 調査期間は、平成27 年 7 月~平成 28 年 1 月であった。 4.調査内容 日本では精神障害者と家族は同居し家族が支えているのが現状であり 2 )、家族自身の ストレス対処資源の豊富さは、PPC と関連があることも明らかとなっている 1 4 )。本研究 では、先行研究 8 )1 1 )1 4 )によって示されている社会的特及び個人の特性の項目を検討し た。精神障害者及びその家族の社会人口学的特性として、調査内容は、家族自身の性別、 年齢、当事者との続柄、学歴(中学校卒、高校卒、短大卒、大学卒、大学院卒)、暮らし向 き、就業の有無、婚姻状況(既婚、未婚、離別、死別)、精神障害者との同居の有無、精神 障害者の年齢、性別、疾患名(統合失調症、うつ病、躁うつ病、発達障害、その他)、経過 年数、入院回数、住まいの状況を尋ねた。 ソーシャルサポートに関しては、山口が作成した精神障害者の家族のソーシャルサポー ト尺度を使用した 2 1 )。ソーシャルサポートは、3つの下位項目に分かれており、情報的 サポート4項目、情緒的サポート5項目、手段的サポート3項目の合計 12 項目をそれぞ れ「まったくあてはまらない」から「よくあてはまる」の4件法(1~4点)で回答を求 めている。各サポート源は、山口の研究結果を参考に、配偶者、子ども、友人・知人、同 じ立場の家族、医療職(看護師・医師)の5つとした。得点は、ソーシャルサポート全体 の平均値と、5つのサポート源ごとの平均値を使用し、得点が高いほどサポートの強さが 高いことを示す。ただし先行研究を参考に、サポート源別の下位項目は異なり、友人から のサポートは手段的サポートの 1 項目は加えず 11 項目、同じ立場の家族のサポートは情 報的サポートと情緒的サポートのみの 9 項目、医療職からのサポートは情報的サポートの みの 4 項目とした。山口の研究21)により、尺度の信頼性及び妥当性は検証されている。 精神障害者が利用する社会資源に関しては、先行研究 8 )1 4 )を参考に、家族会入会の有 無、ホームヘルプサービスの利用、仕事・作業所の利用、精神障害者手帳の有無とした。 精神障害者の状態は、精神障害者手帳の等級を調査する。
家族自身の精神的健康度は、General Health Questionnaire(以下 GHQ)12 項目(4 件法)で測定を行った 2 3 ) 2 4)。総得点は、Likert 採点法を用い、0-1-2-3と得点 化したうえで加算し(範囲0~36)、得点が高いほど精神的健康が悪く、得点が低いほど精 神的健康状態が良いことを示している。日本語版は、中川、大坊らによって、短縮版は福 西によって、信頼性及び妥当性の検証がされている 2 3 ) 2 4 )。 精神障害者の家族のケアを経験することによって生じる肯定的な認識の測定は、障害児 の親向けの PPC 尺度 1 4 )を使用した。木村らによって尺度の信頼性及び妥当性は検証さ れている 1 4 )。項目は、「精神的強さ」「人生を乗り越えていく自信」「生きがい・人生の楽 しみ」「人や社会のために役立ちたいという思い」「物事に対する考え方」「日々への考え方」 「家族との絆」「友人との絆」「信頼できる友人知人」「健康への関心」の 10 領域において
6 変化を尋ね、「弱くなった」(1点)から「強くなった」(5点)の5件法で回答を得て、単 純加算したものを PPC スコア(範囲 10~50)とし、PPC スコアが高いほど人生に対する 肯定的な認識を強く示している。 5.分析方法 1)PPC 尺度、ソーシャルサポート尺度の信頼性については、Cronbach α係数算出に より内的一貫性を検討した。 2)精神障害者の家族の人生に対する肯定的な認識の実態を検討するために、PPC の 10 項目を、「弱くなった」「どちらかといえば弱くなった」「どちらともいえない」を否定的 な認識・かわらない群とし、「どちらかといえば強くなった」「強くなった」を肯定的な 認識群とし、分布を確認した。また、PPC スコアは、各 10 項目を「弱くなった(1 点)、 どちらかといえば弱くなった(2 点)、どちらともいえない(3 点)、どちらかといえば強 くなった(4 点)、強くなった(5 点)」のどれかを選択し単純加算したものとする。PPC スコアは、すべて「どちらともいえない」を選択した際の合計得点30 点よりも高くなる 31 点以上を先行研究 1 4 )同様に「肯定的な認識」とし、「かわらない」の 30 点を含む 30 点以下を本研究では「否定的な認識・かわらない」とし、それぞれの分布を確認した。 3)ソーシャルサポートに関しては、ソーシャルサポート全体の平均値、サポート源ごと にソーシャルサポート得点の平均値を算出した。ソーシャルサポート全体の有無と、各 サポート源の有無は、ソーシャルサポート尺度の各項目「まったくあてはまらない(1 点)、あまりあてはまない(2 点)、少しあてはまる(3 点)、よくあてはまる(4 点)」の 中間となる 2.5 点以上をソーシャルサポートありとし、2.5 点未満をソーシャルサポー トなしとした。ソーシャルサポート全体と5つのサポート源の有無を2 群に分け、PPC スコアの平均値に有意差がみられるか、t検定を用いて分析した。 4)当事者の特性、家族の特性による影響を考慮するために、PPC 得点を従属変数、当事 者の特性、家族の特性を調整変数とした階層的重回帰分析を行った。独立変数は、先行 研究 8 )1 1 )1 4 )によってPPC と関連のみられる当事者の特性、家族の特性の項目から、 最終的に自由度調整済み決定係数 R2値が高いものを使用した。また、独立変数の多重 共線性については、各変数間の相関係数と分散インフレ係数の確認を行った。ソーシャ ルサポート、当事者の特性、家族の特性を順次モデルⅠ~Ⅲとして投入し、モデルⅠで はソーシャルサポートと当事者の特性による影響を、モデルⅡではソーシャルサポート と家族の特性による影響を、モデルⅢではソーシャルサポート、当事者の特性、家族の 属性による影響を検討した。 解析には、統計パッケージソフト SPSSver.25 を使用した。 6.倫理的配慮 調査対象者に、研究の主旨・意義・自由意思による参加であること、調査は無記名であ ること、不参加により対象者が受ける不都合や不利益は一切被らないことを説明した。質 問紙の返信をもって本研究への参加の同意が得られたと判断した。 本研究は、三重県立看護大学研究倫理審査会(通知番号 141502)、対象施設の倫理審査
7 委員会の承認を受け実施した。 Ⅴ.結果 アンケート用紙は、180 名に配布し、83 名より返答を得た(回収率 46.1%)。このう ち、子や本人による回答や、PPC 尺度、ソーシャルサポート尺度の調査項目に欠損値が あった者を除く、67 名を分析対象とした(有効回答率 37.2%)。(図1) 1.対象者の概要(表1) 家族の平均年齢は、62.5 歳(標準偏差 10.5)であった。性別は、男性 24 名 (35.8%)、女性 43 名(64.2%)であった。就業している家族は、27 名(40.3%)、就業 していない家族は 39 名(58.2%)、不明は 1 名(1.5%)であった。暮らし向きに対し、 ゆとりがあると返答した家族は 8 名(11.9%)、ふつう 44 名(65.7%)、苦しい 15 名 (22.4%)であった。家族会への入会の有無では、入会している家族 14 名(20.9%)、 利用していない家族 51 名(76.1%)、不明 2 名(3.0%)であった。精神疾患を患ってい る当事者との続柄は、当事者が子ども(息子・娘)46 名(68.7%)、配偶者(夫・妻)16 名(23.9%)、兄弟・姉妹・その他が 5 名(7.5%)であった。 家族の精神的健康を示すGHQ スコアの平均は 15.0(標準偏差 5.7)であり、家族自身の 人生に対する認識を表すPPC スコアの平均は、33.3(標準偏差 6.4、範囲 21-50)であっ た。 精神疾患を患っている当事者の平均年齢は41.1 歳(標準偏差 13.8)で、疾患の経過年 数の平均は17.2 年(標準偏差 11.2)、平均入院回数は 3.8 回(標準偏差 6.8)であった。 当事者の性別は、男性が27 名(40.3%)、女性は 40 名(59.7%)であった。当事者の疾患 は、統合失調症 41 名(61.2%)、うつ病 9 名(13.4%)、躁うつ病 5 名(7.5%)、発達障 害・その他 12 名(17.9%)であった。精神障害者手帳の有無は、なしが 30 名 配布数 n=180 返信数 n=83 (回収率46.1%) 有効回答数 n=67 (有効回答率37.2%) 除外内容 ・子による回答 n=5 ・本人による回答 n=3 ・PPC尺度、ソーシャルサポート尺度等の記載もれ n=8 図1.研究の各段階における人数のフローチャート
8 (44.8%)、あり(1 級・2 級含む)が 37 名(55.2%)であった。 2.PPC 尺度の信頼性 信頼性について、α係数を算出したところ 0.856 であった。また、IT 相関係数は、項 目 10 の「健康への関心」が最も低く 0.413 であったが、0.4 を下回るものはなかった (表2)。
表1.家族と当事者の概要(N=67)
家族の年齢層
当事者の年齢層
30‐40歳代
7
10.4
10-20歳代
15
22.4
50‐60歳代
43
64.2 30‐40歳代
35
52.2
70‐80歳代
17
25.4
50‐60歳代
14
20.9
精神障害者の家族の性別
70歳代
3
4.5
24
35.8
当事者の性別
43
64.2
男性
27
40.3
就業の有無
女性
40
59.7
27
40.3
当事者の疾患
39
58.2
統合失調症
41
61.2
1
1.5
うつ病
9
13.4
学歴
躁うつ病
5
7.5
25
37.3
発達障害/その他
12
17.9
42
62.7
住まいの状況
婚姻状況
同居
62
92.5
59
88.1
単身/その他
5
7.5
7
10.4
当事者の日中の状況
1
1.5
仕事、作業所など
27
40.3
暮らし向き
仕事も通所もなし
35
52.2
8
11.9
その他
4
6.0
ふつう
44
65.7
不明
1
1.5
やや/かなり苦しい
15
22.4
精神障害者手帳の有無
家族会利用の有無
なし
30
44.8
利用している
14
20.9
あり(1級、2級)
37
55.2
利用していない
51
76.1
家族の平均年齢
62.5
10.5
不明
2
3.0
家族の人生に対する認識(PPCスコア)
33.3
6.4
家族と精神疾患を患っている当事者の続柄
家族の精神的健康(GHQスコア)
15.0
5.7
息子・娘
46
68.7
当事者の平均年齢
41.1
13.8
夫・妻
16
23.9
疾患の経過年数
17.2
11.2
兄弟、姉妹、その他
5
7.5
平均入院回数
3.8
6.8
%/標準偏差
十分に/ややゆとりがある
未婚・離婚・死別
女性
あり
なし
不明
不明
短大以上
専門校以下
既婚
男性
n/平均
n
%
9 3.精神障害者の家族自身の人生に対する肯定的な認識の実態 精神障害者の家族自身の人生に対する認識(肯定的な認識、否定的な認識)を示す PPC スコアを、「肯定的な認識(31 点以上)」、「否定的な認識、変わらない(30 点以 下)」に分類した(表3)。 精神障害者の家族自身は人生に対し肯定的な認識が生じていたのは 47 名(70.1%)で あった。 PPC の各 10 項目をみると、「肯定的な認識」群が「否定的な認識・かわらない」群を 上回っている項目は、3項目であり、「健康への関心」が 52 名(77.6%)、「家族との絆 (関係)」が 41 名(61.2%)、「日々への考え方」が 37 名(55.2%)であった。 肯定的な認識が一番低い項目は障害のある家族がいなければできなかったような「信 頼できる友人・知人」13 名(19.4%)、次いで「生きがい・人生の楽しみ」14 名 (20.9%)であった。(表4)
表2.精神障がい者の家族のPerceived Positive Change(PPC)尺度の項目分析
I-T 相関 1 あなたの精神的な強さは 0.574 0.842 (弱くなった~強くなった) 2 人生を乗り越えていく自信は 0.753 0.824 (減った~増えた) 3 新しい生きがいや人生の楽しみは 0.597 0.840 (全く得られていない~おおいに得られた) 4 人や社会のために役立ちたいという思いは 0.514 0.847 (弱くなった~強くなった) 5 何事に対しても 0.624 0.838 (悪い方向に考えるようになった~良い方向に考えるようになった) 6 1日1日を過ごすことに対して 0.477 0.850 (どうでもよくなった~大切に考えるようになった) 7 家族との絆(関係)は 0.646 0.836 (弱くなった~強くなった) 8 友人との絆(関係)は 0.582 0.841 (弱くなった~強くなった) 9 障害のある家族がいなければ得られなかったような信頼できる友人知人は 0.465 0.853 (全く得られていない~おおいに得られた) 10 あなたの生活は 0.413 0.854 (健康に注意を払わなくなった~健康に注意するようになった) 0.856 10項目 質問項目(5件法) α係数 Cronbach`sα 表3 精神障害者の家族自身の人生に対する否定的・肯定的な認識(N=67) n % 肯定的な認識 (31点以上) 47 70.1 否定的な認識・かわらない (30点以下) 20 29.9
10 4.ソーシャルサポート尺度の内容と信頼性の検証 今回使用した尺度は、情報的サポート 4 項目、情緒的サポート 5 項目、手段的サポー ト 3 項目の 3 分野 12 問とした(表5)。 表 6 では、5 つのサポート源別の平均点を示す。5つのサポート源別では、医療職から のサポートが最も強く、ついで同じ立場の家族、配偶者から強いサポートを得ていた。5 つのサポート源のα係数は、0.878~0.972 と高く、内的一貫性が保たれた。 n % n % 精神的な強さ 40 59.7 27 40.3 人生を乗り越えていく自信 41 61.2 26 38.8 生きがい・人生の楽しみ 53 79.1 14 20.9 人や社会のために役立ちたいという思い 41 61.2 26 38.8 物事に対する考え方 40 59.7 27 40.3 日々への考え方 30 44.8 37 55.2 家族との絆(関係) 26 38.8 41 61.2 友人との絆(関係) 47 70.1 20 29.9 信頼できる友人知人 54 80.6 13 19.4 健康への関心 15 22.4 52 77.6 表4.項目別にみた精神障害者の家族の人生に対する肯定的な認識群、 否定的な認識・かわらない群 (N=67) ※「どちらかと言えば強くなった」、「強くなった」を肯定的な認識群、「弱くなった」、「どちらかと いえば弱くなった」、「どちらともいえない」を否定的な認識・かわらない群とし2群で表した。 否定的な認識・ かわらない群※ 肯定的な認識群 ※ 表5.ソーシャルサポートの3分野と設問項目 ①精神疾患を患っている方のことについて相談する ②精神疾患を患っている方のことについて助言をしてくれる ③精神疾患を患っている方のことについてわからないことを聞ける ④精神疾患を患っている方のことについて情報を教えてくれる ⑤普段の生活でグチを聞いてくれる ⑥普段の生活で辛いときになぐさめてくれる ⑦普段の生活でしっかりやっていると認めてくれる ⑧普段の生活で気持ちを理解してくれる ⑨普段の生活でおしゃべりなど楽しいときを過ごす ⑩普段の生活で忙しいときに手伝ってくれる ⑪普段の生活で調子が悪いときに助けてくれる ⑫普段の生活で物やお金を融通してくれる 情報的サポート 情緒的サポート 手段的サポート
11 5.ソーシャルサポートの有無と PPC スコアの平均値の比較 ソーシャルサポート全体の有無によって、PPC スコアには統計学的な有意差が認められ た(t=2.94、p<0.01)。サポート源別では、友人からのソーシャルサポートの有無によ って PPC スコアには有意差が認められた(t=2.49、p<0.05)。一方で、その他のサポー ト源では有意差が認められなかった。(表7) 表6.ソーシャルサポート尺度の結果(3分野12問/5つのサポート源から)(N=67) ① 2.93 2.51 2.75 2.92 3.54 2.93 ② 2.71 2.42 2.73 2.71 3.50 2.81 ③ 2.49 2.20 2.61 2.83 3.54 2.73 ④ 2.44 2.27 2.57 2.71 3.20 2.64 ⑤ 2.58 2.47 2.84 2.83 ― 2.68 ⑥ 2.49 2.36 2.70 2.83 ― 2.60 ⑦ 2.56 2.47 2.80 3.04 ― 2.72 ⑧ 2.80 2.69 2.93 3.13 ― 2.89 ⑨ 2.56 2.71 2.95 2.83 ― 2.76 ⑩ 2.76 2.42 1.95 ― ― 2.38 ⑪ 2.78 2.38 2.14 ― ― 2.43 ⑫ 2.76 1.78 ― ― ― 2.27 2.66 2.36 2.52 2.86 3.45 2.78 .972 .947 .959 .953 .878 ― 平均 情報的 サポート 情緒的 サポート 友人・知人 から (N=44) 全平均 Cronbachのα係数 サポート源 手段的 サポート 設問番号 配偶者から (N=59) 子どもから (N=55) 同じ立場の 家族から (N=24) 医療職 から (N=50) t p ソーシャルサポート全体 あり(2.5点以上) (n=49) 34.5 6.5 なし(2.5点未満) (n=18) 30.1 5.0 配偶者から あり(2.5点以上) (n=38) 34.4 6.5 なし(2.5点未満またはいない) (n=29) 31.8 6.1 子どもから あり(2.5点以上) (n=27) 34.4 6.6 なし(2.5点未満またはいない) (n=40) 32.5 6.2 友人から あり(2.5点以上) (n=24) 35.7 5.8 なし(2.5点未満またはいない) (n=43) 31.9 6.3 同じ立場の友人から あり(2.5点以上) (n=17) 34.4 5.6 なし(2.5点未満またはいない) (n=50) 32.9 6.6 医療職から あり(2.5点以上) (n=48) 33.2 5.8 なし(2.5点未満またはいない) (n=19) 33.5 7.8 t検定 *p<0.05以下、**p<0.01以下、n.s.:not significant 表7.ソーシャルサポートの有無とPPCスコアの平均値の比較(N=67) 2.94 .006 ** 平均値 標準偏差 PPCスコア 1.69 n.s. 1.15 n.s. 2.49 .016 * 0.93 n.s. -0.18 n.s.
12 6.家族の人生に対する肯定的な認識(PPC スコア)に対する階層的重回帰分析 精神障害者の家族自身の人生に対する肯定的な認識を示す PPC スコアを従属変数とし た階層的重回帰分析を行った(表8)。 まず、当事者の特性を統制するために、モデルⅠではソーシャルサポートと当事者の特 性として「ソーシャルサポート全体と5つサポート源(配偶者、子ども、友人、同じ立場 の友人、医療職)」、「経過年数」、「入院回数」、「性別」を投入した。次に、各要因の階層関 係を考慮し、モデルⅡでは「ソーシャルサポート全体と5つのサポート源(配偶者、子ど も、友人、同じ立場の友人、医療職)」、家族の特性として「性別」、「続柄」、「年齢」、「暮 らし向き」、家族の精神的健康を示す「GHQ スコア」、モデルⅢでは「ソーシャルサポート の全体と5つのサポート源(配偶者、子ども、友人、同じ立場の友人、医療職)」、当事者 の特性として「経過年数」、「入院回数」、「性別」、家族の特性として「性別」、「続柄」、「年
表8. 肯定的な認識(PPCスコア)に対する階層的重回帰分析の結果(N=67)
β
注6SE
p
β
注6SE
p
β
注6SE
p
β
注6SE
p
ソーシャルサポート
0.21
2.23
0.10
2.12
0.15
1.96
0.06
1.89
配偶者
注10.11
1.84
0.17
1.73
0.15
1.61
0.19
1.51
子ども
注10.05
1.71
0.15
1.62
-0.03
1.55
0.11
1.60
友人
注10.27
1.71 *
0.33
1.63 **
0.21
1.54
0.25
1.48 *
同じ立場の友人
注1-0.04
1.83
-0.09
1.71
0.01
1.64
-0.07
1.57
医療職
注1-0.13
1.77
-0.11
1.64
-0.01
1.64
0.00
1.53
当事者の特性
0.31
0.07 *
0.26
0.08
-0.18
0.11
-0.14
0.11
0.32
1.34 **
0.33
1.39 **
家族の特性
0.06
1.83
-0.07
1.84
-0.03
1.97
0.18
2.06
-0.16
0.08
-0.15
0.08
0.08
1.32
0.08
1.32
-0.49
0.14 ** -0.43
0.13 **
R
20.17
0.32 **
0.43 **
0.54 **
調整済みR
20.09
0.22
0.32
0.41
F値
2.04
3.20
5.76
5.32
R
2変化量
0.15 **
0.26 **
0.37 **
注1:0=サポートなし(2.5点未満もしくはなし)、1=サポートあり(2.5点以上)
注2:0=男性、1=女性
注3:0=配偶者、1=子ども、その他
注4:暮らし向きは「かなり苦しい」1点~「十分にゆとりがある」5点までの連続変数として扱った。
注5:精神的健康は点数が低いほど、精神的に健康であることを示す。
注6:βは標準化偏回帰係数、SEは標準誤差を示す。
*p<0.05、**p<0.01
当事者との続柄
注3年齢
暮らし向き
注4家族の精神的健康(GHQスコア)
注5ソーシャルサポート全体
注1経過年数
入院回数
変数
調整なし
従属変数:PPC得点
性別
注2性別
注2モデルⅡ
モデルⅠ
モデルⅢ
13
齢」、「暮らし向き」、「GHQ スコア」を回帰式に順次投入した。
なお、変数間の多重共線性については、相関係数の絶対値が 0.9 を超える変数は存在せ ず、分散インフレ係数(Variance inflation factor;VIF)が 2 以上の値を示す変数も存在し なかった。 PPC スコアを従属変数とした結果、モデルⅠ、Ⅱ、Ⅲでの決定係数の増分が有意であっ た。変数ごとの標準化偏回帰係数(β)を順にみると、モデルⅠでは、「友人からのソーシ ャルサポートあり(β=0.33、p<0.01)」、「経過年数(β=0.31、p<0.05)」、「当事者の性 別が女性(β=0.32、p<0.01)」との間に正の関連がみられた。モデルⅡでは、家族の精 神的健康を示す「GHQ スコア(β=-0.49、p<0.01)」との間に負の関連が見られた。 最終的に得られたモデルⅢの結果では、決定係数 R2=0.54(p<0.01)、R2変化量は0.37 (p<0.01)であった。モデルⅢでは、「友人からのソーシャルサポートあり(β=0.25、 p<0.05)」、「当事者の性別が女性(β=0.33、p<0.01)」、との間に正の関連、家族の精神 的健康を示す「GHQ スコア(β=-0.43、p<0.01)」との間に負の関連が見られた。 Ⅵ.考察 精神障害者の家族自身の人生に対する肯定的な認識では、PPC スコアが 31 点以上の肯 定的な認識を示している家族が約 7 割であった。また、PPC の各項目においては、10 項 目中 3 項目「健康への関心」、「日々への考え方」、「家族との絆(関係)」において肯定的認 識群が否定的認識・かわらない群を上回っていた。また、精神障害者の家族自身の人生に 対する肯定的な認識は、精神障害者の家族の特性と当事者の特性の影響を考慮しても、家 族が友人からのソーシャルサポートを受けていること及び、当事者が女性であることと統 計学的に有意に正の関連が認められた。精神障害者の家族自身の人生に対する否定的な認 識は、家族の精神的健康の低さと正の関連が認められた。このことから、精神障害者の家 族は人生に対し肯定的な認識を持ち、家族の人生に対する肯定的な認識は家族や当事者の 特性だけでなく、友人からのソーシャルサポートと関連があることが示された。 1.精神障害者の家族自身の人生に対する肯定的な認識の実態 PPC 尺度は、先行研究 1 4 )において信頼性・妥当性が検討されている。しかし、PPC 尺 度は、HIV に感染した血友病患者とその家族に向けて作成された尺度を、障害児の親に向 けて修正し用いたものであり、本研究の対象者である精神障害者の家族に向けては使用さ れてはいない。しかし、障害児の親は、辛い体験を乗り越えてきたからこそ、何とかなる と思えるようになるという報告がされており 1 4 )、精神障害者の家族も障害児の親と同様 に、つらい出来事を通じて自身が成長することで、実現可能な目標を掲げていた 8 ) 9 )。 障害児の親が子どもに障害が生じてから経験する内容と、精神障害者の家族の経験する内 容には関連がみられていたこと、また PPC 尺度は否定的な認識と肯定的な認識の双方向 から捉えられることから、本研究では PPC 尺度を使用した。また、本研究の対象者に対す る尺度の信頼性を検証するために PPC 尺度、ソーシャルサポート尺度のα係数を算出し た。精神障害者の家族の PPC 尺度は、α係数(0.856)、項目分析の結果から内的整合性が
14 示され、本研究において適切であると考えられる。 精神障害者の家族自身の人生に対する肯定的な認識では、約 7 割が肯定的な認識(PPC スコア31 点以上)を示しており、PPC スコアの平均値は 33.3 と高かった。また、PPC の 各項目においては、10 項目中3項目において、肯定的な認識群が否定的な認識・かわらな い群を上回る結果であった。家族が人生に対し肯定的な認識が生じることは、発達障害や ダウン症などの障害児の親においても認められること 1 4 )や、精神障害者の家族介護者が 介護に対し肯定的な認識が生じること 2 5 )を示した先行研究とも同様な結果であり、精神 障害者の家族にも人生に対する肯定的な認識があることが示された。 家族が、当事者の不安定な病状を通じて感じた困難から、目まぐるしい生活の変化を経 て、自分の生活を取り戻していくことは、家族自身のエンパワメントを高め、自分の生き る力を実感し、人生に対し肯定的な認識をもつことにつながっていたと考えられる。精神 障害者の家族は、家族が精神疾患を患うことにより混乱や否定的な側面を感じるが、日々 の生活から当事者の病状の変化や回復を実感し、脅威だけでなく成長を実感している 8 ) 11)。また、慢性疾患や障害児の親、介護者が肯定的な認識を持つことと同様に、精神障害 者の家族は、長期間にわたる療養生活の困難を経験するが、しだいに現在の生活や自分の 状況の変化を実感している。家族は、当事者が疾患を患うことによって生じる困難を受け 止め、過去の経験から新たな学びや解決策を考えることが出来、人が本来もっている生き る力を湧き出させるエンパワメントが生じていると考えられる 2 6 ) 2 7 )。 しかしその一方で、今回の結果では PPC 尺度の 2 項目、「生きがい・人生の楽しみ」、障 害のある家族がいなければできなかったような「信頼できる友人・知人」において、否定 的な認識が肯定的な認識を大きく上回る結果であった。この結果は、家族自身の生きがい や人生の楽しみを見つけることは容易ではないことを示唆している。本研究の家族の平均 年齢は 62.5 歳であるのに対し、先行研究における障害児の親の平均年齢が 44.7 歳と比べ 高齢であったことが影響している可能性がある。精神障害者の家族は、気力体力のある 40 代の中年の時期を経て 65 歳を超え老年期に入り、新たな関係を構築していくことや新た な挑戦を行うことが難しい年代である。また、精神障害者の親自身が高齢となり、親なき 後の生活を心配しており、子の将来に対する不安が生じてくる時期である 2 8 )2 9 )。その ため、「健康への関心」は高いが、自分自身の「生きがい・人生の楽しみ」を家族が感じる ことが難しかったのではないかと考えられる。看護職等の支援者は、家族が当事者の日常 生活を支えるだけでなく、家族自身の生活を充実したものにし、自分の生きがいや楽しみ を見つけていけるよう支援していく必要がある。 障害のある当事者がいなければ得られなかったような「信頼できる友人や知人」の項目 において、否定的な認識の割合が高かったことは、家族会に入会している家族が少なく、 利用していない家族が 76.1%と多かったことが関連していると考えられる。精神科領域に おいては、精神障害者の家族への支援として、悩みを分かちあい、共有し、連携し互いに 支えあうことを目的とした精神障害者家族会(以下、家族会)が存在する。家族会は約 40 年前から結成され始め、現在では地域家族会、施設家族会などの様々な家族会が数多く存 在している 2 9 )。しかし、新たな入会者が増加せず、全体の入会者数が減少しているとい った課題も生じている 2 9 )のが現状である。
15 しかし近年では、同じ立場を経験できたからこそ理解できる、対等で相互的な支援であ る「ピアサポート」の活動が増加し、当事者のリカバリー3 0 )や家族への効果 3 1 )3 2 )が 示されている。家族会は自助グループの一類型であるが、以下のような取り組みによって その内容は工夫され、同じ立場の家族(家族ピア)が、精神障害者の家族に教育を行う精 神障害者の家族による家族学習会といった取り組みが行われている 3 1 )3 2 )。このような 家族による学習会は、未入会の家族に行うと、家族会への入会が増加し、担当した家族は 生き方に希望が生ずる効果が示されている 3 2 )。家族と障害のある当事者がいなければ得 られなかったような「信頼できる友人や知人」との関係の構築において、看護職は精神障 害者の家族同士が協力し合い信頼関係を築けるような場の提供方法を検討し、看護職も家 族とのつながりを大切にする必要があると考えられる。 2.精神障害者の家族のソーシャルサポートと家族自身の人生に対する肯定的な認識との 関連 本研究の結果において有意な関連を示した独立変数のうち、従属変数に対する影響の大 きさと向きを示す標準化偏回帰係数βに着目すると、ソーシャルサポートでは「友人から のサポート」があること(β=0.25)、当事者の特性では「女性」であること(β=0.33)、 家族の特性では家族の精神的健康(GHQ スコア)」が不良であること(β=-0.43)が人生 に対する肯定的認識を予測する変数をサポート源別であることが示された。階層的重回帰 分析によって最終的に得られたモデルⅢにおいては、自由度調整済み R2が比較的高く、採 用された独立変数によって PPC スコアを一定範囲予測できたものと考えられる。 階層的重回帰分析の結果からは、友人からのサポートがあると感じている家族と、人生 に対する肯定的な認識との間に正の関連がみとめられた。友人という存在は、お互いが対 等であり、相互作用のある社会的な友好関係でもあり、専門職や家族とは異なるつながり である。このような友人からのサポートが、家族の人生に対する肯定的な認識との関連が あることは、本研究によって明らかになった精神障害者の家族のケアを行う上で重要な知 見であると考えられる。 友人からのサポートとは、家族が当事者の家族としてではなく、自分自身が主体となっ て友人と関わっていることを意味している。このような、家族自身の主体的な関わりが、 家族の人生に対する肯定的な認識には重要であると考えられる。本研究の結果における友 人からのサポートの特徴として、1)情報的、情緒的、手段的の3つのサポートを得てい ること、2)情緒的サポートとして日常生活のグチや気持ちを聞いてもらい楽しいときを 過ごすことが挙げられる。医療職や同じ立場の友人知人からのサポートは、当事者のこと に関する話や悩みや疾患の情報を得るといった情報的サポートを多く受けている特徴がみ られた(表6)。しかし、友人との関わりでは、当事者に関することではなく、自分自身の 悩みや楽しみを解消し、自分自身の力で対応することができる。そのため、自己コントロ ールが得られやすいと考えられる。友人との関わりが、家族自身が生活している環境を実 感し、自身で困難を処理できる感覚や自分の人生を意義あるものと感じることが、家族の 健康を保ち、家族の肯定的な認識につながると考えられる 3 3 )。また、母親への支援や一 般の方への支援においても、友人からのサポートは心理的(情緒的)支援として精神面と
16 の関連が示されている 3 4 )3 5 )3 6 )。友人からのサポートが主観的幸福感をもたらすこと や 34)、友人との社会的つながりが不安感を減少すること 3 6 )が指摘されており、精神障 害者の家族においても同様であるということが示唆された。 この結果は、精神障害者の家族への支援として、家族自身の人生に対する肯定的な認識 への援助の内容が、これまで家族に行われてきた心理教育や家族の経験した思いへの傾聴 を行う援助とは異なることを示唆している。精神障害者の家族支援では、当事者の再発予 防、精神障害者の介護負担感への支援として、心理教育を行い正しい知識の普及や 5 )3 7 ) 3 8 )、当事者の精神疾患を経験したことを傾聴していく精神的なサポートの重要性が指摘 されていた 3 9 )4 0 )。本結果を踏まえ、家族自身の人生に対する肯定的な認識へのケアに おいては、家族が自身の主体的な活動が維持できるような援助も必要であると考えられる。 階層的重回帰分析の結果からは、上記以外にも当事者が女性であることと家族の人生に 対する肯定的な認識との間にも正の関連がみとめられた。当事者の性差による母親の介護 負担感に関する調査においては、当事者の性差による介護負担感の有意差は見られなかっ たが、子が男性のほうが女性である母親とのコミュニケーションが乏しいという結果 7 ) が示されている。また、介護負担を感じている母親は、息子を威圧する傾向があるが 7 )、 威圧は感情表出(EE)が行動として現れるものの一つである。そのような関係性において、 当事者の病状再燃が生じやすく、家族と当事者の関係性もさらに悪化しやすい 5 )。本研究 においても、家族と当事者の関係は親子が多く、当事者が男性のほうが家族とのコミュニ ケーションを保つことができず、結果として家族関係の悪化がみられていたのではないか と考えられる。以上のことから、逆説的ではあるものの、当事者が女性のほうが家族との 関係性を良好に保つことができ、その結果として家族自身が人生に対し比較的肯定的な認 識になるものと考えられる。 また、精神障害者の家族が精神的に不健康であることと、人生に対する否定的な認識と の関連があることは、障害児の親の先行研究と同様の結果であった 1 4 )。精神障害者の家 族は、当事者の状態変化に合わせて耐える生活を続けており 2 0 )、それによって不安な感 情が生じている 9 )。そのような状態にある精神障害者の家族の精神的健康は良好には保 たれておらず、統合失調症患者の母親の介護負担感が深刻であるほど、母親の精神的な健 康状態は悪い 7 )。本研究において介護負担感については調査をしていないが、精神的健康 が低い状態にあった家族は、介護における負担感も大きかったと推察されるため、介護負 担感が重いことにより精神的健康が保たれず、その結果として家族自身の人生に対する認 識が否定的になっていたということが考えられる。 Ⅶ.研究の限界 本研究には、いくつかの限界と課題がある。第一に、標本抽出で生じている対象者に偏 りがある。本調査では、地域で生活している当事者との家族への調査を実施するために、 精神科の外来にて付き添っている家族に調査用紙を配布した。そのため、親が付き添わな いと通院できない程、日常生活や社会生活に支障をきたしている当事者の家族という特徴 がある。家族の人生に対する肯定的な認識の実態は、精神症状が日常生活に支障をきたし
17 ていない当事者の家族や、当事者が入院している家族など、家族と当事者との状況によっ て異なると考えられる。家族自身の人生に対する肯定的な認識の実態をさらに詳細に明ら かにするために、当事者を支える役割の異なる家族に対しても広く調査を行う必要がある。 第二に、PPC 尺度に関しては、αの算出によって内的整合性を示せたが、評価者間信頼 性、試験・再試験信頼性、方法間信頼性の検証や妥当性が示されていない。そのため、今 後PPC 尺度を精神障害者の家族へ使用する際には、構成概念妥当性の検討のために、Sence of Coherence(SOC)尺度を、一緒に用いて調査することが望ましいと考えられる。 第三に、本研究は横断研究であり、因果関係を特定することはできない。PPC 尺度は、 人生に対する否定的な認識、肯定的な認識の両方を測定することができる特徴がある。本 研究では、家族自身の肯定的な認識が明らかとなったが、今後は家族の否定的な認識から 肯定的な認識への変化の時期や必要な看護を検討するために、調査の時期を変更し、対象 者を増やし縦断研究を行っていくことで、家族の人生に対する認識の変化に関して新たな 知見が得られると考えられる。 Ⅷ.臨床への示唆 精神障害者の家族の人生に対する肯定的な認識の実態は、困難な状況を経て家族自身が 変化し、日々の生活において人生を肯定的に捉えられるよう成長していると考えられ、家 族へ肯定的な認識を促す援助を行う重要性が示唆された。また、本研究の結果から、精神 障害者の家族への友人からのソーシャルサポートと、家族自身の人生に対する肯定的な認 識との関連が明らかとなった。友人が果たす役割を考察するにあたり、家族の人生に対す る肯定的な認識へのケアを行う上で、医療職は家族と関わる上で、以下の 4 つ関わりが重 要であると示唆された。1)家族が日常生活で生じている思いや感情を受け止めていける 関わりを行うこと、2)家族自身の楽しみや生きがいを知ること、3)医療職も家族自身 と楽しい時間を過ごせるような関わりを保つこと、4)家族が楽しみにしている活動や友 人との時間を過ごせるよう援助していくことである。 1)、2)、3)に関しては、家族自身がケアの対象であると考え、当事者との関係につ いて関わるのではなく、家族自身の生活を知ること、家族自身の楽しみを知り、楽しみを 維持するケアを行う必要があると考えられる。近年、当事者のニーズや強みを活かした関 わりを行うストレングスモデルが、当事者の自発性を伸ばし、よりよい生活を送るには重 要であることが認識されている 4 0 )。医療者は、家族支援を行う目的を、当事者の再発予 防の観点から重要であることは意識づけられており、近年は、家族が辛い経験から、前向 きに捉えられるように変化し、この辛い経験を傾聴していくことの重要性が言われている 3 7 ) 3 8 )。しかし、家族へのケアにおいても、問題を解決していくだけでなく、ストレン グスモデルを用い、家族自身を知り、家族の望む生活は何か、家族の持っている強みは何 かを検討し、家族が楽しい生活を送れるためのケアを実施していくことが重要であると考 えられる。 4)は、家族の人生に対する肯定的認識への援助として、家族が援助者としての役割を 獲得するだけでなく、家族自身が自分のための時間を保ち、友人との関わりといった家族
18 自身が自分の生活を楽しみ、家族が普段感じている自身の思いを表出できる関係性の維持 の重要性が示唆された。家族が、自分自身の時間を持つことができるように、当事者への 支援として訪問看護やデイケアなど当事者が日中に活動が出来る支援を提供していく必要 性が考えられる。 Ⅸ.結論 本研究は、1.精神障害者の家族自身の人生に対する肯定的な認識の現状を明らかにし、 2.精神障害者の家族のソーシャルサポートと家族自身の肯定的な認識の関連を明らかに することであった。その結果、1.精神障害者の家族自身には、人生に対し肯定的な認識 がみられることが明らかになった。ただし、「生きがい・人生の楽しみ」、「信頼できる友人・ 知人」において、否定的な認識が肯定的な認識を上回る結果であった。次に、2.精神障 害者の家族のソーシャルサポートと家族自身の肯定的な認識の関連について明らかにした。 階層的重回帰分析の結果、人生に対する肯定的な認識を予測する変数は、ソーシャルサポ ートに関しては友人からのサポートがあることと、当事者の特性では女性が正の関連、家 族の特性における家族の精神的健康(GHQ スコア)が負の関連を示した。 友 人 か ら の サ ポ ー ト が あ る こ と と 家 族 自 身 の 人 生 に お け る 肯 定 的 な 認 識 に 正 の 関 連 が みられたことは、家族が主体的に関わることができる存在である友人と関わりが重要であ り、家族自身の主体的な活動が維持できることが大切である。また、家族自身の普段の生 活での気持ちや、家族の楽しみを知ることが重要であるという新たな視点が示唆された。 医療職である看護師は、家族自身が人生に対する肯定的な認識を保つための援助として、 家族自身が日常生活で生じている思いや、感情を受け止める関わりを行うこと、家族自身 が楽しみの時間を保てるよう当事者へ訪問看護などの支援を行うことが示唆された。 謝辞 ご協力いただいた対象施設の病院長、看護部長をはじめとする関係者の皆様、そして何 よりも快く研究の協力者であるご家族の皆様に感謝申し上げます。 本研究の遂行にあたり、丁寧かつ温かなご指導を下さいました木戸芳史准教授、兵庫県 立大学看護学部の船越明子准教授に心より感謝申し上げます。また、本論文を作成するに あたりご指導、ご助言を頂きました林辰弥教授、宮﨑つた子教授に深く感謝申し上げます。 PPC 尺度、精神障害者の家族のソーシャルサポート尺度の使用に関して快く了承いただき ました、聖マリアンナ医科大学の木村美也子先生、桜美林大学の山口一先生に感謝を申し 上げます。
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