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ハクサイ類の根こぶ病抵抗性の遺伝学的研究と抵抗性品種の開発

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Academic year: 2021

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クサイの根こぶ病抵抗性品種が育成された。当初,育種 目標が抵抗性付与に偏ったため球の形や葉質等が犠牲に された面もあったが,近年では抵抗性品種の品質は向上 している。一方で根こぶ病抵抗性品種が罹病化する事例 が多く報告されるだけでなく,根こぶ病菌株の中には, 多くの抵抗性品種に対して加害する,広い宿主範囲をも つ菌株も目立ってきた(吉川,1990)。 根こぶ病菌には病原性に多様性があり,これらを識別 する方法として,European Clubroot Differential(ECD) 法,Williams 法(WILLIAMS, 1966)等が提唱されてきた。 日本においては国内で発生した菌株の病原性を,入手が 容易な二つの F1品種 ‘CR 隆徳’ と ‘SCR ひろ黄’ を用いて 分類する方法(HATAKEYAMAet al., 2004)が報告されてい る。後者は,根こぶ病菌を二つの品種の反応性の違いに よって四つのグループに大別している(表― 1)。グルー プ 4 に属する根こぶ病菌は,‘無双’ などの抵抗性遺伝子 を持たない品種を発病させるが,抵抗性遺伝子を持つ ‘CR 隆徳’ と ‘SCR ひろ黄’ のどちらも発病させることが できない。グループ 1 に属する菌群は,これとは全く逆 に二つの品種をともに発病させるなど,宿主範囲の広い 菌である。さらにグループ 2 の菌群は,‘CR 隆徳’ を発 病させるが,‘SCR ひろ黄’ には発病させない,グループ 3 はこれとは全く逆の性質をもつ。この二つの F1品種 を用いた分類に該当しない菌株もあり,Wakayama ― 01 菌株についての約 20 品種を用いた病土挿入法による検 定試験において,完全な抵抗性を示したのは ‘黄波 90’ のみであり,‘CR 隆徳’ を発病させるが,‘SCR ひろ黄’ では発病率が低かったために,同菌株はグループ 1 と 2 の中間に位置づけられている。このように根こぶ病菌の 宿主を加害する性質は複雑であり,また ‘CR 隆徳’ と ‘SCR ひろ黄’ の各菌株に対する抵抗性が異なるように抵 抗性遺伝子も多様である。またグループ 1 に分類される No.5 菌株に対して抵抗性の品種は認められなかった (HATAKEYAMAet al., 2004)。 II QTL解析により同定された根こぶ病抵抗性の 遺伝子座 アブラナ科作物の主要な根こぶ病抵抗性遺伝子座に は,CRa(MATSUMOTOet al., 1998),CRb(PIAOet al., は じ め に 根こぶ病は Plasmodiophora brassicae によって引き起 こされ,アブラナ科野菜においては土壌伝染性の難防除 病害の一つである。発病株は根部がこぶ状に肥大するた め養水分の吸収に支障をきたし,生育が著しく遅延し場 合によっては枯死にいたる(図― 1)。根こぶ病菌の生態 については多くの研究者が詳細に報告しており(堀内, 1981;池上,1992),被害はハクサイ,ツケナ類,キャ ベツ,ブロッコリー等の野菜やナタネにとどまらず加害 範囲は雑草にまで及ぶ(對馬,2003)。本病は,いった ん発生すると休眠胞子が土壌中に長期間にわたり生存す るため連作圃場では年々菌密度が高まり,耕種的防除が 困難になる点が特徴である。根こぶ病の防除には総合防 除の観点が必要とされるが,ハクサイ,キャベツの産地 では連作が行われており,主たる防除は化学合成農薬に 頼っているのが現状である。抵抗性品種の開発は,根こ ぶ病抵抗性検定による選抜に加えて,根こぶ病抵抗性 QTL(量的遺伝子座)の同定や連鎖マーカーが開発され, 格段に効率化している。本稿ではハクサイ類の根こぶ病 抵抗性遺伝子座とこれらに連鎖する DNA マーカーを用 いた選抜育種について報告する。 I 根こぶ病抵抗性遺伝資源と根こぶ病菌の分類 総合防除では抵抗性品種の開発と導入はその柱の一つ である。日本においてはハクサイでの被害が顕著であり 抵抗性品種の育成が急がれたが,結球性のハクサイ類の 遺伝資源の中には根こぶ病抵抗性遺伝子は見いだされ ず , 野 菜 茶 業 試 験 場 の 吉 川 の 精 力 的 な 研 究 に よ り , ‘Siloga’,‘Gerlia R’,‘Millan white’ 等ハクサイとは形状 がかなり異なるヨーロッパの飼料用カブが有望な抵抗性 素材であることが判明した(吉川,1993)。これらの素 材を用いて,野菜茶業試験場から五つのハクサイ中間母 本が発表されるとともに,民間種苗会社からも次々にハ ハクサイ類の根こぶ病抵抗性の遺伝学的研究と抵抗性品種の開発 43 ―― 43 ――

Genetic Analysis of Clubroot Resistance in Brassica rapa and Development of the Resistance Cultivars by Marker Assisted Selection. By Satoru MATSUMOTO

(キーワード:根こぶ病抵抗性,DNA マーカー,はくさい中間 母本農 9 号,あきめき)

ハクサイ類の根こぶ病抵抗性の遺伝学的研究と

抵抗性品種の開発

まつ

もと

さとる (独)農研機構 野菜茶業研究所

(2)

あるか対立遺伝子に起因するか興味が持たれている。畠 山ら(2011)は ‘SCR ひろ黄’ に由来する DH 系統を用 いた解析で主要な QTL を CRk と Crr3 の領域付近に検 出している。CRc は抵抗性素材 ‘Debra’ に由来し,連鎖 群 R02 に座乗し,‘CR 新黄’ を加害する K04 菌株に対し て抵抗性を示すので,この抵抗性遺伝子は ‘CR 新黄’ が 有する抵抗性遺伝子とは異なる。 Crr1 と Crr2 は抵抗性素材 ‘Siloga’ に由来する抵抗性 遺伝子であり,それぞれ連鎖群 R08 と R01 に座乗して いる。グループ 4 に属する Ano ― 01 菌株に対する抵抗 性試験では,Crr1 ホモ型の個体は完全な抵抗性を示す のに対して,ヘテロ型では抵抗性の程度が弱まり,抵抗 性から罹病性を示す個体が生じ,罹病性ホモ型の個体で はほとんどすべて罹病性を示す。一方で宿主範囲の広い Wakayama ― 01 菌株に対しては,Crr1 および Crr2 単独 2004),CRc と CRk(SAKAMOTOet al., 2008),Crr1 と

Crr2(SUWABEet al., 2003),Crr3(HIRAIet al., 2004)な どが報告されている。CRa は ECD 法において ECD ― 02 に分類された抵抗性素材に,CRb は F1品種 ‘CR 新黄’ (タキイ種苗)にそれぞれ由来している。この二つの遺 伝子座は連鎖群 R03 の極めて近いところにマッピング されているため,同じ遺伝子座である可能性もある。 二つの根こぶ病菌株 M85 と K04 に対して抵抗性を発 揮する CRk は抵抗性素材 ‘Debra’ から品種化された ‘CR 歓呼’(日本農林社)に,グループ 4 に属する Ano ― 01 菌 株 に 対 す る 抵 抗 性 を 発 揮 す る C r r 3 は 抵 抗 性 素 材 ‘Milan White’ にそれぞれ由来している。CRk と Crr3 は, CRa や CRb が座乗する領域とは約 30 cM 離れているた めこれらとは異なる遺伝子座であるが,互いに R03 の 近い位置に座乗するため今後,両者の違いは遺伝子座で 植 物 防 疫  第 66 巻 第 1 号 (2012 年) 44 ―― 44 ―― 図 −1 ハクサイ根こぶ病の病徴(左:圃場で発病,右:幼苗検定で発病) 表 −1 4 グループの根こぶ病菌に対する ‘あきめき’ の抵抗性 品種名 グループ 1 グループ 2 グループ 3 グループ 4 無双※ a S S S S CR 隆徳 S S R R HATAKEYAMAet al.(2004)のグループ分けに従った. R:抵抗性,PR:一部抵抗性,S:罹病性. ※ a‘無双’ は抵抗性遺伝子を持たない罹病性品種. ※ b ‘はくさい中間母本農 9 号’ はグループ 3 に属する菌によって弱い抵抗性から罹病性を示す. SCR ひろ黄 S R S R はくさい中間母本農 9 号※ b R R PR または S R あきめき R R R R

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以上の育成過程において,戻し交雑後代では二つの遺 伝子がともにヘテロ型の個体が 4 分の 1 の確率で得られ るが,もしこの世代で抵抗性検定を行うと,これらのヘ テロ型個体は Wakayama ― 01 菌株に対してはほぼ完全 に罹病する。しかし,遺伝子マーカーを指標として二つ の抵抗性遺伝子がヘテロ型の(罹病性)個体に連続戻し 交雑を実施し,形質が戻し親にほぼ同じになった時点で 自殖を行い,自殖後代の中から 16 分の 1 の確率で 2 座 ともに抵抗性ホモ型を得る。このようにマーカー選抜の 利点は罹病性の個体であっても潜在的に抵抗性を持つ個 体を選抜することができることと抵抗性遺伝子座に密接 に連鎖したマーカーであれば抵抗性検定を極力省けるこ とである。 ‘はくさい中間母本農 9 号’ とマーカー選抜技術を活用 して,株式会社日本農林社との共同研究により,実用 F1品種 ‘あきめき’ を育成した。育成計画においては, この中間母本を 1 回親,日本農林社育成の F1品種 ‘秋理 想’ の両親を戻し親として,それぞれ 4 回の連続戻し交 雑と自殖により二つの根こぶ病抵抗性遺伝子を固定し た。その後試交 F1を育成し,抵抗性を導入する前の品 種との特性を比較した。‘はくさい中間母本農 9 号’ はグ ループ 3 に属する根こぶ病菌には一部罹病するが,戻し 親に用いた ‘秋理想’ の一つの親がグループ 3 に対する抵 抗性遺伝子を有しており,その遺伝子はほぼ完全優性と して機能した。このため育成された ‘あきめき’ は 3 種類 の抵抗性遺伝子を集積し,HATAKEYAMAet al.(2004)に よって分類された 4 グループすべてに抵抗性を示す (表― 1),はじめての実用品種である。根こぶ病菌が多 発した圃場でも ‘あきめき’ は強い抵抗性であった(図― 2)。‘あきめき’ と元品種である ‘秋理想’ は,根こぶ病抵 抗性以外の形状や栽培特性においては見分けがつかな ではほとんど抵抗性を示さず,二つの抵抗性遺伝子型が ともにホモ型を示す個体のみが抵抗性を示す。根こぶ病 抵抗性は,単一の優性遺伝子と複数の微動遺伝子から形 成されると考えられていたが,抵抗性遺伝子によっては 抵抗性が部分優性から劣性として機能している。以上の ように,宿主範囲の広い Wakayama ― 01 菌株やグルー プ 1 に属する No.5 菌株に対して Crr1 と Crr2 の抵抗性 がともに不完全優性形質を示すために,充分な抵抗性を 付与するには,二つの抵抗性遺伝子をともにホモ型に集 積する必要がある。Crr2 は単独で存在しても抵抗性は 発揮されず,Crr1 と同時に存在することにより抵抗性 を強力に付与する,いわばエンハンサー的な役割を担う と推定されている。 CRa,CRb,Crr1,Crr2 の周辺領域のマーカーの配列 はいずれもシロイヌナズナの第 4 染色体の一部と高いシ ンテニーが認められている(SUWABEet al., 2006;加藤ら, 2011;上野ら,2011)。病害抵抗性に関与する遺伝子は 染色体上に複数クラスターを形成することが知られてお り,根こぶ病抵抗性においてもハクサイ類では異なる連 鎖群にありながら,その起源はシロイヌナズナの一部か ら派生したと考えられている。このような情報は,新た な病害抵抗性を知るうえで有用な情報となりえるであろう。 III マーカー選抜が可能な育種素材 ‘はくさい中間母 本農 9 号’ と実用 F1品種 ‘あきめき’ の育成 宿主範囲が広く,多犯性の Wakayama ― 01 や No.5 菌 株に対して抵抗性を付与でき,かつ効率的な選抜を行う ためにマーカー選抜が可能なハクサイ系統の開発に取り 組んだ。最初に罹病性と ‘Siloga’ 由来の抵抗性系統間の 交雑 F3個体の中から Crr1 と Crr2 の連鎖マーカー型が 抵抗性ホモ型で Wakayama ― 01 菌株に対して抵抗性を 有する個体を選んだ。この個体にハクサイの形状をもつ 罹病性系統 ‘A9709’ を戻し親に用いて交配を行った。各 世代で DNA マーカーにより選抜することを 3 回繰り返 し,最後に両抵抗性遺伝子をホモに集積するために自殖 した。すなわち,Crr1 と Crr2 のゲノム領域だけを抵抗 性親側に,他のゲノム全体はハクサイ型にすることによ って,形状はハクサイで強い抵抗性を有するハクサイを マーカー選抜のみで育成した。得られた個体はいずれも Wakayama ― 01 と No.5 菌株に対して抵抗性を示した。 さらに自殖により固定を進め,圃場での形質評価を行っ た。育成された系統はいずれも Wakayama ― 01 と No.5 菌株に対して,強い抵抗性を示すとともに,形質も元の 罹病性のハクサイとほぼ同等であったため,平成 21 年 に ‘はくさい中間母本農 9 号’ として種苗登録出願を行った。 ハクサイ類の根こぶ病抵抗性の遺伝学的研究と抵抗性品種の開発 45 ―― 45 ―― 図 −2 根こぶ病激発圃場における ‘あきめき’(左)と ‘秋 理想’(右)の生育の比較

(4)

には形質の劣化を招きかねないことやコスト面から敬遠 されてきた面もある。今後はマーカー選抜を活用するこ とによって,その効率性や正確性は向上する。一例を挙 げるとナバナ栽培においても根こぶ病の被害が深刻化 し,その対策は重要であり,ナバナ産地の一つである千 葉県では民間種苗会社との共同研究により,同様の手法 により抵抗性品種の育成に取り組んでいる。 引 用 文 献

1)HATAKEYAMA, K. et al.(2004): Breeding Science 54 : 197 ∼ 201.

2)畠山勝徳ら(2011): 園芸学研究 10(別 1): 412. 3)HIRAI, M. et al.(2004): Theor. Appl. Genet. 108 : 639 ∼ 643.

4)堀内誠三(1981): 植物防疫 35 : 23 ∼ 27. 5)池上八郎(1992): 土と微生物 39 : 1 ∼ 10. 6)加藤丈幸ら(2011): 育種学研究 13(別 2): 37. 7)MATSUMOTO, E. et al.(1998): Euphytica 104 : 79 ∼ 86.

8)PIAO, Z. et al.(2004): Theor. Appl. Genet. 108 : 1458 ∼ 1465. 9)SAKAMOTO, K. et al.(2008): ibid. 117 : 759 ∼ 767.

10)SUWABE, K. et al.(2003): ibid. 107 : 997 ∼ 1002.

11) et al.(2006): Genetics 173 : 309 ∼ 319. 12)對馬誠也(2003): 植物防疫 57 : 33 ∼ 36. 13)上野広樹ら(2011): 育種学研究 13(別 2): 44. 14)WILLIAMS, P. H.(1966): Phytopathology 56 : 624 ∼ 626. 15)吉川宏昭(1990): 植物防疫 44 : 295 ∼ 298. 16) (1993): 野菜茶試研報 7 : 1 ∼ 465. い。ハクサイに強度の根こぶ病抵抗性を付与すると形質 が劣ることが指摘されてきたが,‘あきめき’ は,‘秋理 想’ の形状の良さと黄化病抵抗性を受け継いでいる(図― 3)。 お わ り に これまでの抵抗性検定選抜に頼った育種にマーカー選 抜を加えることにより,効率的に多犯性の菌株に対して 抵抗性を付与することが可能になった。しかしながら, 根こぶ病菌株は多様であり ‘あきめき’ のように 3 種類の 抵抗性遺伝子を集積したとしても十分ではない。一方で 元素材であるヨーロッパ飼料用カブは,ハクサイ類には 多犯性であると菌株に対しても強力な抵抗性を示してい る。多様な抵抗性遺伝子(座)の存在とその性質が明ら かになりつつある現在,より計画的で効率的な抵抗性育 種が展開されることを期待している。また根こぶ病はハ クサイに限らずアブラナ科の野菜に深刻な被害を及ぼし ている。特に地方在来のカブ類については根こぶ病によ る被害が深刻であるにもかかわらず,抵抗性品種の開発 植 物 防 疫  第 66 巻 第 1 号 (2012 年) 46 ―― 46 ―― 図 −3 ‘あきめき’ の収穫物外観(左)と縦断面(右)

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