• 検索結果がありません。

日本の教育経済学の潮流

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "日本の教育経済学の潮流"

Copied!
10
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1 章 はじめに  平成 24 年 3 月に文部科学省は「平成 23 年度 以降の全国的な学力調査の在り方に関する検討 のまとめ」という提言をしている.提言の中で 文部科学省は,平成 25 年度以降きめ細かい調 査の実施が必要であると述べたうえで,学力に 影響を与える要因分析や教育施策の検証・改善 をするべきだと述べている.文部科学省も学力 の決定要因や教育政策による効果の分析が急務 だと認識したと言えよう.  日本における教育の経済学は荒井(1990)・ 中村(1992)の教育の決定要因の分析から始まっ たと言える.1990 年代はデータの不足もあり, 荒井や中村は都道府県別の集計データを用いて 回帰分析を行っている.荒井は県別集計データ を用い,県別の大学進学率の決定要因を分析し ている.父親の学歴と母親の学歴が,子供の大 学進学の決定要因に大きな影響を与えるが母親 の学歴の影響は父親の学歴の影響より劣る.ま た親の学歴の影響は子供が女子より男子である 場合のほうが大きくなると指摘している.中 村 は,「就業構造基本調査」の 2 時点間 データ を 用 い,両親 の 学歴・収入・年齢 を 説明変数 に入れ,進学決定の要因を multi-nominal logit model で分析している.そして,親の所得が子 供の進学決定に大きな影響を与えるという結論 を導いている.  その後,徐々に教育の経済学に関心が集まり, Oshio and Senoh(2007)や 北條(2011)が 日

本の教育の経済学に関するサーベイを行ってい る.Oshio and Senoh は 2003 年 ま で の 日本 の データを用いた教育の経済学をサーベイをし, 教育の経済学をより発展させるためにはパネル データの蓄積が必要であると指摘している.北 條は,Oshio and Senoh のサーベイ論文以降利 用可能になったデータとデータごとの教育の経 済学に関する論文を紹介している.

 本論文の目的は,Oshio and Senoh・北條の サーベイ論文を踏まえたうえで,2000 年代以 降の教育達成の決定要因と教育政策変更によ る効果に着目したサーベイを行うことである. 2000 年代中盤まで,教育に関する質問を含ん だデータが入手困難であったため,計量経済学 的な課題が残されていた.しかし近年,大阪大 学の 21 世紀 COE プロジェクト「くらしの好 みと満足度についてのアンケート」,慶應大学 の「日本子どもパネル調査(JCPS)や東京大 学大学院の「高等教育グランドデザイン策定の ための基礎的調査分析」に加え,国際数学・理 科教育調査(TIMSS)や 東京都 や 横浜市 の 全 国学力・学習状況調査のデータも入手可能であ り,各市町村で学校単位での公表をする傾向が みられる.このように入手できるデータが増加 したことで,教育の経済学の分野も多くの蓄積 がなされ,日本経済学会で一つのセッションが 設けられている.本論文では,2000 年中盤以 降にさらに発展しつつある教育達成の要因分析 と教育政策変更による効果に着目しサーベイを 行う.

日本の教育経済学の潮流

渡  邊  智  美

(2)

 本論文における先行研究の分析結果より,教 育達成の要因分析においてはより長期的なパネ ルデータが必要であることがわかった.教育政 策変更による効果分析においては,日本ほど教 育政策の変更を頻繁に行う国はないため,より 細かい教育政策の変更が学力に与える効果を分 析する必要があると言える.  論文の構成は以下の通りである.第 2 章で は,教育達成の要因分析に関する既存研究につ いて経済学的な視点で書かれた論文をサーベイ する.第 3 章では教育政策変更が教育達成に与 える効果に関連する経済学の論文をサーベイす る.第 4 章では,第 2 章と 3 章を踏まえたうえ で,現在の教育の経済学の流れと今後の教育の 経済学の動向を述べる. 2 章 教育達成の要因分析に関するサーベイ  本章では教育達成の要因分析の論文を概観す る.教育達成の要因分析では,個人のデータを 用いた分析と学校のデータを用いた分析があ る.個人のデータを用いた分析では,個人の学 力がどの時点で決定されるかが主な関心になっ ている.先行研究を概観した結果,出生時の環 境,その後の環境も学力に影響を与える結論を 導いている.しかし,論文の多くが OLS 分析 による推定のため,個人のデータで観察できな い要因と説明変数の間に相関が生じており一致 推定量が得られていない可能性がある.  一方学校のデータを用いた分析では学校のど のような要素が子供の学力を決定しているかに 関心がある.しかし個人のデータ分析に比べ, 学校のデータを用いた分析はあまり発展してい ない.理由として学校単位の成績の情報を得る ことが難しいことが挙げられる.なぜなら競争 を好まない公立学校が成績開示をしようとしな いからである.また,学校単位のデータを入手 できたとしても長期間のデータを入手すること は困難である.そのため学校の生産関数を推定 する分野を発展させるには,より多くのデータ の入手が可能になる必要がある.  本章では,以上の理由からまず個人のデータ を用いた分析のサーベイを行う.出生時の環境 が教育達成に与える影響,出生後の環境が教育 達成に与える影響についての論文を概観する. 次に,学校の生産関数を推定している論文の サーベイを行う.  出生時の環境がその後の学力に与える効果を 分析した論文には Kawaguchi(2011)や山下 (2009)や小原・大竹(2009)がある.これら の研究によれば,出産時の子供の環境が,子供 の教育達成に影響を与えているという同一の結 果を導いている.  Kawaguchi は生まれ月が教育年数に与える 効果を分析し,4 月生まれは 3 月生まれに比べ 教育年数が増加することを示している.山下は, 兄弟数や兄弟構成といった生まれ育った環境が 高校退学に与える効果を分析しており,兄弟数 が多いほど高校退学率が上昇することを示して いる.小原・大竹は出生時の体重が学力に与え る効果を分析しており,出生時の体重が低けれ ば学力が下がることを指摘している.これらの 結果は,多くの教育経済学の蓄積がされている 欧米の結果と整合的である.  Kawaguchi(2011)は,日本 の 教育 で は 4 月 2 日から翌年の 4 月 1 日までが同じ学年にな る制度に着目し,出生月が教育年数と所得に与 える効果を労働力調査を用いて robust 分析し ている.分析の結果,4 月生まれの男子学生は 3 月生まれの男子学生に比べ 0.14 年教育年数が 長くなることを見出している.また,4 月生ま れの女子学生は 3 月生まれの女子学生に比べ 0.07 年教育年数が長くなることを見出してい る.一方で男女ともに出生月が所得に与える効 果は示されていない.Robust 分析をしている ものの,出生月が父親の職業など観察できない 個人の要因と相関している可能性がある.  山下は日本の男女の教育達成に対する兄弟 数 と 兄弟構成並 び に 出生順 の 効果 に つ い て ordered probit モデルを用いて分析している. 分析の結果,兄弟数が多いほど高校を退学する

(3)

割合が 5.9% 上昇することを見出している.兄 弟構成別にみると男性の兄弟がいる場合には, 高校を退学する割合が 0.6% 上昇するのに対し, 女性の姉妹がいる場合には高校を退学する割合 が 10.9% 上昇することを見出している.一方で, 最初に生まれた男子は,高校を退学する割合が 最も少ないことを示している.データは日本大 学の個票データを使用している.個票データを 用いて分析しているが,家族環境といった個人 に特有の属性と兄弟数が相関している可能性が ある.  小原・大竹は,子供の出生時と出生後の環境 が子供の教育達成に与える効果について相関分 析している.子供の学力テストの点数と都道府 県別の低体重児割合の間には負の相関があるこ とを指摘している.また各都道府県の出生時の 平均体重と出生時の失業率の間には負の相関が あることも示している.体重に関するデータは 厚生労働省の人口動態統計を用い,失業率に関 するデータは総務省統計局の国勢調査を用い, テストの点数に関するデータは全国学力・学習 調査を用いている.小原・大竹の論文では手に 入るデータが少ないため,相関分析のみとなっ ている.  出生後の子供の環境が子供の学力に与える効 果を分析した論文には田中・山本(2009)や菅 (2010)や窪田(2012)がある.これらの研究 では,出生後の環境が子供の教育達成に有意な 効果があることを見出している.田中・山本と 管は,母親の就業が子供の教育達成に負の効果 があると結論づけている.窪田は,親の所得が 子供の教育達成に正の効果があることを見出し ている.  田中・山本は,幼少期に母親が就業すること が子どもの私立・公立中学校の進学率に与える 効果についてプロビットモデルを用いて分析し ている.分析の結果,小学生時の母親の就業は 男女同一のデータにおいては私立・国立中学校 進学を 3.2% 減少させ有意な値である.また, 小学生時の母親の就業は男子のみのデータにお いて,私立・国立中学校進学を 4.9% 減少させ 有意な値をとっている.一方で,女子のみの データにおいて,小学生時の母親の就業は 1.7% 減少させるものの有意な値をとらない.データ は大阪大学 21 世紀 COE プログラム「アンケー トと実験による行動マクロ動学」の個票データ を用いて分析している.この分析では母親の就 業が父親の所得により内生的に決まることなど が考慮されていない.よって,私立・国立中学 校進学の限界効果にバイアスが生じている可能 性がある.  菅は母親の就業が子どもの教育に与える効果 に つ い て OLS と Average Treatment Effects という手法を用いて分析している.OLS 分析 の結果,母親の就業ダミー変数は子供の教育 年数を 0.07 年減少させることを見出している が,有意 な 値 で は な い.Average Treatment Effects を用いた結果,女性サンプルのみ母親 の就労の変数は教育年数に負の効果をもたらす が,母親のフルタイムダミーは教育年数に正の 効果をもたらす.データは東京大学社会科学研 究所の「働き方とライフスタイルの変化に関す る全国調査」を利用している.  親の所得が子供の教育水準に与える影響を操 作変数法を用いて分析した論文に窪田(2012) がある.窪田は大阪大学 21 世紀 COE プロジェ クトによって実施された「くらしの好みと満足 度についてのアンケート」の結果を利用し,親 の所得の操作変数に父方と母方両方の祖父の教 育水準を用いて分析している.分析の結果,所 得が 10% 上昇すると子供の教育年数が 1.5 年増 加することを見い出している.  大学進学を決定する際の要因について分析し た論文には藤村(2007)と島(2007)が挙げら れる.藤村と島の論文によれば,家庭の経済状 況が大学進学に正の効果があることを見いだし ている.藤村と島は高等教育グランドデザイン 策定のための基礎的調査分析という東京大学が 公表しているデータを用いて教育達成の決定要 因について分析している.

(4)

 藤村は大学進学における決定要因をロジス ティック回帰で分析している.被説明変数を質 問者である高校生が回答している希望進路と し,大学進学の決定要因を分析している.分析 の結果,大学進学には家計の経済状況や現在の 成績および貸与奨学金が大学進学希望に影響を 与えていることを見出している.  島は大卒と高卒の収入による主観的考え,親 の所得,親の主観的な資金調達に対する考え, 子供本人の主観的な資金調達に対する考え,中 学 3 年時点での教育費,保護者の最終学歴が子 ども本人の大学進学にどのように影響している かを OLS 分析している.分析の結果,父親の 最終学歴,親の主観的な資金調達に対する考え が子どもの大学進学希望に強く影響しているこ とを示している.すべての説明変数の内生性が 考慮されていない.  受験時の能力がその後教育を受けることを通 してどのように変化していくかの研究では,浦 坂・西村・平田・八木(2001)や原・松繁・梅 崎(2002)や小塩・佐野・末富(2009)が挙げ られる.浦坂・西村・平田・八木や原・松繁・ 梅崎の論文によれば数学を選択することや英語 の資格を持っていることがその後の所得や就業 可能性に正の有意な効果があることを指摘して いる.また小塩・佐野・末富によれば入学時の 学力が大学進学率に正の効果があることを示し ている.一方で,個人の生まれ持った能力やや る気など観察できない要因と数学選択や英語の 資格などが相関している可能性があり,計量経 済学的に問題がある可能性がある.  原・松繁・梅崎は,英語の能力が就業可能性 に正の効果を示すかについて分析をしている. 分析の結果,英語の資格は,0.2546 の就業可能 性を上げることを見出したが,有意な値をとら ない.原・松繁・梅崎は,1998 年に行われた 外国語能力の経済的価値に関する調査の個票 (ある国立大学文学部を卒業した女性 325 名に 行ったアンケート調査)を用いて,多項ロジッ ト分析を行っている.サンプルの個人の観察で きない属性と英語の資格の間には相関が生じて いる可能性がある.しかし,原・松繁・梅崎は それらを考慮していない.  浦坂・西村・平田・八木は,受験時の数学選 択が大学での成績と所得に与える効果を分析し ている.分析の結果,受験時の数学選択は学業 ダミーに 0.2073046 の 1% 水準で有意な限界効 果を与え,学業成績上位ダミーに 0.0494333 の 5% 水準で有意な限界効果を与え,現在の所得 に 5% 水準で有意な 0.1267263 の効果を与える ことを見出している.妹尾は,受験時の数学選 択の有無の変数が大学での成績と所得に与える 効果について,プロビット分析をしている.独 自に収集した 3 私立大学経済学部出身者の大学 教育とキャリア形成に関する実態調査のデータ を分析に用いている.サンプルの個人の観察で きない属性と数学選択の有無の変数の間に相関 が生じている可能性があるが,妹尾はそれらの 相関を考慮していない.  小塩・佐野・末富は,首都圏と近畿圏の私立 中学入学時の偏差値が大学進学率に与える効果 について OLS 分析している.分析の結果,首 都圏,近畿圏ともに私立中学入学時の偏差値と 総授業時間が大学進学率に 1% 水準で正の有意 な効果をもたらしていることを示している.大 学進学率 は 毎日新聞社「サ ン デー毎日特別増 刊・大学入試全記録「高校 の 実力」」を 用 い, 大学の偏差値は駿台予備校の全国模試のデータ を利用している.この論文は OLS 分析をして いるため,有意な値をとっている総授業時間数 や大学進学率が,各私立中学校によって内生的 に決まっている可能性がある.  学校の物的・人的資本投入が学力にどのよう な影響があるかの論文には,妹尾・山内(2004) や篠崎(2008)がある.これらの研究によれば, 物的・人的資源が学力に正の有意な効果をもた らしている.  妹尾・山内は学校の物的資源が医師国家試験 合格率に正の効果があることを見いだしてい る.また,篠崎は,千葉県の全公立小中学校の

(5)

全国学力状況調査を用いて学校の生産関数を推 定している.この分析においても,物的資源や 人的資源が学力に正の有意な効果をもたらして いる.妹尾・山内は,教育の質が医師国家試験 合格率にもたらす効果について分析している. ランダム効果モデルを用いて分析した結果,医 師国家試験合格率 に 公立 ダ ミーが 0.347,私立 ダミーが 0.919,学生一人当たり蔵書数が 0.001, 入学時偏差値が 0.351,併設学科ダミーが 0.352 で正の有意な効果を見出している.一方,単科 大学ダミーは -0.364 で負の有意な効果を見出し ている.上記以外の教育の質を示す変数は有意 な効果を見出せず,大学では教育の質が学生の パフォーマンスをよくしているわけではないと 結論付けている.分析には,医学部 79 大学過 去 5 年間のパネルデータ(朝日新聞大学ランキ ング・医師国家試験合格率に関しては厚労省の 資料より独自に作成したデータ)を用いている.  篠崎は,千葉県の全公立小中学校の全国学力 状況調査を用いて学力の決定要因を OLS 分析 している.分析の結果,物的資源においては少 人数指導学習スペースの有無が数学の平均点に 負の有意な効果を見出している.人的資源にお いては,教員の平均年齢の上昇が算数の平均点 に負の有意な効果があることを見出している. また,実践的な研修の程度は,算数と国語の平 均点に正の有意な効果があることを見出してい る.OLS 分析のため,学校に特有の観察でき ない要因と説明変数が相関している可能性があ るが,今まで公表されなかった小中学校ごとの 学力のデータを用いて生産関数の推定を行った ことは教育の経済学において大きな貢献であっ たと言える. 3 章 教育政策への政策評価に関するサーベイ  本章では教育政策が学力に与える効果につい ての論文を概観する.教育政策には国全体で打 ち出している政策と都道府県または市町村が独 自に打ち出している政策がある.国全体で行わ れている政策は,政策のみの学力に与える効果 をみることは難しい.なぜなら日本の教育政策 は同時に別の政策も並行して行われていること が多いからだ.そのため,日本の教育政策をよ く調査し,純粋な効果を分析する必要がある.  都道府県または市町村が独自に打ち出してい る政策評価の分析では,学校単位の成績のデー タを入手することが難しい.しかし,大きな政 策変更をするためにまずモデル校をいくつか導 入してから全体で実施するケースも多い.その ため,都道府県または市町村ごとに導入のプロ セスのデータを入手することができれば,これ らの政策の評価を行うことは可能である.  本章では,まず国全体で行われている政策評 価に関する論文を概観する.次に,都道府県別 または市町村別の政策評価に関する論文を概観 する.国レベルでの教育政策が学力に与える効 果を分析した論文には中村(2009)・菊地(2010) や北條(2010)や赤林・中村(2011)が挙げら れる.中村や菊地は,学習カリキュラムの変更 が進学率に与える効果は見出せないという結果 を見いだしている.北條や赤林・中村は少人数 制クラスが学力に与える効果を分析している. 北條は少人数制クラスが学力に与える効果が見 出せないと結論付けている.一方で,赤林・中 村は,学級規模縮小が学力に正の効果見いだし ており,少人数制クラスにおける学力への効果 は様々である.  カリキュラム変更による授業時間の変更が学 力に与える効果について分析した論文に,中村 (2009)・菊地(2009) が挙げられる.中村は, 学習指導要領の変更による授業時間数の変更が 教育達成に与える効果について分析している. 菊地は,学習指導要領の変更による授業時間数 の変更が大学進学率と高校進学率に与える効果 について分析している.分析の結果,学習指導 要領の授業時間数の変更は大学進学率と高校進 学にほとんど影響がないことを見出している.  北條(2010)は,少人数指導,習熟度別指 導,教師年齢構成が学力に与える効果につい て OLS 分析をしている.分析の結果,小学生

(6)

全サンプルを用いた分析では習熟度別指導の 有無は成績に有意な効果がないことを見出し ている.中学生男子サンプルを用いた分析で は習熟度別指導の有無は成績に 5% の正の有意 な効果があることを見出している.一方で両親 の学歴が学力に正の有意な効果があるため,家 庭の要因が大きいと結論付けている.データ は TIMSS の 2007 年の調査結果である小学校 4 年と中学 2 年の数学と理科の成績を利用してい る.この分析では私立中学校の生徒を分析対象 としていないため,一致推定量が得られていな い可能性がある.  赤林・中村(2011)は,学級規模縮小が成績 に与える効果について分析している.赤林・中 村 は,在籍児童生徒数 が 40 人 か ら 41 人 に 変 化するときに大きく学級規模が縮小する日本の 学級編制制度に着目し,学級編制の非連続性を 操作変数に用いて分析している.分析の結果, 学級規模の 1 人の減少が小学校 6 年生の国語の 成績に正の有意な効果をもたらすことを見出し ている.データは横浜市に情報公開請求をし, 横浜市学習状況調査と全国学力学習状況を用い て分析している.  都道府県や市町村レベルでの教育政策の変 更が学力に与える効果について分析した論文 に Akabayashi(2006) や Yoshida・Kogure・ Usijima(2007)や赤林・荒木(2008)や赤林・ 直井(2009)が挙げられる.  Akabayashi(2006)は,学区制 の 拡大 が, 大学進学に与える効果を分析している.分析の 結果,学区の拡大が公立の普通科高校の大学進 学率を上昇させる一方で私立高校の大学進学率 を下降させることを示した.分析には,高校総 覧と全国学校総覧のデータを用いている.県ご とに異なる学区拡大の政策変更を用いて差の差 推定することで,学校ごとの観察できない要因 の内生性を考慮している.  Yoshida・Kogure・Usijima(2007) は, 足 立区の中学校選択制の実施が中学校の質を上げ たかについて logistic regression model を用い

て分析している.1995 年から 2000 年までのセ ンサスと足立区が公表した学力テストの結果を データとして使用している.分析の結果,中学 校選択制の導入により,良い成績を修めている 学校の近くに住んでいる生徒はよりよい成績の 中学校を選ぶ傾向にあることを見出している. 一方で,良い成績を修めている学校の近くに住 む生徒は,より良い成績を修めている公立中学 校に進学するか,それとも中学受験をし,私立 中学校に行くかの選択に直面していることも見 出した.識別戦略がないため,学校に特有の特 性が誤差項に含まれており,内生性の問題が生 じている可能性がある.悪い成績を公表される ことを恐れた教師が,成績の悪い生徒の成績を 申告しなかった問題も後日発覚しているため, データ自身にバイアスが生じている可能性があ る.  赤林・荒木(2010)は,授業料補助の政策が 私立高等学校の学生の中退率に与える効果につ いて分析している.分析の結果,補助金の増加 は有意ではないものの私立高等学校の退学率を 減少させる結果を導いている.日本の各県では, 私立高等学校進学者の授業料の負担を減らすべ く授業料補助の政策をとっている.赤林・荒木 は各県で異なる授業料補助の政策に注目し,授 業料補助の政策が私立高等学校の退学率に与え る効果について各県の幼稚園児一人当たりの補 助金の公立幼稚園と私立幼稚園の比を操作変数 に用いて分析している.データは高等学校総覧, 高等学校情報,高等学校名鑑を使用している.  赤林・直井(2009)は,都道府県別パネルデー タを用い高校入試の科目数が大学進学率に与え る効果を差の差推定している.分析の結果,総 合試験の実施は高卒者に対する 4 年制大学と短 大進学率を有意に上昇させることを見出してい る.また,試験科目の増加も高卒者に対する大 学進学率を有意に上昇させることを見出してい る.データは入試制度の変更は部科学省の「公 立高等学校入学者選抜実施状況に関する調査報 告書」を利用し,大学進学率に関しては学校基

(7)

本調査を用いている. 4 章 まとめ  本論文の目的は,教育達成の決定要因と教育 政策変更による学力への効果に着目し 2000 年 代以降の教育の経済学の論文のサーベイを行う ことである.本論文では,2000 年中盤以降の 教育達成の要因分析と教育政策の政策評価の分 析に着目しサーベイを行った.具体的には,日 本経済学会で発表されておりかつ入手可能な論 文と日本のデータを用いた教育の経済学の論文 で公刊されている論文を中心にサーベイを行っ ている.教育達成の要因分析においても教育政 策の評価の分析においても 2000 年代初期と比 較するとさまざまなデータを用いて分析を行っ ている.これは,2000 年代以降個人の教育達 成が分かる入手可能なデータが増加したためで あると考えられる.  欧米の教育の経済学の論文に比べ,男女間の 教育達成の差や学歴間の差や私学と公立の差な どほとんど発展していない研究分野が多く存在 する.男女間の教育達成の差を分析している論 文には,北條(2011)や安田(2012)がある. 用いているデータは異なるが,男女間の教育達 成の差の結果は北條と安田で異なる.北條は小 学 4 年と中学 2 年時点において数学と理科の成 績は男子の方が良いとの結果を導いている.一 方,安井は大学時点では,女子の方が成績がよ いと結論付けている.  学歴間の賃金差を分析している研究には野 呂・大竹(2006)や 佐野・安井(2012)が あ る.どちらの論文もコーホート分析を行ってお り,コーホートの年齢が上がる程学歴が賃金に 与える効果の差が大きくなることを示唆してい る.2000 年代以降の論文としては上の 2 本し かなく,日本のデータを使った賃金関数の推定 はあまり研究が進んでいない.この理由は教育 のみに影響を与える操作変数を探すことが大変 難しいためであると考えられる.OLS 推定で は,教育年数が賃金に与える純粋な効果を見出 すことが難しい.なぜならば,教育年数と個人 の観察できない我慢強さのような変数が,教育 年数と相関している可能性があるからだ.教育 のみに影響し他の変数に影響がないような外性 変数を見つけることがこの分野の発展に必要で ある.  私学と公立を選択した児童がその後の教育達 成に与える効果についての研究もなされていな い.日本ではお受験戦争が激しいため大変興味 深い課題ではあるが,中学から私学なのか高校 から私学なのか質問しているデータがない.ま た,中学から私立を選択する子供と公立を選択 する子供は家庭環境など観察できない要因によ る差が大きいと考えられる.よって OLS 推定 では一致推定量を得られない可能性がある.一 方で,私学の生徒と公立の生徒に異なる外生的 な変数を発見することが難しい.この内生性の 問題が解決できないがために発展していないと 考えられる.  論文をサーベイした結果,政策変更の効果に 関する分析をする必要がある.日本の教育政策 は,平成 14 年の学習指導要領の変更を始めと して頻繁に変更されている.また,都道府県ご とや市区町村ごとに異なる政策をとっている地 域もある.各教育委員会は,教育政策を変更す る際に多くの議論を行っているが施行した政策 に対する評価はほとんどされていない.政策に 対する評価をするには市区町村ごとの学力テス トの結果といった学力を数値化したデータが必 要である.ここ 2,3 年で,テストを公開して いる市区町村は増加している.このような集計 データからでも政策評価について分析する必要 がある.しかし,テストの成績を公開している データを利用する場合には,公開している市町 村の特性を理解したうえで使用することも必要 である.なぜならば,成績を公開するインセン ティブがはたらいている市町村が成績を公開し ようとする可能性があるからである.

(8)

参考文献 荒井一博(1990)「大学進学率の決定要因」『経済 研究』41 巻,pp. 241─249 伊藤由樹子・鈴木亘(2003) 「奨学金 は 有効 に 使 わ れ て い る か」家計経済研究 (58), 86─96, 2003 浦坂純子・西村和雄・平田純一・八木匡(2001)「数 学教育と大学教育・所得・昇進─「経済学部 出身者の大学教育とキャリア形成に関する実 態調査」に基づく実証分析─」『日本経済研 究』,46 号, pp. 1─22 赤林英夫・荒木宏子(2008)「私立高等学校授業料 補助(≒教育バウチャー)が高校中退に与え た 影響 の 実証研究」RIETI Discussion Paper 2009 赤林英夫・直井道生(2009)「入学試験 は 人的資 本蓄積を促進するか?学校入学者選抜試験の 変遷 を 利用 し た 実証分析」2009 年(財)統 計研究会報告論文 赤林英夫・中村亮介(2011)「学級規模縮小 が 学 力に与えた効果の分析─横浜市公開データに 基づく実証分析─」日本経済学会春季大会報 告論文 小塩隆士・佐野晋平・末富芳(2009)「教育 の 生 産関数の推定─中高一貫校の場合─」『経済 分析』,第 182 号,pp. 48─69 大谷剛・梅崎修・松繁寿和(2003) 「仕事競争 モ デルと人的資本理論・シグナリング理論の現 実妥当性に関する実証分析」『日本経済研究』 第 47,2003 年 3 月,pp. 41─62 小原美紀・大竹文雄(2009)「子どもの教育成果 の 決定要因」『日本労働研究雑誌』No. 588, pp. 67─84 菅万里(2009)「母親の就労が思春期の子どもの 行動・学業に及ぼす効果 : Propensity Score Matching に よ る 検証」東京大学社会科学研 究所パネル調査プロジェクトディスカッショ ンペーパーシリーズ No. 28 菊地信義(2010)「学習指導要領改訂の効果の推定」 第 5 回応用計量経済学カンファレンス発表論 文 窪田康平(2012)「親の所得が子どもの教育水準 に 与 え る 影響」2012 年労働経済東西合同 カ ンファレンス発表論文 佐野晋平・安井健悟(2012)「教育 が 賃金分布 に 与 え る 影響」2012 年労働経済東西合同 カ ン ファレンス発表論文 篠崎武久(2008)「教育資源と学力の関係」千葉 県検証改善委員会『平成 19 年度全国学力・ 学習状況調査分析報告書』第 7 章,pp. 73─ 97 島一則「大学進学行動の教育経済学的分析─ミク ロデータによるマクロデータ分析結果の検討 ─」(東京大学・大学経営・政策 セ ン ター・ 文部科学省科学研究費補助金(学術創成研究 費「高等教育グランドデザイン策定のための 基礎的調査分析」:平成 17~21 年度)に よ る「高校生の進路についての調査」ワーキ ン グ ペーパー http://ump.p.u-tokyo.ac.jp/ crump/cat79/post-9.html)) 妹尾渉・山内直人(2004)「日本 の 医学部教育・ 研究 の 効率性分析」『日本教育社会学会大会 発表要旨集録』(55),290,2003-09-20 菅万里(2010)「母親の就労が思春期の子供の行 動・学業 に 及 ぼ す 効果:propensity Score Matching に よ る 検証」東京大学社会科学 研究所パネル調査プロジェクト ディスカッ ションペーパーシリーズ,No. 28 田中隆一・山本雄三(2009)「母親の就業が私立・ 国立中学校進学に与える影響について」2009 年日本経済学会春季大会 中村二郎(1992)「大学進学 の 決定要因」経済 セ ミナー No. 453,37─42 ページ 中村亮介(2009)「学校選択制が学力に与える影 響の実証分析─東京都学力パネルデータを用 いて」『エコノミア』60 ⑵,pp. 57─74 中村亮介(2011)「ゆとり教育が教育達成度に与 え た 効果 の 実証分析─義務教育期間中 の 授 業時間数の効果についての分析─」KEIO/ KYOTO GLOBAL COE DISCUSSION PAPER SERIES,No. 14 野呂沙織・大竹文雄(2006)「年齢間労働代替性 と 学歴間賃金格差」『日本労働研究雑誌』第 550 号,pp. 51─66 原琴乃・松繁寿和・梅崎修(2002)「学歴 エ リー ト女性のキャリアにおける学力・英語力およ び適性の役割~ J 国立大学文学部卒業生の就 業選択 と 賃金~」OSIPP Discussion Paper 2002 藤村正司(2007)「大学進学に及ぼす学力・所得・ 貸与奨学金の効果」大学経営・政策研究セン ター公開シンポジウム「現代日本の大学進学 政策」発表資料 北條雅一(2010)「国際学力調査結果を用いた教 育生産関数の推計:習熟度別授業と相対年齢 効果」2010 年日本経済学会春季大会発表論 文 北條雅一(2011)「学力 の 決定要因─経済学 の 視点 か ら ─」『日本労働研究雑誌』No. 614, pp. 17─27 北條雅一(2011)「学力 の 経済分析:国内実証研 究の展望」『国際公共政策研究』Vol. 16, No. 1, pp. 163─180 安田宏樹(2012)「大学生の成績に関する男女間

(9)

差異」 2012 年労働経済東西合同 カ ン ファ レンス発表論文

山下卓志(2009) “Primogeniture, Sibling Rivalry and Educational Attainment in Early 20th Century JapanRAND and University of Nevada Las Vegas” 2006 年日本経済学会秋 季大会発表論文

文部科学省(2012)「平成 25 年度「きめ細かい調 査」の検討について」http://www.mext.go.jp/ b_menu/shingi/chousa/shotou/085/shiryo/ attach/1312367.htm

Akabayashi. H(2006) “Average Effects of School Choice on Educational Attainment: Evidence from Japanese High School Attendance Zones.” http://web.econ.keio. ac.jp/staff/hakab/akabayashihschoice.pdf Akabayashi. H and Naoi. M(2008) “Does the

Public Sector Crowd Out the Private Sector in the Higher Education Market?: Theory and Evidence from Japan?” http://web.econ.

keio.ac.jp/staff/hakab/akabayashi_naoi081010. pdf

Kawaguchi. D (2011)“Actual Age at School Entry, Educational Outcomes, and Earnings”,

Journal of the Japanese and International Economies, Vol. 25, No. 2, pp. 64─80.

Oshio, T. and W. Senoh(2007) “The Economics of Education in Japan: A Survey of Empirical Studies and Unresolved Issues,”

Japanese Economy, 34 ⑴, pp. 46─81

Yoshida, A, K. Kogure, and K. Ushijima (2007) “School Choice and Student Sorting: Evidence from Adachi City in Japan,” Department of Social Systems and Management Discussion Paper Series No.1170, University of Tsukuba. [わたなべ ともみ 横浜国立大学大学院国際社

(10)

参照

関連したドキュメント

SD カードが装置に挿入されている場合に表示され ます。 SD カードを取り出す場合はこの項目を選択 します。「 SD

化し、次期の需給関係が逆転する。 宇野学派の 「労働力価値上昇による利潤率低下」

 高校生の英語力到達目標は、CEFR A2レベルの割合を全国で50%にするこ とである。これに対して、2018年でCEFR

解約することができるものとします。 6

手動のレバーを押して津波がどのようにして起きるかを観察 することができます。シミュレーターの前には、 「地図で見る日本

荒天の際に係留する場合は、1つのビットに 2 本(可能であれば 3

経済学研究科は、経済学の高等教育機関として研究者を

˜™Dには、'方の MOSFET で接温fが 昇すると、 PTC が‘で R DS がきくなり MOSFET を 流れる流が減šします。この結果、 MOSFET