研究ノート
自伝想起課題を用いた気分不一致効果と
パーソナリティの関連
千 賀 智穂子
平成31年 2 月10日発行 皇學館論叢第52巻第 1 号 抜刷研究ノート
自伝想起課題を用いた気分不一致効果と
パーソナリティの関連
千 賀 智穂子
□ 要 旨 この研究は,Big Five を用いて,気分不一致効果とパーソナリティの関連を明ら かにすることを目的として行われた。学生70名を対象に,予備調査としてパーソナ リティと心理的ストレス反応に関する質問紙調査を実施し,回収した質問紙をもと に分析を行い,その結果から 2 つの仮説を設定した。その後,大学生20名を対象に 自伝想起課題を用いた実験を実施した。分析の結果,Big Five の情緒不安定性得点 の高い人はネガティブな気分状態において気分不一致効果が起こりにくいことが示 された。以上の結果から,気分不一致効果の生起要因にパーソナリティが影響を及 ぼすことが示唆された。 □ キーワード 気分不一致効果,記憶,自伝想起課題,パーソナリティ,ストレス 問題と目的 「つらい時には楽しいことを思い出せ」 という文言がある。しかし,実際筆者がつ らい時に思い出す記憶は,悲しい・怒り等 のネガティブな感情を含む記憶であること がほとんどであり,自分が現在感じている 感情とは反対の感情を持つ記憶を思い出す ことは,あまり容易でないように感じられ る。では,なぜこのような言葉が生まれた のだろうか。 気分一致効果・不一致効果 心理学の概念において,原因となってい る刺激や条件が明確でなく,弱くて,比較 的長時間持続する感情は「気分(mood)」 と定義される。その気分が認知に及ぼす影 響について,特定の気分の時に,その気分 と一致する特定の感情価(affective valence) を持つ情報の認知が促進される現象は「気 一 致 効 果(mood congruence effect)」と 呼ばれている。また,気分一致効果に反し て,特定の気分の時に,その気分とは異なる感情価を持つ情報の認知が促進され る現象のことを「気分不一致効果(mood incongruence effect)」と呼んでいる。つ まり,ネガティブな気分状態でネガティブ な記憶を思い出しやすくなる現象が気分一 致効果,同じような気分であるのにポジティ ブな記憶を思い出しやすくなる現象が気分 不一致効果である。気分一致効果・不一致 効果に関する先行研究は多数存在する。 先行研究の 1 つである野内・兵藤(2004) は,ネガティブ気分,もしくはポジティブ 気分に誘導された被験者に自伝的記憶の検 索を含む自伝想起課題,すなわち,自分自 身の具体的な過去のエピソードを想起でき るかどうか考えさせるという実験を行っ た。その結果,自伝想起課題においては, 単純に自己関連的情報処理(自身に関連し ている情報の処理)を行うことが気分一致 効果の生成要因なのではなく,自伝的記憶 の検索を行うことが気分一致効果の生成要 因であると考えることができることを確認 した。つまり,伝えられた情報が自身に関 係あるかないかに関わらず,その情報につ いて自身の記憶を探すこと自体が気分不一 致効果の生成要因であると考えられるとい うことである。しかしながら,実験の結果 には自伝的記憶の検索を行い,過去のエピ ソードが想起できると判断したネガティブ 気分誘導群には気分不一致効果もみられて いる。この現象について,Isen(1985)や Forgas(1995)は,ネガティブ気分に誘導 された群にはその気分を緩和させたいとい う動機が現れる可能性を指摘している。ま た,気分不一致効果を起こしやすい人もい れば,気分不一致効果を起こしにくい人も いるという,個人のパーソナリティ特性が 影響するという指摘もある。 榊(2004)は,強い緩和気分動機(気分 を緩和したいと思うこと)さえあれば,誰 もが気分と一致しない情報を再生すること が可能になるとは限らないとし,自尊感情 と自己複雑性の高さが気分不一致効果を促 進すると報告している。自尊感情とは,「他 者との比較により生じる優越感や劣等感で はなく,自身で自己への尊重や価値を評価 する程度」(Rosenberg, 1965)のことであ る。高い自尊感情の持つ価値には様々なも のがあるが,その 1 つに「高い自尊感情は ストレスや否定的情動に対する緩衝剤とな り,適応感を高めることで肯定的な感情を 促進すること」(Rosenberg, 1965)がある。 また,自己複雑性とは,Linville(1987)に よって提唱された自己知識の構造の個人差 を説明するための自己概念のモデルであ り,(a)自己知識を構成する自己側面の個 数(側面数)と,(b)それぞれの自己側面 の分化の程度(精緻性)の 2 要素で定義さ れている(佐藤,1999)。このモデルでは, 「自己複雑性の高い者は,ストレスによる 感情や評価の変動が少ない」(Linville,1987) と考えられている。すなわち,高い自尊感 情や自己複雑性により適応感を高めること で,自身の感情に左右されることが少なく なる可能性があると榊(2004)は指摘して いる。
本研究の目的 これまで述べてきたように,自尊感情に よる肯定的な感情の促進が気分不一致効果 の起因となっているのならば,榊(2004) が検討しているパーソナリティ特性以外で も肯定的な感情の促進が認められる特性で あれば,これもまた気分不一致効果の起因 となりうるのではないかと考えられる。そ こで本研究では,パーソナリティ特性とし て Goldberg(1990)によって提唱された Big Five を用いることとする。Big Five と は,人間の持つ様々な性格は「情緒不安定 性(N)」,「外向性(E)」,「開放性(O)」,「調 和性(A)」,「誠実性(C)」の 5 つの要素 の組み合わせによって構成されると定義さ れている,特性 5 因子論である。Big Five を用いる理由として,この 5 つの特性は様々 な研究により文化差・民族差を越えた普遍 性をもつものであると考えられていること が挙げられる。普遍性をもつものであるな らば,どのような状況下であっても被験者 のパーソナリティを測定することが可能で あると考えられる。よって本研究では,野 内・兵藤(2004)の実験状況を参考にして, 自伝想起課題において Big Five の 5 因子の 中で,どの因子の得点が高い人がより気分 不一致効果を起こしやすい,もしくは起こ しにくいのかを検討することを目的とする。 ある特定のパーソナリティ要因が気分不 一致効果の起因に影響を及ぼすことを明ら かにすることができれば,その特性を強め ることにより感情制御・感情緩和が可能に なると考えられ,人々が日常的に経験して いるであろう心理的ストレスにうまく対応 するための手掛かりを提供しうることが考 えられる。 なお,本研究では予備調査として,鈴木・ 嶋田・三浦・片柳・右馬埜・坂野(1997) の SRS-18 という新しい心理的ストレス反 応尺度を用い,Big Five との関連をまず検 討する。SRS-18 は,日常的に経験する心 理的ストレス反応を測定する尺度であり, 得点が高ければ高いほどストレス反応が高 いことを示す。この尺度は,これまでの心 理的ストレス反応を測定するために用いら れてきた尺度に比べ,個人が日常的に示す 感情・思考・行動の変化や疾患の予兆など となる比較的軽い症状を含めた心理的スト レス反応の変化をとらえることができると されている(鈴木・嶋田・三浦・片柳・右 馬埜・坂野,1997)。ゆえに,予備調査を 行うことで,心理的ストレス反応を表出し やすい,または表出しにくい Big Five 因 子を確認する。また,全ての Big Five 因 子とストレス反応の高低の組み合わせで気 分不一致効果の起こりやすさ・起こりにく さを限られた期間内で検討することが困難 であるため,予備調査の結果からストレス 反応の高い Big Five 因子及びストレス反 応の低い Big Five 因子を考察し,本研究 の仮説を立てたうえで本実験を行い,検討 する。
予備調査 目 的 本研究における予備調査の目的は,Big Five と SRS-18 の関連性を検討すること で,ストレス反応と関連する Big Five 因 子を考察することである。 調査対象および調査時期 2016年 6 月30日(木),A大学に在籍す る学生70名(平均年齢19.44,標準偏差0.65) を対象に,講義時間を利用し一斉に調査を 実施した。 質問紙 ① Big Five の測定 和田(1996)により作成された Big Five 尺度は正確であるが,質問項目が多すぎる ため,被験者の負担を考慮し,並川・谷・ 脇田・熊谷・中根・野口 (2012) の Big Five 短縮版を用いた。選択肢は,¸非常にあて はまるºから¸全くあてはまらないºの 7 件法,29 項目で回答を求めた。 ②ストレス反応の測定 鈴木・嶋田・三浦・片柳・右馬埜・坂野 (1997)の SRS-18 を用いた。選択肢は,¸全 く違うºから¸その通りだºの 4 件法,18 項目で回答を求めた。 結 果 予備調査にて用いた 2 つの尺度は,どち らもすでに多くの研究において信頼性・因 子的妥当性が確認されているため(ex; 村 瀬・斎藤,2014; 下司・橋本・小塩,2015), 因子分析は行わず,下位尺度を構成する項 目の項目得点を単純加算し,項目数で除し て,尺度得点を算出したうえで,以下の分 析を行った。 ①記述統計と男女差の検討 Big Five および SRS-18 の各尺度得点の 記述統計を求めたところ,Big Five の外向 性得点(平均17.98,標準偏差5.23),誠実 性得点(平均27.75,標準偏差5.10),情緒 不安定性得点(平均22.13,標準偏差5.03), 開放性得点(平均21.55,標準偏差4.85), 調和性得点(平均20.93,標準偏差5.74)と, SRS-18 の 抑 う つ・不 安 得 点(平 均 6.35, 標準偏差4.63),イライラ・怒り得点(平 均5.21,標準偏差4.28),無気力得点(平 均6.75,標準偏差4.69)であった。また, 各得点について男女差の検討を行うため, t 検定を行った。t 検定の結果,いずれの 得点についても男女で有意な差が認められ なかったことから,以後の検討では男女の 区別をせず,分析を行った。 ② Big Five と SRS-18 の相関 Big Five とストレス反応の関連を検討す るために,Big Five の下位尺度と SRS-18 の下位尺度間の相関を算出した(Table 1)。 抑うつ・不安得点は,情緒不安定性得点と の間に正の相関が確認された。また,イラ イラ・怒り得点では情緒不安定性得点およ び調和性得点との間に正の相関,無気力得 点では外向性得点および開放性得点との間 に負の相関,誠実性得点と情緒不安定性得 点および調和性得点との間に正の相関が確 認された。 考 察 情緒不安定性得点は,ストレス反応の 3
つの分類全てにおいて,正の相関を示して いる。特に,無気力得点とは高い正の相関 を示している。すなわち,情緒不安定性得 点の高い人は,他の因子得点が高い人に比 べ心理的ストレス反応の表出が高く,その 中でも,何もかもが嫌になり,無気力な反 応を表すことが多いと考えられる。また, 無気力得点では,Big Five の全ての因子で 相関を示しているが,外向性得点と開放性 得点との間には負の相関を示し,それ以外 の 3 因子との間には正の相関を示してい る。加えて,外向性得点と開放性得点間に 正の相関が確認されていることから,どち らか一方の得点が高ければ,もう一方の得 点も高くなる可能性があると判断できる。 ゆえに,外向性得点および開放性得点の両 方,もしくはどちらか一方の得点が高い人 は,他の因子得点の高い人に比べて心理的 ストレス反応の表出が低いと考えられる。 以上の結果をふまえて,本研究では以下の 仮説を設定する。 仮説①:ネガティブ気分状態で「外向性 (E)」もしくは「開放性(O)」の因子得点が 高い人は,気分不一致効果が起こりやすい。 「外向性(E)」は社交性や活動性,積極 性を表すものであり,「開放性(O)」は知 的好奇心の強さ,想像力,新しいものへの 親和性を表す。積極性や新しいものへの親 和性を表すということは,どのような事象 に対しても意欲的に行動する可能性が高い と考えられる。また,予備調査の結果から, 外向性得点と開放性得点はどちらか一方の 得点が高ければもう一方も高くなると考え られる。ゆえに,どちらかの得点が高い人 は,不快感情を経験するような出来事に遭 遇しても,不快感情を快感情に変える気分 不一致効果を起こしやすいのではないかと 考えた。 仮説②:ネガティブ気分状態で「情緒不安 定性(N)」の因子得点が高い人は,気分 不一致効果が起こりにくい。 「情緒不安定性(N)」は環境刺激やスト レッサーに対する敏感さ,不安や緊張の強 さを表すものである。環境刺激に敏感であ るということは,不快感情を経験するよう な出来事に遭遇すると,不快感情をそのま ま保持し続ける可能性が高いと考えられ る。また,予備調査でも情緒不安定性得点 の高い人はストレス反応の表出が高いこと が示された。よって,この得点が高い人は Table 1 Big Five と SRS-18との相関
外向性得点 誠実性得点 情緒不安定性得点 開放性得点 調和性得点 抑うつ・不安得点 イライラ・怒り得点 無気力得点 外向性得点 − .067 -.359** .553*** -.133 -.101 .074 -.283* 誠実性得点 .236 -.070 .356** .122 .200 .421*** 情緒不安定性得点 − -.218 .321** .429*** .281* .547*** 開放性得点 − -.310** -.039 .140 -.265* 調和性得点 − .176 .377*** .328** 抑うつ・不安得点 − .683*** .656*** イライラ・怒り得点 − .452*** 無気力得点 − *p<.05,**p<.01,***p<.001
不快感情を快感情に変えることなく気分不 一致効果を起こしにくいのではないかと考 えた。 本実験 本実験では,上述の仮説を検討し,気分 不一致効果と Big Five および心理的スト レス反応とも関係性を明らかにすることを 目的とする。 調査対象および調査時期 2016年10月〜11月において,A大学に在 籍する学生20名(うち,ポジティブ気分誘 導群10名,ネガティブ気分誘導群10名,平 均年齢21.20,標準偏差0.70)を対象に本 実験を実施した。実験は,デジタルスタジ オにおいて実施された。 実験デザイン ① Big Five の測定 予備調査同様,並川・谷・脇田・熊谷・ 中根・野口(2012)の Big Five 尺度短縮 版を用いた。選択肢は 7 件法,29項目で回 答を求めた。 ②ストレス反応の測定 予備調査同様,鈴木・嶋田・三浦・片柳・ 右馬埜・坂野(1997)の SRS-18 を用いた。 選択肢は 4 件法,18項目で回答を求めた。 ③気分状態の測定 気分誘導により,被験者の気分がそれぞ れポジティブ,ネガティブな気分に誘導さ れたか否かを測定するため,寺崎・岸本・ 古賀(1992)の多面的感情状態尺度を参考 に筆者が作成した質問紙を用いた。 ④気分誘導音楽 ポジティブ気分を誘導する音楽にルロ イ・アンダーソンの¸タイプライターºを, ネガティブ気分を誘導する音楽にフレデ リック・ショパンの¸葬送行進曲ºを選曲 し,どちらも同じ時間( 2 分間)聴かせた。 ⑤刺激語 野内・兵藤(2004)を参考に,青木(1971) の性格表現用語からポジティブ・ネガティ ブな感情価を持つ特性形容詞を各10語ず つ,計20語選択した。 実験手続き 実験は 1 〜 3 人のグループで行った。実 験時間は約15分であった。また,被験者が 気分に関する実験だということに気づいて しまうと,結果に影響を及ぼす可能性があ るため,本来の実験目的は隠すこととした。 別室へ入室後,初めに質問紙①②を記入さ せた。 その後,気分誘導音楽を 2 分間聴かせ, 被験者に気分を確認するため質問紙③を記 入させた。音楽は,この後の刺激語学習中 も連続して呈示し続けた。 気分誘導後,パソコンのスクリーンに各 刺激語を 4 秒ずつ,試行間隔を 2 秒として 提示した。被験者には,¸これから画面に ある単語が提示されます。その語が示すあ なたの過去の経験を思い出せるかどうか, 判断してください。ºと教示し,用紙の¸は いºもしくは¸いいえºの当てはまる方に 丸をつけるよう求めた。例えば,¸悲観的 なºという単語が提示され,¸この間,お 気に入りのイヤリングをどこかに落として
失くしてしまったºという具体的な経験が 想起されれば¸はいºに丸をするようにと 例示した。また,この時点では後に記憶テ ストを実施することは予告しなかった。刺 激語学習終了後,気分誘導のため呈示して いた誘導音楽を止めた。 最後に,被験者に刺激語の自由再生を 3 分間,筆記作業によって回答を求めた。 結 果 実験にて用いた 3 つの尺度は,予備調査 と同様にすでに多くの研究において信頼 性・因子的妥当性が確認されているため (ex; 村瀬・斎藤,2014; 下司・橋本・小塩, 2015; 小平・小塩・速水,2007),因子分 析は行わず,下位尺度を構成する項目の項 目得点を単純加算し,項目数で除して尺度 得点を算出し,以下の分析を行った。 ①記述統計と内的整合性の検討 Big Five,SRS-18,及び多面的感情状態 尺度の各尺度得点の記述統計を求めた。ま た,内的整合性を確認するために,各下位 尺度のα係数を算出した。その結果,Big Five の外向性得点(平均4.54,標準偏差 1.59,α=.94),誠実性得点(平均4.26, 標準偏差1.00,α=.83),情緒不安定性得 点(平均5.41,標準偏差0.88,α=.83), 開 放 性 得 点(平 均 4.30,標 準 偏 差 0.87, α=.71),調和性得点(平均3.76,標準偏 差0.71,α=.57)と,SRS-18 の抑うつ・ 不安得点(平均1.09,標準偏差0.87,α= .90),イライラ・怒り得点(平均0.75,標 準偏差0.72,α=.88),無気力得点(平均 1.21,標準偏差0.74,α=.80),多面的感 情状態尺度の抑鬱・不安得点(平均2.13, 標準偏差1.01,α=.86),倦怠得点(平均 2.17,標準偏差0.76,α=.53),非活動的 快得点(平均2.30,標準偏差0.66,α=.32), 敵意得点(平均1.60,標準偏差0.65,α= .55),活動的快得点(平均2.22,標準偏差 0.94,α=.82),親和性得点(平均1.87, 標準偏差0.74,α=.79)であった。内的 整合性に関して,多くの下位尺度において 十分な値が得られたが,Big Five の調和性 得点,多面的感情状態尺度の倦怠得点,非 活動的快得点及び敵意得点で低い値が算出 された。これらの尺度における内的整合性 には若干問題があると考えられるが,項目 数を考慮し,今回はそのまま用いることと した。 ② Big Five と SRS-18 との相関 Big Five とストレス反応の関連を検討す るために,予備調査と同様に Big Five と SRS-18 の下位尺度間の相関を算出した (Table 2)。抑うつ・不安得点は,予備調 査と同様に情緒不安定性得点との間に負の 相関が確認された。一方で,イライラ・怒 り得点は,Big Five のどの下位尺度得点と も相関が確認されず,無気力得点では外向 性得点との間には負の相関が確認された が,開放性得点とは無相関であった。また, 情緒不安定性得点とは正の相関が確認され たのに対し,誠実性,調和性得点とは無相 関であり,予備調査とは異なる結果が示さ れた。この結果について,本実験の被験者 は20人と比較的少なく,被験者間の解答の 分散が小さくなったことが原因であると考
えられる。今後,十分な人数からデータを 収集し,検討する必要があるだろう。 ③気分誘導の効果の検討 気分誘導の効果を確認するために,誘導 気分(ポジティブ・ネガティブ)×気分評 価(気分評定尺度得点:ポジティブ・ネガ ティブ)の 2×2 の 2 要因混合分散分析を 行った。第 1 要因が被験者間で,第 2 要因 が被験者内である。その結果,有意な交互 作用が見られた(F(1,18)=25.24,p<.01)。 単純主効果の検定を行ったところ,気分評 定尺度のポジティブ・ネガティブともに誘 導気分の主効果が有意となり(F(1,18)= 6.57,p<.05; F(1,18)=29.90,p<.01),また, 誘導気分のポジティブ・ネガティブともに, 気分評定尺度得点の主効果が有意であった ため(F(1,18)=18.35, p<.01, F(1,18)= 7.96,p<.05),今回使用した音楽による気 分誘導の効果が確認された。 しかし,この分析では誘導気分の主効果 が有意であることも示された(F(1,18)= 5.84,p<.05)。この結果については,本実 験において被験者の誘導気分の群分けの 際,特に考慮して分けなかったため,被験 者の誘導前の気分が偏ったまま気分誘導を 行ったことが原因として考えられる。今 後,被験者の気分誘導前の要因も考慮した 上で,誘導する群を分けて検討する必要が あるだろう。 被験者が自伝的記憶を想起できると判断 した語のうち,再生できた語の比率を求め, 角変換を行った。また,できないと判断し た語についても同様に処理した。 ④自伝的記憶の想起可能判断での刺激語再 生率の検討 自伝的記憶を想起できると判断したもの の刺激語再生率について,誘導気分(ポジ ティブ・ネガティブ)×刺激語の感情価 (ポジティブ・ネガティブ)の 2 × 2 の 2 要因混合分散分析を行った。第 1 要因が被 験者間で,第 2 要因が被験者内である。そ の結果,交互作用が見られなかったため (F(1,18)=1.06, n. s.),ポジティブ気分 群及びネガティブ気分群の両方で気分一致 効果が確認されなかった。 ⑤自伝的記憶の想起不可能判断での刺激語 再生率の検討 自伝的個億が想起できないと判断したも のの再生率について,④と同様に 2 要因混 合分散分析を行った。その結果,交互作用 Table 2 Big Five と SRS-18 との相関
外向性得点 誠実性得点 情緒不安定性得点 開放性得点 調和性得点 抑うつ・不安得点 イライラ・怒り得点 無気力得点 外向性得点 − -.23 -.76*** .59** -.10 -.34 -.27 -.51* 誠実性得点 − .25 -.53* .25 .09 .11 -.01 情緒不安定性得点 − -.65** .13 .60** .32 .68*** 開放性得点 − .02 -.44 -.10 -.42 調和性得点 − .19 .42 .22 抑うつ・不安得点 − .71*** .67*** イライラ・怒り得点 − .44 無気力得点 − *p<.05,**p<.01,***p<.001
が見られなかった(F(1,18)=0.68,n. s.)。 よって,自伝的記憶が想起できなかった場 合にも両群で気分一致効果が確認されな かった。 ⑥ Big Five と刺激語再生率との相関 Big Fiveの下位尺度と刺激語の再生率の 相関を算出した。被験者全体の刺激語再生 率との相関の結果をTable 3,誘導気分群別 の刺激語再生率との相関をTable 4に示す。 群分けしない場合の刺激語再生率との相 関では,ポジティブ単語再生率は情緒不安 定性と調和性得点との間に負の相関が確認 されたが,ネガティブ単語再生率とはどの 下位尺度も無相関であった。また,誘導気 分群別の刺激語の再生率との相関では,ネ ガティブ気分群のポジティブ単語再生率と 情緒不安定性得点との間に負の相関が確認 されたが,それ以外はすべて無相関であった。 ⑦ Big Five が刺激語再生率に与える影響 の検討 Big Five の 5 つの下位尺度が,刺激語の 再生率に与える影響を検討するために,従 属変数に刺激語の再生率,独立変数に Big Five の下位尺度を設定し,重回帰分析を 行った。その際,先ほど算出した相関との 比較のため,被験者全体の刺激語の再生率 と,気分群別の刺激語の再生率の両方で分 析を行った。 被験者全体の刺激語の再生率では,情緒 不安定性得点及び調和性得点からポジティ ブ単語再生率に負の有意な標準偏回帰係数 が確認された(β=−1.28,p<.05;β= −1.37,p<.05)。また,誠実性得点から は正の有意傾向の標準偏回帰係数が示され た(β=0.72,p<.10)。誘導気分群別の 刺激語の再生率では(Figure 1),情緒不 安定性得点からネガティブ群のポジティブ 単語再生率に負の有意な標準偏回帰係数が 確認された。また,調和性得点からも負の 有意傾向の標準偏回帰係数が示された。 考 察 自伝的記憶の想起判断別の刺激語の再生 率について,自伝的記憶の有無に関係なく, ポジティブ気分群・ネガティブ気分群とも に気分一致効果を示さず,野内・兵藤(2004) とは異なる結果が示された。その原因とし て,本実験では被験者の負担軽減のため用 いる刺激語を20語に減らして施行したた め,分散が小さくなったことが考えられる。 しかしながら,ポジティブ気分群では自伝 的記憶の有無に関わらず,ネガティブ単語 よりもポジティブ単語の方が多く再生され ていることから,ポジティブ気分において は気分一致効果とは言えないが,単語の再 生率に気分の影響が認められると考えられ る。また,ネガティブ気分群では野内・兵 藤(2004)と同様,自伝的記憶の有無に関 係なくネガティブ単語よりもポジティブ単 語の方が多く再生された。つまり,Isen (1985)が示しているように,ネガティブ 気分群では何らかの原因により気分を緩和 させたいという動機が働き,ポジティブ単 語の再生を促進したことが確認されたと言 えるだろう。 重回帰分析の結果においては,誘導気分
Table 3 Big Five と刺激語再生率との相関(群分けなし)
Table 4 Big Five と刺激語再生率との相関(気分群分け)
Figure 1 Big Five の下位尺度と刺激語再生率との重回帰分析(気分群分け)
外向性得点 誠実性得点 情緒不安定性得点 開放性得点 調和性得点 ポジティブ単語再生率 ネガティブ単語再生率 外向性得点 − -.227 -.759*** .594** -.099 .244 -.012 誠実性得点 − .252 -.530* .245 .056 -.105 情緒不安定性得点 − -.645** .130 -.501* -.159 開放性得点 − .024 .229 .092 調和性得点 − -.487* -.254 ポジティブ単語再生率 − .356 ネガティブ単語再生率 − *p<.05,**p<.01,***p<.001 外向性 得点 誠実性得点 情緒不安定性得点 開放性得点 調和性得点 ポジティブ群 ポジティブ単語 再生率 ネガティブ群 ポジティブ単語 再生率 ポジティブ群 ネガティブ単語 再生率 ネガティブ群 ネガティブ単語 再生率 外向性得点 − -.227 -.759*** .594** -.099 -.040 .467 .063 -.469 誠実性得点 − .252 -.530* .245 .005 .200 .151 -.234 情緒不安定性得点 − -.645** .130 -.054 -.850** -.033 .291 開放性得点 − .024 .146 .266 -.048 .174 調和性得点 − -.394 -.385 -.008 -.158 ポジティブ群ポジティブ 単語再生率 − − .406 − ネガティブ群ポジティブ 単語再生率 − − -.242 ポジティブ群ネガティブ 単語再生率 − − ネガティブ群ネガティブ 単語再生率 − *p<.05,**p<.01,***p<.001
に関係なく情緒不安定性得点と調和性得点 がポジティブ単語の再生率に負の影響を及 ぼしていることから,情緒不安定性得点も しくは調和性得点が高い人は,ポジティブ 単語の再生が抑制される可能性が示唆され た。この結果については,情緒不安定性が 不安や緊張の強さを表すという特性を持つ ことから,不安とは逆の感情価であるポジ ティブな要素を含む単語の再生を妨げるこ とが考えられる。また,調和性が利他性を 表すという特性を持つことから,他人の利 益のためにネガティブ感情を含む体験をし やすく,その体験とは逆の感情価であるポ ジティブ単語の再生を妨げる可能性がある と考えられる。一方で,誠実性得点はポジ ティブ単語の再生率に正の影響を及ぼして いた。これは,誠実性が自己統制力や達成 への意志の強さを表すといった特性を持っ ていることから,ポジティブ感情を含む経 験をしやすく,またそれを保持しやすいた め,ポジティブ単語の再生を促進している と言えるであろう。しかし,相関分析の結 果と比較すると,誠実性得点はどちらの感 情価の単語の再生率とも無相関であったこ とから,抑制変数であると判断されるであ ろう。また,気分群別の相関分析の結果よ り,情緒不安定性得点の高い人はネガティ ブな気分状態で自分とは逆の感情価を持つ ポジティブ単語の再生を抑制することが示 された。加えて,気分群別の重回帰分析の 結果によると,情緒不安定性得点と調和性 得点がネガティブ気分群のポジティブ単語 の再生率に負の影響を及ぼしていることが 確認された。これは,ネガティブな気分状 態で情緒不安定性得点もしくは調和性得点 の高い人は,自身の気分とは逆の感情価を 含むポジティブ単語の再生数を抑制する可 能性を示唆している。この 2 つの結果を比 較すると,情緒不安定性得点においては本 研究の仮説②を支持する結果であると言え るだろう。しかしながら,調和性得点にお いては相関分析でどちらの感情価を含む単 語の再生率とも無相関であったことから, 抑制変数であると考えられる。 総合考察 本研究の目的は,自伝想起課題における 気分不一致効果と Big Five 及び心理的ス トレス反応の関係性を明らかにすることで あった。 予備調査では,Big Five が心理的ストレ ス反応の表出に影響していることが明らか になった。情緒不安定性得点が高いなら ば,心理的ストレス反応を多く表出するこ とになり,それにより生じたネガティブ感 情を保持する可能性が高いことが確認され た。また,外向性得点もしくは開放性得点 が高いならば,どのような事象に対しても 意欲的な行動をとることができるため,無 気力にならず心理的ストレス反応の表出が 少なくなることが示唆された。 そして,本実験では,予備調査とは少し 異なったが,抑うつ・不安得点と情緒不安 定性得点との間,無気力得点と外向性得点 及び情緒不安定性得点との間には,同様の
結果が確認された。また,情緒不安定性得 点がポジティブな感情価を含む刺激語に影 響を及ぼすことが明らかとなった。特に, ネガティブな気分状態で情緒不安定性得点 が高いならば,ポジティブな感情価を含む 刺激語の再生率を抑制する可能性が示唆さ れ,気分不一致効果が生起しにくいと言え るだろう。 したがって,全体的にみると,Big Five は情緒不安定性得点の高低によりネガティ ブ感情を体験する機会や,体験したネガティ ブ感情を保持することに影響を及ぼし,そ の結果としてネガティブとは逆の感情価で あるポジティブ感情を含む経験の想起や保 持に影響を及ぼすことが考えられる。つま り,ネガティブな気分状態の場合には情緒 不安定性得点が高いならば気分不一致効果 が生起しにくく,ポジティブな気分状態時 には情緒不安定性得点が低いならば気分不 一致効果が生起しにくいと考えられ,仮説 の一部が支持されたと言えるだろう。 本研究の限界と課題 本研究の結果には疑問が残る。第 1 に, 本研究では情緒不安定性得点が気分不一致 効果に影響を与えることを示した。しか し,気分の群分けを行わない場合の Big Five と各感情価を含む刺激語の再生率と の重回帰分析においては,誘導気分に関係 なくポジティブな感情価の刺激語の再生率 に情緒不安定性得点が負の影響を与えるこ とも認められている。したがって,情緒的 に不安定な傾向を持つ人は気分の一致・不 一致に関係なく,ポジティブな感情の記憶 想起を困難にすると考えられる。 第 2 に,ネガティブ気分群においての刺 激語の再生率は,ポジティブな感情価を含 む刺激語の方が多いという結果が得られ た。この結果には 2 つの可能性が考えられ る。1 つは,ネガティブ気分群の被験者に 情緒不安定性得点の低い人が多かった場合 である。気分で群分けを行った場合の Big Five と各感情価を含む刺激語の再生率と の重回帰分析から得られた結果の逆を考え ると,情緒不安定性得点が低ければポジ ティブな感情価を含む刺激語の再生を促進 すると考えられるため,情緒不安定性得点 の低い被験者が多いならばその群全体のポ ジティブな感情価を含む刺激語の再生率が 高くなる可能性が考えられるだろう。もう 1 つは,ネガティブ気分群の被験者に気分 を緩和させたいという動機が働き,ポジ ティブな感情価を含む単語の再生を促進し た場合である。従来,気分不一致効果にお ける研究は,Isen(1985)や Forgas(1995) に見られるように,おもに気分を緩和させ たいという動機の観点で説明されてきた。 榊(2006)は,自己知識の構造が気分不一 致効果の生起に影響するメカニズムには 2 つの可能性があるとし,自己複雑性と気分 を緩和させたいという動機の関連について 着目し,その動機を分離した上で自己複雑 性が気分不一致効果に及ぼす影響について 検討した。その結果として,自己知識の構 造が気分不一致効果の生起要因となってい
ることを明らかにした。本研究では,その ような行程を含まずに検討を行ったため, 後者の可能性を排除することができないと 考えられる。 また,本研究では大学生のみを対象とし て検討を行った。ゆえに,実験にて得られ た結果は他の母集団や日常場面への可能性 としては,慎重に解釈する必要があるだろう。 最後に,今後の課題について述べる。本 研究では,気分不一致効果と Big Five と の関連が示唆されたと同時に,上述のよう な問題点が示された。今後,より正確な 2 つの関連を検討するため,気分を緩和させ たいという動機が働く可能性を分離した検 討を行う必要があるだろう。また,被験者 の人数の拡大や他の母集団を対象にするな ど,実験の対象者を広げた検討を行うこと は,本研究の結果の一般化可能性を考える 上で重要であるため,気分不一致効果研究 において重要な課題であると考える。 引用文献 青木孝悦(1971).性格表現用語の心理− 辞典的研究455語の選択,分類および望 ましさの評定 心理学研究,42,1-13. Forgas, J. P.(1995). Mood and judgment:
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