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ニューラルネットワークを使った物性物理学

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Academic year: 2021

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1.は じ め に

ここ数年の人工知能の発展を受けて,物理学でも機 械学習の手法が盛んに用いられている.著者は物性物 理が専門で,主に半導体,金属,絶縁体などの研究を しているが,この分野でも機械学習の適用が活発に議 論されている.この執筆に取り掛かった 3 月の上旬, 著者はロサンゼルスで開かれていたアメリカ物理学会 (APS)March Meeting(APSMM)に出席中であった. APSMMは主に物性物理学を専門としている世界中の 研究者約 10 000 が出席する世界最大規模の物理学会で ある.この学会のセッションに Machine Learning in Condensed Matter Physics Ⅰ∼Ⅴという物性物理にお ける機械学習に関するセッションが五つも設けられ,ま ず驚いた.また,このセッションは朝 8 時から始まるも のもあったが,それでも立ち見どころか,部屋からあふ れた人が立ち見の場所を待って廊下に並ぶという盛況ぶ りであった.物性物理学において機械学習の方法がいか に注目されているか,ご理解いただけると思う. セッションⅠ∼Ⅲまでは Machine Learning を物性物 理に応用しようという話であったが,Ⅳになると今度は 物理のアイディア,くりこみ群やテンソルネットワーク などを機械学習の分野に応用しようというもので,例え ば,テンソルネットワークを使って画像解析をしようと いうものも議論され,豊富な内容であった.こうした内 容は https://physicsml.github.io/ というサイト で,オンラインでも議論されている. こうした流れを受け,以下では物性物理学に対する機 械学習の応用を解説する.中でも,波動関数を機械学習 で解析する試み,および波動関数を求める試みについて 述べる.特に著者が実際に研究を行った前者を詳しく説 明しよう.

2.物性物理で求めたいもの

改めて述べるが,物性物理学*1の使命は,物質の性質 の解明であり,新たな現象を示す物質の探索である.そ こで重要となるのは,量子力学的に振る舞う電子の振舞 いである.なぜ電子かというと,電子は電気をもち,安 定で(つまり放射性がない),軽く(陽子,中性子,水 素の約 1/2 000 である),強い磁性をもっているからであ る.そのため,物質の電気現象や磁気現象は電子の振舞 いを理解すればよいことになる. その電子の運動は,波動方程式, HΨ=EΨ (1) で記述される.Ψは波動関数というもので,|Ψ|2が電子 の存在する確率密度を表す.H はハミルトニアンでこれ が考えている系の特性を記述し,E は電子のエネルギー となる.よく知られているシュレーディンガー方程式は ⎜

H - ℏ2 + +V 2m ∂2 ∂x2 + ∂2 ∂y2 ∂2 ∂z2 (x, y, z) (2) で,ここでħ=h/2π(h はプランク定数),m は電子の質 量,V はポテンシャルエネルギー(位置エネルギー)で ある.このシュレーディンガー方程式には電子間の相互 作用は含まれていないが,場合によってはそれを含めて 電子のさまざまな特性を議論する. この微分方程式のままでは,数値計算がしづらいので, 多くの場合,簡単な基底をとり,波動方程式という偏微 分方程式の問題を線形代数の問題に帰着させる.簡単の ため,一次元を考えよう.一次元空間を間隔 a のメッシュ に切って

ニューラルネットワークを使った物性物理学

Application of Neural Network to Condensed Matter Physics

大槻 東巳

上智大学理工学部

Tomi Ohtsuki Physics Division, Sophia University.

[email protected], http://www.ph.sophia.ac.jp/~tomi

Keywords:

solid state physics, metal-insulator transition, machine learning, convolutional neural network, restricted Boltzmann machine.

「物理学と AI」

*1 固体物理というと液体や気体が対象外の印象を受けるので, ここでは物性物理と呼ぶが,物性物理と固体物理はほぼ同義語 である.

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(x) (x+a)+ (x-a)-2 (x) a2 Ψ Ψ 2 ∂ x2 ∂ Ψ Ψ (3) を用いると, = ℏ2 t 2ma2 として式(1)は

-t -t V(2a)-2t V(a)-2t -t 0 … -t 0 V(3a)-2t =E , = … … (a) (2a) (3a) Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ (4) と表される*2.これにより波動関数を求めるには,行列 表示したハミルトニアンの固有ベクトルを求めればよい ことになる. また,電子の磁性に注目し,ミクロな磁石が格子点に 配置されたモデルを考える場合もある.その場合, =- Jijσi・σj i, j H → → (5) となる.σ i,σjは格子点(サイト)i, j におけるミクロ な磁石(スピンと呼ばれる)を表し,Jijはそれらのスピ ンの相互作用である.より詳しくは 3・2 節で解説する. 波動関数がわかれば多くの物性が理解できるので,物 性物理学では波動関数を求め,解析することが必要とな る.以下ではまず,波動関数の解析に焦点を当てる.波 動関数の振舞いは複雑で,単純な機械学習ではその特徴 を捉えきれない.そこでニューラルネットワークの出番 となる.

3.ニューラルネットワークの応用

3・1 画像認識と深層学習 複雑な物質の場合,波動関数(上述のハミルトニア ン行列の固有ベクトル)は求められるが,それを解析す ることが難しい場合がある.そうした場合への人工知能 (ニューラルネット)の応用をまず紹介しよう. アイディアはシンプルである.ヒントは画像を多層 の畳込みニューラルネットワーク(CNN)に学習させ, 犬やネコだと判定させる教師あり学習にある.その中で も LeCun により提案された畳込みニューラルネットで

ある LeNet [LeCun 98, LeCun 15] は,人工知能を専門 外とする物理学者にもハードルが低いので,ここではこ れを採用する.すなわち LeNet において,画像を波動 関数(より正確には波動関数の振幅の 2 乗)に置き換え, 犬やネコを金属や絶縁体に置き換えて,物質の性質の判 定に使おうというものである. 実際の例を二次元電子系で見てみよう.式(4)で示 したハミルトニアン行列を二次元に拡張し,また電子の スピンが電子の運動とともに変化するスピン─軌道相互 作用を考える(スピン─軌道相互作用は,ミクロな磁石 が運動するとともに,磁石の向きを変えるという現象を 表している).また,物質にはランダムな位置に不純物 が存在し,これがランダムなポテンシャルをつくってい る.これを単純化して,各サイトのポテンシャルエネル ギーをランダムとする.具体的には -W < V(x, y)< 2 W 2  (6) のように箱型分布をしているとする.このとき,W が小 さいと波動関数はランダムな振幅をもちつつ系全体に広 がっている(図 1 下図).一方,W が大きくなると波動 関数は空間の一部に指数関数的に局在してしまう(図 1 上図)(ランダム系で波動関数が指数関数的に局在する 現象はアンダーソン局在と呼ばれる). 波動関数が広がっていれば系は電流を流すことができ るので金属,波動関数が局在していると電流を流せない ʼwfW0124.txtʼ 0 5 10 15 20 25 30 35 40 0 5 10 15 20 25 30 35 40 0 0.001 0.002 0.003 0.004 0.005 0.006 0.007 0.008 図 1 波動関数の振幅の 2 乗|Ψ|2を密度プロットした もの. 黒い部分が密度の高いところである.上が局在 した波動関数(絶縁体に対応),下が広がった波 動関数(金属に対応)である.画像は 40×40 で, 一つの画素が格子間隔(1 Å 程度)を表す ʼwfW1240.txtʼ 0 5 10 15 20 25 30 35 40 0 5 10 15 20 25 30 35 40 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 0.14 0.16 *2 今後, =t ℏ2 2ma2 をエネルギーの単位とし 1 とする.また, エネルギーの原点を+ 2 だけシフトし,ハミルトニアンの対角 成分は V のみとする.

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ので絶縁体である.こうして波動関数の広がりを見るこ とで,系が金属か絶縁体かを議論できるのである. 問題は W が大きくも小さくもないとき,波動関数は 目で見ても広がっているのか,局在しているのか,わか らないことである(図 2).こうした場合にニューラルネッ トワークによる画像認識が有効になる [Ohtsuki 16]. この問題を CNN によって解決する.具体的には LeNetを使い,W が小さいところで 1 000 個の波動関数 を用意しこれは金属,W が大きいところで同じく 1 000 個の波動関数を用意し,これは絶縁体だと CNN に教え る.図 1,図 2 で示したような波動関数の振幅の 2 乗 |Ψ|2を画像とみなして画像認識の教師あり学習を行う わけである.その後,広い範囲の W に対して用意した 波動関数を CNN に見せると,この波動関数は p の確率 で広がっている(金属相),1−p の確率で局在している(絶 縁体相)だと判定してくれる.図 3 はその例で,ランダ ムネス(Disorder)W が小さく波動関数が広がっている 場合,判定結果は金属,W が大きいと判定結果は絶縁体 となっている.また,W が 6 程度で急激に金属である確 率が減少している.ここが金属─絶縁体転移点である. § 1 三次元画像認識の応用 この画像認識の方法は三次元系にも使える.二次元の 画像認識をそのまま使う場合,三次元の波動関数を F(x, y)= dz|(x, y, z) Ψ |2 (7) のように一方向に積分して二次元画像に情報を落とし, F(x, y)を解析すればよいが [Ohtsuki 17],これだと z 方向の情報が失われる.そこで人間の目にはなかなか判 断ができない三次元波動関数をそのまま解析したくな る.三次元の畳込みによる画像認識の出番である. 簡単な問題として,三次元系の単純立方格子上を電子 が飛び回るモデルを考えよう.各格子点上にはランダム ポテンシャルが存在するとする.この場合,i, j を格子 点のラベルとしてハミルトニアン行列の行列要素 HijHij= 1, i, j が最近接格子 Vi, 対角成分 i=j 0, 上記以外  (8) である.Viはランダムな値で,その確率密度 P(Vi)は 例えば  P(Vi)= 箱型分布 ガウス分布 コーシー分布 1 W θ⎜

-|V | ,i

W 2 2πW2 exp Vi2 2W2 1

π(Vi2+W2) W (9) とする.ここで,θはヘヴィサイドの階段関数である. このモデルは古くから研究されている三次元金属─絶縁 体転移の標準的なモデルで,アンダーソンモデルと呼ば れている [Anderson 58]. ハミルトニアンを対角化し(実対称疎行列用の対角化 サブルーチン,例えば Intel MKL の FEAST を使う), 求めた波動関数は例えば図 4 のようなものである. 金属から絶縁体への転移がどこで起こるかはランダム ʼwfW682.txtʼ 0 5 10 15 20 25 30 35 40 0 5 10 15 20 25 30 35 40 0 0.001 0.002 0.003 0.004 0.005 0.006 0.007 0.008 0.009 図 2 ランダムネスの強さ W が大きくもなく小さくも ない場合の波動関数の振幅の 2 乗|Ψ|2. 一見しただけでは,電気を流す非局在状態なの か,電気を流さない局在状態なのか,すなわち 金属か絶縁体か,判断がつかない 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0 2 4 6 8 10 12 P Disorder, W Wc 図 3 CNN に波動関数(正確には波動関数の振幅の 2 乗|Ψ|2)を判定させ,ランダムネスの強さ W に 対して,波動関数が広がっている確率(金属相 である確率)をプロットした結果. 破線は浅めのニューラルネットワーク,実線は 深めのものに対応する.W を変化させると 6 あ たりで急激に金属である確率が減少する.Wcは 別の方法で求めた金属─絶縁体転移点で [Asada 04],この方法が金属─絶縁体転移をうまく捉え ていることがわかる([Ohtsuki 16] より) 図 4 三次元ランダム電子系の波動関数の例. 波動関数の振幅の 2 乗|Ψ|2を密度プロットしている.左は 広がっている,すなわち金属的なもの,右は局在している, すなわち絶縁体的なものである([Mano 18] より)

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ネスの強さ W と電子の運動エネルギーとポテンシャル エネルギーの和 E(量子力学的にはハミルトニアン行列 の固有値)による.例えば箱型分布の場合,固有値スペ クトルの中心(E=0)では転移は W=Wc=16.54 付近 で起こることがわかっている [Slevin 14].そこで金属相 である W<Wcにおいて波動関数を 4 000 個,絶縁体相 である W>Wcにおいて波動関数を同じく 4 000 個用意 し,図 5 のような深目のニューラルネットワークに学習 させると,CNN は三次元の波動関数の特徴を捉え,い ろいろな場合の相図を描いてくれる*3.ランダムネスと エネルギーのパラメータ空間で物質が金属か絶縁体かを 描くと図 6 のようになる.図 6 では,波動関数が広がっ ている確率 pdeloc,つまり金属である確率を強度とみなし てカラープロットしている. この問題では格子は規則的で,サイト上にランダムポ テンシャルを仮定したが,格子がランダムな場合を考え ることもできる.単純化して,格子点がランダムに確率 psで占有されている場合を考えよう.ps=1 の場合は単 純立方格子となるが,ps<1 では格子点には穴があり, 隣どうしが必ずしもつながっていない.このつながりの 有無を議論するのがパーコレーション理論で,ps> pcな ら系の端から反対側の端までつながっているサイトの塊 (クラスタ)が存在するが,逆に ps< pcではつながって いるサイトを辿っていっても系の端には到達できない. このサイトが系全体につながり始める値 pcはパーコレー ションしきい値と呼ばれている.三次元の単純立方格子 では pc=0.3116 程度と評価されている [Aharony 94]. クラスタが系の端から端までつながっていないと電気 は流れないので ps<pcでは絶縁体,ps>pcではクラス タが端から端までつながっているので導体(金属)とみ なしたくなる.しかし,クラスタ上を運動するのは量子 力学的に振る舞う電子なので,ことはそう単純ではない. たとえ,クラスタがつながっていても,その上の波動関 数は干渉により定在波をつくり,局在しているかもしれ ないのである.そこで先に述べたアンダーソンモデルで 構築した CNN をこの問題(量子力学的問題をパーコレー ションクラスタ上で解くので,量子パーコレーション問 題と呼ばれる)に適用する. 量子パーコレーション問題では,ハミルトニアン行列 の行列要素 Hijが 1 となるのは,単純立方格子上のサイ ト,i, j が最近接点で,かつ両サイトとも占有されてい る場合である.それ以外の行列要素はすべて 0 である. ここから一番大きなクラスタに対応するハミルトニア ン行列を定義して,対角化により固有ベクトルを求め, CNNに判断させる.これより求めた金属─絶縁体の相 図が図 7 である.アンダーソンモデルと同じく,波動関 図 5 三次元ランダム電子系解析に用いた CNNの模式図([Mano 17] より) *3 相図とは水,氷,水蒸気の相転移のように温度や圧力などの パラメータを決めるとどのような物質相が現れるかを,パラメー タ空間で示したものである.

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数が広がっている確率 pdeloc,つまり金属である確率を強 度とみなしてカラープロットしている.縦軸はサイトの 占有確率 ps,横軸はエネルギーで,緑の破線は量子力学 を考慮しないパーコレーションしきい値 pc 0.3116 で ある.量子パーコレーションしきい値(局在─非局在が 入れ替わる場所)は複雑なエネルギー依存性を示すこと がわかるとともに,量子パーコレーションしきい値は古 典パーコレーションしきい値よりもかなり上だというこ とがわかる.図 7 の白い破線は他の方法で見積もった量 子パーコレーションしきい値で,ここで紹介した CNN の方法とよく一致している. 3・2 制限ボルツマンマシンと強化学習 前サブセクションで述べた例では,波動関数が比較的 簡単に求められるが,その解析が困難であった.これとは 別に,波動関数を求めることが困難な場合がある.この 場合には別の形でニューラルネットワークを利用する. 式(5)で与えたミクロな磁石の集まり,スピン系を 例として,この波動関数を求めることの難しさを示そう. 格子点の数が L の場合,状態は各サイトのスピンがアッ プかダウンか(つまり N 極が上を向いているか,下を 向いているか)の 2L個の可能性がある.そのため,ハ ミルトニアン行列の次元は 2L×2Lとなる.物性物理で 扱う粒子数はアボガドロ数 1023のオーダである.さすが にここまで大きな数を扱わなくても物質の性質は理解で きるが,L が 20 程度の一次元系でさえハミルトニアン 行列の次元が 100 万×100 万になってしまうのでは,お 手上げである.そこでこうした状況を克服するために, 物性物理学では疎行列の対角化,量子モンテカルロ法, 密度行列くりこみ群,テンソルネットワーク法など,さ まざまな工夫がこらされている.これらに加え,ここ 1 ∼ 2 年,強化学習を用いた方法が注目を集めている.物 性物理では,最低エネルギーの状態(基底状態と呼ばれ る)が物性,特に低温での物質の振舞いを決めている. そこであたかもゲームでハイスコアを求めるように,よ りエネルギーの低い状態を求める強化学習を行うのであ る [Carleo 17, Saito 17].ここでいうエネルギーとは, 運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和であり, 量子力学的には式(1)から, i*Hij ji, j E Ψ Ψ (10) で与えられる.なお,波動関数は規格化されている,す なわち ΣiΨii=1 である. 基底状態の波動関数は各状態の線形結合で表されるの で,その係数を求めればよい.例えばスピン系の場合, 状態は|σ1, σ2, …, σL〉, σi=±1 で表される.+1 は N 極 が上向き,−1 は下向きに対応する*4.|σ1, σ2, …, σ L〉 =|{σ}〉というようにスピンの配置を集合のように表す と,任意の状態は = | {σ} C{σ} {σ } Ψ (11) と表すことができる.そこでエネルギー*5ができるだけ 図 6 CNN で描いた金属─絶縁体の相図. 縦軸はランダムネスの強さ W を Wcで規格化し たもの,横軸はエネルギーである.赤色は波動 関数が非局在の金属相,青色は波動関数が局在 している絶縁体相である.緑色の矢印は学習を 行った領域で,ごくわずかな領域を学習させる ことで全体的な相図が描ける.白い破線と x は 他の方法で求めた相境界で CNN を使った方法 とよく一致している([Mano 17] より) !"# !"$ !"% !"& !"'  !"( ℎ# $ %  *   図 8 制限ボルツマンマシンの模式図. 下の層(σ)が考えている物理系に対応し,上の層(h) が隠れ層である.隠れ層の間の結合はない.物理系 のエネルギーが最小になるように,上の層と下の層 の結合パラメータなどを最適化する           図 7 量子パーコレーションの相図. 縦軸はサイトの占有確率,横軸はエネルギーで, 緑の破線は量子力学を考慮しないパーコレー ションしきい値 0.3116 である.赤色は波動関数 が広がっている金属相,青色は波動関数が局在 している絶縁体相である.白い破線は他の方法 で見積もったしきい値である([Mano 17] より) *4 例えば,|1, −1, …, 1〉は 1 番目の格子点では N 極が上向き, 2番目は下向き,L 番目は上向きという状態を表している. *5 エネルギーはハミルトニアン行列を波動関数で両側から挟ん だ,Σ{σ}, {σ′}C*{σ}C{σ′}H({σ}, {σ′})で与えられる. 絶縁体相 学習した領域 金属相

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小さくなるように線形結合の係数C{σ}を決めるのである. C{σ}を決めるために,スピン系(物理系)のほかに隠 れ層を用意する(図 8).隠れ層は M 個のサイト(物理 系のサイト数 L と等しくなくてもよい)からなり,各サ イトは変数 hi=±1, i=1, …, M という値をとるとする. 隠れ層は隠れ層とは結合せず物理系とだけ相互作用する ように“制限”する.また,線形結合の係数 C{σ}は,ai, bjを仮想的な磁界,Wijを隠れ層と物理系との結合パラ メータとして C{σ} {hj} exp i=1 L aiσij=1 M bj hji, j Wijσi hj = ⎜

(12) というように統計力学でいうボルツマン因子で与えられ るとする.これが制限ボルツマンマシンである. パラメータの集合,{a, b, W} を式(10)の波動関数の エネルギーが最小になるように強化学習することで基底 状態を求めようという試みは,その後も改良が加えられ 活発に研究されている.制限ボルツマンマシンで得られ た基底状態のエネルギーは,解析的厳密解や他の数値計 算で求めた値と一致している.

4.お わ り に

ここで紹介した方法のほかにも機械学習は物性物理学 へさまざまな形で応用されている.わかりやすいのは超 伝導体の超伝導転移温度 Tcの予想である.現在,1 万以 上の超伝導物質が知られており,それらの Tcも正確に 測定されている.そこで物質の組成とTcを機械学習させ, 未知の物質の Tcを予想させる,もしくは Tcの高い物質 の発見に使おうというのである [Stanev 17]. しかし,このまま機械学習,特にニューラルネットと いうブラックボックスのような手法が成功を収めていく と,これが成功したからといって物理学者は物理法則を 理解したことになるのか,心配になってくる.よくわか らないけれど,結果的にうまくいくという手法が物理の 手法としてすでに存在しているので,気に病むことはな いのかもしれないが,極端な話,人工知能が人類がまだ 見つけていない物理の基本原理を発見したように見えて も,我々には理解できないだろう.そもそも生存競争を 勝ち抜くために進化してきた我々の脳が,ここまで自然 現象を理解できたことが不思議である. 人工知能が自然現象の理解の手助けをしてくれるか, それとも我々とは関係なく自然を理解し始めてしまうの か,できるだけ物理の研究を続け,今後どのように人工 知能が進化していくかを見守っていきたい. 謝 辞 本研究は科研費 JP17K18763 に支援されている.ま た,研究成果は NTT データ数理システムの大槻知貴博 士,および上智大学理工学研究科の真野智裕君との共同 研究によるものである.

◇ 参 考 文 献 ◇

[Aharony 94] Aharony, A. and Stauffer, D.: Introduction to

Percolation Theory, 2nd Ed., Taylor & Francis, London(1994),

小田垣孝 訳:パーコレーションの基本原理,吉岡書店(2001) [Anderson 58] Anderson, P. W.: Absence of diffusion in certain

random lattices, Phys. Rev., Vol. 109, p. 1492(1958)

[Asada 04] Asada, Y., Slevin, K. and Ohtsuki, T.: Numerical estimation of the β function in two-dimensional systems with spin-orbit coupling, Phys. Rev. B, Vol. 70, p. 035115(2004) [Carleo 17] Carleo, G. and M. Troyer: Solving the quantum

many-body problem with artificial neural networks, Science, Vol. 355, 602(2017)

[LeCun 98] LeCun, Y., Bottou, L., Bengio, Y. and Haffner, P.: Gradient-based learning applied to document recognition, Proc. IEEE, Vol. 86, p. 2278(1998)

[LeCun 15] LeCun, Y., Bengio, Y. and Hinton, G. L.: Deep learning, Nature, Vol. 521, p. 436(2015)

[Mano 17] Mano, T. and Ohtsuki, T.: Phase diagrams of three-dimensional anderson and quantum percolation models using deep three-dimensional convolutional neural network, J. Phys. Soc. Jpn., Vol. 86, p. 113704(2017)

[Mano 18] Mano, T. and Ohtsuki, T.: 多層畳み込みニューラルネッ トワークで得た三次元ランダム電子系の相図,日本物理学会年 次大会,24pK704(2018)

[Ohtsuki 16] Ohtsuki, T. and Ohtsuki, T.: Deep learning the quantum phase transitions in random two-dimensional electron systems, J. Phys. Soc. Jpn., Vol. 85, p. 123706(2016) [Ohtsuki 17] Ohtsuki, T. and Ohtsuki, T.: Deep learning the

quantum phase transitions in random electron systems: Applications to three dimensions, J. Phys. Soc. Jpn., Vol. 86, 044708(2017)

[Saito 17] Saito, H.: Solving the Bose-Hubbard model with machine learning, J. Phys. Soc. Jpn., Vol. 86, 093001(2017) [Slevin 14] Slevin, K. and Ohtsuki, T.: Critical exponent for the

Anderson transition in the three-dimensional orthogonal universality class, New J. Phys., Vol. 16, 015012(2014) [Stanev 17] Stanev, V. , Oses, C., Kusne, A.G., Rodriguez,

E., Paglione, J., Curtarolo, S. and Takeuchi, I.: Machine learning modeling of superconducting critical temperature, arXiv:1709.02727(2017) 2018年 4 月 23 日 受理

著 者 紹 介

大槻 東巳 上智大学理工学部教授.1984 年東京大学理学部物理 学科卒業,1989 年同大学院理学系研究科物理学専 攻博士課程修了,理学博士.学振特別研究員,ドイ ツ連邦共和国物理工学研究所博士研究員,大阪大学 教養部助手,東邦大学理学部講師,上智大学理工学 部助教授を経て 2001 年に同大学教授.現在に至る. 専門は物性物理学.

参照

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