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Well-being Computing:身体的・心理的・社会的健康増進技術と睡眠からの展望

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Academic year: 2021

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1.は じ め に

近年,ウェアラブルセンサやアンビエントセンサ(例 えば,壁に埋め込まれたセンサなど)が発展し,IoT (Internet of Things)の時代の到来に伴い,心拍や呼吸 に代表される数多くの生体データを簡単に取得できるよ うになった.これらのデータは我々の健康状態を把握・ 理解するうえでとても有用であるだけでなく,(健康的 な生活を継続的に送ることで)幸福を感じる・もたらす こともある.しかし,ここで重要なことは,このような 生体データを得ることで,すべての人が幸福になるわけ ではないことである.例えば,日々生体データのチェッ クに追われてとても忙しくなり,結果的に幸福を感じる ことができない人もいる. もっと客観的に調べてみると,2015 年度の国連の世 界幸福度報告 [Helliwell 15] では,日本は戦争地域を含 む 158 か国中 46 位(アメリカは 15 位)と低いだけで なく,7 年前と比較すると幸福度は下がっており,125 か国中 107 位(アメリカは 95 位)と低く,他国に比べ て不幸と感じている割合が急増している.ここで,注意 してもらいたいのが,7 年前と比較した幸福度が 68 位 以下の国は,幸福度がマイナス成長(幸福度は下がって いること)であり,その中でも日本の下がり幅は他の国 に比べて大きいことである.これらの結果は健康的な側 面だけを考慮したものではないが,少なくとも数多くの 生体データを取得できるようになったにもかかわらず, 幸福の向上には貢献していないことを示している. このような事実から,本稿では「身体的な側面」の健 康だけでなく,「心理的な側面」や「社会的な側面」の 健康も一緒に考えることの重要性を主張するとともに, これらすべての側面の健康増進に役立つコンピューティ

Well-being Computing:

身体的・心理的・社会的健康増進技術と

睡眠からの展望

Well-being Computing: Towards Physical, Mental, and Social Well-being

from Sleep Perspective

髙玉 圭樹

電気通信大学大学院情報理工学研究科情報学専攻

Keiki Takadama Department of Informatics, Graduate School of Informatics and Engineering, The University of Electro-Communications. [email protected], http://www.cas.hc.uec.ac.jp

村田 暁紀

(同   上)

Akinori Murata [email protected]

上野  史

(同   上)

Fumito Uwano [email protected]

田島 友祐

(同   上)

Yuusuke Tajima [email protected]

辰巳 嵩豊

(同   上)

Takato Tatsumi [email protected]

原田 智広

立命館大学情報理工学部知能情報学科

Tomohiro Harada Department of Human and Computer Intelligence, The College of Information Science and Engineering, Ritsumeikan University.

[email protected], http://www.ice.ci.ritsumei.ac.jp/~harada/

Keywords:

well-being, health, happiness, sleep, vital data, big data. 「Well-being Computing」

(2)

ング技術とその学問として「well-being computing」を 提唱する.ここで,well-being とは,WHO(世界保健 機関)による健康(health)の定義の中に出てくる言葉で, 身体的・心理的・社会的に「良好な状態」という意味で 使われている(厳密には,「健康とは,単に病気あるい は虚弱でないというだけでなく,身体的・心理的・社会 的に完全に良好な状態(well-being)である*1」と定義 されている).この定義から,well-being computing とは, 身体的・心理的・社会的に良好な状態を導くコンピュー ティング技術を意味する(広義に見ると,良好な状態と は幸福を感じる状態を含むため,幸福を導くコンピュー ティング技術と捉えることもできる). ここで,well-being computing の理解を深めるために, 従来のヘルスケアシステムに着目しよう.例えば,血圧 計や心拍測定器は身体的な健康状態を把握するシステム として有用であるものの,心理的・社会的な健康状態(本 稿では幸福状態と捉える)を把握することはできない. しかし,上記で述べたように,真の意味での良好な状態 を導くには,身体的な健康だけでなく,心理的・社会的 な健康も必要であるため,それらをすべて達成すること が求められる.そこで,この実現を目指すために well-being computingという技術が要となる. このような背景から,本稿では一例として個人適応 型睡眠モニタリングエージェント [髙玉 14] に着目し, well-being computingのポテンシャルを示す.ここで, 睡眠に着目したのは次の二つの理由がある.まず,(1) 多くの人々が何らかの睡眠障害(夜中に頻繁に目が覚め る障害から睡眠時無呼吸症候群などの病気まで)を患っ ており,社会的な問題になっているからである(厚生 労働省の調査によると,日本では 2 400 万人(五人に一 人)もの人が睡眠障害で悩んでいると報告されている [厚生労働省 08]).次に,(2)睡眠障害は,身体的に健 康な人(熱などがない人)でも,例えば不眠のために心 理的に良好な状況ではなく,社会的な責任(与えられた 仕事など)を果たすことが難しくなる可能性があるため, well-being computingが着目している身体的な健康だけ でなく,心理的・社会的な健康(幸福)を考慮すること が重要であるからである. 本論文の構成は以下のとおりである.以下,2 章では 個人適応型睡眠モニタリングエージェントとその特徴を 紹介し,3 章では well-being computing の視点から提案 エージェントシステムの四つのポテンシャルを示す.そ して,最終章である 4 章で本論文をまとめる.

2.個人適応型睡眠モニタリングエージェント

我々は,図 1 に示すように無拘束状態で(センサなど 人体につけず,寝るだけで)睡眠段階を推定できる「個 人適応型睡眠モニタリングエージェント」[Takadama 10]を考案し,同図上に示すように,スマートフォン, タブレット PC,Pad などのポータブルデバイス上に睡 眠段階を提示する機構を構築してきた.この図における 縦軸は 6 段階に分かれた睡眠段階を示し,横軸は睡眠時 間を示す.睡眠段階は,浅い睡眠から深い睡眠にかけて 「覚醒」,「REM 睡眠」,「ステージ 1」,「ステージ 2」,「ス テージ 3」,「ステージ 4」に分かれており,それぞれ便 宜上,W, R, 1, 2, 3, 4 と記載している.一方,同図下はベッ ドの下に敷いたマットレスセンサを示している.この マットレスセンサは寝ている状態で心拍と体動を計測で きるものであれば何でもよく,その生体データを有線か 無線でポータブルデバイスに送信した後,ポータブルデ バイスに組み込まれたエージェントが心拍数と体動デー タをもとに睡眠段階を推定する. 提案方法は,心拍と睡眠段階には強い相関があるとい う数多くの知見 [Harper 87, Otsuka 91, Shimohira 98] に基づいている.大雑把に言えば,眠りの深いときには 心拍数は低く,眠りの浅いときは心拍数が高くなるとい う特徴に基づいて睡眠段階を推定する.具体的なマット レスセンサとしては,フィンランドの VTT 技術研究セ ンタが開発した Emfit センサを採用し,そのセンサから 心拍数と体動データを得る.このセンサは圧電素子の変 化から生体データ(心拍,呼吸,体動)を計測すること ができる.このような特徴から,(センサは敷いてある が見えないため)いつもと同じようにベッドに寝るだけ 図 1 個人適応型睡眠モニタリングエージェント

*1 具体的な定義としては,“Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.”と記載されている.

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で睡眠段階を推定可能になる. この方法の特徴は,各人の特性に合わせて睡眠段階 を推定することである.特に,睡眠のリズムや深さは人 によって異なるだけでなく,年齢によっても異なるため [日本睡眠学会 10],従来の睡眠段階推定技術では限界が あり,提案手法の各人への適応技術によって初めて可能 になる(詳しくは,[Takadama 10] を参照されたい).

3.Well-being Computing の展開

Well-being computingのポテンシャルを示すために, その一例として個人適応型睡眠モニタリングエージェン トに着目し,図 2 に示すような四つの展開を紹介する. この四つの展開は,次の二つのサービスに分類できる. (1)リアルタイム睡眠段階推定に基づくサービス (1-a)適切なおむつ交換時期を知らせるサービス (1-b)入眠を早める快眠音提供サービス (2)長期間の睡眠ビッグデータに基づくサービス (2-a)深い睡眠を導くライフスタイル設計サービス (2-b)安定した睡眠を導く寝具提供サービス 以下,上記の四つのサービスについての説明を通して, Well-being computingのポテンシャルを説明する. (1-a)適切なおむつ交換時期を知らせるサービス 介護福祉施設におけるおむつ交換は,高齢者にとって 重要な事柄である.なぜなら,(1)おむつ交換は(人に 見られたくないところを見られるという意味で)気持ち の良いものではなく,(2)特に夜間の場合は,おむつ交 換によって目覚めてしまい,安定した睡眠を確保できな いからである.高齢者は一度目が覚めると再び眠ること は容易ではない人が多いため,さらに睡眠時間を確保で きなくなる.この問題に対処するために,我々は個人適 応型睡眠モニタリングエージェントを用いて,睡眠の深 さとおむつ交換の関係を分析した結果,次のような知見 を得た.具体的には,(1)深い睡眠時に起きる可能性が 少ない方は,その時期におむつ交換しても睡眠を維持で きるため,深い睡眠時に交換したほうが良い.逆に,(2) 深い睡眠時でも起きる可能性が高い方は,深い睡眠時に おむつ交換すると寝起きで気分が晴れないため,浅い睡 眠時に交換したほうが良い. 上記の知見から適切なおむつ交換のタイミングを介護 士に知らせるために,我々はリアルタイムに睡眠段階を 推定できる手法 [Harada 16] を考案し,高齢者ごとの睡 眠状態を表すシステムを構築した.このシステムでは, 図 3 に示すように 10 人が同じ一つのユニット(ユニッ ト J)の中で生活している施設(201 ∼ 211 号室)にお ける高齢者ごとの睡眠状態を表すことができる.なお, ここでは 6 名が non-REM 睡眠(睡眠段階 1 ∼ 4),1 名 が REM 睡眠,1 名が覚醒,そして,2 名がベッドに(ト イレなどで)寝ていない状況を表している. 特に,non-REM 睡眠に関しては,グレーの“z”マー クの数は睡眠の深さを表し,背景が暗い部屋(図 3 では 6部屋)は深い眠りについていることを示している.例 えば,202 号室や 207 号室で,グレーの“z”マークが 四つの高齢者 B と F は睡眠段階 4 であることを表して いる.一方で,REM 睡眠や覚醒状態では,“z”マーク の代わりに顔のマークが表示され,背景が明るい部屋(図 3では 4 部屋のうち 2 部屋)は浅い眠りであることを示 している.例えば,201 号室の高齢者 A や 211 号室で の高齢者 J はそれぞれ REM 睡眠や覚醒状態であること を表している. このように提案システムを使って高齢者ごとの睡眠状 態を把握すれば,介護士はいつ誰のおむつの交換をすれ ばよいかを判断できるようになる.それ以外にも,介護 士は,今後起きる可能性の高い浅い睡眠(REM 睡眠や 覚醒状態)の高齢者のケアに専念し,その後に起きる可 能性の低い深い睡眠(睡眠段階 1 ∼ 4)の高齢者のケア の準備に時間を割り当てることができる.このように睡 眠を妨げない適切なおむつ交換は,常に高齢者の睡眠状 態を把握することによって初めて可能になることから,リ アルタイム睡眠段階推定に基づくサービスに位置付けら れる.また,提案手法の別の使い方(睡眠段階を使わな い方法)としては,208 号室や 210 号室の高齢者はベッド にいないことから,トイレ以外に徘徊している可能性も あるため,介護士は彼らを敏速に探すことに展開できる. ここで重要なことは,「身体的な健康」はおむつ交換 図 2 Well-being computing のポテンシャル 図 3 リアルタイム睡眠モニタリングシステム

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による睡眠時間の妨げの機会を減らすことで得られる一 方で,「心理的な健康(幸福)」は起こされないスムーズ なおむつ交換によってもたらされることである.つまり, 高齢者ごとの睡眠状態による適切なおむつ交換サービス は,身体的な健康だけでなく,心理的な健康(幸福)も 向上させることに貢献する. (1-b)入眠を早める快眠音提供サービス 不眠症や睡眠時無呼吸症候群に代表される睡眠障害だ けでなく,日頃の睡眠不足などによって,仕事の効率性 が低下し,車やバスの事故が増加している.この問題の 解決に向けて,少しでも多くの睡眠時間をもてるように, 我々は入眠を早める「快眠音」を探求し,快眠音を提供 するシステムを構築した [髙玉 16].ここで重要なことは, 快眠音は図 4 に示すように,個人適応型睡眠モニタリン グエージェントが眠れていない,あるいは,浅い眠りが 続いていると判断したときに,各人の心拍や呼吸に連動 した音のリズムを調整するということである.このよう な深い睡眠を導く快眠音の提供は,常に睡眠状態を把握 することによって初めて可能になることから,リアルタ イム睡眠段階推定に基づくサービスに位置付けられる. 具体的な方法としては,図 4 に示すように,現在の心 拍や呼吸の周期よりも少し長い周期の音に変化させる. このような音は,今よりも眠りが深くなったときの周期 であるため,それを聞くことにより,擬似的に眠りが深 くなったと錯覚し,眠気を誘う可能性を高められる可能 性がある.例えば,心拍や呼吸の周期を 5%長くする(心 拍や呼吸の周期× 1.05 とする)などとして実現する. ここで重要なことは,「身体的な健康」は個人に適応 した快眠音によって入眠が早くなり,多くの睡眠時間が 確保されることで得られる一方で,「心理的な健康(幸 福)」は不眠や睡眠不足などの睡眠障害からの解放から 得られる安心感によってもたらされることである.さら に,入眠を早めることによって,時差の影響(よく眠れ ない,何回も目が覚める,あるいは,浅い睡眠が続く症 状の影響)を少なくすることにも貢献し,社会的な責任 (与えられた仕事など)を全うできるという「社会的な 健康(幸福)」にもつながる.つまり,入眠を早める快 眠音提供サービスは,身体的な健康だけでなく,心理的・ 社会的な健康(幸福)も向上させることに貢献する. (2-a)深い睡眠を導くライフスタイル設計サービス 介護福祉施設では,食欲の出る食事や適切なリハビリ など,さまざまな工夫がなされているが,多くの高齢者 が望む快適で健康的な老後を提供することには限界があ る.そこで,可能な限りその目的達成に向けて,我々は 各人のライフスタイルを設計する「コンシェルジュサー ビスに基づく介護支援システム」を提案した [髙玉 14]. ここでライフスタイルとは,介護福祉施設で作成される ケアプラン(ラフな 1 日のスケジュール)のことを意味 しており,高齢者ごとに割り当てられた専用のエージェ ントが,高齢者がより快適で健康的な生活を送ることが できるように適切なケアプランを設計する. このような介護支援サービスの実現に向け,提案シス テムでは高齢者の「睡眠状態(厳密には睡眠段階)」に 着目し,個人適応型睡眠モニタリングエージェントが深 く安定した睡眠がとれているかどうかで適切なケアプラ ンか(すなわち,快適で健康的な生活を送れているか) を評価する.ここで理解しておくべきことは,(1)ケア プランは高齢者ごとに設定されているものの,一般的に 決まった時間に起床と就寝し,同じ時間に食事をとるス ケジュールが多く,介護士にとっては効率的であるが, 高齢者にとっては必ずしも快適な生活ではないことであ る.さらに,(2)ケアプランの質はケアプランナの経験 によるもので,必ずしも深く安定した睡眠を導くように ケアプランは最適化されていないことである.このよう な背景から,我々は高齢者の睡眠状態から,どのような 要因(例えば,食事やリハビリなど)が深い睡眠を導く のかをデータマイニングし,それらをケアプランに組み 込む手法を考案した [Takadama 15].このとき,睡眠状 態というパーソナルデータは毎日蓄積され,徐々にビッ グデータに成長することで,適切にマイニングできるよ うになる.つまり,深い睡眠を導くケアプランの提供は, 長期間の睡眠状態を蓄積することによって初めて可能に なることから,長期間の睡眠ビッグデータに基づくサー ビスに位置付けられる. 図 5 に,介護福祉施設のある高齢者に対して見いだし た知見(深く安定的な睡眠を導く知識と浅く不安的な睡 眠を導く知識)の一例を示す.具体的には,下記の高齢 図 4 入眠を早める快眠音システム 図 5 深い・浅い睡眠を導く知識

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者は入浴をするか,リハビリも入浴も両方しないときに 深い眠りとなり,入浴なしにリハビリをしたときに浅い 眠りとなることがわかる.この関係を理解するために, 直接,高齢者に尋ねたところ,本人はきれい好きで,リ ハビリをすると汗ばむこともあるため,入浴して清潔な 身体を保ちたいと思っているとのことであった.そのた め,入浴をすれば清潔な身体を保つことができ,その点 に関しては心が満たされて深い眠りとなるが,仮に入浴 しなくてもリハビリをしなければ汗ばむことがないので 眠りの妨げにならない.逆に,入浴せずにリハビリをし た場合は,清潔な身体を保てず,そのことが不快で浅い 睡眠を引き起こすきっかけとなる. ここで重要なことは,「身体的な健康」は継続的な深 い睡眠(ケアプランの中に組み入れた深い睡眠を導く行 動)によって得られる一方で,「心理的な健康(幸福)」 は上記の例では,清潔な身体を保つことができ,心が満 たされることによってもたらされることである.つまり, 深い睡眠を導くライフスタイル設計サービスは,身体的 な健康だけでなく,心理的な健康(幸福)も向上させる ことに貢献する. (2-b)安定した睡眠を導く寝具提供サービス 多くの人は,深く安定した睡眠を得るために,自分に 合ったベッド,枕,マットレスなどの寝具を望んでいる. そのため,Simmons や Serta などの高級寝具を購入す る人も少なくない.また,特定の箇所に圧力がかかり腰 や首が痛くならないように,ベッドから体に加わる圧力 を均一に分散させる高級なマットレスも大きな需要があ る.しかし,このような寝具の効果は人によって異なり, 高級な寝具が必ずしも深く安定した睡眠をもたらすとは 限らない. この問題を解決するために,我々は図 6 に示すような EMFITセンサをマットレスに組み入れた睡眠状態診断 マットレスを構築する計画を立てている.このマットレ スで就寝すると,個人適応型睡眠モニタリングエージェ ントが自動的に睡眠段階を推定し,深く安定した睡眠を とれているかどうかを診断する.もっと重要なことは, エージェントが睡眠状態を 1 週間ぐらいチェックするこ とで,購入したベッドがその人に合っているかどうかを 判断できることである.このように主観ではなく客観的 に適切な寝具を見いだすことは,究極に個別化されたケ アサポートであり,寝具購入者が感じる幸福感を向上さ せることに貢献する. ここで,もし購入者が良い睡眠をとることができない とき,その寝具を購入しなくてよいというビジネスモデ ルが展開できるのであれば,購入者は真の意味で自分に 合った寝具を見いだすことができ,納得のいく寝具の購 入が可能となる.これ以外にも,エージェントが長期間 にわたって購入者の睡眠状態をチェックすることで,良 い睡眠状態が悪くなったことを発見できる.このような 変化は,布団の羽毛やベッドのコイルがへたってきたと きに特定の圧力が体のどこかにかかることから生じる可 能性が高く,寝具メーカはマットレスや枕の買替え時期 を適切なタイミングで購入者に伝えることができるよう になる.購入者も寝具メーカからの押し売りではなく, 必要な時期での連絡となるため,購入に前向きになる可 能性が高くなる.特に,長期間の寝具メーカと購入者の 関係は,今まで実現困難であった寝具を売ったあとのア フタサービスに展開できる.このようなビジネスは,長 期間の睡眠状態を蓄積することによって初めて可能にな ることから,長期間の睡眠ビッグデータに基づくサービ スに位置付けられる. ここで重要なことは,「身体的な健康」は寝具の良い 状態の維持(上の例では,羽毛やコイルがへたったとき にマットレスや枕を買い替えること)による継続的な深 い睡眠によって得られる一方で,「心理的な健康(幸福)」 は自分に合った寝具を見いだすことができたという喜び によってもたらされることである.また,(1-b)入眠を 早める快眠音提供サービスと同様,深く安定した睡眠に よって疲れが取れることで,社会的な責任(与えられた 仕事)を全うできるという「社会的な健康(幸福)」に もつながる.つまり,深い睡眠を導く適切な寝具提供サー ビスは,身体的な健康だけでなく,心理的・社会的な健 康(幸福)も向上させることに貢献する.特に,このよ うな幸福は,購入者の主観的な評価(例えば,寝具に横 たわったときの感覚)によって寝具を購入するという従 来のビジネスモデルでは得ることが難しいが,客観的な 評価(例えば,寝具状態)によって購入するという新し いビジネスモデルでは得ることが可能となる.

4.お わ り に

本稿では,「身体的な健康」だけでなく,「心理的や社 会的な健康」も一緒に考えることの重要性を主張すると ともに,これらすべての側面に関して良好な状態を導く コンピューティング技術とその学問として“well-being computing”を提唱し,そのポテンシャルを睡眠の観点 から示した.具体的には,一例として個人適応型睡眠モ ニタリングエージェントに着目し,次の四つの展開を通 して身体的な健康に加えて,(心理的・社会的な健康か 図 6 睡眠状態診断マットレス

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ら得られる)幸福も向上させる可能性を示した.まず, (1)リアルタイム睡眠段階推定に基づくサービスとして, (1-a)適切なおむつ交換時期の特定と(1-b)入眠を早 める快眠音提供のポテンシャルを示し,次に,(2)長期 間の睡眠ビッグデータに基づくサービスとして,(2-a) 深い睡眠を導くライフスタイル設計と(2-b)安定した 睡眠を導く寝具提供の有用性を示した.これらの四つの 展開の結果から,well-being computing は健康と幸福の 両方を向上させるポテンシャルをもち,その有効性は究 極に個人化されたケアサポートによって実現される可能 性を示した. しかし,well-being computing のポテンシャルはま だ上記の四つの例で示したにすぎず,他の応用への展開 を実施し,得られたポテンシャルの汎用性を向上させる ことは必要である.それ以外にも,(1)(オキシトシン などの測定による)幸福の客観的評価,(2)well-being computing技術によるさらなる幸福感の増幅など,大き なチャレンジに値する課題に取り組むことも重要である. 謝 辞 本研究の一部は,文部科学省の科学研究費補助金(基 盤研究(A)(課題番号 No. 15H01720),挑戦的萌芽研 究(課題番号 No. 15K12105)),ヤマハ株式会社,株式 会社エムール,株式会社モアソフトとの共同研究の支援 によって行われている.

◇ 参 考 文 献 ◇

[Harada 16] Harada, T., Uwano, F., Komine, T., Tajima, Y., Kawashima, T., Morishima, M. and Takadama, K.: Real-time sleep stage estimation from biological data with trigonometric function regression model, The AAAI 2016 Spring Symposia,

Well-being Computing: AI Meets Health and Happiness Science, pp. 348-353(2016)

[Harper 87] Harper, R. M., Schechman, V. L. and Kluge, K. A.: Machine classification of infant sleep state using cardiorespiratory measures, Electro-encephalography and

Clinical Neurophysiology, No. 67, pp. 379-387(1987) [Helliwell 15] Helliwell, J., Layard, R. and Sachs, J.(eds.): World

Happiness Report 2015, Sustainable Development Solutions

Network(2015)

[厚生労働省 08] 厚生労働省:国民健康・栄養調査(2008) [日本睡眠学会 10] 日本睡眠学会:睡眠学ハンドブック,pp.

27-29,朝倉書店(2010)

[Otsuka 91] Otsuka, K., Ichimaru, Y. and Yanaga, T.: Studies of arrthythmias by 24-hour polygraphic records, II. Relationship between heart rate and sleep stages, Fukuoka Acta. Med., Vol. 72, No. 10, pp. 589-596(1991)

[Shimohira 98] Shimohira, M., Shiiki, T., Sugimoto, J., Ohsawa, Y., Fukumizu, M., Hasegawa, T., Iwakawa, Y., Nomura, Y. and Segawa, M.: Video analysis of gross body movements during sleep, Psychiatry Clinic Neuroscience, Vol. 52, No. 2, pp. 176-177(1998)

[Takadama 10] Takadama, K., Hirose, K., Matsushima, H., Hattori, K. and Nakajima, N.: Learning multiple band-pass filters for sleep stage estimation: Towards care support for aged persons, IEICE Trans. on Communications, Vol. E93-B, No. 04, pp. 811-818(2010)

[髙玉 14] 髙玉圭樹:コンシェルジュサービスに基づく介護支援シ ステム:パーソナルヘルスデータからライフスタイル設計へ, 人工知能,Vol. 29, No. 6, pp. 585-590(2014)

[Takadama 15] Takadama, K. and Nakata, M.: Extracting both generalized and specialized knowledge by xcs using attribute tracking and feedback, 2015 IEEE Congress on Evolutionary

Computation(CEC2015), pp. 3034-3041(2015) [髙玉 16] 髙玉圭樹,村田暁紀,上野 史,田島友祐,原田智広:快 眠を導く音とは:心拍・呼吸に連動した音の睡眠への影響,人 工知能,Vol. 31, No. 3, pp. 383-388(2016) 2016年 11 月 18 日 受理

著 者 紹 介

髙玉 圭樹(正会員) 1998年東京大学大学院工学系研究科博士後期課程修 了.同年,国際電気通信基礎技術研究所(ATR)入 所.2002 年東京工業大学大学院講師を経て,2006 年電気通信大学助教授,2007 年准教授,2011 年教 授,現在に至る.博士(工学).マルチエージェン トシステム,強化学習,創発的計算手法,ヘルスケ アの研究に従事.著書に「マルチエージェント学習 ─相互作用の謎に迫る─」(コロナ社,2003)など.IEEE,情報処理学会, 計測自動制御学会,日本ロボット学会,電子情報通信学会などの各会員. 村田 暁紀 2015年電気通信大学情報理工学部卒業.同年,同大 学院情報理工学研究科入学,現在に至る.学士(工 学).進化計算とその応用展開に関する研究ならび に,睡眠段階推定の分析に従事. 上野  史 2015年電気通信大学情報理工学部卒業.同年,同大 学院情報理工学研究科入学,現在に至る.学士(工 学).マルチエージェント間協調の学習理論に関す る研究ならびに,睡眠段階推定プログラムの開発に 従事. 田島 友祐 2013年電気通信大学電気通信学部卒業.同年,同大 学院情報理工学研究科入学,現在に至る.学士(工 学).進化計算,睡眠段階推定ならびに生体信号モ ニタリングの研究に従事.進化計算学会会員. 辰巳 嵩豊 2015年電気通信大学情報理工学部卒業.同年,同大 学院情報理工学研究科入学,現在に至る.学士(工 学).学習分類子システムに関する研究ならびに, 睡眠段階推定の分析に従事. 原田 智広 2012年電気通信大学大学院情報理工学研究科博士前 期課程修了.同年,同大学院情報理工学研究科博士後 期課程入学.2012 年日本学術振興会特別研究員 DC1 採択.2015 年電気通信大学大学院情報理工学研究 科博士後期課程修了.同年,立命館大学助教に着 任,現在に至る.博士(工学).進化計算,機械学習, 知的エージェントの研究に従事.進化計算学会会員.

参照

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