局所類体論と有限群の表現論
原下秀士
2013 整数論サマースクール 9 月 2 日
概 要 先ず,本報告集でよく現れる記号等の紹介も兼ね,局所体の基本的事項および局所類体論の 復習を行う.次に,有限群の表現論を復習し,基本的な表現論の道具に馴染んでもらうことを 目標とする.最後に GL2(F ) の表現論にも現れる GL2(Fq) の表現の分類について解説を行う.1
局所類体論
1.1
局所体
定義 1.1. F を体とする.F 上の(正規)離散付値とは全射準同型 v : F× → Z で v(x + y) ≥ min(v(x), v(y)) を満たすものである.慣習でv(0) =∞と定める.離散付値体とは離散付値を持 つ体ことである. 以下,Fを離散付値体とし,vをその付値とする. O = OF :={x ∈ F | v(x) ≥ 0} (1) はF の部分環となり,Fの整数環と呼ばれる.また, p = pF :={x ∈ F | v(x) > 0} (2) はOの極大イデアルとなる.体 k = kF :=O/p (3) をF の剰余体と呼ぶ. p = ϖO (4) なる元 ϖ∈ pが存在し,これはFの uniformizer という. αを0 < α < 1を満たす実数とする.x, y∈ F に対し,x, yの間の距離をd(x, y) = αv(x−y) と 定めるとFは距離空間となる(αを取り換えても同値な距離になるので,αの選択については気 にすることはない).この距離についてF が完備な(任意のコーシー列が収束する)時,F は完 備離散付値体と呼ばれる. 定義 1.2. 局所体とは完備離散付値体で剰余体が有限体のものをいう. 事実 1.3. F は局所体⇐⇒ F はQp もしくは Fq((T ))の有限次拡大体 Fを局所体とし,kをその剰余体とする.qをkの位数とする.通常,上のα として,q−1を用 いる. |x| := d(x, 0) = q−v(x) (5) はx の(p進)絶対値と呼ばれる.1.2
局所体の拡大
Fを局所体とする.vをFの正規離散付値とする.EをFの有限次拡大体とするとEは局所体 となる.vEをEの正規付値とすると,ある自然数 eE/F が存在し,任意のx∈ F に対し, vE(x) = eE/F · v(x) (6) を満たす.この eE/F を拡大E/F の分岐指数という.kE をEの剰余体とすると,自然にkE は kの拡大体となる.その拡大次数 fE/F := [kE : k] (7) は相対次数と呼ばれる.[E : F ] = eE/F · fE/F が成立する. 定義 1.4. eE/F = 1の時,拡大E/Fは不分岐という. 命題1.5. 任意の自然数nについて,n次不分岐拡大Fn/Fが存在し,F -同型を除き一意的である. 証明. kのn次拡大k′は,あるn次既約多項式f (x)∈ k[x]を用い,k[x]/(f (x))と書ける.f (x)˜ ∈ O[x]をf (x)の持ち上げとする.O′ := O[x]/( ˜f (x))とすると,これは完備離散付値環(cf. [3], I, §16, Prop. 15)で剰余体はk′である.O′の商体をF′と置けば,これはFのn次不分岐拡大であ る.一意性について:Eを別のFのm次不分岐拡大(ただし n|m)とすると,自然な射HomF(F′, E) = HomO(O′,OE)−→ Hom∼ k(k′, kE). (8)
を得る.最後の射の全単射性は,xの行先を見ることでHomO(O′,OE) ≃ {a ∈ OE | ˜f (a) = 0} とHomk(k′, kE) ≃ {ξ ∈ kE | f(ξ) = 0} が分かり,Henselの補題から両者は1対1に対応するこ とから従う. 注意 1.6. 命題よりFn/F はガロア拡大で,(8)より自然な同型 Gal(Fn/F )≃ Gal(kn/k)を得る. FsepをF の分離閉包とし,µqn−1 ={x ∈ Fsep| xq n−1 = 1} と置く.Fn= F (µqn−1) であること も示すことができる. n|mに対しFn⊂ Fmを整合的に選んでおく((8)より可能).F の最大不分岐拡大は Fur =∪ n Fn (9)
と定義され自然な同型Gal(Fur/F )≃ Gal(k/k)が存在する.Gal(k/k)のq乗写像x7→ xqに対応す
るGal(Fur/F )の元はφF と書かれarithmetic Frobenius と呼ばれる.FrobF := φ−1F はgeometric
Frobeniusと呼ばれる.
1.3
局所類体論
Fを局所体とする.Fの Weil群WF は次のように定義される:
WF :=
{
σ ∈ Gal(Fsep/F ) σ|Fur ∈ FrobZF
} . (10) また,WF のアーベル化は WFab= WF/[WF, WF] と定義される.ここで[WF, WF]はWF の導来群[WF, WF]の閉包である. 局所類体論の主張は次の通り.
定理 1.7. 次の(1)と(2)を満たす同型 ArtF : F× ∼−→ WFab が存在する. (1) ArtF(ϖ)|Fur = FrobF, (2) E/F を任意の有限次分離拡大とする時,次の図式は可換である: E× −−−−→ WArtE Eab NE/F y yσ7→σ|F ab F× −−−−→ WArtF ab F .
注意 1.8. (2) より,E/F を任意の有限次分離拡大に対し,F×/NE/FE× ≃ Gal(E ∩ Fab/F ) を
得る.E/F がアーベルなら右辺は Gal(E/F ). 局所類体論を表現論的な観点で次の系のように書きなおすことができる.以下で現れる「スムー ズ表現」の定義については,注2.3 (2)を参照のこと.WF の1次元スムーズ表現はWFabを経由す るため,同型ArtF は次の一対一の対応を誘導する: 系 1.9. {F×の既約スムーズ表現}/ ≃ ←→ {WF の1次元スムーズ表現}/ ≃ この系はGL1(F )の場合の局所Langlands対応であり,一般のGLn(F )への拡張については本 報告集の三枝氏の解説をご覧下さい.
1.4
群コホモロジー
Gを群とする.Z[G]をGの群環⊕g∈GZg とする.Cn:=Z[G] ⊗ · · · ⊗ Z[G]| {z } n+1 と置き,第一成分 へのGの作用でG加群と見なす.これらは自由G加群になる.写像∂n: Cn−→ Cn−1を ∂n(σ0⊗ σ1⊗ · · · ⊗ σn) = n−1 ∑ k=0 (−1)k(σ0⊗ · · · ⊗ σkσk+1⊗ · · · ⊗ σn) + (−1)n(σ0⊗ σ1⊗ · · · ⊗ σn−1) で定めると,完全系列 · · · −−−−→ C2 ∂2 −−−−→ C1 ∂1 −−−−→ C0 −−−−→ Zε を得る.ここで ε(∑ngg) = ∑ gngである. A を左G加群とした時,これをZ[G]加群と見なし, Hn(G, A) := TorGn(Z, A) := Hn(A⊗Z[G]C•) Hn(G, A) := ExtnG(Z, A) := Hn(HomG(C•, A))と置く.それぞれAのn次群ホモロジー,n次群コホモロジーと呼ばれる.
(1) H1(G,Z) ≃ G/[G, G]. (2) H0(G, A)≃ AG:={a ∈ A |σa = a, σ∈ G}. (3) H1(G, A)≃ {f : G → A | f(στ) = f(σ) ·σf (τ )}/ ∼.ここでf ∼ f′ は,あるa∈ Aに対し f′(σ) = a−1· f(σ) ·σa が成立すること. (4) H2(G, A) ≃ {f : G × G → A |σf (τ, ρ)· f(σ, τρ) = f(σ, τ) · f(στ, ρ)}/ ≈.ここでf ≈ f′ は,あるg : G→ A が存在し,f′(σ, τ ) =σg(τ )g(σ)f (σ, τ )g(στ )−1を満たすこと. 注意 1.11. 演習問題(2),(3)において,Aがアーベル群でなくてもコホモロジーを右辺で定義する ことができる(非可換群コホモロジー).
1.5
Tate コホモロジー
Gを有限群とする.Cn∗ = Hom(Cn,Z)と定め,Gの作用を自然に定める.このとき完全系列 b C• : · · · −−−−→ C2 ∂2 −−−−→ C1 ∂1 −−−−→ C0 ε∗◦ε −−−−→ C∗ 0 ∂∗1 −−−−→ C∗ 1 ∂∗2 −−−−→ C∗ 2 −−−−→ · · · を得る.これを用い, b Hn(G, A) := Hn(A⊗Z[G]Cb•), Hbn(G, A) := Hn(HomG( bC•, A)) と置く.これをTateホモロジー,Tateコホモロジーと言う. 演習問題 1.12. (1) bHn(G, A) = Hn(G, A) (n≥ 1). bHn(G, A) = Hn(G, A) (n≥ 1). (2) bHn(G, A) = bH−n−1(G, A). (3) bH0(G, A)≃ AG/NG(A). ここでNG: A→ AG はNG(a) = ∏ σ∈Gσaである. Gが更に巡回群である時を考える.sをその生成元として,N =∑σ∈Gσ,D = s− 1と置く. N, Dの掛け算により,次の自由G加群の完全系列を得る. · · · −−−−→ Z[G] N −−−−→ Z[G] D −−−−→ Z[G] N −−−−→ Z[G] D −−−−→ · · · 従ってGが巡回群の時はHbi(G, A)はiの偶奇にしか依らない.1.6
Invariant 写像
Brauer群Br(F ) := lim−→ EH 2(Gal(E/F ), E×)の構造を調べよう.先ず不分岐拡大での分裂(cf.[3], XII, §2)が知られている, i.e., Br(F ) = lim−→
nH 2(Gal(F n/F ), Fn×).前節の話を組み合わせ, H2(Gal(Fn/F ), Fn×)≃ bH0(Gal(Fn/F ), Fn×)≃ F×/NFn/F(Fn×)≃ 1 nZ/Z
を得る(最後の射は付値vを用いa7→ v(a)/n mod Zで定義される).以上により,invariant写像
が得られる. 具体的なH2(Gal(Fn/F ), Fn×)の生成元を与えよう.1≤ i, j ≤ nに対し,2コサイクルfn fn(φiF, φ j F) = 1 if i + j < n, ϖ if i + j ≥ n
が定めるH2(Gal(Fn/F ), Fn×)の元をαFn/F と書く.この時 inv(αFn/F) = (1/n modZ)が分かる.
1.7
相互律写像の構成
E/Fを有限次ガロア拡大とする.n = [E : F ]とし,G = Gal(E/F )と置く. 定理 1.13 (cf. [3], XIII,§3, Cor. 1). 次の短完全列が存在する 1 −−−−→ H2(G, E×) −−−−→ Br(F ) −−−−→ Br(F ) −−−−→ 0.n 倍 定義 1.14. 定理1.13よりH2(G, E×) とH2(Gal(Fn/F ), Fn×) はBr(F )の中で同じ像を持ってい る.αE/F ∈ H2(G, E×)を,Br(F )中で,前節で定義した αFn/F と同じ元を与えるものとする. αE/F は基本類と呼ばれる. 局所類体論の相互律写像の逆写像Art−1F は基本類のカップ積で定義される: Art−1F : Gal(E∩ Fab/F ) = Gab= H1(G,Z) = bH−2(G,Z) ∪αE/F −→ bH0(G, E×)≃ F×/NE/FE×. これが同型になることが証明できる(Tateの定理).カップ積の解説は面倒なので略するが,定義 通り計算すると,fをαE/F を代表する2コサイクルとすると,ArtF−1はσ ∈ Gを∏τ∈Gf (σ, τ )−1 の類に移すことが確かめられる. 演習問題 1.15. E = Fn の時に,Art−1F (FrobF)はϖの類であることを示せ.2
有限群の表現論
完全非連結群の表現論の勉強の前に,有限群の場合を復習し,表現論の基本的な道具の使い方 に馴染むことを目標とします.2.1
表現論の用語
Gを群とする. 定義 2.1. Gの表現(π, V )とは,準同型 π : G−→ GL(V ) のこと.ここで V は複素線形空間でGL(V ) ={V → V : C-線形同型}である. 定義 2.2. (π, V )をGの表現とする.(1) (π, V )の部分表現とは,V の部分空間W でG安定なものをいう:つまり,任意のg ∈ G, w∈ Wに対し,π(g)(w)∈ W .
(2) (π, V )は,{0}とV 以外の部分表現を持たないとき,既約であるという.
注意 2.3. (1) Gは1の任意の近傍がコンパクト開部分群を含むとき完全非連結局所コンパク ト群(totally disconnected locally compact group)もしくは局所副有限群(locally profinite group)と呼ぶ.例えば,GLn(Qp).因みにGLn(Zp)は副有限群(profinite group)である:
つまり有限群の射影極限で書ける:lim←− n GLn(Zp/pnZp). (2) 本サマースクールでは完全非連結群のスムーズ表現を扱う.スムーズ表現とは,表現π : G→ GL(V )であり,任意のv∈ V に対し,StabG(v) :={g ∈ G | π(g)v = v} がGのあるコンパ クト開部分群を含むものをいう. (3) 副有限群の既約スムーズ表現は有限群の表現と見做せる.Gを副有限群(π, V )をその既約 スムーズ表現とする.v∈ V \ {0}を取る.スムーズなので,ある開コンパクト群Kがvを 動かさない.V は既約なので,有限集合{π(g)v | g ∈ G/K}がV を生成する(特にV は有 限次元である).K′ :=∩g∈G/KgKg−1はGの正規部分群で[G : K′] <∞,しかもK′はV に自明に作用する.従って,この表現π : G→ GL(V )は有限群G/K′を経由する.(ここの 議論で,特に有限群の既約表現は有限次元であることが示されていることに注意.) 演習問題2.4. F を局所体とする.加法群Fの非自明な1次元スムーズ表現F → C×を構成せよ.
2.2
完全可約性
定義 2.5. 群Gの表現π : G→ GL(V )が完全可約(もしくは半単純)であるとは,πが既約表現 達の直和となること. 定理 2.6. 有限群の任意の表現は完全可約である. 証明(演習問題). Gを有限群とし,π : G→ GL(V )を表現とする.W を既約な部分表現とする. W′をW のV における任意の補空間とする.p : V → W をW′に対応する射影とする(mod W′ 写像).この時,v∈ V に対し,p0(v) := (1/|G|)∑g∈Gπ(g)p(π(g−1)(v)) と定める.p0はV から W へのG-線形写像を与えること,および,p0|W = idW を示せ.2.3
離散群の Frobenius 相互律
Gを群とし,HをGの部分群とする.(π, V )をGの表現,(ρ, W )をHの表現とする. 定義 2.7. 次のGの表現は,ρの(余)誘導表現と呼ばれる. IndGH(ρ) = HomH(C[G], W ), f (x)7→ f(xg) (x ∈ C[G], g ∈ G), indGH(ρ) = C[G] ⊗C[H]W. 注意 2.8. G-準同型indGH(ρ)→ IndGH(ρ)を,1G⊗ w をgをρ(g)w (g∈ Hの時),0(g̸∈ Hの時) に移すIndGH(ρ)の元に移すことで定義する.これは単射であり,G/Hが有限なら同型となる.命題 2.9 (Frobenius相互律). (1) HomG(π, IndGH(ρ))≃ HomH(π|H, ρ)
(2) HomG(indGH(ρ), π)≃ HomH(ρ, π|H))
証明. (1) HomH(C[G], W ) → W をf を f (1G) に移すH準同型とする.これは次を誘導する.
HomG(V, HomH(C[G], W )) → HomH(V, W ).
逆写像はϕ∈ HomH(V, W )に対し,左辺の元ψをψ(v)(g) = ϕ(π(g)v)と定めるとよい. (2) W → C[G] ⊗C[H]W をw を1G⊗ wに移すH準同型とする.これは次を誘導する. HomG(C[G] ⊗C[H]W, V ) → HomH(W, V ). 逆写像はψ : W → V に対しϕ(g⊗ w) = π(g)(ψ(w))で定まる左辺の元ϕを対応させればよい. 注意 2.10. 完全非連結群のスムーズ表現においても自然な誘導の函手IndGH やindGH が定義され る.前者は(スムーズ)誘導,後者はコンパクト(スムーズ)誘導と呼ばれる.上は特殊な場合 (離散群の場合)を扱っていることになる.
2.4
反傾表現
(π, V )を群Gの表現とする.V∗ = Hom(V,C)と置く.⟨ , ⟩ : V∗× V → Cを自然なペアリン グとする.V∗に入るGの表現π∗は⟨π∗(g)v∗, v⟩ = ⟨v∗, π(g−1)v⟩で定義される. 注意 2.11. 完全非連結群の表現(π, V )を考える時は,V∗の中のスムーズ元全体の成すG-部分空 間V∨ を考え,それをπの反傾表現と定義する.2.5
Schur の補題
二つの表現(G, π1, V1)と(G, π2, V2)に対し,HomG(V1, V2) :={f ∈ HomC(V1, V2)| f(π1(g)(v)) = π2(g)(v) for any g∈ G, v ∈ V }
と置く.HomG(V1, V2)の元は絡作用素と呼ばれる. 命題 2.12 (Schurの補題). (π1, V1)と(π2, V2)をGの二つの有限次元既約表現とする.この時, HomG(V1, V2) = C · id if π1 = π2 (V := V1= V2) 0 if π1 ̸≃ π2 証明. f ∈ HomG(V1, V2)とする.f = 0でなければ,π2の既約性からfは全射であることが分か る;またこの時π1の既約性からfは単射となる(fの核を考えよ).V := V1 = V2, π := π1 = π2 としてよい.f ∈ End(V )の固有値の一つをλとする.明らかに,f′ = f− λ · idV もEndG(V )の 元である.f′が0でないとすると,上と同様に,f′は同型でなくてはならないが,これはλが固 有値であることに反する.よって,f′= 0.即ち f = λ(定数倍写像). 系2.13 (Schurの補題の逆). (π, V )を有限群Gの表現とする.πが既約であることと,EndG(V )≃ Cは同値.
証明(演習問題). 有限群の表現の完全可約性を用いよ. 注意 2.14. 完全非連結群のスムーズ表現(無限次元かも知れない)においても,Schurの補題は 成立する.しかし,系2.13は一般には成立しない.
2.6
Schur の直交関係
Gを有限群とし,(π1, V1)と(π2, V2)をGの既約表現とする. 命題 2.15. vi∈ Viとvi∗ ∈ Vi∗ (i = 1, 2)に対し 1 |G| ∑ g∈G ⟨π∗(g)v∗ 1, v1⟩⟨v2∗, π(g)v2⟩ = 1 dim V⟨v ∗ 1, v2⟩⟨v∗2, v1⟩ if π1 = π2 (V := V1 = V2), 0 if π1 ̸≃ π2. 証明. v∗1, v2を固定する.ペアリングV2∗× V1 → Cを(v2∗, v1)を命題の左辺に送ることで定めると, これはG不変ペアリングになる.このペアリングはHomG(V2∗, V1∗)の元を定めるので,Schurの 補題から,π1 ̸≃ π2の時は0,π1 = π2の時は,このペアリングは標準ペアリングの定数倍.従っ て,ある定数cv∗1,v2 が存在して,(命題の左辺)= cv1∗,v2⟨v2∗, v1⟩. また,(v∗1, v2)7→ cv1∗,v2 もG不変 ペアリングであるため,同様にある定数cπがあって, 1 |G| ∑ g∈G ⟨π∗(g)v1∗, v1⟩⟨v2∗, π(g)v2⟩ = cπ⟨v1∗, v2⟩⟨v∗2, v1⟩. 最後にcπを求めよう.e1, . . . , enをV の基底,e∗1, . . . , e∗nをその双対基底とする.この基底による π(g)の行列表示をAgとすると, cπn2 = n ∑ i,j=1 cπ⟨e∗i, ei⟩⟨e∗j, ej⟩ = 1 |G| ∑ g∈G n ∑ i,j=1⟨π∗(g)e∗i, ej⟩⟨e∗j, π(g)ei⟩
= 1 |G| ∑ g∈G n ∑ i,j=1
⟨e∗i, π(g)−1ej⟩⟨e∗j, π(g)ei⟩ =
1 |G| ∑ g∈G n ∑ i,j=1 (A−1g )i,j(Ag)j,i = 1 |G| ∑ g∈G tr(idV) = tr(idV) = n. 従って,cπ = 1/ dim(V )を得る.
2.7
指標の理論
(π, V )を有限群Gの有限次元表現とする.πの指標とはχπ(g) = tr(π(g)) で定義されるGから Cへの関数χπのことである.指標は類関数となる:χπ(hgh−1) = χπ(g) (g, h∈ G). (π1, V1)と(π2, V2)を二つのGの有限次元表現とし,χ1, χ2 をそれぞれの指標とする. ⟨χ1, χ2⟩ := 1 |G| ∑ g∈G χ1(g)χ2(g−1) と置く.既約表現の指標は既約指標と呼ばれる.定理 2.16. (1) Gの既約指標χは⟨χ, χ⟩ = 1を満たす. (2) 同型でないGの既約表現π1, π2の指標χ1, χ2は⟨χ1, χ2⟩ = 0を満たす. 証明. (1) ⟨χ, χ⟩ = |G|1 ∑ g∈G χ(g)χ(g−1) = 1 |G| ∑ g∈G ∑ i ⟨e∗ i, π(g)ei⟩ ∑ j ⟨e∗ j, π(g−1)ej⟩ = 1 |G| ∑ g∈G ∑ i,j
⟨e∗i, π(g)ei⟩⟨π∗(g)e∗j, ej⟩
命題 2.15 = 1 dim(V ) ∑ i,j δij = 1. (2)も同様に命題2.15から従う. 系 2.17. (π1, V1)と(π2, V2)を二つのGの有限次元表現,χ1, χ2 をそれぞれの指標とする.π1と π2が同型であるためにはχ1 = χ2であることが必要十分. 系 2.18. χを仮想指標(指標のZ上の線形和)とする.χがある既約表現の指標であるためには ⟨χ, χ⟩ = 1およびχ(1) > 0が成立することが必要十分. Rを正則表現とする:R : G→ GL(C[G]) (g 7→ (g′7→ gg′)).rをRの指標とする.定義通り計 算すると,r(1) =|G|およびr(g) = 0 (g ̸= 1)が分かる.(π, V )をGの既約表現とし,χをその 指標とする. ⟨r, χ⟩ = |G|1 ∑ g∈G r(g−1)χ(g) = χ(1) = dim(V ). (11) 系 2.19. S = {(π1, V1), . . . , (πh, Vh)} をGの互いに同型でない既約表現の集合とする.ni = dim(Vi)置く.次は同値である. (1) ∑hi=1n2i =|G|. (2) Sは既約表現の同型類全体をなす. 証明. (2)⇒(1): 正則表現を既約表現の直和に書くと,(11)よりC[G] =⊕hi=1V⊕ni i . 次元を比較 すると∑hi=1n2i =|G|を得る.(1)⇒(2):T = {(π1, V1), . . . , (πh′, Vh′)} (h′ ≥ h) をSを含む既約 表現の同型類全体とする.ni = dim(Vi)と置く.(2)⇒(1) より ∑h′ i=1n2i =|G|.(1)も成り立つか ら,h = h′である. もう少し頑張ると次も分かる. 定理 2.20. Gの相異なる既約指標全体χ1, . . . , χh は,類関数がなすC線形空間の基底となる. 注意 2.21. V が無限次元になると,tr(π(g))は定義できない.(π, V )を完全非連結群Gの許容ス ムーズ表現とする.この時は代わりに次の汎関数(=分布)Jπ : Cc∞(G)→ C Jπ(φ) = tr ( v7→ ∫ G φ(g)π(g)(v)dg ) . が用いられる.Gが有限の時は,Cc∞(G)は単に有限集合G上の関数の空間であり,φgをgにお いて1をその他では0をとる関数とすると,Jπ(φg) = tr(π(g)).
2.8
Mackey の理論
Gを群,H, KをGの部分群とする.(ρ, V ) をHの表現とする.この節では,rGK(indGH(ρ)) = indGH(ρ)|Kの構造を調べる.s∈ Gに対し,sH = sHs−1, ρs(h) = ρ(s−1hs) (h∈ sHs−1) と置く.これはsHのV への表現を定めている. 命題 2.22 (Mackeyの公式). rGK(indGHρ)≃ ⊕ s∈K\G/H indKK∩sH(r sH K∩sH(ρs)) 証明. 左辺はC[G]⊗C[H]W を左C[K]-加群と見たものに他ならない.両側剰余類分解G =⊔KsiH を用いると, C[G] ⊗C[H],ρV = ⊕C[KsiH]⊗C[H],ρV = ⊕C[K] ⊗C[K∩siH]C[siH]⊗C[siH],ρsi V = ⊕C[K] ⊗C[K∩siH],ρsi V. 最後のものは命題の右辺に等しい. 注意 2.23. 完全不連結群の表現論においても類似の定理が存在する(幾何的補題と呼ばれる). Frobenius相互律とMackeyの公式を用い,次のような同型が得られる.HomG(indGKτ, indGHρ)
命題 2.9(1) = HomK(τ, rGKindGHρ) 命題 2.22 = ⊕ s∈K\G/H HomK(τ, indHK∩sHr sH H∩sH(ρs)) 命題 2.9(2) = ⊕ s∈K\G/H HomK∩sH(rHK∩sHτ, r sH K∩sH(ρs)). 命題 2.24. Gは有限と仮定する.次は同値である. (1) indGHρは既約. (2) 全てのs∈ G \ Hに対しrHH∩sHρとr sH H∩sHρsが共通の既約部分表現を持たない. 証明. 上の同型から EndG(indGHρ)≃ ⊕ s∈H\G/H HomH∩sH(rHH∩sHρ, r sH H∩sH(ρs)). 右辺がCになることと命題の条件(2)が同値.従って,系2.13より命題が従う.
3
GL
2(
F
q)
の表現
この章は[1], Chap. 2のまとめです.G = GL2(Fq)と置く.Bを上三角行列全体がなすGの部 分群(Borel部分群).NをBの元で対角成分が1の元全体からなるBの部分群(冪単根基).T を対角行列全体がなすBの部分群(極大トーラス)とする.ZでGの中心を表す.3.1
共役類
命題 3.1. F を体とする.Mn(F )の元X, Y がGLn(F )-共役であるためには,t1n− Xとt1n− Y が(多項式環F [t]係数の行列の)基本変形で移りあうことが必要十分である. 証明. 例えば,線形代数入門(齋藤正彦)6章§1 定理1.8を見よ. 系 3.2 (演習問題). G = GL2(Fq)の共役類の完全代表系は次で与えられる. (1) t2+ at + bが既約であるようなa, b∈ Fqで, ( 0 −b 1 −a ) . (2) a, b∈ F×q (a̸= b)に対し, ( a 0 0 b ) . aとbを入れ換えたものは(またその時のみ)同じ共役類に属す. (3) a∈ F×q に対し, ( a 0 0 a ) と ( a 1 0 a ) . 注意 3.3. 系よりGの共役類はq2− 1個であることが分かる.従って,Gの既約表現はq2− 1個.3.2
非尖点表現(主系列表現)
Tの任意の既約表現χは2つのF×q の指標σ1とσ2を用いχ = σ1⊗ σ2と書ける.これを自然に Bの表現に伸ばしたものもχ = σ1⊗ σ2と書く: χ( ( a ∗ 0 b ) ) = σ1(a)σ2(b). この節では,IndGBχの部分商(完全可約だから部分もしくは商でもよい)として得られる表現(= 非尖点表現)を分類する. 補題 3.4. πをGの既約表現とする.次は同値. (1) πは,Tのある指標χに対し,IndGBχの商表現になる (2) π|N は自明指標を含む. 証明. Frobenius相互律HomG(IndGB(χ), π) = HomB(χ, π|B)
を用いる.(1)を仮定すると,その商を定める射がHomG(IndGB(χ), π)の非自明元を与える.従っ
てHomB(χ, π|B)に非自明元が存在する.その元の像̸= 0にはN は自明に作用するため(2)が成
り立つ.(2)を仮定すると,あるχでHomB(χ, π|B)は0でない.従ってHomG(IndGB(χ), π)は非
自明元を含む.πは既約なので,πはIndGB(χ)の商になる.
定理 3.5. Gの既約非尖点表現は次の何れかである.
(2) IndGB(χ) (χ = σ1⊗ σ2, σ1= σ1)の2つの既約成分 これらの表現の内,互いに同型になるのは,(1)に於いてσ1とσ2を入れ換えた表現だけである. 証明. Bruhat分解G = B⊔ BwB with w = ( 0 1 1 0 ) より,B\G/Bの代表系として12, wが取れ る.χ = σ1⊗ σ2とξをT の指標とする.命題2.24の直前の同型から,
Hom(IndGB(χ), IndGB(ξ))≃ HomB(χ, ξ)⊕ HomT(χ, ξw) = HomT(χ, ξ)⊕ HomT(χ, ξw) (12)
を得る.χ = ξの場合を考えると,χw = σ2⊗ σ1であるから,End(IndGB(χ))はσ1 ̸= σ2の時Cと 同型,そうでないときC ⊕ Cと同型.前者の時はIndGB(χ)は既約,後者の時はIndGB(χ)は相異な る2つの既約成分の直和であることが分かる.これら(IndGB(χ)やその既約部分商)がいつ同型 になるか否かは(12)を眺め,射があるかないかを見れば分かる. 注意 3.6. (1)のタイプが(q− 1)(q − 2)/2個,(2)のタイプが2(q− 1)個だから,既約非尖点表現 は(q− 1)(q + 2)/2個.
3.3
尖点表現
G = GL(V ), V =Fq⊕ Fq=Fq2 とみて,F× q2と同型なGの部分群Hを固定する.Hの1次元 表現θはθq ̸= θを満たすとき正則表現と呼ばれる.Fqの非自明指標ψを固定する.ZN の一次元 表現θψを θψ( ( a 0 0 a ) ( 1 n 0 1 ) ) = θ(a)ψ(n) (13) で定める.Gの仮想指標πθを次で定義する: πθ= IndGZNθψ− IndGHθ. (14) 定理 3.7. 以下では,θ, θ1, θ2はHの正則表現を表している. (1) πθ は既約尖点表現である. (2) 全ての既約尖点表現はπθの形をしている. (3) πθ1 ≃ πθ2 ⇐⇒ θ2 = θ1 or θ q 1. 証明(演習問題). 先ず下の表の指標公式を確かめる.次に系2.18を使ってπθ が実際既約表現 であることを示す.最後に系2.19を使ってそれらが尖点表現を全てを尽くしていることを確認す る. 注意 3.8. 既約尖点表現(の同型類)は(q2− q)/2個存在する. G = GL2(Fq)の指標の表は以下のようになる.dim. x = ( 0 −b 1 −a ) y = ( a 0 0 b ) zu = ( a 1 0 a ) z = ( a 0 0 a )
Ind(χ), χ = σ1⊗ σ2 q + 1 0 χ(y) + χw(y) σ1(a)σ2(a) (q + 1)χ(z) σ◦ det ⊂ Ind(σ⊗2) 1 σ(b) σ(ab) σ(a2) σ(a2) Ind(σ⊗2)/(σ◦ det) q −σ(b) σ(ab) 0 qσ(a2)
πθ q− 1 −θ(x′)− θq(x′), x∼ x′∈ H 0 −θ(z) (q− 1)θ(z)
参考文献
[1] C. J. Bushnell and G. Henniart: The local Langlands conjecture for GL(2). Springer-Verlag, Grundlehren der mathematischen Wissenschaften, 335.
[2] J.-P. Serre: Linear representations of finite groups. Springer-Verlag, GTM 42.