日本小児看護学会誌 Journal of Japanese Society of Child Health Nursing Vol.30 p.52-60, 2021 doi: 10.20625/jschn.30_52 日常的な生活習慣の一つである排便にトラブルを かかえる便秘症の 3 歳~9 歳児の割合は、14.6%と高 い頻度が示されている(藤谷,奥田,十河他,2016)。 便秘症の子どもは便秘症がない子どもと比べて生活 の質が低く、腹部症状による学校生活などへの影響
も指摘されており(Viresman, Rajindrajith, & Kop-pen, et al., 2019)、軽視できる健康問題ではない。排 便時の子どもの著しい疼痛に対応できないことで親 は無力さを感じたり、オムツの着用や下着の汚染な ど年齢相応以上のケアが必要となる状況に苛立ちや 困難感を抱くことがある(Farrell, Holmes, & Coldi-cutt, et al., 2003; Kaugars, Silverman, & Kinservik,
Ⅰ.はじめに
慢性機能性便秘症をもつ幼児の排便習慣形成に向けた
養育者への看護支援
Exploring nursing interventions for parents to facilitate healthy bowel movement in children with chronic functional constipation
鈴木 千琴
*1 Chikoto Suzuki*1 子どもの慢性機能性便秘症(以下、便秘症)は薬物療法に加え、子どもの排便を回避する行動の変容が不可欠である。し かし、養育者は子どもの特徴的な排便の行動に困難感を抱き、子どもへかかわる手立てを見出せないことが多い。本研究は 便秘症の幼児の排便に対する養育者の認識や対処が、看護支援を通してどのように変化したかを明らかにすることを目的 とした事例研究である。研究対象者は便秘症をもつ幼児とその養育者 4 組である。子どもの便秘症が改善しない状況に養育 者は自らの育児が原因と責める、我が子特有の問題ととらえると否定的な認識をもち、親子の排便に関連したやり取りが 乏しかった。それらに対して養育者が自らの役割を引き受け、子どもにかかわる手立てを見出せるよう看護支援を行った。 その結果、養育者が子どもの排便に関する言動の意味をとらえ、組み入れながら対応できるようになったことで、排便に関 連した親子の呼応的なやり取りが生まれた。Chronic functional constipation is a common childhood health problem and places a heavy burden on the child’s par-ents. To manage constipation, not only is giving appropriate medication vital, but it is also important to change the child’s behavior that avoids defecation. However, the distinct defecation behavior of children confuses their parents, making it difficult for them to deal with it. This study aimed to explore how parents shifted their perceptions and coped with their child’s constipation following nursing intervention. The subjects included four children with constipation and their par-ents. The study was multiple case study, using interviews, and observation to discover the effects of nursing interven-tion. Parents tried to cope with child’s painful defecation without appropriate medical support. With prolonged constipa-tion, parents had negative perceptions of constipaconstipa-tion, blaming themselves or their children for the causing constipation. In contrast, parents with not much experience in dealing with their child’s constipation were unconcerned and insensitive to the needs of the child. These interfered with the child-parent interactions about defecation. Nursing interventions were intended to share the child’s learning process regarding their sensation and perception of defecation with their parents. Through these interventions, the parents acquired the skills to capture their child’s cues in defecation and how to cope with them. This resulted in a gradually more responsive interaction between parents and their children’s defecation. キーワード: 慢性機能性便秘症、幼児、排便習慣、母子相互作用、事例研究
Key Words: chronic functional constipation, preschooler, bowel habit, mother—child interaction, case study
実践報告
抄 録
Abstract
受付:2020 年 7 月 29 日/受理:2020 年 11 月 18 日
に加え、子どもが排便を我慢して回避する行動を変 容させていくことが欠かせない。しかし、薬物療法 と比べて、排便習慣を形成するための子どもへのか かわりは日々の中で変化が見出しづらく、時間を要 することからも養育者の負担が大きい(鈴木, 2018)。その負担からも子どもに対する苛立ちや困 難感が生じ、養育者のかかわりは一方的になった り、放任的になりやすい。国外の先行研究では、便 秘症をもつ子どもの養育者が看護介入により子ども への共感度やケアする力が高まった結果が報告され ている(Sullivan, Burnett, & Juszczak, 2006)。しか し、国内の看護文献は便秘の症状の対応に関する解 説が多く、便秘症をもつ子どもと養育者の看護支援 とその結果が記述された研究はほとんど見当たらな い。 そこで本研究は、便秘症をもつ幼児の排便に対す る養育者の認識や対応が、看護支援を通してどのよ うに変化したかを明らかにすることを目的とした。 1.研究デザイン 事例研究 2.研究対象者 研究協力施設の便秘専門外来を受診し、便塊除去 の処置および排便習慣に対する教育入院が必要とさ れた基礎疾患および発達遅滞を有さない 2 歳以上の 幼児とその養育者とした。発達課題である排泄の自 立が便秘症に影響を受けやすいことから、2 歳以上 とした。候補者を当該病棟の看護師長に選定しても らい、主治医の承諾を得た。その上で、研究者が研 究の説明を行い、研究の同意を得た。 3.データ収集期間 2015 年 6 月~2015 年 12 月 4.看護実践のプロセス ① 看護支援実施前の子どもの排便状況とそれまでに 行われてきた治療や対応について、養育者から情 報を収集した。外来初診時の状況は診療録より補 足データとして収集した。 ② 当該病棟では、便秘症の子どもとその養育者に対 る栄養指導、退院時の支援や調整が主に行われて いた。研究者は入院中には、子どもの日常生活援 助や遊びを行い、適宜養育者と面談を行うなどし た。退院後は外来受診時に、医師の診療前後で母 子の状況に合わせて 15 分~30 分程度の面談を 行った。それらを通して、母子間に生じている排 便に対する課題を明らかにし、支援を行った。施 設のスタッフとは治療や看護方針を確認しながら 情報交換を行い、ケアの継続性が保たれるよう努 めた。 ③ 看護支援は既存のケアガイド(Continence Foun-dation of Australia, 2006)を基盤にした。ケアガ イドは、国内の標準的治療(日本小児栄養消化器 肝臓学会,日本小児消化器機能研究会,2013)と 方針が一致し、看護師を含めた多職種で作成され ているため選定した。支援は子どもの我慢をしな い排便習慣の形成を目的とし、排便状態の観察と 薬物療法の継続に必要な知識の提供、定期的な排 便の誘導とその方法、日々の排便状況の振り返り などの教育的支援と、治療や子どもの排便行動に 対する養育者の不安や苛立ちに対する情緒的な支 援である。 5.データ収集方法 収集したデータを研究者が作成したアセスメント シートに整理した。アセスメントシートの項目は、 子どもの現病歴、発育・発達歴など基本的情報、便 秘症のこれまでの治療とそれに伴う母親の体験や対 応、子どもの排便行動とその養育者の認識、育児状 況である。行ったアセスメントと看護支援および、 その親子の反応は経時的に記録した。親子の言動は フィールドノートに記載し、養育者と行った面談は 逐語的に記録をした。 6.データ分析方法 分析は、事例ごとにアセスメントシートに整理し たデータから養育者の看護支援実施前の子どもの便 秘症に対する認識や対応を抽出し、コード化した。 養育者の子どもの排便への認識や対応の変化は、 フィールドノートと面談の逐語録から意図した看護 支援と合わせて抽出し、養育者の認識と対応はコー ド化した。まず、コードを用いて各事例を記述し、 各事例の個別的な文脈における看護支援と養育者の
Ⅱ.研究方法
日本小児看護学会誌 第 30 巻(2021) 変化を分析する事例内分析を中心に行った。その 後、各記述を事例間で比較し、事例の文脈を損なわ ないよう類似点と相違点を検討、養育者の認識や対 応の類似したコードはカテゴリ―にまとめ、事例間 で共通する要素を見出した。看護支援およびデータ 分析は小児看護学の専門家と研究施設の小児看護専 門看護師のスーパーバイズを受けながら行った。 7.倫理的配慮 研究の自由意志、参加の撤回や中断の自由、プラ イバシーの保護を母親に説明し、文書による同意を 得、子どもの代諾も得た。研究は、研究者の所属機 関および研究協力施設の研究倫理審査委員会の承認 を得て行った。 1.対象者の概要 4 組の幼児と養育者を対象とした。養育者は全組 母親であった。概要を表 1 に示す。 2.各事例の分析結果 養育者の【看護支援前の子どもの便秘の認識や対 応】【子どもの排便に対する認識と対応の変化】の観 点から事例毎に記述する。〈太字〉はコード、「斜体」 は母親の言葉を示す。 1)事例 A 【看護支援前の子どもの便秘の認識と対応】 A ちゃんは排便の苦痛から、便意を感じると寝転 がって排便することを回避しようとしたり、排便を “いや”と強く拒む様子があった。母親は A ちゃん の痛みを伴う排便を心配し、健診時やかかりつけ医 に相談を行っていたが、よくあることと〈周囲に重 要視されない〉、「(緩下剤をもらっても改善せず相 談に行った際に)これ以上(薬)は増やせない、あ とは食事でどうにかするようにと言われ、なんか自 分が悪いのかな、ちゃんと野菜を食べさせていない と言われたみたいで・・・。もうそれ以来は相談し てなくて」と〈母親の育児を責められた思いを抱く〉 治療に伴う体験をしていた。そのため受診を継続せ ず〈周囲に重要視されない〉子どもの排便は「そん なものなのかなと思っていました」と楽観視する認 識をもちながらも、インターネットで情報を検索し 続けるなど〈子どもの排便状態の違和感を母親の中 に収める〉状況であった。母親は就労により子ども との時間を朝に十分確保できない育児状況が便秘症 の一因ととらえ〈母親の就労の影響を懸念する〉こ ともあった。緩下剤による維持療法では、A ちゃん が便意を“痛い”と泣きながら保育所で訴え、母親 はそばにいられず〈子どもの痛みの訴えに母親とし て手立てがない〉と感じていた。そのため治療の〈薬 剤が子どもの痛みに影響していると考え薬剤を中断 する〉対応をし、便秘の症状が再燃していた。 【子どもの排便に対する認識と対応の変化】 事例 A では、薬剤を継続することで排便時の苦痛 の緩和を図り、A ちゃんが排便に対する苦痛が緩和 したことを認知できるよう母親が働きかける方法を 習得することが課題であった。研究者は、母親から
Ⅲ.結 果
表 1 事例の概要 事例 A 事例 B 事例 C 事例 D 年齢 2 歳 6 か月 2 歳 11 か月 3 歳 11 か月 4 歳 2 か月 性別 女児 男児 男児 男児 家族構成 両親 両親 両親、兄 両親、弟 集団生活 保育所 保育所 保育所 幼稚園 便秘の発症時期 4 か月頃離乳食開始 5 か月頃離乳食開始前後 6 か月頃離乳食開始 1 歳 6 か月頃同胞の誕生 受診時の排便状況 排便頻度 5~6 日に 1 回 週に 1 回程度 3~4 日に 1 回 週に 1 回程度 便性 硬便 硬便と泥状の混合 硬便・兎糞便 硬便と軟便の混合 排便の様子 強いいきみが必要な排便困難 脂汗を出し、疼痛を訴える 強いいきみが必要な排便困難 人を遠ざけるため不明 看護支援の期間 2 か月 3 か月 3 か月 3 か月 看護支援の頻度 入院中 2 日間外来 3 回 入院中 5 日間外来 3 回 入院中 5 日間外来 3 回 入院中 7 日間外来 3 回ら、母親と子どもが訴える状況を一緒に考えた。A ちゃんには身体的に苦痛のある排便が続いているこ とから、薬剤継続の必要性を身体的な状況を交えて 母親へ伝えた。その上で、A ちゃんが表現する“痛 み”について、これまでの痛みのある排便の体験や 薬剤による腹部の違和感が“痛み”の表現にもつな がっていることを伝え、A ちゃんが便意の感覚をと らえられることがまず必要であるという目標を母親 と共有した。母親からは「お腹をさすったりしても 大丈夫ですか?」と〈子どもの排便にかかわる手立 てを探す〉発言があった。また、子どもの排便への 否定的な言動に対応できず母親が苦慮していたこと から、親子で排便に関するコミュニケーションがと れるように排便に関する絵本を紹介した。母親が具 体的な方法を見ることができるよう研究者が一緒に 読み A ちゃんの関心を引いた。その結果、母親は A ちゃんが痛みで便意を訴えた際には「うんちがした い?」とお腹をさすりながら問いかけるなど〈子ど もの訴えに寄り添いながら感覚を伝える〉ようにか かわった。A ちゃんが関心をもった絵本は度々一緒 に読み、絵本の言葉を用いて朝の排便を誘うことで 〈子どもと共通の言葉で排便の時間をともにする〉よ うになった。母親は A ちゃんが排便前に「むずむず する」と便意を表現するようになったことや、A ちゃんが自ら母親を朝の排便に誘うようになったと 話し、〈母親とかかわる中で変化した子どもの排便 行動をとらえる〉ことができるようになった。 2)事例 B 【看護支援前の子どもの便秘の認識と対応】 1 歳頃から泣きながら排便する B 君の苦痛な様子 を通っている保育所の保育士の気付きと促しにより 受診に至っていた。近医を受診したが、浣腸で乗り 切るしかないと言われた母親は「浣腸の先(ノズル) が長くて怖くてできなかった」と〈母親には行えな い処置の指示をされる〉対応できないと感じる体験 により、子どもの便秘症は改善しないまま、受診も 中断していた。保育所での生活時間が長い育児状況 であり、母親は痛みを訴える B 君の排便の様子を直 接見る頻度が低く〈排便の問題には目が向かない〉 状況であった。便秘症の認識は、「薬の量が(入院前 より)増えている。全然治っていない」と〈便秘症 はすぐに治るはず〉と認識していた。母親の B 君の 排便に関する気がかりはトイレットトレーニングの 便秘を理由にトイレットトレーニングをしてもらえ ない」、入院した便秘症の治療に関しても「入院して トイレットトレーニングをしてくれると聞いてい た」と〈子どもの排泄のことは他者に任せたい〉意 向であった。 【子どもの排便に対する認識と対応の変化】 事例 B では、便秘症には長期的な治療が必要であ ることを母親が理解し、子どもの排便習慣を形成し ていくために、保育所のみならず母親も日々の生活 でかかわりをもつよう動機づけることが課題であっ た。研究者は薬剤師と調整を図り、便秘症の治療は 長期的な薬物療法がなぜ必要であるかということを 母親に説明し、さらに排便習慣の形成には時間を要 することを伝えた。その上で日々の生活の中で取り 組めることとして、薬剤の作用時間である朝にトイ レに連れて行き排便を促すかかわりを提案した。母 親は「朝は忙しいけど、まぁやってみます」と〈母 親に取り組めそうなことを取り入れる〉態度が見ら れた。1 か月後に研究者が自宅での様子を聞くと、 排便が成功せず母親からは「意味があるのか」と 〈日々の排便へのかかわりに意義を見出せない〉発言 があった。研究者は母親の日々のかかわりをねぎら い、B 君が緩下剤を使用した排便の感覚をまだつか みきれず、その感覚をつかんでいる最中であり、時 間を要することを再度説明した。保育所の集団の中 では進まない状況もあり、母親は〈子どもの排便に もう自分がかかわるしかない〉と毎朝排便を誘導す ることを続けた。B 君がトイレで排便に成功した日 は、毎日記載していた排便日誌に“トイレでうんち できた!”と記載し、〈子どもの排便の成功体験をと もにする〉ことができた。母親は子どもの排便時の 様子を「もう毎日(補助便座の取手を)一緒に握っ てますよ。“ママがいい、ママ一緒”って本人が言う んですよね。パパは失敗した時に叱っちゃうから嫌 がってダメなんですよね」と話し、日々かかわる中 で〈子どもの要求に耳を傾け歩み寄る〉ようになっ た。 3)事例 C 【看護支援前の子どもの便秘の認識と対応】 C 君は泣きながら排便するなどの苦痛が強く、排 便時にはパンツからオムツに履き替え、人を遠ざけ 排便していた。母親は C 君の苦痛を感じ、かかりつ け医に相談するが「5 日ぐらいうんちがでなくても
日本小児看護学会誌 第 30 巻(2021) 平気」と〈周囲に重要視されない〉治療の経過であっ た。母親が自ら浣腸や摘便を行うなど〈母親だけで どうにか対処を試みる〉も症状は改善せず、苦痛は 続き〈子どもの苦痛にどうにも対処できなかった〉。 母親は「私が仕事をしているから、普段一緒にいる 時間も少なくて。夜も遅くに寝てるし。そういうこ とが食事とかうんちのこととかに影響してるのか な。」と〈母親の就労の影響を懸念する〉思いをも ち、現在の育児状況が C 君の便秘症や食事の偏りの 一因と感じていた。一方で、C 君の特徴的な排便行 動は「この子はトイレで排便することを理解できな いのだと思う」と〈子どもの排便行動が理解できな い〉と認識し、その排便行動と関連させて「この子 はこだわりが強いのか・・」、「離乳食もお粥しか食 べず、舌とか味とかに敏感なのか」と〈排便の問題 を超えた子どもの気がかりを抱く〉こともあった。 母親はオムツに排便後に知らせない子どもの行動を 容認し、母親から確認をしてオムツを交換するなど 〈子どもの排便行動の現状を変えられない〉状況で あった。 【子どもの排便に対する認識と対応の変化】 事例 C では、母親が排便を拒む子どもの背景を理 解し、子どもとともに段階的にトイレで排便するこ とに取り組めることが課題であった。C 君がトイレ で排便できるよう排便が集中しやすい時間にトイレ に行く、トイレに座るなど子どもと母親が達成可能 な目標を共有しながら研究者や病棟スタッフが一緒 に取り組むようにした。母親が C 君のトイレに付き 添った際に排便が痛くないかということを C 君が繰 り返し聞いた。それにより母親は C 君がこれまで痛 みの恐怖心から排便を拒んでいたことに気付き、 「お薬を飲んでるからうんちは軟らかくて痛くない んだよ」と排便のたびに伝え、〈子どもの恐怖心が和 らぐよう寄り添う〉ようになった。母親は「今大事 な時期だから」と〈子どもの排便にかかわらなくて はいけないと覚悟する〉ことで、退院後にも子ども との時間を過ごせるよう就労の調整を図った。母親 はこれまで保育所には相談していなかったため、研 究者は C 君の 1 日の生活を振り返った。母親は C 君 の生活の中で保育所の支援が不可欠であることに気 が付き、保育所に必要となる支援について相談し、 〈子どもが排便に取り組める環境を調整する〉ように なった。その結果、保育所での排便状況を保育士と 母親が共有し、子どもの排便が集中しやすい時間帯 には保育士がトイレに連れて行くなど継続して C 君 が排便習慣に取り組める環境が整った。その結果、 C 君は便意に合わせてトイレに行き排便するように なった。 4)事例 D 【看護支援前の子どもの便秘の認識と対応】 1 歳半頃からの D 君の排便の様子を、「遊んでいる 最中にも何度も力んでいて。それを 1 日に何度も繰 り返し、(うんちが)出たとしても小指の頭ぐらい で。ずっと苦しそうで、子どもなのに遊んでいる時 も苦しそうって、かわいそうでどうにかしてあげた いと思って」と母親は話し、子どもの苦痛な排便行 動を何とかしたいと思いながらも〈子どもの苦痛に どうにも対処できなかった〉。偏食が強く母親の食 事の工夫では対応しきれない状況で、かかりつけ医 に相談をするも食生活を指摘された。「そう言われ ても、食べないものは食べないのに。どうしたらい いのかって本当に追い詰められて。家に帰って主人 の前で泣きました」と〈助けにならない言葉に追い 詰められる〉体験をしていた。便秘の専門外来には 「紹介状もなかったが、早くどうにかしたいと思い、 そのまま飛び込んで受診した」と〈便秘のことは藁 にもすがりたい〉状況であった。母親は、これまで の D 君の偏食などに対応しきれなかった育児状況 が一因ととらえ〈これまでの母親の対応に責任を感 じる〉思いを抱いていた。D 君はパンツからオムツ に履き替え、自宅の寝室に鍵をかけ排便する方法に こだわっていた。D 君の特徴的な排便行動に対し て、母親なりにトイレでの排便を促すが D 君は頑な に拒み、「ふとしたきっかけでできるようになるの ではないかと思うんですけどね」と〈子どものタイ ミングが来るまで待つしかない〉気持ちがあった。 母親は D 君の排便行動と関連させて「嫌なことはパ ニックになり座り込んでしまうことがある。だから 強くは言えないんですよね」「(ブロックに夢中な D 君を見て)この子不思議な子なんですよね」と〈排 便の問題を超えた子どもの気がかりを抱く〉ことで、 母親が対応しきれない気持ちが強かった。 【子どもの排便に対する認識と対応の変化】 事例 D では、頑なな子どもの状況に対応できない 母親の困難感が強かったことから、母親の負担感を 軽減し、段階的にトイレで排便することに母子で取 り組めることが課題であった。そのため、トイレに 座って排尿する、トイレの中でオムツに排便するな
ら研究者や病棟スタッフがともに取り組んだ。母親 の促しに子どもが応じてトイレで座って排尿するこ とで〈目標となったステップを親子で達成する〉こ とができた。一方で、トイレに座って排便すること はなかなかできず、母親の焦りも高まった。そのた め、研究者はこれまでの排便に伴う苦痛が軽減した ことを母親と振り返った。母親は「そうですよね、 痛くないうんちが一番大切なんですよね。」「トイレ の中で(オムツに)うんちをするようにもなってき たし」と気付き〈これまでの取り組みに意味を見出 した〉。さらに子どもの排便習慣の形成には時間を 要することを認識し、「入院は本当につらかったけ ど、ぐっとくるものがありました」と〈子どもの排 便にかかわらなくてはいけないと覚悟する〉思いを 抱いた。研究者の継続的なかかわりの中で、母親は 「薬局で(緩下剤の)お薬をもらった時に“こんなに 飲んでいるんですか?”と言われて。“体に害はない けど、こんなに飲んだら癖になる”って言われたん です。でもいいんですよね、たくさん飲んでも今は (うんちが)出るってことを優先していいんですよ ね」と〈周囲からの言葉に抱いた不安を表出〉した り、「うんちで入院するなんて恥ずかしいと思って いました」と〈排便の問題に恥ずかしさを抱いた思 いを話す〉ようになった。子どもがオムツで排便す ることが続き、母親がかかわることの無意味さを感 じることもあった。研究者は母親から子どもの言動 を聴き取りながら母親が子どもの日々の変化に気付 けるよう支援した。母親は「今の“(排便の)いい状 態”を続けていきたい」「今は嫌ってことは“いつ か”かな」と〈子どもとの今のやり取りに納得する〉 ことができた。子どもの今の現状を受け止めなが ら、「おまるを買ったけど座ってはくれないんです よね。弟のほうが先にできちゃうかもしれないっ て。そうしたら刺激されるのかな」と子どもを刺激 する方法を試したり、トイレ以外の場所で排便をし たがる子どもに“それはダメ”と伝える、排便後に 教えず遊んでいる時には叱るなど、〈排便の自立に 向う方向性をもって子どもとかけひきをする〉よう になった。 3.事例の統合 各事例の【看護支援前の子どもの便秘の認識と対 応】、【子どもの排便に対する認識と対応の変化】の カテゴリーを示す。 1)看護支援前の子どもの便秘の認識と対応 子どもの苦痛を目の前にしていた事例 A、C、D は《的確な支援が得られず子どもの症状が続く》、 《有効な手立てがないまま追い詰められる》ことで、 《母親のみで対処しようとする》状況となった。子ど もの苦痛を目にすることが少ない事例 B の母親は、 《的確な支援が得られず子どもの症状が続く》状況で も《便秘症は大したことがない》と認識していた。 これらにより、適切な治療までに時間を要し、子ど もの便秘が長期化し、慢性化を招いていた。 《子どもの苦痛を緩和できないもどかしさ》を抱い ていた事例 A、C、D は《母親の育児が原因と自責 を抱く》と母親としての役割不足を感じていた。子 どもが 3 歳以上の事例 C、D では、子どもの《便秘 症に伴う問題を我が子特有ととらえる》とネガティ ブに子どもをとらえるようになっていた。日々の生 活で子どもとかかわりが少ない事例 B や子どもへの かかわりに困難が強かった事例 C、D では《子ども の排便の自立を促すことから手を引く》状況であっ た。 2)看護支援による母親の子どもの排便への認識 と対応の変化 研究者は、母子がともに取り組める目標設定をす る、具体的にかかわる方法を母親とともに行うこと でモデルを示す、子どもの排便に関する言動を代弁 する、母親のかかわりの中で子どもが日々成長して いることに気付きを促す看護支援を行った。必要な 状況理解をすることで母親は《子どもへの排便に必 要なかかわりに踏み出す》変化が見られ、《子どもの 表現を読み取り組み入れる》ことで、“今”子どもに かかわることの重要性を感じ、《子どもの排便に対 する自らの役割を自覚する》ようになった。日々の 生活の中で気が付きにくく、気付いていない子ども の小さな成長へ気付きを促す支援は、母親の《自ら がかかわっていることの意味を探る》ことができた。 研究者と母親の信頼関係が構築されることで、母親 がこれまでに感じていたネガティブな思いなど《母 親の不安と思いを解放する》ようにもなった。看護 支援を通して、母子の間で排便に関するやり取りが 膠着したり、かかわり合いがない状態から《子ども と排便の自立への体験を共有する》変化が見られた。
日本小児看護学会誌 第 30 巻(2021) 1.子どもの便秘症に対する親の認識と対応 本研究において、教育入院前の事例 A、C、D で は、母親がどうにか対応しようとしたにもかかわら ず十分な支援が得られず《子どもの苦痛を緩和でき ないもどかしさ》を抱き、《母親の育児が原因と自責 を抱く》ことを強めていた。特に食生活に関する指 摘は母親を追い詰めていた。子どもの便秘症の治療 における水分や食物繊維の摂取を増やすことの効果 はエビデンスが乏しいとされ(日本小児栄養消化器 肝臓学会,日本小児消化器機能研究会,2013)、適切
Ⅳ.考 察
表 2 事例を統合したカテゴリー一覧 カテゴリー コード 事例 【看護支援前の子どもの便秘の認識と対応】 的確な支援が得られず子どもの症状が続く 周囲に重要視されない A、C 母親には行えない処置の指示をされる B 有効な手立てがないまま追い詰められる 母親の育児を責められた思いを抱く A 助けにならない言葉に追い詰められる D 母親のみで対処しようとする 子どもの排便状況の違和感を母親の中に収める A 母親だけでどうにか対処を試みる C 便秘症は大したことがない 排便の問題には目が向かない B 便秘症はすぐに治るはず B 子どもの苦痛を緩和できないもどかしさ 子どもの痛みの訴えに母親として手立てがない A 薬剤が子どもの痛みに影響していると考え薬剤を中断する A 子どもの苦痛にどうにも対処できなかった C、D 便秘のことは藁にもすがりたい D 母親の育児が原因と自責を抱く 母親の就労の影響を懸念する A、C これまでの母親の対応に責任を感じる D 便秘症に伴う問題をわが子特有と捉える 子どもの排便行動が理解できない C 排便の問題を超えた子どもの気がかりを抱く C、D 子どもの排便の自立を促すことから手を引く 子どもの排泄のことは他者に任せたい B 子どもの排便行動の現状を変えられない C 子どものタイミングが来るまで待つしかない D 【子どもの排便に対する認識と対応の変化】 子どもへの排便に必要なかかわりに踏み出す 子どもの排便にかかわる手立てを探す A 母親に取り組めそうなことを取り入れる B 子どもが排便に取り組める環境を調整する C 子どもの表現を読み取り組み入れる 子どもの訴えに寄り添いながら感覚を伝える A 子どもの要求に耳を傾け歩み寄る B 子どもの恐怖心が和らぐよう寄り添う C 子どもの排便に対する自らの役割を自覚する 子どもの排便にもう自分がかかわるしかない B 子どもの排便にかかわらなくてはいけないと覚悟する C、D 自らがかかわっていることの意味を探る 母親と関わる中で変化した子どもの排便行動を捉える A 日々の排便へのかかわりに意味を見出せない B これまでの取り組みの意味を見出す D 子どもとの今のやり取りに納得する D 母親の不安と思いを解放する 周囲からの言葉に抱いた不安を表出 D 排便の問題に恥ずかしさを抱いた思いを話す D 子どもと排便の自立への体験を共有する 子どもと共通の言葉で排便の時間をともにする A 子どもの排便の成功体験をともにする B 目標となったステップを親子で達成する D 排便の自立に向う方向性をもって子どもとかけひきをする Dま追い詰められる》《母親のみで対処しようとする》 状況に陥っていた。相談した医療職からも有効な助 言が得られぬまま、母親が自らの役割不足を感じる ことで、《子どもの排便の自立を促すことから手を 引き》、母子間での排便に関するかかわり合いが希 薄になった。オムツ着用の適齢を超えた事例 C、D では《便秘症に伴う問題を我が子特有ととらえる》 と母親が子どもに対応する困難感を高めていた。本 研究の対象であった幼児期は、育児全般の自信のな さや子どもの気持ちがわからないことへ養育者が不 安や苛立ちを抱きやすい(窪,井狩,2008)。鯨岡 (2006)は、幼児期には子どもと養育者が“わかり合 えない”関係を多数かかえるが、その対応を紡ぎ出 していくことで互いがつながり、両者が閉じ、切り 分けられてしまうことで“わかる”地平が消えてし まうとしている。苦痛のある子どもの排便に養育者 は長期間手立てがなく、子どもを理解できない状況 から排便に関する養育者と子どものかかわりが閉ざ され、子どもは周囲とつながりがない排便の体験を 積み重ねていた。これまでの研究は本研究と同様 に、便秘症が重症・慢性化した子どもを治療する二 次・三次医療施設の研究がほとんどであり(Levy, Lemmens, & Vandenplas et al, 2017)、便秘症の慢 性化の予防の重要性が指摘されながらも養育者が初 めに相談するプライマリケアでの治療やケアの実態 は十分には明らかになっていない。そのため、プラ イマリケア領域の看護職が、子どもの便秘に対して 症状のみならず、排便や生活習慣、それらに対する 養育者の認識や困りごとをアセスメントし、養育者 が日々の生活でかかわる手立てを見失わないよう支 援を行っていくことで便秘症の重症・慢性化を予防 する一助になると考える。 2.養育者と子どもの間を橋渡しする看護支援 看護支援実施前は、子どもの排便に関して、母子 間で互いにかかわり合うことが希薄な状況であっ た。この希薄な状況がある中で、正しい知識提供や 親の不安や焦りへ寄り添うケアの中で、養育者が 《子どもの排便に対する自らの役割を自覚する》、 《子どもの排便に必要なかかわりに踏み出す》ために 母子で取り組める目標を設定する、子どもの言動を 代弁する、具体的なかかわりのモデルを示す看護支 援を行った。その上で、子どもの日々の成長の気付 組み入れる》力を高め、《自らのかかわっていること の意味を探り》、子どもが母親とのかかわりの中で 変化していることの実感につながった。これらの看 護支援は母親の子どもへの理解できなさや膠着して いた母子の間を橋渡しし、母親が自ら主体的に子ど もやその環境に働きかけるようになった。Barnard, Hammond, & Bee, et al.(1989)は乳幼児期の母子の 相互作用において、母親と子ども双方の応答性が必 要であり、その調整を主に担う母親の子どものシグ ナルへの感受性と適切なタイミングでの対応力の重 要性を示している。本研究では看護支援を通して、 母親が子どもと調整する役割を引き受け、母親から 主体的に働きかけることで、《子どもと排便の自立 への体験を共有する》ようになり、母子の間で排便 に関連した呼応的なやり取りが生まれた。その結 果、事例 B では子どもの排便時に母親にそばにいて ほしい要求や事例 D では子どもが排便が怖いと訴 えるその子どもの言動を母親がとらえた言葉が聞か れるようになるなど、養育者が子どもの排便に関連 する訴えの意味に気付き対応していく力が高まった。 本研究は実践した看護支援を分析した質的記述的 研究である。1 施設のみの実施であり、対象も 4 組 と少ないことから一般化するには限界がある。看護 支援前の子どもの排便に対する認識や対応は母親の 回顧的な情報であり、その時の気持ちや状況を十分 に表現できているとは言い難い。今後、排泄の問題 が生じやすい時期に焦点をあて、経時的に親子間で 生じる課題を検討する必要がある。また、本研究の 看護介入は研究者 1 名が中心となり、研究実施施設 の協力を得て行った。そのため、実践から分析され た母子間の課題や養育者への支援方法を多職種と共 有し、多職種チームで取り組む方略を検討すること が課題である。 排便の問題が長期化した状況では、母親はその原 因を母親自身や子どもに帰し、子どもに生じている 排便の困難に向き合うことを阻んだ。母親が適切な 支援が得られないことで、母親は追い詰められた
Ⅴ.研究の限界と今後の課題
Ⅵ.結 論
日本小児看護学会誌 第 30 巻(2021) り、母親のみで対処をする傾向があった。一方で、 子どもの苦痛を目の当たりにしていない事例では、 子どもに生じている排便の問題を重要視できないで いた。 子どもが体験している排便の感覚や認知、新たな 感覚を学習するまでのプロセスを母親と共有する看 護支援により、母親が子どもの訴えの意味をとらえ るなど子どもと母親の間が橋渡しされた。その結 果、排便を共通の課題として、母子間がかかわり合 う変化が生じた。 謝 辞 本研究にご協力いただきましたお子さまとご 家族、また研究実施施設のスタッフの皆様、ご指導を頂 きました及川郁子教授に心より感謝申し上げます。本研 究は 2016 年度聖路加国際大学大学院課題研究に加筆・ 修正を加えたものである。 開示すべき利益相反はない。 文 献
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