• 検索結果がありません。

超高齢者上行結腸軸捻転症に対し結腸右半切除術を施行した1例

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "超高齢者上行結腸軸捻転症に対し結腸右半切除術を施行した1例"

Copied!
5
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

超高齢者上行結腸軸捻転症に対し

結腸右半切除術を施行した 1 例

はじめに

結腸軸捻転症は S 状結腸に発生することがもっとも多 く,右側結腸が広汎に捻転することはまれである。また, 高齢者に発症する場合は寝たきりなど ADL が低下してい る場合が多い。今回,自立した超高齢者に発症した上行結 腸軸捻転症に対して右結腸切除術を施行した 1 例を経験し たので文献的考察を加えて報告する。

症 例

患 者:99 歳,男性 主 訴:3 日前からの腹痛,嘔吐 既往歴:一過性脳虚血発作等。腹部手術歴なし 現病歴:上記主訴に近医を受診した。腹部 X 線検査で 腸管拡張像を認め,腸閉塞の診断で坂出市立病院へ紹介搬 送となった。 現 症:搬送時,意識清明。血圧 179/80mmHg,脈拍 数 93 回 / 分,呼吸数 16 回 / 分,体温 37.2℃,SpO2 99%(room air)。腹部やや膨満,軟。全体的に軽度圧痛を認めた。自 力歩行可能であった。 血液生化学検査所見:白血球 14,860/µL,CRP 1.2mg/dL

長尾 美奈,佐野 貴範,前田 典克,森  誠治,岡田 節雄

〔要旨〕症例は 99 歳,男性。3 日前からの腹痛・嘔吐を主訴に近医を受診し腸閉塞の診断で坂出市立病院へ紹介となった。 CT 検査では右腹部に whirl sign を,左腹部に拡張した腸管を認めた。画像上捻転部位の同定は困難であったが絞扼性腸閉 塞の診断で緊急手術を施行した。うっ血して著明に拡張した腸管の捻れを解除すると,捻転していたのは回腸末端から上行 結腸であり,後腹膜への固定不良を認めた。血流障害による遅発性の穿孔や再発を危惧し,結腸右半切除術を行った。術後 19 日目に退院した。上行結腸軸捻転症の発症頻度は,結腸軸捻転症のうち 5.9%とまれで術前診断も困難とされるが,絞扼 から腸管壊死や穿孔を起こすと重症化するため,迅速で適切な対応が必要であると考えられた。 〔キーワード〕絞扼性腸閉塞,緊急手術,腎機能障害 と炎症反応の上昇を認めた。尿素窒素 39.0mg/dL,クレ アチニン 1.34mg/dL と軽度腎機能障害を認め,脱水によ る影響が示唆された。そのほかに明らかな異常所見は認め なかった。 腹部 X 線所見:上腹部を中心に,広汎な腸管拡張像を 認めた(Figure 1)。 所属:坂出市立病院 外科 著者連絡先:〒 762-8550 香川県坂出市寿町 3-1-2 坂出市立病院 外科 受付日:2020 年 5 月 29 日/採用日:2020 年 10 月 7 日

症例報告

 

Figure 1 Abdominal X-ray film X-ray showed an extended intestine.

(2)

単純 CT 所見:右腹部に whirl sign を,左腹部に著明に 拡張した腸管を認めた(Figure 2)。下行結腸から S 状結腸, 直腸までの走行は確認でき,明らかな異常所見はなかった。 診 断:画像上,腸管の捻転部位の同定は困難であっ たが,絞扼性腸閉塞を疑った。99 歳と高齢ではあったが ADL は自立しており,手術希望も強く,来院から約 3 時 間後に緊急手術を施行した。 手 術:開腹すると,うっ血と著明な拡張を伴う大腸が 左腹部を占拠していた(Figure 3)。索状物の形成や癒着 は認めなかった。拡張した腸管の捻れを解除するように回 転させると,回腸末端から上行結腸が半時計回りに 180° 捻転していた。盲腸から上行結腸は後腹膜への固定不良を 認めた。血流障害による明らかな壊死を疑う所見は認めな かったが,一部で腸管壁の菲薄化を認め,遅発性の穿孔が 危惧されたこと,右側結腸を腹壁に固定するのみで再発予 防が可能か十分な確証が得られなかったことより,結腸右 半切除術を施行した。再建は器械吻合による機能的端々吻 合とした。手術時間 152 分,出血量 5mL であった。 摘出標本:盲腸で部分的に粘膜壊死を認めた(Figure 4)。 術後経過:術後誤嚥性肺炎を発症したが抗菌薬治療で軽 Figure 2 Abdominal CT scan

CT scan revealed a whirl sign located on right side of the stomach (△) and an extended intestine on the left side of the stomach(*).

Figure 3 Intraoperative findings

The strangulated portion of the intestine was the terminal ileum to the ascending colon. It was poorly fixed to the retroperitoneum.

(3)

Table 1 Cases of cecum and ascending colon volvulus over the age of 90 快し,術後 19 日目に独歩で自宅退院となった。

考 察

結腸軸捻転症は,本邦では S 状結腸に発生することが もっとも多く,全結腸軸捻転症の 89.5%を占める。一方, 盲腸軸捻転症や上行結腸軸捻転症といった右側結腸での発 症頻度は全結腸軸捻転症の 5.9%,全腸閉塞の 0.4%とされ ており,まれである1)2) 発症年齢については,かつては 10 代と 60 代以上の二相 性に多いとされていたが,北出ら3)は 70 代以上の高齢者 での報告症例数が 70 代以下の 2 倍以上に達していると報 告している。40 代までは先天異常や脳性麻痺,精神発達 遅延などの基礎疾患を有する症例が多いのに対し,70 代 以上では脳梗塞など脳血管障害を既往に有する症例が多 く,近年では 80 代,90 代での報告も散見し高齢者での発 症が増加していることがうかがわれる。 本症例は 99 歳と本邦での報告において最高齢であった。 また,超高齢でありながらも日常生活が自立していたとい う点は,われわれが緊急手術で腸切除を選択した根拠と なった。90 歳以上の盲腸軸捻転症・上行結腸軸捻転症の 症例を医学中央雑誌で検索すると,自験例を含めこれまで に 9 例の報告があった(Table 1)。男性 7 例,女性 2 例で あった。既往歴に脳梗塞や認知症がある,施設入所中であ る,といった理由で ADL が低下している症例は 4 例であっ た。自立している症例は 2 例,不明なものが 3 例であった。 術前診断し得たものは 6 例であった。全例で手術を施行さ れているが,1 例は内視鏡的整復を試みるも困難であった ため盲腸固定術を施行していた。ほかは,開腹下での整復 術が 1 例,回盲部切除術や結腸右半切除術などの腸切除を 施行した症例が 7 例であった。本症の腸管壊死の合併は約 20%と報告されており7),腸管壊死を認めない症例に対し ても,固定術のみでは再発率が 30%と高い報告がある10) Figure 4 Macroscopic findings

(4)

ことや,近年では,自動縫合器の使用により術者の技量に かかわらず安定した手技が可能で高齢者に対しても安全に 腸切除が行われるようになっていることから,より侵襲的 ではあっても腸切除が選択される傾向にある。本症例でも, 術中所見では明らかな腸管壊死を認めなかったものの摘出 標本では一部に粘膜壊死を認めており,腸切除の施行は, 固定術のみによる遅発性穿孔および再発を防ぐことができ た最適な選択であったと考えられた。術後は 2 例で誤嚥性 肺炎を,1 例で前立腺炎を起こしたが,いずれも軽快し退 院または転院となっていた。術後経過に比し,術後在院日 数は 15 〜 65 日と長い傾向にあり,リハビリテーションや 転院調整に期間を要していると考えられた。 盲腸軸捻転症・上行結腸軸捻転症は術前診断に難渋する ことが多いとされている。主な診断方法として,腹部 X 線検査,CT 検査,注腸検査がある。腹部 X 線検査につい て McGraw ら11)は,拡張した大腸が異常部位にあること やガスで拡張した小腸係蹄や回盲弁が拡張した大腸の右側 にあること,粘膜皺壁が軸捻転部でらせん状に捻れるよう に見えること,立位で盲腸に形成された鏡面像が 1 つであ ることなどを特徴としてあげている。本症例は臥位での撮 影のみであるが,左腹部に拡張した結腸とその右側に拡張 した小腸を認めていたことから,右側結腸捻転の可能性も 考慮すべきであった。ただし腹部 X 線検査のみでは診断 率は 12.5 〜 17.0%と低く12)13),他検査との組み合わせが必 要である。注腸検査は 85.7%で閉塞部位を同定できたとす る報告14)もあるが,腸閉塞の状態での下部消化管内視鏡 検査や注腸検査は穿孔等の危険性があり,現実には選択 され難い。一方,CT 検査は低侵襲かつ情報量も多いこと から,有用な検査であるとされている。とくに,近年では CT 検査の中でも multiplanar reformation 像が診断に有用 であったとする報告を散見する15)16)。特徴的な所見として, 盲腸・バウヒン弁・虫垂の位置異常,右結腸間膜の whirl sign や dirty fat sign がある。本症例では whirl sign を認 め絞扼性腸閉塞を疑ったものの,捻転腸管の同定には至ら なかった。造影 CT 検査を施行すればさらなる情報が得ら れ診断に近づけたかもしれないが,前述のごとく脱水に伴 う腎機能障害を合併していたことから,造影剤使用による 腎機能障害の増悪や,捻転による血流障害からの経時的な 腸管壊死・穿孔を発症し,急激な重症化の可能性も考えら れたことから,今回は造影 CT 検査を施行せず,早急に外 科的治療に移行した。99 歳と非常に高齢であったが,確 定診断にこだわらずに手術適応を迅速に判断したことで最 適な治療が施行でき,ADL の低下もなく退院できたこと は,特筆すべき点と考えられた。 高齢での結腸軸捻転症の発症に遭遇する機会が増加して いることから,十分な知識を備えて迅速かつ適切に診断・ 治療を遂行する必要があると考えられた。

結 語

術前診断には至らなかったが,上行結腸軸捻転症に対し て結腸右半切除術を施行した超高齢者の 1 例を経験したの で報告した。

本論文の要旨は,第 11 回日本 Acute Care Surgery 学 会学術集会において発表した。本症例報告における利益相 反はない。 文献 1)畑川幸生,丸田守人,坂本賢也,他:盲腸軸捻転症の 1 治 験例―本邦報告 111 例の検討.日臨外会誌 1988;49:870-876. 2)松田光弘,松村理史,青沼宏,他:盲腸軸捻転症の 1 例. 日臨外会誌 1998;59:2834-2837. 3)北出貴嗣,小山隆司,栗栖茂,他:90 歳以上の超高齢者 盲腸軸捻転の 2 例.日臨外会誌 2008;69:2011-2015. 4)山田順子,國枝克行,八幡和憲,他:S 状結腸軸捻転症術 後に発症した超高齢者盲腸軸捻転症の一例.岐阜総合医療セ 年報 2007;28:49-52. 5)牧野孝俊,浦山雅弘,川口清,他:脳梗塞後遺症を有する 高齢者に発症した盲腸軸捻転症の 1 例.日腹部救急医会誌  2008;28:515-517. 6)松尾篤,宮喜一,安藤暢洋,他:98 歳超高齢者に生じた 盲腸捻転症の 1 例.臨外 2009;64:1769-1772. 7)呉林秀崇,森川充洋,澤井利次,他:盲腸軸捻転症の 2 例. 日外科系連会誌 2013;38:1224-1228. 8)原朋広,井出明毅,宮田大士,他:超高齢者盲腸軸捻転症 の 1 例.埼玉医会誌 2014;48:412-415. 9)菅野紘暢,菅原俊道,佐々木秀策,他:高齢者に発症した 盲腸軸捻転症の 1 例.岩手病医会誌 2016;56:60-75. 10)Todd GJ, Forde KA: Volvulus of the cecum: choice of

operation. Am J Surg 1979; 138: 632-634.

11)McGraw JP, Kremen AJ, Rihler LG: The Roentgen diagnosis of volvulus of the cecum. Surgery 1948; 24: 793-804.

12)林知実,横山憲三,東泰志,他:絞扼性イレウスの診断に 腹部 CT が有用であった右側結腸軸捻転症の 1 例.鹿児島大 医誌 2018;70:1-6.

13)Rabinovici R, Simansky DA, Kaplan O, et al: Cecal volvulus. Dis Colon Rectum 1990; 33: 765-769.

14)平山一久,笠原善郎,宗本義則,他:盲腸捻転症による大 腸穿孔の 1 例.外科 2001;63:1009-1013. 15) 山 川 俊 紀, 小 野 田 裕 士, 大 橋 龍 一 郎, 他:Multiplanar reformation で術前診断した超高齢者盲腸軸捻転症の 1 例. 日臨外会誌 2005;66:2744-2747. 16) 堀 尾 卓 矢, 神 藤 英 二, 矢 口 義 久, 他:MDCT の multiplanar reformation 像が術前診断に有用であった盲腸軸 捻転症の 1 例.日臨外会誌 2011;72:1470-1473.

(5)

A case of ascending colon volvulus in very elderly patient

Mina Nagao, Takanori Sano, Norikatsu Maeda, Seiji Mori, Setsuo Okada

Department of Gastroenterological Surgery, Sakaide Municipal Hospital

A 99-year-old man visited his doctor for abdominal pain and vomiting. He was diagnosed with an intestinal obstruction and referred to our hospital. A CT scan revealed a whirl sign located on right side of the stomach and an extended intestine on the left side of the stomach. It was difficult to identify the twisted portion. He was diagnosed with strangulation ileus, which required emergency surgery. It was revealed that the strangulated portion of the intestine was the terminal ileum to the ascending colon which was poorly fixed to the retroperitoneum. He underwent a right hemicolectomy. He was discharged 19 days post-operation. Ascending colon volvulus is rare and difficult to diagnose. However, a quick decision is required, because it can cause intestinal necrosis and perforation.

Figure 1 Abdominal X-ray film X-ray showed an extended intestine.
Figure 3 Intraoperative findings
Figure 4 Macroscopic findings

参照

関連したドキュメント

Eskandani, “Stability of a mixed additive and cubic functional equation in quasi- Banach spaces,” Journal of Mathematical Analysis and Applications, vol.. Eshaghi Gordji, “Stability

An easy-to-use procedure is presented for improving the ε-constraint method for computing the efficient frontier of the portfolio selection problem endowed with additional cardinality

If condition (2) holds then no line intersects all the segments AB, BC, DE, EA (if such line exists then it also intersects the segment CD by condition (2) which is impossible due

Let X be a smooth projective variety defined over an algebraically closed field k of positive characteristic.. By our assumption the image of f contains

Many interesting graphs are obtained from combining pairs (or more) of graphs or operating on a single graph in some way. We now discuss a number of operations which are used

This paper is devoted to the investigation of the global asymptotic stability properties of switched systems subject to internal constant point delays, while the matrices defining

In this paper, we focus on the existence and some properties of disease-free and endemic equilibrium points of a SVEIRS model subject to an eventual constant regular vaccination

Yin, “Global existence and blow-up phenomena for an integrable two-component Camassa-Holm shallow water system,” Journal of Differential Equations, vol.. Yin, “Global weak