症例報告
Case Report腎がん晩期再発後無治療のまま長期経過観察した 2 症例
虎の門病院泌尿器科岡根谷利一
野田 大将
符
毅欣
林田 迪剛
萩原 喜一
永本 将一
阪口 和滋
村田 浩克
矢野 晶大
浦上 慎司
要旨: 腎がんが晩期再発した 2 例に関して長期間無治療のまま経過観察をおこなった. 症例 1 は 83 歳女性,右腎腫瘍に対して 57 歳時に前医で右腎摘除術を施行.病理組織結果は淡明細胞型腎細 胞がん,G2,pT1aN0M0 であった.71 歳時に膵転移が出現したため膵体尾部切除を施行,74 歳時に新たに膵 頭部に転移巣が出現したが,その後 9 年間新出病変なく経過観察中である.腹部超音波検査から算出した腫瘍 倍加時間は 13.3 カ月であった. 症例 2 は 91 歳,男性.78 歳時に腎腫瘍に対して右腎摘除術+下大静脈腫瘍塞栓摘除を施行.病理組織結果 は淡明細胞型腎細胞がん,G2,pT3bN0M0 であった.84 歳時に左副腎転移が出現.その後新出病変なく 7 年間 経過観察中.腹部 CT 画像から算出した腫瘍倍加時間は 14.1 カ月であった.2 例とも腫瘍による症状は出現せ ず,ADL 低下することなく日常生活が可能であった.高齢腎がん患者の孤立性晩期再発の場合は,当面は無 治療経過観察することで治療による副作用や合併症を回避するという治療選択肢もあり得ると思われた.ま た,再発後にしばらく CT などで経過を追い倍加時間を算出することで,その後の治療の必要性を予測するこ とが可能と思われた.しかし新たな再発転移病巣が出現した場合や,2∼3 年間経過観察した期間の倍加時間が 比較的短い場合は,その時点で治療を開始することを考慮すべきである. (日泌尿会誌 111(2):39∼43,2020) キーワード:腎細胞がん,晩期再発,腫瘍倍加時間 緒 言 腎がん治療の原則は手術による切除であるが,高齢者 の小径腎がんについては全身状態を考慮して切除以外の 治療法を選択せざるを得ない場合も多い.仮に無治療と した場合でも,75 歳以上の高齢者では他因死が多いこと から全生存率には有意差がないという結果も報告されて いる1) . 一方,原発巣切除手術後の転移・再発腫瘍については 抗がん剤や分子標的薬,免疫チェックポイント阻害剤以 外に外科的切除が適応となることもあるものの,無治療 経過観察することは稀であり,その場合どのような経過 をたどるか,ほとんど検討されていない.われわれは早 期と晩期の再発では臨床病理学的な差異があることを以 前に報告したが2) ,腎がんが晩期再発した 2 例に関して長 期間無治療のまま経過観察したので,腎がん再発後の自 然経過を示し治療の必要性について考察する. 症 例 症例 1:83 歳,女性. 現病歴:右腎腫瘍 cT1aN0Mo に対して 57 歳時に前医 で右腎摘除術を施行.病理組織結果は淡明細胞型腎細胞 がん,G2,pT1aN0M0 であった.71 歳時に膵転移が出現 したため当院で膵体尾部切除を行ったが,74 歳時に新た に膵頭部に転移巣が出現した.この時点での MSKCC および IMDC の分類は低リスクであった.ソラフェニブ を 2 日間のみ内服したが食欲不振のため中止.その後ご 本人が治療を希望されなかったため腹部超音波検査およ び CT での経過観察の方針となった. 再発病巣の容積の経時的変化をひとりの消化器内科医 が腹部超音波検査にて計測し,Schwartz の公式3) を用い て倍加時間を算出した.腫瘍の容積=4/3×π×長径/2 ×短径/2×前後径/2 として計算した.膵頭部再発時から 直近までの 11 画像を対象として解析をおこなったとこ ろ,倍加時間は 13.3 カ月であった(図 1).その後腫瘍に 受付日:2019 年 9 月 3 日,受理日:2019 年 10 月 21 日 岡根谷利一:虎の門病院泌尿器科〔〒105―8470 東京都港区虎ノ門 2―2―2〕 E-mail: [email protected]図 1 症例 1 再発腫瘍容積の経時的増加 矢印は腫瘍を示す よる症状や転移は出現せず,ADL 低下することなく年齢 相応の日常生活が可能であり,再々発から 9 年間新出病 変なく現在も PS 0 の状態で通院中である. 症例 2:91 歳,男性. 現病歴:78 歳時に腎腫瘍に対して右腎摘除術+下大 静脈腫瘍塞栓摘除を施行.病理組織結果は淡明細胞型腎 細胞がん,G2,pT3bN0M0,v(+)であった.84 歳時に 左副腎転移が出現.再発時の MSKCC リスク分類,IMDC 分類は,いずれも低リスクであった.高齢のため積極的 な治療を希望されなかったので無治療経過観察の方針と なった.再発病巣の容積の経時的変化を CT 画像から計 測し,症例 1 と同様に倍加時間を算出した.再発時から 直近までの 13 画像を対象として解析をおこなった倍加 時間は 14.1 カ月であった(図 2).その後腫瘍による症状 や転移は出現せず,ADL 低下することなく年齢相応の日 常生活が可能であった.再発から 7 年間新出病変なく現 在も PS 0 の状態で通院中である. なお,再々発あるいは再発後約 2 年間(症例 1:32 カ 月間,症例 2:21 カ月間)の画像データからのみ計算し たがんの倍加速度は症例 1 が 8.7 カ月,症例 2 が 12.8 カ 月であった(図 3). 考 察 症例 1 は初発から 14 年後および 17 年後に膵臓のみに 再発し,その後 9 年間の経過観察が可能であった.また 症例 2 は初発から 6 年後に副腎に再発し,その後 7 年間 無治療経過観察が可能であった.2 例の再発時点での平 均余命はそれぞれ 16 年,6.6 年であると推定されたの で4),症例 2 では既にそれ以上の生存期間が得られたこと になる. 症例 1 は 2 度目の膵転移であり,再発診断時の腫瘍径 は 13×9×8mm であった.腎がんの膵転移に関するシス テマティックレビューでは 5 年全生存率は膵転移切除例 が 72.6%,非切除例では 14% であり5) ,径 25mm 以上や複 数転移例は予後不良因子であるとされているので6) ,本症 例は膵転移診断時点では長期生存が期待できたとはいい 難いであろう.しかし手術の場合は残膵の全摘を伴う膵 頭十二指腸切除が避けられないため,その後の糖尿病の 管理など ADL 低下が予想された. 症 例 2 は 再 発 診 断 時 の 腫 瘍 径 は 24×20×25mm で あった.腫瘍塞栓を伴う腎がんの術後であるため高度の 癒着が予想され,摘出手術はリスクが高いと考えられた. 自験例は 2 例とも高齢であり晩期再発である点が共通
図 2 症例 2 再発腫瘍容積の経時的増加 矢印は腫瘍を示す 図 3 症例 1 および 2 腫瘍倍加時間の予測 している. 腎がんが術後 5 年2)7)あるいは 10 年8)以後に再発した場 合に“晩期再発”として扱われているが,早期再発にく らべ比較的緩徐に増殖し良好な予後が期待できるとされ ているものの,どのような場合にそれが期待できるのか は明らかでない2)8)9) . 石橋らは晩期再発した腎がん 2 例では再発病巣の倍加 時間が 0.9∼1.3 年と,悪性腫瘍としてはかなり長いこと を示しているが,興味深いことにこの倍加時間は自験例 の結果と近似している10) . がんの倍加時間に関する研究は少ないが,肺がんでは 100 日未満のことが多いようである11)12) .仮に倍加時間が 100 日と 400 日であれば,400 日後には容量に 8 倍の差が 生じるので 3∼4 年経つと生命予後に与える差異は決定
的である. 肺がんでは術前に撮影された複数回 CT から算出され た腫瘍倍加時間が,術後の予後予測因子であることが示 されており,短い場合は予後不良であるとされている12) . 自験例でのがんの容量増加曲線をみると,図 3 に示す ように再発後約 2 年間の画像データからのみ計算したが んの倍加速度は 9 年間あるいは 7 年間観察した場合と比 較すると症例 1 では −4.6 カ月,症例 2 では −1.3 カ 月であった.このことからは,再発後約 2 年間の経過か らその後の増大速度を正確に示すことはできないが,増 大が緩徐であることはおおむね予測可能と思われた. 我々が以前に報告した晩期再発は膵,副腎,対側腎以 外にも肺,肝などにもみられたが,総じて長期予後が期 待でき,明らかな転移再発部位による違いはみられな かった2). さらに,症例 1 の再々発時,症例 2 の再発時の年齢は それぞれ 74 歳,84 歳と高齢であったことも治療方針を 決定する際に重要であった.手術に限らず薬物療法も効 果のみが強調されがちであるが,高齢者については生理 的な予備能力を評価した上で,副作用およびその後の QOL と ADL の状態を考慮して治療法を選択すべきで あり13) ,時には無治療経過観察という選択肢も考慮すべ きものと思われる. 以前に比べ腎がん治療のための薬剤の選択肢は増加 し,再発後も薬物療法による効果が期待できるように なったが,Bai らは局所進行性腎がんに対する adjuvant 治療の meta-analysis を行ったところ,生存期間は延長 せず逆に重篤で不可逆性の副作用や合併症は増加してい たと報告している14) .自験例は再発例であるため状況は 異なるが,腎がんに対する積極的な治療の負の側面にも 配慮すべきであろう. 日本人の 2016 年の健康寿命は男 72.1 歳,女 74.8 歳で あったが,我々が以前に報告した腎がんの晩期再発例の 初回手術時年齢は 68 歳であったので2) ,晩期再発診断時 の年齢は,ほぼ健康寿命に一致する.従って治療効果だ けでなく合併症や QOL を含めて総合的に治療方針を決 定すべきであり,特に高齢者では合併症による長期入院 や ADL 低下を避けることが肝要である.自験例の結果 からは,高齢腎がんの晩期再発の場合は,CT で再発と診 断した後にすぐに治療開始せずにその後 2∼3 年間の CT 画像から倍加時間を算出することで,その後の変化 をある程度予測することが可能と思われた. なお,自験例の再発病巣は単発であったが,新たな再 発転移病巣が出現した場合や,2∼3 年間経過観察した期 間の倍加時間が比較的短い場合は,その時点で治療を開 始することも考慮すべきであろう. また複数の病変がある場合は,それぞれの増大速度が 異なり急速に増大する可能性もあるので,倍加速度のみ で治療方針を決定することはできないことに注意すべき である. 文 献
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CLINICAL RESULTS OF TWO PATIENTS WITH LATE RECURRENCE OF RENAL CELL CARCINOMA AFTER LONG TERM OBSERVATION WITHOUT TREATMENT
Toshikazu Okaneya, Taisho Noda, Takayoshi Fu, Michikata Hayashida, Kiichi Hagiwara, Shoichi Nagamoto, Kazushige Sakaguchi, Hirokatsu Murata, Akihiro Yano and Shinji Urakami
Department of Urology, Toranomon Hospital
Abstract:
Two patients with late recurrence of renal cell carcinoma were observed long term without treatment. Case 1 is an 83-year-old woman who underwent right nephrectomy at 57 years of age following a renal tumor diagnosis. Histopa-thological results revealed clear cell renal cell carcinoma, G2, pT1aN0M0. Pancreatic metastasis developed at age 71, and pancreatic tail excision was performed. A metastatic lesion appeared again at the head of the pancreas at age 74. The patient has been followed by observation only for 9 years without any new lesions. Tumor doubling time calcu-lated from abdominal ultrasonography was 13.3 months.
Case 2 is a 91-year-old male. At 78 years of age, right nephrectomy and inferior vena cava tumor embolectomy were performed for renal tumor. Histopathological results revealed clear cell renal cell carcinoma, G2, pT3bN0M0. Left ad-renal metastasis appeared at age 84, and the patient has been followed for 7 years without new lesions. Tumor dou-bling time calculated from abdominal computed tomography (CT) images was 14.1 months.
In both patients, no symptoms due to tumor recurrence ever appeared, and their activities of daily living (ADL) were maintained fairly well. In the case of solitary late recurrence in elderly renal cancer patients, observation may be a treatment option that avoids adverse effects and complications caused by treatment. In addition, it appears possible to predict the need for subsequent treatment by calculating the doubling time using several sequential CT images ob-tained after recurrence. If a new recurrent metastatic lesion appears or if the doubling time during a 2-to 3-year follow-up period is relatively short, however, new treatment should be considered without delay.
(Jpn. J. Urol 111(2): 39-43, 2020)
Keywords: renal cell carcinoma, late recurrence, tumor doubling time
Received: September 3, 2019, Accepted: October 21, 2019 ! 2020 The Japanese Urological Association