• 検索結果がありません。

会社売却時の取締役の忠実義務違反と不誠実 -In re Answers Corporation Shareholders Litigation, 2012 WL 1253072( Del.Ch.)-: 沖縄地域学リポジトリ

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "会社売却時の取締役の忠実義務違反と不誠実 -In re Answers Corporation Shareholders Litigation, 2012 WL 1253072( Del.Ch.)-: 沖縄地域学リポジトリ"

Copied!
12
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

Author(s)

大川, 俊

Citation

沖縄大学法経学部紀要 = Okinawa University JOURNAL

OF LAW & ECONOMICS(18): 57-67

Issue Date

2012-12-21

URL

http://hdl.handle.net/20.500.12001/10404

(2)

Ⅰ 事実の概要  (1) 背景

 Answers 社はデラウェア州において設立された会社であり、主たる業務はニューヨークで 行われている。被告たる Robert S. Rosenschein(以下、「Rosenschein」という。)、W. Allen Beasley(以下、「Beasley」という。)、R. Thomas Dyal(以下、「Dyal」という。)、他4名は Answers 社の取締役である。Rosenschein は1998年に Answers 社を設立し、関連する全ての 期間において同社のCEOである。Beasley と Dyal は Answers 社の約30%の株式を保有する Redpoint 社の取締役でもある。A-Team Acquisition Sub, Inc.(以下、「A-Team社」という。) はAFCV Holdings, LLC(以下、「AFCV社」という。)の100%子会社であると同時に投資会 社であるSummit Partners, L.P.(以下、「Summit社」という。)のポートフォリオを構成する 会社でもある(以下、Summit 社、A-Team 社及びAFCV社の3社を「買収グループ(Buyout Group)」という。)。本件はAnswers 社とA-Team 社との合併(以下、「本件合併」という。)に 関する訴訟である。原告は Jessica Zeldin 等、関連する全ての期間においてAnswers 社の株式 を所有する株主である(以下、「原告ら」という。)。

 Redpoint 社は同社が保有する Answers 社の持分の売却を希望していた。Redpoint 社は買収 グループがAnswers 社を買収する可能性があることを知った。Baesley と Dyal は、2010年3月、 Rosenschein に対してAFCV社のCEOである David Karandish(以下、「Karandish」という。) を紹介した。同年6月、Redpoint 社は Answers 社の取締役会に対して、近い将来 Answers 社 の持分を売却することができなかった場合には Rosenschein を含む同社の経営陣は刷新される 旨を伝えた。  2010年秋頃、AFCV社は Answers 社の株式を1株7.50ドルから8.25ドルの間で取得したいと 考えた。同年10月19日、AFCV 社は Answers 社に対する買収価格の提案を1株9.00ドルまで上 げた。同年10月28日、Answers 社は同社の業績が2010年下半期から2011年にかけて改善するこ 【判例研究】 専 門 分 野:商法(会社法) キーワード:忠実義務違反、不誠実、訴え却下の申立て

Breach of Director's Duty of Loyalty and Bad Faith in Sale of Company

大 川   俊*

Shun OKAWA

会社売却時の取締役の忠実義務違反と不誠実

(3)

とを非公式に示した予測と戦略的計画に関する情報をAFCV社に対して提供した。同年11月4日、 AFCV社は提案価格を1株10.00ドルまで上げ、Answers 社に対してAFCV社と独占的交渉合意 (exclusivity agreement)を締結するよう提案した。しかし、Answers 社はこれを拒否したた め、話し合いが継続した。同年11月8日、AFCV社は提案価格を1株10.25ドルへと上げ、再び 独占的交渉合意への関心を示した。数日後、両者は独占的交渉合意の締結は行わなかったものの、 AFCV社以外の会社に対してより高い価格でAnswers 社を売却した場合に AFCV社が蒙った損 害を賠償することを条件として、本件合併に係る価格を1株10.25ドルとすることで合意した。  独占権(exclusivity)を取得できなかったことを受けて、買収グループは Answers 社の取締 役会に対して2週間という極端な市場調査(market check)を行うよう要求した。Answers 社 の財務アドバイザーであるUBSが2週間という期間は短いと指摘したにも関わらず、同社の取 締役会は市場調査に合意した。UBSは10社とコンタクトをとったが、Answers 社の買収を希望 する会社は一つもなかった。Answers 社の取締役会は、買収グループへの売却を危険にさらさ ないため、それ以上の徹底的な調査は行わないことを決定した。2011年1月末頃、Answers 社 の資金状況は改善し、同社の株価は著しく上昇した。そこで、Rosenschein は、Karandish に 対して、AFCV社が提案価格を上げることは可能か否かを尋ねた。同年2月1日、AFCV社は 提案価格を1株10.50ドルに上げた。同年2月2日、Answers 社の取締役会が開催され、①1株 10.50ドルという提案価格は同社にとって妥当な価格であるとのUBSの意見を受け入れ、②本件 合併を承認し、③AFCV社と本件合併に関する契約を締結した。その際、Answers 社の取締役 会は本件合併に関するその他の選択可能性については検討しなかった。  (2) 当事者の主張  Answers 社は2011年4月12日に本件合併に関する株主総会決議を得ることを予定していたが、 同年2月7日、原告らは本件合併に関する仮差止命令を申し立てた。同年4月8日、仮差止命 令の申立てにかかる口頭弁論の後、Answers 社の取締役会は Brad D. Greenspan より同社を 支配するための持分の価格は1株13.50ドルであるという提案(以下、「Greenspan 提案」とい う。)を受け取った。同年4月11日、裁判所は仮差止命令の申立てを棄却した。しかし、裁判所 の決定は Greenspan 提案の内容を考慮したものではなかった。同日、Answers 社の取締役会 は、Greenspan 提案には同社の資金状況に関して疑義が示されていたことから、同提案を悪質 なものであるとして拒絶した。それにも関わらず、Answers 社は、同年4月12日、株主総会を 開催した。同年4月13日、Greenspan 提案は1株14.00ドルまで上がった。しかし、裁判所は、 「Greenspan 提案は Answers 社の株主に広く知られたものである。従って、株主が同提案を知っ ているか否かは、株主総会の参加者として情報に基づいた意思決定を行う必要があるという法律 上の観点からして、重要なことではない。」と述べ、原告らによる審理の継続の要求を拒否した。 同年4月14日、本件合併は Answers 社の株主総会において承認された。  原告らは以下の二点を主張した。第一に、Answers 社の取締役会は、①不合理な取引保護条 項とともに本件合併に関してロックアップを取り決め、②本件合併を利用した同社の取締役に対 するストックオプションの付与及び Rosenschein への約40,000ドルのボーナスの支給により同 社の利益を抜き取り、③本件合併に関連して誤った内容の委任状を発行した等、致命的に欠陥の ある売却手続を進め、これらによって同社の取締役は注意義務、忠実義務及び誠実義務を含む信

(4)

認義務に違反した(なお、③の主張は後に原告らによって取り下げられた)(以下、「第一請求原 因」という。)。第二に、買収グループは Answers 社の取締役会の信認義務違反を教唆・幇助(aid and abet)した(以下、「第二請求原因」という。)。原告らは、本件合併の取消しを求めた。  これに対して、Answers 社の取締役会は、第一請求原因に関して、以下の三つの理由に基づ き訴え却下の申立てを行った。第一に、原告らは Answers 社の取締役会の信認義務違反を示す 諸事実を一つも主張しておらず、また、同社の定款にはデラウェア州会社法102(b)(7)に基づく 免責規定があったことから、注意義務違反に関する主張は法的要件を欠いたものであり、さらに、 原告らにより当該免責規定を覆すのに必要な不誠実(bad faith)を示す諸事実は主張されてい ない。第二に、Answers 社の取締役会の過半数は利害関係のない取締役であることから、忠実 義務違反の主張はあたらない。第三に、原告らが求めるディスクロージャーに関する主張につい ては、既に本件合併がクローズしてしまっていることから、その主張は実質的な意義を失った。 また、買収グループは、第二請求原因につき、原告らは買収グループが Answers 社の取締役会 の信認義務違反に意識的に関与したとの主張は行っていないことから、訴状では教唆・幇助に関 する主張が行われていないと主張した。  Answers 社の取締役会による訴え却下の申立てに対して、原告らは以下のように主張し た。Rosenschein, Beasley, Dyal は Answers 社の売却の手続きを主導していた。また、それ 以外の取締役は、この3名が Answers 社の株式につき合理的に利用可能な最善の価格を得る 努力をしないまま売却の手続きを進めたことを許容しており、そのことが信認義務違反にあ たる。Rosenschein は、もし Answers 社を売却しなければ自分の立場が危うくなることを認 識しており、それ故、彼は自分の立場を維持するために同社の売却を希望した。Beasley と Dyal は Redpoint 社が所有する Answers 社の株式を現金化することを希望した。その理由は、 Answers 社の株式は少量しか取引されていないことから、同社が合併に応じることになれば、 Redpoint 社による持分が売却されるからである。それ故、Rosenschein, Beasley, Dyal の3名 は、Answers 社の株式を買い取ってくれる会社を探し始め、AFCV社と交渉を始めた。交渉期 間中、Answers 社の株価は1株10.25ドルを上回ることはなかったため、AFCV社は僅かでは あるがプレミアムを付けた1株10.50ドルで買い取ることを提案した。しかし、2011年において Answers 社の株価が上昇し続けたが、その背景には、同社の株価が1株10.25ドル以上になる前 に Rosenschein, Beasley, Dyal の3名が同社の取締役会に対して売却手続きを完了させるよう 促すことにより、本件合併が失敗に終わるのではないかという予測があった。また、買収グルー プによる訴え却下の申立てに対して、原告らは以下のように主張した。買収グループは、2010年 11月期の Answers 社の業務及び財務状況が改善するという情報を知ったため、同社の取締役会 に対して、同社の株価が1株10.50ドルを超える前に売却手続きを完了させるため、極端に短い 市場調査を行うよう要求した。さらに、仮に Answers 社の取締役会が注意義務違反に基づく損 害賠償責任を免れたとしても、買収グループは同社の取締役会の注意義務違反を教唆・幇助した こと関する責任は免れない。

(5)

Ⅱ 判旨  衡平法裁判所は、大略以下のように述べ、第一請求原因については、原告らが後に取り下げた 部分を除き、Answers社の取締役会による訴え却下の申立てを棄却し、第二請求原因については、 買収グループによる訴え却下の申立てを棄却した。  (1) 訴え却下の申立てに関する法的基準  衡平法裁判所規則12(b)(6)によれば、第一審裁判所(trial court)は、訴状において原告が救 済されるべき事実が十分に記載されていなかった場合には、その不記載を理由として訴え却下の 申立てを認めてもよい1 。デラウェア州において、訴え却下の申立てが認められるための一般的 な基準は、当該申立てが合理的に考慮に値するか否か(conceivability)である2 。すなわち、被 告による訴え却下の申立てを検討する際、裁判所は、訴状においてよく訴答された(well-pleaded) 諸事実を全て真実であると認め、原告に有利になるような合理的な推論を導き出すべきであり、 それ故、原告が合理的に考慮に値すると思われるあらゆる立証可能な諸事実を立証できなかった 場合には、訴え却下の申立てを棄却すべきである3。従って、裁判所は、立証されていない推断 的な(conclusory)主張を受け入れたり、申立ての当事者以外の者に有利になるような不合理な 推論を導き出す必要はなく4 、原告による合理的な立証可能性が存在しない場合にのみ、訴え却 下の申立てを認めてもよい5  (2) 第一請求原因

  ① Rosenschein, Beasley, Dyal の忠実義務違反

 デラウェア州の会社の取締役は、業務執行にあたり、会社に対して注意義務及び忠実義務を含 む信認義務を負う。取締役会が会社の売却を企図する場合、取締役会は会社の売却価格を最大化 するという特定の目的のために信認義務を尽くさなければならない6 。取締役会が株主価値を最 大化する方法は一つではないが、取締役がその目的を達成するための方法は合理的でなければな らない7。さらに、取締役会はその方法が合理的であったか否かに関する立証責任を負う  いわゆる Revlon 義務9 は会社の売却という文脈において伝統的な信認義務としての注意義務 や忠実義務違反の審査基準として機能する。この点、会社の定款に注意義務違反に基づく取締役 の損害賠償責任を免除することを内容とするデラウェア州会社法102(b)(7)に基づく免責規定が ある場合には、訴状においては同規定では免責されない取締役の忠実義務違反や不誠実な行為を 主張しなければならない10 。Answers 社の原始定款には、この免責規定が含まれている。従って、 Answers 社の取締役会による訴え却下の申立てを審理する際には、訴状において取締役会の忠 実義務違反が主張されなければならない。  会社の売却という文脈において、原告は、取締役会の過半数が売却手続きに利害関係を有し ていること、又は、取締役会が売却手続きにおいて不誠実に行動していたことのいずれかに関す る推断的ではない諸事実を主張することによって、取締役会の忠実義務違反を主張することがで きる。株主に対して平等に割り当てられることのない取引によって取締役が個人的な財産上の利 益を得ている場合、当該取締役は利害関係があると考えられる11。いわゆる義務の意識的な無視

(conscious disregard for his or her duties)に示されるように、取締役が知っている義務に直 面したときに、意図的にそれを尽くさなかった場合、当該取締役は不誠実に行動したと考えられ る12

(6)

 訴状においては、Answers 社の取締役全員が忠実義務に違反した諸事実が十分に主張されて いる。すなわち、訴状においては、推断的ではない方法により、Rosenschein, Beasley, Dyal は本件合併に関する財産上の利害を有していたこと、及び、他の取締役も同社の株主にとって 合理的に利用可能な最大価値を探すことを意識的に怠ったことが主張されている。訴状からは、 Rosenschein が Answers 社を売却しない場合、彼はCEOとしての地位を追われることから、同 社の売却は Rosenschein の個人的利益のために行われたことが窺え、これは Rosenschein が本 件合併に利害を有していたことを十分に主張するものである。

 また、訴状においては、Beasley と Dyal は Redpoint 社の流動性(liquidity)の利益を獲得 するために Answers 社の売却手続きを進めたことが主張されている。流動性の利益は取締役 の信認義務違反によって得られる利益であると理解されている13。本件合併により Answers 社 の株主全員が現金を得るが、流動性の利益を得るのは Redpoint 社だけである。訴状によれば、 Redpoint 社が得た流動性の利益はその持分を市場で売却したい一般株主の利益と衝突する。そ れ故、訴状は Beasley と Dyal が本件合併に利害を有していたことを十分に主張するものである。   ② 他の取締役の不誠実  訴状においては、他の取締役が不誠実に行動していたことが十分に示されている。義務を意 識的に無視したことが取締役会の不誠実な行動にあたる。Answers 社の取締役会は同社の市場 における株価がAFCV社からの提案価格を超える前に本件合併に合意したが、その際、他の取 締役は Rosenschein, Beasley, Dyal が Answers 社の売却手続きを早急に終了させたかったと いう事実を認識していたにも関わらず、彼らは同社の売却の手続きを進めた。それ故、訴状は Answers 社の取締役会が欠陥のある売却手続きを進めたことにより忠実義務に違反しているこ とを十分に主張するものである。   ③ その他  原告らは、第一請求原因として、(ⅰ)不合理な取引保護条項とともに本件合併に関してロッ クアップを取り決め、(ⅱ)本件合併を利用した Answers 社の取締役に対するストックオプショ ンの付与及び Rosenschein への約40,000ドルのボーナスの支給により同社の利益を抜き取り、 (ⅲ)本件合併に関連して誤った内容の委任状を発行した等、致命的に欠陥のある売却手続きを 進めたことが同社の取締役会の信認義務違反にあたると主張する。原告らは Answewrs 社の売 却手続きの過程において同社の取締役会の決議が得られていたことを十分に主張していることか ら、当裁判所はそれぞれの観点において忠実義務違反が継続的に認められるものであると判断し、 (ⅰ)及び(ⅱ)に関する主張を斥けない。また、(ⅲ)については、原告らが後にこれを取り下 げたので、これを斥ける。第一審裁判所は訴状においてよく訴答された諸事実の全てを真実とし て受け入れるべきである14。従って、(ⅲ)の事実を除き、当裁判所は第一請求原因に対する訴 え却下の申立てを棄却する。  (3) 第二請求原因  原告らは、第二請求原因として、買収グループが Answers 社の取締役会の信認義務違反を教 唆・幇助したと主張する。買収グループによる教唆・幇助を主張する際、原告らは、①信認関係 があること、②信認義務違反があること、③当該信認義務違反に意識的に関与したこと、④当該 信認義務違反を主たる原因として損害が発生したことを主張しなければならない15 。

(7)

 本件において、原告らは、Answers 社の取締役会と同社の株主との間には信認関係があり、 同社の取締役会が意図的に欠陥のある売却手続きを進めたことにより、同社の株主が彼らの持分 に対する最大価値を得ることができなかったと主張する。従って、原告らは、買収グループによ る教唆・幇助の要件である上記①、②及び④については十分に主張している。また、③について は、原告らは、Answers 社の取締役会は2010年から2011年にかけての同社の業績の予測や戦略 的計画に関する非公式な情報を AFCV 社に対して提供したと主張する。加えて、A-Team 社は AFCV 社の100%子会社である。また、買収グループは Summit 社が AFCV 社を支配していた ことを認めている。それ故、Answers 社が AFCV 社へ提供した非公式な情報を買収グループの 全てのメンバーが知っていたとする当裁判所の推測には合理性がある。  この非公式な情報は Answers 社の業務及び財務の状況が改善していることを示すものであ る。そして、原告らは、買収グループがその情報を知った後、Answers 社の取締役会に対して、 同社の市場価格が AFCV 社からの提案価格よりも高くなる前に同社の売却手続きを終了させる よう同社の取締役会に対して圧力をかけたと主張する。従って、買収グループが Answers 社の 取締役会の信認義務違反に意識的に関与したことが認められる。それ故、原告らは、買収グルー プが Answers 社の取締役会の信認義務違反を教唆・幇助したことを十分に主張している。 Ⅲ 検討  (1) 会社売却時の取締役の忠実義務違反と不誠実な行為  アメリカ会社法において、一般に、取締役は会社(及び株主)に対して信認義務を負い、そ の内容は注意義務及び忠実義務に大別される。デラウェア州判例法においては、本件のような M&A に関する事例は、伝統的に「取引(transaction)」の問題と整理され、注意義務違反の審 査を基本としつつ、より高度かつ限定的な Revlon 基準16 による審査が行われる。Revlon 基準の 下、会社の売却等の支配権の移転を伴う取引において、取締役は株主の利益のために会社の価値 を最大化する義務(Revlon 義務)を負う。しかし、近年、デラウェア州の会社には、注意義務 違反に基づく取締役の損害賠償責任を免除することを内容とする定款規定(デラウェア州会社法 102(b)(7))が置かれていることが多く、この場合、原告は、取締役の注意義務違反の審査を求 めることはできず、同規定では免責されない取締役の忠実義務違反又は不誠実な行為に関する諸 事実を立証することにより、取締役の信認義務違反の責任を追及することとなる。  会社の売却という文脈において、定款規定では免責されない取締役の忠実義務違反又は不誠 実な行為に関する審査基準は Lyondell 事件17 において示されている。同事件において、最高裁 は以下のような判断を行った。Lyondell 社の取締役会は、同社が買収の対象になっている(in play)ことへの対応として「成り行きをみる(wait and see)」との立場を決定したが、このよ うな決定に対して、最高裁は、まず、Revlon 基準を適用し、株主の利益のために最適な会社の 売却価格を得なければならない義務(Revlon 義務)は、単に会社が買収の対象となったことによっ て生じるのではなく、実際に会社の売却という取引に応じる時に初めて生じるとして、Revlon 義務が適用される時期を明らかにした18。次に、最高裁は、「…Lyondell 社の定款にはデラウェ ア州会社法102条(b)(7)に基づく免責規定が含まれている。それゆえ、本件は、Lyondell 社の取 締役の行為が、定款によっては免責されない忠実義務違反に関するものであったか否かという問

(8)

題に帰着する。19」と述べ、同事件の争点を忠実義務の問題であると整理した。その上で、最高裁は、 「…Disney 事件20 において、当裁判所は不誠実な行為の範囲を議論し、そこには損害を発生させ る意図だけでなく意図的に義務を怠ることをも含むと結論づけた。…数ヶ月後、Stone 事件21 に おいて、当裁判所は監視の文脈の中で不誠実の概念を検討し、Caremark 事件22の判断を採用し た。Caremark 事件においては、会社の損失に関する取締役の責任を追及する訴訟が、取締役が 会社内において適切な行動をとらなければならない義務を無視したことを原因として提起された 場合には、取締役会が監督権を継続的・体系的に行使しなかったことのみが責任を認めるために 必要な誠実性の欠如(lack of good faith)にあたるとされた。その後、Stone 事件においては、 不誠実を定義したDisney 事件と Caremark 事件の判断は十分に整合的であることが認められた。 23」と述べた。Lyondell 事件は、伝統的に注意義務違反の問題と整理されてきた取引の文脈にお いて、取締役の信認義務違反を忠実義務違反の問題と捉え直し、その上で、監督義務懈怠等の取 締役の不作為の審査基準としての誠実性は忠実義務の一要素であることを認めた Stone 事件の 立場を踏襲した判断を行ったものである。  本件においては、Answers 社の定款にはデラウェア州会社法102(b)(7)に基づく免責規定が 存在していたことから、衡平法裁判所は、Lyondell 事件の判断に従って、会社の売却という文 脈においては、一般に、取締役会の過半数が売却手続きに利害関係を有していること、又は、 取締役が売却手続きにおいて不誠実に行動したことのいずれかに関する推断的ではない(non-conclusory)事実が立証されれば、取締役の忠実義務違反が認められるとした。また、その審査 基準として、取締役の利害関係の有無については、取締役が会社の売却手続きにより個人的な財 産上の利益を得ているか否か(Rales基準24、及び、取締役の不誠実な行為については、「義務 の意識的な無視」(Disney基準25 )に代表されるように、知っている義務に直面した際に取締役 が意図的にそれを尽くさなかったか否か26 を基準に審査されるとした。その上で、Rosenschein については、同社のCEOとしての地位を維持するという個人的利益のために同社の売却手続き を進めこと、また、Beasley, Dyal については、彼らは Redpoint 社の取締役でもあったことか ら、同社の流動性の利益を獲得するという個人的利益のためにAnswers 社の売却手続きを進め たことを認定し、彼らの忠実義務違反を認めた。さらに、他の取締役については、Rosenschein, Beasley, Dyal の3名が欠陥のある売却手続きを進めたことを認識しており、そのことが取締役 の不誠実な行為にあたるとした。  デラウェア州においては、Van Gorkom 事件27が取締役の信認義務違反の審査において経営判 断の原則による保護を認めなかったことを受けて、定款に規定することにより注意義務違反に 基づく取締役の責任を免除することを認めるデラウェア州会社法102(b)(7)が制定された。そし て、それ以降、株主は、より厳密な司法審査の利益を得るため、取締役の行為を経営判断の原則 による保護及び定款規定による免責が認められない忠実義務違反又は不誠実な行為として主張 するようになった28 。そこで、デラウェア州判例法においては、①監督義務の懈怠、②不当に高 額な報酬の決議、③会社の売却等、伝統的な信認義務法理の枠組みに含めることができない事案 の解決において誠実性基準が適用され、そもそも不誠実な行為とは何か、伝統的な信認義務法理 の枠組みの下において不誠実な行為をどのように位置づけるか等が明らかにされてきた29 。そして、 これらの裁判例の展開を経て、現在、誠実性(又は不誠実)概念を巡っては、要件論の問題とし

(9)

て Disney 事件が示した「義務の意識的な無視」に関する審査基準の意義の解明、及び、義務論 の問題として伝統的に注意義務違反の問題と整理されてきた監督義務の懈怠及び会社の売却とい う取引の局面において、これを忠実義務違反の問題と捉え直すことから生じる「忠実義務の拡張 (expanding duty of loyalty)30」という現象の解明が課題となっている。このような状況の下、

本判決は、会社の売却という局面において誠実性基準を適用した点において忠実義務の拡張の一 事例を示し、また、「義務の意識的な無視」に関する審査基準を適用した点において Disney 基 準の適用事例を示したものであり、ここに本判決の事例判決としての意義を認めることができる。  (2) 教唆・幇助  本件において、原告らは、第二請求原因として、買収グループが Answers 社の取締役会の信 認義務違反を教唆・幇助したと主張する。企業買収の局面において、買収者及び対象会社以外 の第三者が当該買収を教唆・幇助したとの主張がしばしばなされ、Malpiede 事件31 及び Alloy 事件32 が以下のような審査基準を示している。すなわち、第三者が取締役の信認義務違反を教 唆・幇助する可能性は、一般に、第三者が信認義務違反に「意識的に関与する(knowingly participate)」ことによって生じる33。また、教唆・幇助が認められるためには、原告は、①信 認関係の存在、②信認義務違反の存在、③信認義務違反への意識的な関与、④信認義務違反を主 たる原因として損害が発生したことを示す諸事実を立証しなければならない34  本件において、衡平法裁判所は、Answers 社の取締役会と同社の株主との信認関係の存在、 及び、同社の取締役会は不適切な会社売却手続きを進めたことの二点が原告らによって十分に 主張されていることを認定し、それにより上記の①、②及び④の要件が立証されたとした。ま た、衡平法裁判所は、原告らが主張した諸事実に基づき、Answers 社が AFCV 社へ提供した Answers社の業績が改善していることを示した非公式な情報を買収グループが認識していたこ とを認定し、上記の③の要件が立証されたとした。従って、本判決は企業買収の局面において Malpiede 事件及び Alloy 事件が示した教唆・幇助に関する審査基準を踏襲したものであり、こ こに本判決の事例判決としての意義を認めることができる。  (3) 訴え却下の申立ての審理手続き  以上、本判決は、会社の売却という取引の領域において、従来の裁判例の判断を踏襲し、忠実 義務違反の要素としての不誠実な行為及び第三者による教唆・幇助を認定した点に意義を認める ことができる。しかし、訴え却下の申立ての審理手続きに関しては、以下の二点において特徴的 な事案であったことが指摘されている。すなわち、第一に、一般に、デラウェア州判例法におい て、裁判所は、訴え却下の申立ての審理の際、訴状においてよく訴答された諸事実の全てにつき、 それを真実なものとして受け入れなければならない35 。しかし、本件において、衡平法裁判所は、 原告が既に仮差止命令を申し立て、それと同時に証拠開示手続き(discovery)を行ったにも関 わらず、訴え却下の申立ての審理の段階においては、仮差止命令において提出された証拠を考慮 しなかった36 。第二に、本件において、衡平法裁判所は、訴え却下の申立ての審理の際、訴状記 載の諸事実を限定的に解釈し、Answers 社の取締役会が意図的に売却手続きを進めたことが訴 状において十分に主張されたことを認めている37。しかし、その際、衡平法裁判所は、原告らの 訴訟代理人が提出した明らかに訴状の範囲を超える内容の証拠を参照した38 。

(10)

以外の4名の取締役からは、以下の理由とともに、衡平法裁判所規則59(f)39に基づく再弁論 (reargument)が申立てられている40 。すなわち、衡平法裁判所は、訴え却下の申立ての審理 において、明らかに独立性があり利害関係のない4名の取締役の不誠実な行為を認定する際、 訴状記載の諸事実を誤って解釈した41。また、利害関係のない4名の取締役が、Rosenschein, Beasley, Dyal の個人的利益の獲得を助けるために、早急に売却手続きを終了させようとしたこ とを示す事実は、訴状のどこにおいても主張されていない42 。しかし、衡平法裁判所は、「不誠実は、 会社の利益よりも、憎悪(hatred)、欲(lust)、ねたみ(envy)、復讐(revenge)、恥辱(shame)、 誇り(pride)等、取締役が意図的に自身の利益を求めるあらゆる感情を原因とする行為である。43 」 と述べた Disney 事件の判断を引用し、4名の取締役は不誠実な行為を不当に狭く解釈している と批判し、再弁論の申立てを棄却した。  近年、特に衡平法裁判所の審査スタンスとして、忠実義務違反又は不誠実な行為に関する審査 基準の適用を通じて、経営判断の原則による保護及び定款規定による免責を制限する方向性が示 されている。例えば、前述の Lyondell 事件は、会社売却時における同社の取締役の「成り行き をみる」との立場につき、忠実義務違反又は不誠実な行為に基づく審査が行われた事案であっ たが、衡平法裁判所が「義務の意識的な無視」に関する Disney 基準に基づき取締役の不誠実な 行為を認定したのに対して44、最高裁は同基準には言及しつつも「取締役の内心の状態(mental state)に関する立証の困難性45」を理由に不誠実な行為を認定しなかった。この点については、 前述の忠実義務の拡張に関する解釈問題として、不誠実な行為の審査においては、取締役の動機 を詳細に分析する必要性が指摘されている46 。本判決及びその後の再弁論の申立てにおける衡平 法裁判所の判断は、このような指摘と相俟って、近年の審査スタンスを踏襲したものと位置付け ることができよう。           * 沖縄大学法経学部 准教授

1 In re Alloy, Inc. S'holder Litig., 2011 WL 4863716 at *6 (Del. Ch.).

2 Central Mortg. Co. v. Morgan Stanley Mortg. Capital Hldgs, LLC, 27 A.3d 531 at 537 (Del. 2011).

3 Id. at 536.

4 In re Alloy, Inc. S'holder Litig., supra note 1 at *6. 5 Id.

6 Lyondell Chem. Co. v. Ryan, 970 A.2d 235 at 239 (Del. 2009).

7 In re Smurfit-Stone Container Corp. S'holder Litig., 2011 WL 2028076 at*10(Del. Ch.). 8 Paramount Commc'ns v. QVC Network Inc., 637 A.2d 34 at 45 (Del. 1994).

9 Revlon, Inc. v. MacAndrews & Forbes Hldgs., Inc., 506 A.2d 173 (Del. 1986). 10 In re Alloy, Inc. S'holder Litig., supra note 1 at *7.

11 Rales v. Blasband, 634 A.2d 927 at 936 (Del. 1993). 12 Lyondell Chem. Co. v. Ryan, supra note 6 at 243.

(11)

Ch.).

14 Central Mortg. Co. v. Morgan Stanley Mortg. Capital Hldgs, LLC, supra note 2 at 536. 15 Malpiede v. Townson, 780 A.2d 1075 at 1096 (Del. 2001).

16 Revlon, Inc. v. MacAndrews & Forbes Hldgs., Inc., supra note 9 at 182. 17 Lyondell Chemical Co. v. Ryan, supra note 6.

18 Id. at 242. 19 Id. at 239.

20 In re Walt Disney Co. Deriv. Litig., 906 A.2d 27 (Del. 2006). 21 Stone v. Ritter, 911 A.2d 362 (Del. 2006).

22 In re Caremark International Inc. Deriv. Litig., 698 A.2d 959 (Del. Ch. 1996). 23 Lyondell Chemical Co. v. Ryan, supra note 6 at 240.

24 Rales v. Blasband, supra note 11 at 936.

25 In re Walt Disney Co. Deriv. Litig., supra note 20 at 67. 26 Lyondell Chemical Co. v. Ryan, supra note 6 at 243. 27 Smith v. Van Gorkom, 488 A.2d 858 (Del. 1985).

28 Arthur R. Pinto et al., Understanding Corporate Law, at 221 (2nd ed. 2004). 本書の邦訳 として、アーサー・R・ピントほか著〔米田保晴監訳〕『アメリカ会社法』(レクシスネクシ スジャパン、2010年)がある。 29 カーティス・J・ミルハウプト『米国会社法』(有斐閣、2009年)92頁。なお、誠実性概念 の解明を志向してデラウェア州判例法の展開を跡づけたものとして、例えば、片山信弘「デ ラウェア会社法における取締役の誠実義務」大阪学院大学法学研究35巻2号(2009年)113頁、 拙稿「デラウェア州会社法における誠実性概念の展開」沖縄大学法経学部紀要15号(2011年) 1頁等がある。 30 忠実義務の拡張については、拙稿「デラウェア州会社法における忠実義務の拡張」沖縄大学 法経学部紀要17号(2012年)1頁において、その理論的背景や学説の評価等について検討 した。なお、拙稿「報酬計画の承認に関する取締役の信認義務-In re The Goldman Sachs Group, Inc. Shareholder Litigation., 2011 WL 4826104 (Del.Ch.)-」法律論叢85巻1号 (2012年)377頁も参照。

31 Malpiede v. Townson, supra note 15.

32 In re Alloy, Inc. S'holder Litig., supra note 1.

33 Malpiede v. Townson, supra note 15 at 1096., In re Alloy, Inc. S'holder Litig., supra note 1 at *14.

34 Malpiede v. Townson, supra note 15 at 1096., In re Alloy, Inc. S'holder Litig., supra note 1 at *14.

35 Central Mortg. Co. v. Morgan Stanley Mortg. Capital Hldgs, LLC, supra note 2 at 537. 36 Delaware Corporate & Commercial Litigation Blog, April 20, 2012., http://www.

delawarelitigation.com/ (last visited Oct. 27, 2012). 37 Id.

(12)

38 Id.

39 同規定の下、当事者は、衡平法裁判所の決定が事実の誤認又は法の適用の誤りに基づくもの であることを示すために、再弁論の申立てを行うことができる。

40 In re Answers Co. S'holder Litig., 2012 WL 3045678 (Del. Ch.). 41 Id. at *1.

42 Id.

43 In re Walt Disney Co. Deriv. Litig., 907 A.2d 693 at 754 (Del. 2006).

44 Ryan v. Lyondell Chemical Co., 2008 WL 2923427 (Del. Ch.) (July 29, 2008) at *11-14., Ryan v. Lyondell Chemical Co., 2008 WL 4174038 (Del. Ch.) (Aug. 29, 2008) at *6. 45 Lyondell Chemical Co. v. Ryan, supra note 6 at 240.

46 See e.g., Christopher M. Bruner, Good Faith, State of Mind, and the Outer Boundaries of Director Liability in Corporate Law, 41 Wake Forest L. Rev. 1131 (2006)., Claire A. Hill et al., Disney, Good Faith, and Structural Bias, 32 J. Corp. L. 833 (2007)., Claire A. Hill et al., Stone v. Ritter and the Expanding Duty of Loyalty, 76 Fordham L. Rev. 1769 (2007)., Christopher M. Bruner, Good Faith in Revlon-Land, 55NYLS L. Rev., 581 (2010). なお、前掲注(30)に掲げた文献も参照。

参照

関連したドキュメント

地方創生を成し遂げるため,人口,経済,地域社会 の課題に一体的に取り組むこと,また,そのために

第14条 株主総会は、法令に別段の 定めがある場合を除き、取 締役会の決議によって、取 締役社長が招集し、議長と

社責任の追及事例において,問題となった違法行為に対する各被告取締役の寄

以下, 60 職業分類により調査が実施された 1927 年から 1941 年までの期間について,在盤谷領事 の報告原本に従って,第 30 表( 1927 年)から第

原価計算の歴史は︑たしかに︑このような臨時計算としての原価見積から出発したに違いない︒﹁正式の原価計算 1︵

写真フィルムから化粧品と聞くと、まったく 畑違いのように思えるかもしれないが、実は

・取締役は、ルネサス エレクトロニクスグルー プにおけるコンプライアンス違反またはそのお

売買による所有権移転の登記が未了の間に,買主が死亡した場合,売買を原因とする買主名