乾燥銀サケの品質特性に及ぼす浸漬溶液の影響
渡邊弥生*,中津沙弥香
Influence of Immersion Solutions on the Quality Characteristics of Dried Silver Salmon WATANABE Yayoi,* NAKATSU Sayaka
We studied the influence of the preliminary solution immersion process on silver salmon specimens dried by hot air. For immersion, NaCl, sodium citrate, calcium lactate, sorbitol, and protease solutions were used. After immersion, the silver salmon specimens were heated at 90°C and dried by air blow at 60°C. The moisture content of the salmon specimens that were dried after immersion in a NaCl, sodium citrate, calcium lactate, or protease solution was lower than that of the control specimens that were not subject to the immersion treatment. The a* value was high in measurements using a chroma meter (L*a*b* value), and the number of breaks was high in the physical property analysis. The number of breaks and maximum load of 20 types of commercially available confectionery were compared with those of the dried salmon specimens in the physical property analysis, and the results were mapped. The drying rate of salmon specimens that were immersed in NaCl and sodium citrate solutions was higher than that of other specimens both in the first half and second half of the drying process. The results suggested that the moisture in the specimens was easily diffusible.
Keywords: air drying, fish meat, immersion, characteristics キーワード:送風乾燥,魚肉,浸漬処理,品質特性 乾燥食品は,含水率が低いことから保存性がよく,ま た水分が除去され重量が軽いため輸送性がよく,利便性 が高い食品である.近年,食の多様化に伴い,乾燥食品 にも高度な品質が要求されるようになっており,消費者 の嗜好に合致した,風味に優れ,食べやすく,しかも低 水分まで乾燥させて,輸送や利用に便利な素材が求めら れている. これまでの水産物乾燥における,塩干品や調味乾製品 に関する研究は,熱感受性の高い素材を高品質に乾燥す るために,塩漬後に加熱を行わず,低温(室温以下)で 乾燥する方法がほとんどである1)-4).このような方法で 生産された塩干品は,透明感があり弾力性のある食感と なる.一方,内部に空隙を多く含み,湯戻しなどを想定 した乾燥素材を製造するには,真空凍結乾燥を行うこと が多い.真空凍結乾燥は熱風乾燥に比べて,乾燥前の品 質に近い乾燥素材ができるが,乾燥コストが高いという 欠点がある5). 本研究では,熱風乾燥により,水分含量が低く,サク サクと砕けやすい食感の乾燥食品素材の開発を目的とし て,乾燥前に浸漬させた塩や糖溶液が素材の乾燥特性及 び品質特性に及ぼす影響について検討した. 実験材料および方法 1. 乾燥サケの作成 試料には,チリ産の無塩銀サケ(Oncorhynchus kisutsh)のフィレから 2.2×2.2×1.2 ㎝に切断したブ ロック状の肉片を用いた.カットしたサケを,等重量の 各種溶液(5% NaCl (w/v), 5% クエン酸 Na (w/v), 3% 乳酸 Ca (w/v),10%ソルビトール (w/v),いずれも関東 化学製試薬から調製)に 4℃で5時間浸漬した.また, 酵素の影響を調べるため, 0.1%プロテアーゼ(w/v)(ス ミチーム P,新日本化学,以降酵素と表記)溶液または, 上記溶液に 0.1%酵素を添加した溶液にも同様に浸漬し た.溶液に浸漬していないサケをコントロールとした. サケを溶液から取り出し,スチームコンベクションオー ブン(SSC-04MSCNSTU,マルゼン製)で 90℃,10 分間加 熱処理した後,送風乾燥機(PV-210,タバイエスペック 社製)で 60 ℃,24 時間,風速約 3.0m/s で乾燥させた. 2. 市販食品試料 市販食品試料は,歯による咀嚼を要する菓子と珍味 20 品を選定した.その内訳は,ソフトせんべい,素焼きア ーモンド,堅焼きせんべい,かりんとう,芋けんぴ,ピ *広島県商工労働局イノベーション推進チーム 広島市中区基町 10-52 *10-52,Motomachi,Nakaku,Hiroshima City
ーナッツ,柿の種,鮭とば(秋鮭),ビーフジャーキー(以 上イオン製),おかき(岩塚製菓製田舎のおかき®),スナ ック菓子(亀田製菓製ハッピーターン®,カルビー製じゃ がりこ®,カルビー製かっぱえびせん®,やおきん製うま い棒®),カンパン(三立製菓製),せんべい(マスヤ製お にぎりせんべい®),クッキー(森永製菓製ムーンライト®), クラッカー(ヤマザキナビスコ製リッツ®),にぼし(ヤ マキ製),干しむきえび(小倉食品製)であった. 2. 測定項目 (1) 含水率 含水率は,試料をミルサー(IFM-800DG,Iwatani 製) で細切し,そのうち約 3gを採取し,海砂(関東化学製) を乾燥助剤として常圧加熱乾燥法(105℃)により測定し た. (2) 色調測定 色彩色差計(CR-400,コニカミノルタ製)により L*a*b* を測定した.a*値について,各処理区につき 5 個のサン プルの平均値を算出した. (3) 物性測定
乾燥前の素材については,CREEP METER (RE-33005B, 山電製)を用いて,3mm 円柱型プランジャーにより, 10mm/s の速度で試料の 95%を圧縮した際の最大応力を 計測した.乾燥後の銀サケおよび市販食品の破断物性で は,上記の機器とプランジャーを用いて, 1 ㎜/s の速 度で試料の 80%を圧縮して,0.01 秒ごとの歪率と荷重を 計測した.得られた測定値から,最大荷重と破断数を算 出した.破断数は,荷重-歪率曲線の中で,荷重が増加ま たは平行から減少に転じる点を破断点(ピーク)とし,1 測定におけるピーク数を測定距離で除し,サンプル 1 ㎜ あたりのピーク数を破断数とした.測定は各サンプルに つき 10 回行い平均値を算出した. (4) 乾燥速度曲線 乾燥速度曲線6)は,乾燥過程における重量変化および 含水率から算出した.重量変化は,乾燥機内部に電子天 秤(ASP602F,アズワン製)を設置し,電子天秤データレ コーダソフト(B-16,アズワン製)を用いて計測した. 減少した重量はすべて蒸発水分とみなし,乾量基準含水 率(d.b. decimal)を算出した.乾燥速度は単位時間あ たりに減少する含水率の大きさ[g-水/(g-乾き固体・h)] として求めた. 実験結果および考察 1. 乾燥後の含水率 各種溶液に浸漬したサケの乾燥後の含水率(wet basis )を図 1 に示す.溶液に浸漬しないコントロールで は含水率 12.0%となったが,酵素溶液に浸漬した場合, 含水率が 4.7%まで低下した.NaCl 溶液およびクエン酸 Na 溶液に浸漬した場合,酵素の有無に関わらず,含水率 が約 2%まで低下した.乳酸 Ca 溶液に浸漬した場合は, 含水率が酵素なしでは 7.5%,酵素ありでは 4.3%となっ た.ソルビトール溶液では,酵素の有無に関係なくコン トロールと同程度までしか含水率が下がらなかった. これらのことから,塩溶液には乾燥後の含水率を低下 させる効果があるが,ソルビトールは,この効果がない と考えられる. 酵素の効果については,酵素単独では,塩溶液と同様 に含水率を低下させるが,共存する塩や糖の影響により 含水率を低下させる効果が,大きく影響を受けることが 明らかとなった. 2. 乾燥後の色調 浸漬溶液の違いが,乾燥後のサケの赤い色調に及ぼす 影響を調査するため,色彩色差計で測定した a*値を図 2 に示す.溶液に浸漬していないコントロールに比べて, 溶液に浸漬したサケは色調に変化が認められた.特に, NaCl,クエン酸 Na,および乳酸 Ca では,a*値が高く,
赤色が強くなった.酵素の有無による違いは,クエン酸 0 2 4 6 8 10 12 14 含 水 率 (% w .b .) 0 5 10 15 20 25 30 a* 値 図 1 乾燥後の銀サケの含水率 :酵素なし, :酵素あり (コントロールの酵素なしは溶液に浸漬処理していないものを示す。) 図 2 乾燥後の銀サケの色調(a*値) :酵素なし, :酵素あり 平均値±標準偏差 (コントロールの酵素なしは溶液に浸漬処理していないものを示す。)
Na において,酵素と併用することにより,特に a*値が高 くなった.サケ・マス類の主な筋肉色素であるアスタキ サンチン7)は,酸化しやすく不安定な色素で,酸化・異 性化によって無色の物質に変化し,赤い魚体色が退色す る.この変化は,食塩,酸素,光線,金属イオンなどに より促進されるといわれている8)9).一方,増田らはシ ロサケの加熱による筋肉色調の変化について報告してお り10),この中で NaCl に筋肉色保持効果が認められ,こ れは加熱した際,NaCl によってタンパク質の熱凝固性に 変化が生じ,このことが白色のカードの生成を抑制する こととなり,ひいては筋肉色が白みがかるのを抑制する と推察している.本試験においても,NaCl やクエン酸 Na 溶液に浸漬後に加熱したサケではカードの生成が 抑制されることが観察されており,赤色が強くなった 一因と考えられる.さらに,塩類に浸漬した素材と浸 漬処理をしていないコントロールでは,乾燥後の含水 率が異なることも考慮する必要がある.すなわち,よ り含水率が低くなった素材で,色素の濃縮率が高くな るために,赤色が強くなったのかもしれない.乾燥素 材の色調については,同一含水率とした素材での色素 量を比較する必要があると考えられる. 3. 食感解析 溶液浸漬後加熱した乾燥前の銀サケの最大応力を 図 3 に示す.乾燥前の素材では,浸漬処理していない コントロールと比べて NaCl,クエン酸 Na および酵素 に浸積した場合に,最大応力が大きく減少していたが, 乳酸 Ca およびソルビトールでは変化がなかった. 乾燥後の銀サケおよび市販食品の破断解析結果を図 4 に示す.乾燥後の銀サケについては, NaCl,クエン酸 Na,乳酸 Ca および酵素溶液に浸漬したサケの最大荷重は, コントロールと比較して約 30%まで減少し,破断数は約 130%に増加した.一方,ソルビトール溶液に浸漬したサ ケは,乾燥前後でコントロールと最大応力に大きな差は なかった. NaCl,クエン酸 Na,酵素に浸漬後加熱したサケは,乾燥 前に肉質が軟らかく変化しており,このことが乾燥後の 荷重値の減少につながっていると推察された.乳酸 Ca 図 4 乾燥後の銀サケおよび市販食品の破断物性 ●;乾燥銀サケ,◇;市販食品 各プロットは 10 回測定した平均値.乾燥銀サケについて,コントロールは溶液に浸漬処理していないものを示す。 NaCl,クエン酸 Na,乳酸 Ca,ソルビトールには酵素添加なし。
図 3 乾燥前の銀サケの最大応力 平均値±標準偏差 コントロールは溶液に浸漬処理していないものを示す。NaCl,クエ ン酸 Na,乳酸 Ca,ソルビトールには酵素添加なし。 0 2 4 6 8 10 12 14 最 大 応 力 (× 10 5 N /m 2)
については,乾燥前にはコントロールと最大応力に大き な差がないにも関わらず,乾燥後に最大荷重が減少した ことから,魚肉に対してナトリウム塩とは異なった影響 を及ぼしていると考えられる. Iseya ら11)は,ホッケの塩干しにおける NaCl の影響 に関する研究の中で,魚肉を塩漬後 50℃で乾燥する際に, 低濃度の NaCl で塩漬した場合は,乾燥初期にドリップが 生じて,乾燥後にポーラスで破断強度の低い魚肉となる が,高濃度(1.0M-2.0M)の NaCl で塩漬した場合や,低 温(15℃,30℃)で乾燥した場合はドリップ流出は起こ らず破断強度が高かったとしている.本研究では,塩漬 後に 90℃での加熱を行っており,この際に加熱収縮によ るドリップの流出が起こっていると考えられる.加熱変 性した後の筋肉組織を乾燥させる場合においても,塩漬 時の溶液組成が大きな影響を与え,塩や酵素は最大荷重 を減少させ,破断数を増加させることが明らかとなった. 市販食品においては,組織が緻密で,素材内部に空隙 が含まれないようなビーフジャーキー,鮭とば,ピーナ ッツ,アーモンド,干しエビなどは破断数が少なく,素 材内部に砕けやすい空隙がたくさんあるスナック菓子類 は破断数が多い傾向が認められた.市販品の鮭とば(秋 鮭)と,本報で作成した乾燥銀サケでは,食感に大きな 違いが認められ,前者はしっとりと弾力のある食感であ り,後者はサクサクとした空気感のある食感であった. 両者の破断数の違いはこのことを反映していると考えら れた.その他の市販食品と乾燥銀サケとの比較において は,浸漬処理をしないで乾燥したコントロールやソルビ トール浸漬区は,最大荷重が大きく,かたい食感の堅焼 きせんべいやにぼしと近い食感であったが,NaCl,クエ ン酸 Na,乳酸 Ca,酵素に浸漬してから乾燥することで, 最大荷重が下がり,破断数が増加して,おかきなどと近 い,噛みやすい食感となった. 乾燥サケの呈味については,NaCl およびクエン酸 Na に浸漬後に乾燥したサケは若干の塩味を感じ,ソルビト ール浸漬したサケは甘味を感じるものとなっていた. 低水分含量食品の食感(crispness)を評価するために 貫入試験における歪率と応力変化の関係を解析する方法 が検討されており12),Pamies ら13)は,スナック菓子の 破断物性(機器測定)と官能評価を比較し,素材の貫入 試験におけるピーク数と官能評価のクリスピー感 (crispness)に相関があることを示している.本試験で も,内部に砕けやすい隔壁からなる,空隙の多いサクサ クとした食感の素材の食感評価として,破断数が一つの 指標となり得ることが示唆された. 4. 乾燥速度 各種溶液に浸漬したサケの乾燥における乾燥速度と含 水率の関係を図 5 に示す.図より,コントロール,乳酸 Ca,ソルビトール処理区は,含水率(d.b.)が約 0.7 ま では直線的に減少し(減率乾燥第1段),これ以下ではさ らに速度が減少する減率乾燥第2段となっていると推察 された.一方,NaCl やクエン酸 Na に浸漬したサケは, 図 5 銀サケの乾燥特性曲線
含水率の低下に伴い平衡含水率に達するまで,ほぼ直線 的に速度が減少する傾向が見られ,含水率 2.0 以下の範 囲において,減率乾燥第1段にあると考えられた. 減率乾燥第2段における乾燥速度は,素材表面での水 分蒸発ではなく,素材内部の水分移動速度に支配される ので5),NaCl やクエン酸 Na に浸漬したサケは,乾燥後 期においても,材料内部の水分が拡散しやすい状態であ ると考えられる.このことが,NaCl やクエン酸 Na に浸 漬したサケを乾燥させた場合に,低含水率で破断荷重の 小さい乾燥物となる要因の一つと推察された. 要 約 事前の浸漬溶液が熱風乾燥銀サケに及ぼす影響を検討 した。浸漬溶液には,NaCl, クエン酸 Na, 乳酸 Ca, ソル ビトールおよびプロテアーゼ溶液を用いた.浸漬後の銀 サケを 90℃で加熱して 60℃で送風乾燥した.NaCl,クエ ン酸 Na,乳酸 Ca およびプロテアーゼ溶液に浸漬後乾燥 したサケは,浸漬処理をしていないコントロールと比べ て含水率が低く,a*値が高く,破断数が多かった.物性 解析により,20 種類の市販の菓子類と乾燥サケの破断数 と最大荷重を比較して,マッピングした.NaCl およびク エン酸 Na 溶液に浸漬されたサケの乾燥は,乾燥前期およ び後期も乾燥速度が他に比べて早かったことから,素材 内部の水分が拡散しやすい状態にあると推察された. 文 献 1) 北田長義,塩干品中の挙動,「水産加工とタンパク質の変 性制御」,日本水産学会編,(恒星社厚生閣,東京), pp.81-88(1991). 2) 伊藤剛,北田長義,山田典彦,関伸夫,新井健一,スケ トウダラ塩漬肉を乾燥する際に起こる筋原線維タンパク 質の生化学的変化,日本水産学会誌,56,999-1006(1990). 3) 舩津保浩,伊藤祐佳子,川崎賢一,塩漬および乾燥工程 中のスケトウダラ魚肉のレオロジー的性質とミオシン重 鎖の変化に及ぼすソルビトールの影響,日本水産学会誌, 61(4),566-573(1995). 4) 南部正一,木内秀和,大石明美,北島徹,金子由公,新 井健一,乾燥によるスケトウダラ塩漬肉中の食塩とソル ビトール濃度増加が水分量と水分活性に及ぼす影響,日 本水産学会誌,65,748-756(1997) . 5) 木村進,乾燥食品とは何か,「食品と乾燥」,第1版(光 琳,東京),pp.1-19(2008). 6) 木村進,食品乾燥の基礎,「乾燥食品事典」,第1版,(朝 倉書店,東京),pp.19-27(1989). 7) 北原直,水産動物のカロテノイド代謝(サケ・マス類), 水産物のカロテノイド,日本水産学会編,(恒星社厚生閣, 東京),pp.78-89(1978). 8) 杉本昌明,冷凍冷蔵中における水産物の色調変化,食品 と低温,12, 137-142(1986) . 9) 岡崎惠美子,大村裕治,カロテノイドの関与する赤色魚 類の退色,食品と劣化,光琳選書,158-159(2003). 10) 増田知子,高橋是太郎,羽田野六男,産卵回帰シロサケ の加熱による筋肉色調の退色,日本水産科学工学会誌, 43,552-556(1996).
11) Zensuke Iseya, Satoshi Sugiura and hiroki Saeki, Effect of Curing with NaCl Solution on Drying Characteristics of Fish Meat and Its Textural Changes during Drying, Fisheries Science, 64,969-972(1998) . 12) Julian F V Vincent,The Quantification of Crispness,
J. Sci. Food Agric.,78, 162-168(1998).
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