IRUCAA@TDC : インターフェロン療法中のC型肝炎患者に血液検査の結果を考慮してインプラント治療を行った1症例
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(2) 日本口腔検査学会雑誌 第 5 巻 第 1 号: , 51-54 2013. 症例報告. インターフェロン療法中の C 型肝炎患者に血液検査の結果 を考慮してインプラント治療を行った1症例 原 俊浩 原歯科医院 抄 録 目的:重度歯周炎を伴うインターフェロン療法中の C 型肝炎患者に対し、血液検査の 経過をもとに全顎的なインプラント治療を行ったので報告する。 症例の概要:患者は 44 歳の男性。重度歯周炎による咀嚼困難を主訴により当医院を受 診した。初診時にはインターフェロン投与中であり、副作用により白血球数、血小板数が 著しく低くかった。投与終了後、白血球数、血小板数の回復を確認した後、抜歯および全 顎的なインプラント治療を施し、良好な経過が得られた。 結果および結論:重度歯周炎を伴うインターフェロン療法中の C 型肝炎患者に対し、 インプラントによる咀嚼機能の改善を得られることができた。血液検査の経時的変化を追 うことは観血的処置の時期決定に有用であることが示唆された。 キーワード:Chronic hepatitis C、Interferon therapy、Blood test、Dental implant 論文受付:2012 年 12 月 17 日 論文受理:2013 年 1 月 21 日 ジと下顎臼歯部の義歯を装着した。2010 年 8 月頃. 緒 言 現在では C 型肝炎の治療にインターフェロン療法 1). が用いられることが多い 。治療の過程では白血球数、 2). 血小板数の低下をきたすこともあり 、観血的な歯. から、上顎前歯のブリッジに動揺が出現し、2011 年 10 月頃には上顎歯牙の動揺による咀嚼障害が起こっ た。2011 年 12 月に当院を受診した(図 1)。. 科治療は慎重を要するとされる。そこで今回、重度 歯周炎を伴うインターフェロン療法中の C 型肝炎患. 既往歴:2005 年より C 型肝炎のインターフェロン治. 者に対し、全顎的なインプラント治療を行った1症. 療を開始するも血小板数低下のため中止と再投与を. 例について報告する。. 繰り返す。2010 年 10 月に脾臓を摘出し、2011 年 4 月から 2012 年 3 月までインターフェロンの継続. 症 例. 投与。初診時の血液検査値を表 1 に示す。. 患 者:44 歳、男性。 初診日:2011 年 12 月 20 日。. 口腔内所見:口腔内清掃状態は悪く、上顎前歯のブ. 主 訴:上の歯がグラグラして硬い物が咬めない。. リッジの動揺度は 3 度であった。全顎的に重度の辺. 現病歴:2000 年頃歯周病にて 17、27 を抜歯するも. 縁性歯周炎に罹患し、歯周ポケットが 4mm 以上の部. 放置。2005 年 3 月に 21、36、37、45、46、47 を. 位が多数みられた(表 2)。. 歯周病にて抜歯。同年、他院にて上顎前歯部ブリッ *:〒 190-0004 東京都立川市柏町 4-52-9 TEL:042-536-0875 FAX:042-536-1070 e-mail:[email protected] 51.
(3) 原 俊浩 インターフェロン療法中の C 型肝炎患者に血液検査の結果を考慮してインプラント治療を行った1症例. 表 1 初診時の血液検査のデータ. 検査項目 白血球数 赤血球数 血色素量 ヘマトクリット値 血小板数 総タンパク アルブミン A/G 比 AST ALT LDH ChE BUN クレアチニン HCV 抗体. 検査値 2700 / μ L 308 × 104 / μ L 11.1 g/dL 33.8 % 6.3 × 104 / μ L 7.1 g/dL 3.1 g/dL 0.78 133 IU/L 101 IU/L 369 IU/L 120 IU/L 9.8 mg/dL 0.71 mg/dL 陽 性. エックス線所見:パノラマエックス線写真(図 2)な. 治療経過:インターフェロン投与終了後、経時的に. らびにコーンビーム CT において辺縁性歯周炎による. (2 週毎)血液検査を行いながら経過観察したところ、. 透過像が多数歯に渡りみられた。顎骨内には顎骨内. 約 2 ヶ月後に白血球数 5000/ μ L、血小板数 12.4 ×. 病変の所見はみられなかった。. 104/ μ L であったため(表 3)、保存不可能な歯の抜 去を行った。次いで TBI、スケーリング・ルートプレー. 診 断 お よ び 処 置 方 針:16、15、14、13、12、11、. ニングも行った。抜歯後の止血はコラーゲンスポン. 22、23、24、25、26、31、32、33、34、35、. ジを挿入しマットレス縫合、圧迫止血を施した。後. 41、42、43、44、広汎性重度慢性歯周炎、17、21、. 出血や感染はみられず経過は良好であった。. 27、36、37、45、46、47、欠損。義歯による治療. 抜歯後 2 ヶ月後に上顎の埋入手術を行った。埋入. とインプラントによる治療の利点・欠点を説明した. は前歯部と臼歯部の 2 回に分けて行うこととした。. ところ、患者は強くインプラント治療を希望された。. 切開、フラップは愛護的に最小限の範囲とした。ド. しかしながら、初診時の白血球数が 2700/ μ L、血. リリングは注水下で行い、回転数は 800rpm 以下で. 4. 小板数も 6.3 × 10 / μ L と低値であったため、抜. 行った。水平マットレス縫合と単純縫合、圧迫にて. 歯やインプラント埋入などの外科的処置には問題が. 止血を行った。下顎の埋入も左右の 2 回に分けて埋. あると判断した。従って、インターフェロン治療終. 入した。投薬はセフェム系抗菌剤を術前より投与し、. 了後に血液検査値を考慮したうえで上顎には 9 本を. 術後 1 週間まで処方した。解熱消炎鎮痛剤は術後に. 支台とした全顎に及ぶボーンアンカードブリッジを、. 頓服により処方した。. 下顎両側大臼歯部にはインプラントの連結冠を計画. 免荷期間の 3 ヶ月が経過した後、印象採得、試適. した。. を行い最終補綴物を装着した(図 3、4)。. 図 1 初診時の口腔内写真. 52. 図 2 初診時のパノラマ X 線写真.
(4) 日本口腔検査学会雑誌 第 5 巻 第 1 号: , 51-54 2013. 表 2 初診時の歯周組織検査. と述べている。今回の症例は、インターフェロン投 考 察. 与中では血小板数 6 × 104/ μ l であったが境界域と. 今回、C 型肝炎に罹患した患者のインターフェロン. 判断したため、インターフェロン療法が終了し、血. 治療後に白血球数、血小板数の回復を待ってインプ. 小板数が 12.4 × 104/ μ l となった時点で観血的処置. ラント治療を行い、良好な経過を得た。C 型肝炎患者. を行った。また、手術部位を小範囲とし、数回に分. 3). は国民の 1 ~ 2% が罹患していると推定され 、歯科. けて埋入手術を行ったことも、止血困難や術後出血. 外来に肝機能障害を有する患者の受診率は 11.1%と. を避けられた要因と考えられた。. 4). 報告されている 。. 白 血 球 数 減 少 と 抜 歯 に 関 し て は、 小 島 ら 8) は. インターフェロン治療は免疫機能を利用した治療. 2000/ μ L 以下については骨膜炎、骨髄炎等の局所. であり、副作用として白血球数、血小板数等が減少. 的感染や菌血症、敗血症などの全身的感染に対して. 2). する 。C 型肝炎患者の歯科領域における観血処置に. 慎重を要すると述べている。今回の症例では、イン. 関しては、出血傾向、易感染性に注意すると漠然と. ターフェロン治療中では白血球数 2700/ μ L であっ. したものであり、明確な数値の記載は見当たらない。. たため、抜歯や埋入は行わず、インターフェロン治. 一般医科における血小板減少に起因する出血傾向を. 療後に白血球数が 5000/ μ L に回復するのを待って. 示す患者での外科手術に際しては、大量出血を伴う. から埋入手術を行った。さらに、手術範囲を小範囲. 4. 症例でない場合には、血小板数が 5 × 10 / μ L 以上. にし、数回に分けて埋入したことや、抗菌剤を術前. あれば特に術前処置を必要としないで手術可能とさ. に投与したこと、確実な縫合などが術後の感染を回. 5). れている 。歯科領域においては、血小板数が 5 × 4. 10 / μ L 以上であれば抜歯前に血小板増加措置の必 6). 要性はないとの報告もあり 、小田ら. 7). 4. 避でき、経過を良好に導いた要因と考えられた。 本症例ではインターフェロン治療が奏効し HCV. は 3 × 10 /. 抗体が陰性となったものの、ALT、AST がそれぞれ. μ L 程度でも局所止血処置のみで抜歯が可能である. 96IU/L、124 IU/L と高値であり、ChE158IU/L、ア. 図 3 上部構造装着時の口腔内写真. 図 4 上部構造装着時のパノラマ X 線写真. 53.
(5) 原 俊浩 インターフェロン療法中の C 型肝炎患者に血液検査の結果を考慮してインプラント治療を行った1症例. 表 3 インターフェロン治療後の血液検査. 検査項目 白血球数 赤血球数 血色素量 ヘマトクリット値 血小板数 総タンパク アルブミン A/G 比 AST ALT LDH ChE BUN クレアチニン HCV 抗体. 検査値 5000 / μ L 403 × 104 / μ L 15.1 g/dL 43.3 % 12.4 × 104 / μ L 6.9 g/dL 3.5 g/dL 1.03 96 IU/L 124 IU/L 209 IU/L 158 IU/L 17.9 mg/dL 0.95 mg/dL 陰 性. ルブミン 3.5g/dL も低値を示していたことからも、. 参考文献. 肝硬変に移行していることも考えられ、易感染性も. 1) 西口修平、山本晃久:肝癌治療後の抗ウイルス療法、医 学のあゆみ、229:111-115、2009 2) 平松直樹、林 紀夫:高齢者 C 型肝炎に体するペグイ ンターフェロン・リバビリン併用療法、医学のあゆみ、 229:71-76、2009 3) 井村裕夫:わかりやすい内科学、第 2 版第 3 刷、分光堂、 東京、509-513、2002 4) 矢島安朝:インプラント治療と臨床検査、口腔検査誌、 1:3-6、2009 5) 池田康夫:他科から頼られる血液内科、血液疾患のとら えかた、第 1 版第 1 刷、分光堂、東京、266-267、2011 6) 矢郷 香、臼田 慎、酒向 淳、岡田 豊、中川種昭、 朝波惣一郎:突発性血小板減少性紫斑病患者の抜歯にお けるγ - グロブリン大量療法の検討、日口外誌、52:629633、2006 7) 小田有紀子、宇佐美雄司、各務秀明、新美直哉、重冨俊雄、 上田実:突発性血小板減少性紫斑病患者の抜歯に置ける 止血処置の検討、口科誌、49:256-259、2000 8) 小島正彰、榊原惇郎、原 康司、加納欣徳、梅村長生: 急性骨髄性白血病患者の抜歯における血液所見の変化、 日有病誌、11:47-51、2002 9) 西田次郎:臨床のヒント Q&A 内科系 肝臓疾患のある 患者に対する歯科治療上で注意すべき点、知っておくべ き点について教えてください、歯科学報、110:41-42、 2010 10)今井智子、北川 昇、佐藤裕二、山口麻子、桑澤実希:補 綴治療が無歯顎者の咀嚼機能に与える影響、Dental Med Res、31:143-150、2011. 予測された 9)。腎機能を評価する BUN、クレアチニ ンが正常値範囲内であったため、腎代謝のセフェム 系抗生剤を術前から術後 1 週間投与したこと、入念 な術前の口腔内清掃が、ALT、AST が高値を示したに も関わらず術後の感染を回避できた要因と思われる。 インプラント治療は顎骨に支持を得ることから、 高い咀嚼回復能を有しており 10)、患者の QOL を一層 高める治療である。しかしながら、治療の過程では 観血的処置が必要であり、全身疾患を有する患者に は慎重に行う必要がある。今回の症例は C 型肝炎を 有する重度の歯周病患者であり、インターフェロン 治療により白血球数、血小板数が減少したことや肝 機能の悪化により、歯周病の重篤度が増したと思わ れる。患者の希望と QOL の観点からもインプラント 治療を行ったが、血液検査の経過を追いながら、埋 入時期や回数、術式を決定したことが咀嚼機能の回 復を問題なく得られた要因の一つと考えられた。 結 論 C 型肝炎のインターフェロン治療による白血球数、 血小板数の減少を伴う患者のインプラント治療の一 例を経験した。このような副作用により観血的処置 が困難とされる症例において、血液検査値の経時的 変化を追うことは観血的処置の時期決定に有用であ ることが示唆された。. 54.
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