• 検索結果がありません。

図書館はどうみられてきたか : 日本のミステリと図書館員--東野圭吾・法月綸太郎のケースについて

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "図書館はどうみられてきたか : 日本のミステリと図書館員--東野圭吾・法月綸太郎のケースについて"

Copied!
25
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)図書館 はど うみ られて きたか 日本 の ミステ リと図書館員――東野圭吾・ 法月綸太郎のケースについて. 佐. 藤. 毅. 彦. は じ め に ひ とつ ひ とつ の図書館 の実態 が 同 じで はな いよ うに,図 書館 とい う言葉 か らイメ ー ジされ る ものにつ いて も,そ れを受 け とめ るがわ の個人 ,ひ と りひ と りによ って異 な って い る。今 日,図 書館 には,資 料 の利用者 ,資 料 の生産 者 で あ る小説家・ 研究者 な どの著作者 ,図 書館職員 (正 規 )は もちろん,非 正規職員 (嘱 託 , パ ー トタイ ム勤務者 な ど), 出版・ 流通 関係者 , 図書館学 教育・ 研究者 ,ボ ラ ンテ ィア,な どさまざまな立 場 か らかかわ りを もつ人 た ちが 存 在 して い る。 そ う した 多 くの人 た ちが 図書 館 に つ いて 考 えて い るイ メー ジ は,決 して一 様 な もので はない。 た とえば図書館 での資料 の選択 ひ と つ と って も,あ ま リー般 には売 れな さそ うな本 で も,全 国 の図書館 が一冊 ず つ で も購入 して くれ ることによ って,出 版不況 の克服 , さ らには出版業 とい う文化事業 自体 の衰退 を防止 す ることにな るので はないか との思 い込 みが あ るよ うだ1)。. こ うした図書 館資料 の選択 の問題 だ けでな く, 現在 図書館界 で. 話題 にな って い る,電 子図書館構想 ,専 門職制度 ,ボ ラ ンテ ィアな どをめ ぐ る論議 も,「 自身 の考 えてい る図書館 のイメー ジこそ, 図書館 関係者 の大多 数 に共通 す る もので あ る。」 とい う思 い込 み を背景 に して な されて い る感 が あ る。 まず,議 論 の前提 と して,図 書館 のイメー ジやそ こに期待 され る機能 が多様 な もので あ ることを,認 め ることが必 要 なので はないか。 図書館 の イメ ー ジを形成 す る要素 と して は,実 際 の利用体験 や職業 を通 じ ての関 わ り以外 に,メ デ ィアに登 場 した図書館 が どのよ うに描 かれて いたか.

(2) 156. 図書館 はどうみられてきたか. によ って,個 人 の感覚 が影響 を受 けて い ることが考 え られ る。 と くに図書館 を あ ま り利 用 して いな い人 た ちや,過 去 に利 用経 験 はあ る もの の最近 で は め ったに図書館 へ行 か な くな って しま った人 たちに と って, メデ ィアの もつ 意 味 は大 きい。 この場合 メデ ィア とい って も多岐 にわた るが,新 聞・ テ レビ な どの報道 ,小 説・ 映画・ テ レビ ドラマ な どの フ ィク シ ョ ンの作品,新 聞雑 誌 の広告・ テ レビ CM,な どが そ の主 な もので あ ると考 え られ る。 これ らの うち,映 画 に登 場 す る図書館 につ いて は,最 近刊行 された飯 島朋 子 の『 映画 の 中 の図書館』 に図書館 や図書館員 の関係す る映画 の リス トと内 の 容 の分析 が掲載 されて い る 。 また, こ う したテ ーマ に継続 的 に取 り組 んで い る市 村省 二 の見解 が, イ ンタ ビューに答 え る形 で『 TRCほ んわかだ よ り』 に発表 されて い るの。 さ らに,近 年 の『 図書館雑誌』 には東史 「映画 の図書 。 館・ 図書館 の映画」 が,不 定期 に連 載 されて い る 。 筆者 は,い くつ か の領域 か らこう したテ ーマヘ のアプ ロー チを試 みて きた が5),. 今 回 は 日本 の ミステ リと図書館 との関係 につ いて, 作 品 の 中 で 図書館. や 図書館員 を登場 させて い ることが比較 的多 い,東 野圭吾 と法 月綸太郎 を と りあげ,そ の作品 と図書館 の関係 につ いて,図 書館員 の描 かれか たを 中心 に 論 じる。. 日本 の ミステ リ作家 と図書館 日本 と比 較 して,「 英米 の推理小説 を読 んで い ると, 登場人物 が ご く自然 に公共図書館 を利用 す る場面 が 多 い。」 ことを長谷部史親 は 『 推理小説 に見 る古 書趣 味』 において指摘 して い る。 た とえば, レイモ ン ド・ チ ャ ン ドラー の『 大 いな る眠 り』 には, ロサ ンジェル スの私立探偵 フ ィ リップ・ マー ロ ウ が古書業者 を訪 ね る前 に「 ハ リウ ッ ドの公共図書館 に立 ち寄 って,初 版本 に 関 す る細 か い知識 を い くつ か 仕入 れ る。」 シー ンが あ る ことが例 と して あげ られて い る。英米 で は,司 書 の助力 で求 め る情報 を入 手 して い るのに対 して. ,. 日本 の推理小説 で 図書館 を利用す る例 が少 ない原因 と して「 日本 の図書館 は. ,.

(3) 佐. 藤. 毅. 彦. やや もすれば学術 的 な調査研究機 関 と して の機能 と,読 物 か ら漫 画, ビデオ. ,. CDな. どを貸 し出す機能 の二 極 に分化 して い る傾 向 が あ り,そ れ以 外 のた と. えば社会生活全般 に関す る情報提供機 関 と して の機能 が あ ま り期待 されて い ない。」 ことをあげて い る。 したが って 「 か りに図書館 へ行 って も,求 め る 情報 が得 られない とい う意 識 が定着 して い るために,は じめか ら一 般人 の眼 中 にないので あ る。小説 は社会 を映す鏡 で あ り, もしも作 中 の人物 が たまた ま近 所 の図書館 を訪 ねて,容 易 に情報 にアクセ スす る場面 を描 いた りす ると. ,. 現 実 味 が 薄 いな ど と酷 評 され か ね な い。」 と述 べ て い る. 1)。. さ らに,英 米 で. は情報 の公開が進 んで い ることや,図 書館 の整備状況・ 予算規模・ 専 門職員 の配 置 ,な どの点 にお ける違 いを指摘 して い る2)。 こ う した点 につ いて,実 際 に 日本 の場合 , ミステ リの書 き手 の側 はどの よ うな感覚 を も って い るのか。 ひ とつ の参考 と して,彼 らが, どの くらい図書 館 を利用 した体験 を も って い るの か,何 人 かの体験 が イ ンタ ビューを通 して 語 られて い る。 『 ミステ リを書 く!』 には 「 現代 を代表 す る 11人 の作家」 に対 す るイ ンタ ビュー が収録 されて い る3)。 子供 の時代 か らの読書体験 や作家 にな るまで の 経緯 な どにつ いて遮ゝれてい る中 で, と くに図書館 につ いて言及 してい る部分 は次 のよ うな もの で あ る。. ・ 馳周星 (1965年 ,北 海道生 まれ) 「 ミステ リに初 めて触 れたの は, 小学校 の とき, 図書室 にあ った江戸川 乱歩 の 『 少年探偵 団』 シ リーズ とか,(略 )学 校 の図書室 にあ る読 みたい もの はだいたい読 み倒 して。 (略 )そ れで, 町 の図書館 へ行 くよ うに な る と,ポ プ ラ社 の『 世界. SF全 集』 とか. (以 下 略 )」. ・ 京極夏彦 (1963年 ,北 海道生 まれ) 「 ミステ リ以外 は普通 の児童文 学―一 要 す るに小学校 の 図書室 にお いて あ るよ うな もの ですね。 それ はだ いたい読 み ま した。 ただ,よ く考 えてみ ると『 赤 い幼虫』 (乱 歩 『 幼虫』 の ポプ ラ社版 の タイ トル)が 図書室 に置.

(4) 図書館 はどうみ られてきたか. いてあ るの は,お か しいよね。」 ・ 法月綸太郎 (1964年 ,島 根県生 まれ) 「 一 番覚 えて い るの は, 中島河太郎 さん の 『推 理 小説 の読 み方』 とい う 本 が 中学校 の図書室 にあ って, それを何 回 も借 りて読 んで いた。 (略 )中 学以 降 に クイ ー ンおた くに な ったんで す が,(略)た だ, 地元 の図書館 で 八 割 方借 りて読 ん で た もん で,翻 訳 ミステ リと い うの は新刊 の ハ ー ドカ バ ーの ほか は創元 の文庫 しかなか ったん です。」 ・ 山 口雅也 (1954年 ,神 奈川県生 まれ) 「小 学校 5年 の 頃 だ った と思 いますが,例 によ って ポプ ラ社 の江戸川乱 歩 の全集 が学校 の図書館 にあ って一― 正確 なネ ー ミングは『 明智小 五 郎全 集』 だ ったか な,一 ― それが最初 の ミステ リとの 出会 いで す。 (略 )子 供 向 け のルパ ンや ホ ームズを読 んで,そ れか らあかね書房版 の推理小説全集 が,小 学校 で はな く市立 の児童図書館 にあ ったの を見 つ けて, これ は ジュ ヴナイ ル なんだ けど,そ の手 の全集 と して は,非 常 に優 れ た ものだ ったん です。」 ・ 綾辻行人 (1960年 ,京 都府生 まれ) 「小学校 四年生 の終 わ り頃,ポ プ ラ社 か ら出 て いた怪盗 ル パ ンシ リー ズ の 『 奇巌城』 と少年探偵 団 シ リーズの 『 妖怪博士』, この二 冊 を ほぼ 同時 に読 んだんで す。買 って読 んだわ けで も図書館 で借 りて読 んだわ けで もな く,(略)そ れ まで は, マ ンガ以外 の本 を読 む といえ ば SFで した。 学校 の 図書 室 に子 供 向 け の SFシ リー ズが あ って,そ れ で『 宇 宙 戦争』 とか 『 地球最後 の 日』 とか い った作 品 を読 んで いた記憶 が あ ります。」 ・ 井上夢人 (1950年 ,福 岡県生 まれ) 「僕 は, 小学校 の 頃 が一 番本 を読 んだん じゃな いか と思 うんで す。 児童 図書館 の棚 はほとん ど全 部読 んだ とい う記憶 が あ って (以 下 略 )」. ま た『 ニ ュ ー ウ ェ イ ヴ・ ミス テ リ読 本』 で は,18人 の 作 家 に イ ン タ ビュー して い るが,そ の うち の 4人 の作 家 が 図書 館利 用 に つ いて応、れ て い.

(5) 佐. 藤. 毅. 彦. る4)。 この よ うな発 言 に現 れて い るよ うに,学 校 の図書館・ 図書室 や公立 の図書 館 な どの利用体験 を語 って い る作家 が あ る程度存在 して い る。 イ ンタ ビュー の対象 にな って い るのが,現 在活躍 して い る作家 とい う ことで 30∼ 40代 が 多 く, その年齢層 が少年 で あ った時期 (1960か ら 70年 代 )は , 日本 の図書 館状況 が整 備 されて い った時代 で もあ った5)。 現在 の よ うに, 多 くの 自治体 で 図書館 が つ くられ,利 用者 の要求 に対応 したサ ー ビスを展 開 して いた わ け で はないが,公 共 図書館 を は じめ とす る図書館 サ ー ビスの改善 が,東 京 を中 心 とす る都市部 か ら周辺 へ波及 して い ったの が この ころで あ る。 これ まで, フ ィク シ ョンの 中 での図書館 の描写 が話題 にな った ケ ースに は. ,. 図書館 にお ける個人 の プ ライバ シーの扱 いに関係 した ものが多 い。登場人物 が,図 書館 で何 を利用 して いた (し て い る)か ,を 調 べ ることが ス トー リー の展 開 に関与 してお り,そ の場合貸 出方式 がそ う した ことを可能 にす る もの で あ る ことを前提 に話 が進 め られて いた。1960年 代後半 か ら 70年 代 にか け て, と くに市 町村立 図書館 で は,個 人貸 出冊数 が増大 して い くとともに,貸 出方式 も変化 してお り,作 者 自身 の図書館利用体験 を参考 に した ものには. ,. 現 実 の 状 況 と異 な る部分 が生 じて いた. 6)。. さ らに図書 館 界 で は,1979年 の. 「 図書館 の 自由 に関す る宣 言」 改訂 で, 利用者 の プ ライバ シー に関す る条項 が主 文 の ひ とつ に加 え られたよ うに,プ ライバ シー につ いて一 定 の配慮 を必 要 とす る ことが,共 通認識 と して広 ま りつつ あ った。先 にあげたケ ース は. ,. 利用体験 か ら受 ける図書館 のイメー ジ と,図 書館 の実態 との間 にギ ャップが 存在 して いた ことを示 す事例 であ るといえ よ う。. 東野圭吾 と図書館 東野圭吾 は,1958年 ,大 阪府生 まれ。『 放課後』 で 1985年 ,第 31回 江戸 川乱歩賞 を受 賞 して以 来 ,長 編・ 連作短編・ 短編集・ エ ッセ イ集 な ど,あ わ せて, 40点 あま りの単行書 を刊行 して きて い る。 1998年 に刊行 された 『 秘.

(6) 図書館 はどうみ られて きたか. 密』 は第 52回 日本推理作家協会賞 を受賞 し,広 末涼子主演 で 映画化 され た。 1)。 また,1999年 に刊行 された『 白夜行』 は各書評 で絶賛 されて い る 作風 が. ヴ ァラエ テ ィに富 む ことで も知 られ,多 様 な傾 向 の作品 を発 表 して い るが. ,. デ ビュー以来 い くつか の作 品 にお いて,図 書館 や図書館 を利用 す る人 物 を登 場 させ て い る。彼 の作風 同様 ,そ の作 品 の 中 に登 場 す る図書 館 も ヴ ァラ エ テ ィに富 んだ ものにな って い る。 東野圭吾 の作 品 に登 場 す る図書館 と図書館 を利用す る人物 ,利 用 目的 につ いて簡単 にまとめ ると次 のよ うに な る。 (長 編 ). ・『学 生街 の殺人』 女子大生 が, 昔 の新聞 を見 るために利用す る。 図書館員 との対話 あ りの。 (後 述 ) ・『 魔球』 野球部員 の高校生 が, 学校図書館 に受験参考書 を返 却 に行 く。 時 代 は,1964年 。図書館員 との対話 あ りの。 (後 述 ) ・『 香子 の夢』 24歳 のパ ー テ ィー・ コンパ ニ オ ンが,美 容院 にい くつ いで に 。 中野図書館 を利用 ,三 年前 の事件 につ いて縮刷版 で調 べ る 。 ・『 十字屋敷 の ピエ ロ』 化学専攻 の大学院生 が, 大学 の図書館 に電話 して の 鑑識 の本 はあ るか,そ れ に指紋 の取 り方 は載 って い るか,聞 く 。. ,. ・『 変身』 産業機械 メーカ ーの工 場 に勤 め, 系列 の専門学校 に通 って いた人 物 が,事 故 によ り脳 の手術 を受 ける。 その人 物 が,図 書館 に行 って,脳 や 6)。. 精神 に関す る本 を借 りる. ・『 同級生』 野球部 マ ネ ー ジ ャーの女子高校生 が, 春休 み 中, 学校 の図書室 を利用す る7)。 ・『 分身』 女子大生 が, 自分 の 出生 の事情 につ いて調 べ るため, 父 の 出身大 の 学 で卒業生 の名簿 を調 べ る。図書館員 との対話 あ り 。 (後 述 ) ・『 むか し僕 が死 んだ家』 文学部卒 の女性 で, 現在 は専業 主婦 の人物 が, 昔 の恋人 が書 いた文章 の載 った雑誌 を図書館 で読 むの。 ・『 虹 を操 る少年』 天才的 な人物 が, 中学生時代 に一 日一冊 の ペー スで本 を 読破 す る。父親 の書棚 の もの を読 み尽 くし,図 書館 へ行 って借 りて くるよ.

(7) 佐. 藤 毅 彦. うにな る10)。 ・『 悪意』 本 なんか全 く読 まな い人物 が, 自分 の 同級生 が 関係 した事件 につ いて調 べ るために図書館 を利用 す る。 図書館 に行 ったの は初 めてで,緊 張 す るlD。 ・『 名探偵 の呪縛』 作家 が, 訪 れた図書館 で別世界 に迷 い込 み事件 に巻 き込 まれ る12)。 (後 述 ) ・『 秘密』 自動車部 品 メーカー生産工場 の班長 が, 交通事故 に遭遇 した妻 が 脳 に変調 を きた した原因 を探 るため,図 書館 を訪 問す る。娘 の担任教 師 と 出会 う。図書館員 との対話 あ・ り. )。. (後 述 ). ・『 私 が彼 を殺 した』 タク シーの運転手 が, 目的 の場所 が 図書館 の近 くで あ ると発言 す るИ)。 ・『 白夜行』 ① 西長堀 の (大 阪市立 )中 央 図書館。 高校生 の登場人 物 が,何 度 か利用経験 が あ る。夏 な どは, 自習室 を使 お うとす る受験生 で,入 り回 に列 がで きる こと もあ る。 時代 は,1979年 ごろ。② 中之 島 にあ る (大 阪 ) 府立 図書館。大学生 の登場人 物 が,新 聞 の縮刷版 を調 べ る。 時代 は,1980 年 ごろ。③ 近 鉄布施 駅 の北 側 にあ る図書館。小学 生 時代 の主要 な登 場人 物 たち遮、た りが い っ しょに利用 ,本 を借 りる こと もあ った。時代 は,1973 年 ごろ。警察 が捜査 に訪 れ 図書館員 と対話 す る15)。 (③ は後述 ) (連 作短編 ). ・『 浪花少年探偵 団 2』. ヒロイ ンの小学校教 師 が, 図書 の時間 で,学 校 図書. 館 を利用 して い る。学校 図書館 は児童 書 につ いて は充 実 してお り,新 聞 の 縮刷版 も所蔵 して い る“)。 ・『 探偵 ガ リ レオ』登場人物 がのひ と りが声 の ボ ラ ンテ ィア活動 を して い る。 目の不 自由 な人 の ために図書館 で貸 し出す,本 の朗読 テ ープを吹 き込 む仕 事。専門 の トレー ニ ングを受 けなければな らな い17)。 これ らの作 品 の 中 で 描 か れ て い る図書 館 は,学 校 図書 館 生』『 浪花少年探偵 団. 2』. (『. 魔 球』 『 同級. ),大 学 図書館 (『 十字屋敷 の ピエ ロ』『 分身』)で あ. ることが は っ き りと示 されて い る もの以外 は,公 共 図書館 で あ ると思 われ る。.

(8) 図書館 はどうみ られてきたか. 利 用 して い る の は,学 生 や 知 的 職 業 に つ い て い る人 物 が 多 い が,パ ー テ ィー・ コ ンパ ニ オ ン 工場労働者. (『. (『. 香子 の夢』),利 用経験 が全 くない人 物. (『. 悪意』),. 変 身』 『 秘 密』)な どが 利 用 して い る例 もあ る。 た だ 最 後 の. ケ ースで は,系 列 の専門学校 に通 う. (『. 代 に 自習室 で受験勉 強 した ことが あ る. 変身』),生 産 工 場 の班長 で, 高校 時. (『. 秘密』)な ど,単 な るブルーカ ラー. 労働者 とは言 い切 れ ない設定 にな って い る。 図書館 を利用 す るの は,何 か 目的 の もの や資料 が あ り,図 書館 で調 べ るこ とによ つて課題解決 のための資料・ 情報 を入 手 しよ うと して,で あ るケ ース が多 い。現在 の公共図書館 を利用 して い る人 たち の主 な 目的 の ひ とつ で あ る. ,. 娯楽 のための読物 や新 聞・ 雑誌 を利用す るケ ース は,主 要 な登 場人物 の利用 形態 と して はでて いない。『 むか し僕 が死 んだ家』 で は, 主婦 が雑誌 を利用 して い るが, この場合 もは じめか ら目的 の ものが は っき り決 ま って い る。 そ う した中 で 図書館員 が登 場 し,主 要 な登 場人物 と会話 を交 わ した り,ス トー リー展開上 ,一 定 の役割 を果 た して い るの は次 の作 品 で あ る。 ・『学 生街 の殺人』1の 図書館 を利用 した女子大生 が,翌 日遮ゝたたび図書館 を訪 れ ると,前 日彼女 が調 べ た 内容 につ いて, 警察 が捜査 に来 た ことを知 らされ る。「 リフ ァ レン スの女 の人 が教 えて くれ たの よ。 あた しが コ ピー した ペ ー ジを,そ っ くりそ の まま コ ピー して くれ って いわれた って。」 図書館員 が警察 の要請 に ど う対応 したか は,明 示 されて いないが, は っ き り断 った とは書 かれて いないので, コ ピー に応 じた ので はな いか と思 われ る。 なお, 前後 の文章 か ら, この利 用 が大晦 日の直前 (12月 29日 と 30日 )に な され た ことが わか るが,年 末年 始 (12月 28な い し 29日 か ら 1月 3な い し 4日 まで)は ,ほ とん どす べ ての図書館 は完全 に休館 してお り,実 際 には 起 こ りに くい状況 で あ るといえ る。 ・『 魔球』19). 1964年 当時,高 校 生 の野 球部 員 が,貸 出期 限 を過 ぎた受験 用 の参 考書 を 図書館 に返却 に行 く。「 図書館 の事務員 は, 三 角形 の眼鏡 をか けた 『 ヒス』.

(9) 佐. 藤. 毅. 彦. とい う渾名 の女性」 で あ る。期限 に遅 れて い ることを知 ると「例 によ って 目 尻 を つ りあげた」 が,同 じ野球部員 だ った人物 の借 りたままに な って い る図 書館 の本 2冊 を, 家 まで取 りに行 って くれ るよ う依頼 す る。「黄 色 いカー ド を二 枚」 使用 してお り,「 貸 出者 の氏名 が書 いて あ る」 とあ ることか ら,一 部 の学校 図書館 に現在 で も残 って い る, ブ ックカ ー ド式 の貸 出方式 であ ろ う と思 われ る。 こ う した対応 は異例 の ことだ し,本 来 は図書館員 が 直接 問 い合 せ す べ き ことで あ る。 しか し,時 代 的 には 1960年 代半 ば に設定 されてお り ,. 学校 図書館 での利用者 の プ ライバ シーの扱 いにつ いて は,現 在 で も重視 され て い るとは言 いが たいので,い ちが いに リア リテ ィに欠 け る描写 とは言 えな い。 ・『分身』20) 女子大生 が,出 生 の秘密 を知 るため,父 親 の 出身大学 へ行 く。「 図書館 は. ,. 私 の通 う大学 な ら大講堂 に見 え るので はな いか と思 え るほど,立 派 で荘厳 な 雰囲気 を備 えて い た。 中 は博物館 のよ うにひ っそ りと して い る。」 三 階 の特 別閲覧室 には本 は一 冊 もな く, 机 と椅子 だ けが並 んで いた。「部屋 の隅 に. ,. 係員 らしき若 い男性 が一人 い るだ けで, 閲覧者 は他 にはいない。」 そ の男性 の図書館員 は,主 人公 の女性 が,ア マ チ ュアバ ン ドのでて い るテ レビ番組 の 出演者 にそ っ くりだ と発 言 す る。彼 は,求 め られた資料 で あ る「分厚 い フ ァ イ ル」 を提供 した後 ,「 それ に して も似 て る。 僕 は気 に入 った女性 の顔 は. ,. 一 度見 た ら絶対 に忘 れないんだ けどな。」 と呟 いた。 「若 い男性 の図書館員」 とい うの もめず らしいが, か な リナ ンパ な発言 を して い るとい う点 で も,東 野圭吾 の作品 の 中 で,例 外 的 な存在 であ る。 ・『 名探偵 の呪縛』 主人公 は,小 説家 で,現 在取 り組 んで い るの は,核 ジ ャックに関す る小説 で あ る (東 野圭吾 に『 天空 の蜂』 とい う, これ に近 いテーマ を扱 った作 品 が あ る)。 図書館 の施設・ 設備 は「 白 い鉄筋 コ ンク リー ト製 の,素 気 ない建物 で あ る。 中央 図書館 , とい う名前 が つ いて い るだ けあ って,中 はやた らと広 い。 ただ.

(10) 図書館 はどうみ られてきたか. し蔵書数 は大 した ことがない。 それで もち ょ っ と した調 べ物 をす るには重宝 して い る。」 と紹介 され,館 内 は,「 玄関 を入 って す ぐの ところに貸 し出 しカ ウ ンターがあ って, その横 に,『 今 月 の人気書籍』 と書 いたパ ネ ルが立 て ら れて いた。貸 し出 しラ ンキ ングとい うわ けだ。 フ ィク シ ョ ンで は相変 わ らず ミステ リが多 い。 一応 ミステ リ作家 の看板 を上 げて い る身 と して は心 強 い こ とで はあ る。」 と描写 されて い る。 文芸書 の フ ロアには, 本人 の ほか に全 く 人 が いない。 そ う した館 内 の状況 につ いて「今更 なが ら,本 離 れを痛感 せ ざ るをえな い。夏 の真 っ盛 りになれば,冷 房 目当 て に図書館 を訪 れ る者 も増 え るだ ろ うが,そ れで も彼等 は雑誌 コー ナ ー に居座 った ままに違 いない。」「 こ れ ほど多 くの本 が 出版 され るの も,一 冊 一 冊 の本 が売 れな いか らにほか な ら ない。 出版社 は全 体 の売 り上 げを保 つ ために,多 種少量生産 の方針 を固 めて い るのだ。作家 が どん なに心 血 を注 いだ作 品 で あ って も,出 版社 と して はワ ンオ ブゼ ム に過 ぎな い。 どん なに優 れた作品 で あ って も,評 論家 が特 に取 り 上 げで も して くれ ないか ぎ り,瞬 く間 に大量消費 の波 に飲 み込 まれて しま う。 私 は書棚 の間 を さまよ いなが ら,墓 場 を歩 いて い るよ うな気 にさえな った。 21)。 そ うだ, ここは本 の墓場 なのだ。」 と述 べ られて い る. その図書館 の「 カ ウ ンター に は紺色 の カーデ ィガ ンを着 た,四 十歳 ぐらい の女性 が一人 い るだ けだ った。 やた ら粉 っぽ い化粧 を してお り,日 紅 の赤色 が浮 いて いた。」 そ して,本 格推 理小説 につ いて尋 ね ると,「 係 の女性 は明 ら か に描 いた もの と思 わ れ る眉 を ひそ め」少 し考 え てか らカ ウ ン ター を 出 て 『 文学』 コー ナ ーの 中 の,『 娯楽』 の棚 に案 内す る. 22)。. 「本 の墓場」 とい う表現 にいた る前 の数行 には, 東野圭吾 自身 の図書館 に 対 す る複雑 な感 覚 が凝縮 されて い るとも考 え られ る。 また,「 素気 ない建物」 「 中 はやた らと広 い」「蔵書数 は大 した ことが ない」「 ち ょっ と した調 べ もの をす るのに は重宝」 とい った箇所 は,最 近 の公共図書館 の特徴 が,部 分 的 に はかな り正確 にあ らわ されて い る。 ・『 秘密』23) 時代設定 は, 1985年 。 主要 な登 場人物 の ひ と りで あ る平介 は, あ る 自動.

(11) 佐. 藤 毅. 彦. 車部 品 メーカーの生産工場 で働 いて お り,一 昨年 か ら班長 を任 されて い る。 彼 は,交 通事故 に遭遇 した妻 の事故後 の状況 につ いて調 べ るために,図 書館 を訪 れ る。 図書館 の「 建物 は想 像 して いた以上 に立 派 だ った。 しか も新 しい。 な るほ ど 自分 たちが納 めて い る税金 は, こ うい うと ころに使 われて いたのか と,平 介 は改 めて認識 した。 だが これ ほど しゃれた建 物 にす る必 要 はないん じゃな いか, とも思 った。少 な くとも,誰 も見 向 き もしない中庭 や,価 値 があ るの か ど うか もよ くわか らな いオ ブ ジェ もど きの置物 は不 要 だ ろ うと感 じた。」 と描写 されて い る。 館 内 の状況 につ いて は,「 図書館 に入 るの は, 高校生 の とき以 来 だ った。 しか もあ の時 で さえ, 日当 ての本 を探 しに来 たので はな くエ ア コ ンの きいた 自習室 で友人 と受験勉強 をす るのが 目的 だ った。 つ ま り平介 と して は,本 来 の 目的 のために図書館 を訪 れたの は初 めて とい う ことにな る。 中 に入 ると. ,. 彼 は真 っ直 ぐに カ ウ ンターの ところへ行 った。 カ ウ ンター には二 人 の係員 が いた。 一人 は中年 の男性 で, もう一人 は若 い女性 だ った。」 とあ る。 彼 が. ,. 脳 に関す る本 につ いて尋 ね ると,女 性図書館員 が書架 まで案 内 して くれ る。 「 フ ロ ア は広 く,本 棚 が い くつ も並 ん で い た。 ど の棚 に も,分 厚 い書 物 が び っ しりと並 んで い る。 しか しそ の棚 の前 に立 って い る人 間 の数 は,驚 くほ ど少 なか った。 これが本離 れ とい う ことなのだな あ と平介 は思 った。」 も っ とも, 医学書 の コー ナ ー は,「 ほか の コー ナ ー には人 が少 なか ったが, ここ だ けは妙 に本 を探 して い る人 がた くさん いた。全員 が男性 であ り,風 貌 は違 え ど も,皆 恐 ろ しく頭 が よさそ うな顔 つ きを して い る。」 とされてい る。 結局 「脳 医学」 関係 の資料 を調 べ て も,必要 な情報 が得 られそ うになか っ たので,ア プ ロー チの視点 を変 えて,「 世 に も不思議 な話」の本 につ いて尋 ね ると,「係 の女性 は胡散臭 そ うな 目で彼 を見 た。」 そ して,娯 楽本 の コー ナ ー の奥 にあ ると紹介 し,「係 の女性 は遠 くを指差 した。 『 あ の奥 に,超 常現象 と い う コー ナ ーが あ って,. UFOだ. とか の本 も置 いて あ るはずです』 ど うや ら. 今度 は案 内 して くれ る気 はないよ うだ った。」 とい う対応 を して い る。 この.

(12) 166. 図書館 はどうみられてきたか. コー ナ ーで「 憑依」 「 多重人格」 につ いて書 かれた資料 を平介 は読 んで い る。 その書架 の前 で, 娘 の担任教 師 と出会 い,「 こ うい うと ころに来 ると, な んか こ う妙 に緊張 しち ゃうんです よね。 肩 が凝 っち ゃ ったな あ。」 と言 う。 さ らに館 内 で の他 の利用者 につ いて「 で も,結 構居眠 り して る人 が い ま した ね。」 「平 日の昼 間 だ と,よ くサ ラ リーマ ン らしき人 が昼 寝 を してお られ ます よ。」 とい うや りと りが あ る。 図書館 に 「 自分 たちが納 めてい る税金」 が使 われて い ること,「 中庭」 や 「 オ ブジェもどきの置 き物」 は不要 で あろ う こと, な ど納税者 と して の公共 施設 に関す る率 直 な感覚 を表 明 した発言 が あ る。 また,高 校生 の時 は,エ ア コ ンの きいた 自習室 で友人 と受験勉強 した こと, この種 の場所 に来 ると「妙 に緊張」 し「肩 が凝 っち ゃう」 ことな ど,現 代 の成人利用者 が共感 を示 す と 思 われ るよ うな発言 もあ る。 さ らに,医 学書 の コー ナ ー以外 は人 が少 ない. ,. 平 日の昼 間 にはサ ラ リーマ ンが昼寝 を して い る,な ど利用状況 に関す る描写 もな されて い る。 図書館員 は カ ウ ンター に二 人 ,男 性 は電 話 中 で,女 性 の図 書館員 が登 場人物 の質 問 に対応 して い るが,書 架 に案 内す るのみで,質 問内 容 につ いて具体 的 にア ドバ イ スす ることはな い。 ・『 白夜行』24) 時 代 は,1973年 ごろ。近 鉄 布 施 駅 近 くの,小 さな灰 色 の 建 物 が 図 書 館 だ った, とあ る。 そ こにい る職員 は「 か つ て は文学少女 だ った ろ うと思 わせ る眼鏡 をか けた図書館員」 で,「 笹垣 (筆 者注・ 警察関係者 )は 西本雪穂 の 写真 を見 せ た。 彼女 は写真 を見 るな り,大 き く頷 いた。」 図書館員 は, 写真 の女 の 子 が 図書 館 を よ く利 用 して いて,た くさ ん 本 を借 りて いた こ とや. ,. 時 々男 の子 と一 緒 であ った ことを話 して い る。 さ らに男 の子 の写真 の見 せ ら れ,「 こ うい う感 じの子 で した。 は っ きりとは断言 で きませ ん けど。」 と言 っ て い る。 それ は「 自分 の意見 が何 かの決定力 を持 つ ことを恐 れた のか,図 書 館員 の回調 は慎重 だ った。」 とい う ことだが。 最近 の図書館事情 を反映 した もの と して,た とえば『 探偵 ガ リレオ』 で 障.

(13) 佐. 藤 毅 彦. 害者 サ ー ビスの ための朗読 ボ ラ ンテ ィアが と りあげ られて いたが,『 名探偵 の 呪縛』 『 秘 密』 で は,施 設・ 設 備 の特徴 や館 内 の状況 が 紹 介 されて い る。 『 名探偵 の呪縛』 で は 「 今月 の人気書籍」 とい った貸 出 ラ ンキ ングに相 当す る ものが館 内 に掲示 されて い ること,『 秘密』 で は平 日の昼 間 にはサ ラ リー マ ン らしき人 が昼 寝 を して い ること, な どが描 かれて い る。 館 内 は,「 文芸 書 の フ ロ アには全 く人 がいない」. (『. 人 間 の数 は, 驚 くほど少 なか った」. 名探偵 の呪縛』),「 棚 の前 に立 って い る (『. 秘密』)な ど利用者 が少 ない こと も述. べ られて い る (も っと も脳 医学 関係 の コー ナ ー は「 ここだ けは妙 に本 を探 し て い る人 がた くさん いた。」 とされて いる)。 利用経験 の少 ない人物 の意識 と して は,「 な ん だ か 緊 張 しち ま って ね」 (『 悪 意』)に 加 え て,「妙 に 緊 張 し ち ゃうんで す よ。肩 が凝 っち ゃ ったな あ。」 (『 秘密』)と い った コメ ン トが紹 介 されて いる。 図書館員 が登 場 して い る ものの うち 6編 中 5編 は女性 で あ る。 これ らの人 物 の外 見 につ いて は,「 三 角形 の 眼鏡 をか けた『 ヒス』 とい う渾名 の女 性」 (『. 魔球』),「 紺色 のカーデ ィガ ンを着 た四十歳 ぐらいの女性 (中 略)や た ら. 粉 っぽ い化粧 を して お り,日 紅 の 赤色 が 浮 いて いた。」 (『 名 探 偵 の 呪縛』), 「 か つ て は文 学 少 女 だ った ろ うと思 わせ る眼鏡 をか けた図書 館 員」 (『 白夜 行』),と い うよ うに描 写 され て お り,ス テ レオ タイ プの古 い図書 館員 を イ メー ジさせ る もので あ る25)。 利用者 のプ ライバ シーの問題 に関す る図書館員 の対応 につ いて は,警 察 の 捜査 に協力 し, それを利用者 に も告知す る たか ど うか の警察 の捜査 に回答 す る 他 の生徒 に教 え る. (『. (『. (『. 学生街 の殺人』), 利用 して い. 白夜行』), 他人 の貸 出状況 につ いて. 魔球』), な どは, 現代 の視点 か らみ ると配慮 に欠 ける. 対応 であ ると考 え られ る。 ただ,『 白夜行』 で は,単 行本 の後半 に出 て くる 場面 で はあ るが, 時代設定 は 1973年 ごろで あ り,『 魔球』 も 1964年 当時 が 舞台 で, しか も現在 で も十分 な職員体制 が と られて い るとは いえない,学 校 図書館 での話 で あ る。 利用者 の問 いか けに対 して,図 書館員 が どのよ うに応 じて い るか につ いて.

(14) 図書館 はどうみ られて きたか. は, 目的 の資料 を提示す る. (『. 分身』),資 料 の あ る書架 に案 内す る. (『. 名探偵. の呪縛』『秘密』), な どの対応 を して い るが, これ らはと くに図書館員 に専 門的 な知識・ 経験 が必 要 で あ ることを,明 確 に印象付 ける もの とは言 えない。 『 秘密』 で は, 脳 医学 につ いて尋 ね た際 は書架 まで案 内 して くれた の に, そ う した アプ ロー チで は必 要 な資料 が見 つ か らな いので,世 に も不思議 な話 の 本 につ いて尋 ね ると,胡 散臭 そ うな 目で 彼 を見 ,娯 楽本 の コー ナ ーの奥 を指 差す の みで,案 内 は して くれ ない, とい うよ うに,尋 ね る分野 によ って対応 に差 の あ ることが描写 されて い る。 なお,広 末涼子 主 演 の映画『 秘密』 で は. ,. 平介 が 図書館 を利用す る シー ンはあ るが,図 書館員 に相談 す ることな く,ひ と り図書館 内 の デ ス クで,「 憑依現象」 につ いて書 かれて い る資料 を読 み こ む描写 にな って い る。 こ う した作品全体 を通 して感 じられ るの は,図 書館員 につ いて,冷 淡 な見 方 を して い るとい って もいい くらいの描写 にな って い るとい う ことで あ る。 利用者 の質問 に対 して も,せ いぜ い 目的 の資料 の あ る書架 に案 内す る程度 で. ,. 専 門的 な知識 が発揮 されて い る対応 を してい るとは言 いがたい。 しか し,い ちが いに リア リテ ィに欠 けて い るか といえば,必 ず しもそ うで はな い。会社 員 の図書館利用 が,最 近増 えて い ることは事実 で あ ると して も,実 際 に利用 が少 ない図書館 も,曜 日や時間帯 によ って は, あ りえ ない話 で はない20。 プ ライバ シーの扱 いにつ いて も,少 な くと も ここにあ げ られて い るよ うな対応 は,現 実 ばなれ して い るとは言 い きれな い し,物 語 の舞台 とな ってい る時代 を考 えれば,な お さ らそ うで あ る。作品全体 を見 れば,か な りの程度 図書館 の実態 を理 解 してお り,む しろ これだ けの作 品 に図書館 を登 場 させて い るこ と 自体 が, 日本 の ミステ リの状況 か ら見 て異例 な ことと言 え よ う。. 法月綸太郎 と図書館 法月綸太郎 は, 1964年 , 島根県 生 まれ。 京都大学在学 中 に推 理 小説研究 会 に所属 し, 1988年 『 密 閉教室』 でデ ビュー。 長編・ 短編集・ ミステ リ評.

(15) 佐. 藤 毅. 彦. 論 な ど 10点 あま りを刊行 して きて い る。 この うち, 作者 と同名 の探偵・ 法 月綸 太 郎 は,長 編 に登 場 す る と と もに,連 作 短 編 集『 法 月 綸 太 郎 の 冒険』 『 法月綸太郎 の新 冒険』 で も探偵役 を して い る。 その 中 に,綸 太郎 の友人 で. ,. 区立 図書 館 司書 の「沢 田穂 波」 が登 場 す る作 品 が い くつ か あ る。彼 女 は. ,. 「綸太郎 が従来 か ら図書館司書 とい う存在 に対 して漠然 と抱 いて いた偏見 を. ,. い っぺ ん に打 ち破 って しま うよ うな女性 だ った (そ れが どん な偏見 で あ るか. ,. ここで は言 わ ない方 が いい と して も)。 」 と描写 されて い る. 1)。. この「 図書館 シ リーズ」 といえ る一連 の作 品 につ いて,法 月綸太郎 はイ ン タ ビュー に答 え る形 で「 貸 し出 し言 己録 か ら性格 を割 り出す とい うアイデ ィア が最初 にあ ったんで す。 あ るいは,本 を通 じた見 えないネ ッ トワー クを探 る とか。確 か にプ ライバ シーの問題 もあ るんだ けど,そ う じゃな い面 には未練 が あ りますね。」 と述 べ て い る。 (な お, このイ ンタ ビュー は 1996年 12月 に 行 われ た もので あ る ことが記 載 されて い る。)2)こ ぅ した発 言 の背景 にあ っ た事情 につ いて, 1995年. H月 に刊行 された文庫版 の『 法月綸太郎 の 冒険』. に,「 文庫版追記 『 図書館 の 自由』 をめ ぐって」 が掲載 されて い る3)。 文章 の前半 には,「 『 小説 CLUB』. (桃 園書房. )の. この. 1993年 3月 号」 に書 いた. エ ッセイがそのまま転載 され,『 法月倫太郎 の 冒険』 に収録 した 「切 り裂 き 魔」 の ス トー リー に関 して,大 学 で 司書課程 を と って い るの女性 の読者 か ら 手紙 が よせ られた ことが紹介 されて い る。 そ して,そ の手紙 で は,図 書館 は プ ライバ シーの保護 に万全 の注意 を払 って い って,本 が返 却 された時点 で記 録 は速 やか に抹消 され ること,部 外者 に安易 に利用記録 を見 せ る事実 はあ り えない こと,図 書館 にお けるプ ライバ シーの扱 いは,司 書職 の プ ライ ドに関 わ る問題 で あ ること,な どが書 かれて いた と述 べ られて い る。 法月綸太郎 は, これ に答 え る形 で,「 フ ィク シ ョンと リア リテ ィの問題 に か らめて言 えば, この部分 は物語 の設定 の一 部 であ って,そ れ抜 きで はフィ ク シ ョンが成 り立 たない。私 は月ヽ 説 とは も っと融通 が利 くものだ と考 えて い る。 したが って,で きあが った作 品 を ど う こ う しよ うとい う気 はない のだが. ,. それ と作 品 の外 で誤 りを認 め るの は, ま った く別 の ことで あ る。」 と主 張 し.

(16) 図書館 はどうみ られてきたか. て い る。 プ ライバ シーの問題 につ いて も考慮 は したが,館 長 の許可・ 立会 を 条件 に し,ま た,司 書 の資格 を持 っていて,高 校 の図書館 に勤務 した ことの あ る母親 も,こ の件 に関 して 何 も発言 しなか ったので,問 題 はな いのだ と 思 って いた, と述 べ て いる。 後半部 は,文 庫版 の あ とが きと して,新 たに書 かれた部分 で,文 庫 にす る 際 に当該箇所 を ど うす るか検討 は したが,結 局 ,元 の記述 を残 す ことに した ことを, まず書 いて い る。 しか し,「 この エ ッセイ (筆 者注・ 先 の前半部 に あた る)を 書 いた時点 で私 はま った く理解 して いなか った ことにな るが, こ れ は いわゆ る リア リテ ィ云 々の問題 で はない。『 図書館 の 自由』 とい う理念 を め ぐる問題 なので あ る。 そ して実情 にそ ぐわ ない記述 を残 した の は, この 問題 に関 して,ほ っか む りを しな いためだ とい うよ うに理解 して いただ きた い。」 と記述 して い る。 探偵・ 法月綸太郎 の登場 す る連 作 は,そ の後 も発表 され つづ けてお り,そ の 中 に は「 図書 館 シ リー ズ」 もあ る。 こ う した法 月綸 太 郎 の 作 品 の 中 で. ,. 「図書館 の 自由」 の問題 に関連 して, 図書館員 が どのよ うに描 かれてい るか を,発 表年代順 に検討 す る。 の (初 出 ・「 切 り裂 き魔 」. :『. コ ッ トン』 1990.4). 図書館 の蔵書 の扉 ペ ー ジが切 り取 られて い る事件 が発生 し,綸 太郎 が相談 を うけ る。磁気 コー ド方式 で蔵 書 を管理 して い る図書館 とい う設定 で,パ ソ コ ンに記録 されて い る過 去 3ヶ 月間 の館外貸 出 デ ー タか ら切 り裂 き犯人 を割 り出す。 ただ し, 利用者 の プ ライバ シーの問題 が あ るため,「 部外者 がみだ りに個人 の貸 出記録 に接 す ることは内規 で禁 じられて い るため,図 書館長 の 許可・ 立会 が必要 だ とい う。」 との記述 が あ る。 被害 に遭 った本 の書名 を全 て パ ソ コ ンに打 ち込 む と,デ ー タ検索 を命 じる操作 を して待 つ だ けで,入 力 され た本 を借 りた人物 を表示 す ることが可能 とな る, とい う設定 にな って い る。 また,捜 査 のため,綸 太郎 は司書 の穂波 に「被害 に遭 った本 を借 りた人 間 を,そ の冊数 の多 い方 か ら順番 に並 べ た リス トを呼 び出 して くれな いか?」 「松浦雅人 (筆 者注・ 図書館 の蔵書 の扉 ペ ー ジを切 り取 った人物 )の 館外貸.

(17) 佐. 藤 毅 彦. 出記録 か ら,書 名 の リス トを 呼 び 出 して くれ ないか? ふ だん 読 んで い る本 を見 れば, 彼 の人 とな りが想像 で きるか も しれな い。」 と依頼 し, そ う した 情報 がす ぐに リス トア ップされ るス トー リにな って い る。 これ はあ る個人 が 己録 が,返 却 した後 も消去 されな いで残 って 図書館 か ら借 りた本 につ いての言 い ることが前提 とな って初 めて可能 とな る もので あ る。 ・「過 ぎに し薔薇 は……」5)(初 出. :『 野生 時代』. 1992.7「 図書 館 綺談」 を. 改題 ) あ る利用者 が返却 した本 には,す べ て「 栞」 のよ うな紙片 が はさみ こまれ て い る。 司書 の穂波 は,「 ち ょっ とこれを見 て くれ ない」 とい って,倫 太郎 に相談 す る。 それ は「 この半月 の間 に,本 間 さん (筆 者注・ 紙片 を はさみ こ んだ人物 )が 借 りた本 の リス ト」 で あ り,「 本 当 は,個 人貸 出記録 を外 部 の 人 に見 せ た りしち ゃ行 けな いんだ けど, 事情 が事情 だか ら, 特別 にね。」 と 発言 す る。 さ らに「 穂波 は番号簿 の ペ ー ジを繰 って,近 在 の公立 図書館 に問 い合 わせ の電話 をか け」 質疑応答 を繰 り返 したあ と,「 尾 山台 と緑 が丘 , それ に奥沢 図書館 の三 ヶ所 か ら確認 を とったわ。詳細 は部外秘扱 いで,教 えて もらえ な か った けど, この二 週 間,本 間 さんが うち以外 の三 つの図書館 で も,全 く同 じ行動 を繰 り返 して い ることは確 かね。」 とい う言動 を して い る。 この 2編 は,『法月綸太郎 の 冒険』 に収録 されて い る ものだが,「 図書館 の 自由」 とい った概念 は,作 者 の念頭 には意 識 されて いなか った と考 え られ る。 もちろん 図書館利用者 の プ ライバ シーに対 して何 の配慮 も必要 ない と考 えて いた わ けで はな く,「外部 の」人 に見 せて いい もので はな い, とされてお り. ,. 「館長 の許可・ 立会 が必 要」「詳細 は部外秘扱 い」 な どの表現 には,一 定 の配 慮 が必 要 であ ると意 識 されて いる ことは示 されて い る。 文庫版『 冒険』 の あ とが きに紹介 された,読 者 か らの手紙 を受 け取 って以 降 に,初 出 が雑誌 に発表 された もの は,次 の よ うな内容 で あ る。 ・「背信 の交点」6)(初 出. :『 IN★. POCKET』. 1996.10). あ る事件 の背景 につ いて調 べ るために, 穂波 は,「 板橋 の図書館 の知 り合.

(18) 図書館 はどうみ られてきたか. い に頼 んで,品 野 道 弘 (筆 者 注・ 亡 くな った人 物 )の 貸 出記 録 を調 べ て も らったの。本 当 は図書館員 の倫 理 綱領 に反 す るんだけど,ま あ今回 は大 目 に 見 て もらって。」 とい う。 「 そ した ら,や っぱ リ ミステ リーを い っぱ い借 りて たんです って。全部 きちん と 目を通 したか ど うか は別 と して,貸 出 の冊数 を 聞 いた限 りで は, もの す ご く勉 強熱心 だ った みたい。」 と, 得意 げに報告す るの を聞 いて,綸 太郎 は半分 あ きれ た顔 にな り, じろ りと穂波 をに らみ つ け た, とあ る。 ここで も「 図書館員 の倫理綱領」 の存在 につ いて は言及 されて い るが,図 書館員 であ る穂波 の行動 はそれ にの っ とった もので あ るとは言 い が たい。 ・「 身投 げ女 の ブル ース」つ (初 出. :『 小説 す ば る』 1998.3・. 4). この 中 には,図 書館員 の沢 田穂波 は登 場 して いないが,警 察 の捜査 が 国会 図書館 に及 ぶ ス トー リー にな って い る。 あ る事件 の容疑者 三 好 明雄 (運 命鑑 定所 の秘書 で東大 出 の秀才 とい う設定 )が ,ア リバ イを述 べ る際 に,犯 行 の あ った時間 は国会 図書館 に行 って いた と主 張 し,「 国会 図書 館 で は入 館者全 員 に利用 申込書 を書 かせて,入 館 カ ー ドと引 き換 え る シス テ ム にな って い ま す し,館 内資料 を閲覧・ コ ピーす る時 も,資 料請求票 や複 写 申込書 を 出 さな ければな らな い。 よ く調 べ て もらえば,私 の筆跡 で住所・ 氏名・ 年齢・ 電話 番号 を書 き込 んだ 申込書 が,保 存 されて い るはずです よ。 それ らの記録 を照 合 すれば,私 が あ の 日の午後 ず っと,国 会 図書館 の中 にいた ことが証 明 で き るで しょう。」 と発 言 す る。警察 は,利 用 申込書等 を調 べ よ うとす るが,「 国 会図書館 が 内部書類 を見せ ることに難色 を示 して」 いて,そ れ は「利用者 の プ ライバ シーを守 ることを定 めた図書館協会 の決議 に抵触 す る恐 れがあ る。」 か らだ と紹介 され る。 さ らに,実 際 に地下鉄 サ リン事件 の際 に,国 会 図書館 の対応 が 問題 とされた件 に も応ゝ れて い る。 先 の文庫版 あ とが きの後半 には, 聞』 1994年 5月. NHK「 ぴ あ の」 事件 に関す る『 朝 日新 H日 夕刊 の記事 ,地 下鉄 サ リン事件 に関す る国会図書館 の. 対応 に関 す る『 図書館 とメデ ィアの本 いる. 8)。. ず・ ぼん ②』 の記 事 が転載 されて. それ は, 読者 か らの手紙 に触発 されて,「 図書館 の 自由」 が 関係す.

(19) 佐. 藤 毅. 彦. 173. る事例 に,作 家・ 法月綸太郎 が 関心 を示 す よ うにな りつつ あ った ことを示 す もので あ り,そ う した情報 を,ス トー リー に取 り入 れた のが, このケ ース と 言 え る。 ・「 リター ン・ ザ・ ギ フ ト」 (初 出. :『 小説現代 五 月増刊号 メ フ ィス. ト』 1999). 綸太郎 があ る本 を借 りた い と思 って穂波 のい る図書館 にや って来 るが,そ れ は紛失書扱 い にな って い る。穂波 は, コ ンピュー タに借 りた記録 が残 って い る人 物 に電話 す るが,連 絡 がつかない。綸太郎 が 自分 で コ ンピュー タを操 作 して, その人物 の名前 と連絡先 を見 よ うと して,「 カ ウ ンター越 しに マ ウ スを触 ろ うとす ると, ピシ ャ リと手 を はたかれた。 『 ダメ。知 って るで しょ ,. 図書館員 は利用者 の プ ライバ シー を漏 らして はいけな い って。』『 だ って,本 を借 り っぱ な しで 持 ち逃 げす るよ うなや つ だぜ。 プ ライ バ シー以前 の 問題 だ。』 『 わた しに八 つ 当 た り しないで。頭 に来 るの はわか るけど, これ は図書 館 と利用者 の信頼 関係 の問題 だか ら,外 部 の第 二 者 に対 して は個人 の プ ライ バ シーの方 が優先 され るの。 あなただ って 自分 が どんな本 を読 んで るか,見 ず知 らず の他人 に とやか く言 われた くはないで しょう?』 」 とい うや りとりに は,そ れ までの作 品 よ りも,一 歩踏 み込 んだ記述 が うかがえ る。 それ につづ けて, 1980年 , 日本 図書館協会 が 「 図書館員 の倫 理 綱領」 を採択 した こと. ,. そ の 中 で,第. 3「 図書館員 は利用者 の秘密 を漏 らさな い。」 とあ ること, を. 本文 中 で紹介 して い る. 9)。. また,綸 太郎 の父親 で あ る警視 が穂波 の図書館 を訪 れ,殺 人事件 の容疑者 宅 で押収 した図書館 の蔵書 につ いて,そ れを借 りた人 物 の名前 と貸 出 日を尋 ね ると「警視 が 目的 を告 げた とたん,穂 波 の表情 が 固 くな った。 す う っと息 を吸 い込 んでか ら, 丁寧 だ けれ ど毅然 と した回調 で,『 申 し訳 あ りません。 利用者 の プ ライバ シー に関す る事実 の照会 は,理 由 の如何 にかかわ らず,応 じることはで きません。『 図書館 の 自由 に関す る宣 言』 と 『 図書館員 の倫 理 綱領』 でその よ うに定 め られて い ます。 わた くしど もの業務 は,利 用者 との 信頼 関係 の上 に成 り立 って い るので,そ の存在基盤 を揺 るがす よ うな ことは で きな いんで す。』」 と答 えて い る。『 法月綸太郎 の 冒険』 に収録 されて いた.

(20) 図書館 はどうみ られてきたか. 作 品 で の発言 に比 べ ると,利 用者 の プ ライバ シー を守 ることの必要性 につ い て は っ き りと自覚 し,そ れを 日常 の行動 の際 に も反映 させ た対応 といえ る。 ただ し, ここまで切 り口上 で対応 して い るの は,逆 に リア リテ ィの面 で ど う か と思 われ るところで もあ る。現実 の図書館 で は,カ ウ ンター業務 を担 当 し て い るの は,司 書資格 を持 って いる人 たちばか りで はない し,資 格 を持 って いて も「 図書館 の 自由」 や「利用者 の プ ライバ シー」 につ いて,そ れ ほど意 識 して いない図書館員 も存在 す ると思 われ る。「警視 が何 と言 お うと, 穂波 は譲 るつ もりはな いよ うだ った。 き っぱ りと首 を横 に振 って, ダメな もの は ダメで す,憲 法 三 十五条 に基 づ く令状 がない限 り,回 答 はで きません と断 っ た。」 とい う描写 は, 非常 に 自覚 的 な図書館員 と して描 かれて は い るが, こ れが実態 であ ると言 い きれな い部分 が存在す るの も事実 で あ る1の 。 このあ と,他 の方面 での捜査 が進 行 し,図 書館 での個人 の利用記録 の捜査 につ いて,「 令状 の文面 に 目を通 し, 捜査 の対象 が きちん と特定 されて い る ことをを確認 す ると,館 長立 ち会 いの下」 で利用者 の記録 に関す るに捜査 に 応 じて い る11)。 法 月綸太郎 の「 図書館 シ リー ズ」 で は, と くに図書館 で の利用者 のプ ライ バ シーの扱 いに関 して,読 者 の手紙 を き っか けに,作 品 の 中 で「 図書館 の 自 由」 につ いての認識 を随所 に取 りいれて い る。発表時期 が新 しい もの ほど利 用者 の プ ライバ シーを考慮 した内容 にな って お り,「 りター ン・ ザ・ ギ フ ト」 で は,警 察 の捜査 に毅然 と して対応 す る図書館員 の姿 が描 かれて い る。 これ が, リア リテ ィの点 で「す べ ての図書館 で の現実 の姿 です 」 と断言 で きな い の は,む しろ図書館界 の問題 で あ る。. 5。. お わ り に. 図書館 のイメー ジや,そ こに ど うい う機能 を期待 す るか は,著 作 を執筆 す る立 場 にあ る人 たちの間 で も一様 で はない。 た とえば,『 マ リ・ ク レール』 の「対談・ 鹿 島茂 ×中沢 け い. 読書 のアルカ デ ィア」 で は, フラ ンスの図書. 館事情 につ いて紹介 した後 ,鹿 島「最近 の 日本 の図書館 はひ ど くて,ベ ス ト.

(21) 佐. 藤 毅. 彦. セ ラー 20冊 も入 れ る くせ に,オ ー ソ ドックスな本 は揃 えてな いで しょう。」 中沢「 一 番困 るのが 図書館 と書店 が 同 じよ うにな って しま う ことで す。 もと もと図書館 とい うと ころは,末 代 まで読 む よ うな本 を収蔵 す る場所 とい う. ,. 啓蒙主義 的 な発想 に支 え られ て るはず なんで す け どね。」 とい うや りと りが あ る1)。 一 方 ,利 用 す る側 の立 場 か ら『 図書館 で あそぼ う 知的発見 のすす め』 を 著 した辻 由美 は,同 じフラ ンスでの図書館利用体験 を紹介 した後 , 日本 の公 共 図書館事情 につ いて「公共 図書館 は活気 を感 じさせて くれ る場所 で もあ る。 図書館 は受験生 のた ま り場 とい う従来 のイメー ジ も,い まはかな らず しもあ て はま らない。 図書館利用者 の幅 は広 が りつつ あ る。」 とい う。「 図書館 を 日 常 的 に使 って い る私 も,利 用者 の層 が あつ くな って い ることを,最 近 ,肌 で 感 じて い る。 日曜 日に地元 の図書館 内をあ るきまわ ると,子 ど もの コー ナ ー も,ヤ ングア ダル トの コー ナ ー も,新 聞・ 雑誌 の コー ナ ー も レフ ァ レンス室 も貸 し出 しカウ ンター も人 で い っぱ い, こんなに多種多様 な人 が こんなに多 種多様 な 目的 でや って くるのか と,い まさ らのよ うにお どろか され る。」 「百 人 いれば百 とお りの使 いか たが あ る, これ こそが 図書館 なのだ。」 と述 べ て い る2)。 ミステ リの 中 で も,今 回取 り上 げた二 人 の作 品 で は,現 実 の図書館 を反映 した シー ンが い くつ かの作 品 に見 られ た。東野圭吾 は多 くの作 品 に図書館 を 登場 させ,多 様 な利用者 や利 用状況 を作品 に発表 して い る。法月綸太郎 は. ,. と くに図書館 での プ ライバ シーの扱 いにつ いて,読 者 の投書 を き っか けに. ,. 図書館 の対応 に一 定 の理 解 を も った うえで,そ うした事情 を背景 に した作 品 を発 表 して きて い る。 最近 で は,市 の図書館 を財団法人 に組 み込 んで市役所 と分離独立 す る計画 の進行 で,地 方公務員 でな くな ることにな った図書館 の司書 が,利 用者 の秘 密 を守 ることに関 して,公 務員法 の適用 をめ ぐって もめて い る, とい った. ,. 近年 の状況 を反 映 した作品 (若 竹七海 『 詩人 の死』)も 登場 して い る。 この 作 品 の 中 の あ る人 物 には「 司書 って もともと浮世離 れ した連 中」 と言 われて.

(22) 図書館 はどうみ られて きたか. 176. しま って い るが 0003)。 今 回 は 日本 の ミステ リつ いて,図 書館 との関係 を,図 書館員 に関す る描写 の部分 を 中心 に分析 したが, こ う した図書館 の イメ ー ジに関す る研究 を, さ らに多 様 なアプ ロー チを通 してすす めて い きた い。 それ は図書館経営 に関す る世論 を構成 して い る要素 の ひ とつ を,解 明す る作業 で あ ると言 えよ う。. ,王. は じめ に. 1。. 1)た とえば次 の よ うな意見 が あ る。「全国 に五 千 ,. せ めて三 千 の図書館 があ っ. て,ま じめに作 った本 は必 ず そ こが買 い あげ るとい うことになれば,出 版 の 世 界 の 事 情 も変 わ ろ うと い う もの で あ る。」奥 本 大 三 郎『 虫 の ゐ ど ころ』. 1992,新 潮社 ,p.H8 図書館 での 資料選択 につ いて は,「 図書館 め ぐり論議」『 朝 日新聞 (大 阪本社版 )』. 無料 の貸本屋 ? ベ ス トセ ラー. 1999年 5月 28日 , p.25と い うタ. イ トルの記 事 が掲載 され た (内 容 は前 日の東京本社版 の もの とほぼ 同 じ)。 また, 津野海太郎 「市民図書館 とい う理想 の ゆ くえ」『 図書館雑誌』 vol.92. no.5 pp.336-338を き っか けに,『 図書館雑誌』 誌 上 で 資料選択 に関連 し た見解 が発 表 されて い る。. 2)飯 島朋子『 映画 の中 の図書館 Library Cinema』 1999, 日本国書刊行会 3)市 村省 二 「 図書館映画 へ の招待」『 TRCほ んわかだ よ り』 no.1301998.4 pp。. 4)東. 18-24 史 「映画 の図書館・ 図書館 の映画」 は『 図書館雑誌』 vol。. 91 nO。. 46-47,vol。 92 no. 2 pp.100-101,vol.93 no.4 pp.274-275に. l pp.. 掲載 され. てい る。. 5)図 書 館施設・ 設 備 と利 用者 の イ メー ジにつ いて は,「 図書 館 の立地 に関 す る 研究」 『 羽衣学 園短期大学紀要』 (文 学科編 ),vol.33,1997,pp.1-15 職員 の対応 も含 めた図書館 のサ ー ビス体制 と利用者 の イメ ー ジにつ いて は. ,. 「図書館 イメー ジの変化. 川西市民 の読書実態 と図書館像」 『 羽衣学 園短期大. 学紀要』 (文 学科編 )vol.30,1994,pp。. 1-16「 図書館 のサ ー ビス体制 につ. いて」 『 羽衣学 園短期大学研究紀要』 vol.34,1998,pp.H-20な. ど. メ デ ィア に登 場 す る図 書 館 につ い て は,「 映 像 メ デ ィ ア の 中 の 図 書 館 『 公立 図書館 の思想 と実践』 1993, 森耕 一追 悼事業会 , pp.292-309 「 フ ィク シ ョ ンの 中 の貸 出方式 映画 「 Love Letter」 「耳 をす ませ ば」 の問 1992」.

(23) 佐. 藤 毅 彦. 177. 題点」 『羽衣学園短期大学紀要』 (文 学科編),vol.32,1996,pp.1-19な ど. 2.日 本 の ミステ リ作家 と図書館 1)長 谷部史親『推理小説 に見 る古書趣味』 1993,図 書出版社,pp.61-62 2)同 上,p.139 3)綾 辻行人,井 上夢人,大 沢在昌,恩 田 睦,笠 井 潔,京 極夏彦,柴 田よ しき ,. 法月綸太郎,馳 周星,東 野圭吾, 山 口雅也 :著 , 千街晶之 :イ ンタ ビュー 『 ミステ リを書 く!』 1998, ビレッジセ ンター出版局. 4)山 口雅也. :監 修,千 街晶之・ 福井健太 :編 『 ニ ューウエ イヴ・ ミステ リ読. 本』 1997,原 書房. この中で図書館利用 について遮ゝ れているのは,歌 野晶午 (1961年 ,千 葉 県生 まれ),折 原 一 (1951年 ,埼 玉 県 生 まれ),倉 知 淳 (1962年 ,静 岡県生 まれ),西 澤保彦 (1960年 ,高 知県生 まれ)の 4人 。. 5)た. とえば「 日本 の公共図書館 は,一 九六五年 ごろか ら急激な発展をとげ,当. 時八〇〇万冊 の年間貸出冊数であ った ものが,現 在 までの一五年間で約一五 倍 の一億二〇〇〇万冊 に達 しています。」 という指摘 がある。 前川恒雄 『 前 川恒雄著作集 1 図書館 につ いて』 1998,出 版 ニ ュース社,p.12 この箇 所 は 『 図書館 で何をすべ きか』 として, 1981年 にまとめ られた講演録 を収 録 した部分 である。. 6)フ ィクシ ョンの書 き手 の利用体験 と図書館 の貸出方式 との関係 については ,. 「 フィクションの中の貸出方式. 映画 「 Love Letter」 「 耳をすませば」 の問. 題点」 (前 掲)に おいて論 じた。. 3.東 野圭吾 と図書館 1)「 相変わ らずの完成度 の高 さに加え, これ まで の作品 には見 られなか った要 素が盛 りこまれた大作 ミステ リーだ。」 (『 小説現代』 1999.9,p.391),「 最初 にひとつだ けいえ ることは, これは東野作品 の頂点 をきわめた傑作。」 (『 小 説すばる』 1999.9,p.134),「 抜群 の小説的興趣 と斬新 な仕掛 けに満ちた圧 倒的 エンターテイ ンメン ト」 (『 本 の雑誌』 1999。 9,p.38),「 これは,先 月一 番唸 らされた傑作。 」「すべてのシー ンに意味 があ り, 伏線がある。」 (『 小説 推理』 1999.H,p.271),「 ひとつの無駄 もないみごとな構成, 的確 な描写 に 脱帽 だ。」 (『 ダ 0カ ーポ』 nO.430,p.154),「 凍 りつ くような虚無 の精神 と深 い哀歓をそなえた驚愕 の ミステ リー大作である。 」 (『 ア ミューズ』 1999.no.. 18,p.59)な ど. 2)東 野圭吾『学生街 の殺人』 1987,講 談社 3)東 野圭吾『 魔球』 1988,講 談社 4)東 野圭吾『香子 の夢』 1988,祥 伝社.

(24) 図書館 はどうみ られてきたか. 178. 5)東 野圭吾『 十字屋敷 の ピエ ロ』 1989,講 談社 6)東 野圭吾『変身』 1991,講 談社 7)東 野圭吾『 同級生』 1993,祥 伝社 8)東 野圭吾『分身』 1993,集 英社 9)東 野圭吾『 むか し僕 が死んだ家』 1994,双 葉社 10)東 野圭吾『虹 を操 る少年』 1994,実 業之 日本社. H)東 野圭吾『悪意』 1996,双 葉社 12)東 野圭吾『名探偵 の呪縛』 1996,講 談社. (文 庫). 13)東 野圭吾『秘密』 1998,文 芸春秋 14)東 野圭吾『私 が彼 を殺 した』 1999,講 談社 15)東 野圭吾『 白夜行』 1999,集 英社 16)東 野圭吾『浪花少年探偵団 2』 1993,講 談社 17)東 野圭吾『探偵 ガ リレオ』 1998,文 芸春秋 18)東 野圭吾『学生街 の殺人』pp.364-365,p.373 19)東 野圭吾『魔球』 1991,講 談社 20)東 野圭吾『 分身』pp.44-46. (文 庫),pp.186-188. 21)東 野圭吾『名探偵 の呪縛』pp.H-13 22)同 上,p.86 23)東 野圭吾『秘密』pp.37-45 24)東 野圭吾『 白夜行』pp.463-464 25)こ うしたタイプは, たとえば 1999年 4月 に, 宝塚大劇場で上演 された『 再 会』 に登 場す る図書館員 :サ ン ドリーヌを演 じている月影瞳が,石 井徹也 『石井式宝塚評判記 1』 1999,青 弓社,p.67 において「図書館 で働 いてい るときの瓶底 メガネのブス作 りが,演 出 は類型的 なんだけど,月 影 自身 がひ どくおか しい。」 と評 されて いるのと,共 通す る部分 があるものと思われる。 26)最 近 の状況 を示す事例 として,「 会社員, 図書館 に シフ ト 不況 …残業 0小 遣 い減 リ アフタファイブ利用急増 話題本,予 約待 ちも」 『 日本経済新聞』 1999.6.26(夕 刊),p。 11 などがある。 4。. 法月綸太郎 と図書館. 1)法 月綸太郎『法月綸太郎 の冒険』 1992,講 談社,p.176 2)山 口雅也 :監 修,千 街晶之・ 福井健太 :編 『 ニ ューウエイヴ・. ミステ リ読. 本』 1997,原 書房,pp.98-99 3)法 月綸太郎『法月綸太郎 の冒険』 1995,講 談社 (文 庫),pp.442-451. 4)同 上,pp.237-249.

(25) 佐. 藤 毅 彦. 179. 5)同 上 ,pp.389-393. 6)法 月綸太郎『 法月綸太郎 の新 冒険』 1999,講 談社 ,pp.50-51 7)同 上 ,pp.176-178 8)法 月綸太郎『 法月綸太郎 の 冒険』 1995,講 談社 (文 庫 ),pp.447-451 9)法 月綸太郎『 法月綸太郎 の新 冒険』 1999,講 談社 ,pp.260-262 10)同 上 ,pp.263-265. H)同 上 ,pp.307-310 5.お わ りに 1)対 談・ 鹿 島茂 ×中沢 け い「読書 の アルカデ ィア」『 マ リ・ ク レール』 1999。 9, p.95. 2)辻 由美『 図書館 で遊 ぼ う』 1999,講 談社 ,pp.190-192 3)若 竹七海「詩人 の死」『 名探偵 の饗宴』 1998,朝 日新 聞社 ,pp.206-207.

(26)

参照

関連したドキュメント

・「中学生の職場体験学習」は、市内 2 中学 から 7 名の依頼があり、 図書館の仕事を理 解、体験し働くことの意義を習得して頂い た。

 角間キャンパス南地区に建 設が進められていた自然科学 系図書館と南福利施設が2月 いっぱいで完成し,4月(一

が書き加えられている。例えば、図1のアブラナ科のナズ

以上の結果について、キーワード全体の関連 を図に示したのが図8および図9である。図8

絡み目を平面に射影し,線が交差しているところに上下 の情報をつけたものを絡み目の 図式 という..

 当図書室は、専門図書館として数学、応用数学、計算機科学、理論物理学の分野の文

[r]

フロートの中に電極 と水銀が納められてい る。通常時(上記イメー ジ図の上側のように垂 直に近い状態)では、水