中国中西部地域の農村金融
─三県の事例からみた現状と課題─
任 雲
目 次 1.はじめに 2.マクロレベルの分析 3.湖北省松滋市のケース 4.四川省沐川県のケース 5.甘粛省崇信県のケース 6.まとめに1.はじめに
近年、中国農村経済が歴史的転換点に差掛っている(黄 2009)。農村地域における労働者の出 稼ぎ及び自然的人口減少により農業生産の「過密化」が解消されつつあり、生産構造も穀物生産 中心から野菜・穀物・果物・養殖・畜産へと多様化し、産業化・専業化・組織化した適正規模経 営を行う農家が増えている。こうした農村経済の近代化により農民の生産性金融需要が高まって いる。一方、中西部地域内の農業県では、第二、第三次産業の遅れにより農村労働力の移転に限 界があり、農産品の価格上昇の幅も制約されている中、伝統的家庭経営及び出稼ぎによる農民収 入の大幅な上昇は期待できない。農民の生産方式を産業化・組織化・専業化・規模化へ転換させ ることも、農民増収の重要な手段として提起されている。 こうした農民の生産性金融需要の高まりに対応し、農業の近代化を誘導・促進することは、農 村金融の最も重要な役割として求められている。筆者の関心事も、中西部地域において現在の農 村金融システムはどこまで農民の金融需要の変化に対応しているか、また、異なる地域で農村金 融は如何なるシステムで農業の近代化を誘導・促進しているかということである。 本稿はマクロとミクロの両面からこれらの問題を明らかにしたい。マクロのレベルでは、中国の 農村金融政策の変動、農民の金融需要の特徴とその変化、そして金融機関の動きを全国レベルの 調査や主管当局の公式報告を用いて分析する。一方ミクロレベルでは、2010 年全国農民一人当た り平均純収入の 5919 元より少し高めの湖北省松滋市(中部)、平均以下の 4 千元台の四川省沐川 県(西南部)、3 千元台の甘粛省崇信県(西北地域)で、筆者が所属している研究グループが行っ た実態調査の結果を用いて、異なる金融機関の行動、農民の金融需要とその満足度を分析する。 ただし紙幅の関係で、本稿は農村金融の中の農家向けの貸出を中心にして考察する1。2.マクロレベルの分析
2.1 2008 年以前の全国の農村金融の状況 周知のように、アジア金融危機以降、国有銀行の採算の悪い県・郷鎮からの撤退や、農村合作 基金の閉鎖などで、農家向け貸出業務を行う金融機関は農村信用社だけとなり、農村金融の供給 不足の問題が目立った2。この状況を変えたのは、2006 年の中央政府による新農村政策の実施と 農村金融参入規制緩和策の実施である。しかし後述のように、各金融機関による大規模な参入は その後の 08 年である。したがって、本稿はまず 2008 年までの農家の金融需要と借入状況を、四 つの研究機関による大規模農家金融調査3の結果を用いて簡単に紹介する(表 1)。 表 1 全国農村金融に関する大規模調査の結果一覧(筆者による整理) 借入先と申請状況 農家の借入特徴 借入の地域特徴 韓俊等(2009)。 05年29省、サン プル数1979 *借入先:親戚から 58.11% >信 用社から 37.34% *生産性借入の場合、金融機関か らの借入 55.7%。生活性借金は 民間中心 72.7% *生 活 性 借 入 58.44% > 生 産 性 41.8% *工商・種養大戸借入頻度と額も 大 *貧困世帯需要最大、収入増と需 要規模増が一致。低所得者が民 間借入、高所得者が機関借入の 傾向 *一世帯の借入額(平均):西部 7189 元 <中 部 8651 元 <東 部 9318 元 *頻度(回数):西部 1.18 >中部 0.88 >東部 0.85 中国人民銀行 (2009)。 07 年 東 中 西 部 10 省計 20040 サ ンプル *生活性借金の大半が民間調達 *半数が金融需要あり、23% が金 融機関から借入れた。申請者の 成功率 76.8% * 需 要 が あ っ て も 88.6% が 申 請しない(コストが高いから 37.8%、拒否されると思うから 18.5%) *生活借入 53.3% >生産性 28% >その他 19.6% *総収入と金融需要と正の相関、 非農業収入高いほど、金融需要 減 *需要なし 53.9%(自己資金十分 60.5、借金習慣なし 14、無投資 対象 12.5、出稼ぎで借入必要な し 10.2) *出稼ぎ者の多い省(四川、河南) では、借入需要が低い (< 50%) *食糧生産面積の広い省(内モン ゴル、吉林、寧夏)では 60% 以上が需要 *河南、湖南省の貸出率も低い 龔明華等(2009)。 08 年東中西部 3 省計 987 借入サ ンプル *借入先:親戚から 61.3%、知人 から 27%、金融機関 8.9%、個 人貸付業から 2.6% * 17.6% の農家が金融機関に申 請し、その中の 9 割強が許可さ れた * 生 活 性 借 入 63.4% > 生 産 性 33% *小口貸付が生活、大口 貸付が生産投資 *19.9% は自 己 資 金 が 十 分 で、 19.5% は良い投資対象がないた め、需要なし *生活借金で甘粛 74.4% >山西 68.7% >浙江省 34%(生産借 入が逆) *正規機関から借入の割合、浙 26.3%、 晋 12.2%、 甘 11.5%。 需要なし中自己資金十分と答え た順は 26.4%、17%、16.1% 劉玲玲等(2007-09)。 06 ~ 08 年計 16 省 5 千サンプル * 06 年 55.3% 借入有、半数は親 戚及びその他の民間方式から * 07 年 中 部 46.8% が 借 金 有、 67% が親戚と民間から * 08 年東部 2 省 3 割りが借入有、 6 割り以上が親戚から *生産性借入は 3 年の調査におい て全て半分以下 *貧困地域の借金額が少ない *収入の上昇で、生産性需要が上 昇、高収入者は金融機関を好む *小口貸付減、期待貸付金額上昇 *西部では 44.2% が信用社、中 部では 28% が信用社、60% が 親戚・知人に依存、民間貸出利 息は殆どゼロ *未借金者中、貧困地域では金融 需要がない人は 76.5% に、発 達地方は 89% に達している 表 1 の結果を大まかに整理すると、2008 年以前の農民の需要と貸付の特徴は以下のようにな る。①農家の半数以上は資金需要があり、その需要の 6 割は民間貸借で解決し、残り(全体の 20-30%)は金融機関から借入れる4。②資金需要の大半は生活性需要であり、生産性の需要は半分以 下であった。しかし発達地域では、生活性需要が減り、生産性需要が高まっている。②生活性需 要は民間で、生産性需要は金融機関から調達する傾向がある。③地域により金融需要が低い地域がある。中部・西南部など出稼ぎ者の多い地域では、借入ニーズは特に低い5。 以上の特徴から見れば、当時の農村金融の問題は、単に金融機関の撤退により供給不足、いわ ゆる供給抑圧の問題ではなく、需要不足や需給のミスマッチに起因する部分も大きい。とりわけ、 本稿の研究対象である中西部においては、当時は伝統的農業生産を行う農家が大半で、生産性需 要があってもその金額は比較的に小さく、出稼ぎで十分に賄えた。一方、生活性需要も出稼ぎに よって大分緩和されたと考えられる。一言でいえば、中西部農家の金融需要は概して高くなかった。 こうした需要サイドの需要低下や、さらに農家の組織化レベルの低さや信用意識の薄さも、金融 機関の農村金融への意欲を妨げた。もちろん供給サイドの開拓により需要サイドの潜在的需要が 喚起されて、供給誘導型の需要創出は可能である。その点からみれば、当時の供給サイドの問題 は当然大きい。しかし供給と需要サイドは相互作用の関係にあり、農村金融の問題も供給と需要 の両方から捉えるべきであろう。 2.2 近年の進展 2008 年から、農業銀行や郵政貯蓄だけではなく、民間資本も村鎮銀行やノンバンク小口貸付会 社等の形で農村金融に本格に参入した。また、政府は農村金融をバックアップするために、一定 の税制・金融面の優遇策を施した6。以下、各金融機関の農村金融との関わりをまとめる7。 ①農村信用社:2003 年前後からの改革・改組と不良債権の分離・整理で、信用社(一部は農業 合作銀行、農業商業銀行に改組)が再出発し、農業金融の主役を担ってきた。信用社は率先して「会 社+農家」や、「合作社+農家」の形で大口貸付を展開し、農家の生産性需要に応じた新たな業務 を開発している。2010 年末の農村信用社の貸付残高は 2 兆元で、全国農家向け貸付の 2.6 兆元の 78%を占めている。近年、信用社の不良債権率が低くなり、業績も大幅に改善している。 ②農業銀行:株式化への改組と上場準備の中で、農業銀行は 2007 年から吉林省など八つの省 において、三農金融業務の実験を開始した。2008 年 3 月までに 503 県の支店で三農事業部制が設 立され、8 月からさらに全国半数以上の県で、2009 年に全国すべての県で三農事業部が設立された。 農家への貸付残高は 2009 年末に 796 億元、2010 年末に 1155 億元、今年 8 月末に 1319.65 億元に 達した。なお、8 月末の小口貸付残高は 1119.45 億元で、前年度末より 130.14 億元増えた。その他、 農業銀行は農家に銀行カードの発行や電子・電話金融サービスの提供を積極的に行っている。 ③郵貯:2006 年 5 月に国務院の認可を受け、2007 年 3 月設立された。中国最大の金融ネットワー クで 3.8 万の拠点を有する。県及び農村向けの小口の預金抵当付けの貸出業務を 2006 年 3 月福建、 湖北,陝西省で実験的に開始し、2008 年に 31 の省の 1200 の県支店に広げた。その貸出累積額も 今年 6 月末で 1500 億元を突破した。郵貯小口貸付の一つ大きな特徴といえば、貸出条件が低いこ とである。18-60 歳で農業生産の能力を有する既婚者なら簡単に借入できる。 ④民間金融機関:規制緩和以来、中・外資銀行が競って全国で村鎮銀行を設置し始めた。2011 年 3 月末ではすでに 400 社の村鎮銀行が開業し、104 社が設立の段階にある。地域を見れば中西 部での設立が全体の 6 割を占めている。また、村鎮銀行を始め 448 社の民間金融機関の貸付残高
は 733 億元である。その 83.4%が農家及び農村小企業向けの貸出である。なお 2011 年 6 月末現在、 農村と中小企業向けの小口貸付会社は 3366 社で、その貸付残高は 2875 億元ある。 県域レベルの状況に関して、農業部農村経済研究中心(2011)が 2010 年 9 月に行った定点観測 の 12 省の 118 の県及び 9950 の農家調査の結果を見れば、① 28 の県に 121 の村鎮銀行が設立され、 51 の県に 106 社の小口貸付会社があり、12 の県に農村資金互助社 322 社がある。そして貸付業務 を行っている農民専業合作社も 12.7%の県で 139 社(前年より 103 社増)に上り、その中に正規 金融機関からの卸貸出資金を調達できるのは 8 県があり、融資金額は平均で 871 万元である。また、 政策農業投資公司や農業投資ファンドを持つ県が 8 つあり(前年比 2 社増)、2010 年の 1-8 月に、 平均投資額は 3835 万元である。②金融サービスの品目や方式が改善されている。例えば 73.5%の 県は抵当なしの貸出業務を行っている(前年 68%)。45.7%の県では大型農機等の生産設備、林地 使用権や未開墾荒地使用権等を抵当にする貸付業務を行っている。なお、51.3%の県で農業開発 銀行は開発・インフラ建設の長期信用業務を行い、その平均貸付残高は 1.79 億元である。さらに 農業保険も実験的推進されている。農家全体の保険への参加率は 24.7%である。 表 2 のように、各金融機関の業務の開拓によって、近年農家貸付残高が増え、2009 年以降、貸 出全体に占める割合も高くなっている。総じて農村金融の供給は近年改善しつつあり、金融機関 も農村金融の需要を満足させるためにそれなりの努力をしているといえよう。 表 2 全国正規金融機関の農業・農村関連への貸付(単位:兆元) 年度 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011.6 農家の短期貸付残高 0.799 0.921 1.067 1.197 1.46 農家貸付合計残高 1.34 2.01 2.604 2.98 「三農」貸付合計残高 6.12 7.45 9.8 11.06 預金残高 30.02 34.81 40.11 47.84 61.20 73.34 80.30 貸出残高 20.68 23.85 27.77 32.00 42.56 50.92 54.65 農家貸付対貸出全体比 4.825% 4.723% 5.114% 5.453% 出所: 『中国金融年鑑 2010』、p.427、農家貸付金額は『中国農村金融服務報告 2007 年、2010』、による。 11 年 6 月のデータは人民銀行の金融報告及び貸出報告による。 これらの進展は、農村金融政策の転換と各金融機関の努力によるものが大きい。しかし筆者か ら見れば、農村金融に進展のあった最大な要因は、やはり近年の農業経済の近代化による生産性 金融需要の高まりが、農村金融の商業化・市場化に可能性をもたらしたことにある。農村金融の 市場の拡大、農家の金融需要の上昇と信用意識の大幅な改善は、金融機関が積極的に農村金融に 参入した大きな誘因であると言える。言い換えれば、農村・農業の実体経済の流れは農村金融の 変貌を促し、農村金融は農業発展のレベルに従って進化しているということである。このような視 点でみれば、農村経済発展レベルの異なる地域では、農村金融の在り方も異なってくる。この点 を次節からの三県の実態調査の結果で確認しておこう。
3.湖北省松滋市のケース
松滋市は荊州市管轄の県級市であり、湖北省西南部に位置し、江漢平野と武陵山脈・丘陵地帯 の接続地域にある。17 の郷鎮があり、人口は 85 万人で農村戸籍人口は 8 割を占める。2011 年 2 月末で18.7 万人が出稼ぎをしている。松滋市は重要な農産地で、農村経済の組織化程度が割に高く、 規模経営の専業農家の数は近年増えている。表 3 は市の基本的経済データを纏めている。 表 3 『松滋市国民経済と社会発展統計公報』による関連データ(単位は億元、農民収入は元) 年度 GDP 預金残高 家計預金残高 貸出残高 内農業貸出残高 農民平均純収入 2006 49.23 54.67 45.78 14.29 2.95 3485 2007 57.45 66.19 54.43 17.1 2.58 4129 2008 69.15 83.23 68.04 17.91 2.99 4883 2009 80.55 99.05 78.36 26.86 4.03 5441 2010 96.01 119.3 91.56 32.2 5.9(8 月末) 6470 松滋市では、四大銀行をはじめ金融機関数が多い。しかし 90 年代末から店舗数が 90 件以上減り、 03 年は信用社が三農貸付の 77.4%を占めた。2004 年 5 月の調査では、73.6%の農家が資金窮屈だ と答え、民間の貸付は 58.2%に達した。近年、農業銀行と郵政貯蓄は全国においても早期から農 村金融に力を入れてきた。小額貸付公司も 2 社があり、その 6 割の業務は農村向けである。さら に今年 9 月に中銀富登村鎮銀行(中国銀行とシンガポール Temasek との合資)が進出した。 28 の店舗を有する松滋市農業信用社は、農家 17 万戸の信用ファイルを作り、与信対象 6.6 万世 帯で、2010 年に 3 万戸以上の農家に約 2.6 億元の小口貸付を提供した。また、種養殖専業大戸に 政府の担保会社と提携し、担保会社+農家の方式で 325 戸に 6550 万元の大口貸付を行った。なお、 信用社の 2011 年度の小口貸付与信額は 2.3-2.5 億で、専業大戸 170-180 世帯を対象にした 10-50 万 元の大口貸付の与信額は 5 千万元もある。実際に今年から 7 月末に農家の貸付累積額は 4 億元を 突破した。なお、信用社は年々省のトップレベルの経営業績を成し遂げ、2010 年に省の第一号の 改組許可を得て、今年の 9 月に農村商業銀行に改組された。 農業銀行は 1998 年の 32 店舗から 9 店舗に減ったものの、2008 年三農事業部を設立し、以来今年 7 月末までに累積で 5.6 億元の農村向けの貸付を提供した。2011 年にも 5 千戸の専業農家に 1 億元 の与信額を設定している。農家貸付は 7 月末現在 2560 世帯、残高が 8401 万元である。内訳でグルー プ担保、村幹部担保、公務員担保はそれぞれ 70%、15.5%、8.2%であり、会社担保と机具・房屋担 保も 5.7%、1.6%に登り、貸出方式は多様化している。なお、農業銀行は恵農卡(カード)を大量に 発行し、すべての村に 2-5 部の振込専用電話を設置し、農家の金融取引に多大な便利を図っている。 松滋市の郵貯は、全国に最初で小口貸付業務を実験した六つの支店のうちの一つであり、2007 年 8 月から 2011 年 7 月末までに 1.2 億元を貸付した。その中の約 50%は農家向けであり、借入農 家の数は千戸以上に達している。前述のようにより低い条件で、戸籍を問わずに一年以上の滞在 があれば簡単に貸付ができ、また小額信用貸付の上限を 5 万元に設定し、信用社の 3 万元より高い。 さらに申請から 3-5 日で資金が降りるため、松滋では人気を得ている。松滋での農村金融への相次ぐ参入は、信用社の独占的地位を動揺させ、利息率を引き下げた。 2011 年 3 月の調査時点では、農業銀行の利息が 7.2%で、農業信用社もやむを得なく以前の 7.8% 以上を 7.2%まで下げた。数回の訪問で感じたのは、各行のライバル意識と競争意識が強く、他行 と差別化した新たな商品の開発とサービスの改善に強い意欲を示していることである。 では、農家レベルの実態はどうなっているのか。2011 年 5 月に、筆者は現地研究者の協力で老 城鎮、沙道観鎮で専業農家を対象にアンケート調査を行った。その調査対象数は 159 世帯で、126 世帯は借入があり、33 世帯は借金していない。借入目的はすべて生産投資用である。借入者農家 一人当たりの収入(回答者数 116)は、1 - 2 万元未満 23 世帯、2 - 3 万未満 53 世帯、3 - 5 万 元未満 15 世帯、5 万元以上 22 世帯となっている。また、事業スタート時点で金融機関から融資を 受けた世帯は 66 であった。対して借入金無しの世帯の回答者 29 人の中では、1 - 2 万元未満で 6 戸、2 - 3 万元未満で 4 戸、3 - 5 万元未満で 10 戸、5 万元以上は 9 戸である。また、非借金世 帯中 3 世帯は親戚から借りたものの、殆どは自己資本で事業を開始したという。 図 1 - 4 は農家の借入状況を表している。貸付額の 82%は 3 万元以上であり、グループ担保は 68%を占めている。また、94%は正規金融機関から借入し、民間からの借入は少ない(両鎮とも に農業銀行の店舗があるため、農業銀行の借入比率が高い)。とりわけ、金融機関からの融資難易 度に関しての調査では、6 割の農家は近年非常に容易になったと答えている。 なお、今後の借入の希望があるか否かについて、借入有の農家の中では、強く希望する農家数 は 82%にも達している。比較的希望するのは 10%、どちらとも言えないのは 6%で、必要ないの は 2%である。対して借入無しの農家はそれぞれ 30%、12%、6%、52%である。因みに借入農家 の 62%は 10 万元以上の借入を望む。5 万元以下を借りたいのは 3 世帯だけに留まっている。 専業農家個人の実態を確認するために、筆者は 2011 年の 8 月 23 - 24 日に劉家場鎮で聞き取り 調査を行った。以下は二つのケースを取り上げる。 ケース 1:雄偉養殖公司経営者李偉、4 人を雇用。2001 年から豚の養殖をスタートし、当時年出荷数は 50 数頭だったが、現在年出荷数は千頭以上である。以前信用社から 10 万元を借入したことがあり、2008 年以降三年連続で郵政貯蓄から借入れている(金額 10 万、30 万、30 万)。地理上の便利さと手続きの簡 単さは借入先を変えた理由だという。5 か月連続して利息を期間内に返済すれば、次の 1 カ月の利息が免 除される優遇策もある。2010 年に政府は財政補填で利息の半分を軽減してくれた。自己資本は 7 割で、借 入は 3 割である。2007 ~ 08 年は豚の病気のため、経営業績が悪くなり、郵政からの借入は大変助けになっ た。現在、豚の値上げより一頭で 700-900 元の純収益がある。規模を拡大するため、50 万元の借入を希望 する。因みに、李さんの 30 万元の借入はグループ担保の方式で、グループ内全員の借入金の合計である(塁 大戸と呼ぶ)。つまり、グループメンバーは彼に再貸出をしている。 ケース 2:紅光禽業養殖専業合作社発起人・理事長章華軍。10 世帯の養鶏専業戸を組織し、資本金 66 万元の合作社を 2010 年 6 月に設立。一括に飼料を調達・提供し、統一した予防衛生管理を行い、共通ブ ランドで共同販売を行う。それで品質を確保し、より高い値段で売ることができた。年 40 万羽の地鳥を出 荷し、市内近辺市場の 7 割を占めている。章さんは松滋市の戸籍を持たず、2007 年に信用社が融資してく
れなかったため郵貯に来たところ、小額信用貸付の 5 万元を簡単に申請できた。以来 3 回連続で郵貯から 5 万元ずつを借入した。2010 年にさらに合作社の担保で 4 人計 20 万元を借り入れた。現在、章さん本人 の養鶏場は 1.5 万羽の規模で、合作社 11 養殖地の養殖量は 14.9 万羽である。章個人の純収益も 2010 年の 20 万元未満から 2011 年の約 40 万元に達する見込みである。資産を抵当にしてもっと大きな融資で合作社 自前の飼料工場を作る計画で、郵貯と話し合い中である。 この聞き取り調査でいくつの特徴が浮き彫りになっている。①農家は複数の金融機関を選別し ながら利用できる。②農家はグループ全員の名義で貸付を申請し、お金を一世帯に集中させるこ とで借入金額上限を突破できる。③経営大戸は資金の大規模の使用で、規模と組織化レベルを高め、 より高い収益を得ている。 松滋市全体の状況をまとめて見ると、金融機関は競い合って、より柔軟に専業農家に貸出しを 行い、専業農家の融資は以前よりかなり容易になっている。また専業農家はグループ全員の貸付 を使用し、より多くの資金を獲得できる。農家の組織度も高く、連保制度が効果的である。総じ て松滋市の農村金融は農業の近代化と農家の増収に果たす役割が大きく、その誘導効果も大きい。 しかし、小額貸出の上限は 5 万元ないし 3 万元で、大半の専業農家の期待は満たされていない。 また、全国の共通的問題として、農家の土地や家が抵当にならないため、財産抵当の貸付業務が 少なく、大規模の融資が難しい。これは農業経営の一層の規模化と産業化発展を妨げている。
4.四川省沐川県のケース
沐川県は四川省の楽山市に属し、省南部の山岳地帯に位置している。19 の郷鎮があり、人口総 数は 25.7 万人で、農業戸籍人口が 21.7 万人である。2010 年農民の平均純収入は 4496 元で(表 4)、 楽山市の 5613 元よりかなり低い。農林県として養殖及び茶・林業・果物などの産業が特徴である。表 4 「沐川県国民経済と社会発展統計公報」による関連データ(単位は億元、農民収入は元) 年度 GDP 預金残高 市民預金 農民預金 貸出残高 農業貸出 農民平均純収入 2006 16.17 10.5 3.7 4.22 6.24 2.91 2891 2007 20.16 13.67 4.23 5.20 8.62 3.01 3246 2008 26.52 15.87 5.3 6.35 13.82 3.62 3563 2009 28.03 18.78 13.66 16.54 3885 2010 32.99 23.15 16.54 20.79 4496 沐川県の正規金融機関として、農村信用社(20 店舗)、農業銀行(3 店舗)、楽山市商業銀行(1 店舗)、郵政貯蓄がある。2010 ~ 11 年の三回の調査でも、農業銀行の業務はほとんど企業向け(林 業加工、製紙企業など)で、農家への貸付が非常に少ない(今年から 7 月末に 30 世帯の竹の買 付専業戸計 380 万元だけを貸出した)。商業銀行も郵貯も農家向けの貸出は極少額で、農村金融に 関心を示していない。農村信用社だけは農家向け貸出を積極的に行っている。2010 年 2 月末貸付 のある農家世帯数は 38929 戸である。その中で小口信用貸付は 31961 戸、グループ担保貸付は 43 戸があり、貸出残高は 2.09 億元であった。また、年利息は 9-10%である。 沐川県が山岳地域にあるため、貧困村や貧困戸は多い。統計では、農村の貧困世帯数は 2539 で、 低所得世帯数は 7380 がある。いかに貧困村の産業を発展させ、農家の収入を増やせるのか。信用 社だけの資金供給には限界がある。そこで県政府は 2008 年に、財政部や省財政の指導で貧困移 民局に互助資金管理センターを設け、貧困村で資金互助社を設立し、資金互助事業を開始した。 設立した資金互助社の数は 2008 年に 12 村、2010 年に 18 村がある。2011 年さらに 20 村が設立 する予定である。各社の資金源は、1 社で中央財政 10 万元(初期段階で 6 割、後 4 割を追加)と、 市と県の抱き合わせ出資 5 万元がある。また農家の出資額は 3 万元以上が必要であり、一般世帯 は 300 - 500 元、貧困世帯は 100 - 200 元の出資が求められる。7 月末現在、30 社での政府資金 は 315.9 万で、農家資金は 105.53 万がある。貸出上限は出資額の 10 倍である。資金占用費率(利 息)は月に 0.8%(貧困戸 0.6)であり、信用社より低い。県は規範化管理と人員訓練に力を入れ、 各社に開業準備費 5 千元を補助した。各社は理事長、実行長、監督長、会計、出納 5 人を選出し、 コンピュータで資金を管理する。安全のために社内で資金 500 元以上を保管できない。また、社 は 5 日前に郷鎮に、郷鎮は 10 日前に県に経営状況を報告する義務がある。なお、貧困戸の臨時の 需要により無担保で千元以下の特別借金はできるが、一般的にグループ連帯保証は必要である。 実は四川省においてグループ担保は今まで成功しておらず、信用社もグループ担保を採用して いない。管理当局は当初から資金互助社にグループ担保を必須条件としたが、地方では多くの不 満があり、農家もそれを心配した。しかし当局はグループ担保を固持した。これを契機として農 家の信用教育を行い、相互監督・相互激励のシステムを構築する目的があったからである。現在、 農家はグループ担保を受け入れ、お互いに相手が資金を生産のために使っているか、債務不履行 をしたかどうかに関心を持ち、生産活動に励み、相互促進の効果ははっきり見られている。 2011 年 7 月末現在、県全体の入社農家数は 4438 世帯で、常駐世帯 7684 戸の 58%を占め、グ
ループ数も 775 組みがある。貧困戸の入社は 292 戸で、貧困戸の 82%を占めている。なお、農家 の借入回数は 1367 回(世帯数は 1038 戸)で、累積金額は 346.63 万に登り、中で貧困戸の借入は 67 戸で 15.92 万元である。主な貸付対象は農業 171.31 万元、養殖業 169.52 万、加工業 2 万、商 業・運輸業 3 千元、その他 3.5 万元である。滞納は発生していない。なお経済効果といえば、資 金を利用した農家の一人当たりの純収入は 2790 元から 3236 元に上昇し、とりわけ貧困戸の収入 は 977.47 元から 1803.83 元に大幅に増加した。筆者は 2011 年 8 月 25 - 26 日に、二つの村と三戸 ずつの農家を訪問し、互助社の運営実態を確認した。 ケース 1:炭庫郷石碑村。13 の確定貧困戸全世帯を含み、長期滞在戸 370 世帯の中の 191 世帯(35 グルー プ)は資金互助社に参加している。入会金、政府資金は各 3.7 万元、15 万元で、開業費も 5 千元があった。 社は 2008 年から 11 年 7 月までに 184 世帯 258 回で合計 53.1 万元を貸出し、すでに回収した 38 万元の中で、 前倒し返済したのは 34.4 万で、利息収入も 11802 元あり、支出の 9 千元をカバーできた。確定貧困戸の場 合利息が 5 割減免され、彼らの借入は全体の 10%を占めている。貸出は殆どお茶産業向けであり、政府は 種苗を提供し、技術指導を行う。多くの村民は二つのお茶生産の専業合作社に出資している。現在茶葉加 工場は資産額 80 万弱で、村の 9 割の茶を加工できる。合作社を通し年 60 万元の増収になる。貧困戸は資 金を得て、技能を習得し、人平均収入が 900 元から 1900 元に増え、10 世帯が脱貧した。農民全体の収入 も平均で 3257 元から 3563 元に増加した。農民たちは仕事に励み、村の治安も良くなった。問題点として、 ①借入金額上限が低いため、金持ちは入社しない。② 4 か月目から毎月少しずつ返済するため、煩雑である。 現在は 6 月後から返済が始まり、問題が緩和された。 農家 1:金万秀、女、40 代、家族 7 人。2007 年一人当たりの収入は 900 元。2008 年 3 月に 3 千元借入し、 肥料を購入、お茶が増産し、当年茶園の収入は数千元から 1 万元以上に達した。2 千元を出資金として茶 加工合作社に加入し、茶園の面積も土地整理で 5 畝から 8 畝。現在茶の収入は 2.5 万元に達している。出 稼ぎや竹林の収入に合わせると 10 万元を超える。 農家 2:張中富、男、40 代。2008 年(茶園肥料資金)3 千元を借り、政府の技術指導を受ける。2 千元 を茶園加工合作社に投入。義理娘は出稼ぎから戻り、15 畝の茶園の仕事を手伝っている。一人当たりの年 収は 4 千元弱から 6-7 千元に上った。互助社の手続きが簡単便利で、随時に借入できると評価。 農家 3:曹加好、男、50 代。お茶の肥料・管理費用と茶園の農具を買うため、2008 年 3 千元を借り、以 来計 9 千元を借りた。4 畝で 1.5 万元の収入、その他合わせると 4 人で約 4 万元弱収入。数回借入の理由 は便利さ(信用社が遠く、休日もあり)からという。 ケース 2:炭庫郷茶林村に常駐世帯は 241 戸 864 人、確定貧困戸は 11 戸、極貧戸は 8 戸あり、2010 年 6 月に互助会を設立した。現在 122 世帯 18 グループが入会、貧困戸は 100 元、一般戸は 200-400 元を払い、 入会金は 3 万元である。政府資金は 12 万元で、開業費 3 千元である。今年の 8 月末まで 59 回計 12.35 万 の貸出があり、貸出残高は 8.35 万元で、利息収益も 1800 元がある。確定貧困戸は 3 回で計 4 千元を利用 した。貸出は主に養殖業(豚、うさぎ、魚)と竹林業をサポートする。村は竹林の肥料の使用や生産管理 について統一的に指導している。増産により、農民の平均収入は 2009 年の 3 千から現在の約 4800 元に増 えた。なお、貧困戸向けの利息は 1%低い。問題点として、①養殖業にとっては借入額が少ない。多くの
人は信用社から借入れる。②資金社の資金の返済が早く、農業産業の生産期が長いので、間に合わない。 農家 1:胡其淀、男、40 代、家族 4 人、長男が出稼ぎ。3 千元借入で果樹 5 畝の肥料と科学管理用、来 年果物の収入は 4 万元になる。竹や豚の養殖でひとり当りの平均収入は 5 千元も超える。互助社の手続き は煩雑だが、家の傍で、便利だと評価。 農家 2:楊栄斉、男、50 代。茶園と田圃計 20 畝。去年 2 千元借入し 5 頭の子豚を購入、4 頭を売り、1.5 万元の収入があり、豚だけの純収入は 8 千元以上あった。互助社での借入が少額で、返済も早いとやや不満。 農家 3:唐明順、男、30 代。第 2 グループ(30 戸の自然村)組長で、竹林の科学管理を推進している。グルー プ内 6 世帯が借入有。本人も去年の 6 月に 2 千元借入し、グループひとり当りの平均収入は 2009 年の 2-3 千元から現在の 5 千元に上昇。資金量は少ないものの利息が低いと互助社を評価。最大の利点は、資金を 使って農家を産業発展の方向へ組織・誘導し、グループ内生産活動の競争と互助の雰囲気をもたらしてい る。農家が借入金を梃にさらに竹林に投資し、肥料の使用や管理の強化をしたことにより、竹の生産量は 3 割以上増えた。 総じて沐川県の経済規模と農業発展のレベルにより、金融機関の数は少ない、信用社を中心に 農家に貸し付けを提供しているものの、僻地にある多数の貧困村をカバーしきれない。農家の不 便の解消と小額なニーズを満たすために、財政支持の農民資金互助は重要な役割を果たしている。 各村は少ない資金と村の産業発展を結びつけ、有効的に運用している。その経済的・社会的効果 は大きい。勿論ここでも全国と同様な農村金融共通的課題も存在する。資金互助社の資金量は少 なく、農民の期待金額は満たさないケースが多い。互助社の経済的継続可能性及び自立性をどう 確立するのかも大きな課題である。現時点で、政策的に指定した正規金融機関による資金互助組 織への卸貸出や追加財政投入による資金拡充策が考えられる8。
5.甘粛省崇信県のケース
甘粛省崇信県は平涼市に属し、省東部の黄土高原に位置している。県には 6 つの郷鎮があり、 総人口は 9.6 万で、8割は農業戸籍人口である。県の経済は近年石炭採掘と大型発電所の建設によっ て急速に伸び、甘粛省の経済優等生になりつつある。2010 年の産業構造(GDP 割合)比は 22: 61:17 である。しかし表 5 で示されたように、農民の平均収入はまだ全国の平均水準よりかなり低く、 伝統的農業県である崇信の三農問題は依然として大きい。 表 5 「崇信県国民経済と社会発展統計公報」による関連データ(単位億元、農民収入は元) 年度 GDP 預金残高 家計預金 貸出残高 農業貸出 農民向け短期貸出 農民平均純収入 2006 7.38 4.86 3.48 0.85 2012 2007 8.73 5.93 3.04 0.643 2133 2008 11.46 8.48 5.89 3.482 2470 2009 14.01 12.28 7.5 6.51 2803 2010 17.39 16.55 9.65 8.62 1.3259 3253 崇信県では 2000 年前後に、工商銀行と建設銀行が撤退し、農業銀行も郷鎮にあった 10 店舗を 1 店舗だけ残した。当該県は 2001 年頃に深刻な不良債権の問題を抱え、当時の農業銀行も毎 年 400 万以上の赤字を出し続けた。2006 年三つの郷鎮 11 村での調査では、店舗数が極めて少な く、また農村信用社が毎年の 8-9 月以後に資金を回収するため、秋冬の農村の結婚や家庭消費が ブームの中、農家は民間貸出に頼らざるを得なかった。民間金融は盛んで、多くが利息付けであり、 利息が同時期の金融機関の 2.3-3.8 倍で、5 倍もあった。ある鎮の信用社主任の推測では、その時 期鎮内だけでも民間貸出額が 800 万元前後あった9。 現在、信用社は 15 の店舗を、農業銀行は街内 2 店舗と郷鎮 1 店舗をもつ。郵貯も 3 店舗ある。 県信用社は農村金融の主力軍であり、多くの農家に対して信用査定を行い、信用貸付を行っている。 その農家貸付残高が約 8 千万元である。しかし信用社の独立性が低い。例えば信用社は 2009 年 から省全体で推進した女性向けの小口貸付(県財政担保で利子一部補填)を 2010 年に強力に推 進し、野菜栽培や家畜養殖の女性に延べ 1.2 億元を貸し出したものの、今年その業務を突然停めた。 金融の引き締め政策により信用社の管理が厳しくなり、また財政の負担も重く、カットされたと聞 いている。なお、信用社はグループ担保を利用せず、主に公務員担保方式を利用する。 農業銀行の業務は近年殆ど県内大企業に向けている。2008 年、農業銀行は八つの省での実験に 従い、農家向けの小口貸付を行った。最初は公務員担保と 5 人グループ担保で貸付を行ったが、 グループ担保制度は実験開始の 2 月後にすぐ廃止された。省金融当局の調査で、農家の大半がグ ループ担保を単なる名義貸しだけだと思い、いざ借入者が債務不履行したときに連帯責任を負い たくないとの思惑がわかり、これではグループ担保のリスクが高いと判断したためである。農業銀 行は 2008 年に 2 千世帯に約 6 千万の小口貸出を行ったが(農家向け 60%)、以降小口貸付を殆ど行っ ていない。とりわけ今年の引き締め政策により、貸付が市支店に厳しく制限されたため、小口貸付 はすべて停止している。なお、郵政貯蓄の小口貸付も 8 月末の残高は 13 万元しかないので、殆ど 業務がない。 そこで登場したのは民間金融組織である。宜信公司は中国で P to P 業務10を率先して展開して いる新型金融仲介組織である。会社は主に都市部の消費者と零細企業向けに金融仲介を行うが、 09 年から陝西省・河北省等のマイクロファイナンス NGO と提携し、農村の貧困女性向けの小口 貸出「宜農貸」を始めた。2010 年 11 月末に会社は崇信県に進出し、農村女性向けの小口貸付業 務を自社単独で始めた(2011 年 4 月 22 日崇信分公司を正式に設立)。因みに県金融弁公室は事業 への支持を表明したが、一切の金融及び財政の優遇政策を提供しない立場を取っている。 崇信での「宜農貸」プログラムは、① 20-58 歳の労働能力のある結婚した女性、②連帯責任を 持つグループの結成(5 人)、という二つの条件で貸出を行う。実物財産の担保や抵当が必要とせ ず、すべての手続き及び貸出と返済も農家の家で行うことができるので、極めて簡単・便利である。 一般的な方式は、農家が友達の口コミや紹介で申請し、会社側が信用調査の後、グループ全員の 信用知識の測定と訓練を行い、そのうえ貸付意向報告書を作り、本社関連部門の審査で許可が下 す、というものである。殆どのケースでは、メンバー 5 人がすべて借入し、合計 5 万元をグループ 内の申請者一人に再貸付することで、申請者はこれで 5 万元を借り入れるのである。以上のように、
「宜農貸」は信用社と比べて便利さがあり、塁大戸で最大 5 万元が簡単に借入れるため、月利息が 1.25%で信用社より高いものの、一定の人気を得ている。特に最近の金融引き締め政策の実行で信 用社の貸付業務が制限されている中に、宜信は急速に業務を拡大し、去年の年末から今年 8 月まで、 137 戸の農家に 637 世帯の名義で合計約 630 万元を貸し出した。 筆者は 2011 年 9 月初旬に宜信公司の貸付営業員に同行し、五つの村の 5 世帯の農家を訪問した。 表 6 は訪問農家の概要をまとめている。 表 6 「宜農貸」の貸出ケース 借主名 信中華 保娜娜 李小峨 朱喜梅 楊喜梅 訪問目的 事前調査 貸出金の送付 貸出金の送付 貸出後状況確認 貸出後状況確認 基本状況 30 代後半、住宅 建 設 用、借入希 望 額 3.5 万。 旦 那が小 額なら借 りなくでもよいと いう。 20 代 後 半、5 人 グループで 5 万元 を 借 入。 旦 那 が 建 築 業 経 営、 砕 石機械を購入する ため。グループ全 員に再確認し、お 金を配った。 20 代、グループ 5 人で 5 万元を借入。 全員確認。旦那が トラック購 買 用。 すでに父と旦那が 1 台交代で石炭運 輸業を営む。年収 5 万超。 50 代、旦那と二男が養鶏 場 経 営 用。1500 羽( 烏 骨 鶏150 羽)、期待年収 5 万 元、ほか農業収入 2.1 万 元、牛 6 千元。旦那が 9 年前村長で村のために信 用社から借金、一部未返 済。信用社が融資せず。 30 代、親戚の貧困戸朱春 艶借金希望 2 万元。朱春 艶、女、20 代、お父さんと生 活、結婚のため住宅を建造 中、審査で 1.5 万元。宜信 が彼女の就職先を斡旋し てあげた。 以上の 5 件の貸出に、2 件は生活性需要(住宅建設)の借入であり、農民収入の低いところで はまた一部の農家に生活性の金融需要があるいう実態を反映している。一方、3 件は養殖や工商 業などの専業戸による借入であり、その需要額も大きい。これは発展の遅れている西北部でも農 村産業の変化及び専業化の進展がそれなりに進んでいることの表しである。 崇信県の農村金融の現状をまとめてみると、正規金融機関の数は少なく、農業銀行も農家への 貸付を行っていない。また、金融機関が政策の影響を受けやすく、見合ったサービスの提供が困 難な面もある。農家の金融意識や組織化程度も低いため、グループ担保制度は正規金融機関に使 われない。しかし、民間の金融組織はここで役割を十分に発揮できる。民間金融組織は農民のニー ズ特に「塁大戸」に柔軟に対応するため、専業戸により多くの資金を提供し、農村の専業化・規 模化経営に貢献している。その農村金融への補完的役割が大きい。勿論、このような民間の金融 組織をいかに監督するのかなど潜在的問題がある。また経営の面から見れば、利息が割高で、一 旦正規金融機関が本格的に農村金融に向けると、民間組織が対応しきれるかどうかは疑問である。 民間金融組織は専業合作社や竜頭企業との提携で組織内の農家に集中的に貸出することができれ ば、単位コストを低く抑え、正規金融機関と競争することも十分可能だと考えられる。
6.まとめに
本稿は中国の農村金融の変化と現状を分析した後、重点的に中西部の三つの地域の県の農村金 融の実態を分析した。本稿の基本的結論は、目下農村においては多様な金融供給の主体が増え、 それが全体的に金融供給不足の状況を緩和させていることである。また、農業近代化の流れの中に、 金融機関が新たな商品を開発し、農家の産業化と規模化経営のニーズに対応する努力も多くみられる。ただし経済発展のレベルの異なる地域では、農村金融の在り方が大きく分化している。よっ て農村金融が農業の近代化を誘導・促進する力と効果もかなり異なっている。 松滋市のような農業の近代化が割に進んでいるところでは、正規金融機関が農村金融の市場で 競争しているし、専業農家の金融満足度も以前より高くなっている。一方発展の遅れている地域 では、信用社以外の正規金融機関の農村金融への意欲がやはり弱い。沐川では、農民中心の農村 資金互助社は補完的役割を発揮し、その経済的・社会的効果は大きい11。崇信のような農村貧困 地域においては、農民の産業化・組織化レベルが低く、正規金融機関の意欲と能力も足りないので、 さらに宜信のようなマイクロファイナンスの力を発揮することも重要である。宜信はインターネッ トを用いて都市から資金を集めてそれを農家に貸し付け、貧困地域の農家の生活・生産など多様 な金融ニーズに対応している。これは都市が農村を支援する格好なタイプであろう。 以上のように、筆者は近年の農村金融の地域毎の特徴とその格差を留意しつつ、総じて農村金 融が農業の近代化に適応する面を好意的に評価する。しかしながら、筆者は決して調査で発見し た問題を楽観視できないと思う。一般的に言う農村金融の困難さ(例えば小口分散で、情報の非 対称性の問題や農業生産のリスクの問題など)だけではなく、中国特殊の土地所有制度により抵 当付けの大口貸付の品目が少ない問題、そして農村の資金互助組織やマイクロファイナンス組織 の経済的持続可能性の問題等々、いずれも一層の規制緩和と政府の優遇策がなければ解決できな い問題である。また、貧しい地域においては、農民の合作を中心とする資金互助金融やマイクロファ イナンスに対して参入規制の一層の緩和が必要であろう。 勿論農民の生産要素の全面的合作を促し、綜合農協の形で、中国の農村金融の在り方を抜本的 に変えていくという議論もあるが12、中国の政治・行政システムによる制約、また従来の金融シス テムの制度的経路依存性があるため、現段階ではこのような発想は現実性が欠けていると思われる。 農村の近代化に適している金融制度は、やはり政策金融・商業金融・信用合作金融の組み合わせ の枠組みの中でしか求められない。そこで画一的な農村金融の管理と規制をすべきではなく、一元 化した金融監督・管理権限を地方に一部を委譲し、各地域にあった農村金融の供給モデルを地域 内部でより自由に、内生的構築させることは、農村の現代化や農民増収にとっては必要であろう。 謝辞: 本稿は科研費基盤研究 B「中国西部地域農村近代化に関する調査研究─土地・労働力・産業化・ インフラを中心に─」の研究成果の一部である。計 9 回の現地調査で関係者の方々から多大 な支援と配慮を頂いた。また、本稿はシンポジウム「中国中西部地域の農村近代化について」 で報告された際、座間紘一、戴旭宏氏から有益な意見を頂いた。記して謝意を表したい。 注 1 農村金融に関する統計が近年まで一致した指標が設定されていない。中国人民銀行は2007 年に、農業関係貸付(渉 農貸款)を農家向け貸付、農村企業及び他の経済組織向け、都市農業企業及びその他の経済組織向けと分けた。 2 筆者はこれらの批判意見に首肯できる部分があるものの、賛同できない部分も多い。紙幅の制限によりその批判 的検討は稿を改めて論じたい。
3 韓俊等(2009)、龔明華等(2009)はそれぞれ国務院研究中心と銀行監督管理委員会が実施したグループ研究の 成果であり、劉玲玲等(2007-09)は清華大学経済管理学院の三年間大規模研究の成果をまとめている。 4 銀監会の公式ページによると、2007 年農家 2.3 億世帯の中で、金融機関から借金している農家は 7800 万世帯で、 33%を占めている。 5 筆者の所属している研究グループによる 2007 年の湖北省石首市、四川省井研県の調査を見ると、両市県共に農 家の借入要望が低く(石首で 9 割を超える人は借りたくない)。また生活性需要が生産需要よりずっと低い。借 入の 7 割が民間に依存する。両市県は、本文の調査対象である松滋、沐川とそれぞれに隣接しているため、松滋市、 沐川県の当時の農村金融の状況とそれほど変わらないと考えられる。なお、郭暁鳴等(2010)は 2006 年に四川 省温江・大邑で行った調査でも金融ニーズの低さを明らかにしている。 6 政府と監督部門の様々な優遇策についての詳しい紹介は、人民銀行(2008,2011)以外に、岡崎(2010)等の日 本語文献がある。 7 農業銀行と郵貯の情報は各社 Web による。他は人民銀行(2008,2011)、人民銀行と銀監会 Web による。 8 戴旭宏等(2009)は、四川省農村資金互助社のメリットと問題点を詳しく纏めている。 9 「対崇信県民間融資情況的調査与思考」http://bbs.chinacourt.org/index.php?showtopic=190765. 10 インターネットでプラットフォームを構築し、余剰資金を持つ個人から資金を集め、資金需要の個人に貸出を仲 介する業務。 11 資金互助社の経済的・社会的効果が大きく、『中国農村金融服務報告 2010』によれば、09 年では全国 980 以上 の県において財政中心の扶貧資金互助社が設立されている。 12 例えば周(2010)は、農村の社会共同体、生産共同体と金融共同体を内生的に発展させ、経済的余剰、利潤と金 融余剰を循環的に共同体の中に利用するモデルを提起している(pp.56 - 58)。王(2010)も、全経済過程・全 生産要素の農民合作を唱えている(pp.206 - 215)。 参考文献 戴旭宏等(2009)、『貧困村村級互助資金:財政扶貧新機制』四川省社会科学院報告書 龔明華等(2009)、『我国農村金融需求与金融供給問題研究』経済科学出版社 郭暁鳴等(2009)、「第 3 章 深化農村金融改革」郭暁鳴編『四川農村発展報告』四川人民出版社 韓 俊等(2009)、『調査中国農村上、下』中国発展出版社 黄宗智(2009)、『経験与理論 中国社会、経済与法律的実践歴史研究』 中国人民大学出版社 農業部農村経済研究中心(2010)、「2010 年中国農村政策実行報告」『中国農村研究報告 2010』中 国財政経済出版社 劉玲玲・楊思群等(2007)、『中国農村金融発展研究 2006』清華大学出版社 劉玲玲・楊思群・趙冬青等(2008)、『中国農村金融発展研究 2007』清華大学出版社 劉玲玲・楊思群・姜朋等(2009)、『中国農村金融発展研究報告 2006-2010』清華大学出版社 王曙光(2009)、『郷土重建─農村金融与農民合作』 中国発展出版社 中国人民銀行(2009)、『農戸借貸情況問巻調査分析報告』経済科学出版社 中国人民銀行農村金融服務研究小組(2008)、『中国農村金融服務報告 2007』 中国人民銀行農村金融服務研究小組(2011)、『中国農村金融服務報告 2010』 周 立(2010)、『中国農村金融:市場体系与実践調査』中国農業科学技術出版社 岡嵜久実子(2010)、「中国農村金融制度改革の現状と課題:銀行業金融機関の再生と三農政策に 呼応した取組みの中間評価」日本銀行『金融研究』2010, 4.