口腔扁平上皮癌に対するタキソテールのアポトーシ
ス誘導機構
著者
力石 秀実
口腔扁平上皮癌に対するタキソテールのアポトーシス誘導機構
平成16年度∼平成18年度科学研究費補助金
(基盤研究(B))研究成果報告書
平成19年5月
研究代表者 力 石 秀 実 東北大学大学院歯学研究科助教授 16390577は し が き 口腔扁平上皮癌は強い局所浸潤能や頸部リンパ節転移能を有し、臨床上重大 な予後不良の疾患である。口腔扁平上皮癌に対する術前化学療法は腫瘍細胞の 増殖活性を制御し、腫瘍容積を縮小させることにより根治療法の効果を高め、 治療成績の改善を図ることを目的として行われてきた。しかしながら、術前化 学療法効果と治療成績の関係については、充分な評価が得られていないのが現 状である。この原因として、抗癌剤の癌細胞に対する作用機構の解析が遅れて いることがあげられる。新規のタキソイド系抗悪性腫瘍剤であるタキソテール は、同系のタキソールよりも口腔扁平上皮癌に有効であることが報告され、今 後、有望な抗癌剤であるが、癌細胞に対する作用機序は不明な点が多い。本研究 は基盤研究(B)の科学研究費補助金(平成16∼18年度)を得て、タキソテール や他の有効抗癌剤の口腔扁平上皮癌由来細胞株に対するアポトーシス誘導機構、 主にFas/FasL(リガンド)経路の関与、ミトコンドリアの関与、カスパーゼ経路に ついて、分子レベルで解析し、タキソテールの臨床応用に備え、抗腫瘍効果の理 論的根拠を提示することが目的である。 3年間の研究期間のうち平成16年度は、最初に口腔扁平上皮癌由来細胞株 であるHSC−2,−3,−4細胞を用いて、これに異なる濃度のタキソテールを加えて、 経時的にアポトーシスを観察し、アポトーシス解析のための処理条件を決定し た。タキソテール以外のアポトーシス誘発剤(セレニウム化合物、タキソール、 シスプラチン)についても比較のため同様に検討した。また、一群のカスパーゼ はDNAを断片化する分解酵素を活性化するためのシステイン・プロテアーゼで あり、アポトーシスの惹起のためには必須の酵素である。したがって、どのカ スパーゼ・カスケードを介してアポトーシスが誘発されるのかを決定すること は重要であるので、活性化カスパーゼの生成に対するタキソテールの効果を調 べた。次に、一般に抗癌剤は転写因子であるNトKBを活性化することが知られ ているが、活性化NF一KBはアポトーシスの促進あるいは抑制遺伝子の重要な制 御因子となるので、これを解析した。特に、タキソテールに対するアポトーシ ス感受性に深く関わることが予想されるので、NF一KBの活性化レベルを各細胞 間で比較・検討した。NトkBの上流のシグナル伝達経路では多種類のキナーゼ が関与し、これをコントロールすることが指摘されている。我々はこのうち、 MAPキナーゼ(p38,ERK,JNK)に注目し、MAPキナーゼがアポトーシスを制御 している可能性を検討した。また、PI3/Aktキナーゼについては、CaSpaSe−9の活 性を阻害し、アポトーシスを抑制する可能性について検討した。 平成17年度はミトコンドリアを中心に解析を行った。細胞内のミトコンド
リアがアポトーシス経路の中心的位置にあることが認識され、今までに発表さ れた多くの研究が再検討されている。タキソテールによるアポトーシス誘導に もミトコンドリアが関与し、重要な役割を担っている可能性は大きい。また、 新規抗癌剤の開発にはミトコンドリアに対する作用を決定することが必須であ る。タキソテールがミトコンドリアに及ぼす影響を調べるために、ミトコンド リア内での活性酸素の生成に対する効果を検討した。活性酸素は、ミトコンド リア膜電位の低下、チトクロームCの放出、CaSpaSe−9の活性化につながる重要 な因子である。チトクロームC放出のためのミトコンドリア膜電位の低下がタ キソテール処理により起こるかどうかを調べた。さらには、抗癌剤によるミト コンドリアの損傷に始まるcaspase−9、CaSpaSe−3、CaSpaSe−8の順次活性化、Bid の切断、Bidのミトコンドリア膜への転位、ミトコンドリアでのアポトーシス・ シグナルの増強というamplincationloopの存在の可能性を検討した。 平成18年度は、アポトーシス・シグナルによるミトコンドリアの損傷は最 終的にはチトクロームCの放出を引き起こすと考えられるので、これを検討し た。チトクロームCはカスパーゼ(特に、CaSpaSe−9)と親和性があり、その活性 化に働くことを予想し、これを検討した。また、チトクロームCによるcaspase−9 の活性化に、チトクロームC と同様にミトコンドリアより放出されるAIFや ApafLlが関与するのかどうかについても調べた。また、本研究の遂行中に、タ キソテールを含む化学療法剤に対する耐性癌の出現が予想され、抗癌剤の副作 用とともに克服すべき重要な問題として浮上した。これに対して我々は、ヒス トン脱アセチル化酵素やアポトーシス遺伝子のプロモーター部位のメチル基転 移酵素などによる遺伝子発現の制御、すなわち最新のepigeneticsの考えを取り 入れ、これらの阻害剤と抗癌剤との併用による抗癌効果の増強による耐性癌の 克服に着手し、多くの成果が得られた。 以上の結果より、タキソテール、セレニウム化合物、タキソール、シスプラ チンなどの抗癌剤の口腔扁平上皮癌細胞に対する殺癌細胞効果の中心はアポト ーシス誘導能であり、本研究によりその詳細な機構が解明された。さらに、こ れらの抗癌剤についてepigenetics制御因子との併用によるアポトーシス経路の 増強の解析を進めた。本研究計画の当初の研究目的は果たしたものの、さらに 化学療法における耐性癌、副作用の問題が残り、引き続きこれらのテーマに対 する研究を進める予定である。なお、得られた結果については当該論文を本冊 子に研究成果として挿入した。
研 究 組 織 研究代表者 研究分担者 研究分担者
交付決定額(配分額)
実 志 亘 秀成 石 復 元 力 越 橋 (東北大学大学院歯学研究科助教授) (東北大学大学院歯学研究科教授) (東北大学病院助手)(金額単位:円)
直 接 経 費 間 接 経 費 合 計 平 成 1 6 年 度 4 ,00 0 ,0 0 0 0 4 ,0 0 0 ,0 0 0 平 成 1 7 年 度 3 ,10 0 ,0 0 0 0 3 ,1 0 0 ,0 0 0 平 成 1 8 年 度 3 ,3 0 0 ,0 0 0 0 3 ,3 0 0 ,0 0 0 総 計 1 0 ,4 0 0 ,0 0 0 0 1 0 ,4 0 0 ,0 0 0 研 究 発 表(1)学会誌等
1.H.Rikiishi ApossiblemitochondrialpathwaylntaXane−inducedapoptosisL CurrentTrendslmmunol.6:97−110,2004年 2・T・Taniguchi,M・Takahashi,F・Shinohara,T・Sato,S・Echigo,H・RikiishiInvoIvement ofNトKBand mitochondrial pathwaysin docetaxel−induced apoptosisofhumanoralsquamouscellcarcinoma. Int.J.Mol.Med.15(4):667−673,2005年4月
3.力石秀実
シスプラチン化学療法における新展開 東北大歯誌 24(1):1−15,2005年6月 4・M・Takahashi,T.Sato,F.Shinohara,S.Echigo,H,RikiishiPossible role ofglutathionein mitochondrial apoptosis of human oral SquamOuSCellcarCinomacausedbyinorganicseleniumcompounds.
Int.J.Oncol.27(2):489−495,2005年8月
5・T・Sato,M.Suzuki,Y.Sato,S.Echigo,H.Rikiishi
inhibitorsinhumanoralsquamouscellcarCinomacells. ImHOncol.28(5):1233−1241,2006年5月
(2)口頭発表
1.佐藤友規、高橋正任、越後成志、力石秀実
セレニウム化合物のアポトーシス誘導能に対するグルタチオンの役割. 第58回日本細菌学会東北支部総会(平成16年8月19∼20日)2.佐藤友規、高橋正任、越後成志、力石秀実
口腔扁平上皮癌におけるSelenium化合物のアポトーシス誘導能に対す るGlutathioneの役割. 第46回歯科基礎医学会(平成16年9月23∼25日)3.高橋正任、佐藤友規、鈴木麻衣子、力石秀実
Selenium化合物のアポトーシス誘導能の解析:ミトコンドリア経路にお けるグルタチオンの役割. 第34回日本免疫学会学術集会(平成16年12月1∼3日)4.佐藤友規、佐藤義太郎、鈴木麻衣子、篠原文明、越後成志、力石秀実
口腔扁平上皮癌に対するシスプラチンのアポトーシス誘導能の増強. 第59回日本細菌学会東北支部総会(平成17年8月25∼26日)5.佐藤義太郎、鈴木麻衣子、青井あつ子、渡遽夕紀子、篠原文明、五重査
塞、森 士朗、小玉哲也
ソノポレーションを用いた薬剤導入と抗腫瘍効果.
第30回日本超音波医学会東北地方会(平成17年9月25日)
6.佐藤友規、佐藤義太郎、鈴木麻衣子、篠原文明、越後成志、力石秀実
ヒストン脱アセチラーゼ阻害剤による抗癌効果の増強. 第47回歯科基礎医学会(平成17年9月28∼30日)7,佐藤友規、佐藤義太郎、鈴木麻衣子、篠原文明、力石秀実
Enhanced sensitivlty Oforalsquamous cellcarCinoma cellsto cISplatin by histonedeacetylaseinhibitors.
8.佐藤義太郎、佐藤友規、篠原文明、西村謙太郎、越後成志、力石秀実
シスプラチンとヒストン脱アセチラーゼ阻害剤によるアポトーシス増 強. 第60回日本細菌学会東北支部総会(平成18年8月24∼25日)9.佐藤義太郎、佐藤友規、篠原文明、西村謙太郎、越後成志、力石秀実
シスプラチンとヒストン脱アセチラーゼ阻害剤との併用によるアポト ーシス増強のメカニズム 第48回歯科基礎医学会(平成18年9月21∼23日)10.佐藤義太郎、佐藤友規、篠原文明、西村謙太郎、力石秀美
SensitizationforcISPlatin−inducedapoptosisbyhistonedeacetylaseinhibitors inhumanOralsquamouscellcarcinomacells. 第36回日本免疫学会学術集会(平成18年12月11∼13日)TOUR : Tohoku University Repository コメント・シート 本報告書収録の学術雑誌等発表論文は本ファイルに登録しておりません。なお、このうち東北大学 在籍の研究者の論文で、かつ、出版社等から著作権の許諾が得られた論文は、個別にTOUR に登録 しております。 TOUR http://ir.library.tohoku.ac.jp/