Ciprofloxacin増量に伴い軽快した重症レジオネラ肺炎の1例
橋 爪
裕, 鈴 木 邦 明, 川 田 忠 嘉
遠 藤 克 明, 堀 江
夫, 滝 瀬
淳
要 旨 症例は 38歳, 男性. 主訴 : 発熱, 構音障害. 2010年 6月初旬から発熱と感冒症状を認め, 同月中旬に構音障 害が出現し近医を受診した.受診時,胸部 X 線写真で右下肺野に浸潤影を認めた.レジオネラ尿中抗原は陰性 であったが, 入浴施設職員であったことからレジオネラ肺炎が疑われ同院へ入院した. 翌日, 急激な意識障害 と呼吸状態悪化のため当院へ転院となった. ヒメネス染色やレジオネラ尿中抗原は陰性であったがレジオネ ラ肺炎を疑いシプロフロキサシン (Ciprofloxacin; CPFX) の投与を行った.経過中に喀痰培養にてレジオネ ラ血清型 2が検出されレジオネラ肺炎と診断した. CPFX600mg/dayにより治療を開始したが効果が得られ ず 1200mg/dayに増量を行ったところ症状は改善した. CPFX の投与法としては十 な抗菌効果から える と AUC (area under the curve)と Cmax(maximum concentration)を指標とすることが重要である.日本での 用量設定は海外の用量設定に比べ少なめであり本例のような治療効果の乏しい例には CPFX 増量の検討が 必要と える.(Kitakanto Med J 2011;61:169∼174) キーワード:レジオネラ肺炎,レジオネラ血清型 2,ヒメネス染色,レジオネラ尿中抗原,シプロフロキサ シン 緒 言 レジオネラ肺炎は尿中抗原キットの開発により日常診 療で診断される機会が増えてきている. しかし欧米でも その多くが依然見逃されているとも言われており 特徴 的臨床所見を知らなければ診断の難しい疾患である. 本 症は主に Legionella pneumophila により引き起こされ血 清型 1が最も多いが約 40%である. 日常診療で 用さ れる尿中抗原キットは血清型 1の診断には有効であるが その他の血清型には有効でないことも念頭に置いた診療 が必要である. また治療においても欧米と日本では CPFX 量の異なる点を 慮する必要がある. 【症 例】 38歳, 男性. 【主 訴】 発熱, 構音障害. 【既往歴】 特記事項なし. 【職 業】 入浴施設職員. 【家族歴】 : 脳梗塞. 【現病歴】 2010年 6月初旬から発熱と感冒症状を認め, 同月中旬に構音障害が出現し近医を受診した. 受診時, 胸部 X 線写真で右下肺野に浸潤影を認めた. レジオネラ 尿中抗原は陰性であったが, 入浴施設職員であったこと からレジオネラ肺炎が疑われ同院へ入院した. 翌日, 急 激な意識障害と呼吸状態悪化のため当院へ転院となっ た. 【嗜 好】 喫煙 : 20本×20年, 飲酒 : 3合/日. 【体 格】 身長 : 175cm, 体重 : 105kg, BMI : 34. 【入院時現症】意識 : Japan Coma Scale: 200, 体温 : 37.3℃, 血圧 : 139/74mmHg, 脈拍 : 91/ ・整, 呼吸数 : 36/ , SpO 97% (face mask : FM 6 L/min).眼瞼結膜 : 血なし,眼 球結膜 : 黄疸あり. 頸部 : リンパ節腫脹なし. 胸部 : coarse crackle著明, 心雑音なし. 腹部 : 明らかな異常な し. 体幹四肢 : 浮腫なし, 皮疹なし. 1 群馬県前橋市朝日町3-21-36 前橋赤十字病院呼吸器内科 平成23年1月6日 受付 論文別刷請求先 〒371-0014 群馬県前橋市朝日町3-21-36 前橋赤十字病院呼吸器内科 橋爪 裕
【入院時検査所見(表1)】 血液検査において好中球優位の白血球数高値, そのほ か凝固異常, ビリルビンの上昇と肝機能異常, 腎機能異 常,横紋筋融解症,CRPの高値を認めた.喀痰グラム染色 では, 口腔内細菌の貪食像を認めた. ヒメネス染色は陰 性, レジオネラ尿中抗原も陰性であった. 肺炎球菌尿中 抗原陰性, マイコプラズマ抗体陰性であった. 動脈血液 ガス 析では FM 6 L/min下で PaO 94mmHg と低酸素 血症を認めた. 【入院時胸部X線写真(図1)】 胸部 X 線ではリンパ節腫脹や胸水は認めず右中下肺 野広範にスリガラス影 (→) と浸潤影 ( ) を認めた. 【入院時胸部CT写真(図2)】 胸部 CT 画像では, 右肺下葉と一部中葉にエアーブロ ンコグラムを伴うスリガラス影 (→) と浸潤影 ( ) を認 めた. 図 2にはないが左下葉や舌区にもスリガラス影を 伴う浸潤影を認めた. 高用量 CPFX 奏功レジオネラ肺炎の 1例 図1 入院時胸部 X 線 リンパ節腫脹や胸水は認めず右中下肺野広範にスリ ガラス影 (→) と浸潤影 ( ) を認める. 表1 入院時検査所見 血算 WBC 11.900/μl Neut. 80% Ly. 6% RBC 408×10 /μl Hb 12.6 g/dl Ht 36.2% Plt 21.2×10 /μl 生化学 TP 6.4 g/dl Alb 2.5 g/dl T-Bil 3.3 mg/dl AST 388 IU/l ALT 264 IU/l ALP 265 IU/l γ-GTP 168 IU/l LD 1321 IU/l BUN 39 mg/dl Cre 1.7 mg/dl Na 141 mEq/l K 2.9 mEq/l Cl 106 mEq/l Ca 8.2 mg/dl CK 7990 IU/l CK-MB 4.3 IU/l CRP 49.5 mg/dl 凝固 PT 13 sec APTT 40.8 sec Fib 1305 mg/dl AT Ⅲ 72 mg/dl D-dimer 18.9 μg/ml 細菌検査 喀痰ヒメネス染色 陰性 レジオネラ尿中抗原 陰性 尿中肺炎球菌抗原 陰性 マイコプラズマ抗体 陰性 動脈血液ガス 析 (FM 6L/min) pH 7.44 pCO 33 mmHg pO 99 mmHg HCO 22 mEq/L BE −1.2 図2 入院時胸部 CT 右肺下葉と一部中葉にエアーブロンコグラムを伴う スリガラス影 (→) と浸潤影 ( ) を認める. 170
【臨床経過(図3)】 入院後, 直ちに気管内挿管による人工呼吸管理を開始 した. レジオネラ尿中抗原陰性, 喀痰ヒメネス染色陰性 でレジオネラは明らかではなかったが重症肺炎に対しエ ンピリックに CPFX,メロペネム (Melopenem; MEPM) を開始した. その後, 症状が増悪傾向のため MEPM の増 量を行った. また肝機能異常をはじめとした多臓器不全 があることからリケッチア症なども鑑別に挙げミノサイ クリン (Minocycline; MINO) の併用も開始した. その 後も改善が得られなかったがレジオネラ肺炎を疑ってい たため CPFX600mg/日から 1200mg/日へ増量した. 第 8 病日にはレジオネラ血清型 2が喀痰培養にて検出されレ ジオネラ肺炎と診断し順次 MEPM, MINOを中止し CPFX の継続により症状は軽快した (図 4). 察 レジオネラ肺炎は, 土壌細菌である Legionella 属菌に よって発症する特殊な細菌性肺炎であり 1976年に初め てフィラデルフィアにおいて集団発生が報告され, 日本 においては 1981年に第 1例が報告された. その後本症 の報告は年々増加し年間 800例ほど報告されている. 1999 年の感染症予防法施行によりレジオネラ肺炎は全 数報告対象となった. レジオネラ肺炎の潜伏期間は 2 ∼10日間で, レジオネラに汚染されたエアゾルを吸入し て突然の高熱や呼吸器症状で発症する. 初診時に確定診 断につながる臨床所見を確認することは容易ではないが 経過中に以下に述べる特徴的所見から本症を疑うことは 可能である. レジオネラ肺炎と肺炎球菌性肺炎との比較 研究からレジオネラ肺炎では先行する上気道感染症状が ない,咳・膿性痰・胸痛は比較的少ない,消化器症状・発 熱・意識障害の頻度が比較的多いことが示されている. レジオネラ肺炎患者の感染防御能の面から危険因子とし て男性, 喫煙,慢性心疾患,慢性肺疾患,糖尿病,末期腎不 全患者, 担癌患者, 免疫抑制状態にある患者, 移植患者, 50歳以上が知られている. レジオネラ暴露の可能性に関 するものとして最近の一泊以上の旅行, 循環水, 温泉, 井 戸水の 用, 上水道の破損, 生活の近くに冷却塔がある ことが挙げられている. 胸部 X 線では大葉性肺炎像や 多発性病変を呈することや下肺野中心の肺胞性肺炎像や びまん性陰影を呈することもある. 胸部 CT では非区域 性に 布する浸潤影とその周囲のスリガラス影が特徴と 図3 臨床経過 図4 第 10病日胸部 CT 画像 胸部 CT 画像上肺炎は改善を認める.
される. 検査所見では横紋筋融解症による高 CK 血症, 肝機能障害,腎機能障害,低 Na血症などが比較的多く認 められる. 重症合併症として人工呼吸器を要する呼吸不 全, 腎不全, 播種性血管内凝固症候群, 重症敗血症・敗血 症性ショック・多臓器不全症候群,間質性肺炎・肺線維症 が挙げられる. 本例では男性喫煙者であり入浴施設職員 であることからレジオネラ暴露の可能性が示唆された. また, 本例は臨床所見においては発熱, 構音障害で始ま る意識障害および人工呼吸器を要する呼吸不全を認め た. 画像所見では胸部 X 線上は右中下肺野広範にスリガ ラス影と浸潤影を認め, 胸部 CT においては右肺下葉と 一部中葉にエアーブロンコグラムを伴うスリガラス影お よび浸潤影を認め, 左下葉や舌区にも浸潤影をきたして いた. 本例は下肺野優位の肺炎像を呈したが, 肥満症を 認めており肥満低換気によって質量のあるエアゾルがよ り下肺に溜まりやすい状態であったのではないかと推察 される. 検査所見においては横紋筋融解症による高 CK 血症, 肝機能障害および腎機能障害を認めた. このよう に本例は臨床症状や検査所見等の 合的所見からレジオ ネラ肺炎を鑑別に挙げることは比較的容易であった. レ ジオネラ肺炎は主に Legionella pneumophila により引き 起こされ血清型 1は約 40%である. 尿中抗原での診断は 血清型 1のみ可能であり本例のように尿中抗原陰性のレ ジオネラ肺炎には注意が必要である. 本例は第 8病日に 喀痰培養結果からレジオネラ血清型 2を検出し診断しえ たが, その他の診断法として抗体価の測定も有用である. レジオネラ血清型 2によるレジオネラ肺炎に関する報 告は稀で我々の検索の範囲では本邦においては 1990年 に Tomiokaらによって初めて報告がなされている. 2 例目は 2008年に Furugenら により報告されたもので, に 2009 年に高柳らにより報告された例があるが (レ ジオネラ肺炎における重症合併症とその治療成績に関す る原著に 1例含まれている), 原著であり当該症例の特徴 の記載はなかったが重症であったと予想される. 本例と 1例目は高熱と画像上の浸潤影が類似し 2例目は初期症 状から増悪までの期間が長い点が類似するがいずれも他 の血清型でも認められる所見であり, 血清型 2の なる 症例の蓄積が必要である. レジオネラ肺炎の治療は欧米ではレボフロキサシン (Levofloxacin ; LVFX) あ る い は ア ジ ス ロ マ イ シ ン (Azithromycin ; AZM) 静脈注射が第一選択薬に推奨さ れている. 国内での第一選択薬は CPFX あるいはパズ フロキサシン (Pazufloxacin; PZFX) が推奨されてい る. レジオネラ肺炎は細胞内増殖菌のため MIC (mini-mum inhibitory concentration) のみならず細胞内増殖阻 止濃度も重要である. CPFX の血中動態を検討した報告 では, AUC, Cmaxは BSA (body surface area) に反比例
することが 常成人の治験により証明されている. 本
例では BSA が大きく通常用量では AUC, Cmaxが低値 であったと予想される. CPFX 注射の国内承認用量は 300mg 1日 2回である一方で欧米並びに中国,韓国,台湾 等東アジア諸国における承認用量は 1回 400mg 1日 2 ∼ 3回である. 社団法人日本化学療法学会は第 2回医療 上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議 (2010年 3月 31日開催) において国内でも欧米諸国と同用量の高 用量の導入を厚生労働省に要望している. 適応菌種と してレジオネラ属, 緑膿菌, クレブシエラ属, 本剤に感受 性のブドウ球菌, 腸球菌属, 大腸菌, 炭疽菌, エンテロバ クター属が挙げられている. 適応症としては肺炎, 敗血 症,外傷・熱傷及び手術 等の二次感染,腹膜炎,胆囊炎, 胆管炎, 炭疽菌が挙げられている. 適応疾患の重篤性に 関しては, 生命に重篤な影響がある疾患 (致死的な疾患) とし, 日本呼吸器学会策定の成人院内肺炎診療ガイドラ インにおける本剤の極量 用が推奨されているが死亡率 の高い院内肺炎 (中等症が 24.9%,重症が 40.9%)を例に あげてより強力な化学療法が必要であると述べている. 日本での用量設定は海外の用量設定に比べ少なめとなっ ており CPFX の投与法として十 な抗菌効果から え ると本例のような治療効果の乏しい例には増量の検討が 必要と える. PK-PD (Pharmacokinetics-Pharmaco-dynamics) 理論から抗菌薬の有効性および耐性化は AUC/MIC と Cmax/MIC と相関し, 1回投与量 (Cmax) あるいは 1日投与量 (AUC) を増大することにより耐性 菌抑止効果も得られるため, 抗菌効果のみならず耐性化 予防の面においても CPFX 増量の必要性が高いと推測 されている. 尿中抗原陰性, ヒメネス染色陰性の重症肺炎にもレジ オネラ肺炎が混在する可能性があり特徴的な臨床所見が ある場合は本症を疑い十 量な CPFX による治療を行 うことが重要である. 本論文の要 旨 は 第 577回 日 本 内 科 学 会 関 東 地 方 会 (2010年 12月東京) において報告した. 文 献 1. 舘田一博.特集,非定形肺炎の診断と治療―Ⅲレジオネラ (病因と診断)―. 化学療法の領域 2010; 26: 80-83. 2. Fraser DW, Tsai TR, Orenstein W, et al: Legionnaires
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A Case of Legionella Pneumonia Successfully Treated
with High-dose Ciprofloxacin
Yutaka Hashizume,
Kuniaki Suzuki,
Tadayoshi Kawata,
Katsuaki Endou,
Takeo Horie and Atsushi Takise
Department of Respiratory Medicine, Maebashi Red Cross Hospital, 3-21-36, Asahi-cho, Maebashi, Gunma 371-0014, Japan
A 38-year-old man presented at a nearby hospital in the middle of June, with a complaint of fever and cold symptoms since early June and dyslalia in the middle of the same month. A chest radiograph at the examination showed a infiltration in the right lower lung field. As he has been a staff of a bathing institution,Legionella pneumonia was suspected. He was admitted to the hospital,although Legionella urinary antigen detection test was negative. On the next day, he had a disturbed consciousness and dyspnea, was referred to our hospital. Although Gimenez steining and Legionella urinary antigen detection test were negative,Legionella pneumonia was suspected,he was given CPFX. In the process, Legionella serogroup 2 was detected,he was given a diagnosis of Legionella pneumonia. As he respond-ed poorly to the initial dose: 600mg/day of CPFX, increasrespond-ed dose: 1200mg/day was given. Then he showed remarkable improvement. From this experience,we consider that AUC and Cmax are important indicators to get effective antibacterial response,when CPFX is given. In general,Japanese dosage are set lower than foreign ones. For poorly responded case of CPFX treatment, we consider that dose increasing should be practiced.(Kitakanto Med J 2011;61:169∼174)
Key words: Legionella pneumonia, Legionella pneumophila serogroup 2, Gimenez stein-ing, Legionella urinary antigen detection test, Ciprofloxacin