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学力調査の結果からみた理科教育の課題 : 教育課程実施状況調査、IEA-TIMSS、OECD-PISAの結果を中心にして 利用統計を見る

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─教育課程実施状況調査、IEA-TIMSS、OECD-PISAの結果を中心にして─

Problems of the Science Education from a Result of the Academic Ability

Investigations

─ Mainly Based on the Results of Academic Achievement Survey of the Current

Course of Study in Science, IEA-TIMSS, and OECD-PISA Test ─

堀   哲 夫

Tetsuo HORI

はじめに  近年、多くの学力調査が行われ、さまざまな角度から理科学力の実態が明らかにされてきている。 国内だけで行われるものもあれば、多くの国が参加して行われているものもある。それぞれの学力調 査の求めるものは異なっているのだが、わが国の子どものある側面からの実態を表していることは間 違いない。言うまでもなく、学力は教育の目的・目標、授業や学習、および教育評価と深く関わって いる。  ところで、中央教育審議会が平成20年1月17日に出した答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学 校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」には、内外で行われてきている学力調査の 結果が大きな影響を与えてきていることが明白である。とりわけ、OECD(Organization for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構)が提起したこれからの社会を担う子どもたちに必 要な能力を「主要能力:キーコンピテンシー(Key Competencies)」1)として定義し、国際的比較調査 を行ってきた影響はきわめて大きいと考えられる。  事実、現行学習指導要領はその発足時には、各教科で取り扱われる内容の歯止め規定が随所にみら れたのであるが、平成15年に学習指導要領は最低基準を示すものであり、子どもたちの実態に応じ、 学習指導要領が示していない内容を指導することができるようになったのは、その影響の大きさの一 端を示すものと言えるだろう2)  本稿では、主な学力調査が明らかにした実態を報告するとともに、わが国の理科教育の課題は何か を検討する。 1.理科に関わる内外の学力調査  理科に関わる内外の学力調査であるが、主として以下の三つをあげることができる。  一つは、文部科学省が実施する「教育課程実施状況調査」である。これは、学習指導要領に示され た内容がどの程度児童・生徒に獲得されたかをみるとともに、次の指導要領改訂の改善に利用するこ とを目的にして行われている3)

 二つめは、IEA(International Association for the Evaluation of Educational Achievement:国際教育到達 度評価学会)が実施する「TIMSS(Trends in International Mathematics and Science Study):国際数学・理 科教育動向調査」である4)。小・中学校の算数・数学、理科学習に対する基本的な知識・技能がどの

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 三つめは、OECDが実施するPISA(Programme for International Student Assessment:生徒の学習到達 度調査)である5)。この調査は、将来生活していく上で必要とされる知識・技能等をどの程度習得し ているかをみるものである。これまで、読解力、数学的および科学的リテラシーの三分野の学力を三 年ごとに調べてきており、2006年は科学的リテラシーを中心にして行われた。 2.理科学力の何が問題か  (1)文部科学省の学力調査からみた問題点  最初に文部科学省が行ってきたものについてみることにしたい。この中で、とりわけ問題になる点 について指摘しておきたい。平成13年度に行われた調査の結果によると、たとえば小学校5年「てこ のしくみやはたらき」の問題は、図1のようになっている6)  この問題は、科学的な思考の観点から出題されたものであり、前回の調査よりも得点が下回ったも のの一つである。図1では、てこを使った道具を用いると、てこの支点、力点、作用点がどの位置に なるのかをモデル図に当てはめて解答するようになっている。ここで求められているのは、てこの原 理の共通性と一般化の理解である。要するに、新しい学習指導要領風に言えば、基礎・基本を踏まえ た上で、活用力や応用力がどのようになっているかその実態をみようとしている。この問題は、単に 図1 平成5∼6年および13年に実施された「てこのしくみやはたらき」の調査問題

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個別の事象が理解できているだけでは適切な回答ができないといえる。  ここで問題となるのは、(1)の前回(平成5∼6年度実施)の通過率が64.8%でであり、今回が 58.9%、(2)はそれぞれ87.9%、85.6%と低くなったということではない。表1に示したように、(1) のア、イ、ウの三つを適切に回答できた割合が34.8%にしかすぎないという問題である。 表1 ア、イ、ウが適切に回答できた割合 アが適切 イが適切 ウが適切 ア、イ、ウが適切 平成13年度 61.1% 72.8% 42.5% 34.8% 平成5∼6年度 65.8% 76.5% 50.0% ─ 注 表1で平成5∼6年度の「ア、イ、ウが適切」の「─」は、データが記載されていないことによる。  つまり、たとえ個別の問題に適切に回答できたとしても、状況や場面が変わると不適切な考えにな ることが問題なのである。応用力や活用力がないのである。この問題から明らかなように、すでに平 成初期から応用力や活用力が子どもに身に付いていなかったのであるが、ただPISAなどの学力調査結 果で明らかにされるまで、それをだれも指摘しなかったのである。  (2)IEA-TIMSS国際数学・理科教育動向調査からみた問題点  IEA-TIMSS国際理科学力調査は、学校教育で学んだことがどの程度習得されているかを評価しよう としているので、文部科学省の教育課程実施状況調査と似た側面を持っている。この学力調査につい ても、すべての内容を取り上げることはできないので、典型的とも考えられる問題点を指摘しておき たい。図2に示した調査問題は、小学校4年生を対象にして行われ、得点が国際平均値を大きく下回っ たものの一つである7)  この問題は、大きい容器ほど中のろうそくの燃焼時間が長いということの理解状態を調べている。 適切な答えは②である。調査結果は、わが国の正答率は50.8%、国際平均値66.1%であった。高得点 の国は、順に、キプロス81.2%、シンガポール80.8%、オランダ80.6%、香港80.3%と続いている。わ 図2 IEA-TIMSS国際理科学力調査における「容器中での燃焼」の問題

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が国の子どもの得点は、国際平均値ともかなりの差があるのだが、高得点の国と比べてみるとその差 はさらに大きくなる。  なぜ、このような実態か検討してみると、以下の二点を問題としてあげることができる。  一つは、日常生活経験の不足があげられる。最近は、日常生活の中で実際に物を燃やすという経験 が少なくなり、物をよく燃やすには酸素が多いほどよいということも実感できていない。現代社会の 中では、経験から学習できる内容が以前とはかなり様変わりしている。  二つめは、「どのロウソクのほのおが一番最後に消えるでしょうか」という文章の内容を理解できな い、つまり読解力の欠如をあげることができる。物が燃えるには酸素が必要で、酸素だけの中では物 が激しく燃えること、物が燃えると二酸化炭素ができることなどは、わが国の小学校理科では6年生 で学習している。しかし、調査対象となったどの国の子どもも、小学校4年でこの内容を履修済みだ とは限らない。  わが国の子どもの最も多かった不適切な回答は③の36.2%であった。問題の意味を「一番最初に消 える」と、逆にとらえた可能性が高い。いずれにしても、学校教育においてすべての内容を扱うこと ができないのであるから、応用力や活用力をいかにして育て高めるのかは大きな課題と言え、それを 端的に示した一事例と言える。  (3)OECD-PISA学習到達度調査からみた問題点  すでに述べたように、OECD-PISAは、義務教育修了段階の子ども(15歳)が持っている知識や技能 などが実生活で直面する課題にどの程度活用できるかという、概念の理解度、思考プロセスの習熟度、 さまざまな状況に臨機応変に対応する能力を評価する。  ① PISAの科学的リテラシーとは何か  PISAでいう科学的リテラシーを身につけ、それを活用できる人とは、以下の四点を兼ね備えている と捉えることができる8)  第一は、疑問を認識し、新しい知識を獲得する、科学的な事象を説明することができ、科学が関連 する諸問題に関して証拠に基づいた結論を導き出すための科学的知識とその活用ができる。  第二は、人間の知識の成果および探究の一形態として科学に特徴的な諸側面を理解できる。  第三は、科学とテクノロジーがわれわれの物質的、知的、文化的環境をどのように形成しているの か認識できる。  第四は、思慮深い一市民として、物事を科学的に考え処理することができ、科学が関連する諸問題 に自ら進んで関わることができる。  また、PISAでは「科学的リテラシー」を発揮するために必要な認知的能力として、「科学的な疑問を 認識する」「現象を科学的に説明する」「科学的な証拠を用いる」という三つをあげ、調査している。  こうした学力を評価する枠組みは、これまで日本ではなじみの薄いものである。具体的には、どの ような問題が出題されたのであろうか。次に一例をあげてみる。  ② 科学的リテラシーを調べる「酸性雨」に関する問題  「酸性雨」に関する問題(図3)は、まず問題場面が提示され、そのあとに「問い1」から「問い5」 まで、科学的知識を用いて科学的能力と態度を調べるようになっている9)。とりわけ、「問い4」は「酸 性雨」に関する興味・関心を、「問い5」は個人の意志決定に関するもので、これまで行われてきた内 外の学力調査には見られなかったものである。  この事例から明らかなように、PISA調査の問題は、これまでの学力調査問題とはずいぶん趣が異なっ ている。図3であげた問題の主旨を具体的に検討してみよう。まず、「酸性雨」の結果何が起こってい るのか実態を示し、問い1で与えられた情報から「科学的な疑問を認識」し、「現象を科学的に説明する」 ことが、求められている。

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 次いで問い2では、「科学的な証拠を用いる」ために実験の結果を聞き出している。問い3では、「科 学的な疑問を認識する」能力で、実験をさらに深めるために、比較実験の必要性を説明させている。 酸性雨  下は2500年以上前に、アテネのアクロポリスに建てられた女人像柱の彫刻の写真です。彫刻は 大理石といわれる種類の岩石からできています。大理石は炭酸カルシウムでできています。  1980年に本物の彫刻はアクロポリス博物館に移され、代わりに複製が置かれました。本物の彫 刻は酸性雨に浸食されつつあったのです。 酸性雨に関する問1  通常の雨は、大気中の二酸化炭素をいくらか溶かしているために弱い酸性となっています。酸 性雨は、同様に硫黄酸化物や窒素酸化物の気体を溶かしているため、通常の雨よりも酸性度が強 くなっています。  大気中の硫黄酸化物や窒素酸化物はどのようにして生じたものですか。   ...   ...  酸性雨が大理石に与える影響は、大理石のかけらを一晩、酢につけることによって確かめるこ とができます。酢と酸性雨はほぼ同じ酸性度を持っています。大理石のかけらを酢に入れると、 気泡が発生します。実験の前後で、乾いた大理石のかけらの質量を調べることができます。 酸性雨に関する問2  酢に一晩中つける前の大理石のかけらの質量は、2.0グラムでした。 翌日、そのかけらを取り出 して、乾かしました。乾いた大理石のかけらの質量はどうなっていますか。次のうちあてはまる ものに一つ○をつけてください。     A 2.0グラムより小さい     B ちょうど2.0 グラム     C 2.0グラムから 2.4グラムの間     D 2.4グラムより大きい 酸性雨に関する問3  この実験を行った生徒たちは、大理石のかけらを、蒸留水にも一晩中つけてみました。 実験に この手順を含めるのはなぜですか。説明してください。   ...   ...

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さらに、問い4および5では、それぞれ「酸性雨」に関する「興味・関心」、酸性雨に対する自分の 態度や判断などを尋ねている。  つまり、PISAが求める科学的リテラシーを身につけている人とは、現実の生活や社会の中で起こっ ている問題に対して、科学的な疑問を認識し、科学的知識を使ったり科学的証拠を用いて現象を説明 し、科学の諸問題に個人として適切に対応し判断できる人ととらえることができる。したがって、わ が国の学習指導要領が求めている「生きる力」すなわち「自ら学び自ら考える力」の形成・獲得と相 通じるものをもっていると考えてよい。  しかし、わが国では、理念として謳っているだけで、具体的な評価方法やその実態などは全く解明 されていない。それは、たとえば「自ら学び自ら考える力」の評価をどう行ってきたのか、その現状 がどうか、等々を教育現場に問うてみても何も答えられないということから明らかであろう。  ③ 「酸性雨」に関する問題の結果  さて、「酸性雨」に関する問題の調査結果はどうだったのだろうか。まず、問い1、2、3について の結果は、表2のようになっている。 酸性雨に関する問4  次の項目についてどれぐらい興味や関心を持っていますか。それぞれの項目ごとに、あてはま る番号に一つ○をつけてください。 酸性雨に関する問5  次の項目について、あなたはどう思いますか。それぞれの項目ごとに、あてはまる番号に一つ ○をつけてください。 1 2 興味や関心が a)人間の活動で、最も酸性雨の原因になって   いるのは何かを知ること。 b)酸性雨を生じさせる放出を最小限にする技   術について学ぶこと。 c)酸性雨によって被害を受けた建物の修理に   使われる方法を理解すること。 中くらい 低い 全くない 高い 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 a)古代遺跡の保存は、損傷の原因に関する   科学的な根拠にもとづくべきである。 b)酸性雨の原因についての意見は、科学的   な調査にもとづくべきである。 そうだ と思う そうは 思わない 全くそう 思わない 全く そうだ と思う 3 4 1 2 3 4 図3 PISA2006に出題された「酸性雨」に関する問題

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表2 「酸性雨」に関する問い1∼3の正答率(%) 問い1 問い2 問い3 日本 54.4 83.4 35.5 フィンランド 73.2 78.0 38.3 フランス 42.7 64.9 38.6 ドイツ 69.2 69.2 37.4 イギリス 60.9 70.0 39.2 アメリカ 53.6 66.4 34.8 韓国 60.3 83.6 35.6 台湾 69.3 80.8 38.2 OECD平均 57.7 66.7 35.5  表2から明らかなように、わが国は問い2の「科学的な証拠を用いる」という能力だけがOECD平 均を上回っており、問い1の「現象を科学的に説明する」、問い3の「科学的な疑問を認識する」能 力は決して高いとは言えない。 表3 「酸性雨」に関する問い4、5についての肯定的な回答の割合(%) 問い4 問い5 (a) 酸性雨の原 因 (b) 原因物質を 最 小 限 に する技術 (c) 建物の修理 方法 (a)遺跡の保存 (a) 酸性雨の原 因について の意見 日本 75.7 74.8 58.6 74.0 79.5 フィンランド 52.3 47.7 33.1 72.9 78.3 フランス 61.1 56.2 49.4 84.3 83.6 ドイツ 67.4 63.1 50.7 85.2 81.0 イギリス 54.1 50.8 42.0 78.1 82.8 アメリカ 56.1 51.6 42.6 80.4 85.5 韓国 64.0 58.4 47.4 85.6 83.7 台湾 72.5 76.2 72.4 84.9 92.0 OECD平均 60.6 57.8 48.2 81.9 83.9  問い4は「酸性雨」に関する「興味・関心」を問うものであるが、いずれも高い割合を示している。 問い5は「酸性雨」に対する自分の態度や判断などを問うものであり、「科学的な根拠や調査に基づく べき」という科学的な探究への支持に関して肯定的な回答の割合が低い。  ところで、PISA2006科学的リテラシーの調査結果は、多岐にわたりとても全部を紹介することは不 可能である。以下、要点のみをあげておきたい。

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 ④ 科学的リテラシー全体の平均得点の結果  科学的リテラシー全体の平均得点に関しては、以下の四点が特徴としてあげられる。  第一に、科学的リテラシー全体の平均得点であるが、日本は531点で、フィンランド、香港、カナダ、 台湾、エストニアに次ぐ得点であった。この平均得点は、カナダから11位の韓国まで統計的な有意差 がないので、日本は上位グループに位置しているといえる。ちなみに、今回の調査に参加した57ヶ国 中もっとも低い得点は、非OECD加盟国キルギスの322点であった。  また、わが国における科学的能力の三領域、「科学的な疑問を認識すること」、「現象を科学的に説明 すること」、「科学的な証拠を用いること」に関する平均得点は、この順に高くなっている。ここで、少々 奇異に思われるのは、高次の能力が要求される領域ほど得点が高いことである。すなわち、三領域の うちで「科学的な証拠を用いること」は、証拠を解釈し、結論を導き、伝達することなどが含まれ、 単に疑問を認識したり、科学的に説明したりすることよりも難しい。  簡単に結論付けることは避けなければならないが、こうした事実は、日本の生徒の学力は決して低 くないという一面を示していると考えられるが、科学的能力の「科学的な疑問を認識すること」、「現 象を科学的に説明すること」の二領域が平均得点を下げているので課題を抱えているといえよう。  第二は、上位5%に位置している生徒の得点がもっとも高い国はフィンランドであった。以下、 ニュージーランド、イギリス、オーストラリア、日本と続いているが、イギリス、オーストラリア、 日本との間に得点に関する統計的な有意差はないと報告されている。  第三は、科学的能力三領域に関して、上位5%に位置する生徒の得点がもっとも高い国は表4のよ うであった。 表4 科学的能力の最高得点の国と日本の順位 科学的な疑問を認識すること 科学的な証拠を用いること 現象を科学的に説明すること 最高得点国 ニュージーランド フィンランド 日   本 7番目 3番目 12番目  この表から明らかなように、「科学的な証拠を用いること」以外の二領域の日本の順位は必ずしも高 いとはいえない。しかし、「科学的な証拠を用いること」の領域に関しては、ニュージーランドと日本 の得点の間に統計的有意差はないという結果であった。「現象を科学的に説明すること」については、 理科の授業などにおいて所与の状況の中で科学の知識を適用することなどがあまり行われていないか らであろう。  第四に、科学的リテラシーにおいて2003年および2006年に共通に出題された22題の日本における正 答率の平均値は、両方の年とも約60%であり、ほとんど変化はなかった。ちなみに、OECDの平均は それぞれ約49%と約50%であった。この結果からみる限り、日本の生徒の学力は必ずしも低下してい るとはいえない。  ⑤ 科学に対する態度の調査結果  2003年のTIMSS調査などでも指摘されているように10)、科学に対する生徒の興味・関心は決して高 いとは言えないが、PISAの結果はどうか。表5は、生徒の興味・関心を科学の分野ごとに尋ねたもの である。

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表5 科学の各分野に対する興味・関心(%) 項 目 人の 生物分野 天文 分野 化学 分野 物理 分野 植物 分野 科学者の 実験の計画法 地質学 分野 科学的な 説明 日 本 65 55 48 40 58 34 33 25 OECD平均 68 53 50 49 47 46 41 36  この表から明らかなように、天文および植物の分野を除く全てにおいて日本はOECDの平均を下回っ ている。ちなみに、この割合が高い国はコロンビアで、総ての分野が73%∼92%の間にあり、興味・ 関心は高いが科学的リテラシー全体の得点は388点で第53位という、わが国とは逆の実態がみられる のは興味深いといえる。  また、どういう時に科学が楽しいのかと尋ねた結果は表6のようであった。 表6 科学が楽しいと感じるときはどういうときか(%) 項 目 科学に関する 知識を得る時 科学の話題を 学んでいる時 科学について 学んでいる時 科学について の本を読む時 科学の問題を 解いている時 日 本 58 51 50 36 29 OECD平均 67 63 63 50 43  この表を見ると、いずれの項目もOECDの平均を下回っている。また、この値は、今回参加57ヶ国 の中でその割合が最も低い国の一つに数えられている。  以上の結果から、日本は科学的リテラシーの得点そのものは国際的にみて上位に位置しているとい える。ただ、応用力や活用力などに関する科学的能力については課題を抱えている。さらに、科学に 関する態度や興味・関心という点についてはとりわけ大きな課題を抱えていると言うことができる。 なぜならば、興味・関心は無いがそこそこに点数は良いという状態は、無理に科学(理科)を学び学 ばされている、という子どもの悲愴な姿が浮かび上がってくるからである。 3.学力調査の結果からみた理科教育の課題は何か  文部科学省は、2003年に行われたOECD-PISAやIEA-TIMSSの調査結果からわが国の課題として次の 二点をあげている11)  一つは、科学的な解釈や論述形式の設問に課題があること、二つめは、日常生活と関連の深い設問 に課題があることである。要するに、活用力や応用力という側面が弱いのである。さらに言えば、学 校教育の教室の中でしか通用しない学力となっていることである。学習指導要領の言葉を借りれば、 「生きる力」となっていない。この視点は、学校教育の意味を問う上でも重要になってくる。  この問題点をふまえ、改善の方向として以下の二点をあげている。一つは、科学的に解釈する力や 表現する力の育成を目指した指導を充実すること、二つめは、日常生活に見られる自然事象との関連 を図った指導を充実することである。  上の問題点に関して、現行学習指導要領との兼ね合いを考えてみると、実は、「総合的な学習の時間」 は、ここで指摘された問題点を克服するために導入されたはずである。また、日常生活との関連性の 重視は、現行指導要領においても強調されてきた事項である。たとえ、重視されてきたといっても、 それがどの程度どのように育成されているのか、確認されてこなかったからこのような結果になった

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といえる。さらに言えば、わが国の教育評価の枠組みが観点別評価の四観点では、とりわけ「総合的 な学習の時間」で育成された能力を把握するには問題があったと考えることができるだろう。  もう少し具体的に言えば、観点別評価の四観点の目標を明確にし、それを達成するための規準をい くら詳細にしても、またそれを一つずつ達成したとしても、「生きる力」すなわち「自ら学び自ら考え る力」につながっていないことが大きな問題点であったのである。新しい学習指導要領との関わりで 考えると、個別の「知識・理解・技能」と「習得・活用・探究」の能力、および「自ら学び自ら考える力」 が、いったいどのような構造的関係にあるのか、さらにそれらをどのように把握し指導に活かしてい くのか等々が明確にされなければならない。そうでなければ、現行学習指導要領と同じ問題点が次期 学習指導要領改訂時に指摘されることになるだろう。  わが国では、これまで国内の教育課程実施状況調査だけで学力を測ってきたが、PISAやTIMSSといっ た国際比較により厳しい実態の一面が明らかにされたのである。やや辛口に言えば、国内だけで都合 のいいところだけに目を向けてきたのが、黒船の来襲により、物差しを変えざるを得なくなったので ある。もちろん、PISAやTIMSSで調査している内容だけが学力ではないことも承知しておく必要があ るだろう。 おわりに  どのような学力をどう調べるのかはともかくとして、われわれに求められているのは、やや大げさ に言えば、わが国の子どもの学力を今後は世界に通用するレベルに高め、維持していくことである。 そのとき、学力向上に求められているのは、習熟度別制度の導入などというただ子どもを鍛え上げる という対応でなく、教師の側の対応である授業改善などを中心にすることがもっとも強く求められて いるといえよう。また、その授業改善も、多くの人の手を借りることなく授業者自身が一人で行うこ とができる方法が求められている12) (注) (1) D. S. ライチエン,L. H. サルガニク編著『キー・コンピテンシー 国際標準の学力をめざして』明石書店、 2006 (2)文部科学省『小学校指導要領解説総則編』東京書籍、平成18年一部補訂2版, (3) 国立教育政策研究所『平成13年度小中学校教育課程実施状況調査報告書 小学校理科』東洋館出版社、 pp.67-71、平成15年 (4) TIMSS2003の調査については以下の文献によった。国立教育政策研究所編『TIMSS2003 理科教育の国際 比較』ぎょうせい、2005

(5) PISA2006の調査については以下の文献によった。Assessing Scientific, Reading and Mathematical Literacy: A Framework for PISA2006, OECD Pub. 2006., PISA2006 SCIENCE  COMPETENCIES FOR TOMORROW’S WORLD; VOL.1: OECD Pub. 2007., PISA 2006; VOL.2, OECD Pub.,2007.

(6)国立教育政策研究所、上掲書

(7)国立教育政策研究所編『TIMSS2003 理科教育の国際比較』ぎょうせい、2005

(8)Assessing Scientific, Reading and Mathematical Literacy: A Framework for PISA2006, OECD Pub. 2006. (9)http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku-chousa/sonota/071205/002.pdf

(10)国立教育政策研究所編『TIMSS2003 理科教育の国際比較』ぎょうせい、2005

(11) 文部科学省『小学校理科・中学校理科・高等学校理科指導資料:PISA2003(科学的リテラシー)及び TIMSS2003(理科)結果の分析と指導改善の方向』東洋館出版社、2006

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