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不良債権で失われた資本と産出

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11

不良債権で失われた資本と産出

櫻川昌哉 渡辺善次

要 旨

(2)
(3)

1

はじめに

不良債権の処理総額は,内閣府によると 2005 年の段階で 118 兆円1)に達

する.同時期の資本ストック額は 1,138 兆円2)だから,その大きさはほぼ 1

割に達する.処理された不良債権はすなわち,稼働しなかった資本を意味す るので,経済的減耗した資本として資本ストック額から除却すべきである. しかしながら,内閣府のデータでは,不良債権処理額は資本ストック額から 適切に除却されていないので,資本ストック額は過大評価されていることに なる.

Hayashi and Prescott[2002]は,1990 年代の日本経済の停滞は,TFP 成長 率の低下を仮定すれば標準的な新古典派モデルによって説明できることを示 した.そして,内閣府の資本ストック・データを用いた推計の結果,資本係 数は 1990 年以降上昇し,TFP 成長率は,1980 年代の 2.8%から 1990 年代 の 0.3%へと大幅に低下していると報告している.しかし,過大評価された 資本ストック額を用いた分析では,資本係数や TFP 成長率の計測にバイア スが生じる.

経済的減耗による資本価値の下落を資本にどのように反映させるか,いい 換えると,異なる収益を生み出す複数の資本をどのように計測・集計するか という問題については,Jorgenson and Griliches[1967]を嚆矢として,これ までにさまざまな考え方が提案されてきた.たとえば,Hall[1968]が提案し た,中古品価格を利用して推計した減価償却率により,経済的減耗を資本に 反映させる方法や,Basu and Kimball[1997]が提案した,直接観察不可能な 資本の稼働率を,理論的にある一定の関係にあるはずの労働の稼働率で置き

1) 国民経済計算(第 2 部ストック編)統合勘定の「その他の資産量変動」に記載されている『債 権者による不良債権の抹消(貸出)』の 1980 年からの累計額.

(4)

換えて,経済的減耗を資本に反映させる方法などがある.また,Hall[2001] は,資本価値の下落を株価によってとらえ,経済的減耗を反映した資本系列 を作成する方法を提案している.しかし,これらの考え方に基づいて実際に 計測を行う場合には,データのアベイラビリティや推計に用いるデータの信 憑性など,いくつかの問題点がある.

そこで本稿では,処理された不良債権額を経済的減耗した資本と考え,資 本ストック額から除却するという新たな方法を提案し,この方法に基づいて 作成した資本系列を利用して,90 年代の資本係数と TFP 成長率の再計測を 行った.その結果,Hayashi and Prescott[2002]で報告されたような,1990 年以降の資本係数の上昇トレンドは確認されず,ほぼ横ばいかむしろ低下し ている可能性があることが明らかとなった.また,資本の測定誤差を調整し ない場合には,失われた 15 年の TFP 成長率を約 38%程度過小評価してし まう可能性があることが明らかとなった.

また,不良債権額相当額が健全な融資に配分されていたとしたときの GNP を計算し,不良債権で失われた GNP を計測した結果,不良債権問題は, 1993 年から 2005 年までの 12 年間の実質経済成長率を年率換算で最大 1.2% 程度押し下げた可能性があることが明らかとなった.

2

「国民経済計算」(SNA)における資本ストックと不良債権の

取り扱い

資本ストックは経済成長においてもっとも重要な生産要素の 1 つであり,

その測定については,歴史的に膨大な研究の積み重ねがある3).しかし,不

思議なことに,1990 年代以降あれほど問題とされた不良債権が資本ストッ クにどのように反映されているのかという点については,あまり注意が払わ れてこなかった.本節では,マクロ分析でもっともよく利用される「国民経 済計算」(以下,SNA)のデータにおいて,資本ストックと不良債権との関 係はどのように扱われているのか概観する.

(5)

2.1 SNA における資本ストック

まず,SNA における資本ストックの作成方法について整理しておこう. SNA における資本ストック・データ(「有形固定資産」)は,ベンチマーク

となる資本ストック額4)を出発点として,毎期の総固定資本形成や固定資

本減耗を加減することにより推計されている.

正確には,SNA の名目資本ストックは簿価ではなく,時価で評価されて いる.したがって,「期末貸借対照表勘定」の資本ストックは,「期首貸借対 照表勘定」に期中の資本取引を表わす「資本調達勘定」および価格変化によ る再評価等を表わす「調整勘定」を加えたものとなっている.

一般的に,各主体の生産活動には複数の資本ストックが投入要素として利 用されている.マクロ統計である SNA には,各主体が保有する複数の資本

ストックを,6 種類の品目別に集計した金額が記載されている5).各品目の

時価には再調達価格が用いられるが,これは新製品価格に使用年数と物価変 動のみを反映して推計した価格6)であり,製造年代(Vintage)は考慮して

いない.たとえば,同じ車種の乗用車が資本財として用いられていた場合, 年式が異なる乗用車であっても,使用年数が同じであれば同じ価格で評価さ れていることを意味している.同じ価格で評価されているということは,こ れら 2 つの資本財は完全代替として取り扱われていることを意味している. また,SNA の資本ストックの減耗率は,「法人企業統計季報」の「減価償 却」と「売却振替滅失等」という企業の会計データを使って推計されている. したがって,SNA における減耗率は,税法上の減価償却率を適用している ものと考えられる(増田[2000]).

2.2 SNA における資本ストックと不良債権の関係

銀行による不良債権処理によって債務の減免や免除を受けた企業は,本来 であれば,バランスシート上の負債の減少に応じて,実物資本の減損処理を する必要がある.しかしながら,個別企業においてなされる会計処理では,

4) わが国では,1955 年に実施された「国富調査」によって得られた値をベンチマークの資本ス トックとしている.

5) ただし,個別所有者の個別品目に関するデータ(たとえば,「非金融法人企業の住宅」など) は記載されていない.

(6)

資産をそのまま維持して,債務減免や免除に等しい「債務免除益」が企業に 生じたという取り扱いをするのが一般的である.したがって,バランスシー ト上の資産の項目に,収益を生まない「不良資本」がそのまま残ることにな る.

「国民経済計算」においても,68SNA では,金融機関の不良債権処理が, 「返済不能となった債務者に対して金融機関から所得移転が行われ,この移 転を使って債務者が債務の返済を行い,債権・債務が解消される」という手 順で行われるものとして処理している.金融機関から債務者への所得移転は 金融機関の所得支出勘定の「その他経常移転(純)」の支払いとして扱われ ている.経常移転は繰り返し行われる取引を記録する項目であることから, 68SNA では,金融機関で日常的に発生する小規模な貸倒れを念頭において 不良債権処理を扱っているものと思われる.しかし,バブルの崩壊以降に発 生した不良債権は,それ以前の日常的な貸倒れと比べてあまりにも規模が大 きく,このような取り扱いは適切とはいえない.

この問題点を改善すべく,93SNA では,調整勘定において他の価格変動

による変化とは区別して,不良債権処理が示されるようになった7).しかし,

「調整勘定」で処理されているということは,不良債権処理をあくまで金融 資産・負債の「キャピタル・ロス」としてとらえており,実物資本ストック の減損処理はまったくなされていないことを意味している.

このことを,数値例を使って見てみよう.図表 11 1 は,2004 年の SNA における貸借対照表勘定とその変動要因を示したものである.SNA 体系で は,期首から期末にかけての残高の変動を,⑴期中の資本取引,⑵その他の 資産量変動,⑶再評価,⑷その他,という 4 つの要因に分解して記録してい る8).たとえば,金融資産の残高は,2004 年期首の 5,538.9 兆円から期末

の 5,666.5 兆円へと増加している.その内訳を見ると,期中の資本取引にお

7) 93SNA では,債権者と債務者の間に合意がある場合には,債権者からの資本移転として処理 することを求めている.しかし,不良債権処理に関して積極的な合意が成立するとは考えにくく, 調整勘定によって処理されている.

(7)

非金融資産 の変動 (7.0)

金融資産の 純増 (81.7)

正味資産の 変動 (25.1) 海外に対する

債権の変動 (18.1)

負債の純増 (63.6)

非金融資産 の変動 (▲0.2)

金融資産の 純増 (▲10.2)

債権者による 不良債権の抹消

(貸出)▲8.1

正味資産の 変動 (4.0)

非金融資産 (2,481.9)

金融資産 (5,538.9)

正味資産 (国富) (2,654.7)

対外純資産 (172.8)

負債 (5,366.1)

非金融資産 (2,461.2)

金融資産 (5,666.5)

正味資産 (国富) (2,647.0)

対外純資産 (185.8)

負債 (5,480.7) 対外純資産

の変動 (4.2) 負債の純増 (▲14.5)

非金融資産 の変動 (▲25.7)

金融資産の 純増 (56.1)

正味資産の 変動 (▲35.1) 対外純資産 の変動 (▲9.4)

負債の純増 (65.5)

非金融資産 の変動 (▲1.7)

金融資産の 純増 (0.0)

正味資産の 変動 (▲1.7) 対外純資産

の変動 (0.0)

負債の純増 (0.0)

⑴2004 年期中の資本取引

2004 年期首(残高) 2004 年期末(残高)

⑷その他 ⑶再評価 ⑵その他の資産量変動

(単位:兆円)

債権者による 不良債権の抹消

(借入)▲7.4

図表 11 1 2004 年の期末貸借対照表の推移

(8)

いて金融資産が 81.7 兆円増加する一方,その他資産量変動で▲ 10.2 兆円の 減少,再評価で 56.1 兆円増加している.

ここで注目すべきは,銀行が実施した不良債権処理は,非金融資産(実物 資本ストック)の変動にまったく反映されていない点である.一方,非金融 資産の残高は,2004 年期首の 2,481.9 兆円から期末の 2,461.2 兆円へと減 少(▲ 20.7 兆円)している.その内訳を見ると,期中の資本取引において 非金融資産が 7.0 兆円増加する一方,その他資産量変動で▲ 0.2 兆円の減少, 再評価で▲ 25.7 兆円,その他で▲ 1.7 兆円減少している.93SNA では,銀 行が行った不良債権処理は「⑵その他の資産量変動」のなかで,「債権者に よる不良債権の抹消(貸出)」として記載されているが,2004 年に行われた 不良債権処理額の▲ 8.4 兆円が,金融資産残高の減少として扱われてしまっ ている.これは,銀行が不良債権を処理したとしても,実物資本ストックが, 統計上,まったく減らないことを意味している.このように,不良債権処理 を資本の経済的減耗として扱わない現行の SNA では,資本ストックが過大 評価されていることになる.

2.3 日本の不良債権データの信憑性

銀行は,不良債権額を把握・処理するために,自身がもつ債権の自己査定 を行う.自己査定では,債務者をリスクの高い順に「破綻先」「実質破綻先」 「破綻懸念先」「要注意先(「要管理先」と「要管理先以外」)」「正常先」に区

分し,さらに各区分の各債権を回収可能性に応じて「非分類」「Ⅱ分類」「Ⅲ

分類」「Ⅳ分類」の 4 種類9)に分類する.銀行は,この自己査定の結果に基

づき,債権の回収可能性の程度を判断して不良債権処理を行う.

不良債権処理には,貸出金などを貸借対照表に資産として残したまま,担 保や保証などで保全されていない部分に対して,回収不能となる可能性に応 じて事前に処理費用を貸倒引当金として計上する『間接償却』と,「法的整 理」や「私的整理」または「債権売却」によって不良債権を貸借対照表から

(9)

オフバランス化する『直接償却』の 2 種類の方法がある.一般的には,不良 債権が発生しても,貸出金の借り手企業(債務者)は引き続き事業を継続し ているので,まず間接償却を行って貸倒引当金を計上し,その後,債務者が 破綻して損失が確定した段階(自己査定で,破綻先・実質破綻先の「Ⅲ分 類」「Ⅳ分類」に分類された段階)などで,直接償却が行われる.

貸倒引当金には,自己査定の要注意先/正常先に対する「非分類」「Ⅱ分 類」の債権について,その債務者区分全体の過去の貸倒率などに基づき,そ の区分の債権全体に対して一括で計上する『一般貸倒引当金』と,自己査定 の破綻先・実質破綻先/破綻懸念先に対する「Ⅲ分類」「Ⅳ分類」の債権につ いて,個別債務者ごとに計上する『個別貸倒引当金』がある.個別貸倒引当 金は,貸倒リスクのきわめて高い債権に対して設定され,債務者が破綻した ときに不良債権の処理費用として使われる可能性が非常に高い.

図表 11 2 は,不良債権処理額の推移を示したものである.「金融庁」で示 されている系列は,金融庁が公表している不良債権処分損の累計額を,「内 閣府」で示されている系列は,93SNA における「債権者による不良債権の 抹消」の累計額を表している.両系列は,主に,直接償却額と個別貸倒引当 金繰入額の合計の累計額に対応している.

これら 2 つの系列では,集計の対象としている金融機関の範囲が異なる. 「金融庁」は全国銀行のみを対象としているのに対し,「内閣府」は協同組織

140

120

100

80

60

40

20

1981 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 2000 01 02 03 04 (年)05 (兆円)

0

金融庁 内閣府

(10)

金融機関等をも含んでおり,後者の方がより広い範囲をカバーしている.2 つの系列を比較してみると,不良債権情報の開示が開始された 1993 年から 1998 年までは,カバレッジが異なるにもかかわらず両者はほぼ一致してお り,1999 年以降は,カバレッジの広い「内閣府」が「金融庁」を上回って いる.これは,不良債権情報開示の動きが,都銀・長信銀・信託銀行から地 域銀行,協同組織金融機関等へと徐々に広がっていったために,情報開示の 当初は主要銀行以外の不良債権処理額の把握が不十分であったことを示唆し ている.したがって,「内閣府」の 1993 年から 1998 年までの不良債権処理 額は過小評価となっている可能性が高い.

また,日本の不良債権関連データの信憑性についても言及しておく必要が ある.1998 年に,『早期健全化法』と『金融再生法』が成立して,公的資金 注入ならびに破綻金融機関の処理方法についてのルールが定められる以前は, 当局による銀行に対する資産査定は甘く,不良債権の実態を正確に把握でき

ていなかった.銀行の自己査定は不良債権に対する償却や引当10)の基礎と

なるが,90 年代には,銀行による不良債権の自己査定が甘く,貸倒引当金 は必要引当額に対して不足していたという指摘が多い(たとえば,深尾ほか

[2003]).不良債権額の実態を把握することを目的として,規制当局による

検査が 2000 年 3 月期から 2001 年 9 月期にかけて初めて行われたが,銀行の 自己査定による不良債権額が 34 兆 6,111 億円であったのに対し,金融庁の 査定額が 47 兆 197 億円であり,両者の乖離は,実に 13 兆円にも達していた. また不良債権額の過小評価にともなう貸出金償却・貸倒引当金不足も深刻で, 当初銀行が見積もった償却・引当金額 10 兆 3,947 億円に対し,規制当局が 必要であると判断した償却・引当金額は 15 兆 2,870 億円であった.

したがって,2002 年以前の不良債権額は過小評価である可能性が高い. しかしながら,この問題は,2002 年 10 月に実施された『金融再生プログラ ム(通称,竹中プラン)』を機に改善の方向に向かう.竹中プランの実施に よって,それ以前の,銀行に対する不十分な資産査定や情報開示が厳格化さ

(11)

れ,銀行経営の透明性が向上した.たとえば,前述の銀行の資産査定と金融 庁の検査結果の乖離は,2003 年 3 月期から 2004 年 3 月期までに行われた検 査では,銀行側の査定が 8 兆 3,407 億円,金融庁の査定が 8 兆 8,299 億円と, 乖離は大幅に縮小している.また,貸出金償却・貸倒引当金不足の問題も, 銀行が見積もった償却・引当金額 3 兆 2,610 億円に対し,規制当局が必要で あると判断した償却・引当金額は 3 兆 4,966 億円であった.これらの結果か ら類推するに,公表されている不良債権額,貸出金償却・貸倒引当金額は, 90 年代は過小評価であったが,2004 年以降,信憑性が著しく高まったと考 えられる11)

3

不良債権を考慮した資本系列

――経済的減耗をどう測るか

SNA 体系においては,不良債権処理額は資本ストックに反映されていな い.SNA 体系の資本ストックは過大評価されている可能性が高く,何らか の形で不良債権を資本ストックに反映させる必要がある.

複数の異質な資本が存在するとき,資本の集計をどのように考えるかは, 古くからの大問題である.Jorgenson and Griliches[1967]は,複数の異質な 資本をあたかも 1 種類の資本であるかのように集計するために,「資本サー ビス」という概念を提唱し,資本投入額である「資本ストック」と区別しよ

うとした12).資本サービスは,資本が実際に生み出す収益を反映させるよ

うに,資本ストックから変換された指標であり,資本の生産性が上昇すると, 資本サービスは資本ストックに比べて増加し,逆に,資本の生産性が下落す ると,資本サービスは資本ストックに比べて減少する.しかし,各資本財が 提供する資本サービスをもとめるためには,資本収益率や償却率,資本取得 価格(新製品や中古品の市場価格)をもとに計測される「資本サービス価 格」をもとめる必要がある.SNA の枠組みなかで,これらのデータを完全 に把握することは容易ではない.

11) 詳細は,たとえば櫻川[2006]や櫻川・渡辺[2009]を参照.

(12)

資本測定の分野では,資本価値の下落は,資本の物理的減耗と区別して 「経済的減耗」としてとらえられる.そのとらえ方には,大きく 3 つの方法 がある.まず,減価償却率を使って,経済的減耗をとらえるという考え方が

ある13).次に,資本の稼働率のデータを利用して,資本ストック額を資本

サービスに変換するという考え方もある.最後に,株価が資本の経済的減耗 をとらえているという考え方がある.

まず,第 1 の考え方について述べる.SNA 体系における資本減耗率は, 税法上の減価償却率を機械的に適用している場合が多く,資本の減耗度合い を正確に反映していない可能性がある.減耗率によって経済的減耗をとらえ

る場合には,一般的には中古品価格を利用して推計する14).具体的には,

各資本財の相対的取得価格(新製品と中古品の価格比)を使って経齢的価格 プロファイル(age-price profile)を推計する.資本財の購入価格は,新製 品価格であれ中古品価格であれ,資本ストックが将来にわたってもたらす資 本サービスの価値を反映したものであるから,不良債権化して将来の収益が 期待できない資本の中古品価格は大幅に低くなるはずである.この手順を使 えば,不良債権の影響を反映させた経済的減耗率を SNA 上の減耗率に代え て,恒久棚卸法等を使って新たな資本系列を作成すれば,不良債権を資本 サービスに反映させることができるはずである.

しかし,第 2.1 項でも述べたとおり,その際に利用される資本財の取得価 格は,新製品価格に使用年数と物価変動を主に反映して推計した価格であり, 中古品価格が適切に反映されていたかどうかは疑問である.また,仮に多く の資本財に中古品市場が存在し,市場価格が入手可能であったとしても,第 2.3 項でも述べたように,90 年代において,銀行と企業の会計の現場で不良 債権の適切な評価がほとんどなされてこなかったという事実を考慮すれば, 資本財価格が不良債権の影響を反映させていなかったと考えるのが自然であ

13) 減耗の仕方にもさまざまなバリエーションがある.耐用年数が来た際に一気に減耗するパ ターン(one hoss shay),耐用年数まで定額で減耗するパターン(straight line),一定の減耗率 で減耗するパターン(geometric)などである.Hulten-Wykoff[1981b]は,資本財の中古価格の 低下パターンを調べることにより,現実の減耗パターンが幾何的減耗パターンで近似できること を示した.

(13)

ろう.

次に,資本の稼働率のデータを使うという考え方について述べる.稼働率 データは製造業については存在するものの,多額の不良債権額を生み出した 非製造業については存在しない.この問題を回避するために,Basu and Kimball[1997]は,直接観察できない資本の稼働率を,理論的に一定の関係 にあると考えられる労働の稼働率で置き換えるという分析手法を提案してい

る15).さらに,稼働率データは,個別企業に対するアンケート調査に頼っ

ており,信頼性にかけるという指摘もある.

最後に,株価データを使うという考え方について述べる.Laitner and Stolyarov[2003]は,IT 革命によって生じた,IT を体化しない旧資本の経済 的減耗を株価によってとらえようとし,NIPA(National Income and Prod-uct Accounts)の体系は資本減耗率を 2.04%ほど過小評価していると報告 している.また Hall[2001]は,「トービンの q」の考え方を使って,資本の 時価総額の計測を試みている.彼は,既存研究から得られた投資の調整費用 関数のパラメータの値と株価データを使って,資本の時価総額を逆算すると いうアプローチを提案している.株価が資本ストックの経済的価値を正確に 反映していれば,90 年代の多くの時期に,この手法で計測された資本の時 価総額は,SNA データを下回るはずである.

これらの議論から,SNA 体系に整合的な形で,不良債権による経済的減 耗を実際の資本ストックのデータに反映させることは難しいことがわかる. しかしながら,これらのアプローチに基づいた資本の計測にも一定の価値が あると予想されるので,以下,計測をいくつか試みる.

図表 11 3 は,いくつかの計測された資本の系列を表している16).「SNA」

は,SNA データによる資本の系列を示している.「稼働率調整」は,SNA データの資本に製造業の稼働率データを使って稼働率調整して得られた資本 の系列である.1997 年から 2003 年にかけて SNA データを下回っているよ うに見えるが,循環的変動を考慮するのみで全体として下方シフトは観察さ

15) Kawamoto[2005]は,Basu and Kimball[1997]の手法を使って日本の TFP 成長率を計測し, 90 年代に TFP 成長率が大きく低下しているように見えるのは,稼働率低下の影響が大きいこと を指摘している.

(14)

れず,稼働率調整では,不良債権による資本サービスの下落をうまくとらえ ていない.

また「トービンの q」は,Hall[2001]に基づいて計測した資本の系列であ る.この系列は 90 年代にわたって大きな上昇テンポを示している.不良債 権処理が遅れたために,負債額が過大評価されている歪みが株価に反映され て,90 年代の資本の時価総額の落ち込みを確認できないかという期待が あったが,計測結果はまったく異なった動きを示している.

ここでもう 1 つの計測方法を提案する.公表された不良債権額(non-performing loans)は,稼働しなかった資本(non-つの計測方法を提案する.公表された不良債権額(non-performing capital)を意 味するので,経済的減耗した資本として資本ストック額から除却するのが適 切であると考えられる.資本ストックを不良債権化した資本とそうでない資 本に分け,前者の資本サービスをゼロ,後者の資本サービスを資本ストック 額に等しいと考える17)

前節でも述べたとおり,SNA では「債権者による不良債権の抹消」とし て不良債権処理額が記載されている.本稿では,この金額を経済的減耗とし

て減損処理されるべき額として資本ストック額から控除する18).なお,銀

行は,政府による関与を恐れて不良債権額を過少申告する誘因があることを

17) 本稿の枠組みでは,固定資本と運転資本を同質な資本と考えているため,不良債権に両資本 が含まれていたとしても区別する必要はない.

3,000

2,500

2,000

1,500

1,000

500

1981 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 2000 01 02 03 04 (年)05 (兆円)

SNA

0

(15)

考慮すれば,公表された不良債権額は,実際の不良債権額の下限であり,こ こで定義される資本サービスは,現実の値の上限と見なすことができる.

図表 11 3 で「不良債権調整」と記された資本系列は,SNA データに比べ て傾向的に下方にシフトしており,乖離は時間とともに拡大している.累積 的な影響は,データの直近の 2005 年でもっとも大きく,SNA データに比べ て 126 兆円ほど低い.また「稼働率調整」による系列と比べると,ほぼすべ ての時点で低い.

4

新たな資本系列と TFP 成長率

さて,産出量の成長率から,労働の貢献の成長率と資本の貢献の成長率を 引いたものは,TFP(全要素生産性)と呼ばれる.Hayashi and Prescott [2002](以下,HP)は,1990 年代の日本経済の停滞は,その時期の TFP 成長率の低下を想定すれば標準的な新古典派成長モデルで説明できると主張 した.しかしながら,資本の貢献を計算するときに,資本ストックの大きさ を正確に計測しないと,TFP の推計にバイアスが生じる.

金融危機やバブル崩壊といった大きなショックに経済が見舞われると,資 本の収益性は大きな影響を受けることがある.こうしたショックの直後に TFP 上昇率の大きな下落が計測されると報告しているいくつかの研究が存 在する.Baily[1981]は,石油危機後に観察された TFP 上昇率の下落は,ス クラップ化した資本を過大に評価している可能性があると報告している. Ohanian[2001]は,米国の大恐慌直後の TFP 上昇率を計測すると,あまり にも下落幅が大きく,大恐慌による経済的混乱にともなって資本の質が劣化 したせいではないかと指摘している.この節では,前節で作成したいくつか の資本系列を使って,TFP 成長率を計測する.

(16)

4.1 TFP の計測方法と利用データ

HP にしたがって,t期の GNP を以下のように仮定する.

GNP=A(K+Z)

(hE)

 (11.1)

ここで,Aは TFP,Kは資本サービス19),Zは日本の対外純資産,E

総雇用量,hは労働者 1 人当たりの労働時間,θは資本分配率である.N

を成人人口(20 69 歳)とし,yGNPNeENx≡(K+Z)GNP

とすると,以下の(11.2)式を得る.

y=A

 hex

 (11.2)

以下では,この(11.2)式をもとに成長会計分析を行う.

4.2 計測結果

図表 11 4 は,前節で計測した「SNA」「稼働率調整」「不良債権調整」の 資本系列を用いて算出した資本係数を表している.SNA データを用いた場 合の資本係数は,90 年以降,上昇している.なお,SNA データを用いた資 本ストックの系列は,HP に等しい.また,稼働率を調整して得られた資本 係数も,循環的に変動しつつ上昇トレンドを示している.一方,不良債権処

19) データの詳細は補論 2 を参照.

1981 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 2000 01 02 03 04 (年)05 SNA

3

2.5

2

1.5

1

0.5

0

(17)

理額を調整して得られた資本係数は,90 年以降,ほぼ横ばいの動きを示し ており,もはや上昇傾向は観察されない.

図表 11 5 は,成長会計の結果を示している.いずれも 1 人当たり生産量 で評価している.成長率の値は,バブル崩壊前の 1981 1992 年とバブル崩壊 後の 1993 2005 年にかけての年成長率の平均(幾何平均)を表している.

第 1 行目は,SNA データの資本ストックの系列をそのまま用いて(11.2) 式を推計した結果を表している.2 つの期間(1981 1992 年と 1993 2005 年) を比較すると,TFP 成長率は 3.2%から 1.3%へと下落している.

第 2 行目は,稼働率を調整して得られた資本の系列を用いた場合の推計結 果である.SNA データを用いた場合と結果に大きな違いはない.資本系列 の図でも明らかなように,稼働率調整は循環的変動を考慮するのみで,資本 系列のトレンドを変化させることはなく,比較的長期間の平均値をとる TFP 成長率には大きな変化を与えない.

第 3 行目は,株価データを使って得られた資本の系列を用いた場合の推計 結果である.その他の資本系列に比べ,資本成長率が非常に高く計測される ので,TFP 成長率は,80 年代が−4.7%,90 年代が−5.2%といずれも非常

に大きなマイナスの値となってしまう.

第 4 行目は,不良債権処理額を調整した場合の推計結果である.90 年代 の TFP 成長率は,SNA データを使った場合の 1.3%に比較して,1.8%と 0.5%も高い.これは,不良債権処理額を資本から控除することによって資 本ストックを修正した効果であり,修正しない場合には,失われた 15 年の TFP 成長率を約 38%程度過小評価してしまうことを示している.HP は,

図表 11 5 成長会計

資本データによる分類 Period GNP Growth Rate Contribution ratio

TFP Capital Working time Employment Rate

SNA 1981 1992年 3.1% 3.2% 0.3% −0.6% 0.1% 1993 2005年 1.0% 1.3% 0.5% −0.4% −0.4%

稼働率調整 1981 1992年 3.1% 3.5% 0.0% −0.6% 0.1% 1993 2005年 1.0% 0.7% 1.1% −0.4% −0.4%

トービンの q 1981 1992年 3.1% −4.7% 8.7% −0.6% 0.1% 1993 2005年 1.0% −5.2% 7.4% −0.4% −0.4%

(18)

90 年代に資本の成長率が 1.4%(1991 2000 年平均)であったと報告してい るが,本稿では,資本成長率はほぼゼロになる.

また,80 年代から 90 年代にかけての TFP 成長率の下落幅は,SNA デー タを使った場合が 1.9%であるのに対し,資本ストックのこうした測定誤差 を調整した場合には,1.4%まで縮小している.これは,資本ストックの測 定誤差を調整しない場合には,80 年代から 90 年代にかけての TFP 成長率 の下落幅を約 26%程度過大評価してしまうことを意味している.

5

不良債権で失われた GNP

不良債権発生の主な原因は,バブル期の過剰な不動産融資とバブル崩壊後 の追い貸しなどの過剰融資であると考えられる.Peek and Rosengren [2005]や Hosono and Sakuragawa[2008]は,バブル崩壊後の 90 年代におい て,銀行規制における会計上の裁を銀行に許容した政府の先送り政策が,貸 出市場において,不良業種への追い貸しなどのソフト・バジェット問題を引 き起こしてきたと論じている.その結果,収益性の高い業種から低い業種へ と信用の誤った再配分(credit misallocation)が日本の貸出市場に生じた可 能性を否定できない(たとえば,Peek and Rosengren[2005],Caballero

[2008]).そこで本節では,不良債権額相当額が健全な融資に配分されてい

たと仮定したときの産出量を計算し,不良債権で失われた GNP を計測する. 一国のマクロ経済が均斉成長経路上にあったとすれば,資本係数はほぼ一 定となるはずである.不良債権処理額を控除して作成した資本系列から得ら れる資本係数では,資本から不良債権の影響が取り除かれており,企業と銀 行が利潤最大化行動をとったときに得られる“理想的な”資本係数と一応考 えることができよう.また図 11 4 で示されるように,不良債権処理額を控 除して作成した資本系列から得られる資本係数は,90 年代以降,ほぼ一定 の値を示しており,日本経済は,均斉成長経路上にあった可能性を示唆して いる.

(19)

た資本係数で割ることによって,産出量をもとめる.なお,以下の計測では, 不良債権処理額を控除した資本系列を用いた場合に限定して分析を進める.

5.1 シミュレーション結果

実際の GNP はシミュレートした GNP を大きく下回った.現実の実質 GNP とシミュレートした実質 GNP の差を累計すると約 381 兆円であり,こ の分の実質 GNP が不良債権発生により失われた可能性がある.また,不良 債権問題が深刻化した 1993 年から 2005 年までの 12 年間の平均実質 GNP 成長率を比較してみると,実際の平均実質 GNP 成長率が 1.1%であったの に対し,シミュレーションでは 2.0%の成長率が達成されていたことになり, 12 年間の平均実質 GNP 成長率を 0.9%押し下げたことを示唆している20)

6

追加的分析

前節までに行った TFP 成長率と不良債権発生により失われた実質 GNP の計測では,以下の 2 つの問題よって,バイアスが生じている可能性がある. 第 1 に,対外資産の取り扱いに関する問題である.(11.1)式で示される HP の生産関数では,生産要素としての資本に対外資産が含まれており,対 外資産が直接的に一国の生産活動に貢献するという定式化になっている.こ の定式化を使うと,資本ストックの生産性が過大に評価され,結果として TFP 成長率が低めに計測されるという問題点がある.

第 2 に,地価の変動に関連した問題である.不良債権の増減に地価の動向

が大きく影響していた場合21),処理された不良債権額には資本ストックの

経済的減耗だけでなく,地価下落の影響も含まれている.したがって,処理 された不良債権額をそのまま資本ストックから控除すると,経済的減耗を過 大に評価してしまう可能性がある.

20) 1993 年の実際の実質 GNP は 465 兆円,2005 年の実質 GNP は 530 兆円であるが,企業と銀行 が健全な行動をとっていた場合,本来 590 兆円の実質 GNP が達成されていたはずである.平均 実質 GNP 成長率は,これらの値を使って計算した幾何平均である.

(20)

この節では,これらの問題点を鑑み,生産関数を通じた対外資産の影響を 取り除いた分析,ならびに不良債権処理額に含まれる地価下落の影響を取り 除いた分析を行う.

6.1 生産要素に対外資産を含めない分析

まず,生産関数を通じた対外資産の影響を取り除いた分析を行う.具体的 には,権・深尾[2007]に従い,GNP が以下のように表されるものとする.

GNP=A'(K)

' (hE)

'+

rZ (11.3)

ここでrは,対外投資の実質収益率を表す.最終的には

y=A'

 'hex'

'

'+rZ (11.4)

と表される.なお

x'K

GNPrZ

z

Z

N

である.

この定式化において計測された資本係数の動きについて若干触れると,図 表 11 3 で示されたように,対外資産を含むケースでは,90 年以降,ほぼ横 ばいの動きを示していたのに対して,対外資産を除いたケースでは,90 年 代を通じて,資本係数はむしろ低下した.

ま た,TFP 成 長 率 は,1981 1992 年 が 3.6%,1993 2005 年 が 2.5% と なった.80 年代から 90 年代にかけての TFP 成長率の下落幅は 1.1%に縮 小しており,しばしば指摘される TFP 上昇率の急激な下落はもはや観察さ れない.90 年代の TFP 成長率は,SNA データを使った場合(図表 11 5,1 行目下段)の 1.3%と比べ,1.2%も上昇する.また対外資産を含めた場合

(図表 11 5,4 行目下段)の 1.8%と比べると,0.7%上昇する22).後者が,対

外資産を生産関数から除外したことによる効果であり,対外資産を生産関数 から除外しない場合には,失われた 15 年の TFP 成長率を約 39%程度過小

(21)

評価してしまうことを示している.

さらに,(11.3)式によって GNP が決定される状況において,不良債権 相当額が健全な国内融資に配分されていた場合の GNP をシミュレートした. 現実の実質 GNP との差額は累計で約 476 兆円となり,日本の約 1 年分に匹 敵する実質 GNP が不良債権発生により失われた可能性がある.また,不良 債権問題が深刻化した 1993 年から 2005 年までの 12 年間の平均実質 GNP 成長率を比較してみると,実際の平均実質 GNP 成長率が 1.1%であったの に対し,シミュレーションでは,2.3%の成長率が達成されていたことにな り,不良債権問題は 90 年代の成長率を 1.2%押し下げた可能性がある.こ の押し下げ幅は,対外資産を生産関数に含めた 5.2 節の結果と比べると, 0.3%拡大している23)

6.2 地価下落の影響を考慮した分析

次に,不良債権処理額に含まれる地価下落の影響を取り除いて資本の経済 的減耗を評価した場合の分析を行う.処理された不良債権のうち,何%が地 価下落によるものであったのかを正確に把握することは非常に難しいが,経 済が最適な状態にあったとすれば,資本ストックと土地の収益率は同じにな るはずである.この場合,資本ストックと土地への投入比率が,不良債権処 理額に占める資本の経済的減耗部分と地価下落による損失部分の比率に等し いと考えることができる.この項では,SNA に記載されている「非金融法 人企業」の投入比率に応じて不良債権処理額を按分して資本の経済的減耗を 再評価し,この分のみを資本ストックから控除して作成した資本系列を用い て,同様の分析を行う.計測は,対外資産を資本として含む場合と,対外資 産を資本として含まない場合の 2 種類について行った.

対外資産を資本として含む場合

資本係数の動きは,不良債権処理額に含まれる地価下落の影響を除去せず に資本の経済的減耗を評価した場合(図表 11 4)と異なり,90 年以降,若

(22)

干の上昇傾向となった.

TFP 成長率は,1981 1992 年が 3.2%,1993 2005 年が 1.6%となり,80 年代から 90 年代にかけて 1.6%低下した.90 年代の TFP 成長率は,SNA データを使った場合(図表 11 5,1 行目下段)と比較すると,0.3%上昇して いる.これは,不良債権処理額に含まれる地価下落の影響を取り除いて資本 の経済的減耗を評価したとしても,SNA データを使った推計では,失われ た 15 年の TFP 成長率を約 23%程度過小評価してしまう可能性があること を示している.逆に,不良債権処理額に含まれる地価下落の影響を取り除か ずに資本の経済的減耗を評価した場合(図表 11 5,4 行目下段)と比較する と,TFP 成長率は 0.2%低下している.

また,(11.1)式によって GNP が決定される状況において,不良債権相 当額が健全な融資に配分されていた場合の GNP をシミュレートした結果, 現実の実質 GNP との差額は累計で約 210 兆円となった.1993 年から 2005 年までの平均実質 GNP 成長率として見ると,シミュレートした実質 GNP が 1.6%であり,不良債権問題が 12 年間の平均実質 GNP 成長率を 0.5%押 し下げた可能性がある.

対外資産を資本として含まない場合

資本係数の動きは,不良債権処理額に含まれる地価下落の影響を除去せず に資本の経済的減耗を評価した場合(図表 11 4)と同様に,90 年以降,低 下傾向を示した.

TFP 成長率は,1981 1992 年が 3.6%,1993 2005 年が 2.2%となり,80 年代から 90 年代にかけて 1.4%低下した.90 年代における TFP 成長率は, SNA データを使った場合(図表 11 5,1 行目下段)と比較すると,0.9%上昇 している.不良債権処理額に含まれる地価下落の影響を取り除かずに資本の 経済的減耗を評価した場合(図表 11 5,4 行目下段)と比較すると,0.4%上 昇している.

(23)

レーションでは 1.8%の成長率が達成されていたはずであり,12 年間の平均 実質 GNP 成長率を 0.7%押し下げた可能性がある24)

7

まとめ

本稿では,不良債権を考慮した場合の資本の測定方法を提案している.そ して,日本のデータを使って新たな資本系列を作成し,成長会計分析を行っ た.その結果,われわれが提案した方法により資本の測定誤差を調整しない 場合,失われた 15 年の TFP 成長率を約 38%程度過小評価してしまう可能 性があることが明らかとなった.

また,われわれが提案した方法により作成される資本サービス系列は,不 良債権の影響を取り除いたものであり,この系列から得られる資本係数は, いわば不良債権のない状態での“理想的な”資本係数である.この性質を利 用して,不良債権が健全な資産として利用された場合の実質 GNP を算出し て現実の実質 GNP と比較し,不良債権の発生により日本が失った実質 GNP を計測した.その結果,不良債権問題は,1993 年から 2005 年までの 12 年 間の実質経済成長率を最大 1.2%程度押し下げた可能性があることが明らか となった.

なお,本稿での分析は,マクロデータを使用した原始的なものである.ミ クロデータを使った詳細な分析が望まれることはいうまでもない.

補論 1

この補論では,第 3 節の図表 11 3 で示した各資本系列の詳細について説 明する.

「SNA」

SNA データによる資本の系列.「非金融法人企業」「金融機関」「家計」 「対家計民間非営利団体」の「固定資産」ならびに「在庫」の合計を GDP

(24)

デフレータで実質化した値.

「稼働率調整」

「SNA」に製造業の稼働率データ(H12=1 に基準化した値)を掛け合わ

せ,稼働率調整して得られた資本の系列.稼働率データは,「稼働率・生産 能力指数」(経済産業省)を用いた.

「q」

まず,Hall[2001]に基づいて,トービンの q を以下の式によって計測する.

q=α

x

k

+ 1 (A.1)

ここで,qはトービンの q,αは投資の調整費用関数のパラメータ,xt

期の投資額,kはt−1 期の資本ストックを表す.投資の調整費用関数の

パラメータはα=8 とした.また,投資(x)ならびに資本ストック(k)

のデータは「法人企業統計」(財務省)の全産業の数値を用いた. 次に,市場価値で見たバランスシートが以下の式で表されるとする.

S+D=qK+L (A.2)

ここで,St期の株式時価総額,Dt期の負債時価総額,qKt期の

資本ストックの時価総額,Lは土地の時価総額である.図表 11 3 の「トー

ビンの q」は,(A.2)式をKについて解いて得られた資本系列である.

なお,「資本ストックの時価(q)」には(A.1)で求めた値25)を,「株式

時価総額(S)」については「資金循環勘定」(日本銀行)のデータを,「負

債時価総額(D)」ならびに「土地の時価総額(L)」については SNA の

データを用いた.各データは,「非金融法人企業」「金融機関」「家計」「対家 計民間非営利団体」の合計額である.

(25)

「不良債権調整」

「SNA」から SNA の「債権者による不良債権の抹消」(第 2 部ストック編 の統合勘定あるいは制度部門別勘定の「その他の資産量変動」勘定)に記載 されている不良債権処理額を経済的減耗として資本ストック額から控除した 資本系列.

補論 2

この補論では,第 4 節で用いたデータの詳細について説明する.93SNA は,平成 7 年基準と平成 12 年基準がある.1980 2005 年のデータ系列を作 成するため,1996 年で倍率を計算し,この年で 2 つの系列が一致するよう に調整した.また,変数を実質化するにあたって,物価指数は「GDP デフ レータ」を利用した.

GNP:「消費」「投資」「政府支出」「純輸出」「要素所得の純受取」の合計

額 を 実 質 化 し て 利 用.デ ー タ の 詳 細 は,Hayashi and Prescott [2002]を参照.

K :3

節で定義した資本サービスを表す.資本ストックの詳細は,Hay-ashi and Prescott[2002]を参照.

Z :日本の対外純資産を表す.データの詳細は,Hayashi and Prescott

[2002]を参照.

E :総雇用量を表す.データの詳細は,Hayashi and Prescott[2002]を

参照.

h :労働者 1 人当たりの年間労働時間を表す.データは,「毎月勤労統

計調査(労働時間月)」をもとに算出.

N :労働可能人口を表す.データは,総務省「人口推計」における 20

69 歳までの人口合計を利用.

r :国際投資の実質収益率を表す.「要素所得の純受取」の対外純資産

に対する比率を算出し,各年の値を収益率として利用.

θ :(11.1)式における資本分配率を表す.θ=0.362 に設定.詳細は,

Hayashi and Prescott[2002]を参照.

(26)

and Prescott[2002]のデータをもとに算出.

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参照

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