熱力学演習 (Wednesday August 3, 2016) 期末試験 解答例&解説 1 問題1. 次の文章の空欄に入る言葉を答えよ。また4. で
は左辺を含めた数式を書け。 (30点) 1. Helmholtzの自由エネルギーF[T ; X ]は,a.等温
環境において,b.最大 仕事を用いて定義される。 2. エネルギーU (T; X ) は,c.断熱 環境において,
d.断熱 仕事を用いて定義される。
3. エントロピーS(T; X )は,任意の断熱操作によっ て,e.減少 しない。
4. 任意の等温操作 (T; X1)→−i (T; X2) における最大 吸熱量Qmax(T; X1→− X2)は,F[T ; X ]とU (T; X ) を用いて
Qmax(T; X1→− X2) (1)
= F[T ; X1] − F[T ; X2] + U (T; X2) − U (T; X1)
と書ける。上の式がf. の答え。
問題2. 任意の温度における任意の等温準静サイクルに おいて,このサイクルが外界に行う仕事をWcycとする。 Wcyc = 0であることをKelvinの原理から導け。(20点)
まずKelvinの原理からWcyc ≤ 0が言える。この等温 準静サイクルを逆行させた等温サイクルを考える。準 静操作を逆行させたとき,系が外界に行う仕事は,大き さはそのままで符号が反転するので,逆行サイクルが外 界に行う仕事は −Wcyc となる。この逆行サイクルも等 温サイクルなのでKelvinの原理から−Wcyc ≤ 0,すな わちWcyc ≥ 0でなくてはならない。従って
Wcyc= 0 (2)
が成り立つ。
問題 3.示量変数が X0,熱容量が一定値C0の理想化し た固体と,N モルの理想気体のエントロピーは
S(T; X0) = S0+ C0log T, (3) S(T; V, N ) = cN R + N R log
((T T∗
)c V v∗N
)
(4) で あ る 。こ の 複 合 系 の エ ン ト ロ ピ ー S(T; X0, V, N ) を 求 め よ 。そ の 結 果 か ら ,操 作 (T; X0, V, N ) → (T1; X0, V1, N ) が断熱操作および断熱準静操作として 可能になる条件を具体的に書け。また,固体の示量変数 X0を固定したまま,断熱的に温度を下げられることを
説明せよ。 (30点)
エントロピーの相加性より
S(T; X0, V, N )
= S0+ C0log T + cN R + N R log ((T
T∗ )c
V v∗N
) (5)
ここでT 依存性をまとめるため c′ := C0
N R を導入して 整理すれば
S(T; X0, V, N )
= S0+ cN R + N R log (
Tc′ (T
T∗ )c
V v∗N
)
(6)
= S0′+ N R logT
c+c′
V
N (7)
となる。N は固定するので,S(T; X0, V, N )の示量性を 明示するのに必要なもの以外はまとめた。
任意の断熱操作によってエントロピーは減少しない ので,断熱操作 (T; X0, V, N )→−a (T1; X0, V1, N )が可能で あるためには
S(T; X0, V, N ) ≤ S(T1; X0, V1, N ). (8) T, V を使って書けば
Tc+c′V ≤ T1c+c′V1. (9) 断熱準静操作 (T; X0, V, N ) −−aq→ (T1; X0, V1, N ) が可能で あるための条件は,(8)と(9)で等号の時である。した がって
Tc+c′V = Const. (10) は,この系の断熱曲線になる。
(9)を満たせば断熱操作が可能なので,仮にT > T1で あっても
V1 ≥ (T
T1 )c+c′
V (11)
を満たすように理想気体の体積を膨張させれば,理想個 体の X0を固定したまま系全体の温度を下げることがで きる。
問 題 4. 理 想 気 体 の Helmholtz の 自 由 エ ネ ル ギ ー F[T ; V, N ]は
F[T ; V, N ] = −N RT log ((
T T∗
)c V v∗N
)
+ Nu (12) で あ る 。こ れ か ら 圧 力 P(T; V, N ) と エ ネ ル ギ ー U (T; V, N ) を計算せよ。この結果から、U (T; V, N ) が 完全な熱力学関数でないことを説明せよ。 (30点)
P(T; V, N )とF[T ; V, N ]の関係より
P(T; V, N ) = −∂F[T ; V, N]
∂V
= N RT
V . (13)
理想気体の状態方程式が導かれる。
熱力学演習 (Wednesday August 3, 2016) 期末試験 解答例&解説 2 S(T; V, N ) とF[T ; V, N ]の関係より
S(T; V, N ) = −∂F[T ; V, N]
∂T
= cN R + N R log (
(T T∗
)c V v∗N
)
. (14)
U (T; V, N )とF[T ; V, N ]の関係式に(12)と(14)とを代 入して
U (T; V, N ) = F[T; V, N] + T S(T; V, N )
= cN RT + Nu (15)
となる。
U (T; V, N ) はV に依存しないため,体積変化による
圧力 P(T; V, N ) の変化,すなわち状態方程式の情報を
含んでいない。状態方程式のセットになってはじめて
U (T; V, N ) 系の熱力学的性質を完全に指定できる。つ
まりU (T; V, N ) だけでは,系の熱力学的全情報を保有
していない。その意味でU (T; V, N ) は完全な熱力学関 数ではない。
【補足】F[T ; V, N ]からは(13)と(14)の通りに状態
方程式とエントロピーを導出できる上に µ(T ; V, N ) = ∂F[T ; V, N]
∂ N (16)
によって,化学ポテンシャルも導出できる。つまり
F[T ; V, N ]は系の熱力学的全情報を有する完全な熱力学
関数である。
同じエネルギーであっても,F[T ; V, N ] をLegendre 変換して得られる U[S, V, N ] は,系の熱力学的全の 情報を有する完全な熱力学関数である。U (T; V, N ) と
U[S, V, N ]とでは,独立変数が違う。関数は,従属変数
の値(ここではUの値)だけでなく,独立変数から従属 変数への対応関係全体で意味を成す。ここでの例で言 うと,U (T; V, N )は
(T; V, N ) −→ U (17)
の対応関係を表し,U[S, V, N ]は
[S, V, N ] −→ U (18)
の対応関係を表す。関数(17)と関数(18)では異なる関 数なので,有する情報も異なる。