Takehito Yoshida
●1972 年福井県生ま れ。北海道大学・京都 大学・コーネル大学・ 総合地球環境学研究所 を経て現在の所属。専 門は生態学・進化学・ 陸水学。
食 う も の と 食 わ れ る も の の 関 係
生物は、数多くのほかの生物とさまざまな関係を持ちながら生きている。代表的な関係の1つが、食うものと食われるものの関係である。例えば、動物が植物を食べたり、動物が動物を食べたり、動物が寄生者に利用されたりといった関係がある。この関係は、食うものがを得て食われるものが失うという、一方的な勝ち負けの関係に見える。光合成などにより生産された有機物が、食うー食われるの関係で植物から動物に、動物から動物に受け渡されていく。私たち人間は、その生態系の営みの一部を、食料や木材や薬などとして利用しており、生物による物質生産のしくみを知ることは、人間社会にとっても大切である。
食 わ れ る 生 物 の 抵 抗 さ ま ざ ま な 防 衛 の 進 化
ところで、食われるものは、いつも食うものに負けっぱなしではない。進化を動かす力となる自然選択は、より食われにくい性質を食われる側の生物にもたらしてきた。例えば、ある池の中の生物を見てみよう。イカダモは、まさに筏のように細胞をつなげて群体をつくり、動物プランクトンに食べられにい形をもつ︵図︶。一方で、
食うー食われるの関係は、さまざまな生き物に食べられにくい性質(防衛)の進化をもたらした。イカダモは筏形の群体をつくり動物プラ ンクトンからの捕食に対抗し、ミジンコは頭部や尾部に棘をのばしてプランクトン食魚に対して防衛し、オタマジャクシは体を膨満化して 防衛し、トゲウオは背に棘をもち捕食から逃れる。(※ 著作権上の都合により図が省略されています。)
動物プランクトンのミジンコは、頭を尖らせたり尾部に刺をのばしたりして、魚に食べられにくい形をもつものがいる︵図︶。その魚も、魚を食べる魚に食べられにくいように、トゲウオのように刺を持つなどの防衛をする︵図︶。このように、食べられる生物は食べられるばかりでなく、食べられにくい性質を進化させて、食べられる損失を少なくしようとするのである。このような防衛の進化は、生き物の多様性を生み出す1つのしくみとして知られる。
食 う ー 食 わ れ る 関 係 が 動 か す 個 体 数 の 変 化
食うー食われるの関係は、食う生物と食われる生物の数の変化をもたらし、時には、食う生物と食われる生物の数が互いに追いかけるように振動する︵図︶。食われる生物が増えるとそれをとする食う生物も増えるが、やがて食われる生物は数を減らしだす。食われる生物が減るとが不足して、食う生物も同じように減る。食う生物の数がある程度まで少なくなると、今度は食われる生物の数が増えだす。そして、最初にもどり、食う生物も数を増やし始めるのである。このように、食うー食われるの関係は、生物の数の変動をもたらす1つの重要な原因となっている。ここで、食う生物と食われ
食べられにくい防衛型(右)と食べら
れやすい非防衛型(左)のミジンコ 食べられにくい防衛型(下)と食べら
れやすい非防衛型(上)のイカダモ
食べられにくい防衛型(右)と食べら れやすい非防衛型(左)のオタマジャクシ 食べられにくい防衛形態をもつトゲウオ
吉 田 丈 人 東 京 大 学 総 合 文 化 研 究 科 ・ 教 養 学 部 准 教 授 食 う 者 と 食 わ れ る 者 、 ど ち ら が 強 い か ?
おこ る速 い進 化は
、食 うー 食わ れ るの 関係 を、 固定 され たも ので な くダ イナ ミッ クな もの に変 える
。 つま り、 食わ れる もの の進 化に よ り、 食う ー食 われ るの 関係 が強 く なっ たり 弱く なっ たり する ので あ る。 私た ちの 身近 なと ころ にも
、 たと えば 水産 資源 の変 動や 感染 症 の流 行な ど、 食う ー食 われ るの 関 係と とら えら れる 生態 がた くさ ん ある
。そ のよ うな 生態 に速 い進 化 はど う影 響し てい るの だろ うか
? 生態 学と 進化 学の 融合 領域 にお け る先 端テ ーマ の1 つで ある
。
食うー食われるの関係は、食うものと食われるものの個体数の振動をもたらす。どのような振動のパターンになるかを、たとえば植物プランクトンと動物プランクトン を用いた培養実験で研究することができる。最近の研究で、植物プランクトンが速い進化を見せると、振動周期が長くなったり位相がずれたりといった、個体数の振動 パターンに大きな影響がでることがわかってきている。
る生 物の どち らが 強い か、 改め て 考え てみ よう
。個 体数 の変 化を も う少 し考 えて みる と、 食う 生物 だ けが
不足 によ り絶 滅す るこ とは あっ ても
、食 われ る生 物だ けが 絶 滅し て食 う生 物が 生き 残る こと が ない こと がわ かる
。す なわ ち、 食 う生 物は 食わ れる 生物 がい て初 め て生 かさ れる
、と いう 意味 で、 食 われ る生 物が 一方 的に 負け るわ け では ない こと がわ かる だろ う。 速い 進化 が食 うー 食わ れる 関係 を変 える 食う ー食 われ るの 関係 を調 べて い る最 近の 研究 で、 食わ れる 生物 の 防衛 がこ れま で考 えら れて きた 以 上の 速さ で進 化す るこ とが
、次 々 に明 らか にさ れて いる
。何 十万 年 の時 間ス ケー ルで はな く、 今現 在 に進 行中 の時 間で
、食 われ る生 物 が食 われ にく い性 質を 進化 させ う る。 そう する と、 さき ほど の食 う ー食 われ るの 関係 によ り動 かさ れ た個 体数 の変 化は
、食 われ る生 物 が防 衛の 性質 を素 早く 進化 させ る ため に、 これ まで とは 違っ た個 体 数変 化パ ター ンを 生み 出す かも し れな い。 実際
、食 われ る生 物が 進 化す る場 合と 進化 しな い場 合で
、 まっ たく 異な る個 体数 変化 のパ タ ーン にな るこ とが
、食 う生 物と 食 われ る生 物を 使っ た実 験に より 明 らか にな って いる
︵図
︶。 進化 と生 態の つな がり 自然 選択 によ る進 化と
、食 うー 食 われ るの 関係 の生 態は
、こ れま で は別 々の 時間 スケ ール で起 こる 現 象で ある と考 えら れて きた
。し か し、 現在 進行 中の 時間 スケ ール で