労働経済学(第 2 回)
広島大学国際協力研究科
川田恵介
復習
• 1973年から2012年にかけて就業率は7.3%低下した。
• 一貫して低下しているわけではなく、上昇した期間も ある。(例:87年から92年にかけて1.8%、04年から07 年にかけて0.5%上昇した。)
• 就業率の動きを「統合的に」説明できるモデルは存 在するか?⇒(ワルラス型)競争市場モデルはその 有力な候補の一つ
理論分析
個別の事例(就業率の変化、個々の企業の人事制度等) を収取することは極めて重要!!
事例を分類し、事例の背後にどのようなメカニズムがある か、を考察することも同時に行う必要がある。
モデル分析:圧倒的に複雑な現実から、特に重要と考えら れる点を抜き出して、現実の模型を構築することで、現実 の背後にあるメカニズムを炙り出す分析手法。
競争市場モデル
労働:家計が企業に対して行う 賃金:労働の
労働市場:労働が売り買いされる場
注意:現実の労働市場は、業種、地域、労働者の属性、就 業形態等によって細かく細分化されている(例:広島県の看 護師の労働市場)。
ただし単純化のために、一国全体を一つの労働市場と見 做して分析する場合もある。
競争市場モデル
飴の財市場
供給関数:ある価格において、企業が供給する飴の数 需要関数:ある価格において、家計が需要する飴の数
労働市場
供給関数:ある において、 が供給 する飴の数
需要関数:ある において、 が需要 する飴の数
競争市場均衡
競争労働市場均衡:労働需要と労働供給が一致した状態
賃金
労働量 均衡賃金
均衡就業者数
労働供給
労働需要
競争市場均衡の特徴
• 労働需要と供給を両方反映した形で、均衡賃金、労 働量は決まる。
• 均衡賃金のもとで働きたいのに働けない人は、存在 しない。
• 経済全体でも失業は発生しない。 労働力=
非労働力= 失業者数=
均衡雇用量、賃金の変化
• 均衡賃金、雇用量はなぜ変化するか?
⇒供給関数の変化:ある賃金のもとで供給してもよいと考 える労働量の変化
⇒需要関数の変化:ある賃金のもとで需要してもよいと考 える労働量の変化
例)供給量=A+B×賃金、需要量=C-D×賃金、で表せ る場合、 が変化した場合均衡は変化する。
需要ショック、供給ショック
正の供給ショック:家計がある労働量を供給してもよいと考 える賃金水準が
負の供給ショック:家計がある労働量を供給してもよいと考 える賃金水準が
正の需要ショック:企業がある労働量を需要してもよいと考 える賃金水準が
負の需要ショック:家計がある労働量を需要してもよいと考 える賃金水準が
需要、供給ショック
賃金
労働量
労働供給
労働需要
賃金、労働量の動きが主に、需要、供給、どちらの変化に よって生じたのか、理論仮説を与えることができる。
雇用量の減少の要因
賃金 労働供給
労働需要
どちらかが主たる原因
均衡賃金
識別
供給ショック、需要ショックどちらが原因か?
⇒ を見れば、予測できる。
就業↓、賃金↑ならば、 が原因 就業↓、賃金↓ならば、 が原因
賃金の動き
頑健性のチェック
大部分の経済モデルは、数学を用いて記述されている。
⇒計算間違えさえしてなければ、前提が正しければ、必 ず結論は正しい。
前提が少々変わっても、変化しない結論は「頑健」であり、 信頼性の高い結果と言える。
需要関数と供給関数の形が変わっても、16pの結論は 変わらないか?⇒右下がりの需要曲線、右上がりの供 給曲線のもとでは、
頑強性のチェック
賃金
労働量 労働需要 労働供給
現金給与総額
現金給与額=決まって支給する現金給与額
+特別給与額/12
(例)月給+手当+ボーナス総額/12
賃金と雇用の動き
賃金構造基本統計調査、労働力調査より
56.0 57.0 58.0 59.0 60.0 61.0 62.0 63.0 64.0
100,000 150,000 200,000 250,000 300,000 350,000 400,000 450,000
1973 1974 1975 1976 1977 1978 1979 1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
現金給与額 就業率
賃金についての注意
時給or月給:次回以降の講義で示す通り、労働の“価格”と しては、時給を用いることが望ましい。
名目時間当たり賃金=現金給与額/(所定内実労働時間+超 過実労働時間(残業))
名目or実質:物価の変動を考慮に入れるために、実質化す る必要がある。
実質時間当たり賃金=名目時間当たり賃金/消費者物価指 数
賃金と雇用の動き
賃金構造基本統計調査、労働力調査より
就業率
1973 1974
1975 1976
1977 1978 1979 1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988
1989
1990
1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998
1999 2000 2001
2002 2003 2004
2005 2006 2007 2008 2009
2010 2011 2012
1600 1700 1800 1900 2000 2100 2200 2300 2400 2500 2600
56.0 57.0 58.0 59.0 60.0 61.0 62.0 63.0 64.0
実質現金給与額( 時給)
賃金と雇用の動き since 92
実質現金給与額( 時給)
就業率
1992 1993
1994 1995
1996 1997
1998
1999 2000
2001
2002 2003
2004 2005 2006
2007 2008
2009 2010 2011
2012
2350 2400 2450 2500 2550 2600
56.0 57.0 58.0 59.0 60.0 61.0 62.0 63.0
(応用)失業の発生要因
「なぜ失業が発生するのか」という問題についても、均 衡市場モデルは理論的な予測を与えることができる。 理論モデルの予測と現実の事象がずれた場合、理論モ デルを修正する必要がある。
モデルの前提の内どれを変更すれば、ある現実の事象 を説明できるのか、考察する。⇒頑強ではない前提を 見つけ、現実を説明できるように修正する。
競争市場均衡の仮定
競争市場均衡の仮定:需要量と供給量が等しくなるよう に賃金は決定される。
(修正された仮定)賃金はなかなか低下しない。
⇒ が発生すれば、失業者が 発生する。
仮定の修正:ベースとなるモデルに基づいて、ある事象 がなぜ発生するのか、予測を与えている。
賃金の下方硬直性
賃金
労働量 労働供給
労働需要
まとめ
• 均衡市場モデルは、賃金や雇用量の動きを、統一的 な説明を与えることができる。
• 仮定を修正することで、さらに多くの経済、社会的事 象について分析することが可能になる。(次々回以 降)
• 社会の善し悪しを効率性と公平性の観点から評価 することができる(次回)
次講義に向けて:ミクロ的基礎づけ
• 今日の分析では、需要、供給関数は、外生的に与えら れていた。
• 政策変更や社会状況の変化は、賃金の変化以外にも、 需要、供給関数の“形状“に予期せぬ影響を与える可 能性がある。
• 個々の家計や企業の行動をベースとして、需要、供給 関数の形状について、予測を与えることは重要である。