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……… 第46回関東理科教育研究発表会
1 はじめに
現在,勤務校において,中学の理科の内容と高校の基礎科目との接続作業を行っている。今年度の3年次生 (中3)では,生物分野と物理分野それぞれにおいて,生物基礎,物理基礎の教科書を活用して,中高の接続 を図るカリキュラムを計画し,授業実践を行っている。特に,中3理科の物理分野は,高等学校の物理基礎の 力学の内容と重なる部分が多いため,物理基礎の内容を取捨選択しながら授業用のプリントを作成している。 表1は,現行の学習指導要領における中3理科と高等学校物理基礎の力学分野を比較したものである。
表1 学習指導要領における中3理科物理分野と高等学校物理基礎の内容比較
前半は運動の規則性について,後半は力学的エネルギーについて学習する点では,中学校と高等学校では 差がないと言える。ということは,高等学校卒業までに,同じ内容を2回学習するとも言える。しかしなが ら,前半の運動については,中3では,力についての学習を先に行い,その後で運動の規則性を考えながら 力と運動について学習をすすめるのに対して,高等学校物理基礎では,運動の規則性を学んだ後で,力につ いて学習し,その後,運動の法則について学習する流れである。そこで,力を先に学習すべきか,それとも 運動の規則性を先に学習すべきかについて,考えることとした。
2 中学校の力学分野について
力の分野については,中学校学習指導要領解説にもあるように,小学校では,第3学年で「物と重さ」,「風 やゴムの働き」,第4学年で「空気と水の性質」,第6学年で「てこの規則性」について学習している。そし て中1では,「身近な物理現象」の中で,「力の働き」,「圧力」について学ぶ。この「力の働き」では,ばね におもりをつるして伸ばし,おもりの数と伸びが比例するといった内容や,力の三要素,重さと質量の違い などについて学習する。しかし,いずれも静止している状態での扱いに過ぎず,静力学の範囲に留まってい るが,2力のつり合いについてはここでは触れず,中3の学習内容となっている。そのため,中3では,力
中3理科物理分野と物理基礎(力学分野)の接続について
茨城県立並木中等教育学校
粉川雄一郎
中学校学習指導要領および解説 高等学校学習指導要領および解説 (5)運動とエネルギー
ア 運動の規則性 (ア)力のつり合い 力のつり合い, 力の合成と分解 (イ)運動の速さと向き 力は物体同士の相互作用 作用・反作用の働き (ウ)力と運動
落下運動,等速直線運動 記録タイマー等での記録 慣性の法則
イ 力学的エネルギー (ア)仕事とエネルギー (イ)力学的エネルギーの保存
(1)物体の運動とエネルギー ア 運動の表し方
(ア)物理量の測定と扱い方 (イ)運動の表し方
(ウ)直線運動の加速度 イ 様々な力とその働き (ア)様々な力
(イ)力のつり合い (ウ)運動の法則 (エ)物体の落下運動 ウ 力学的エネルギー (ア)運動エネルギーと 位置エネルギー (イ)力学的エネルギーの保存 エ 物体の運動とエネルギーに 関する探究活動
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千葉大会
について一通り学習した後で,力との関係を考慮しながら運動の規則性について学習を進めている。 現行課程の一つ前の課程(平成10年告示)では,中1で力の三要素には大きさや向きがあること,2力の つり合いの条件,2力のつり合いについても学習し,中3で物体に力が働く運動と働かない運動について学 習することになっていた。さらに,平成元年告示の学習指導要領では,中1で力と伸びの関係,質量と重さ について学習し,中3で2力がつり合う条件や力の合成,分解を学習した後,物体の運動についての学習を するように書かれている。このことからも,中学校では,力の学習を一通り終えてから運動の規則性を学習 するという流れは維持されている。
一方,力の学習をしても,運動の規則性において,力についてはあまり活用されないまま授業が進んでい るのではないかという懸念もある。力の合成,分解については,やり方を覚えて作図できるだけで,応用に ついてはあまり触れられていないと感じる。過去のテストやワークブックから,斜面上の分力の話をしても, 記録テープの解析に追われてしまい,分力との関係が軽視されてしまっている生徒も存在することも併せて 報告しておく。
3 高等学校物理基礎の力学分野について
表1のとおり,学習指導要領では,目で見てわかる運動について学習をした後に,加速度について,演習 を交えて学習する。その後,力について学習し,力と運動との関係へと続いている。物体の運動は変化する が,その単位時間あたりの速度変化である加速度については中学校ではあまり触れられていない。ここに高 等学校での学習との差を見出すことができる。そのため,まず,加速度の学習を行い,可視化しにくい力に ついて学習し,力と運動との関係へと学習が進んでいくと考える。
4 今年度の実践について
前述のとおり,加速度について十分に触れるかどうかが中3 理科と高等学校物理基礎との大きな違いであると考える。そこ で,今年度は,加速度を意識させるために,高等学校物理基礎 の流れを採用しながら,中3の教科書,物理基礎の教科書の内 容を扱っている。大まかな流れを表2に示した。また,適宜, 演習も入れている。
物体の運動について学習を進めて行く過程で,力に関する説 明が教科書に出てくるので,生徒は多少,力について意識をし ている。しかし,力についてはあまり触れず,物体の運動の記 録と解析,運動の規則性について学習をすすめることにしてい る。そして,運動について一通り学習を終えた後に,2力のつ り合い,力の合成,分解の内容をしながら,運動の規則性につ いて復習させることで,力と運動の関係を少しずつ意識させる ことにしている。
物体の運動の規則性では,計算も多いため,集中して取り組ませたい。そして記録テープの処理に慣れさ せた後で,力,そして力と運動との関係についての学習を通して,生徒は力の学習についての意味を感じる ことができ,力と運動の関係を捉えやすくなると考えている。
表2 今年度の学習の流れ
1 運動の向きと速さ 2 記録タイマーの使い方
3 水平面での物体の運動(実習) 4 水平面での物体の運動(まとめ) 5 斜面上の物体の運動(実習) 6 斜面上の物体の運動(まとめ) 加速度の導入
7 等加速度直線運動(まとめ) 8 力の合成,分解
9 力と運動の関係