経済学基礎
-第 11 回 IS-LM 分析-
菅 史彦
内閣府 経済社会総合研究所
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ミクロからマクロへ
マクロ経済学では、国全体や世界的な経済の動向を経済全体 の動きに関心がある。
たとえば、
インフレ・デフレ 失業率
経済成長 景気変動 などを扱う。
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ケインズ経済学と新古典派経済学
ミクロ経済学的な基礎のもとに構築されたのが新古典派経 済学。
大量の失業者が生まれ、ものが売れない恐慌のような現象を 説明するためにできたのがケインズ経済学。
経済主体の合理性や価格メカニズムは不完全なものであると いう仮定のもとに成り立つ理論で、
財政政策と金融政策による政府の積極的な介入を是とする。
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マクロ経済モデル
マクロ経済学で使われるモデルは、基本的には一般均衡モデ ルだが、
集計された経済変数の時間的な変化な変化に関心がある。 市場の均衡を必ずしも前提としない。
理論的整合性より、政策的な意味を重視。 経済主体間の相違は重視しない。
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国民所得の測定と政府の政策
マクロ経済学は、国全体の経済活動の大まかな動きに関心が ある。
そのため、国の経済活動が、どのくらい活発かを測りたい。 そのために、経済活動によってある期間に生み出された(付 加)価値の合計を測ったのが、国内総生産 (GDP)。
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三面等価の原則
経済活動によって生み出された価値の総和という考え方は、 生産サイドから見た GDP。
しかし、そのようにした生み出された価値は、必ず誰かに分 配され、誰かの所得になっているはず。
また、生産されたものは、誰かに何らかの形で使われてい るはず。
すなわち、経済活動の水準を測るときに、 生産面(GDP)から見ても、
分配面(GDI)から見ても、 支出面(GDE)から見ても、
全て等しいはず。これを三面等価の原則と呼ぶ。
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需要とケインズ経済学
ケインズ経済学では、前提として
1 財市場は超過供給の状態が支配的である。
2 生産能力に余裕が有り、需要さえあればその分だけ供給で きる。
3 価格調整スピードが遅く、超過供給なのに価格が下落しない。
4 そのため、総需要がどう決まるかのみが問題である。
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乗数モデル:家計の消費需要
消費関数が以下で与えられる:
C =c0+c1Y (1)
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乗数モデル:財市場の均衡
総需要は、消費+投資+政府支出で与えられる:
A =C+I+G (2)
=c0+c1Y +I+G (3) 三面等価により、総生産と総所得は等しい。
Yは総生産に等しく、これが総需要に等しい水準に決まる。 すなわち、以下の恒等式が成立する:
Y =A (4)
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乗数モデル:財市場の均衡
財市場の均衡は下図Eで与えられる:
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乗数モデル:財市場の均衡
財市場の均衡は下図Eで与えられる:
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乗数モデル:財市場の均衡
財市場の均衡は下図Eで与えられる:
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乗数モデル:乗数
1 ここで、投資もしくは政府支出が1兆円増えたとする。
2 財市場の均衡条件をYについて解くと、
Y = c0+I+G 1 −c1
(5) を得る。
3 すなわち、I+Gが1兆円増加すると総生産・国民所得は 1
1 −c1 > 1 (6) 増加する。
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乗数モデル:乗数
図で見ると…
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乗数モデル:乗数
図で見ると…
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乗数モデル:乗数
図で見ると…
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乗数モデルから IS-LM モデルへ
1 乗数モデルは単純だが、公共事業で景気が良くなるという発 想は、基本的に乗数モデルから来ている。
2 そのため、政治経済的には非常に重要な意味を持つ。
3 ただ、ここまでの議論では、投資は外生変数で、金融市場は 考慮しなかった。
4 乗数モデルに内生的な投資と、金融市場を導入したのが IS-LMモデル。
5 LM曲線を導入する前に、貨幣市場について解説する。
貨幣市場
貨幣の役割
貨幣には交換手段としての側面と、 富の蓄積手段としての側面がある。
そのため、貨幣への需要を考えるには、取引需要と資産需 要を区別して考える必要がある。
以下、貨幣需要関数をL(Y,r)と定義する。
貨幣市場
取引需要
貨幣は市場取引の媒介としての側面を持つ。
貨幣がなければ、市場での取引は物々交換になる。
物々交換経済では、欲望の二重の一致が必要となり、取引は 著しく不効率になる。
貨幣は取引を媒介するため、人々は取引に備えて貨幣を持つ。 取引が活発に行われるほど、交換媒体としての貨幣への需要 も増す。
したがって、貨幣需要L(Y,r)は国民所得もしくは国内総生産 Yに関する増加関数になっている。
貨幣市場
貨幣供給量と GDP
出典:福田・照山『マクロ経済学・入門』
貨幣市場
流動性選好仮説
貨幣には富の保蔵・蓄積手段という側面もある。
仮に、富の蓄積手段が貨幣と債券しかないと仮定する。 債券の利回りは利子率rで与えられる。
一方貨幣には利子はつかない。
利子率rが高いときには、貨幣に対する資産需要は低い。 したがって、貨幣需要L(Y,r)は利子率r に関する減少関数に なっている。
貨幣市場
貨幣市場の均衡
貨幣量とrはこのような関係を満たしているはず。
貨幣市場
貨幣市場の均衡
貨幣量とrはこのような関係を満たしているはず。
貨幣市場
貨幣市場の均衡
貨幣量とrはこのような関係を満たしているはず。
貨幣市場
貨幣市場:貨幣供給
そもそも「貨幣」をどう定義するか? 最も一般的に用いられる定義は、
貨幣量(マネーストック)= 現金通貨 + 預金通貨。 預金通貨を普通預金に限定するか、定期預金なども含めるか などによって、M1、M2 など、いろいろな定義がある。
貨幣市場
貨幣市場:貨幣供給
IS-LMモデルでは、貨幣供給Mは政府がコントロールできる ものとして扱う。
実際に政府・日銀が直接コントロールできる部分は限られて いる。
政府・日銀がコントロールできる部分を取り出してハイパ ワードマネーもしくはマネタリーベース、ベースマネーを以 下のように定義する:
ハイパワードマネー = 現金通貨 + 銀行の預金準備 マネーストックをハイパワードマネーで割ったのが貨幣乗数。
貨幣市場
貨幣乗数の推移
出典:福田・照山『マクロ経済学・入門』
IS-LM分析
総需要の IS − LM 曲線による分析
マクロ経済学で広く使われる手法の一つが、IS − LM 曲線を 使った総需要の分析。
ISは投資 (Investment)と貯蓄 (Saving)の頭文字を、 LMは流動性選好 (Liquidity preference)と貨幣供給 (Money supply)の頭文字をとっている。
われわれが実際に消費する財の市場と貨幣市場での均衡を考 える。
2つの市場の均衡条件から所得、利子率などの各種の変数の 関連を求め、経済全体の総需要の分析を行う。
IS-LM分析
財市場: IS 曲線
IS曲線は、財市場での均衡条件を表し、投資 (Investment) と 貯蓄 (Saving) との関係を示す。
まず、経済全体を単純化し、次ぎのような経済のセクターを 考える。
家計(households):CとSを決定する。 企業(firms):Iを決定する。
政府(government):GとTを決定する。
C+I+Gは、三面等価の支出面から輸出入を除いたものに対 応していることに注意。
IS-LM分析
財市場:マクロ変数
国民所得をY(=総生産量)、 利子率をr、
マネーサプライ(Money Supply、貨幣供給量)をM、 価格水準をPとする。
IS-LM分析
財市場:マクロ変数
ここで、政府・日銀が自由に動かせるG,T,Mをモデル外で決 定される外生変数、
C,I,Y,r をモデル内で決まる内生変数とする。
価格Pは固定されているとし、物価の変動は考慮しない。 海外を考慮しない、閉鎖経済モデルを考える。
IS-LM分析
財市場:消費
消費関数(Consumption Function)を以下のように定義 する:
C =C(Y−T) (7) ただしC(.) は増加関数。
C(.) には、効用最大化問題を無視して一次関数を用いること が多いが、短期では近似の制度は悪くない。
IS-LM分析
財市場:消費
IS-LM分析
財市場:投資
1 乗数モデルでは投資Iは外生とおいたが、ここではYとrの 関数とし、以下のように定義する:
I =I(Y,r) (8)
2 生産量Yが増えれば、資本ストックを積み増す必要があるの で、I(., .) はY に関して増加関数。
3 利子率rが高まれば、資金調達コストが上がるので、I(., .) は rに関して減少関数。
IS-LM分析
財市場:政府支出と税金
ここでは、政府支出Gおよび税金Tは外生変数であり、 ひとまずは一定であると仮定する。
政府支出Gおよび税金Tを変化させることは財政政策 (Fiscal Policy)と呼ばれる。
IS-LM分析
財市場:総需要、所得に関する恒等式
総需要は、消費、投資、政府支出の合計で、
A =C(Y −T) +I(Y,r) +G (9) となる。
また、経済全体では誰かの支出は誰かの所得なり、それが総 生産と一致するので、
A =Y (10)
が恒等的に成立する。
これにより、所得に関する恒等式 (income identity) を得る: Y =C(Y −T) +I(Y,r) +G (11)
IS-LM分析
財市場: IS 曲線
Yとrはこのような関係を満たしているはず。
IS-LM分析
財市場: IS 曲線
IS曲線は、Gが増えると右にシフトする。
IS-LM分析
貨幣市場での均衡と LM 曲線
IS曲線だけでは、r,Yは決まらない。
未知数が 2 つであるのに対し、式は1つしかありない。 このため、第 2 の条件として、貨幣市場 (money market) での 均衡を考える。
貨幣供給(マネーサプライ)Mは外生変数。 貨幣需要をL(Y,r)という関数で表す。
貨幣需要は流動性選好仮説に基づいて定式化される。
IS-LM分析
貨幣市場における均衡条件
1 貨幣市場での均衡条件は、 M
P =L(Y,r) (12) となり、Yとrとの関係が得られる。これが、LM曲線。
2 LM曲線は、流動性選好と貨幣供給が等しくなる条件 (貨幣市 場での均衡条件)を表す。
IS-LM分析
貨幣市場: LM 曲線
LM曲線は、Mが増えると右にシフトする。
IS-LM分析
貨幣市場: LM 曲線
LM曲線は、Mが増えると右にシフトする。
IS-LM分析
総需要の決定
IS-LM曲線から(2つの曲線の交点が均衡点)、Y,r が決定され、 総需要が決まる。
IS-LM分析
IS-LM モデルの具体例:財市場
ここでは、IS-LM モデルの各関数が線形関数の場合を考える。 まず、消費関数を
C = α1+ α2(Y −T) (13) とおく。ただし 0 < α2< 1。
α2は、可処分所得 (所得-税金) が一単位(例えば、1 兆円)円 増加した場合、消費がどの程度(何兆円)増加するかを表す、 限界消費性向 (marginal propensity to consume)。
IS-LM分析
IS-LM モデルの具体例:財市場
また、投資関数は、
I= β1+ β2Y + β3r (14) とする。ただし β2 > 0、β3< 0。
β2は、限界投資性向 (marginal propensity to invest)で、 所 得が 1 兆円増加した場合、投資がどの程度(何兆円)増加す るかを表す。
IS-LM分析
IS-LM モデルの具体例:財市場
財市場の均衡式は、
Y =C +I+G (15) で与えられる。
(15)に (13) と (14) を代入すると、
Y = α1+ α2(Y −T) + β1+ β2Y+ β3r+G (16) Y = β3r+ α1−α2T + β1+G
1 − α2−β2
(17) を得る。
IS-LM分析
IS 曲線の傾き
1 − α2−β2> 0 の場合、IS 曲線の傾きは負となる。これは、 通常考えられているケース。
1 − α2−β2< 0 の場合、IS 曲線の傾きは正となる。これは、 その経済の限界消費性向、限界投資性向が極端に大きい場合 に起こる。
IS-LM分析
IS-LM モデルの具体例:貨幣市場
LM曲線を、
M
P = γ1+ γ2Y + γ3r (18) とおく。
流動性選好は Y の増加関数なので、γ2> 0。 流動性選好は r の減少関数なので、γ3< 0。 したがって、LM 曲線の傾きは常に正。
IS-LM分析
IS-LM モデルの具体例:解
Y、rについて解くと、 Y = |A1|
|A| =
(α1−α2T + β1+G)γ3+ β3(M/P−γ1) γ3(1 − α2−β2) + β3γ2
(19)
r = |A4|
|A| =
−(α1−α2T + β1+G)γ2+ (1 − α2−β2)(M/P−γ1) γ3(1 − α2−β2) + β3γ2
(20) を得る。
IS-LM分析
財政・金融政策の効果
ここでは以下2つのケースを考え、政府支出G、税金T、通貨供 給量Mなどが変更された場合の影響を分析する。
β2= β3= 0のケース β2= 0、β3 < 0 のケース
IS-LM分析
政策の効果: β
2= β
3= 0 のケース
このケースは、投資Iを外生としたケースと同じ。 この場合、所得Y は
Y = α1−α2T +G 1 − α2
(21) となる。
政府支出Gを 1 兆円増加させると、所得Yは 1
1 − α2
兆円増加する。すなわち乗数は 1/(1 − α2)
IS-LM分析
政策の効果: β
2= β
3= 0 のケース
政府支出Gと税金Tを等しくG =Tとする均衡財政下で、G およびTを 1 兆円増加させると、どのようなことが起こるか? (21)のG,TにそれぞれG+ 1、T + 1を代入すると、所得Y は 1 兆円増加することになる。
すなわち、景気が悪い時に公共事業を行って、良くなった後 から増税すれば、事後的には経済全体にはプラスになる。 また、この場合、所得Yは通貨供給Mの関数ではないので、 マネーサプライMを変化させても所得Yは変化しない。すな わち、金融政策は所得に対して効果をもたないことになる。
IS-LM分析
政策の効果: β
2= 0 、 β
3< 0 のケース
投資が利子率rのみに依存するケース。 この場合、所得 (= GDP)Yは
Y = (α1−α2T + β1+G)γ3+ β3(M/P−γ1) γ3(1 − α2) + β3γ2
(22) で与えられる。
IS-LM分析
政策の効果: β
2= 0 、 β
3< 0 のケース
政府がGを1兆円増やすと、所得は、 1
(1 − α2) + β3γ2/γ3
< 1 1 − α2
兆円増える。
すなわち、Gが上昇しても、β3 = 0のケースほどは GDP は 増えない。
これは利子率の上昇により投資のクラウディングアウトが起 こるため。
ちなみにこのケースでは金融政策は有効で、M/Pを1兆円増 やすと、GDP は増分は以下で与えられる:
1
γ2(1 − α2)/β3+ γ2
IS-LM分析
財政・金融政策の効果
財政政策の効果が大きいケース:
IS-LM分析
財政・金融政策の効果
財政政策の効果が大きいケース:
IS-LM分析
財政・金融政策の効果
財政政策の効果が大きいケース:
IS-LM分析
財政・金融政策の効果
財政政策の効果が大きいケース:
IS-LM分析
財政・金融政策の効果
金融政策の効果が大きいケース:
IS-LM分析
財政・金融政策の効果
金融政策の効果が大きいケース:
IS-LM分析
財政・金融政策の効果
金融政策の効果が大きいケース:
IS-LM分析
財政・金融政策の効果
金融政策の効果が大きいケース:
IS-LM分析
財政・金融政策の効果
効果的な財政・金融政策を行うためには、IS 曲線と LM 曲線 の傾きを知ることが重要。
そのために、実際のデータを使ってマクロ計量モデルを推計 する試みが盛んに行われた。
しかしそれに対し、ルーカス批判がなされ、ケインズ的なマ クロモデルの推定はアカデミックではほとんど使われなく なった。
それでも、政府や中央銀行はケインズ的なマクロモデルを使っ た政策分析を行い、それに基づいた政策提言がなされている。