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97回全国算数・数学教育研究(北海道)大会 高等学校部会第14分科会 基礎・自由研究

2015. 8. 7

高校統計学習の応用としての計量政治分析

―発展的な教材作成のための一考察―

北海道札幌東陵高等学校 川嶋 哲典

要  約

 統計的方法は様々な分野の学術研究や企業活動の中で活用されている.こういった実際的な応用を考えたと き,推測統計は必須の手法となるはずである.しかし周知のとおり,高校数学教育における統計教育は,記述 統計は必履修であるものの,推測統計は選択科目内の選択単元にとどまっているのが実情である.

 現在では,政治学においても統計学的な分析を取り入れた計量政治分析が盛んであり,国内でもこれを応用 した論考やテキストが次々と発表されている.“ 文系 ”とされる政治学の研究においても,検定を含めた推測 統計が利活用されてきているのが現実である.

キーワード: 課題学習,データの分析,推測統計,推定,検定,計量政治分析

1 研究のねらい

 現行学習指導要領下における高等学校数学の統 計分野は,数学 I の「データの分析」(記述統計), 数学 B の「確率分布と統計的な推測」(推測統計), そして数学活用にその一部が配置されている.  現代において統計的方法は様々な分野の学術研 究や企業活動の中で活用されており,こういった 実際的な利活用や応用の場面を考えるならば,推 測統計は必須の手法となるはずである.しかし前 述のとおり,高校数学教育における統計教育の実 態は,記述統計は必履修 (数学 I) であるものの, 推測統計は選択科目 (数学 B) 内の選択単元にとど まっている.

 そこで本研究では,政治学における計量政治分 析の方法論を考察し,高校統計学習の教材となり うるか,その可能性を探りたい.

2 研究の方法

 政治学方法論に関する論争はとりわけアメリカ 政治学で活発化してきたが,近年では日本の大学 でも講じられるようになってきた.ここでは,政 治学方法論の論争の経緯や主要なテキスト等を参 照し,統計的手法に関してまとめ,高校統計学習 の教材として再構成できないか,考えてみたい.

3 歴史と意義

3.1 政治学における統計的手法の普及

 統計学を政治学に利用する手法は 1950 年代から 始まっていたが,1980 年代から統計分析を伴う研 究が飛躍的に増大した.その背景には,パーソナ ルコンピュータの普及,ソフトウェアの開発,政 治学向けの優れた教科書の出版,先進国以外でも 様々な統計データが利用可能になってきたことな

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どの諸要因が重なったことが指摘されている ([4], p. 9).1994 年には [9] が出版されると,統計学の 理解が不可欠であるという認識が政治学者の間で 広まっていった.

  2000 年頃から,「ペレストロイカ運動」と呼ばれ る,統計学的分析手法に対する抗議運動が起こっ た.政治哲学,歴史研究,政策提言の重視などが あるが,統計分析の重要性を否定したものではな いこと,説得的な代替案を提示できず,この運動 は終息に向かっている ([4], pp. 9–10).

3.2 計量政治分析の意義

 政治学が科学であるためには,決められたルー ルの下で,誰がどこで分析しても得られる結論は 同じでなければならない.計量政治分析は,その ような研究のルールを明確にする ([1], pp. 4–5). それゆえ計量政治分析では,リサーチデザインと いう,完全に統一されているとはいえないまでも, ある程度決められた研究手続きの下で仮設を引き 出し,政治現象を数量化し,統計手法を使って仮 設を検証する方法をとる.したがって,以下のよ うな具体的な意義を見出すことができる.

(1) 数値で表されるデータを用い,それを分析す る手法を特定することで,データ分析の手法の詳 細 (用いる変数や計量モデルの種類など) を他の研 究者にも明示することができる.

(2) 分析から得られた知見を一般化するうえで, ほかの方法に対する優位性がある.それは,比較 的多数の事例を分析対象とすることで,母集団に 関するより一般的な含意を得ることに貢献する. ([5], p. 75)

4 具体例

4.1 リサーチクエスチョンと母集団の設

(1) 現時点の日本の有権者の内閣支持率を調べた い.興味の対象は 1 億人あまりの日本の有権者で

ある.日本の有権者の内閣支持率は,どのように して調べたらよいだろうか.([1], p. 90)

(2) 2009年 8 月 30 日に行われた総選挙における 各小選挙区での自由民主党の得票率を分析する. 手元には,すべての小選挙区の自民党候補者の得 票率データが揃っている.「すべての小選挙区」は 標本だろうか,母集団だろうか.([1], p. 93)

4.2 政党評価,内閣支持

(1) あなたは,小泉内閣の実績全般を評価します か,評価しませんか.(東大・朝日調査,2003 年 9月実施,[2], p. 6)

   1. 大いに評価する    2. ある程度評価する    3. どちらとも言えない    4. あまり評価しない    5. まったく評価しない    9. わからない

   0. 答えない

(2) 日本の有権者の民主党に対する感情温度を知 るために,単純無作為抽出によって n = 100 人の 標本を手に入れ,民主党に対する感情温度を調べ た.その結果,平均感情温度は ¯x = 45 度,感情 温度の標本不偏分散 u2 = 202だった.このとき, 有権者全体の民主党に対する感情温度の平均は 50 度ではないといえるだろうか.

([1], pp. 114–122. 類例が [11] 第 3 章にある.)

4.3 期日前投票の変化

 東日本大震災の翌年末 (2012 年 12 月) には衆議 院議員総選挙が,翌々年の 2013 年夏には参議院 選挙が行われた.

 震災後,被災地の各選挙管理委員会は投票率の 低下を懸念し,投票率向上策の一環として期日前 投票の奨励を行ってきた.もしこれに効果が認め られるとするならば,期日前投票数は増えている と考えられる.そこで宮城県の市町村を標本に,

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2010年と 2013 年の参議院選挙の間での変化を比 較するため,t 検定を行う.([6], pp. 52–53)

5 考察

 政治 (学) のトピックスで統計分析を行うことは, 高校で「政治・経済」あるいは「現代社会」を学 習する生徒たちにとって,教科 (科目) 横断的内容 であるし,またやや身近な話題として受け止めら れるのではないかと考えている.

 たとえ高等教育機関へ進学する場合であっても, 勿論その全員が理工系への進学というわけではな い.経済学部等では,経済統計学は必須の知識と されているが,政治学においてはその限りではな い.早いうちから,科学的分析手法を身につける 素地として,あるいは新聞・ニュース等の報道に おける統計数字 (それは主に政治に関わるものが 多い) を,自分なりに解釈できるような力を養う ことこそが,これからの統計教育に求められるこ となのではないかと筆者は考えている.

6 まとめに代えて

 繰り返しになるが,現代政治学においては,計 量分析の手法は方法論として確立しつつある.も ちろん,これにすべて依拠すれば分析・研究でき るわけではないが,1 つの方法として押さえてお くべき時代に突入している.

 このような状況を考えたとき,冒頭に述べたよ うな現行の高等学校統計カリキュラム,すなわち 記述統計は必履修だが推測統計が選択科目 (項目) である現状は極めて貧弱であると筆者は考える. 統計的方法を利活用したり,その有用性を実感で きるようにするためには推測統計の基礎は必須で ある.また,この他にも統計を研究ないし実務に 応用する際,記述統計だけで充分であることは稀 であり,推測統計の必要性は高い.そして高校数 学の統計学習においても,その有用性を実感でき るような教材を配することが重要であると考える.  高校数学における統計の位置づけは,これまで 様々に変わってきた.昭和 53 年告示の学習指導

要領において,科目「確率・統計」に検定が入っ たいたものの,これ以降高校数学においては,推 測統計の中から検定が消えてしまった.本研究の 内容からも,そして今日の国際的な統計教育の水 準を考えたとき,あるいはその実用性を考えたと き,統計的検定の基礎は必須の項目でなければな らないと考えている ([13], p. 54).

 こうした点を実現するために,記述統計はすべ て中学数学までに終え,高校では,推定・検定ま でを含めた推測統計を扱うようにすべきである, と提案して本発表を終えたい.

参考文献

[1] 浅野正彦=矢内勇生 (2013)『Stata による計 量政治学』, オーム社.

[2] 飯田健 (2013)『計量政治分析 (R によるデー タサイエンス 14)』, 共立出版.

[3] 景山三平 (2011)「小・中・高等学校における統 計教育の課題―新学習指導要領から見えるも の―」『広島工業大学紀要教育編』10,pp.37– 43.

[4] 粕谷祐子 (2014)『比較政治学』, ミネルヴァ 書房.

[5] 加藤淳子=境家史郎=山本健太郎 (2014)『政 治学の方法』, 有斐閣.

[6] 河村和徳 (2015)『政治の統計分析 (クロスセ クショナル統計シリーズ 2)』, 共立出版. [7] 久米郁男 (2013)『原因を推論する――政治分

析方法論のすすめ』有斐閣.

[8] 黒田孝郎ほか (2012)『高等学校の確率・統計 (三省堂版教科書・指導資料)』筑摩書房. [9] King, Gary, Robert O. Keohane, and Sid-

ney Verba (1994) Designing Social Inquiry: Scientific Inference in Qualitative Research, Princeton University Press (真渕勝監訳『社 会科学のリサーチ・デザイン――定性的研究 における科学的推論』勁草書房, 2004 年).

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[10] 成田雅博 (1989)「高等学校における統計の教 育内容体系の考察」『教授学の探究』7, 北海 道大学教育学部教育方法学研究室, pp.25–40. [11] 増山幹高=山田真裕 (2004)『計量政治分析入

門』, 東京大学出版会.

[12] 松原望=飯田敬輔編 (2012)『国際政治の数理・ 計量分析』, 東京大学出版会.

[13] 渡辺美智子 (2015)「データの分析から確率分 布と統計的な推測へ―グローバル時代に要請 される統計的思考力―」『第 97 回全国算数・ 数学教育研究 (北海道) 大会講習会テキスト』, pp. 53–56.

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参照

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