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漢文訓読に着目した学習指導法の研究 : 平成二十四年度版中学校国語教科書の書き下し文に見られる諸問題を出発点として

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(1)Title. 漢文訓読に着目した学習指導法の研究 : 平成二十四年度版中学校国語教 科書の書き下し文に見られる諸問題を出発点として. Author(s). 今村, 浩子. Citation. 札幌国語研究, 20: 75-100. Issue Date. 2015. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/7779. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 漢文訓読に着目した学習指導法の研究. H 【光村】以外の四社中学校国語教科書(東京書籍、教育 出版、三省堂、学校図書)についても、漢文教材に右と同様の. 今 村 浩 子. ―― 平 成二十四年度版中学校国語教科書の書き下し文に見られる 諸問題を出発点として ― ―. 一、問題の所在と研究のねらい. 問題点がある。. の原則・漢文教材の編集のあり方について提言し、さらに、現. 本稿は、中学校国語教科書における漢文教材の問題点を考察 することを出発点として、中学校漢文教材における書き下し文. 仕方を知」ることについて指導するとされている。. も併記する。. ついては、訓点付漢文を併記する。白文が掲載されている場合. 1 現行五社漢文教材「矛盾」 まず、現行五社漢文教材「矛盾」書き下し文を比較、検討す る。訓点付漢文の一部または全文が掲載されている三社教材に. 二、中学校漢文教材「矛盾」. 行の中学校漢文教材を用いた学習指導法を提案することを研究 のねらいとする。. しているが、漢文教材の書き下し文に関しては次の二つの問題 点がある。 1 訓点付漢文の表記と書き下し文の表記が対応しない等、 書き下し文の表記が同一教材内の整合性に欠ける。 2 教材書き下し文が出典書き下し文を正確に引用しておら ず、書き換えの意図や基準が不明確である。. - 75 -. 24. 筆者の勤務する中学校は、平成二十四年度から光村図書出版 発行の中学校国語教科書(以下、H 【光村】 。他社中学校国. 向性が示された。中学校第一学年では「文語のきまりや訓読の. 平成二十(二〇〇八)年告示学習指導要領(以下、H 「要 領」)において、伝統的な言語文化に関する指導を重視する方 20. 語教科書も同様に、発行年と会社名略称をもって示す)を使用. 24.

(3) 「わが 楚人に盾と矛とを鬻ぐ者あり。これをほめていはく、 盾の堅きこと、よく陥すものなきなり。 」と。またその矛をほ. を とほさば いかん。」と。その 人 こたふる こと あ たはざりき。. の 利 き こ と、 物 に お い て と ほ さ ざ る こ と な き な り。 」と。ある 人 いはく、「子の 矛を もつて、子の 盾. きなり。 」と。また、その 矛を ほめて いはく、「吾が 矛. めていはく、 「わが矛の利なること、物において陥さざるなき ●H. ●H 【光村】. なり。」と。ある人いはく、 「子の矛をもつて、子の盾を陥さば. もつテ. し. の. ほこヲ. とほサバ. し. の. たてヲ. いかん ト . 子 之   盾  一何 如。」. 二. 【三省】. いかん。」と。その人応ふることあたはざるなり。 あルヒト いハク. ・コラム「漢文を読む」に訓点付漢文の一部を載せる。 或 曰、 「 以 二子 之     矛   一、 陥 そノ ひと ざ ル あたハ こたフルコトなり   弗   レ能   レ 応 也。 其 人 ●H 【東書】 「我が盾 楚人に盾と矛とを鬻ぐ者有り。之を誉めて曰はく、 の堅きこと、能く陥すもの莫きなり。 」と。又、其の矛を誉め. キ. ク. スモノ. ト. 楚人に盾と矛とをひさぐ者あり。之を誉めていはく、「わが 盾の堅きこと、よくとほすなきなり。」と。また、その矛を誉. め て い は く、 「 わ が 矛 の 利 な る こ と、 物 に お い て と ほ さ ざ る な. きなり。 」と。ある人いはく、 「子の矛をもつて、子の盾をとほ 【学図】. さば、いかん。 」と。その人こたふることあたはざるなり。 ●H. ひとニ あリ ひさグ たてト. とヲ ほこ もの . いハク わガたて ほメテ これヲ . の. かたキコト. 五社書き下し文に解釈の違いはないが、表記に違いが見られ. 楚   有 下鬻 二盾 与 一レ矛 者 、吾 盾 之   上。誉 レ之 曰   堅、 なキ よ人 ク とほスモノ なりト また わガほこ の りナルコト おイテものニ ほメテ そノ ほこヲ いハク 能 陥 也 。 又、誉 其 矛 曰 、 吾 矛 之 利 、於 物 莫なキ二 ざルコトとほサ一 なりト あるひと いハ二ク もつテ し 一の ほこヲ  とほサバ し の たてヲ レ 陥 也。 或 曰、以 二子 之 矛 一。 陥 二子 之 盾 一、 レ 無いかレ不 ん ト そノ ひと ざル あたハ こたフルなり   弗   レ能 レ応 也。 何如。 其 人. そ. せる。. 盾をとほさば、何如。」と。その人こたふるあたはざるなり。. 「吾 楚人に、盾と矛とをひさぐ者あり。これを誉めて曰はく、 が盾の堅きこと、よくとほすものなきなり。」と。また、その. キコト. 矛を誉めて曰はく、「吾が矛の利なること、物においてとほさ. ガ. と。或ひと曰はく、 「子の矛を以つて、子の盾を陥さば、何如。 」. ハク. と。其の人応ふること能はざるなり。 ヲ. ざることなきなり。 」と。ある人曰はく、 「子の矛を以て、子の. メテ. ・コラム「漢文の読み方」に訓点付漢文の一部を載せる。. ・教材本文の上段に書き下し文、下段に訓点付漢文の全文を載. て曰はく、「我が矛の利きこと、 物に於いて陥さざる無きなり。 」. 24. 24. 誉   堅  、莫 二能 陥 一也 。」 レ之 曰、「我 盾 之 ・脚注に白文を載せる。. 楚人有鬻盾与矛者 誉之曰我盾之堅莫能陥也 又誉其矛曰 我矛之利於物無不陥也 或曰以子之矛陥子之盾何如 其人弗 能応也 ●H 【教出】 楚人に 盾と 矛とを ひさぐ 者 あり。これを ほめて いはく、「わが 盾の 堅き こと、よく とほす もの な. - 76 -. 24. 24. 24.

(4) る。次に示す。. 次に、現行五社漢文教材「矛盾」書き下し文を出典書き下し 文と照合する。次に、五社教科書・指導書の示す出典から引用. 2 漢文教材「矛盾」の出典. する。. リ . グ . ト . ヲ . メテ ヲ . ガ . ・訓点付漢文と注釈を載せ、書き下し文はない。. キ . キ . 太田方『韓非子翼毳』(一八〇八。『漢文大系』所収、冨山房、 一九一一・六). ●H. 【教出】の出典. ・「盾」五例 「鬻ぐ」二例 ・「ひさぐ」三例、 「ほめて」二例 ・「誉めて」三例、. と. 「曰はく」二例 ・「いはく」三例、 「吾が」一例、 「我が」一例、 「吾が・わが」 ・「わが」二例、 り. の混在一例 、 「堅き・利き」二例 ・「堅き・利なる」三例 とほ. ヒト. ヲ. 【東書】、H. サバ. ヲ. リキ. 【学図】の出典. ト. ハ. フル. 誉 レ之 曰。吾 楯 之 堅。莫 二 楚ク ト人ル有 下鬻 二楯メテ与 一レヲ矛 者 上。 ガ キ テ ニ キ ル ラ 能 陥 一也。又 誉 二其 矛 一曰。吾 矛 之 利。於 レ物 無 レ不 レ陥 也。 ●H. とを鬻ぐ者有り、之を誉めて曰く、吾が楯の 楚人に、楯と矛 とほ 堅きこと、能く陥すもの莫し、と。又其の矛を誉めて曰く、吾. 【学図】. 【三省】の出典. 楚人に楯と矛とを鬻ぐ者有り。これを誉めて曰わく、吾が楯 . (岩波文庫、岩波書店、一九九四・四~九) 金谷治『韓非子』 ・白文と書き下し文、語釈、通釈を載せる。. ●H. はざりき。. の矛を以て、子の楯を陥さば何如、と。其の人、応ふること能. と. 表外字「鬻ぐ」を漢字表記に、常用漢字である「誉」を「ほめ. ・返り点のみが付いた訓点付漢文と書き下し文、 通釈を載せる。. 竹内照夫『韓非子』(新釈漢文大系、明治書院、一九六〇・ 一二~一九六四・五). 【光村】、H. 「陥す」二例 ・「とほす」三例、 「或ひと」一例 ・「ある人」四例、. あるひと. 或 曰。以 二子 之 矛 一。陥 二子 之 楯 一何 如 。 其 人 弗 レ能 レ応 也。. あルヒト. 24. が矛の利きこと、物に於て陥さざる無し、と。或ひと曰く、子. 【光村】は、常用漢字表の. 24. て」とひらがな表記にしている。H 【教出】は、「吾」字を「わ がな、もう一方を漢字で表記している。さらに、H. このように、五社書き下し文の表記には、同一教材内の整合 性に欠ける点が見られる。. ら送るが、 「以て」は現行の送り仮名の付け方に従わない。. は、「曰はく」は現行の送り仮名の付け方に従って活用語尾か. 24. が盾の堅きこと」 「吾が矛の利きこと」のように、片方をひら. を用いて表記している。また、H. 24. 24. 24. 24. - 77 -. 24. 「以つて」一例、 「以て」一例 ・「もつて」三例、 「能はざるなり」一例、 「あたは ・「あたはざるなり」三例、 ざりき」一例 24. ・H 【学図】は、訓点付漢文に「或 」 「 或 」 H 【光村】 としながら、書き下し文は「ある人」と訓点付漢文にない漢字 24.

(5) と曰わく、子の矛を以て、子の楯を陥さば、何如と。其の人、. 吾が矛の 利 きこと、物に於いて陥さざる無きなりと。或るひ. ●田岡佐代治『和訳韓非子』 (玄黄社、一九一〇・五). 非子』を除く)を次に示す。. 『韓非子』注釈書・研究書における「矛盾」説話のうち、書 き下し文の示されている一三例(前掲の竹内『韓非子』、金谷『韓. の堅きこと、能く陥す莫きなりと。又其の矛を誉めて曰わく、. 応うる能わざるなり。. とを鬻ぐ者あり。之を誉めて曰く、吾が楯の堅 楚人に楯とヤ矛 ブ ト きこと能く陥るものなしと。又其矛を誉めて曰く、吾が矛の利. するど. 現行五社漢文教材「矛盾」書き下し文は、これらの出典を正 確に引用していない。. 子の楯を陥らば、何如と。其人応ふる能はざりき。. 【教出】 ・H. 【三省】 ・H あるひと. ●宇野哲人『韓非子』(国訳漢文大成、国民文庫刊行会、一九 二一・二). を鬻ぐ者あり。之を誉めて曰く「吾が楯の 楚人に、楯と矛とと ほ 堅きこと、能く陥すもの莫し」と。又其矛を誉めて曰く、 「吾. 用しない上に、訓読する際の品詞が対応しない。. が矛の利きこと。物に於て陥さざるなし」と。或ひと曰く、「子 はざりき。. ● 塚 本 哲 三『 韓 非 子 』 (有朋堂文庫漢文叢書、有朋堂書店、一 そ じん. 九二一・八). 楚 を鬻ぐ者有り。之れを誉めて曰く、吾が楯の堅 人楯と矛とと ほ と きは、能く陥す莫きなりと。又其矛を誉めて曰く、吾が矛の利. き、物に於て陥さざる無きなりと。或ひと曰く、子の矛を以て. 楚人に楯と矛とを鬻ぐ者あり。之を誉めて曰く、 「吾が楯の とほ 堅きこと能く陥すもの莫し」と。又其矛を誉めて曰く、「吾が. ●吉波彦作『韓非子詳解』(大同館書店、一九二六・八). とほ. 招いている。. 子の楯を陥さば何如と。其人応ふる能はざりき。. に見える書き下し方を比較、分析する。. 3 『韓非子』における「矛盾」説話 本節では、現行五社漢文教材「矛盾」書き下し文に見える書 き下し方と、 『韓非子』注釈書・研究書における「矛盾」説話. このように、五社書き下し文は出典を正確に引用せず、出典 の書き換えによって同一教材内の整合性を損なうという結果を. と. ために、同一教材の訓点付漢文と書き下し文が対応しない。. 【学図】の三社書き下し文は. の矛を以て、子の楯を陥さば、何如」と。其人、応ふること能. H 【光村】 ・H 【三省】 ・H. 竹内『韓非子』は「堅き・ とまた、「堅・利」字の読みについて、 するど 利き」とし、 金谷『韓非子』は「堅き・ 利 き」とするのに対し、. 」 「 或 」と. あルヒト. 【学図】 )である。中でも、H. 24. 「堅き・利なる」とする。この三社の読みは、出典を正確に引. 24. しながら書き下し文は出典を書き換えて「ある人」と表記した. きこと、 物に於て陥らざるなしと。或ひと曰く、 子の矛を以て、. 「盾」 (現行五社 出典にない漢字を用いて表記しているのは、 すべて)、 「我が」 (H 【東書】 ) 、 「ある人」 (H 【光村】 ・H 24. 24. 【光村】 ・H 【学図】は、訓点付漢文に「或. 24 24. 24. - 78 -. 24 24 24.

(6) と. 矛の利きこと物に於て陥らざるなし」と。或ひと曰く「子の矛 を以て子の楯を陥さば何如」と。其人応ふること能はざりき。 二~一九三一・五). ●平沢東貫『韓非子新釈』 (昭和漢文叢書、弘道館、一九三一・. 六). (ママ). 「吾が矛の利き 、物において陥さざるなきなり」と。或ひと曰. と. 鬻ぐ者あり。これを誉めて曰く、「吾が楯 楚人に楯と矛ととを お の堅きこと、 能く陥す莫きなり」 と。またその矛を誉めて曰く、. はざりき。. ~一二). ●町田三郎『韓非子』(中公文庫、中央公論社、一九九二・七. の矛を以て子の楯を陥さば何如」 と。其の人応ふる能はざりき。. が矛の利きこと、物に於て陥さざる無し」と。或ひと曰く、 「子. と. を鬻ぐ者有り。之を誉めて曰く、「吾が楯の 楚人に楯と矛と とほ 堅きこと、能く陥すもの莫し」と。又其の矛を誉めて曰く、 「吾. 二~一九七八・一〇). く、 「 子 の 矛 を 以 て 子 の 楯 を 陥 さ ば 何 如 」 と。 そ の 人 応 ふ る 能. を鬻ぐ者有り、之を誉めて曰く、 「吾が楯の堅 楚人楯と矛と つらぬ なる、物能く 陥 く莫きなり」と。又其の矛を誉めて曰く、 「吾. ●小野沢精一『韓非子』(全釈漢文大系、集英社、一九七五・. そ じん. が矛の利なる、物に於て陥かざる無きなり」と。或る人曰く、 「子の矛を以て、子の楯を陥かば何如」と。其の人応ふる能は ざるなり。 ●小林一郎『韓非子』 (経書大講、平凡社、一九三八・四~一 九三九・九). と. 人楯と矛とを鬻ぐ者あり。之を誉めて曰く、吾が楯の堅き 楚 (ママ) とほ こと能く陥ること莫きなり。又其の矛を誉めて曰く、吾が矛の 利きこと、物に於て陥らざること無きなりと。或ひと曰く、子. 矛の利きこと、物に於て陥さざるなしと。或ひと曰く、子の矛. 鬻ぐ者あり。これを誉めて曰く、吾が楯の 楚人に楯と矛ととを ほ 堅きこと、能く陥すものなしと。又その矛を誉めて曰く、吾が. の矛を以て子の楯を陥さば何如と。其の人応ふること能はざり き。. と. ●西野広祥・市川宏『韓非子』 (中国の思想、 経営思潮研究会、. を以て子の楯を陥さば何如と。その人応ふる能わざりき。. ●工藤潔他『思想Ⅱ』 (研究資料漢文学、明治書院、一九九三・. 一九六四・五) 楚人、楯と矛とを鬻ぐ者あり。これを誉めて曰く、 「わが楯 とお の堅きこと、よく陥すものなし」 。また、その矛を誉めて曰く、. 三). 「わが矛の利なること、物において陥さざるなし 」ある人曰く. く、吾が矛の利きこと、物に於いて陥さざる無きなり、と。或. 鬻ぐ者有り。之を誉めて曰はく、吾が楯の 楚人に楯と矛ととを ほ 堅きこと、能く陥すもの莫きなり、と。又其の矛を誉めて曰は. (ママ). 「子の矛をもって、子の楯を陥さば何如」 。その人、応うるあ. ひと曰はく、子の矛を以て、子の楯を陥さば何如、と。其の人. と. たわず。 ●小野沢精一『韓非子』 (中国古典新書、 明徳出版社、 一九六八・. - 79 -.

(7) 応ふる能はざるなり。 とほ. とほ. とほ. なる」一例、「堅き・利なる」一例. やぶ. と。其の人応ふる能はざるなり。. と。或ひと曰はく、 「子の矛を以て、子の盾を陥さば、何如。 」. はく、「吾が矛の利きこと、物に於て陥さざること無きなり。 」. を鬻ぐ者有り。之を誉めて曰はく、 「吾が盾 楚人に盾と矛と とほ の堅きこと能く陥すもの莫きなり。 」と。又其の矛を誉めて曰. り仮名の付け方に基づいて送り仮名を付ける等の書き換えが見. これらの『韓非子』注釈書・研究書における「矛盾」書き下 し文と比べると、漢文教材「矛盾」書き下し文は、常用漢字表. 「能はざりき」八例、 「能わざりき」一例、 「能はざるなり」 ・ 四例、 「能わざるなり」一例、「あたはず」一例. 「以て」一四例、 「もって」一例 ・. 「或ひと」一一例、「或るひと」二例、 「或る人」一例、「あ ・ る人」一例. 「陥す」一一例、 「陥す・陥る」の混在二例、 「陥る」一例、 ・ つらぬ 「 陥 く」一例. ●今枝二郎他『訓読百科 附録・格言百選』 (漢詩・漢文解釈 講座、昌平社、一九九五・四). られる。教科書編集の過程で教育的配慮のもとに出典の書き換. 昌平社、一九九五・四). ●合山究他『故事・寓話Ⅰ・故事成語』 (漢詩・漢文解釈講座、. 楚人に楯と矛とを鬻ぐ者有り。之を誉めて曰はく、 「吾が楯 とほ の堅きこと、 能く陥す莫きなり」 と。又其の矛を誉めて曰はく、. えを行うこと自体を問題だとは考えないが、書き換えは『韓非. と. 「吾が矛の利きこと、物に於いて陥さざる無きなり」と。或る. 子』注釈書・研究書に示された研究成果を十分に検討して行う. 学習を混乱させる原因となる。. 訓点付漢文と書き下し文の対応関係を考慮しない表記は、訓読. 原文にない漢字を用いた書き下し文の表記 「ある人」 例えば、 は、『韓非子』注釈書・研究書においては例外的な表記である。. べきである。. 外字・表外の読みをする漢字をひらがなで表記する、現行の送. ひと曰はく、 「子の矛を以て、子の楯を陥さば何如」と。其の. と. 人応ふる能はざるなり。 次に、『韓非子』注釈書・研究書における「矛盾」書き下し 文一五例(前掲の竹内『韓非子』 、金谷『韓非子』を含む)の ・「楯」一四例、 「盾」一例. 表記の違いを示す。 . また、漢文教材「矛盾」においては、書き下し文を仮名で表 記することが少なくないが、『韓非子』注釈書・研究書におい. ・「誉めて」一五例. は原文の漢字を用いて書き下すことが多数である。先の比較結. ては、助詞・助動詞に相当する字(不、弗、之、与、也)以外 するど. ・「曰く」一一例、 「曰はく」三例、 「曰わく」一例 と. ・「吾が」一四例、 「わが」一例. ・「鬻ぐ」一五例 . 「堅き・ 利 き」一例、 「堅なる・利 ・「堅き・利き」一二例、. - 80 -.

(8) 【光村】に至るまでの三五年間、表. の一一例、 「これ」と表記するもの四例、接続詞「又」を「又」. 間、書き下し文についての根本的な見直しに着手していない。. の変更がない。同様に、 【教出】は二五年間、 【三省】は一〇年. 記を「誉めて」から「ほめて」に変えた(H9【光村】)以外. 下し文を掲載してからH. と表記するもの一三例、「また」 と表記するもの二例が見られる。. 【東書】は、H9【東書】以降書き下し文の見直しを行っては. 果に示した他に、代名詞「之」を「之」 「之れ」と表記するも. 書き下し文に直す時に漢字でも仮名でもよいとすると、かえっ. いるが、S. 【東書】からH5【東書】までの一五年間、全く. て中学生を混乱させる。漢字はすべて漢字のまま書き下すのが. 書き下し文以外の部分(訳の有無、脚注の内容、挿絵や写真、 紙面の構成等)の見直しはありながら、教材の中心部分とも言. 同じ書き下し文を踏襲していた。. ただし、「也」を置き字として過去の助動詞「き」を送る訓読は、. える書き下し文を検討しないというのは、本末転倒である。. 書き下し文(全文)を載せるのは六六例見られる。しかし、書. 中学生にとって理解が難しい。同一教材にある二つの「也」と. き下し文のみの掲載がほとんどで、訓点付漢文と書き下し文を. ⑵について、戦後発行された中学校国語教科書(二七社)に、 「矛盾」説話を教材とするものは九五例あり、そのうち「矛盾」. このように、漢文教材編集の際には過去の研究成果を検討し た上で、できるだけ訓読の原則や通例を尊重するテキストを出. 併記するのはS. 【二葉】 、. 典とし、書き換える場合は同一教材内での整合性に十分配慮す. 30. 【学図】の五例である。また「矛盾」. 27. 【東書】の二例である。. 盾」書き下し文について調査した結果、漢文教材編集における. 例のうち「或」を「人」字を用いずに書き下すのは、S. 訓点付漢文を載せたからといって、必ずしも訓読の原則や通 例に従った書き下し文になるわけではない。例えば、前述の五. 【二. 次に示す二つの傾向が明らかになった。. 【光村】に「矛盾」書き. である。しかし、訓点付漢文と書き下し文を併記した場合と比. 24. 葉】の「あるひと」とS. 村】とH. 訓点付漢文の一部を訓読学習の例文として載せるのは、 H 【光. 【中央図書】、H. 【大修館】 、S. べきである。中学校漢文教材の書き下し文において、書き換え. S. 【大修館】、S. の意図や基準を明確にする必要がある。. ともに「なり」と読む方がわかりやすい。. 『韓非子』注釈書・研究書 「弗能…也」の訓読については、 では「能は(わ)ざりき」と読むものが一五例中九例見える。. 原則だと教わる方が、中学生にとっては理解しやすい。. 24 24. 24. 【中央図書】の「或るひと」の二例. 30. べると、やはり書き下し文のみを掲載した場合、書き下し文に. 33. - 81 -. 53. 24. ⑴教科書に一度掲載された書き下し文を変更しない。. 4 戦後中学校国語教科書における漢文教材「矛盾」 本節では、漢文教材「矛盾」書き下し文の変遷について考察 する。戦後発行された中学校国語教科書(二七社)における「矛. 33. ⑵訓点付漢文を載せない。 【光村】の場合、S ⑴について、. 53.

(9) を考慮しなくなった可能性がある。. 働くのは否めない。その結果、訓点付漢文や白文との対応関係. 対して、漢文という認識よりも漢文訓読調の古文という認識が. したものを、文部大臣に報告したもので、現在の『答申』に近. ではなく、調査の結果、その委員会において基準案として立案. 木氏は、 「この『調査報告』は、調査結果などについての報告. が、漢文教授に関する事項の調査を嘱託されたのだという。鈴. 現行五社漢文教材「矛盾」書き下し文において、同一教材内 の整合性に欠ける表記が見られること、教材の出典や漢文訓読. 訓点は、やはり、次第に、この基準案によるようになった。 」. の『調査報告』が公示されてからは、中学などにおける漢文の. る訓点などを規制しようとするものではなかった。しかし、こ. い」とした上で、「これによって、直ちに中学の教科書におけ. 5 中学校漢文教材「矛盾」についての考察. の通例に従わない書き換えが行われていること、さらに、教科. と述べる。 「調査報告」は、「句読法」 「返点法」「添仮名法」 「読. (ママ). 書に掲載された書き下し文を変更しない傾向があること等が確 認された。. 方」の四項目に分けて基準案を載せ、最後に諸則の適用例とし. では、そもそも漢文訓読や書き下し文には統一された原則が 存在するのだろうか。本章では、当時の文部省や内閣によって. 分もある。. この「調査報告」は、訓読の指針を示すという点で大きな意 味を持つものであったが、指針の根拠が明確にされていない部. て長文の訓点付漢文を付している。. 告示されたものを中心に、漢文訓読の原則と書き下し文の原則. 三、漢文訓読の原則と書き下し文の原則. について考察する。. 例えば、「調査報告」の「読方」第五では、「意義ヲ害セサル (ママ) 限リ助詞ハ之ヲ省キテ読ムヘシ」として、 「矣」「也」等の助字. の「也」一五例中、「なり」と読むのは一四例、置き字として. 報告」諸則の適用例として載せる三つの訓点付漢文にある文末. 「調査報告」における、文末の「也」について、鈴木『中国 語と漢文』(前掲)は「文末の語気詞についての読不読理由と. 扱うものはわずか一例である。. は読まずに置き字として扱うものとしている。しかし、 「調査. 学校教育における漢文訓読の原則については、官報第八六三 〇 号「 漢 文 教 授 ニ 関 ス ル 調 査 報 告 」 (文部省、明治四十五年。. 1 「漢文教授ニ関スル調査報告」. 以下、「調査報告」 )が告示されている。. いてかなり乱れており、確定したきまりがなかったため、学校. して、意義を害するか否か、というようなことをあげているの. (中国語研究学習双書、光生館、 鈴木直治『中国語と漢文』 一九七五・九)によると、漢文訓読の仕方は明治四十年代にお 教育の便宜からいっても訓点の付け方に一定の基準を設けるこ. は、大きな誤解を起す恐れのあるものであることに、よく注意. (ママ). とが望まれるようになってきた。そこで、服部宇之吉他一〇名. - 82 -.

(10) 不読は、その意味に関することではなく、その加点者が年少の. 現在においても、なお、一定していないのではあるが、その読. しておかなければならない。 『也』 については、 その読みかたは、. し、 学校教育における漢文訓読の指針として告示されたものは、. 掲) 「調査報告」以降、加藤他「訓読漢文と文語文法」((前 1) をはじめ、訓読の諸問題についての調査や考察が見える。ただ. よることになる。. 出】は、「弗能応也」の「也」を置き字として「こたふること. 一部改正)が示されている。. 送り仮名の表記については、内閣告示第二号「送り仮名の付 け方」 (昭和四十八年。昭和五十六年内閣告示第三号によって. 2 「送り仮名の付け方」. 明治四十五年「調査報告」まで遡らなければならない。. 時から読みなれていた語調によっていることが多い」 と述べる。 現行五社漢文教材「矛盾」書き下し文において、文末の助字 「也」の書き下し方は二通りある。原文には「也」を含む部分. あたはざりき」と書き下し、 他二つの「也」を「なり」とする。. しかし、この「送り仮名の付け方」は、現代表記の送り仮名 の付け方を示すものであり、漢文訓読における送り仮名の付け. が「莫能陥也」 「無不陥也」 「弗能応也」の三箇所ある。H 【教. 他四社は三つの「也」をすべて「なり」と書き下している。. 詳細な点になると役立たないうらみがある。 」と述べて、国語. (引用者注・明治四十五年「調査報告」 )を基準にしているが、. テンスの乱れについて」 (担当・青木)は、 「現行の訓読はこれ. ( 「月 加藤道理・青木木菟哉・土屋裕「訓読漢文と文語文法」 刊文法」第一巻第一三号、明治書院、一九六九・一〇)の「5. ん」等の文末表現を用いるとする。. に概ね従っている。. 現行五社漢文教材「矛盾」書き下し文において、送り仮名は 活用語尾から送られており、昭和四十八年「送り仮名の付け方」. 見受けられる。. 昭和四十八年内閣告示「送り仮名の付け方」の混在する状況が. 仮名法」 、 明治四十五年文部省告示「調査報告」 (添仮名法))と、. 送り仮名の付け方に関する基準は統一されておらず、文語文法. 方を示すものではない。そのため、中学校漢文教材において、. であれば「き・たり・り・ん」等を用いて時制を表すが、漢文. 「調査報告」の「添仮名法」第三には、 「時ヲ区別スルニハ 左ノ語ヲ用フ」として、時制を表す「り・たり・き・たりき・. では「訓読上、時制の適用については一定のきまりがなく、し. しかし、「或」は「或るひと」と書き下されるはずだが、H つて」になるはずだが、H ている。. 【学図】では「以て」と表記され. 【東書】では「或ひと」とされている。同じく「以」は「以. に基づく送り仮名の付け方 (明治四十年国語調査委員会告示「送. たがってかなり自由に取り扱われているのが実情である。 」と 指摘する。 つまり、助動詞「き」を用いて「あたはざりき」と読むか、 「あたはず」 、 「あたはざるなり」と読むかは、訓読者の判断に. 24. 24. - 83 -. 24.

(11) さらに、 原田氏は「新送りがな法(引用者注・昭和三十四年「送. な相違は避けられるという結論になった、ということである。. りがなのつけ方」)は口語文の送りがなであり、文語文の送り. ヘラク. 他「 訓 読 漢 文 と 文 語 文 法 」 (前掲)の「7 送りがなを考 加(藤 2) える 」 (担当・青木)では、 「一 名詞」に「3 動詞・形容詞が ハク. がな法は、あれ(引用者注・明治四十年「送仮名法」)が最良. ハク. 転 成 し て 名 詞 化 す る 場 合 は、 動 詞・ 形 容 詞 の 活 用 語 尾 か ら 送. ・ 故・. の方法である」と述べる。. る。」として「 曰 ・ 願 ・ 謂 ・……」を例示する。また、 「七. ルイハ. ニ . の基準であるから、あれに準拠するのが、不統一を避ける最善. シテ. トナレバ. 接続詞」に「3 接続詞の一部にすでに他の品詞が含まれる場 モ. 一方、鈴木『中国語と漢文』は、高校生の負担を少なくする ために新しい送り仮名によって教科書を編集するようになって. モ. 合 は、 も と の 品 詞 の 送 り が な に よ る。 」 と し て「 何 . いるのに、「この全体としての方向を逆転させようとするのは、. ツテ. 送り仮名についての適当な解決方法とは考えられない」 、「教育. イテ. 由 」を例示する。 この送り仮名法私案の提示は昭和四十八年 「送. 詞 は、 動 詞 の 送 り が な に よ る。 」 と し て「 於 ・ 於 ・ 以 ・. の場においては、やはり、この新しい送り仮名のつけかた(引. ケル. り仮名の付け方」の四年前ではあるが、現行送り仮名法に合致. 用者注・昭和四十八年「送り仮名の付け方」)を基準として、. 然 ・而 ・ 而 ・或 」を、 「九 前置詞」に「2 動詞形を含む前置. した内容となっており、「曰」は「曰はく」 、「或」は「或るいは」 、. リテ. 「以」は「以つて」と送っている。. 立して、一九六五年秋から二年間、高等学校教諭と共同で教科. 四)によると、大学漢文教育研究会(当時)は訓点研究会を設. て表記するのがやはり望ましい。仮に旧送り仮名法による場合. 載する以上、現行の「送り仮名の付け方」 (昭和四十八年)に従っ. 抵抗感から生じたものである。しかし、教材として教科書に掲. 送り仮名の不統一は、漢文法によって訓読している訓点付漢 文及び書き下し文を、現行送り仮名法で表記することへの強い. 大きな混乱を避けなければなるまい」と見解を述べる。. 書間における送り仮名の不統一の問題について検討を行った。. であっても、ある語は旧送り仮名法で別の語は現行送り仮名法. (大修館、 一九八四・一〇) 、 江連隆『漢文教育の理論と実践』 江連隆他『訓読百科』 (漢詩・漢文解釈講座、 昌平社、 一九九五・. しかし、送り仮名の統一は困難を極め、韓愈「雑説」の統一さ. にするというのは統一性に欠ける。. れた読みを提示することさえできなかったという。. 3 書き下し文の原則. 書き下し文の原則に関しては、「調査報告」に示されていない。 書き下し文の原則について言及する文献は極めて少なく、江連. ハク. 「重ねて漢文教科書の訓点の研究について」( 「斯文」 原田種成 ク 第六一号、一九七〇・五)によると、訓点研究会では「曰 」か 名や返り点を統一して決めることができず、結局、明治四十年. 『漢文教育の理論と実践』(前掲)、古田島洋介・湯城吉信『漢. 「 曰 」かというような問題で何か月も費やす状態で、送り仮 「送仮名法」 、明治四十五年「調査報告」を基準にすれば大き. - 84 -.

(12) 書き下し文の同じ原則が示されているが、重複を避けるため省. 次 に 引 く の は、 江 連『 漢 文 教 育 の 理 論 と 実 践 』 の「 第 六 節 書き下し文」である。同じ著者による『訓読百科』 (前掲)にも、. 文訓読入門』 (明治書院、二〇一一・六)に記載が見られる。. なじんでいるとみるか、ぎこちないとみるか、個人差が大きい。 」. 連氏は「個人的感覚に左右されることが多い」 、「日本文として. ④⑤のような、漢字表記か仮名表記かという問題について、江. らずや) 」を挙げる(引用者注・傍点はすべて江連氏による)。. ⑤は例文として「学而時習之、不亦説乎(学んで時にこれを習. 8. 略する。. と述べて、どちらが望ましいかの判断を下さない。④⑤は、 「書. 8. ①訓読しない漢字は、書き下し文にも用いない。. き下し文に直すためのルールは、あくまでも高校生の学習用と. ふ、また説ばしからずや/学んで時に之を習ふ、亦た説ばしか. 8. ②漢文に、送りがながついているばあいは、送りがなをそ. して漠然と作られてきたものである」(江連氏) という見地から、. 漢字表記と仮名表記の両者を容認するものである。. のままかな書きにする。 ③日本語の助詞や助動詞に当たる漢字があるばあいには、 かなに直して書く。. さて、古田島『漢文訓読入門』(前掲)は、書き下し文の原 則を次のように言う。. の. . . の読み)を仮名書きとする。. ⑷再読文字は、 初読(右の読み)に漢字を当てて、再読(左. 訓読者によって揺れも生じる。. 改める。ただし、漢字を残すか仮名書きに改めるかは、. ⑵発音しない漢字すなわち置き字は省略する。 ⑶日本語の助詞・助動詞を当てて訓ずる漢字は仮名書きに. ⑴原文にない漢字は書かない。. ④再読文字は、最初の読みの部分に漢字をあて、二度めの 読みはかな書きにする。 (最初の読みもかな書きにして もよい。 ) ⑤ そ の 他、 日 本 文 と し て み た ば あ い に 不 自 然 に 感 じ る 副 詞・接続詞・代名詞などは、かな書きにしてもよい。 ①は置き字は書き下し文に書かないということであり、②は 訓点付漢文に記された送り仮名に従って書くことを言う。江連 は. 氏は「①は当然のこと」 、 「②も問題ない」とする。③は例とし. 」という原則を明記するの 「 ⑴ 原 文 に な い 漢 字 は 書 か な い。 は、管見の及ぶ限り、古田島『漢文訓読入門』が唯一である。. て「不」「可」 「者」 「之」 「也」を挙げて、書き下し文にする時. 漢文訓読において漢文の原形をくずさないのは、漢文の一つ一. には仮名に直すとする。江連氏は③について「やや古い時代の 本では、これは必ずしも守られてはいない」が、 「現在では③. 鈴木『中国語と漢文』によると、中国の古典は、長い間音読. つの字を読み落とすことなく訓読する必要があったからである。. に従うのが妥当である。 」と述べる。 ①から③が原則を提示するのに対して、④⑤は許容範囲を示 3 8 すものである。④は例文として「未完成(未だ完成せず) 」を、. - 85 -.

(13) 逐字的に落字ができるだけないように訓読したのは、古典を原. と暗誦によって学習されてきた。漢文の個々の文字について、. 仮名で表記する。. 等、日本語において助詞・助動詞として認識される字は. だし、不・弗・之(の)・与(と) ・乎・也(なり、や). ⑵訓点付漢文にない漢字を用いて書き下し文を表記しない。. 文通りに暗誦するためであった。 書き下し文においても同様に、 原文に即して読み、原文に文字として示されていないことは書. ⑶動詞・形容詞・助動詞等の活用語に活用語尾を送る送り 仮名は、昭和四十八年「送り仮名の付け方」 (昭和五十. だし、同一教材内の整合性を保ち、できるだけ単純な補. ⑷日本語として読むために必要な、助詞・助動詞等の語を 補う送り仮名については、多様な送り方を容認する。た. 六年一部改正)に従う。. き添えないとするのは順当な考え方である。 4 漢文訓読の原則と書き下し文の原則の考察. 指針とすべきものが百年近く前の「調査報告」であるために、. い方で送る。. 本稿「三」では、漢文訓読の原則と書き下し文の原則につい て考察した。その結果、中学校の漢文教育において漢文訓読の 現代の漢文教育の実態に合致しない部分が生じていることが明. ⑸助字は、できるだけ単純な形で訓読する。也は文末では. 「なり」 、文中では「や」と訓読する等、助字の読みを. 固定する。また、矣・焉等の置き字は訓読しない。. - 86 -. らかになった。 . 書き下し文に適合させることはできるが、書き下し文そのもの. 書き下し文の原則に関しては、指針となるものがない。先に 示した「調査報告」の「句読法」 「添仮名法」を読み替えて、 の指針は「調査報告」に示されていない。中学校漢文教材にお. 現行中学校漢文教材「矛盾」書き下し文を、前節で提案した 書き下し文の原則に基づいて修正した。次に、H 【光村】の. 2 現行中学校漢文教材の修正案. ⑻送り仮名は歴史的仮名遣いを用いる。. 字体を用いた上で補足説明を加えるものとする。. ⑺漢字は新字体を用いる。ただし、余と餘、欠と缺のよう に、字体の違いによって意味の違いを生じる場合は、新. きるだけ一般的な読み方で示す。. ⑹訓点付漢文に用いられている漢字については、多様な読 みを容認する。ただし、同一教材内での整合性を保ちで. ける書き下し文の表記は、各教科書会社の編集に任されている のが実情といえる。. 四、中学校の漢文教育における書き下し文の原則 1 提案「書き下し文の原則」 本 稿「 二 」 「三」の考察を踏まえ、中学校の漢文教育におけ る書き下し文の原則を、次のように提案する。 ⑴訓点付漢文に用いられている漢字は、常用漢字表の表外 字を含め、原則としてそのまま書き下し文に用いる。た. 24.

(14) 漢文教材「矛盾」書き下し文と修正書き下し文を示す。なお、. あやふ. ひて学ばざれば則ち 殆 し」(H. 【光村】三年・H. 【学図】. 杜甫「春望」の第八句「渾べて簪に勝へざらんと欲す」 (H 【教. す. 二年)に見られる送り仮名は、現行の送り仮名の付け方とは異. (ワ). 修正を加えた箇所は、教材書き下し文に傍線を引いて示す。 そ ひと. (ワ). (モッ). い (ワ). わ. (トオ). みどり. いよいよ. みすみす. 出】三年・H 【三省】二年・H 【学図】三年) 、杜甫「絶句」. た. ひび. すべ. いよい. ひびき. みすみ. 【三省】二年)は、それぞれ「渾て」、 「 逾 よ」 、 「 看 す」 、. ただ. の第一句「江は 碧 にして鳥は 逾 白く」 、第三句「今春 看 又. こた(ウ). (ワ). めていはく、 「わが矛の利なること、物において 陥 さざるなき. たて. ほこ. 「但だ」 、 「響き」とすべきである。 これ. ばいかん。 」と。その人応ふることあたはざるなり。 そ ひと. ●修正書き下し文. 以上を踏まえて、現行五社の二・三年漢文教材の書き下し文 を修正して次に示す。修正した部分に傍線を引く。. お. 鬻ぐ者有り。之を誉めて曰はく、 「吾が 楚人に、楯と矛よとを とほ(トオ)な そ 楯の堅きこと、能く 陥 す 莫きなり。 」と。又、其の矛を誉めて と. ●元二の安西に使ひするを送る 王維. (ワ). も(ッ). いかん. 曰はく、「吾が矛の利きこと、物に於いて陥さざる無きなり。 」 (ワ). 客舎青青 柳色新たなり. あ. と。其の人、応ふる能はざるなり。. 君に勧む 更に尽くせ一杯の酒. あた (ワ). 他四社「矛盾」書き下し文も、修正を検討する必要がある。. 西のかた陽関を出づれば故人無からん ●春望 杜甫. . 別れを恨んでは鳥にも心を驚かす あ. 三月に連なり . 烽火. 白頭 搔けば更に短く. 家書 万金に抵たる. . 時に感じては花にも涙を濺ぎ. また、現行五社の二・三年漢文教材においても、書き下し文 の原則及び出典を書き換える基準を定め、それらに従って教材. 24. . 国破れて山河在り 城春にして草木深し. こた (ウ). し. 渭城の朝雨 軽塵を浥し. H. 過ぐ」 、王維「鹿柴」の第二句「但人語の 響 を聞く」 (以上、. (トオ). 24. なり。」と。ある人いはく、 「子の矛をもつて、子の盾を 陥 さ. (ワ). ぐ者あり。これをほめていはく、 「わが 楚人に盾と矛とを鬻 とほ(トオ) 盾の堅きこと、よく 陥 す ものなきなり。 」と。またその矛をほ. ひさ. なる。それぞれ「抵たる」、「殆ふし」とすべきである。同様に、. 24. ●H 【光村】教材書き下し文. 24. 24. と。或るひと曰はく、「子の矛を以つて、 子の楯を陥さば何如。 」. ひさ. 24. 書き下し文を修正することが望ましい。 例 え ば、 H 【 学 図 】 (三年)の王維「元二の安西に使ひす るを送る」書き下し文には、 訓点付漢文にはない漢字「西の方」 が見える。 「西のかた」とすべきである。 また、送り仮名は、現行の送り仮名法に従った修正が必要で あた ある。杜甫「春望」の第六句「家書万金に抵る」 (H 【光村】 24. 24. 二年・H 【三省】二年・H 【学図】三年) 、『論語』章句「思 24. - 87 -. 24. 24.

(15) すべ. て簪に勝へざらんと欲す 渾 ●絶句 杜甫 いよい 江は碧にして鳥は 逾 よ白く して花は然えんと欲す 山は青く みすみ 今春 看 す又過ぐ 何れの日か是れ帰年ならん ●鹿柴 王維. 訓点付漢文「勿施於人」の下に「也」は掲出されていない。二. 【東書】の意図が不明である。. 系統ある異本のうち、わざわざ置き字のあるテキストを選択し て初学者に示すH. 漢文に用いられる助字は、漢文解釈の要であり、専門的な学 習を積んだ者にとっても慎重な検討を要するものである。 「也」. を置き字とするテキストを教材にするのは避けるべきだし、仮. に教材として提示するならば、脚注やコラムに「也」の解釈と. 読みについて何らかの説明を掲載する等、生徒の理解を促すよ うに配慮すべきである。. 空た山 人を見ひず び 但だ人語の響きを聞く. 漢文教材の訓読上の問題点を整理して、教材としての適格性 を検討し、訓点付漢文および書き下し文に修正を加えることを. ル . 3 中学校漢文教材の編集のあり方についての提言 本稿「二」「三」の考察に基づき、中学校国語教科書におけ る漢文教材の編集の在り方について提言する。. 強く望む。. 返景 深林に入り 復た青苔の上を照らす ●『論語』章句. ノ . く、 「学びて思はざれば則ち罔し。思ひて学ばざれ 子 曰 は あや ば則ち殆ふし。 」と。. の「也」は、唐の開成石経にはなく、明経博士清原家の証本に. の流れを汲む、日本の古写本の系統である。 「勿施於人」の下. くこれに属する。もう一つは遣唐使によってもたらされた古本. 完成した儒教経典の石刻)に由来するもので、中国の版本は多. (前掲)によると、 『論語』の異本には二つの 金谷治『論語』 系統があり、一つは唐の開成石経(唐の開成二(八三七)年に. の重視」という現行学習指導要領の趣旨にかなうものである。. 生かそうとする姿勢こそが、 「伝統的な言語文化に関する指導. 発することである。このような、過去の研究成果を古典教材に. 究成果に基づいて現代に生きる中学生の実態に適した教材を開. 編集とは、それを無批判に受け入れることではなく、過去の研. 教科書編集は、注釈書や研究書に遺された優れた研究成果を 生かしてなされるべきである。過去の研究成果を生かす教科書. 見られるものである。H 【教出】 (二年) ・H 【学図】 (二年) 24. にも同じ章句の訓点付漢文と書き下し文が掲載されているが、. 24. - 88 -. 24. ただし、教科書の編集過程で、教育的配慮のもとに書き換え を行うこと自体が問題であるとは考えない。出典とする文献を. て、 H 【 東 書 】 ( 三 年 ) の『 論 語 』 章 句「 己 所 レ不 レ さ カレト スコト ニ セ 欲、勿 レ施 二於 人 一也。 」には、 置き字「也」が掲出されている。 24.

(16) 書き換える際に、書き換えの基準を明確にすること、同一教材. るために訓点付漢文や白文を教科書に掲載しながら、その訓点. いずれにしても、教科書編集時には幅広い視点から検討を加 え、必要に応じて内容を見直すべきである。訓読学習に役立て. らやむを得ず出典を書き換える場合は慎重な検討が必要である。. 例を尊重するテキストを使用すべきであるし、教育的な配慮か. あるが存在する。訓読学習に混乱が生じないように、原則や通. 注釈書・研究書の中には、原文にない漢字を用いて表記する ものや品詞の対応関係を考慮せずに訓読するものも、少数では. 1 「今に生きる言葉」(第一学年). 語2』である。. 十四年度版光村図書出版発行の中学校国語教科書『国語1』 『国. れた漢詩を読んで現代語による創作訳を作り、七音・五音のリ. ついて理解を深める授業を行った。第二学年では、漢文訓読さ. 本伝来によってひらがな・かたかなや訓読法が生まれた経緯に. 本稿「四」の考察を踏まえて、漢文訓読に着目した学習指導 案を作成し授業実践を行った。中学校第一学年では、漢文の日. 五、漢文訓読に着目した学習の指導実践. 付漢文や白文にない漢字で表記したり、同一教材内での整合性. ⑴単元名・教材名 . 内での整合性に配慮することが重要である。. に欠ける送り仮名や読みを用いて書き下したりするのは、極め. いにしえの心にふれる「今に生きる言葉」 ⑵単元の構成. H 「要領」において、中学校第一学年指導事項は次のとお り示されている。. (ア)文語のきまりや訓読の仕方を知り、古文や漢文を音読 して、古典特有のリズムを味わいながら、古典の世界に 触れること。. 中学校漢文教材における漢文訓読や書き下し文の原則につい. 「蓬萊の玉の枝――『竹取物語』から」「今に生きる言葉」の. H 「 要 領 」 の 趣 旨 に 沿 っ て、 本 単 元 は「 音 読 を 楽 し も う いろは歌」「七夕に思う――語り継がれ読み継がれてきたもの」. (イ) 古典にはさまざまな種類の作品があることを知ること。. て、研究者、教育者、教科書編集者の共通理解を図ることが喫. 四教材を配列する。いずれも、伝統的な言語文化を学ぶ入門段. - 89 -. ズムで表現する授業を行った。授業に用いた教科書は、平成二. て不自然なことである。 教材の表記を修正すれば、平成二十四年度版中学校国語教科 書を用いて授業を行うことは可能である。しかしながら、やは り五社教科書会社には、改訂版教科書発行の際に、各学年書き 下し文の見直しに取り組むことを要望する。もちろん、授業者 が、与えられた漢文教材を授業実践に最大限に生かすべく、教 材研究の労を惜しまないのは当然のことである。. . 緊の課題だと考える。. さらに、漢文訓読の原則と書き下し文の原則については、戦 後の研究成果や授業実践を整理して、 指針を定める必要がある。. 20. 20.

(17) ⑶教材観. 階に位置付けられる教材である。. ①第二時のねらい. ⑹本時の指導案. 備考. ・漢文の日本伝来によって、日本語や日本の言語文化が受け た影響について理解する。. 3分. 「今に生きる言葉」は、中国の古典の言葉が今も日本人の言 語生活に深く浸透していることに気付く、格好の教材である。. 予想される生徒の活動. 故事成語の由来や漢文訓読の学習を通して、漢字・漢文の受容. 教師の働きかけ. 分. 板書. プリント 配付. ・「矛盾」の由来と意味 ・教科書「矛盾」の音読. ②第二時の展開. によって中国の言語文化から大きな影響を受けた日本の言語文 化の一端を知り、古典に対する理解が深まるとともに、自らの 言語生活を省みる学習活動を展開できる。 「矛盾」書き下し文の内容は平易で、故事と成語の関連性を 把握しやすい。さらに、盾と矛のそれぞれのほめ言葉が対応し. ①前時の授業内容の確認 入 T「今読んだ教科書の漢文は、 導 もともとはこの書き下し文とは 違う姿をしていました」 ②「矛盾」白文を提示する T「当時漢文を読むのには相当 の苦労がありました。その苦労 を乗り越えて、漢文からいろい ろなことを吸収しました」. ・学習の見通しをもつ. 中国から漢文が伝来した後、日本語は漢文から どのような影響を受けたのかを考えよう. ③「矛盾」白文を吟味させる 開 T「プリントの漢文(白文)は 教科書の漢文(書き下し文)と 展 どのように違いますか」. ④漢和辞典で「与」を引かせる. ・ひらがながなく、すべ て漢字で書かれている ・「与」「不」は書き下し 文にない ・日本語と語順が違う ・漢字の多義性を確認 ・当時の日本人が漢文を 解読する苦労に気付く. 漢和辞典 の使い方 の確認. - 90 -. ており、音読のリズムをとらえやすいという特徴をもつ。 ⑷学習のねらい ・中国の古典に由来する言葉が、今も日本人の言語生活の中 に生き続けていることを知る。 ・書き下し文を音読して、漢文特有のリズムに読み慣れる。 ⑸指導計画 「矛盾」書き下し文を音読し、漢文特有のリズム 第一時 ・ に読み慣れる。. 本時 . ・故事成語「矛盾」の由来と意味を理解する。 第二時 ・漢文の日本伝来によって、日本語や日本の言語文 化が受けた影響について理解する。 第三時 ・いろいろな故事成語を調べる。 第四時 ・故事成語を選んで、短作文を書く。 . 10.

(18) ・アイヌ語、アラビア語 の例をあげて当時の日本 人の状況を想像する ・音読みと訓読みの成り 立ちの違いを確認する ・万葉仮名を経てかたか なとひらがなを用いて表 記するようになった経緯 について理解する ・漢文の内容を理解する ために漢文訓読法が生ま れたことを知る 分 板書. 分 板書. ⑤日本語に文字がなかったた め、日本人は伝来した漢文を受 け入れて漢字や漢文を読み書き に用いたことを説明する ・音読みと訓読み ・万葉仮名 ・かたかな、ひらがな ・訓読法. ・訓点は漢文を訓読する ための一種の記号である ことを理解する. 分 日本の文 学・思想 も漢文か. ・漢文は日本語や日本の言語文 化に大きな影響を与えた. 立したこと、漢文を理解 するために訓点を用いた ことを確認する. ・本時の授業内容を振り 返り、次時の授業の見通 しをもつ. め ⑨本時のまとめ と 漢文を受容して、日本語や日本の言語文化がよ ま り豊かになった ⑩次時の予告 ・次回は、いろいろな故事成語 を調べる. 2 「漢詩の風景」(第二学年) ⑴単元名・教材名. いにしえの心を訪ねる「漢詩の風景」(石川忠久) ⑵単元の構成. ら影響を 受けたこ とに言及. 分 板書. H 「要領」において、中学校第二学年指導事項は次のとお り示されている。. 2. (ア)作品の特徴を生かして朗読するなどして、古典の世界 を楽しむこと。. 作者の思いなどを想像して読むこと。. (イ)古典に表れたものの見方や考え方に触れ、登場人物や . H 「 要 領 」 の 趣 旨 に 沿 っ て、 本 単 元 は「 音 読 を 楽 し も う 平家物語」「扇の的――『平家物語』から」 「仁和寺にある法師. ――『徒然草』から」「漢詩の風景」の四教材を配列する。四. 教材は、音読して古典のリズムを読み味わうのに適している。. また、古典の原文に現代語訳や解説・鑑賞の文章が併記されて. おり、昔の人のものの見方や考え方、作者の思いについての理. - 91 -. ヲコト点 に言及. ⑥訓点について説明する ・送り仮名 ・返り点(レ点、一・二点). 分 プリント 配付. ・文字 (漢字、 かたかな、 ひらがな) 、漢字の音読 みは漢文伝来によって成. ⑦「矛盾」訓点付漢文と本稿の 修正書き下し文を提示する T「訓点付漢文をひらがなをま ・訓点付漢文と修正書き じえて書き直したものを、書き 下し文の漢字の対応に気 下し文と言います」 付く T 「両方を見比べてみましょう」 ・修正書き下し文は中国 語ではないことに気付く T「訓点付漢文の読みと、書き ・訓読によって漢文受容 下し文の読みは同じになります が容易になったことを知 (訓点付漢文の範読) 」 る T「書き下し文を読んでみまし ・修正書き下し文の微音 読、斉読 ょう」 ⑧漢文の影響についてまとめる ・漢文を受け入れるために多く の先人が苦心したおかげで、現 在の日本語がある. 20. 20. 15. 5 10. 5.

(19) 解が比較的容易である。. 第一時 ・漢詩四首を音読し、漢文訓読に読み慣れる。. ⑸指導計画. ⑹本時の指導案. 第五時 ・律詩の表現形式と対句について理解する。. 第四時 ・創作訳を交流し、漢詩に歌われている情景や心情 の理解を深める。 本時2. や心情を想像する。 本時1. 第三時 ・絶句三首の訳を創作し、漢詩に歌われている情景. ・絶句の表現形式(起承転結)や表現の特徴(五感 に基づく表現・対比表現など)について理解する。. 第二時 ・絶句三首の解説・鑑賞文を読み、内容を把握する。. ⑶教材観 、 「漢詩の風景」に掲載されている漢詩は、孟浩然「春暁」 杜 甫「 絶 句 」 、李白「黄鶴楼にて孟浩然の広陵に之くを送る」 及びコラム「律詩について」に提示されている杜甫「春望」の 計四首である。四首は、人口に膾炙して日本人に愛好されてき た作品である。教材の特徴は、次の三点である。 ・作品に既習の漢字が多く含まれるため、音読上の困難が少 ない。 ・書き下し文の下に訓点付漢文が掲出されており、漢文訓読 の学習を段階的に行うことができる。付けられている返り. ①第三時のねらい. 備考. 点は、レ点単独、一・二点単独及びレ点連続に限定されて. 5分. ・昨年の授業内容を想起 する(音読み、万葉仮名、 かたかな・ひらがな、訓 点) ・『平家物語』冒頭文の 国語辞典 対句、中学校校歌の歌詞、 配付 国語辞典に見られる漢語 の数などに中国の言語文. 予想される生徒の活動. ・絶句三首の訳を創作し、漢詩に歌われている情景や心情を 想像する。 ②第三時の展開 教師の働きかけ ①前時の授業内容の確認 入 ②本時の授業の概要説明 T「中国から伝来した漢詩や漢 導 文を、日本人は日本語に置き換 えて、日本語として理解しよう と試みました。その成果が漢文 訓読です。漢文訓読によって、 漢詩や漢文は日本語に深く浸透 して現在も日本の言語文化の中 に生き続けています」. ・漢詩の訓読、音読. おり、漢文訓読学習の難易度が適切である(ただし、段階 的に訓読の難易度を上げるために、教科書の配列順を変更 して訓読学習を行う) 。 ・石川忠久氏による解説・鑑賞文があるため、現代語訳がな くても内容の読み取りが容易である。読み取りや現代語訳 をする必要に迫られない分、作者の思いをより深く探求す る学習や、漢詩の表現形式や表現の特徴についての理解を 深める学習へと発展させることが可能である。 ⑷学習のねらい ・漢詩特有のリズムを生かして音読し、漢文訓読に読み慣れ る。 ・漢詩を読み、詩に歌われている情景や心情を想像する。. - 92 -.

(20) T「ところが、訓点を付けたり 書き下し文に直したりしたもの は中学生にとって非常にわかり にくい――。そこで今日は漢詩 を現代語の詩に直してみましょ う」. 化の影響が見られること に気付く. ・学習の見通しをもつ ・日本人が日本語として 漢詩を理解、表現しよう としていたことを知る. ・前時の授業内容の確認. ・音数の数え方の確認. ・ 「春暁」起句を訳して みる(挙手発表) ・グループごとに漢詩と リズムを選ぶ. 板書. 8分 プリント 配付. 分. 板書して 添削指導. 分 机間指導. ⑧創作訳を集約する。 ・付箋を配付(付箋は一人四枚。 ・プリントに記入したも グループ内で各人異なる色を用 のの中から選び、付箋一 いる) 枚に一句ずつ記入する ・台紙にグループの四人 分を分けて貼る. ・本時の授業内容を振り 返り、次時の授業の見通 しをもつ. め ⑨本時のまとめ と 漢詩の現代語訳を、七音と五音を用いて創作す ま ることができた ⑩次時の予告 ・次回は、創作訳を交流する. ③第四時のねらい. 分 付箋・台 紙の配付. 創作訳の 回収. 2分 板書. 10. 予想される生徒の活動. 3分. 備考. 板書. ・漢詩の訓読、音読. ・創作訳を交流し、漢詩に歌われている情景や心情の理解を 深める。 ④第四時の展開 教師の働きかけ ①前時の授業内容の確認 入 ②本時の授業の概要説明 T「前回の授業で、漢詩を現代 導 語の詩に作り直しました。今日 の授業は、前半はグループごと に発表の準備、後半は発表会を 行います」. ・学習の見通しをもつ. 現代語訳を交流し、漢詩に歌われている情景や 心情を想像しよう. - 93 -. 絶句三首を、七音や五音のリズムで現代語訳し てみよう. ③見本の提示 開 ・土岐善麿『鶯の卵』 、井伏鱒 二『厄除け詩集』にある詩を見 展 せて、直訳していないことや七 七調・七五調のリズムを用いて いることを示す ④三首の内容と現代語訳を確認 させる ⑤創作訳の条件を提示する ・七音と五音を用いて、 七五調、 七七調、五七調のいずれかにす る(八音可) ・現代語で訳を作る(話し言葉 可・現代風アレンジも可) ⑥漢詩とリズムの選択 ・四人で話し合うので、グルー プ内で訳す漢詩とリズムを統一 させる ⑦漢詩の現代語訳の創作. ・各自で創作訳を考えて プリントに記入する ・途中経過を挙手発表. 10 15.

(21) ・グループで一つ創作訳 を選ぶ ・他三人の創作訳でより よい句があれば交換する ・決定版を四人で推敲し 修正する ・先に原稿内容を相談し てから、分担を決める ・原稿なし発表の練習. 分. 机間指導. 分 ひな型の 配付 机間指導 分 実物投影 器を使用 6分. 1分. 3 授業実践報告 ⑴「今に生きる言葉」 ①生徒アンケート結果 ●授業内容の理解について. 「今日の授業内容を理解できたか」という設問について、「理 解できた」と回答した者の割合は、次のとおりである(二学級、 六五名) 。. ・音読みと訓読みの違いを理解できた ・8%(六一名) ・5%(五三名) ・万葉仮名を理解できた . ・9%(六三名). ・8%(四八名). 解できた ・3%(六〇名) ●漢文に対する興味・関心について. ・日本語や日本の言語文化が漢文から影響を受けたことを理. ・漢文訓読を理解できた . . ・ひらがなとかたかなの成り立ちの違いを理解できた. 93. ③創作訳の吟味・推敲 開 ・前回集約した創作訳の返却 ・選択、推敲の観点を示す 展 ・グループの話し合いが相互通 行になるよう注意させる. ④発表原稿作り・練習 ・発表原稿のひな型を示す ・四人の役割分担を示す ・練習 ⑤発表 ・一グループから順に行う ・2分×九グループ ・聞き手を見てはっきり 話す ・発表を相互評価する. ⑥評価・講評 T「昔の日本人が漢詩を日本語 ・相互評価結果や感想を に置き換えて理解しようとした 発表する ように、私達も漢詩を現代語に 置き換えて理解を深めることが できました」 ・訳の内容や表現、 発表の仕方、 聞き方についての評価. ・本時の授業内容を振り 返り、次時の授業の見通 しをもつ. ・6%(四二名). 「これからも漢文について勉強してみたいか」という設問に 対しては、次の回答を得た(二学級、六五名)。また、本時の 授業の感想を一部示す。 「もっと勉強してみたい」 ・. 「どちらでもない」 ・7%(二〇名) ・ ・本時の授業の感想 漢文がわかるようになりたい。漢字を解読する日本人は頭が いい。万葉仮名をもっと勉強したい。万葉仮名がおもしろい。. 「もう勉強したくない」 4・6%(三名) ・. 64. 30. め ⑦本時のまとめ と 現代語訳を作ることで、漢詩の情景や心情がよ ま り深く理解できた ⑧次時の予告 ・次回は、律詩について学習す る. 92. - 94 -. 81. 73. 96. 10 10. 20.

(22) 中国語とか外国語についてもっと詳しくやってほしい。中国の. 読しづらい文字も読んでみたい。 漢字や言葉の歴史を知りたい。. ど今回の授業で少し好きになった。楽しくてためになった。解. 自分が使っている文字について興味を持った。漢字は苦手だけ. ・第三学年 . ・第二学年 . ・第一学年 . 二学級、一年六六名・二年六三名・三年六三名)。. を一番最初と回答した者の割合は、次のとおりである(各学年. ・6%(四六名). 文化が日本にたくさん残っていることがわかった。日本が漢文. ・8%(五六名). 「漢字・漢文が日本に伝わった結果、日本で誕生したものは 次のうちどれか」という設問(複数回答可)について、 「ア、. ・1%(五三名). 文から来たとわかった。. は、次のとおりである。. ウ. ・第三学年 ア. ウ. ・9% 二(七名). ・6% 四(二名). ・2% 四(三名). 一年後、授業内容の定着度を調べるためにアンケート調査を 実施した。授業の対象となった学年(一年後は第二学年に進級. ③一年後の生徒アンケート結果 ●授業内容の定着度について. 読」についてはよくわからないとする生徒が少なからずいる。. ほとんどの生徒が理解できている一方で、 「万葉仮名」「漢文訓. 生徒アンケート調査結果が示すように、「音読み・訓読み」 の 成 り 立 ち、 「ひらがな・かたかな」の成り立ちについては、. 生徒アンケート調査結果と定期テスト結果から、本時の授業 内容を生徒はおおむね理解していると判断できる。. ④考察. している)と比較するために、授業対象ではない学年にもアン. 「万葉仮名」「漢文訓読」は初めて学習する事項であり、本時. ケート調査を行った。. の授業では、それらの概要のみ説明したためであると考えられ. ・3% 五 (〇名) イ ・1% 七 (名). (三名) イ ・第一学年 ア ・1% 四 (一名) ウ ・6% 一 (二名) イ ・第二学年 ア ・5% 五 ・5% 一 (八名). ひらがな」「イ、かたかな」「ウ、万葉仮名」を選んだ者の割合. ②定期テストの結果 ●授業内容の理解について 漢文に関わる設問のうち、次の事項に対する正答率は次のと おりである(二学級、六六名) 。. から大きな影響を受けていることを初めて知った。日本語は漢. 84 88 69. 11 79 28 82 16 65. 「漢字、かたかな、ひらがなの文字が日本で使われるように なったのは、どのような順番か」という設問について、 「漢字」. - 95 -. 40. 66. 68. ・返り点(レ点)の用法を正しく答えた者 ・3%(五五名) ・漢文の伝来によって日本語や日本の言語文化が受けた影響 ・7%(四八名). を二つ記述する設問において、一つ以上答えた者. 83. 72.

(23) る。 生徒アンケート調査結果から、漢字やひらがな、かたかなだ けでなく、万葉仮名や漢文訓読について、また日本語と中国語 の関係について興味を持った生徒がいることがうかがわれる。 漢文を受容した当時の日本人の苦心のさまを実感するのに、 中国語と日本語を比較したほか、英語やアイヌ語、アラビア語 の例を挙げたことが奏功したと言える。 また、一年後のアンケート調査から、授業対象者の授業内容 の理解が非対象者の理解を上回ることが確認された。. 昨夜は風が吹きすさび 窓に花びら一つあり ・他の生徒の感想. 「窓に花びら一つあり」のところから、前の日の風雨がす ご い 勢 い で、 桜 の 花 び ら が た く さ ん 散 っ て し ま い 少 な く. なったことが浮かんできました。 絶句 杜甫 みどりの川には白い鳥 ブルーの山に燃える花 気づいたころに散る桜 ・他の生徒の感想. 揺れる心に咲く記憶. 副教材を使用しない限り、仮名成立の経緯について学ぶことが. 創作した訳にオリジナル感がありました。でも「絶句」だ ということがすぐ分かりました。(注・発表時に詩題を言. 授業実践の対象となった生徒は、小学校において平成二十三 年度版光村図書出版発行の小学校教科書を使用していたため、 ない。. わずに発表し、原詩はどれかを聞き手に考えさせた). 黄鶴楼にて孟浩然の広陵に之くを送る 李白. 中学校で漢文訓読に着目した学習を行い、日本語や日本の言 語文化が漢文から受けた影響を知ることによって、日本語につ いての理解をより一層深めることができた。. 窓からのぞく泣いている顔. 伝わるのですごいと思いました。私には思いもつかない発. 関係でえがいていたことが印象深かったです。元の意味も. . ・他の生徒の感想 表現が豊かで、元は「友人」の関係の二人を、「親子」の. 線路の向こう 新未来がある. . 「しっかりやれよ」 娘の顔は 電車の中で見えなくなった. ⑵「漢詩の風景」 ①生徒の創作訳と相互評価 ●授業内容の理解について 本時の授業で生徒が創作した現代語訳と、その創作訳に対す る他の生徒からの感想の一部を次に示す。 春暁 孟浩然 二度寝していた春の朝 小鳥の歌で目を覚ます. - 96 -.

(24) 想です。. 本時の授業実践は、現代の言葉に置き換えて漢詩を理解し表 現しようとしている点で、漢詩・漢文を受容して日本語として. グループでいろいろ話したり、コミュニケーションがとれて楽. じた。思っていたより楽しくておもしろかった。またやりたい。. き慣れない単語でも、相手にイメージさせることができると感. 今回の創作訳は文字数が決められていて難しかったが、新鮮 で面白かった。他のグループの発表を聞いて、ふだんあまり聞. 本時の授業を終えての感想の一部を、次に示す。. 点が一箇所に見られる「絶句」、一・二点二箇所の「黄鶴楼に. 漢文訓読の仕方を学習する際には、教科書の配列順ではなく 訓読の難易度の低い順から段階的に学習を進めた。つまり、レ. の冒頭に訓点付漢文の音読を行った。. 第一時に漢文訓読の仕方・書き下し方を学習した後、毎回授業. 漢文訓読法については、返り点の基礎であるレ点、一・二点 を第二学年で再度学習し、 基礎の定着を図ることが必要である。. いると考えることもできよう。. 理解しようと努めた古代の日本人と同じ理解の仕方をたどって. しかった。みんなの発表を聞くのが面白かった。想像以上にみ. - 97 -. ②生徒の感想 ●授業内容に対する興味・関心について. んなの訳が上手くてびっくりした。. 所の「春暁」、レ点四箇所とレ点連続一箇所、一・二点二箇所. ⑴訓読が成立した経緯、訓読が日本の言語文化に与えた影 響を理解させる。. まず、漢文訓読法に関わって、次の三点を中学校国語科にお いて学習する必要がある。. 本稿「五」の指導実践に基づき、漢文訓読に着目した学習指 導について考察し、漢文訓読学習の意義について述べる。. 六、まとめ. する設問に対して高い正答率を示している。. の「春望」の順で訓読の学習を進め、漢文訓読に対する生徒の. て孟浩然の広陵に之くを送る」 、レ点連続と一・二点が各一箇. ③定期テストの結果 ●授業内容の理解について. 不安や混乱を極力排除した。定期テスト結果は、漢文訓読に関. ・0%(六一名). ・5%(六〇名). ・5%(五六名). 漢文に関わる設問のうち、次の事項に対する正答率は次のと おりである(二学級、六七名) 。 ・一・二点の用法を正しく答えた者 ・レ点連続の用法を正しく答えた者 ・書き下し文をを正しく書けた者 . められるためだと考えられる。. うな言語活動を行う過程で、より深く対象を理解することが求. た情景や心情を理解する上で有効であると判断できる。このよ. 創作訳や相互評価・生徒感想から、創作訳を作ったりグルー プごとに推敲し発表したりする等の言語活動は、漢詩に描かれ. ④考察. 91 89 83.

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