第43回群馬脳腫瘍研究会
日 時:2009 年 7月 11日(土) 場 所:前橋商工会議所 代 表:好本 裕平(群馬大院・医・脳神経外科学) 当番世話人:登坂 雅彦(群馬大院・医・脳神経外科学)一般演題1>
座長:登坂 雅彦(群馬大院・医・脳神経外科学) 1.テモゾロマイド投与早期に真菌感染症によると思わ れる呼吸不全を呈した一例 神徳 亮介,藤巻 広也,押田 奈都 田中 志岳,藍原 正憲,嶋口 英俊 朝倉 ,宮崎 瑞穂 (前橋赤十字病院 脳神経外科) 症例は 78歳男性. 胃潰瘍のため胃全摘を受けている. 2009 年 3月初旬よりふらつきを自覚し, MRI にて右小 脳多発性病巣を認めた. FDG-CT にて残胃に集積を認め たため, 転移性脳腫瘍が疑われ 3月 30日に当院入院と なった. 上部消化管内視鏡による生検では, 胃の腫瘍性 病変は認められなかったので, 確定診断のため摘出術を 行った. 迅速病理診断は悪性神経膠腫であったため, 部 摘出のみにとどめた. 術後に局所 割照射を開始し, あわせてテモゾロマイドの投与を開始した (スルファメ トキサゾールは 1回 2錠, 週 3回予防的投与していた). 5月上旬よりテモゾロマイドによると思われる汎血球 減少, 感染も絡んだ DIC が出現した. その後, ARDS様 の所見が認められた. ニューモシスチス肺炎の可能性も 強く疑われ, スルファメトキサゾール, ミカファンギン ナトリウムを連日投与したが, 効果は得られず5月15日 死亡に至った. 今回の症例について文献を え 察した. 2.多房性囊胞形成を伴う gliomatosis cerebriの1例 本徳 浩二,曲澤 ,石原 淳治 橋場 康弘,吉田カツ江 (桐生厚生 合病院 脳神経外科,病理部) 【症 例】 33歳, 女性. 【既 往】 特記すべきことな し. 【主 訴】 意 識 障 害. 【現 病 歴】 2009 年 4月 27 日, 意識無く倒れているところを発見され近医受診. 頭 部 CT にて両側側脳室に異常認め, 水頭症疑いで当科紹 介. 頭部 CT にて脳梁部に cystあり, 両側前頭葉および 右視床に low density認め, 脳腫瘍疑い, 症候性てんかん 疑いにて精査加療のため入院. 【入院時現症】 意識ほ ぼ清明, 明らかな神経脱落症状なし. 【入院後経過】 抗 けいれん薬開始. 以後意識消失なし. 造影 MRI 施行, 造 影効果なし, 両側前頭葉, 右視床に T1 low T2 high. gliomatosis cerebriの疑いにて 5月 7日定位的腫瘍生検 術施行. 病理診断 : mixed glioma, gradeⅡ, NSE(+) GFAP(+) p53(+) Ki-67 10%.しかしながら,cyst形成, ki-67が 10%と高値であることから diffuse astrocytoma というより anaplastic astrocytoma, gradeⅢと診断し, 拡 大局所照射+TMZ にて治療中である. 【 察】 多房 性囊胞形成を伴う gliomatosis cerebriの 1例を経験した ので報告する. 3. 子標的療法にて縮小した腎細胞癌の脳転移例 菅原 一,好本 裕平 (群馬大院・医・脳神経外科学) 伊藤 一人 (群馬大院・医・泌尿器科学) 症例は 30歳 (発症時), 男性. 肉眼的血尿, 左側腹部痛 にて発症.左腎腫瘍,膵脾転移と診断され,2003年 3月当 院泌尿器科にて左根治的腎摘出, リンパ節郭清, 膵部 切除, 脾摘除術を受け, 病理組織診断は clear cell typeの 腎細胞癌であった. 2004年 7月肺および右腎転移が出現 し, インターフェロン αによる免疫療法を開始したが病 変は縮小せず, 2005年 5月より sorafenib (ネクサバー ル) による 子標的療法を導入された. sorafenibは Raf キナーゼ, VEGFR-1, VEGFR-2, VEGFR-3, PDGFR-β, KIT, FLT-3, RET などを標的とする経口マルチキ ナーゼ阻害剤である. 導入時の頭部 CT では第 3脳室内 に径 1.5cmの腫瘤性病変を認めていた. 2007年 4月全身 怠感,下痢などの副作用があり,また治療効果も PD で あったため sorafenib投与は中止となった. 2007年 6月 第 3脳室病変の増大を認め, 当科初診. 腎細胞癌の第 3 脳室脈絡叢転移と診断し, 7月ガンマナイフ治療を行っ た. インターフェロン αによる免疫療法も再開されたが 脳病変は徐々に増大, 10月急性水頭症をきたし脳室腹腔 87 Kitakanto Med J 2010;60:87∼88シャント術を行った. その後, 病変は一時やや縮小する も再増大を認めたため 4月より sorafenib投与を再開し たところ, 5月の MRI では病変は著明に縮小していた. 肝転移の増悪により状態が悪化し, 11月 sorafenib投与 中止, 緩和ケアに移行となったが, それまで脳病変は縮 小を続けていた. 12月全経過 5年 9ヶ月で永眠. Sor-afenib 投与にて縮小のえられた腎細胞癌の脳転移例を報 告した. 進行性腎細胞癌に対してはインターフェロン α や IL-2による免疫療法が標準治療であったが, 近年, そ の 増 殖 に 関 わ る 子 機 構 の 解 明 が 進 み, sorafenib sunitinib, temsirolimus, bevacizumabなどの 子標的薬 が推奨されるようになった.抗 VEGF 療法では頭蓋内出 血などの合併症が報告され脳転移例は慎重投与とされて いるためその適応は慎重に検討しなければならないが, 治療オプションとして認知しておく必要がある. 4.転移性脳腫瘍で発症した肺がんの1例 栗原 秀行,笹口 修男,大谷 敏幸 (独立行政法人・国立病院機構 高崎病院 脳神経外科) 清水 雄至 (同 呼吸器内科) 村 賢 (中央群馬脳神経外科病院) 肺がんからの転移性脳腫瘍の治療方針を決める上で, 原発巣の組織型, 腫瘍コントロールの状況が重要である. 今回我々は,脳転移で発症した non-small lung cancerで, 原発巣コントロールの為の化学療法が脳転移巣にも著効 を示し, 化学療法のみでフォローしている症例を経験し たので報告する. 患者は 63歳男性で, 既往歴は糖尿病のみで喫煙歴な し. 2009 年 4月頃より歩行時, 入浴時に右足のもつれを 自覚し, 4月 21日, 前医受診. 軽度の右足麻痺あり, MRI にて左前頭葉内側, 左小脳橋角部に Gdで増強される病 変および, CT にて右中, 下肺野に陰影あり, 肺腫瘍の脳 転移の診断で 2009 年 4月 27日, 当科紹介となった. 軽 度右下肢の麻痺, および軽度の失語あり, 左前頭葉に広 範な浮腫を伴う径 1 cmほどの腫瘍と, 左内耳道内に径 7 mmほどの腫瘍を認めた. 呼吸器内科にコンサルトし, 4 月 28日, 気 管 支 鏡 に よ る 生 検 術 施 行. Bronchiolo-alveolar-carcinoma,EGFR 陽性 の診断であった.まずは 原発巣のコントロール目的に化学療法を施行し, その結 果で定位的放射線治療など検討することとし, 酒石酸ビ ノレルビン, カルボプラチンによる化学療法を 2クール 施行した. この間に肺, 脳病変ともに縮小を示したが, 根 治に至らなかったため, 定位的放射線治療, 維持化学療 法を検討中である. 最近, 化学療法の発達で, 原発巣, 転移巣ともにある程 度コントロールされる症例もあり, 転移性脳腫瘍の治療 計画にあたり, 原発巣の組織型診断に基づく適切な化学 療法は, 原発巣のみならず, 転移巣のコントロールにも 重要な因子であると えられた. 5.当施設における転移性脳腫瘍の摘出術後成績 楮本 清 ,早瀬 宣昭 (埼玉県立がんセンター 脳神経外科) 卯木 次郎 (関東脳神経外科病院 脳神経外科) われわれは, がんの脳転移に対し積極的治療方針のも とで治療を行ってきた. MRI の導入後に経験した転移性 脳腫瘍摘出術の治療成績を検討した. 症例は, 1991年 9 月から 2009 年 1月までの約 17年間 で, 摘出術後 6ヶ月以上の臨床経過を観察しえた連続 332例である. 原発臓器別症例数 (%) は, 肺 172 (51.8), 乳腺 44(13.3),大腸及び直腸 40(12.0),腎 15(4.5),子宮 9 (2.7), 食道 9 (2.7), 胃 9 (2.7), 肝 5 (1.5), メラノーマ 4 (1.2), 原発不明 2 (0.6). 脳腫瘍統計全国調査と比較する と, 乳腺, 大腸および直腸の頻度が高い. 術後生存期間中 央値 (MST : 日)は,全腫瘍では 233,肺 244,乳腺 357,大 腸及び直腸 173, 腎 194であった. MST を 1999 年 12月 以前と 2000年 1月以後の各 140/192例で比較してみる と, 全腫瘍では 192→ 259 日, 肺 225→ 263日, 乳腺 295 → 391日, 大腸及び直腸例 117→ 220日であった. MST 長の要因として, 子標的治療薬を含む化学療法, 術 後放射線治療, 手術法の進歩などが えられる. 一方, KPS, 脳以外の転移, 原発巣の制御, 年齢から 類される予後因子 類 (RPA : RTOG)を用いて,肺がん の脳転移術後成績を比較すると, RPA class ∼ の MST は, それぞれ 13.1, 7.9, 6.2ヶ月であった. 脳転移摘出術後の治療は, 定位放射線治療の導入, 化 学療法の進歩に伴って複雑化し, われわれの方針も変化 してきており, 問題点を提示したい. がん患者の増加と全身治療の進歩に伴って, 今後さら に中枢神経系への転移が問題になることが予想される. 転移性脳腫瘍の治療においては, 全身病として病態を理 解し, 原発巣治療担当科, 放射線科との連携のもとで最 善の治療法を検討することが重要である.