1.
鳥とドローンはどこが同じでどこが違うか
鳥と小型無人航空機(ドローン)はどこが同じでどこ が違うか? この疑問に対する答えに近い記述が書かれ ている書籍がある.「The Simple Science of Flight」(The MIT Press,1992)で,その訳本が草思社発行の「鳥と 飛行機 どこがちがうか」[テネケス 99] という書である. 原著者はオランダ人のヘンク・テネケスでデルフト工業 大学で航空学を学び理学博士の学位を取得している.こ の本によれば,重力に逆らって空を飛行する鳥や昆虫, 航空機は翼で自重を支えており,翼が発生するもち上げ る力,いわゆる揚力は全く同じ物理法則に従っている. 翼が発生する揚力は翼の寸法,対気速度,空気密度,飛 行方向に対する翼の角度で決まる.この揚力は翼を真上 から写真撮影した表面積に比例し,この表面積が 2 倍あ れば 2 倍の重さを運ぶことができるという.その物理法 則とは次式である. W=0.3dV2S (1) ここで,係数 0.3 は翼の迎え角に関連した定数で,長 距離飛行をする鳥や飛行機は平均的に迎え角 6°にする とこの数値となる.d,V,S を表す単位はメートル法を 使い,d は空気密度〔kg/m3〕,V は対気速度〔m/s〕,S は翼面積〔m2〕を表す.結局,式(1)の自重=揚力の 単位は〔kg・m/s2〕でニュートン〔N〕の単位になっている. この式から航空機も鳥も昆虫も自重を支えて自在に大空 を飛ぶためには,d は一定なので,翼面積を大きくする より飛行速度を上げたほうが 2 乗の効果があるため,効 率良く自重を支えられることがわかる.さらに,式(1) において,鳥や昆虫が地上付近を飛行することを考慮し て空気密度を 0.38 と置き,両辺を S で割ると次式となる. W/S=0.38dV2 (2) 式(2)は翼面荷重〔N/m2〕を定義している.このこ とから翼面荷重が大きいほど鳥は速く飛ばなければなら ないことになる.この書籍では,極めて興味深い図が載っ ている.それは図 1 に示す飛行相関図という図で,飛行
鳥のように飛行する小型無人航空機・
飛行ロボットの近未来自律制御技術
Autonomous Control Technology in Near Future for Small Unmanned
Aerial Vehicles and Flying Robots like Birds
野波 健蔵
株式会社自律制御システム研究所Kenzo Nonami Autonomous Control Systems Laboratory Ltd. [email protected], www.acsl.co.jp
Keywords:
small unmanned aerial vehicle, flying robot, autonomous control, bird like flight, autonomy. 「空間移動自動運転技術」できる最小生物の重量 7×10−6 N,翼面積 2 mm2のキ イロショウジョウバエから,ショウジョウバエの 5 000 億倍の重量 3.5×106 N,翼面積 511 m2で 2 億 5 000 倍 の面積であるボーイング 747 までが上述した飛行原理に 従っているという.重量については 10 の 12 乗,翼面荷 重については 10 の 4 乗,対気速度(巡航速度)につい ては 10 の 2 乗もの差がある.見事というほかない.こ れほど広い範囲を支配する現象もまれであろう.鳥や昆 虫も人が創造した航空機も飛行力学原理という物理法則 には逆らえないということである.図 2 は同一縮尺で 示した翼幅 3.1 m のワタリアホウドリと翼幅 15 m のグ ライダーである.ともにアスペクト比(縦と横の比)は 20である.また,図 3 に示すように,鳥は飛行速度を 増すにつれて翼を折り畳む.高速飛行で翼を一杯に広げ ると抗力が大きくなり,むだなエネルギーを消耗するか らである.図 4 は最終着陸態勢に入った際のトキの姿勢 で,すべての飛翔用羽根を一杯に広げ,かつ,脚も伸ば して着陸する.航空機が着陸体制に入る際にフラップを 最大限に広げて飛行速度の低下を翼面積でカバーして揚 力を上げるのと全く同じである. ここまでは前進飛行の場合であるが,固定翼にはでき ない芸当で回転翼には得意なホバリングについても興味 深い結果が書かれている.ホバリングする鳥や昆虫の体 重の約 30%が飛行のための筋肉であるという.これは マルチコプタにおいてもほぼ類似しており,機体総重量 5 kgであれば,1.5 kg 前後がプロペラ・モータ・ESC・バッ テリなどの駆動系重量である.機体総重量が 10 kg であ れば約 3 kg で,見事に相似している.さらに,ハチド リやミツバチはホバリング時に単位面積当たり秒速 3 m の下向き気流,いわゆるダウンウォッシュを発生させて 空中にホバリングしているという.マルチコプタも同様 で下降速度は毎秒 3 m 程度が推奨されているが,これ より速く下降するとボルテックスリングステートと呼ば れる現象が発生して失速の恐れが発生する.ハチドリが 1時間ホバリングすると仮定すると 300 J のエネルギー が必要となるが,花蜜は 1 g 当たり 1.8 kJ のエネルギー を有しているため,1 g の蜜で 6 時間のホバリングが可 能となる.すなわち生物がつくり出すバイオエネルギー の驚異的な性能が際立つことになる.ドローンなどで 活用されているリチウムイオンなどのバッテリは多めに 換算して 0.3 kW・h/kg のエネルギー密度で,1 kW・h = 3 600 kJで あ る た め,1 080 kJ に 相当している.蜜 1 g=1.8 kJ に換算すると,鳥や昆虫は 2 倍のエネルギー 密度である.さらに徹底した軽量化を実現している.渡 り鳥が何千 km と飛行できるのは飛行原理は同じでもエ ネルギー効率が本質的に異なるからにほかならない.こ の点を除くと,人類の動力付き初飛行はライト兄弟によ る 1903 年のキティホークに るが,爬虫類・鳥類・昆 虫などの生物は何億年も前から空を飛んで環境に適応し 最適な進化を遂げてきたわけで,その基本原理が同じで あることに自然への畏敬の念を抱く. ここまでの話は鳥や昆虫と航空機でどこが同じでどこ が違うかであった.結論的には,飛行原理は同じである がエネルギー効率が決定的に違うということであった. さらに,現在のホビー用や産業用ドローンと鳥や昆虫 の飛行との間で大きく異なる点がある.それは環境認識 能力や判断力である.鳥や昆虫の認識能力,意思決定能 力,学習しながらの知的能力に注目し,近未来型ドロー ン,進化したドローンは飛行ロボットと呼ぶべきである と思うが,いかにしてドローンは飛行ロボットに進化す るか? どのようにしてこうした生物が有する能力を獲 得するかという点にフォーカスを当てたい.
2.「
空の産業革命」に向けたロードマップ
[ATCL] 現在,国が定めている「小型無人機の利活用と技術開 発のロードマップ」(平成 28 年 4 月 28 日 小型無人機に 図 3 ハト(左)とハヤブサ(右)の飛行速度と翼の形状 [テネケス 99] 図 2 アホウドリとグライダーの相似 [テネケス 99] 図 4 着地のための翼最大化(トキ)[テネケス 99]係る環境整備に向けた官民協議会)では,小型無人機(ド ローン)の飛行レベルを図 5 のように整理している.飛 行レベルは 4 段階あり,レベル 1 がラジコンレベル,レ ベル 2 が目視内であるが,自律飛行するドローン,レベ ル 3 が無人地帯での監視者なしの目視外の自律飛行,レ ベル 4 は目視外で有人地帯での自律飛行と定義してい る.そして,レベル 3 は 2018 年頃からレベル 4 は 2020 年代頃と見通している.さらに,このロードマップを 受けて平成 29 年 5 月 19 日に,「小型無人機に係る環境 整備に向けた官民協議会」(議長:内閣官房内閣審議官) において「空の産業革命に向けたロードマップ ∼小型 無人機の安全な利活用のための技術開発と環境整備∼」 を取りまとめた.それが図 6 である.図 6 は小型無人機 の安全な利活用のための技術開発と環境整備について全 般的に示している.図 6 の右下に高い安全性と信頼性の 機体とあり,「落ちない・落ちても安全」と「高度な自 律飛行」とある.人口密集地でのレベル 4 の飛行は,監 視者なし目視外長距離飛行となるわけで,2020 年代に 期待されている飛行である.次章では「高度な自律飛行」 について,これはどのような意味をもっているかを詳し く論じたい.
3.ドローンの
飛行レベルと自律性(安全性)
クラスの相関関係
[野波 18] 図 5 のレベル 3 やレベル 4 を実現するドローンの自 律性はどの程度かを検討したものが図 7 である.図 7 は ドローンの自律性,すなわち,ほぼ同義語といえる安全 性をクラス A からクラス E までの 5 段階に分類して,5 段階評価の各概念,ガイダンスレベル,ナビゲーション レベル,コントロールレベル,物流を想定したシナリオ に分けて詳述した. クラス E はラジコン操縦型ドローンで人の操縦スキ ルが問われるレベルである.クラス D は GPS 電波を受 図 5 小型無人機(ドローン)の飛行レベル 図 6 小型無人機の安全な利活用のための技術開発と環境整備 [ATCL]信できることを前提とした飛行で,離陸から着陸まです べてをあらかじめ人が軌道計画をしてプログラム飛行す る,いわゆるウェイポイント飛行としての自律飛行でき るクラスである.ガイダンスはすべて熟練した人が判断 する.オンボード CPU ですべてを処理し,通信障害や コンパス異常,バッテリ残量などは自動で知らせること ができるクラスで,現在の市販されている産業ドローン の多くはクラス D と判断できる. クラス C は非 GPS 環境下でも自律飛行可能なドロー ンである.その手段としてはカメラを使った画像処理や レーザやライダー,トータルステーションなどの方法, 音響や電波による方法などさまざまな方法がある.各種 機体の異常告知などはクラス D と類似で,ミッション継 続の有無の判断は人が行う.2018 年末での世界的な最 先端ドローンはクラス B に近いクラス C あたりと考え られる. クラス B は 2019 年頃には登場してくる先進的なド ローンである.墜落しないドローンと定義し,異常が発 生したら墜落する前にパラシュートなどを自律的に開傘 して不時着するというものである.このためには飛行中 の異常診断アルゴリズムが常に作動しており,機体の健 康状態が正常と異なっている場合は異常の原因を突き止 めて,ミッションの継続か否かを自律的に判断する.し たがって,ガイダンスは基本的にドローン側の自律性 に依拠することになる.飛行前方の障害物の発見と瞬 時の回避や実時間の軌道再計画を伴う SAA(Sense and Avoid)もこのクラス B で実現する. クラス A はドローンの一つの理想の姿で,鳥のよう に飛行する生物型飛行というべき飛行形態である.GPS 電波はもはや必要なくなり,機体に搭載されているカメ ラなどの画像から,高速画像処理をして自己位置推定 を行う.現在どこを飛行しているかをドローン自身が認 識でき,10 km 以上でも GPS 電波を使用しないで,地 上のランドマークを目印に,目的地まで到達できる能 力をドローンが有する.もちろん,必要に応じて UTM (UAV Traffic Management System)の支援を受けるこ とも可能で,飛行中の故障解析である FTA(Fault Tree Analysis)も行いながら機体異常は事前に察知して安全 な飛行ができるクラスである.この段階では人工知能 AIの学習効果も活用でき,飛行するごとに賢くなって いく自律飛行である.2020 年代には実現できると思わ 図 7 ドローンの自律性(安全性)クラスと将来展望 [野波 18] 図 8 ドローンの飛行レベルと自律性(安全性)の相関図 [野波 18]
れる. 図 8 は,図 5 の国が定める飛行レベルと,図 7 のドロー ンの進化レベルの相関関係を示したものである.どの程 度のドローン自律性(安全性)があればどの程度の飛行 レベルを許容できるかを概念的に示している.レベル 3 の監視者なしの長距離目視外飛行では,クラス C の中以 上であるべきで,機体の健康アセスメントがある程度で きることが望ましい.クラス B に進化していれば,SAA 機能が実装され,異常診断がほぼ自律的に対応できてい る.そのため,自律的に異常を検知して,墜落させない 安全装置が作動できる機能を有している.したがって, 無人地帯での自律飛行には問題ないレベルと判断でき る. レベル 4 の有人地帯での自律飛行に関しては,クラス Aであるべきであろう.特に,気象や電波・磁界などの 三次元環境変化を瞬時に認知でき,FTA 解析や危機管理 能力などガイダンス能力が完璧に備わっていれば,有人 航空機なみの安全設計に近い無人航空機といえ,有人地 帯での事故確率は大きく低減できるものと思われる.
4.ドローンの
自律性(安全性)クラス B で求め
られる自律制御技術
[Nonami 10, 野波 18] 4・1 耐故障制御(フォルトトレラント制御) 自律飛行中のマルチロータヘリコプタの故障は,大き く四つに大別できる.一つ目は地上と機体のアップリン クとダウンリンクに関する通信系故障,二つ目は慣性計 測ユニットである IMU(Inertia Measurement Unit) 内のセンサや気圧計,さらに GPS(Global Positioning System)受信器,慣性航法システムである INS(Inertia Navigation System)関係,ビジョンなどナビゲーショ ンに関するセンサ系故障,三つ目は制御演算を行うマイ コンボードや周辺機器を中心とした制御系故障,四つ 目は駆動系を中心としたマルチコプタの推進系故障であ る.これらの故障は一般的には冗長システムにすること で対応できる.しかし,さまざまな制約で冗長システム が採用できない場合には,以下で紹介するフォルトトレ ラント制御(Fault Tolerant Control)が有効である.特 に推進系を冗長にすることはサイズ,重量,経費などの 観点から一般に実現が難しい.そこでマルチロータヘリ コプタの推進系の耐故障制御に照準を合わせた自律制御 技術を紹介する.マルチロータヘリコプタの推進系はプ ロペラ,モータ,モータドライバとバッテリにより構成 される.これらの部品の損傷や故障は全部推進系故障と なる. 図 9 に推進系の故障に対する耐故障制御系を示す.駆 動モータ系の電流モデルを用いて,六つの駆動モータ系 を監視する.もし故障が発生した際には故障情報を再構 築部に送信して最適な制御器と制御パラメータに瞬時に 切り換えて飛行を継続する.瞬時に制御構造を切り換え るとはいえ,有限時間での切換えには変わらない.この ため故障した駆動モータを停止し,制御構造が変わって 五つのモータで制御が開始されるまでの時間にマルチコ プタの挙動が大きく変動しないための制御器のロバスト 性も重要である.このためロバストな制御性能を発揮で きる非線形制御であるスライディングモード制御 [野波 94]を適用して,一つのモータを瞬間的に停止して制御 構造を変えて機体姿勢の安定化を図っている. 4・2 セルフチューニング マルチロータヘリコプタではホバリング付近の平衡点 を中心に制御系を組むことが一般的であるが,重量変動 が起こるとそれに伴い平衡点が変動してしまう.特に対 策を行っていない場合,機体の急上昇や応答速度の低下, 定常偏差の発生,最悪の場合は制御の発散が起こり墜落 などの事故へとつながる.ここではセルフチューニング により急な質量変動が起こった場合においてもパラメー タを適切に変動させ,制御性能の劣化を防ぐ方法を紹介 する. セルフチューニングとは制御対象に未知パラメータが 含まれることを想定した制御手法の一つである.セルフ チューニングの一般的なブロック図を図 10 に示す.制 御の開始時は制御対象が既知であるとして制御器の設計 を行い,未知パラメータを逐次推定,制御器へ反映して いく.これにより最終的にオンライン同定された未知パ ラメータを用いた制御器が構成されることとなる. 自律制御システム研究所が開発した ACSL-PF1 に上 記アルゴリズムを実装し,2 L の水を一瞬(約 0.1 秒程度) で投下した際の実機の挙動のスローモーション写真を図 11に示す.機体が急上昇することなく,2 kg の質量変 化にもかかわらず 5 cm 程度の機体上昇に抑えることが できている.5.
鳥のように飛行する近未来の飛行ロボットの
自律制御のあるべき姿
[Nonami 10, 野波 18] 明確な定義はないが,オートパイロット(AP)はドロー ンが初歩的なウェイポイント飛行などのプログラム飛行 から,高度に自律化された飛行,例えば障害物を回避し ながら自ら軌道計画を実時間で実行しながら飛行できる 図 9 耐故障制御系の概念図 [野波 18]ガイダンス(G),ナビゲーション(N),コントロール (C)のハードウェアとソフトウェアの一体システムのこ とである.図 12 に AP と FC の違いを示す.AP はその 一部にフライトコントローラ(FC)を含んでおり,AP はいわば高度な概念であり,有人航空機の熟練パイロッ トの仕事も包括している.有人航空機では熟練したパイ ロットが障害物認識と意思決定を行っているが,無人航 空機ではパイロットレスのため,この役割を何らかの手 段で補う必要がある.フライトコントローラ(FC)は, 与えられた飛行軌道に従って無人航空機を安定な状態に 保ちながら飛行するハードウェアとソフトウェアの一体 システムである. したがって,AP は認識や決断などの上位構造と,与 えられた軌道を正確に飛行する下位構造の FC から成っ ている.市販のホビー用クワッドコプタの飛行の場合, APは下位構造のみ実装されており AP = NS + FC と なる.ここで,NS はナビゲーションシステムである. この場合の FC は,機体の姿勢を安定に保ちながら,パ イロットの入力に基づいてモータの回転数を制御するた めのコマンドを絶えず計算している.一方,地図作成を 目的とした測量用ドローンの場合は,与えられたウェイ ポイントを正確にたどるように FC と GPS 電波を用い て自律飛行する. 図 7 の自律性クラス B でも述べたが,飛行前方の障害 物を迅速に認識して衝突回避を自律的に行い複雑な環境 を認識して飛行経路を自ら生成しながら自律飛行するた めには,図 12 のガイダンス,ナビゲーション,制御シ ステムが重要な役割を果たす.この 3 要素(GNC)は 完全自律制御飛行のためのコア技術であり,自律飛行に おける頭脳部として今後急速に進化を遂げていくものと 思われる.特に,物流・宅配ドローンに見られるように 自律制御飛行のレベルが高度化して目視外飛行かつ長距 離飛行となると,ガイダンス,ナビゲーション,制御シ ステムが決定的に性能を決めることになる.UAV にお けるガイダンスシステムは人間に例えると大脳の役割に 似て,図 13 の鳥や昆虫の飛行に示すような認識と知能・ 判断を担う.複雑な未知環境においても障害物を検出し て衝突回避しながら目標軌道をリアルタイムに決めて自 律飛行する,いわゆる実時間経路生成を実行する.もし 機体に異常が発生した場合は,飛行継続が可能かどうか を判断して困難であれば,安全な場所を探索しながら 地上に帰還するというミッションも含まれるため,高度 で瞬時の判断を伴う上級レベルの自律飛行に該当する. 有人航空機ではパイロットが担う高度な技術であるが, UAVではすべてコンピュータが逐次変化する三次元空 間を認識して飛行経路と高度などを瞬時に決定していく 必要がある.現状はガイダンスが全くないかほぼないに 等しい状態で飛行しており,最も重要な科学技術的課題 といえる.当分の間はネットワーク化が不可欠で,クラ ウドサービスによるガイダンスを受けながら飛行するこ とになる.将来的には搭載した人工知能(AI)などの支 援を得た飛行になるであろう.まさに,鳥や昆虫のよう に飛行する姿が理想とする飛行で,もはや墜落という事 態は完全に回避される.鳥や昆虫も風が強すぎる場合や, 体調が悪かれば飛行しないのと同様に異常があれば離陸 しない.離陸した後であれば,余力のある間に高度を下 げて不時着する安全な場所を探して安全に着陸すること になる. 図 12 オートパイロット(AP)とフライトコントローラ(FC)の 違い [野波 18] 図 13 近未来の飛行ロボットの自律制御のあるべき姿 [ 野波 18] 図 10 セルフチューニングのブロック図 [野波 18] 図 11 2 L の水を投下した際の機体挙動 [野波 18]
現在の多くの自律飛行可能な UAV はガイダンスシス テムのない,ナビゲーションシステムと制御システムの 二つのシステムでウェイポイント飛行と呼ばれる初級的 な自律飛行を実現している.ガイダンスが人間の大脳で あれば,ナビゲーションと制御は人間の小脳に相当して おり,平衡感覚や運動機能を担っている.先進的なナビ ゲーションシステムではレーザ,超音波センサ,赤外線 センサ,シングル・ステレオカメラ,3D カメラ,ビジョ ンチップなどを冗長的に搭載してマッピングや障害物検 出を行い,自己位置推定の精度を上げている. 図 7 で示したドローン自律性(安全性)に関して,生 物型飛行のクラス A の実現の方法の一例は図 14 のよう な構造になると考えられる.図 14 はガイダンス(G), ナビゲーション(N),コントロール(C)の 3 要素を示 している.スーパーバイザが G に相当しており,GPS 電波が正常に取得できる GPS/INS 航法か,GPS 電波が 正常に取得できない環境下でのビジュアル SLAM 航法 かを判断したり,飛行中に遭遇するあらゆる事象に関し て的確な環境認識と瞬時の判断をしながら,必要に応 じて制御系の構造を変えたり実時間目標軌道を生成し ながらミッションを完璧に遂行していく.異常診断解析 (FTA)は実時間同定モデルと理想モデルの誤差から何 が起こっているかを推定する.このように飛行中に飛行 モデルのシステム同定と理想モデルとの差分をとりその 誤差が許容範囲かどうかで健康チェックを行っていく. これらはすべてスーパーバイザであるガイダンス G の 役目となる.危機管理もあらかじめ危機の遭遇を学習し ており,その危険度との照合でミッション遂行か否かを 判断する.飛行中トラブルにはさまざまな事象があるが, これらの異常時におけるアラート信号がどのように発せ られるかは十分に事前学習済みである.特段の異常が無 ければナビゲーションのビジョンセンサなどで三次元環 境を高精度で認識しながら目的地までたどり着くことに なる.機体は飛行中に気象が急変したり,突風が襲った りすることが考えられるが,そのつど,制御系構造を可 変にしながら通常は効率第一に,予期せぬ外乱などには 絶対安定性を第一に考えて目的地まで飛行する. 以上述べたように,2020 年代にはドローン自律性が クラス A となって,都市部上空を数百機,数千機のドロー ンが飛び交う時代が間違いなく到来するであろう.
◇ 参 考 文 献 ◇
[ATCL] 【2018 年最新】ドローンの「空の産業革命に向けたロー ド マ ッ プ 2018」 に つ い て,https://atcl-dsj.com/ work/2437/(2018) [野波 94] 野波健蔵 ほか:スライディングモード制御─非線形ロバ スト制御の設計理論─,コロナ社(1994)[Nonami 10] Nonami, K., et al.: Autonomous Flying Robot, Springer(2010) [野波 18] 野波健蔵:ドローン産業応用のすべて,オーム社(2018) [テネケス 99] ヘンク・テネケス 著,高橋健次 訳:鳥と飛行機ど こがちがうか,草思社(1999) 2019年 2 月 5 日 受理 図 14 スーパーバイザによる自律性クラス A の鳥のように飛行する技術 [野波 18]