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「馬」の字音について

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Academic year: 2021

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(1)「馬」の 字 音 に つ い て 諄. 沢. 1。. 治. 郎. は じめ に. 「 馬」 とい う漢字 は,字 音 で「 バ」或 は「 マ」 ,訓 で「 うま」 と読 む こ と は誰 に もす ぐ浮かん で くるので あるが ,そ れ な ら「 馬道」 (メ ドウ)。 「 駿 馬」 (ジ ュン メ)な どの (メ )は ど こか ら来 たのか とい う疑 間を起 し直 ぐ字 典 を開 いて見 ると,漢 音 (バ )・ 呉音 (メ )と 出て居 り,字 典 によ っては (マ ) とい う音 を全然黙殺 した り,或 は例 の慣用音 とか通 音 とか云 う こ とに して片 付 けてい るのを見 て ,何 とも腑 に落 ちかね る感 じが した。 嘗 て私 は昭和 の初 め 頃 に「 馬」. (う. ま)の 方音 の分布状況 を知 ろ うと思 っ. て 日本全 国 の主 な る所 に 100通 ほ どの ア ン ケー トを発 して見 た と ころ,海 岸 寄 りの地方 は概 して 〔uma))で あ り,奥 地 の方 は ((mma))と 発音 して い ると い う大 ざっぱな結果 を得 た こ とを記憶 して い る。何れ に しろ馬 の実物 は大陸 か ら移入 した もの と聞及 んで い るので ((mmaDと い う発音 は今 の 中 国 語 の αmttDと い うの と 深 い 関係 の ある ものに 違 い な い と 考 え ていた。 所 がそ の (マ. )と い う字音 が漢音 で も呉音 で もな い として 冷 遇 せ られて い るのを見 る. と, 日本 にお ける漢字音 とい うものの取扱 われ方 は一 体 ど うな ってい るのか と一応 の考察 を加 えて見 た くな る。 これを世 にい う無用 な穿撃癖 とと られ る こ とを恐れ るが ,そ れ よ りも自分 の専 攻す る字音史 の 中 の一 つの重要 な課題 として恰 も潮 流 の方 向を探知す るために, 1本 のサイダーの空瓶 に紙片を封 入 して海 中へ 投 ず るに似 た気持 で ,手 の及 ぶ 限 り この「 馬」 1字 の字音 の動 きを追及 して見 たい と思 うので ある。. 2.現. 代 の辞 書. いつ もや る手順 に従 って ,ま ず基礎的作業 として ,現 代 に活用 せ られて い.

(2) 52. 「馬」の字音について. る日本 の辞書 (字 書)類 の幾つかに「馬」 の字音 がど う示 されているかを検 す る ことにする。そして又 ,ど うせの序 でに比較対照の意 味 にもなれか しと 「 馬」字 と最 も縁 の近 い「麻」 の字音を も併せて調べて見 る ことにする。 1). ○大 字 典 (上 田・岡田・飯島・栄 田・飯 田) 〔馬〕 ①漢音 (バ ). 呉音. ) (バ ). 呉音. ②漢音 〔麻〕. 漢音. (ボ. 呉音. ) (上 (″ (ム ) (平 (マ ). (メ. 声 0馬 韻) ・慶韻) 声 0麻 韻). 〇小柳漢和 (新 修漢和大字典). ② ″. ) (ボ ). ③通音. (バ ・ メ). 〔馬〕 ①漢音. 〔 麻〕. 呉音. (バ. ④慣用音. (マ. 漢音. ). (バ. 〃. ) (上 声 0馬 韻 (上 声 (ム ) (メ. ). ). ). 呉音. (マ. 呉音. (メ. ). (平 声. ). ○詳解漢和 (服 部・小柳) ②漢音. ) (ボ ). ③通音. (バ ・ メ). 〔馬〕 ①漢音. (バ. ④慣用音 〔 麻〕 ①漢音 ②通音 ○字. 源. (バ. 呉音. (マ. 呉音. (メ. ). ). ). ). (莫 加切・平声. ). (マ ). (簡 野). ②漢音. ) (ボ ). ③通音. (バ ・ メ・マ). 馬〕 ①漢音 〔. 〔麻〕. (マ. 呉音. ) (莫 下切・上声 (満 補切・上声) (ム ). (バ. 呉音. ) (上 声 (ム ) (上 声. ). ). 漢 ・呉 (マ ). ○新 字 鑑 (塩 谷) 〔馬〕 ①漢音 (バ ). 呉音 (メ ). (上. 声). 1)韻 鏡 において は麻 と馬 とは共 に第29転 の 明母 に属 してい る。.

(3) 三 ② 漢音 (ボ ). 呉 音 (ム. 〔麻〕 ①漢音 (バ ) ②通音. (マ. 53. 沢 諄 治 郎. ). (上. 声). 呉音 (マ ). ). ○大 明 解 (長 沢) 〔馬〕 〔麻〕. (音 )(バ 0マ (音 )(マ ). 0メ. )≪ 漢音 ・呉音を示 さず≫. ○角川中辞典 (貝 塚 ・藤野・小野) 〔馬〕 ①漢音 (バ ). 呉音. (メ. ). (上. 声). ②唐音 (マ ) 〔麻〕. 慣用音. (マ. ). (麻. 韻). ○大 漢 和 (諸 橋) 〔馬〕 ①漢音 (バ ). 呉音. ) (バ ). 呉音. ②漢音 〔麻〕 ①漢音. (ボ. 慣用音 (マ ). 呉音. (麻. ) (集 (モ ) (集 (メ ) (″ (メ. 韻,母 下切) 韻,満 補切). ,誤 加切). 衣・麻布・麻紙 0麻 姑). 以上を綜合 して見 ると漢字辞書 では「 馬」 の字音 とし て 漢 音 (バ )呉 音 (メ ),も う一 つ の漢音 (ボ )呉 音 (ム )と するのが圧倒的で ある。 (バ ・ メ〉 の字音 は別 に驚 くことではないが,別 音 の. (ボ. ・ム)(或 はモ)は ま ことに. 意外なもので殆 どその用例を耳にした ことは無 い。然 し,現 代辞書 の大勢が これを掲 げてい るところを見 ると必ずや確たる拠 り所があるので あろう。 こ れについては今少 し先へ行 ってか ら再考す る ことにしよ う。 「 馬」字 に. (マ. )の 音をとり上げた辞書は「 小柳」「 詳解」 (こ れ も小柳氏. 担当)「 字源」「角川」だけであるのも問題 となろう。更に国語辞書 の 2種 を参考 として加えてお く。 ○新 言 海 (大 槻) ① (バ ) ② ③. ) (マ ) (メ. 馬場・馬術・馬車・天馬 0奔 馬・馬借・馬頭観音。 馬頭牛頭・馬鳴菩薩・馬道・駿馬・神馬・龍馬 。主馬寮。 左馬頭 0天 馬・伝馬船。.

(4) 54. 「馬」の字音について. ○広 辞 苑 (新 村 ) “ 新言海 "と 殆 ど同 じ。 〔麻〕 (マ )に つい ての別音 は見 え ぬか ら省略す る。. 3。. 日本 の 古 い 辞 書. 現代辞書 の概況 を知 ったので今度 はさか のぼ って 日本 の 古 い辞書 (字 書 ) の類 は ど うな ってい るかを検 しよ う。. O新 撰字鏡. (平 安 前期 ). 〔馬〕 莫加 ・ 麻把 二 反 ,上 声。 〔麻〕 莫可反 ,平 声。 上 の反切 では「 馬」 は (バ )と も (メ )と も或 は (マ )と も判 ぜ られ るが. ,. 何れ に して も「 馬 ・ 麻」両音 の間 に深 い 関連性 の ある こ とだけは知 られ る。. O倭. 名 抄 (平 安 前期 ). 〔馬〕 四声字苑 ,麻 之上声。 ▲雨雅注「 牛ヒ馬」和名 (米 万 )。 〔麻〕 音磨。 これ に も「 馬 ・ 麻」両字 の字音 の近 い こ とが示 されて い る。但 し,牛ヒ馬 を (メ. マ)と すれ ば馬を (マ )と 読 んだ のか 或 は (メ ウマ)の 省略 なのか明. らか でない。 ○法 華経単字 (平 安末期 ) 〔馬〕 (メ )万 価 (切 )。. 〔麻〕 (マ )元 加 (切 )。. この書 の字音 は概 して “ 呉 音 "と 称 せ られ る ものが多 く,反 切語 の「 価」 は漢音 (力 )呉 音 (ケ )と 解 せ られ る。 ○衆分韻略 (鎌 倉期 ) 〔馬〕 馬牛 (ハ ー ). 鸞 これ はパ の表記 で ある≫. 〔麻〕 麻 (マ ) ○ 法花音 義 (吉 野時代 ) 〔馬〕 馬 (メ ) 〔麻〕 麻 (マ ). ▲価 (ケ ). 家 (ケ )牙. (ケ )の 例 がある。.

(5) 55. 三 沢 諄 治郎. 0温 故 知新書. (室 町・ 文 明頃). 〔馬〕 馬遠 (ハ エ ン)馬 商 (ハ リン)馬 上蓋 (ハ ン ャウナ ン) 白馬節会 (ハ クハ ノセチ エ). 馬嫁 (ハ カ)。. 〔麻〕 麻面 (ハ メ ン) ○ 運歩色葉集 (室 町 ,天 文 頃) 〔馬〕 馬形 (バ ギ ャウ)馬 面 (バ メン)馬 借 (バ ン ャク) 馬蹄 (バ テ イ)▲ 馬借 (マ ガン) その他 の節用集 (堺 本 ・鰻頭屋本 ・ 易林本. 0.乾 本等. )は 殆 ど運歩 色葉集 と. 同趣 なので ここに は省略す る。. O書 言字考節用集. (江 戸 ,享 保 頃 ). 〔馬〕 馬刀鷹 (バ ー ) 馬場 (バ バ ). 白馬 (ハ クバ). 右馬飼 (ウ バ カ ヒ). ▲ 馬頭 (メ ゾ)馬 刀蛤 (マ テー ). 〔麻〕 麻木 (マ ー ) これ らによれ ば「 馬」 の漢音 (バ )呉 音 (メ ),時 に (マ )と も読み ,「 麻」 は大抵 (マ ),時 に (バ )と も読 む点 で各書 にあま り差 はな い。 江 戸 時代 にな る と漢 字音 の特別 な研 究 が盛ん にな って ,音 韻書 の研 究 と共 に中華 の正 音 に頼 ろ うとす る態度 が著 し くな り,そ の点 で平安 時代 の「 新撰 字鏡」 や「 倭名抄」 の昔 に復帰 した状 態 とな った。平安 時代 のは字音 を示す の に反切 を以て して い るので ,仮 名 のよ うに音価を明 らか にす る こ とが 出来 な いだ けで ある。 さて ,江 戸 時代 の韻学者 の示 した と ころを掲 げ ると. ,. O正 字類音集覧. (釈 契沖 ,元 禄頃). 〔馬〕 唐音 (マ ア)。 〔麻〕 唐音 (マ ア)。 これ は当時の中国 の実 際音馬 〔m差 ))を 写 した もので あろ う。 ○ 三 音 正調 (釈 文雄 ,明 暦頃 ) 呉音 〔麻〕 (メ )〔 馬〕 (メ )。. O磨 光韻鏡. (釈 文雄 ). (マ. )ト ス /L/ハ 非 ナ リ。.

(6) 「馬」の字音について. 5δ. 〔馬〕 漢音 (バ )莫 下切 ,呉 音 (メ )莫 下切。 〔麻〕 漢音 (バ )莫 霞 切 ,呉 音 (メ )莫 霞切。 ○ 漢呉音 図 (太 田全斎 ,文 化 頃) 〔馬〕 漢音 (ビ ヤ >バ ),呉 音. (ミ. ヤ >メ. )。. 左 は拗音 ,右 は直音 で ある。 (ビ ヤ)か ら (バ )と な るな ら,(ミ ヤ)か らは (マ )と な る筈 と思 うが不審で ある。 この外 ,漢 ・ 呉音以外 の場所 に (マ )を 掲記 して い る。. これ も序 で に後世 なが ら同系 の韻 図を示す と. ,. ○隋唐音 図 (大 矢透 ,大 正 頃) 〔馬〕 漢音 (バ ),. 呉音 (マ )。. 〔麻〕 漢音 (バ ),. 呉音 (マ )。. 大矢博士 のは詳 しい説明 が な いので 明 らかで な いが ,そ の字音 は我 国 に行 われ た 中古 の経文 に附 された ものに依 る 由で ある。馬 の呉音 に (メ )を 採 ら ず (マ )と した所 は特 に注 目せ られねばな らな い。. 4。. 漢 土 の 韻 書 と方 言. 日本 の 中古 の学者 や近世 の韻学家 た ちが拠 って以 て絶大 の規範 とした漢土 の 韻書 の類 は ど うで あろ うか ,試 み に,字 音 を綜 合的 に示 した もの として隋 唐 以来 の 韻書を開 いて見 よ う。 ○切. 韻 (王 三 を とる)(唐 の神龍 頃 , 8世 紀初 ). 〔馬〕 莫下反。. 〔麻〕 莫霞反。. 前 に も述 べ たが ,こ の二 反切 は同音 で あ る こ とを示 して は い る,然 し莫 に は (バ ク)(マ ク), 下 には (力 )(ゲ )の 両音 が あるので , 莫 0霞 ・下 に対 す る唐 代音価 の決 め次第 で (バ )と も (マ )と も (メ )と もな る。 ○説文象 韻譜 (五 代 ) 〔馬〕 莫下反。. 〔麻〕 莫週反。. ○広. 韻 (北 宋 )=「 切韻」 と同 じ。. ○集. 韻 (北 宋 ).

(7) 三. 〔馬〕 母下切。. 沢. 57. 諄 治 郎. 〔麻〕 謀迦切。. この両切 も同一 音価 を生 じて判別 し難 い こ とは「 切韻 Jの 場合 と同 じで あ る。 上 に挙 げた韻書類 の反切 は中古の読 書音 と呼 ばれ る もので ,実 質的 には必 ず しも隋唐宋 の 当代音 を正 し く表 わ した もので はな い。 当時 の実際音を知 る こ とは容易 で な く,随 って 日本 に伝来 した これ らの字音 の実際音価 を探 る仕 :事. も非 常 に困難 な ものでは あるが ,少 な くとも唐代首都 の実際音 と思 われ る. もの を示す一 二 の特例 が無 いで もな い。 その一 つ は,唐 代 の長安方言を示す といわれ る )○. 慧琳 一 切経音 義 (唐 ) で ある。 これ によれば. ,. 〔馬〕 麻把反。 〔麻〕 麦 巴反 ・ 馬 巴反 ・ 罵巴反。 で ,馬 と麻 とが相互反 にな って い るか ら,こ の二 字 が (ア ク セン トを除外 すれ ば)全 く同音 とい ってよ い こ とを語 って居 り,恐 ら く (バ )(マ )の 両音 の うち の何れかを示す ので あろ うと思惟 せ られ る。 今 一 つ は,唐 代 に西蔵 (吐 蕃 )と の会盟 が行 われた記念 碑 ,有 名 な ○ 唐蕃会盟碑 (823年 立 碑 ,唐 ,長 慶 3年 ) の 中 の人 名音訳 の文字 で ,こ の碑 の外 に,敦 建 出土「 千字文 ・ 金岡1経 。阿 弥陀経 。大乗 中宗見解」を合せ て所謂『唐 五 代西北方音』 の示 す 音 で あ る。 これ らには馬 字 ・ 麻字 は直接 に示 され ていない けれ ども,韻 の方か ら 考 えれば. ,. 〔下〕=馬 と同母韻 で ある “ 下 "が 千字文 で は チ ベ ッ ト音 〔ha))に 当て られ て い る。. kaDに 当てられ 〔嘉〕=麻 と同母韻である “ 嘉"が 千字文ではチベ ット音 〔 ている。即ち何れも母韻は (← aDで ある。又,頭 音の側か ら見れば,「 唇 音の清濁音」即ち「明母」 は二種 に分かれ. ,. )明 ((meiD “. 明 ((myeD (千 字文).

(8) 58. 「馬」の字音について. い)武 ((bu))(会 盟碑 ). │⇒. (大. 乗 中宗見解 ). 摩 (('baD. 漠 (('bag)) (千 字文 ). 門 ((mOn)). 門 (('bun)) (千 字文 ). 文 ((mun)). 文 ((bin)) (会 盟碑 ). 即 ち 1/f)は 音節 の終 りに ((nOmOng))な どの尾韻 の ある もの ,こ れ はチ ベ ッ ト音 で ((b―. ((m― ))を 頭音 とし,伸 )は. ))(('b― ))を. 尾韻 のない音節 で ,こ れ は チベ ッ ト音 の. 頭音 とす る。 1対 尾韻 の ある「 門・ 文」 の如 きは イ)伸 )双 方. の特色 を兼 ねて い る所 か ら見 ると,こ の形 は中間過渡的 な姿 で ある こ とが 知 られ る。 以上 の こ とを 日本 の漢字音 の頭 で解釈 して見 ると,唐・五 代 の 頃 の 長安 地方 の方言 の うち「 唇音 の清濁音」 は マ行 に発 音 す る もの とバ行 に発 音す る もの との二 種類 が あ った とい うこ とにな る。 殊 に 伸)の 方 の「 摩 ・ 漠」 はチ ベ ッ ト音. (('b―. ゆ るい声 立 て "1)と 云 われ る もの ))に 当 り, これ は 〔b― ))音 節 の “. と思 われ ,〔 b― ))の 前 に唇 を閉 じてゆ っ くり ((b))を 発音す る もの と理 解 せ ら れ る。 (下 記 の羅氏解 説参看 )。 して見 れば「 唇音 の清濁音」 は魏晉南北 朝 まで は ((ma))で あ った のが次第 に二 つ に分かれ ((ma))と ((mbaDと な り,更 に ((mbaDの αm))が 消 えて. ((ba)). 非鼻音化 "と い う表現 を せ とな った と考 え られ る。 この現 象 を水谷教授 は “ られ ,こ の現象 は早 く隋唐 の 頃 か ら訳経 の面 にあ らわれ てい る こ とを発表 せ. D られた。 この「唇音 の清濁音 Jの 語頭 につい て現代 の各地方音 を観 ると. ,. ゴヒ京 音. (麻 )〔 ml)) (馬 )〔 m益. 江 南 音 (金 華 ). (麻. )). )〔 ma))陽 平 ,(馬 )((ma))陰 上。. アモ イ音 (麻 )((ma))((bba))陽 平 ,(馬 )((ma))((bbe))上 声。 広 州ヽ音 (麻 )〔 ma))陽 平 ,(馬 )((ma))陽 上。. 1)研 究社 “世界言語概説"下 巻,p。 960,「 ゅるい声立て」(gradual beginning)。 2)水 谷真成 “唐代 における中国語語頭鼻音 の Denasalization進 行過程 "(東 洋学 ) 報,第 39巻 第 4号 。.

(9) 三. で あ り,ア モ イ音 には (バ )(マ. 沢. 59. 諄 治 郎. )の 二 音 が見 られ る外 ,馬. ((bbe))と い う音. も見 え る。 これ は 日本呉音 の (メ )に 近 い もので あろ う。 嘗 て は Karlgren氏 が調査 し,後 に又 ,羅 常培氏 がその『唐 五 代西北方音 』 の 中 に も用 いた方音表 を見 ると. ,. 山 西 省. 文水. ″. 興県. 〔mb― )) mb― 》. “ れ らについ て 同書 の 中 に羅氏 は次 のよ うに解説 して とい う語頭音 が あ り,こ い る。 (中 文 を今拙訳す る。) ○「 明 ・泥 ・疑 三 母 の読法」前 に 引用 した 4種 のチベ ッ ト音 の 中 で ,お よそ (← n))収 声 の附か な い ものは皆 にb))と 対応 し,泥 母 ― 字 の (← m))或 は 〔 n))収 声 の附か ない ものは皆 (('d))と 対応 し,而 して疑. 明母字 の. (←. n))或 は. 母字 は収声を論ぜ ず いか な る もので も一 律 に凡 て (('g))に 変ず る。 この類 の声母 の変読 は,思 うに唐五代西北方音 の一 種 の特徴 で あ った と考 え ざる を得 な い。私 は前文 に於 いて ,こ の. (('b))α 'dDに g))の. 前方 に在 る. rD符. 号 は,鼻 音成素 を合有 した もので ある こ とを既 に証 明 し,こ れ に因 って. ,. この三 母 の読音 は,現 代 の文水 ・ 興県 ・ 平陽 の αmb))andD(og))に 近 い も の に違 い な い と悟 る こ とがで きた。われわれが従来所有 して来 た方言資料 の 中 で ,前 に挙 げ た と ころの三 つ の 山西方言以外 の陳西 ・ 甘粛 の方言 には そのよ うな佐証 は見 当 らな い。最近 ,自 済洲先生 が陳西 へ赴 いて調査を行 われ たが,陳 北の安塞 ・ 延 川 ・ 清 澗 ・呉堡 ・ 緩徳 ・ 米脂 な どに於 いて も. ,. やは り類似 の読法 がある。 これ は即 ち唐五代 の 沙州附近 の方音か ら一脈 相 伝 え来 った もので ある。 もし,わ れわれ が,他 日,現 代 の西北方音 をば全面 的 に精細 に調査す る こ とを得 たな らば ,思 うに,敦 建 か ら東 へ ,長 城 の 内 側 に沿 うて ,必 ず や この種 の声音 の変転 に対 し一条 の手 がか りを さ ぐり出 1) す こ とがで きるで あろ う。. 1)羅 常培. “唐 五 代西北方音 "p.142-3。. は ((ng))に 当 る。. 三 沢 云 ,収 声 とは尾 韻 の こ と,又. ((n)).

(10) 「馬」の字音について 周 秦漢 の古 音. 5。. 唐代か ら更 にさかのぼって上代 の古音を探 るべ く,高 畑彦次郎 博 士 の 著 『周秦漢三代 の古紐研究』を繕 くと. ,. 〔馬〕 (上 代音)((m差 〔麻〕. (. )). )((maD. 〃. 〔 摩〕 (上 代音)((mwa)). と見え,古 紐即ち上代 の頭音は,明 母字即 ち「 唇音 の清濁音」 では,お しな べ て 〔m― Dと 推定 している。 次 に,時 代は少 し降るが,漢 晋代 の訳経音を満田博士 の『支那音韻断』 に よ って明母 に属するものを拾 うと. ,. 目 αmogD. 莫. ((maD. 摩 ((ma)). 文 αmuD. 昧 〔ma)). とあ り肝腎 の馬 ・麻その ものは見えぬが,今 対照 の為 めに並母即 ち「 唇音 の 濁音」を拾 うと. ,. 毘 〔bi)). 頻. ((宙 )). と何れ も相当に頻用せ られ,〔 b》 は重唇音,((vDは 軽唇音 で あるが「 清濁音」 1) の ((m))と 載然 たる差 がある ことを示 している。. 以上 さまざまな事柄を乱雑 に並 べたが,今 姑 く時代順 に整理 して卑見を述 べ て見 ると. ,. (J中 国上代 (漢 晋代)に おける「 馬」 の字音は ((maDで あったろう。 (aこ. の音 は早 くか ら日本に伝え られた ことと考え られ る。. (0六 朝 においては,こ の ((maDと い う字音は政治文化 の中心地の移動 によ り ,. 自然 に北方を去 って南方江南地方 に移 り,南 方 の上音 とは別に,古 典音 と して文化の流動 の中に根強 い命脈を保 ちつづ けたことと察せ られる。 この 頃 の明母 がやは り〔m― Dで あった ことは前記満 田博士 の南北朝時代訳経音 に明 らかに示 されている。. (4-方 ,北 方. (黄 河を中心 とす る地方)で. は,そ の地方 の土音を主軸 とする. 字音 の変動が行われ,隋 唐 になると,政 治・文化 の中心地の北方復帰にと. 5)藤 堂 明保博士 の “漢字 の語源 研究 "に も上古音 と して 馬 ((mag))を 収 めてい る。 (p。. 45).

(11) 三. 沢. 61. 諄 治 郎. もない,新 音 と旧音 との混合現象 が生 じ,こ れの整理作業が行われたが. ,. 実用 の面 では北方独 自の転音 が生 じ,明 母 にも um― Dと ((mb_))と の二 態 ゆるい声立て"に 類 した発音癖 に近 が生 じた。αmb― D音 はチベ ッ ト音 の “ い. (励. 。. 日本 の学僧 た ちで唐代 に彼地 に留学 した 者 は 明母 の新音 ((mb― ))を 習得 し て これを当代 の正 音 として持 ち帰 った。. )と して移入 せ られ ,学 僧 や儒 者 た ちは これを “ 漢音 "と 称 して正音 と受取 り, 従来 の ((ma))(マ )を 却 って. (oそ の新音 は即 ち 日本 へ「 馬」((ba))(バ. 俗音 と見 た。 (η. その頃 は馬 と同頭音 の「 麻 ・ 摩」も漢音 (バ )と して受入れ られ た風 で あ る。. (0然 し,馬 (バ )と い う音 は,公 式 の官用語 や儒 者 た ちの間 にのみ用 い られ たので ,後 に述 べ るよ うな理 由 によ り,(マ )が 根強 く生 き残 り,学 者 た ち も (マ )を 無視す る こ とが 出来 な くな り,(マ )と (バ )と が共 に力 を 競 って「 マ系」 と「 バ 系」 との二 様 の読 み方 が行 われ ,「 天馬」 (テ ンマ) 0バ )両 様 によむ こ とも行 われ た。 (テ ンバ)の 如 く同一語で (マ (9そ れ と共 に,こ れ もまた 後 に述 べ ると ころの (メ. )と い う音 が仏経 と共 に. 伝来 し,結 局 (バ 。マ・ メ)と い う三 音 が対 立 した。 COた だ し,麻 字 は (バ )よ りも (マ )の 方 の勢力 が強 く (マ )と よむ場 合 が. 圧 倒的 で あ った。 (lD他 面. ,(マ )は 伝来 が古 いため 日本 に土 着 し和語 と同 じよ うに見 られ るに. 至 った。 それ は「 馬」. (う. ま)と い う動物 その ものが「 ま」 とい う名称 と. 共 に 日本 の もの とな って しま ったか らで ある。 (10動. 物 の「 馬」 を「 うま」「 む ま」「 ま」 と呼 ぶ こ とにつ いて は次項 におい. て考 えた い。. 6。. (マ )と. 馬 の 伝 来. い う字音を考える上 において,動 物 としての馬その ものが何時頃. 何処か ら伝え られた もので あるかを一応調 べて見 る必要 がある。馬 の伝来 に.

(12) 62. 「′ 馬」の字音について. つ いては既 にそれ ぞれ の専門的研究 がある こ とと思 うけれ ど も,こ こに はそ れ の詳細 な叙 述を援 く必要 はない。従来 の 諸説 の帰結 を簡単 に知れ ばよいの で ,主 として『 日本歴史大辞典』 の馬 の項 か ら大略を引用 させて貰 うこ とに す る。 (J“. 魏 志倭人伝 "に は「 その地 には牛馬虎 豹羊 鵠無 し」 とあるが ,考 古学的 に. は縄文 式遺跡 か ら馬歯が 出土 して い るので 日本 に も,古 くは野生馬 が棲 息 して いた こ とがわか るとい う。 鬱)然 し,次 の弥生式文化期 には馬関係 の検 出物 が極 めて乏 しい とい うか ら. ,. 野生馬 も追 々絶 えか けたのか も知れ な い。 6)次 いで ,古 墳 時代 には,概 略的 にい うと,馬 具 ・ 埴輪馬 ・ 壁面絵画 ・ 石馬. な どが多いが ,古 墳 時代 の 中期 には数少 ないその馬具 の殆 ん どが大陸か ら の輸入 品 で ある こ とと,中 期末以 後 には馬具 の 副葬 品が多 い,云 々。 以上 の事か ら考 え る と,野 馬 の 時代 と大陸か らの輸入馬 の 時代 とがあ った らし く,宮 崎県 の原野 には今 日に於 いて も野生馬が居 るそ うで ,専 門家 の 話 ではン ベ リヤ大陸か ら陸 つづ きの時代 に入 って来 て 内地 に も野馬 が棲 息 して いたの だ とい う。 に)日 本書紀 ,神 代 の巻 の一 書 には,保 食神. (う. け もちのかみ)の 屍体 か ら牛. 馬 が 化生 した とい う神話 が記載 され てい るが ,そ れ は野馬 が人 間 の生活圏 の 中 に入 りこん だ時代 を表現 した もので あろ う。 (5)進. んで ,雄 客 ・皇極 0天 武紀 にな ると,馬 が被 や神祭 に用 い られた例 が 多. い とい う こ とで ,そ れ は馬 が追 々人 間 の 日常生活 に無 くて な らぬ もの とな る過渡 的な状態 で あ った ろ う。 161又. ,古 く,応 神紀以来朝鮮 を介 して馬 の輸入 と馬 飼育 の技術 の導入 とが行. われ ,馬 は牧 によ る育成 と共 に大陸 や半 島か ら良馬 の輸入 が 要求 せ られ た こ と│ま 馬具 の輸入 と相待 って騎乗用 の良馬 を物語 って居 よ う。 に)そ れ以 後 の 時代 には馬飼育 の専 門家 が帰化 し,馬 が駅 馬 ・ 伝馬 として交通 機 関 に用 い られ ,更 に軍 用 として重視 せ られ ,馬 飼育 が奨 励 せ られ ,平 安 初 め には馬寮 が置かれ た ,云 々。.

(13) θ δ. 三 沢 諄 治 郎. 一 体 ,馬 は和 名 抄 に「 四声 字 苑 云 ,馬 南 方 火 畜 也」 とあ るか と思 うと,室. 町時代 の下学集 には北方胡地 の産 で あるが故 に「胡馬」 とい う,句 に「胡 馬 噺北風,越 鳥巣南枝」 とあるのがその証だと云 っている。然 し胡馬. (ウ. マ). の説は信 じ難 い。 さて,先 秦時代以前 の馬 の名称 が何で あったかは知 り得ないが,漢 土では 既 に漢魏以前 の上代 に於いて「 馬」字は 〔ma))で あったと推定せ られている。 (前 記高畑説)。. 朝鮮 の現代音 も((maDで ある (古 い字音は明 らかでない)。 従. って応神紀頃の馬は 日本語 の中へ manと ぃ ぅ字音 で移入 せ られたのではな かろうか。 もっとも,「 馬」字は唐“ の時代 に ((maDと (ba))と に分かれかか っ ていたので,そ の頃の一つの過渡的な姿 として ((mbaDと い う変態音節が現 代 に も 〔maD((ba))の 間 にまじって西北方音 の一つ として残 っている ことを 考え ると,唐 代か ら今 日まで 1千 年 以上 もその まま変 らず生 き残 っているの に一種 の驚きを感ずる。 ひるがえって この文 の “ はじめに"の 所 で 触れたよ うに,古 来 ,日 本 には 己があるが,「 むま」 とい う 「 馬」 に対 して「 うま」 「 むま」 とい う二様 の表言 のは「 うま」 の単 なる別体表記ではな くて,α maDに 対す る αmmaDで あっ た ろうことは今 日では既 に常識 の域 に入 っている。 この 〔mma))と い う発. uma))に して も 音 は甚 だ複雑な意味を持 っている もので, 日本語 としては 〔 αmma))に して も 2音 節の語 で ある。 これ に対 して漢土の maDは 1音 節語. ,. αmba))と い う発音 にして も中国語 としてはやは り 1音 節で “ある。 この はma)) が言葉 として 日本 に入 って来た時に日本で は これをどのよ うに受 け取 ったか が問題である。一体 ((maDと い う発音が αmba))と 変 じたのは αma)と い う 音節がゆ っくり発音せ られたが為めであ り,今 日で もこの語は上声 (第 3声 ) で あるか ら昔 の面影を残 していると云 ってよかろう。殊 に音 の初 めをゆ っく り発音す ると ((ma))の 前 に もうひとつ唇を閉 じて,じ っと待期する時間が生 じ,自 然 に ((mma)と い う音節 にな り,中 国語 としてはこれ もまた 1音 節な ので ある。そ こで ((ma))>α mmaD>“ mbaDと い う経路が想定せ られ,漢 土で は,((maD((mbaDが 存 して αmmaDが 消えたが, 日本へ は ((ma)と 〔mma)).

(14) 「′ 馬」の字音 について. 64. の形 の 時 に輸入 せ られ ,((mma))は 日本流 に 2音 節語 に変 り, 更 に 変 じ て ((uma))と な り,す っか り 日本語 と化 したが,((ma))の 方 はその まま 1音 節 の. 形 を保 ち「 馬」字 の字音 として残 ったので はなか ろ うか。少 くともそ うした 可 能性 は十分考 え られ ると思 う。 日本 の方言 として「 牝馬」 の こ とを (ダ ンマ)と 言 い,「 牡馬」 の こ とを (コ. ンマ)と い う所 が 多 い。殊 に前者 は東北地方 か ら鹿児 島・奄 美大 島 にま. で 及ん でい る。1)(ダ ンマ)は 元来 “ 駄馬 "の 義 で ,乗 用 の牡馬 に対 し運搬用 馬 の意 で ある こ とはわか るが ,(コ ンマ)の 方 は「 駒」 とい う字 が宛 て られ. ,. 乗用 の男性馬 を指 した と見 え る。 推 古女帝 の御歌 に. ,. 宇摩 な らば 日向 の古摩 太 刀 な らば呉 の まさ ひ. 2). とあるよ うに,理 想 的 な馬 として「 駒」 (コ マ)が うた い賞 め られて い る。 馬 の子 " 駒 とい う漢字 その ものは和名抄 に援 かれた王 仁熙切韻 にあるよ うに “ で あ り,和 名 として (古 万 )が 宛 て られ てい る。 当時「 馬」 が ((ma))で ある な らば “ 子馬 "は (コ マ)で あ り,又 若 し「 馬」 が ((umaDで ぁるな らば「 子 馬 」 は (コ ウマ)で あ り,((mma))で あるな らば「 子馬」 は (コ ンマ)で あろ う。若 い 203才 の牡馬 が騎乗用 として秀 れて いたのな らば,制 1馬 を (コ ンマ) と呼ぶ方言 は古 い形 を伝 え る もので はあるまいか。叉 ,「 駄馬」も ((dammaD を 示 して居 り,こ れを (ダ バ)と い う如 きは後世風 の漢音 よみ に属す る もの で ある。 但 し, ここに最 も注意 せね ばな らぬ こ とは,「 馬」字 が 日本 に伝わ った 時 にその字音 ((mma))が 日本語 として土着す る と,そ れが 日本流 には 2音 節語. maD(宇 摩 )と 表記 せ られ ,後 世 の学者 た ちによ って (マ ) ((ma))の 場合 は ((u― maDの 上略音 で あると認識せ られて しま った こ とで あ る。 で あるために. ((u―. ち ょうど, これ は 1音 節語 の「 渋」 ((SipDが 日本語 に入 って 2音 節語 の (し ぶ )と な り,同 じよ うに「 絹」 ((kien))が (き ぬ)と な り,「 菊」((kiuk))が. 1)東 条操氏. “全国方言辞典 "に 拠 る。. 2)日 本書紀,推 古紀,歌 謡。.

(15) 三 沢 (き. 諄 治 郎. δ5. く)と な ったよ うな もので , ただ違 うと ころは馬 の αmmaDが 表記 せ ら. れ る時 に 1音 節語 の (マ )と も, 2音 節語 の (ム マ)(ウ マ)と もな った こ と,こ れ は ((mm― ))と い う二 合唇音 が認識せ られ る時 の都合 で 1音 に も 2音 に も受取 られたか らで あろ う。 そ こで ,「 馬」 に (マ )音 が あ り,又 (ム マ)音 が あるとす ると,学 者 た ちは (ム マ)は 日本語 で ,(マ )は それ の略音 で あるとして処 理 したので あ る。「 渋 ・ 絹 ・ 菊」 を 日本語化 した 2音 節語 として処 理 す る こ とが妥 当 で あ る と同様 に (む ま)(う ま)を 日本語化 した音 節 として処 理 す る こ とは許 さ れ よ うが ,漢 土 か ら伝 え られた (マ )を も同 じよ うな意味 で 日本語化 した も の と見 る こ とは許 され まい。 これを (う ま・ む ま)の 略 で あるとす る時 は. ,. ど こまで も和語 の 問題 とな って ,そ れ で は字音 の埓 か ら除外 され て しま う。 若 し,こ れを漢土 の αmaDの 伝来 した もので あると見 るな らば ,ど こまで も 字音 として取扱 わ なければ な らぬ わ けで あ る。 これ に最 もよ く似 た例 は「 梅」. (う. め ・ むめ)の 場合 で あ る。 日本書紀 に. は (メ )の 仮名 として「 阿梅」 (天 )な どと用 い られて い るが ,万 葉集 には (う. め)の 表記 に (梅 )の 外 ,(宇 米 )(汗 米 )(有 米 )又 (鳥 梅 )(宇 梅 )が 多. く用 い られて い るのは,元 来「 梅」 の字音 が mme))で あ ったのを ,時 に 2 音 節 と見 て (梅 )一 字 に代 え,時 に一 音節 と見 “て (鳥 梅 )と 表記 したの で あ る。 「 馬」 の方 は,古 事記 に仮名 としての使用例 はな い が , 日本書紀 には「 阿. 1)こ れ は言 うまで もな く「 馬」 (マ )を 箇悟馬」 (赤 駒)と い う一例 が ある。 字音 と見 たのに他 な らな い。 そ こか ら見 ると万 葉集 で 宇. 馬 (馬 ). 第 14巻 3538番 。. 古宇馬 (子 馬 ) 古. 馬 (駒 ). 同. 3537番 。. 同. 33870353903542番 。. な どの使用例 が見 え るの も同様 の もの と見 るべ く,即 ち上 の場合 は「 馬」 は. 1音 節 の字音. (マ. )を 意 味す る もの に違 い な い。然 るに春登上人 の『万葉用. 1)天 智紀 の童謡。.

(16) 66. 「馬」の字音について. 万 ・ 満 ・ 末 0麻 ・摩 ・馬 "の 六 字格』 で は「 マ」 の部 に「尋音」 と標 して “ 字 を 出 し,下 に「 麻以下 三 字通音也」 と注 し,同 書凡例 に「 それが 中 に通 音 」 とある。 これ は 転音 の類 は もとよ り本音 な らねば略音 の下 にかね 載 せ つ 。 漢音 (バ )呉 音 (メ )を 正 音 とす る立場 か ら言 ってい るので ,万 葉 集 に は 「 馬」 が. (メ. )と して も用 い られ てい るので. (バ. )(メ )以 外 はす べ て正 音. な らず とい う考 に立 つ もので ある。 但 し,「 麻 ・摩」 を もそ の格 で 律 してい るのは漢音 (バ )呉 音. (メ. )を 堅持 す る もので. (マ )を 一 切認 めぬ とい う強. 硬態度 と思われ る。現 代 の『万葉集大成』 において (宇 馬 )(古 宇馬)の (馬 ) をば “ 仮 訓"と し,(宇 梅)(鳥 梅 )の (梅 )(メ. )を. “ 仮名 "と して い るの も. 通 じに くく感ぜ られ る。 これ らは恐 ら く「馬」 (マ )は 字音 にあ らず , 日本 語 化 した字訓な りと見 てい るか らで あろ う。 上 のよ うな複雑 な事情 は歴史 とい う幾重 に も重 な り合 った カーテ ン にさえ ぎ られて ,学 者 た ちの分類 の手 に余 った もの と考 え られ る。 それ故 に「 馬」 1と. に対す る (マ )音 を呉音 と見 た り,或 は慣 用音 ・通音. して食客扱 い を した. り,或 は純然 た る国語 の領分 に入 る もの として漢字音か ら除外 して しま うよ うな現状 にな ってい るので ある。. 7。. 「′ 馬」 の 男J音. さきに現 代 の辞書 を一見 した時 ,「 馬」 の字音 として (ボ )(ム. )を 挙 げた. 辞書 が相 当 にあ った。 これ は古音 として取 り上 げ たので あろ うと思 うが ,今 『集韻』 に「 満補切 ,音 姥」 (ボ )と あるのが その拠点 で あろ う。 「 満」 は 「 唇音 の清濁音」 で はあるが頭音 で は暮 ・武 ・ 晩. 0万 ・蛮 な どの一類 で ある. か ら,漢 音 として の頭音 が 〔b― ))と な るの に不思議 はない。 そ うすれば「 馬」 満補切 (ボ ),又 ,こ れ に対応 す る呉音 を割 り出す と,「 万」 (バ ン・ マン)の 格 で ((bOD対 ((mODと な る道理 で あるけれ ど も,こ の反切 の韻字「補」 は 漢 音 (ホ )呉 音 (フ )で あるか ら「 暮」 (ボ ・ ム)の 格 で 満補切 では呉音 (ム ) とな るわ けで ある。 この呉音 が実 際 に在 ったか ど うかは明 らか で な い けれ ど も,「 詩 の鄭風 ,叔 千 田」 に (野 ・ 馬 ・ 馬 0武 )と い う通押 が ある以上 (武 ).

(17) 三. 沢 諄 治 郎. 67. の呉音 (ム )と (馬 )の 呉音 (ム )と は無縁 な もので はあるまい。 同列 の字 音 │こ は,布 (ホ ・ フ)簿 (ボ ・ ブ)都. ・ ツ)奴 (ド 0ヌ )な どが ある。. (卜. 又 ,も ろ もろの辞 典 が (ム )と した 中 に大漢和 が (モ )と して居 るのは注 目 す べ きで あろ う。 漢音 の (ボ )の 生 じた経路 は αma))>((mbaD>“ ba))>((bЭ D >〔 bO))か と思 われ るので ,ひ とまず (ボ )は (バ )か らの転化 とい うこ とに. な る。 現代江南地方 の方言 に「 馬」 ((mO))と あるの も ((ma))>((mЭ ))>((mOD とい う転化系統 で あろ うと考 え られ る。 なお,飯 田博士 の『 日本 に残存 せ る中国古韻 の研究』 に依れ ば「 馬」 (ボ ) の 用例 として『無 縁雙紙』 巻一 に “ 経馬等 " 疲 馬瀬牛 "(ハ ボ ランニ)巻 五 に “ (キ. ンボテ ン)と い う読音 を 出 してい るけれ ど も,後 年 の 同氏著『 日本 に残. 存 せ る中国近世音 の研究』 によれば無縁雙紙 とい う書 は「 曹洞臨済宗用」 の 書 で , 日本 の足 利義 尚歿後 に編纂 され た もので あるとい うか ら,其 の他 の読 み方 か ら考 えて も,こ の書 に盛 られ た異 常な字音 は多分 に宋代 以後の読音 に 類 す る と認 め られ る し,右 に挙 げ た『 中国近世音 の研究』 には 同 じよ うな材 料 か ら抜 いた ものに “ 農 J亀 確軍 "“ 廷 ノ 亀等 "“ 極ッ 亀等 "“ 孫採 フ 亀1番 "“ 鳥 葛ム毛 " な ど (マ ・バ・ ボ)の 諸音 が混 じて居 り,多 分 中古 の音 の残存 か とは思 うが (ボ )に 対す る説 明 のないのが遺憾 で ある。. ただ この転音 (ボ )が 必 ず しも唐 代 あた りか ら新 し く生 じた もので な いよ うに も思 われ るのは,右 の飯 田博士 の『古韻 の研究』 の方 に次 のよ うに『 詩 経』 と『書経』 との用 例 が 挙 げ られて居 り. ,. 「 詩経 ・ 周南 ・ 漢広 三 章」 (楚 ・馬 ) 「 書経 ・五 子之歌」 (下 ・婦 ・ 予 ・ 図・馬 ) これ に依 ると「 馬」((bODと い う字音 は既 に先秦代 か ら存 した こ とにな り,少 なか らぬ昏迷 を感 じさせ られ る。 この例 は多分『江氏音学十書』 か ら得 られ た資料 か と思 うが ,今 ,顧 炎武 の『 音学 五 書』の「 詩本音」 を閲す ると,(楚 ・馬 )の 押韻 を掲 げ,馬 は「 古音莫補反 ,姥 卜同 ジ。考 フル ニ,馬 字 ,詩 ニ 凡 ソ十 四見 ,書 ニー 見 ,易 ニー見 ,左 伝 二二 見 ,楚 辞 二二 見 ス。並 ビニ今 ノ 二 十 五 馬 卜同 ジ ク,躁 ・ 瓦等 ノ字 卜混 ジテー 韻 タ リ。 」 とある。 更 に同書 の.

(18) 「馬」の字音について. 68. 「 唐 韻 正 」巻九「馬」 の項 を見 ると,上 に挙 げ た群経 の用例 を一 々掲 げた末 に「 史 記索隠1)二 ,姥 ,毛 伝 二凡 ソ馬 ハ皆読 ム コ ト姥 ノ如 ン。」 とある。 これ らを綜 合す ると,「 馬」 (バ )(ボ )の 両音 は唐 代 以後 に生れた もので はな くて先秦 か ら並 び存 した様子 で ある。 た だ,(ボ )(ム )な どは当時 の別 音 として方音 的 な地位 の ものではなか った ろ うか。. 8。. 「馬」 の 呉 音. もう一 つ「馬」 の呉音 として広 く伝 え られ る ものに (メ )が あ り, 日本 で は馬鳴菩薩 の如 く仏経 の読音 として普及 して居 るが ,馬 寮 ・ 主馬 など (バ ・ マ)音 とも並行 して普通語 の 中 に用 い られ て も居 る。 す で に (マ ・バ・ ボ) 等を考察 したの で ,(メ. )は ど うして 成 立 したかを 考 えね ばな らぬ段階 に来. た。 思 うに,現 代 アモ イ音 の 中 に稀 に「馬」 ((bbe))と い う方音 が あるだけで 古 音 典音 としては一 向 に見受 けな い所 か ら推 す と,((me》 ((bbe))は 地方的 な訂ヒ が ,や がて或 る時代 に定型化 して ,主 として南方 において 使 用 せ ら れ た の が ,時 代 と共 に消 え失せた もので あろ う。 それが古 い 時代 に仏経 の読音 とし て 日本 に渡 り,呉 音 として迎 え られた のでは あ るまいか。 この外更 に知 ると ころが彙い ` 。 元来 ((meDと い う音頭 か ら見 ると,必 ず や ((ma))か ら発 し, 途 中. uma). ((mC))と い う中間音 を経 て ((me))と な った もので あろ う。或 は古 い時代 の 中. 国音 で ((ma))を. ((mε. ))に 近 く発音 したのを 日本 の於 いて ((me))と して受 け. 取 ったのか も知れ な い。 これ は音 節受 け渡 しの時 に起 こ る音域 の 問 題 で. ,. ((ma))∼ ((mC))を αmcD∼ ((me))と して受取 る こ とは十分 に在 り得 る。 この事. は 日本 の上代 にお け る特殊仮名遣 いに も関連す る問題 だ と考 え るが ,こ こで は言及す る こ とを避 け てお く。 今 ,(マ ・バ・ メ・ ボ・ ム)の 関係を推定 して 一 つ の 系統 図を作 ると 次 の よ うに もな ろ うか。. 1)唐 の司馬貞 の音 義。.

(19) 三 沢 諄 治 郎 ) (カ ソ コ 内 の音 は用 例 未見 の もので あ る。. (中 (中. 国). 国 上 代 音). (mma)(馬 ). (日. 本). ↓ (伝 来 音 )mma一 一→ {T二 1:{ぢ ます}国 語. ↓. mba. ↓. 「. ma(古 音) mo(モ. ). 一→ (mmC)一 →me(呉 音 ). ↓. (mu)(ム )│ ―. ―. ―. 日 立 代 a ︱← m 現 国 中. ba. ͡. 一 体 ,漢 字 の性格 か ら云 って. (← a))の. →. ba(漢 音 ). 韻が α―e))の 韻 に転化す る例 は相 当. に多 い。 (勿 論 その逆 の場合 を考 え る こ ともで きる。 )今 ,若 千 の例 を挙 げ る と. ,. 力・ ク ワ>ケ ・ ゲ (家 ・下 ・ 化 ・ 瓜 ・花 ・ 価 ) ナ >セ ハ >へ. (斉) (覇 ). 夕 >テ. 力・ ガ >グ (夏 ・ 牙 ・ 雅 ) 即 ち,万 葉仮名 として. (帝 ) マ >メ (馬 ・ 米) ダ >デ (代 ). 一e))の 音 節 に使われ てい る ものが少 な くな い。 “. 9。. 漢 音 ・呉 音 の枠. さて ,以 上 た ど り来 った と ころを振返 って見 ると,ま ず その複雑 さに驚 く と共 に,こ うい う複雑 な字音 を辞書 の 中 に採 り入 れ る段 にな ると,ま こ とに 容易 な もので ない こ とを更 に痛感 せ ざるを得 な い。 これ は何 故 で あろ うかを考 えて見 る。 古来 我 国 には「 漢音」 「 呉音」 とい う厳然 た る字音 の枠 が存 在 して ,い かな る漢字音 で も原則的 に この枠 によ っ て処 理 す る こ とが長い間厳重 に行 われて来 たためで あろ うと思 う。昔 ,漢 音 誦習を強制 して詔 を下 された こ とさえあ ったそれ程 に,国 語 に対す る政 策 め.

(20) 「′ 馬」の字音について. 7θ. いた ものが 活動 し,儒 者 は漢上 の古音 を数 多 く知 る こ とに腐心 し,何 れを正 とし何れを俗 とす るかは先 学 の教 によ って長 い伝統 が あ り,仏 経 は仏経 で. ,. 伝 誦 の 間 に これ また師資 相 承 して一歩 もゆ るがせ にせ ぬ趣 が あ った。 それ に も拘 らず字音 は 時 と所 とを換 え るに従 って変貌 をや め ず ,一 方 に新音 が あ らわれ ると,一 方 に死 滅す る字音 が あ り,伝 統 の力 で も抑 え切 れぬ所 が生 ず るのは,各 方面何事 で も同様 で あ るわけだか ら,こ れ らの複雑 な字音 群 の処 理 には悲鳴 を上 げ ざるを得 なか ったのだ と思 う。 それ故 ,現 代 の辞典 にお け る漢字音表記 の態度 は,た だ有 らん限 りの古典 音 を並 べ立 て るの で はな くて ,自 然 に何 らかの決定 が行 われ. (A)漢 (B)中 (C)日 (D)漢. ,. 音 ・呉音 だけを正音 として示 す。 国 の字典 に依拠 して古音 を も広 くと り上 げ る。 本 において現代実際使われ てい る字音 のみを と り上 げ る。 音 0呉 音以外 の もの を「 通音」 「慣 用音」 として収 め る。. と云 ったよ うな数種 の態度 が生 ず るので あ る。 而 して ,漢 音 ・ 呉音 を必 ず示す とい う建 前か らは相 当 に無 理 な結 果 も生 じ て 来 るわ けで ,そ の 顕著 な例 としては太 田全 斎 の「 漢呉音 図」 のよ うに強 い て 機械的 に字音 を作 り上 げ るとい う例 さえあ った。 近 時 において「 漢 ・ 呉音」 の 区別 を示 さぬ辞 典 の あ らわれたのは,そ うし た 欠点を避 けた もので はなか ろ うか。. 10。. 結. び. 殆ん ど結語を綴 る必要がな い まで に各項 で詳 し く述 べ たが ,要 す るに,辞 典 でお粗末 に扱 われた「 馬」 (マ )と い う字音 は, 中国 の上 代 か ら 現代 に至 るまで厳 として変 らぬ一 系統 で あ り,始 め 日本 は これを 〔mma))と 受 けて国 語 (む ま)(う ま)を 生んだが ,字 音 として定 着 した ((ma))は 決 して消 えた もので はな く,例 えば馬屋 (マ や)馬 淵 (マ ぶ ち)馬 放 (マ はな し)な どの 語 初 の (マ )を. (う. ま)の 略 (広 辞苑 )と す るの には軽 々 し くは賛成 しがた. い 。 それでは一 方 に漢和辞典類 の「慣 用音」 に (マ )を 掲 げ てい るの と矛盾.

(21) 三. 71. 沢 諄 治 郎. す る こ とに もな る。 日本書紀 や万葉集 で の用例 のよ うに,上 代 に「 馬 Jを (マ )の 音仮名 として 使 っていた こ とは何 として も動 かせ ぬ事 実 で ,語 彙 によ っては 国語 の (む ま)(う ま)の 上略 とい う用法 が あ ったか も知れ ぬが , す べ ての「 馬」 (マ ) を皆 国語音扱 いにす るのは ど うか と思 う。青梅 (ア ヲウメ)>(オ ウメ)の 梅 が国語音 の 略音 だ として も, だか らと云 って 宇梅. (う. め)の 「 梅」 (メ )を. 国語音 とす ることの妥 当 でない こ とは第 6項 で 挙例 した通 りで ある。 つ ま り「 馬」 (マ )と い う字音 が 日本 の国 内で土 着 し, やがて 三 分 して 一 は国語 の. ((m―. maDと. ,. な り,一 はそのまま字音 の ((maDと して残 ったのだ. が ,不 幸 に して ,そ の字音 に対応 す る純 日本語 が無 か ったため に (む ま・ う まは字音 か ら変化 した もの)使 用度 が 頻繁 にな ると ((ma))と. (む ま・ うま). との区別 が混乱 し,何 れが 国語 ,何 れが字音 とたやす く区別 しがた くな り. ,. 後世 ではその処 置 に困 り,或 は通音 とし,或 は慣 用音 としたので あろ うが. ,. (マ )を 思 い切 って削 って しま うのは何 として も武 断過 ぎは しな いか。 中国. で は上 古 か ら現代 まで ,北 方 も南方 も「 馬」 ((ma))で 変 らず一 貫 してい るの に,日 本 で は字音 として 〔ba))と 〔meDと しか無 く 〔ma))は これを 取 り上 げ るわ け に行 か ぬ とい うの も聞え ぬ話 だ と思 う。 さて ,そ れ な らば (マ )と い う字音 を漢音 ・ 呉音 の何れ に入 れ るべ きか と な ると,こ れ また困難 な問題 で あ る。要す るに漢音 ・ 呉音 とい う歴史的な冷 た い鉄 の枠 が こ うい う困難 を生 んだので ,も し何等か の名称 が ど うして も必 古音 "と い う名 を与 え るべ きで あろ うか。 要 で あ るのな らば “ 高) (1965.12。 12 希.

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参照

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