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わが国におけるキャリア裁判官制度と人事の客観性・透明性

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(1)わが国におけるキャリア裁判官制度と人事の客観性・透明性 重村博美*. C a r r i e rJudgeSystemi nJapan , Personne l 'sO b j e c t i v i t yandTra n s p a r e n c y HiromiSHIGEMURA. J u d i c i a l Reform C o u n c i lp o i n t e do u tn e c e s s i t yo fr e c o n s i d e r a t i o no fj u d g e ' sp e r s o n n e ls y s t e mi nt h eo p i n i o n documents u b m i t t e dt o am i n i s t r yi n2001 . Andj u d g e ' sp e r s o n n e l ' so b j e c t i v i t yi na na p p o i n t m e n tp r o c e d 町 ea n d t r a n s p a r e n c ym e n t i o n e d4r e c o n s i d e r a t i o ni t e m s.I t ' si nJ a p a n e s eJ u d g e ' ss e l e c t i o n method a s ar e a s o no ft h e r e c o n s i d e r a t i o n .TheC a r e e rJ u d g eSystemt oa p p o i n ti sc h o s e namonganewa d o p t i o np e r s o nm a i n l yi nJ a p a n .AC a r r i e r J u d g eSystemi snoproblemi ni t s e l f , b u tt h e r ei saproblemt h a tJ a p a ni sp e c u l i訂 . T h i sa r t i c l ee x a m i n e st h ep r o b l e m so f t h ej u d g es e l e c t i o ns y s t e mbyJ a p a n e s eC a r e e rS y s t e m s. Keywords:J u d i c i a lS e l e c t i o n , C a r e e rJ u d g eSystem , J u d i c i a lReformC o u n c i l, A p p o i n tP r o c e d u r e. はじめに. 亘りその研績を積むことが可能となるために、有用な制度. 2001年 6月、司法制度改革審議会は、内閣に提出し. である。しかし、わが国では、制度の存在自体が裁判官に. た意見書において「裁判官の人事制度の見直し」の必要性. 萎縮効果をもたらし、個々の裁判官の独立を脆弱にしてい. を指摘し、そのなかで、裁判官の任命手続における人事の. るとの指摘が従来からなされてきた。それは、司法行政権. 客観性・透明性など 4つの見直し項目を挙げた l。. を司る最高裁判所のみが実質的な人事権をもち、なおかっ. 日本国憲法は、裁判官選任について次のような規定を設. その人事過程が不透明であることに起因する指摘される。. i r 去曹一元」導入の議論が盛んにお. ける。まず、最高裁判所について、「長官は内閣の指名に. これが一因となって、. 基づいて天皇が任命をし、その他の裁判官は、内閣が任命. こなわれてきたことはいうまでもない 2. のうえ天皇が認証する J( 6条・ 79条 1項)、ならびに「下. 本稿は、今般の司法制度改革 3を期に、人事の客観性・. 級裁判所裁判官は、最高裁判所が指名した者の名簿により、. 透明性を目暗として設置された「下級裁判所裁判官指名諮. 80条 1項)である。そして、わが国 内閣で任命する J (. 問委員会」の議論を中心に、わが国のキャリアシステム制. では、近代裁判所制度の成立以来、主に新規法曹資格取得. 度に基づく裁判官選任の問題点について再考する。違憲立. 者(司法修習生)から裁判官を任命するキャリア裁判官制. 法審査権を有し「人権の砦」である裁判所において、その. 度(以下、キャリアシステムとする)を採用している。. 制度を実質的に運用するのは裁判官である 4。裁判官をど. キャリアシステムは、アメリカ・イギリスで採用する裁. のように選出するかの問題は、国 民の求める司法像を作り. 判官を弁護士などの法曹有資格者に求める「法曹一元 j に. 出すための第一歩である。同時に、裁判官の選出過程を示. 対置するとされる裁判官任用システムである。キャリアシ. すことは、国民に対するアカウンタビリティーを行使する. ステム自体は、両訴訟当事者の見解を客観的に判断する特. ことにも繋がる。今般の改革により、その国民の求める司. 別の法的素養を要する裁判官職を遂行する上で、長期間に. 法像にどのように影響を及ぼすのかについて指摘したい。. *近畿大学工業高等専門学校. キャリア裁判官制度. 総合システム工学科. わが国においてキャリア裁判官制度はどのようにして. F h υ. 06.

(2) 構築されたのであろうか。そして、キャリア裁判官制度の. いる。 日本国憲法では、最高裁判所を頂点として下級裁判所. 何が問題視されているのであろうか。ここでは両者につい. (高等裁判所・地方裁判所・簡易裁判所・家庭裁判所)が. て概略を示したい。. 設置され(日本国憲法 76条・裁判所法 1条)、各々裁判 官の任命方法について、次のように規定する。それによる. (1)わが国の裁判官選任方法の変遷. わが国における近代的な裁判所制度は、明治 23年の大. と、最高裁判所長官は、内閣の指名に基づいて天皇が任命. 日本帝国憲法(以下、明治憲法)ならびに裁判所構成法の. をし、その他の裁判官は、内閣が任命の上、天皇が認証す. 成立により確立をした。裁判所の構成については、これよ. 、 79条 1項)。また、下級裁判所裁 ると規定する (6条. り以前の明治 8年に、わが国最初の全国統一的な裁判所で. 判官は、最高裁判所の指名した者の名簿により、内閣で任. ある「大審院」が設置された後、明治 14年の裁判所組織. 命する ( 80条 1項)と規定をし、裁判官任命制を採用し. 改正を経て、区裁判所・地方裁判所・控訴院、大審院、そ. た。そして、最高裁判所裁判官に対しては、裁判官任命後. して行政裁判所ならびに特別裁判所が設置された。. に国民がリコールすることのできる制度として、アメリカ. しかし、これら裁判所の裁判官選任については、実際問. issouri の州で採用されている裁判官選任方法である M. 題として、検事が中核となる司法省が人事権を掌握し、政. Plan を範にして制定された「再任選挙」を実施すること. 府の影響を強く受けていたとされる。しかも、司法大臣は、. と し た (7 9条 2項) 8。. より広範な昇進の機会を供与することにより、有望な裁判. 以上を概観すると、日本国憲法下の裁判官選任過程の審. 官を司法省入りさせ、一般行政事務を担当させた。そのた. 議において、実質上、裁判官は一般官僚組織の特殊の一部. め、裁判所があたかも中央の司法省に対する地方機関とし. 分ではなく「独立した存在」であること、裁判官として真. て位置づける結果となった。司法省入りを臨む有能な裁判. に有能で成熟した法曹経験をもっ人物をもっ人物が任命. 官は、司法省寄りの判断をおこなうようになり、裁判所の. されること、などが考慮されていたといえる。そのために、. 地位が低下しただけでなく、個々の裁判官の独立をも侵す. 現行の裁判官任用は、司法修習を 2年間経た後に少なくと. 結果となった 5。. も 10年間の判事補などの経験を要すること。その身分を. とはいうものの、裁判官の選任ならびに身分保障につ い. 保障するために、在任中は給与の減額を受けないこと。最. 7年の判事登用規則ならびに明治 1 9年の裁 ては、明治 1. 高裁判所裁判官にあっては、 15人の裁判官のうち少なく. 判所官制で確立 された。まず、裁判官は、判事登用規則の. とも 10人は、裁判官・検事・弁護士または法律学の教授. 規定する法律試験に合格したもののなかから、任用するこ. としての経験を必要とすることとし、残余の 5人は、国. ととし、また、裁判所官制では、裁判官は刑事裁判または. 民・社会の感情を反映する判断をする意図をもって、法的. 懲戒手続における処罰によるものでない限り、その意に反. 素養があるものであれば任命されるとするなど、最高裁判. して退官・懲罰を受けることはないと規定された(裁判官. 所裁判官として必要な選任要件も示された。. 構成法 6条・ 7条)。そして、明治憲法 58条 2項におい ても「裁判官ハ刑法ノ 宣告又ハ懲戒処分ニ由ルノ外ソノ職. (2)わが国のキャリア裁判官制度の問題点. ヲ免ゼラルルコトナシ」と規定し、裁判官の身分保障を確 固としたものとしたに. キャリアシステムは、「法曹一元」に対置する裁判官任 用方法を示す用語である。例えば、法曹一元を採用するア. 第二次世界大戦敗戦後のわが国は、明治憲法下での諸制. メリカでは、州裁判所裁判官の選任において、原則的に、. 度が根本的に見直され、司法制度も同様であった。 GHQ. 公募制が採用されている。一般に州では、裁判官は、法曹. (連合国最高司令部)において、日本の司法制度のみなら. 資格をもっ弁護士が対象とされ、その上で市民から構成さ. ず日本国憲法の立案に助言をし、大きな影響を及ぼした人. れる裁判官指名委員会での資格審査などを通じて、選任さ. 物である A・C・オフラーは「司法部門の改革」について、. れる。そして-_e.裁判官として任命されたならば、その地. 次のように述べる 7 i 新憲法は、行政部門から司法部門を. 位は不変で給与も定額である。その反面、裁判官に就任す. 0. 分離し『司法権の独立』の法的枠組みを構築した。最高裁. る前に生じていた政治的・社会的関係性が判決に少なから. 判所は憲法の番人として、司法審査権・規則制定権を有し、. ず影響を及ぼすとされる。これらのことから「個々の裁判. 地位と権威が著しく強化されており、明治憲法下の大審院. 官の独立」は確保されるものの、「司法権の独立」の観点. と現憲法下の最高裁判所との聞に同一性は存在しない。し. からすると問題は残る。. かし、その一方で最高裁判所が『憲法の番人』として行動. これに対して、キャリアシステムは、英米以外の多くの. する場合に、内閣が持つ任命権が弱点になりうる」とも指. 国で採用されている。 一般的にみて、キャリアシステムの. 摘し、内閣が裁判所に及ぼす政治的影響力に懸念を示して. 制度自体は、一般に任期制ではないことから、裁判官とし. -86-.

(3) て必要な特別の法的素養を身につけるための十分な時間. 「法と良心のみ」であり、それ以外の判断要素(最高裁判. を確保することが可能となる有用な制度である。それは、. 所での過去の事例に対する判断)は必要ないと考えるから. 裁判官が法の専門家であり、その裁判官に法的判断を委ね. である. ることで、結果として 「 裁判所の正当性の維持 j を確保で. として「国としてのあるべき法解釈(すなわち、最高裁判. きると考えられているからである。また昇進は、基本的に. 所が判断するであろう法解釈、過去の判例)の判例の発見. 14。しかし、実際は、下級裁判所裁判官の心構え. 新規採用と位置づけられ、公募制ならびに任命権者以外の. に努力すべきであり、その法解釈を事件に適用することが. 者の関与よりおこなわれる。さらに、裁判官は、再任審査. 当然 Jだとの見解 15があるように、裁判所の内部におい. ならびに任命権者からの直接的政治的な圧力を受けるこ. て判例拘束がなされることが、前提として捉えられている。. となく判断可能となるために「個々の裁判官の独立」も確. このようなことから、わが国におけるキャリアシステムの. 保される九. 下では、下級裁判所裁判官が最高裁判所の判断に相反する. しかし、わが国の採用するキャリア裁判官制度は、日本. ことは、判断をした裁判官に対する最高裁判所からの評価. 以外のキャリアシステム導入国とは相違した明らかに日. (人事評価)が下がるだけでなく 、それを基礎にしてなさ. 本独自の問題点を苧んでいる。それは、司法行政権と司る. れる 10年毎の再任審査や転任などで不利益を被るとの. 最高裁判所のみが裁判官選任の人事権を掌握しているこ. 指摘があるのである。. とにある。特に、下級裁判所裁判官については最高裁判所. さて、この上記 2つの問題提起でも理解されるように、. 主導による 1 0年毎の再任審査があり(日本国憲法 80条. わが国のキャリア裁判官制度を最大の問題としているの. 1項)、もし審査にパスしなければ(すなわち最高裁判所. は、司法官僚制すなわち最高裁判所を頂点とする人事制度. が作成する候補者を指名する名簿に記載されなければ)再. のなかに個々の裁判官が組み込まれ、裁判官が最高裁判所. 任拒否されること、そのため個々の裁判官が様々な面で暗. に従わざるを得ない状況が生み出されていることにある。. 黙のうちに最高裁判所に従わざるを得ない状況(すなわち. しかも、最高裁判所による人事評価がどのようにおこなわ. 裁判官統制)が生じていることが指摘されてきた。このこ. れ、どのような要素が問題視されるのかが明確にされてい. とは、裁判官にとって政治的な圧力を受けないことから. ない。人事評価が最高裁判所の下級裁判所裁判官選任権に. 「司法権の独立」は確保されるものの、翻ってみると、司. 直結している以上、裁判官選任過程における可視化が求め. 法内部からの干渉を受けてしまうために、「裁判官の個々. られているのである。と同時に、わが国独特のキャリアシ. の職権の独立」を侵害すると考えられているのである。. ステムの見直しがこれまで以上にクローズアップされた. その裁判官統制の一例として「宮本判事補事件」が挙げ. のである。. 0年の任期が終了する られる。昭和 46年 4月に判事補 1. 2 人事の客観性・透明性の確保. 宮本氏が、再任を希望したのに対し、最高裁判所が「判事 として適任ではない Jとして 、最高裁判所の作成する指名. 今般の司法制度調査会は、意見書の中で「裁判官制度の. 名簿に登載をせず、再任を拒否した事件である。宮本氏が. J の課題のもとに、裁判官選任 見直し(透明性・客観性 ). 青年法律家協会の会員であったことから、政治的信条なら. 方法について議論がなされた。そこでは、当然のように明. びに思想による差別ではないかとの疑義が持たれ、大きな. 治時代より弁護士によって民主的司法の実現を目指して. 非難があがったことはいうまでもない。また、最高裁判所. 提言された「法曹一元」導入についても議論の対象とされ. が、宮本氏の求める任官拒否理由についての明らかにしな. た。しかし、審議会では、法曹一元について直接論じるこ. かったことも、その非難を一層大きくした 10。そのため、. とは避け、「給源の多様化 ・多元化 j という方向で裁判官. 日本国憲法が規定する f 1 0 年毎の再任」がどのような性. 制度を改革することを提案した。その一方策として具体化. 質をもつものか 11、あるいは実質的に任命権者となって. されたのが、「下級裁判所裁判官指名諮問委員会」である。. いる最高裁判所が個々の裁判官に求める裁判官像につい ての大きな議論が沸きあがったことはいうまでもない. 12. また、これは下級裁判官全般に関連することであるが、 「先例拘束性 J の問題も指摘される. (1) 下級裁判所裁判官指名諮問委員会 ①設置の経緯. 13。先例拘束性の問. 日本国憲法は、下級裁判所裁判官の選任について「最高. 題とは、最高裁判所の判断が後の他の同種の事件において. 裁判所の指名した者の名簿により内閣で任命する」と規定. 拘束されるかどうか、そして同種の事件において下級裁判. 8 0条 1項)。この規定において、下級裁判所の裁判 する (. 所を拘束するかの問題である。というのも、成文法主義を. 官の指名権が最高裁判所に付与されている趣旨は、一つに. 採用するわが国において、裁判官が判決の意思決定におい. 司法部の自律性・独立性を尊重することにある。しかし、. て必要とされているものは、憲法 7 6条 3項の規定に従い. 先述の「宮本判事補」事件を一つの契機に裁判官の任用手. -87-.

(4) 続の透明化を図る動きがみられた。昭和 37年から 39年. じることも予想される。このため、最高裁判所は委員会に. の聞に開催された臨時司法制度調査会では、日本弁護士連. その最終判断に関する情報提供を諮問委員会に提供し、諮. 合会が下級裁判所裁判官諮問機関の設置を要請したが、結. 問委員会での審議に活用するとされる。また、裁判官候補. 果的に受け入れられなかった 16. 者に対しても、その者の求めに応じて、最高裁判所ならび. 0. では、なぜ今回委員会の設置に至ったか 17。今般の司 法制度改革における議論で、「裁判官候補者の選定に市民. に諮問委員会の意見を明らかにすることが要請されてい るは条)。. の意見を導入し、そこに市民的基盤を確保することを基本 理念とすべき」との意見がだされた。具体的には、裁判官. (2) 最高裁判所裁判官任命諮問委員会. 人事の透明性・客観性が議論の対象との意見であったが、. では、最高裁判所裁判官選任は、今般の司法制度改革で. 最高裁判所は当初「司法権の独立」をたてに、任命委員会. はどのように変化したのであろうか。終審としての最高裁. の設置に前向きではなかったとされる。. 判所は、「判例統一」ならびに「憲法の最終的解釈者」と. しかし、平成 1 4年 3月に、最高裁判所は「司法制度改. しての役割を求められている。このような最高裁判所の役. 革推進要綱」をまとめ、諮問機関の設置に向けた所要の措. 割に鑑み、最高裁判所裁判官の選任過程を明確にすべきと. 置をおこなうと表明した。同年 6月の最高裁判所裁判官会. の議論がなされてきた。 裁判所法制定当時は、その 39条において「内閣は、. 議の一般規則制定諮問委員会では、諮問機関の設置に関す る規則制定の諮問がなされ、 1 2 月には規則要綱の答申が. 裁判官の任命をおこなうには、裁判官任命諮問委員会に諮. なされた。とはいうものの、答申に際して、規則制定をど. 問しなければならない」とする規定が存在した。事実、こ. のような形でおとなうのが望ましいのか、つまり国会が制. の規定に沿って、昭和 22年政令により「裁判官任命諮問. 定する法律の形式か、あるいは最高裁判所の内部規則とし. 委員会」が設置され、このとき選出された 1 5人の裁判官. て制定する形式かの意見が出されたことは当然といって. は、その諮問を受けて任命された(制定当時の裁判所法. よいだろう。検討の結果、諮問委員会の意見が最高裁判所. 39条 4項・ 5項)。この諮問委員会の構成は、諮問委員会. の指名権に及ぼす影響を考慮し「下級裁判所裁判官指名諮. 規定により定められ、委員は 1 5人であった。その内訳は、. 問委員会規則」として平成 1 5年 2月 26日に制定された。. 衆・参両議院議長、全国の検察官および、昭和 22年 5月 2 日に行政裁判所長官および評定官であったもののなかか. ②下級裁判所裁判官指名諮問委員会の概略. ら互選された者 4人、大学の法律学教授から内閣総理大臣. この下級裁判所裁判官指名諮問委員会(以下、諮問委員. の指名する者 2人から構成された。そして、諮問委員会は、. 会と略)は、最高裁判所に設置される機関(下級裁判所裁. 最高裁判所定数の倍(すなわち 30人)の氏名を挙げなけ. 判官指名委員会規則 1条)で、最高裁判所の諮問に応じて、. ればならない旨を定めていた 18. 0. 高等裁判所長官、判事および判事補ならびに地方裁判所裁. しかし、「必ず諮問委員会の諮問を経なければならない. 判官の指名の適否について、諮問委員会の諮問に付された. とすることは憲法上の任命権を制限することとなり、また. 任官希望者に関する情報を取り纏め、最高裁判所に「意見」. その責任を不明確にする」との考慮から、 1年後の昭和 2 3. を述べる役割をもっ ( 2条)。また、所掌事務を遂行するた. 年に削除された 19。その後も、 1975年の第 26回国会に、. め必要があると認めるときは、裁判官候補者に対して必要. いわゆる最高裁判所機構改革案のなかで、裁判所法などの. な説明を求め、意見の聴取をすることができる ( 1 0条)。そ. 一部を改正する法律案が提出されたときに提案されたが、. して、その情報を取り纏めのための下部組織として高等裁. 法案自体が不成立に終わった経緯がある。現在においても、. 判所所在地に「地域委員会」を設置し ( 1 2条)、中央で把握. 「内閣の任命権を制限する恐れ jがあることを理由のーっ. しきれない情報を地域委員会からの情報で収集する ( 1 3. として、また司法制度審議会でも統一的な意見がまとまら. 1名の委員から構成される。国 条)。諮問委員会委員は、 1. なかったとして、設置には至っていない。. 民の意見を広く聴取するという趣旨に沿って、法曹関係者. 3 検討. から 5人(裁判官 2人・検察官 1人・弁護士 2人)、学識 経験者 6人から構成される(5 ・6条)。また地域委員会 は 5人から構成される ( 1 5条 ) 。. 裁判官選任過程における透明性・客観性を目暗として設 置された下級裁判所裁判官指名諮問委員会であるが、委員. これら検討の結果まとめられた下級裁判所裁判官指名. 会における審議において法曹関係者以外の学識経験者を. 諮問委員会の意見は、最高裁判所に通知される ( 4条)。と. 入れたことは、これまでの不透明な選任過程からすると一. はいえ、最高裁判所は、その意見に拘束されるわけではな. 歩前進したといえよう。しかし、国民にとって裁判官選任. い。そのため、諮問委員会と最高裁判所との問の髄歯が生. 過程が可視化されているかといえば、なお疑問が残る。. -88-.

(5) また、裁判官に対する人事評価制度の在り方も問題とな. 足しているのではないかと考えられる。このことは、最高. る。法曹一元を採用するアメリカ合衆国では、裁判官報酬. 裁判所裁判官国民審査に対する国民の関心の低さからも. は任期中一定 20であり、転任の制度も存在しない。しか. 伺えよう。 裁判所、そしてそれを実際に運用する裁判官に対する国. し、わが国でおとなわれているキャリアシステムの下では、 「裁判官の身分保障規定」のもとで、当然給与の減額はな. 民の関心が「裁判所の正当性 Jの維持に直結する以上、国. いが、段階的に設定される。判事補に対する給与設定は、. 民に対して裁判官の選任過程の客観化・透明化をおこなう. 年齢に応じた生活保障の意味合いもあり、一般の国家公務. ことは不可欠となる。裁判官人事の透明性・客観性を標梼. 員の給与体系と関連した形式がとられているものの、判事. した下級裁判官指名諮問委員会が形骸化しないためにも、. に対しては職責などに応じて相当数の段階が設定されて. 委員会が積極的に主体性をもって運営されていくことが. いる。キャリアシステムのもとで裁判官評価が、裁判官指. 不可欠となると考える。. 名だけでなく報酬といった点にまで関連するとなれば、そ の人事評価制度の在り方・すなわちどのような項目を評価 対象とするのかが明確にされる必要があろう. 注. 21。例えば、. 司法制度審議会の目的について審議会設置法 2条 1項 は、以下のように規定していた。第一に 1 2 1世紀のわが 国社会において、司法が果たすべき役割を明らかにするこ と」、第二に「司法制度の改革と基盤の整備について調査 審議すること」の 2点である。それを具体化する形で、① 国民がより利用しやすい司法制度の実現、②国民の司法制 度への関与、③法曹の在り方とその機能の充実強化、④そ の他、の以上 4点が挙げられた。そして、平成 1 1年 7月 27日から第 1回審議が始まり、平成 1 3年 6月 1 2日の第 63固まで審議がおこなわれた。そしてその審議結果とし 3年 6月 1 2日、「最終意見書」を内閣総理大臣 て、平成 1 に提出をした。司法制度改革審議会の議事録については、 h t t p : / l w ¥ v w . k a n t e i .gO. i p l i p / s i h o u s e i d o。また、司法制度改 革の目的と理念について述べたものとして、佐藤・竹下・ 井上他著『司法制度改革~ (有斐閣、 2 002)。さらに、 1( 座 談会〕司法制度改革に何を望むか J ジュリスト 1 170号 2 頁以下 ( 2 0 0 0 ) など、司法制度改革に関する著述は多数 ある。 2法曹一元について、石田楽仁郎「法曹の在り方(問題提起) 一量的・質的整備一」近畿大学法学 47巻 3 ・4号 29頁以 2 0 0 0 )。また、 1 : r 去曹一元 J の定義づけについては、論 下( 者によってその捉え方が相違する。それを指摘したものと して、阪本昌成「司法制度改革の基礎にあるもの一憲法学 の視点から」ジュリスト 1 170号 29頁・ 33頁。浅香吉幹 『アメリカの司法~ 1 45頁(東京大学出版会、 1999年) では、法曹一元について「キャリアとして養成された裁判 官ではなく、弁護士その他の法律専門家として一定期間経 歴一政府機関、企業、大学などでの経歴を含むーを積んだ ものを裁判官として採用すること」との見解がある。また、 アメリカでは、そのほかにもロースクール卒業後に裁判官 の補佐役として、裁判官の判決の起草を補佐するなどの役 割をするロークラーク職に就き、そこで法曹職として必要 な素養を学び、その後弁護士・裁判官というコースを辿る とされ、それら経験のなかで、裁判宮として必要な素養だ けでなく市民感覚も養われる。今回の司法制度改革におい ても口ークラーク制度導入の議論がなされたが、具体的な 形となってはいない。アメリカ合衆国の 口ークラーク制度 について、拙稿「アメリカ合衆国におけるロークラーク制 度と裁判官」近畿大学法学 5 1巻 1号 69頁以下 ( 2 0 0 3 )。 3 司法制度改革は、日本国憲法制定後に 2度大きく議論が なされた。まず、 1962年に設けられた臨時司法制度調査 会による検討、そして、今回の司法制度改革審議会である。 1962年の調査会における審議内容は「臨時司法制度調査 l. 裁判内容であるとか、訴訟指揮が評価対象となった場合、 裁判は個々の判断でおこなうものとする観点から「裁判官 の独立」を侵害するものであろう。また、評価権者も問題 とされよう。わが国のキャリアシステムの最大の問題点は、 最高裁判所が実質上秘密裏に具体的な評価基準を示さず 裁判官評価をおこない、裁判官の任免や転置をおこなって きたことにある。指名諮問委員会が形骸化しないためには、 より公開された、そして明確な選任基準を示すべきであろ う 22。. おわりに わが国の裁判官選任制度は、形式的な任命権を内閣が有 し、そして実質的な裁判官選任権を最高裁判所が有するこ とで、両者における抑制と均衡の微妙なバランスのうえに 成立してきたと言える。とりもなおさず、最高裁判所にと って「裁判の中立性」を保つため、裁判官選任における外 部からの政治的影響の排除を可能にしたことは、最大の功 績ともいえよう。その反面、国民的基盤が脆弱になったこ とは否めない。国民から選出された内閣が裁判官選任に関 与することで、国民の信託を受けているともいえなくもな いが、キャリアシステムのもとにおこなわれている裁判官 選任が国民から事離したとの印象を植え付けたことは否 めない。 アメリカ合衆国では、連邦・州それぞれの管轄権毎にお こなわれる裁判官選任は大統領選挙ほどではないものの、 市民の一大関心事となる。それは、裁判所において違憲立 法審査権が積極的に行使され、市民の権利・自由を擁護す る役割を裁判所そして裁判官が積極的に請け負っている という認識が市民のなかにあるからだと考える. 230. これ. に対して、わが国では、裁判官が直接国民から選任されて いないことを理由として、立法裁量・統治行為などの憲法 判断回避の手法を用いるために、国民の聞に「憲法の番人」 としての機能を裁判所が担っているとの明確な認識が不. -89-.

(6) 会意見書 J (昭和 3 9年)参照。また、我妻・兼子他「座談 会 臨時司法制度調査会意見書について」ジュリスト 307 号 (1964年)。ここでは裁判官制度について、法曹一元の 導入の是非も踏まえた判事補のあり方・合議制・参審ある いは陪審といった観点から検討している。 4 わが国において裁判官が違憲立法審査権にどのように 対峠してきたかを最高裁判所判例の動向から検討したも のとして、拙稿「わが国における違憲立法審査制の一考察 一司法積極主義と消極主義の視点から」近畿大学法学 47 巻 2号 81頁以下 ( 1 9 9 9 )。 5 明治憲法制定前後の司法制度について、水木惣太郎『司 法制度論~ 2 94頁以下参照 (1969年、有信堂)。 6 明治維新以降の法曹について、服部高顕・協力者リチ ヤード 'W・ラビノウイッツ 「日本の法曹 ーその史的発 .ヴァン・メーレン編 『日本の法(上)~ 展 と 現 状 - JA.T 162-164頁(東京大学出版会・ 1965年 ) 。 7 A ・C'オプラー(和田英夫・中 里英夫訳) I 連合国占領 下における日本の法制度および司法制度の改革」法律時報 45巻 9号 53頁 ( 1 973年 ) 。 8 最高裁判所裁判官の選任について 、 国会の同意や国民選 出の可能性も議論されたが、政党政治の気まぐれや腐敗を 生じやすい親分制度に依存することになるとして、国民が 直接的に関与する規定は設けられなかった。その代わり 、 任命に対する抑制として国民審査の規定を設けたという。 。 前掲注 7 ・54頁 9 キャリア裁判官の得失について、 S eea l s o ., RICHARD A.POSNER,LawandLegalTheoryi nEnglandand America,a t30・ 36(1996).また、欧米先進諸国との比較の 視点でいうならば、日本の裁判官制度の特徴は、キャリア 裁判官制度をとっているという点ではなく、キャリア裁判 官制度が官僚的組織となり、個々の裁判官の独立を弱める 方向で運営されている点にあるといい、そのため裁判官制 度比較の重要な分岐点は、法曹一元(アメリカ・イギリス) かキャリア裁判官制度(ドイツ ・フランス・日本)かでは なく、「裁判官の独立J保障型の裁判官制度(アメリカ・イ ギリス・ドイツ・フランス)であるか、非保障型(官僚モ デル)の裁判官制度(日本)であるかという点にあるとす る指摘もある。広瀬・佐藤「総括-比較の中の日本の法曹 制度」広瀬清吾編『法曹の比較法学 ~ (東京大学出版会・ 2003年 )399頁 。 10 大久保史郎「平賀書簡問題」ジュリスト 9 00号 174頁 (1988年 ) 。 11 下級裁判所裁判官について憲法 8 0条 1項が規定する 10年の再任の意味については、「国民による裁判へのコン トロール」と捉える観点から 2つの見解がある。文字どお 0年の任期制と捉える考え方と、再任が原則となり定 り1 年までその地位にとどまることを通例とする職業裁判官 制と捉える考え方である。憲法学 における法曹一元制の議 論を議論したものとして、倉持孝司「憲法論からみた法曹 2号 39頁以下 ( 1 9 9 3年 ) 。 一元制 J法律時報 72巻 1 12 最高裁判所が個々の裁判官に求める裁判官像につい て、「政治的裁判官像」ならびに「中 立的裁判官像」から 検討したものとして、樋口陽一「政治的裁判官像と伝統的 、 1979年 ) 、 裁判官像 JW 比較の中の日本国憲法 ~ (岩波新書 小栗実「最高裁による裁判官統制をめくや って一『裁判官像 1980年)な 論争』の再検討J法律時報 59巻 9号 46頁 ( ど 。 13 判例拘束性について、「事実上の拘束力 」 と 「 法的拘. 束力」両説の対立が ある。「事実上の拘束力」説は、下級 裁判所に対する拘束力を強めることになってしまうとす る主張がある。芦部信喜「憲法判例の拘束力と下級審の対 応 JW国家学会百年記念 国家と市民 ~88 頁(有斐閣、 1987 年)。その一方で 「 法的拘束力 J説にも、わが国における 最高裁判所の強力な司法行政権のもとでは、裁判官が自立 した地位を持たず、しかも異論に対する社会的寛容度が低 い状況の下では、判例に法的拘束力を持たせることは認め られないと主張する。樋口陽一=栗城喜夫『憲法と裁判』 93頁(日本評論社、 1988年) (樋口担当分)。 14 I 良心に従って職権をおこなう」とする意味について、 最高裁判所は「裁判官が有効な法の範囲内で、自ら是なり と信ずるところに従って裁判すればよいこと」と判示した。 2月 1 5日、刑集 2巻 1 3号 1783頁 ) 。 (最判昭和 23年 1 15 中野次雄編『判例とその読み方(改訂版)~ 2 0・ 22頁(有 斐閣、 2002年) (中野担当分)。 16 日本弁護士連合会における司法改革の取り組みにつ いて、日弁連創立五 O周年記念行事実行委員会編『日弁連 五十年史~ 1 81頁以下 (1999年)。下級裁判所裁判官任命 99頁 -200頁(有賀英 意諮問委員会設置への動向は、同 1 樹担当分)。 17 下級裁判所裁判官指名諮問委員会の設置の経緯につ いては、次の 2点の文献に拠った。鹿子木康「下級裁判所 裁判官指名諮問委員会の設置について」ジュリスト 1253 号 1 86頁以下 ( 2 0 0 3年)。中村慎「下級裁判所裁判官指名 諮問委員会の設置について」弾劾裁判所法 2004年号 26 頁以下 (2004年)。また、飯孝行「下級裁判所裁判官の選 1 9頁以下 任構造の変容の可能性 J法律時報 76巻 2号 1 (2004年)は、委員会の設置と最高裁の不指名時の本人 への説明責任などに注目し、改革点と従来の選任実務など に対する影響を考察している。 18 田中英夫「日本国憲法における裁判官選任制度 J W英 米の司法一裁判所・法律家一 ~ 4 52頁(東京大学出版会・ 1973年 ) 。 19 オプラーによると「日本人は、社会生活上著名な人物 たちから出される提案を拒否することをためらうために 、 事実上任命権が憲法上それをもっ内閣から諮問委員会に 。 移譲する結果を生じさせた」という。前掲注 6 ・57頁 20 U . S .C o n s t i t u t i o n. Ar t . Sec.1 . 21 この点につき、久保田穣「裁判官の人事評価制度と裁 判官の内部的独立 J W小田中聴樹先生古稀記念論文集 民 主主義法学・刑事法学の展望 下巻 -刑法・民主主義と 法~ (日本評論社・ 2 005年) 328頁 。 22 この新しく設けられた人事評価制度ついて「裁判官の 身分に広く関わる事項について長官、所長や事務総局の裁 量が働く余地を含むものであり、評価の客観性や公平性の 確保の手当ても不徹底なものであるために、裁判官の身分 の独立 を弱めてしまう恐れがある」との指摘もある。前掲 注 21・久保田 328頁以下。 23 しかしながら、結果として、連邦最高裁判所が「法政 策機能」までも担うこととなってしまっている。このよう に裁判所が政治機関と同等の機能を果たしてしまうこと については、三権分立の観点から、現在においても「裁判 裁判官のあり方」を論じる上で大 所のあり方 Jならびに 「 l s o . きな論争となっていることはいうまでもない。 Seea CASSR .SUNSTEIN,DAVIDSCHADE .LISAM. ELLMAN ,ANDRESSAWICKI ,Ar eJudgesP o l i t i c a l ?, AnEmpiricalA n a l y s i so ft h eFederalJu d i c i a r y( 2 0 0 6 ) .. m. nHU. ハU.

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参照

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