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<論説>集合的・公共的利益に対する私法上の権利の法的構成についての一考察(1)

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(1)集合的・公共的和益に対する私法上の権利の法的講或についての一考察部. 集合的・公共的利益に対する私法上の 権利の法的構成についての一考察( 1 ) * * *. 宮. j 宰. t 先. 王久. o g. 第一章本麓における考察の目的と構成 第一節本穣む目的 第二節集合的・公共的利益に対する私法上む権利の理論的講築に向けた考察の 視角. 本稿む構成一「行政法理論とむ関係j と「根拠となる民法理論j む提示. 第三節 第二章. 私権としてむ環境権をめぐる議論の検討から. 行政法理論との詩集において集合的・公共的利益に対する私法上の権剥の 持つ意味. 第一節. 問題の所在と本章の構成. 第二節. 長法理論と行設法理論の交錯領域における集合的・公共的利益に対する 私法上の権利の存在意義一環境秩浮に対する私人の役割に関する議論の 整理を基礎において. 第三節. 集合的・公共的利益の維持に対する私法上の権利を論じる必要 a陸一私人 による行政訴訟を通じた秩序維持の検討から〈以上本号). 第三章. 集合的・公共的利益の維持に対する私法上の権利の根拠となる民法理論 〈以下次号). 第四章. 本語の結論と今後の課題. 8 5(326).

(2) 近 畿 大 学 法 学 第5 4 巻第. 3号. 第一章本種における考察の呂的と構成. 第一第本需の目的 現在,環境法領域,諮費者法領域,競争法領域などにおいて,私人が独 占的に享受するものではない集合的・公共的利益の実現に対して私人がい かなる実体私法上の権利を持つのか,という問題の解明が大きな課題とし て示されている刊本語は,集合的・公共的利益に対する私法上の権利の 法的講成を明らかにすることを巨的とする。 このような E的を持つ本稿における考察の具体的な視角,および本積の 構成を示すにあたって,私権としての環境権についての議論の検詩を出発 点とする O これには次の二つの理由がある G 第一は,環境利益は本稿の考 察の対象となる集合的・公共的利益であると考えられるので,集合的・公 共的利益に対する私法上の権利についての議論の蓄積と捉えることが可能 となることである O 第二は,環境法領域ではない法領域における集合的・ *本稿 i , ま. 2 0 0 4 年度および 2 0 0 5年度科学研究費補助金〈研究課題番号 : 1 6 7 3 0 0 5 9 ). による研究成果である O **本稿においては敬称を略させていただきました O ( 1 ) 例えば,環境法領域に関しては,吉村長一「民法学のあゆみ」法時 7 7巻 4号. 8 4 頁 ( 2 0 0 5年),消費者法領域に関しては,森冨{彦 f 差止請求と員法一一団体 訴訟の実体法的構成j 総合研究開発機講=高橋宏志共編『差止請求権の基本講 造I J1 1 1 1 3 3頁(高事法務研究会,. 2 0 0 1年)などを参照。また,競争法領域 i こ関. 2 0 0 0年に公布された私的独占の禁止および公正取引の確保に関する法律 2年法律第 7 6 号)によって導入された私人による の一部を改正する法律(平成 1 差止請求制震(独占禁止法 2 4 条)は,第一義的には個々の被害者の侵害された して,. 利益を回援するものであるが,罷時に,公正かっ自由な競争秩序という公益の 確保にも資するとされている(東出浩. -r独禁法違反と民事訴訟一一差止請求・. J2 3 2 4 頁〈商事法務研究会, 2 0 0 1年)参照)。さらに,これらの 損害賠費制震I 議論の根底には, r 法む実現の実現における私人の役割j という考え方があると 考えられる(田中英夫=竹内昭夫『法の実現における私人の役割I J(東京大学出 版会,. 1 9 8 7年))。 - 8 6(325)-.

(3) 集合的・公共的和益に対する私法上の権利の法的講成についての一考察(1). 公共的利益 i こ対する私法上の権利についての議論でも,私権としての環境 権についての議論がその基礎におかれていることである汽 本章においては,第二節において,私権としての環境権についての従来 の議論について,とりわけそれに対する批判の検討を通じて,集合的・公 共的利益に対する私法上の権利の理論的構築に舟けた考察の視角を示す。 そのうえで第三節において,本稿の講成を示す。. 第二節. 集合的・公共的利益に対する私法上の権利の理論的構築に向 ( 1. た考察の視角一一私権としての環境権をめぐる議論お検討から 一.はじめに 本節においては,集合的・公共的利益に対する私法上む権利の理論的講 築に向けた考察の誼角の抽出を E的として,弘権としての環境権をめぐる 3 ) 。 従来の議論に検討を加える (. 以下,本節二.において,私権としての環境権に関する議論の内容を援 観したうえで,本節三.において検討を行う D. 二.私権としての環境権に関する議論の概観. ( 1 ) 大阪弁護士会環境権研究会による「私権としての環境権」の内容 環境権に関する議論は, 1 9 7 0年にわが国の法律学に始めて登場したとさ. 9 7 1年,大販弁護士会環境権研究会〈以下「環境権研 れている叱そして1. ( 2 ) 森司・前掲注(1)1 1 8 1 2 0買など。. 信) 私権としての環境権をめぐる従来の議論の整理として,中出充「環境権論の. 発展と環境共同利用権の認知」需『環壌共同京j 用権一一一環境権のー形態J12 1 1 0 2 頁(或文堂, 2 0 0 6年,初出・ 1 9 9 1 1 9 9 3年)。大塚重「環境権j 法教 1 7 1号 3 3頁以 下 0 994 年),毘「環境訴訟の展需 j 法教 2 5 8 号6 6頁以下 ( 2 0 0 2年 ))0 ( 4 ) 大寂弁護士会環境権研究会編『環境権J2 1頁 U I I村俊雄執筆) (8本評論社, 1 9 7 3年)。. - 8 7( 3 2 4 )一.

(4) 近 畿 大 学 法 学 第5 4巻第 3号. 究会j と記述〉によって,. r 環境権確立のための提言Jが公表された倒。こ. こでは,環境権を提唱する前提問題として,生存の危機の再認識,受忍限 震論などの在来の法理の基本的欠陥,並びに公害対策立法および行政の指 導理念の欠訣などが掲げられている (6L 環境権研究会によって提唱された環境権は,長き環境を享受し,かっこ れを支配しうる排他性をもっ権利と構成されたへそして,環境権研究会 は,この環境権について,拡告訴訟における原告適格の範毘の問題等の主 観的公権としての側面とともにその侵害に対する損害賠償及び差止めと いう私法的救済を基礎づける私法上の権利としての側面も主張した叱 このような環境権を基礎づける法理として,環壌権研究会は,環境共有 の法理を提示した (90 この環境共有の法理に関して,まず,従来む議論に おいて不動産の利用に伴う,恩恵として与えられるものとされてきた大気・ 水・日照・通底・景観などの環境の資源が人聞の生活にとって欠くことの できないものであることを基礎として,これらの環境資源が不動産の所有 権とは関係なく,すべての自然人に公平に分配されるべき資源であるとい う認識が示される自にこれらの環境資源は,元来不動産の利用権とは無関 係に,万人に平等に分配されなければならない資源であり,この環境資源 は当然に万人の共有に震すべき財産で為るとされる叱そりため環境は, ある土地の利用関係に専属するものではなく,一定の地域に住むすべての. ( 5 ) 大薮弁護士会環境権研究会編・前掲注位) 6 1頁以下。 ( 6 ) 大鼓弁護士会環境権研究会編・前掲注( 4 ) 6 2頁立下〔仁藤一=地尾隆良執筆入. ( 7 ) 大阪弁護士会環境権研究会編・前掲注位) 8 5頁以下〔真鍋正一執筆〕。 ( 8 ) 大鼓弁護士会環境権研究会編・苗掲注(4)9 9夏以下〔久保井一匡=滝井繁男執. 筆 〕 。 ( 9 ) 大阪弁護士会環境権研究会福・前掲注ω77頁以下〔仁藤=池尾執筆J o 1 ( 0 ) 大駿弁護士会環境権研究会編・前掲注ω77頁立下〔仁藤=地尾執筆〕。. ω. 大阪弁護士会環境権研究会編・蔦掲注ω78頁〔仁藤=池尾執筆〕。. - 8 8(323)一.

(5) 集合的・公共詩和益に対する私法上白権利の法的講成についての一考察(1). 人に平等に分配され利用されるべきであるとされる叱このように環境を 万人の共有財産と捉える思想を基礎において,共有者の一人が i まかの共有 者全員の承諾を得ることなく,これを独占的に支配・利用して,これらを 汚染・減耗させることは,それ自体として他の共有者の権利の侵害であり, すなわち違法とされるべきである,ともサ理論が示された 430 こD ような環境共有の理論に基づいて,不法行為に基づく損害賠償にお ける受忍限度論の克殺が目指され,さらには環境権に基づいた差止請求の 是認が主張された倒。まず,不法行為 i こ基づく損害賠償請求権の違法性に 関しては,被害の存在を権利(利益〉の侵害(環境権の侵害〉ととらえ, それだけで柊局的に違法性を認めるべきであり,侵害行為の態様は一切考 慮されてはならないとされた組。また,一切の自然的・社会的環境に対して 地域注民が持つ排他的な支配権であるところの環境権に基づいて,環境が 破壊されれば,地域住民が直ちにその差し止めを求めうると主張された民. 包) 大阪弁護士会環境権研究会による私権としての環境権への批判 本第二.において誠観した環境権研究会によって提唱された弘権として の環境権に対しては,その立法政策的意義及び抽象的権利性については賛 こ対しては疑問を呈する見解が多く提示され 意を示しながら,その私権性 i た開。そして,これらの環境権の私権 註を批判する見解においては,次 0) J. 。. 大板弁護士会環境権研究会編・前掲注総 7 8夏〔仁藤=、池尾執筆 )0. Q 3 ) 大寂弁護士会環境権研究会編・前掲注註)78 頁〔仁藤=池尾執筆〕。 ω. 大寂弁護士会環境権研究会編・前掲注幼 9 9頁以下〔久保井執筆)0. Q 5 ) 大薮弁護士会環境権研究会編・前掲詮ω104頁〔久保井執筆〕。 鱒 大薮弁護士会環境権研究会編・前掲注( 4 ) 10 9頁〔滝井執筆〕。 初. こ疑問を示しながら,その政策的意義及び抽象的権利性に対 環壌権の私権性 i して賛意を示す見解として,例えば,加藤一郎. r環境権』の概念をめぐって j. 開『員法における論理と利益衡量I J113頁(有斐罷, 1974年,初出・ 1972年),. 9 2号 2 3 9頁(19 7 1年),原田尚 野村好弘=淡路剛久「民事訴訟と環境権j ジュリ 4. J 2頁(弘文堂, 1977年,務ノ 彦 庁 環 境 権j と裁判所の役割j 罰『環境権と裁判I - 8 9 (322).

(6) 近 畿 大 学 法 学 第5 4巻第 3号. ような問題点が指摘された G8490 まず,方法論的な問題点として,環境権研究会によって提唱された環境 権が,私法的救済などの実現を容易にするために,いわばその根拠となる 板説的権利として環境権を想定し,かつそれを主張していることが指摘さ れている民すなわち,ある具捧的な解釈論を展開するために,いったん さかのぼって抽象的・理念的な環境権を設定し,つぎに逆にそれを根拠と して解釈論を震関するというのは,いわば逆立ちした思考様式であり,概 念法学的・演鐸的論理 i こよって見せかけの理由づけをしている,という批 判である部。 また,集合的な利益である環境利益の保護は,恒人的利益の保護を本来 の目的とする従来の私法理論の範囲を超えている,とする批判がある民 さらに,個人的な被害が発生しない状況では,環境汚染色予防や環境利 益の実現をいかに進めるのかということに関する決定は,本来,棺対立す る個人間の諸利益の調整を目的とする員事裁判の役割でほなく,原期とし. 、進出・ 1 9 7 1年)などがある O 総. 環境権研究会の提唱した私権としての環境権に対する批判を検討する最近の 3 ) 6 2頁以下,大塚・龍掲注( 3 )I 環境権J3 3頁以下 論考としては,中出・荷謁注( 主主ある。. 締. ただし,以下にみる批判を示す見解の中にも,環境利益を擢人橿人の具体的 な権利として構成する論理の構築の必要性を認める見解も多く存在している (谷口知平「環境法と環境権j 員宿 7 8巻臨時増刊号(1) 3 7 0頁(19 7 9年L 伊藤 進「差止請求の法的根拠としての環境権・人格権」同『公害・不法行為論j 2 0 頁以下(信山社, 2 0 0 2 年,初出・ 1 9 8 1年),吉村長一「公害・環境問題の歴史か ら学ぶもの」淡路=阿部還麿『環境法学の挑戦j 3 8頁以下(呂本評論社, 2 0 0 2 年〉など。このほか,後述。で検討する文献も参照〉。. 加藤・前掲注伺 1 1 8頁。この i まか,野村=淡路・前掲注間 2 4 0頁も同様に譲鐸 的な議論方法を指摘している。 的 加 藤 ・ 前 掲 注 的1 1 8頁。 鈎 野村=淡賂・前掲注U 7 )2 4 4 頁 , f 芳藤・前掲注鱒 2 3頁以下,大塚・前掲注( 3 )I 環 鱒. 4 頁 。 境権J3.

(7) 集合的・公共的利益に対する私法上の権利の法的講或についての一考察(1). て国家や地方公共団体む役割であるとの指摘をしたうえで,私権としての 環境権を否定し,行政訴訟を通じた環境権の実現を提唱している昆解もあ る舗。 そして,環境権の内容,すなわち環境権の主体の範酉,客体の範囲,及 び判断基準が明確でない,との批判もなされた。環境権の主体の範囲及び 客体の範囲について辻,環境権研究会の外部儲から批判されているだけで なく,環境権研究会内部においてもそむ不明確さが認められていた倒。環 境権に基づいた違法性斡断の基準については,環境権研究会によって批判 された比較衡量が,環境権に基づいても避けられない, と批判された信号。 これらに加えて,環境権研究会が環境権の基礎として示した環境共有の 法理に対しても批判がなされた叱この批判は,自然環境を含めた環境的 利益は個人に専属的に帰震するものではなく,むしろ一種の公的貯である という点を詣議するものである O なお,これらの私法上の権利としての側面に対する批判に対して誌,国・ 地方自治体の立法行政が遅れていること,個人の具体的被害の現実化をま. G 草. 原罰・前掲注伺 1 1頁以下,原田尚彦「環境行政法の位置づけ」罷. F 環境権と. 裁判I J6 9貰以下〈弘文堂, 1 9 7 7 年,初出・ 1 9 7 6年〉。また綿重芳源「環境権理論 についての疑問 j 今村退官 F 公法と経語法の諸問題下I J2 5頁(有斐寵, 1 9 8 2 年〉も参照。 儲. 谷口・詰謁注締 3 6 9夏,淡路間久 F 環境権の法理と裁判Jl 2 7頁〈有斐閣, 1 9 8 0 年,初出・ 1 9 7 7年),同 f自然保護と環境権j 環境と公害 2 5巻 2号 9頁 0995 年〉なと、。. 関. 大阪弁護士会環境権研究会福・前掲注( 4 ) 16 8頁〔滝井執筆),このほか,小林. 直樹勉「環境権論の現状と課題〔座談会) J大阪弁護士会環境権研究会編『環境 権I J2 5 0頁以下〔久保井発言〕。 舗 加藤・前掲注鈎 1 2 0夏以下,野村好弘口、わゆる環境権論に関するー覚書j ひ ろば 2 4 巻 8号 御. s 頁(19 7 1年),野村=淡蕗・前掲注初 2 4 1頁 。. 原島重義「開発と差止請求」法政4 6巻 2 4号 2 8 6頁以下(19 8 0 年),吉村・前場 注部~38 頁。. 9 1(320)一.

(8) 近 畿 大 学 法 学 第5 4巻第 3号. たなければならないならば公害問題が真の解決を見ないこと,及び受忍張 度論が現状肯定の性質をもつことなどが,環境権研究会の側からの反論と して提示されている民 ( 3 ) 私法上の権利としての環壌権に関する近年の新たな議論. 大叛弁護士会環境権研究会の提唱した環境権は,前述。に検討した批判 を基礎として,私法上の権利として承認されるにいたっていな l' 0 しか し,近年,そむ批判を踏まえたうえで,環境権を私法的に構成する見解が 主張されている織。 ( a ) 環境共同利用権として環境権を構成する見解. 中山充は,環境権を私法上り権利として確立する必要性の基礎として, 重要な政策課題である環境保全の達成のためには国会・行政庁に任せきる ことでは不十分で、あることを示す総。そして,私権としての環境権の最も 積極的な意義が,人格権や所有権等の橿人的な権利によって保護できない 環境利益の保護にあるとし,この積極的意義を確保するために,環境権を それらの権利と明確に区別した権利として講成すべきと主張する倒。この ような意義をもっ環境権は, f f 車の多数の人々による同ーの利男と共存で きる舟容を持って,かっ共存で、きる方法で,各個人が特定の環境を利用す ることができる権利 j と定義される叱 ( 2 8 ) 菊二点については,大販弁護士会環境権研究会編・前掲注位)12 1夏以下〔久保. 井 =J I I村執筆〕を,最後む受忍限度論へむ再反論について辻,大阪弁護士会環 境権研究会編・誌揚注位)13 1頁以下,特に 1 4 3頁以下〔木村保男二八代紀彦執筆〕. を,それぞれ参照。 ( 的 ) 以下本節において示す近年の議論の検討は,宮津俊昭「環境法における私法. の役割(後篇) ( 2 )一一集合的・公共的剥益の実現に対する民法と行政法の棺互 補完む可能性j近法 5 2巻 1号 2 0 3 2 1 0頁 ( 2 0 0 4年〉における検討をさらに発展さ せたものである O. 0 0 ) 中山・苗掲注(3) 12 1 7頁. D. C 3 I ) 中山・前掲注( 3 ) 1 0 4頁 。 働 中 山 ・ 前 掲 注( 3 ) 1 1 1頁 。 - 9 2(319)一.

(9) 集合的・公共的利益に対する私法上の権利の法的構或についての一考察(1) こむ環境共同利用権としての環境権の第一次的な権能は,環境を他の 人々と共同で利用できることとされる叱このような環境権の定義のもと で,環実権の主体となりうるのはすべてむ自然人であるとされる叱 他方,環境権の権利者は他の人々によるそれと同一内容の利用を排除す ることができないから,環境権は公共的な性賞を帯びるとされる節。した がって,その権利の客捧たる環境は,物権の客体ほど厳密に特定される必 要はないけれども,物を直接に利用できる権能を持つ点では環境権は物権 と共通して支配権の一種といえること,および権利の具体的な内容や権利 者の範冨を明確にする必要のあることから,環境権の客体も不特定の物で はなく,特定の物でなければならないとされる舗。 者である多数 環境権の内容たる環境利用の具棒的な内容と方法は,権京j の人々む意思によって決まるものであり,それら多数の人々が参揺できる 手続によって決めることができるものである,とされる叱ここでは,漬 行として吉くから既に行われている環境利用は,原則として権利者の大多 数の意思に基づくものであると捉えうるとされる陀また,このような事 前決定手続は実際の行政手続きにも取り込まれているとされる叱なお, このような環境権の内容変更の決定については,その環境に利害関係の深. 中山・荷揚注侶)10 5頁 。 G 争 中山・龍掲注( 3 ) 12 0 1 2 1頁 。 3 ) 10 5頁。このことから, r 物心排他的支配を認めて他の者によ 邸 中出・荷揚注( る同一内容む支配を許さない所有権その他の物権とは,異費の権利である j と される(中山・前掲注( 3 ) 12 1頁 〉 。 鱒 中出・蔀掲注 ( 3 ) 10 5頁。具体的な客体の種類に関しては,中山・前掲注 ( 3 ) 1 1 3 1 2 0頁参票。 邸 中 山 ・ 前 提 注( 3 ) 10 6頁9 ( 3 8 ) 中出・前掲注( 3 ) 12 7真 。 6 訪 中山・荷揚詮侶)10 6頁。ただし, r 極めて不十分な内容ではある j との評価も 3 ) 1 0 6頁 ) 。 付されている〈中山・荷揚注( 鱒. 9 3(318).

(10) 近 畿 大 学 法 学 第5 4 巻 第 3号. い一定範囲の人々が参加できる行政手続きによって行われるのがもっとも 適当であるとされている失 以上のような環境権の内容たる利用が拐害されたか,または妨害される おそれのある場合に誌,環境共同利用権の侵害を理由にして,競害の排捺 又は予防するために妨害行為の差し止め又は環境の原状回復を加害者に対 して請求できるとされる縦書。 ( b ) 手続的アプローチから環境権を構成する見解. 淡路剛久は,環境権の手続的アプローチを提唱している織。この見解は, 個人的な権利・法益の侵害ではなく環壌保全への要求が社会に存在するこ と,及び環境権訴訟には民事差止訴訟モデルで争わなければならない性賞 を持つ問題のあることを指摘し,環境権訴訟の立法論としての髄度化を主 張すると同時に,解釈論として環境権訴訟を新たに導入することを主張し. 働. 中山・官官掲注( 3 ) 12 5頁。. 住 1 ) 中出・諸揚注( 3 ) 13 2頁。詳細に関しては中山・前掲注( 3 ) 13 2 1 3 8頁参照。なお,. この点に関しては,. Iこの利用の妨害は排地的支配の妨害ではないから,物権が. 侵害される場合に権利者が生じる被害と同じ意味での被害がこの場合に生じる というわけではない。しかし,権利者福人が客体を重接に利用できるという利 益が害されるのであるから,その意味で個人に直接被害が生じるといってよ いj と述べられている(中山・蔀掲注( 3 ) 10 5頁〉。. 掛. なお,損害賠績に関しては,環境共同利用権によって保護されるべき利益が 各権利者に排他的に需麗するものではないため,自己への損害賠償を請求する 権利は環境共同利用権を根拠としては発生しない,とされるく中出・前掲珪8. 1 3 8貰,ただし,各環境共民和用権者は,環境を管理する擢眼を持つ地方公共 団体などに損害賠讃することを加害者に請求する権利は有する,とされる〉。. 倒. 淡 蕗 概 久 「 自 然 保 護 と 環 境 権j 環 境 と 公 害 2 5巻 2号 9頁 以 下 0995年),同 「公害環境訴訟の課題J淡路剛久=寺西俊一編『公害環護法理論の新たな展開 J. 7 7頁以下(呂本評論社, 1997年),詞「人格権・環境権に基づく差止請求権j 判タ 1 0 6 2号 1 5 5頁 以 下 ( 2 0 0 1年〉。また,淡路開久「民事法の額域か合一一新し 権 利 の 動 態 1J 8頁以下(有斐 い権利む生成をめぐって J B本法社会学会編 F 閣 , 1 9 8 6年),局「権利生或のための法解釈学」曹時 5 6巻 s 号 l頁 以 下 0998 年〉も参黒。. - 9 4(317)一.

(11) 集合的・公共的利益に対する私法上の権利の法的構或についての一考察(1). ている錦繍。 この解釈論における環境権訴訟について,この見解は次の二点が提案さ れている豊島。第ーは,自己が何らかの法益侵害を受けたこと,あるいは受 ける可能性を主張・立証するこりことを,環境権を主張して裁判所による 権利救済を受けるための要件(資格〉として広く捉える,というものであ る。その第二は,地域住民の同意を求める手続の適切な実施を環境権の手 続面における保護と捉えるというものである O この二つの提案を基礎において,この晃解では,客体としての環境に対 して詞らかの法的に保護されるべき利益を持っていたことを主張・立証し うる者を,環境権の主体として認めることを主張する粍他方,環境権侵 害の基準については,環境保全の手続に違法がなかったかを司法審査の対 象としうるとする民 掛. 談蕗・前揚注織「自然保護J1 0頁以下,淡路・前掲注倒「公害環境訴訟J7 9 頁以下,淡路・荷揚注鵠「差止請求権J1 5 5頁参照。なお,以下の淡路剛久の見 解に関する記述に関しては,本注において引用した三つの論文がほぼ同内容を 示しているために,以下では淡路・前掲注鱒「自然保護j のみを引用する。. 綿. 淡諮問久は,新しい権利主張がどのように生成確立していくりか,という詞 題について,新たな権利主張,価値の共有,そして法技衛的諌薦という三つの 条件を提示したうえで,誕来の環境権の議論が,第一及び第二の条件は満たし ていたが,第三の「法技術的練磨」という条件については,環壌権の構成が包 括的すぎて環境権に基づく要件の構成が明確にならなかったので満たされてい なかったとしている(談蕗・苗掲注鱒「民事法の領域J1 3頁以下,淡路・前掲 注闘「法解釈学J 7頁以下,局 1 8頁)。. 鵠. F 環境権の法理と裁判I J8 1頁 f自然探護J1 1頁,淡蕗・前掲注締. 以下,提案される二つの点について,淡路樹久 以下(有斐寵,. 1 9 8 0年),淡蕗・蔀謁注倒. 「法解釈学J1 9票以下。なお,新しい握手5 の生成確立の第三の条件〈前掲注錫参 久は本文で以下に示す二つむ点を提案している(談 照〉を満たすために,淡路陣j 路・前掲注総「法解釈学J1 9頁)。 締. 1頁。淡路間久は,自恭保護のケースにおいて, 淡路・苗掲注鵠「自然保護J1 当該環壊の保全のために設立され法人格を有する岳然環境保全法人が,環境権. l l頁〉。 の主体として訴えを提起できるとする(淡路・前掲注鱒「白熱諜護J 勝. 淡路・龍揚注繊 f自然保護J1 1頁以下。ただし,環境権の課護を求める原告ノ. - 9 5(316).

(12) 近 畿 大 学 法 学 第5 4巻第 3号 ( c ) 秩序違反に対するサンクションという側面から環境権を捉える見解. 吉田克己は,公共的秩序維持の責径を負う公共団体が市民の和益を擁護 するために期待された任務を果たしてないこと,及び市民総体む利益 i こ関 わっている「生活利益秩序 j の維持から個々の市民も一定の利益を享受し ていること,をそれぞれ理由として,民事訴訟の提起による市長の環境へ の関わりを正当化する織。 このような「生活利益秩序 j の維持のための民事訴訟は,伝統的な民事 訴訟との比較において,次の二つの脊徴をもっとする織。その第ーが,こ の訴訟では環境からの生活利益の享受が問題とされ, I 人格秩序Jで問題に なるような婦震は問題となちないので,古典的・排他的な「権利」を語る ことが難しいことである的。第二として,このような民事訴訟の提起は第 一義的には私的利益の擁護を目指すものであるが,河時 i こ,公共的利益 (市民総体の利益〉の擁護をも昌指すという性格を持つことが挙げられる叱 そして,現代員法学において,このような伝統的な近代法パラダイムの想 定していない事態をどのように理論的に受け止めるかが問題となると詣掃 される斡。 以上のような問題認識のもとで,環境権論にとっての課題として,環境. 、は自己の法益の保護と関わる手続の違法を争う必要があるとされる。 倒吉田克己 F 現代市畏社会と民法学j 2 4 5頁以下(日本評論社, 1 9 9 9年,初出・ 1 9 9 6年 ' " ' '1 9 9 8年〉。なお,吉田克己は,広中俊雄の理論枠組〈広中俊雄『民法網 要 総 論 上I J 1頁以下(創文字土, 1 9 8 9年),特に生活利益秩序に関しては同日頁 以下参摂)に従っている. Q. また,人語秩阜の外郭秩序たる生活利益秩淳のあり. 方は公共的性格を有すること,及び,この公共性が市民総体の共同の利益を内 容とするものであって,市民社会と離れた冨家的利益を内容とするものでない としているく前掲吉司・ 2 4 4頁以下参照)。. 4 6頁 。 倒 吉 司 ・ 荷 揚 注 倒2 駒 吉 田 ・ 前 掲 注 働2 4 6頁 。 関 吉 田 ・ 前 掲 注 鱒2 4 6頁以下。 駒 吉 田 ・ 龍 掲 注 働2 4 7頁 。.

(13) 集合的・公共的利益に対する私法上の権利む法的構成についての一考察(1). 権が市民法的権利とは性賓の異なる権利であることを明確にし,その性質 にふさわしい独自の構成を加えることが求められることが示される叱こ こで,生活利益秩序は市民総体の利益に関わるという公共的性格ととも に,個別の市民に対して環境利益の享受を可能にするという性格も持つこ とから,ある環境について,個別立〉市民に対する環境利益が割り当てられ る市民の範囲は無限定的とはな込ないことを詣掃する倒。そして,民事訴 訟を通じて環境破壊行為の停止という公共的利益の実現に関与すべき市民 は,その様にして環境事j 益を割り当てられている市民に設定することが望 ましいと述べる舗。そのうえで,この見解誌,. r そのような秩序維持,さら. には秩序内容の形成に関する市民の参加を内容とする権利として環境権を 位置づけることは,可能であり,かつ,有益であ」ると主張する叱さらに, 生活利益秩序侵害に基づく差止について,議密な意味での「権利Jを語り えない以上,伝統的な発想に従えば差止法認めちれないが,生活利益秩序 においては,. r 権利侵害j ではなく「秩序j 違反に対するサンクションと. して,場合によって差止が認められるとされている叱 また,このような公共的利益の実現をはかる民事訴訟は「政策志向型訴 訟j になるとされ,この「政策志向型訴訟」は,立法における政策形成あ るいは議会〈市民)による行政のコントロールの代替手段と位量づけられ る憾。そのうえで, 鵠. r 解釈論の次元でも,……,行政規割合あり方との相関. 吉田・龍掲注鱒 2 4 9頁むここでは,前述した中山充の見解,及び淡路剛久の見 解が引用されている〈吉田・荷揚珪鱒 2 5 6頁注鱒参照〉。. 邸. 吉田・前掲詮(駐車 2 4 9頁。ここで,吉田克己は,秩序違反の是正という観点だけ を強調すれば,原告適格を特 i こ限定のない客観訴訟として構或することも可龍 になるが,それは行き過ぎであるとする(吉司・前掲注働 2 4 9頁)。. 鶴吉田・前掲詮(鱒 2 4 9頁。 駒 吉 田 ・ 前 掲 注 総2 4 9真。 鶴 吉 田 ・ 前 掲 注 鱒2 4 8頁,また吉田克己「環境秩序と民法」北法 5 6巻 4号 2 3 4頁. ( 2 0 0 5年)も参照。 鶴 吉 田 ・ 前 掲 注 織2 4 9頁以下。. - 9 7(314).

(14) 近 畿 大 学 法 学 第5 4 巻第. 3号. 関係において民事訴訟における差止の内容を提示していくことが要請さ れj ると述べられる叱 ( d ) 環境権の公共的側面を指摘する見解. 吉田邦彦は,環境権研究会によって提唱された環境権の議論において, 個人的被害を越える生態系の変化及び総量的被害評錨を基礎とした皐い段 階の差止が主張された点,環境全体の儒値に着呂された点,地人の被害に 基づいた差止請求も主張された点,並びに原告適格に関する立法の必要性 が説かれた点,をそれぞれ指摘し,これらのような環境権の制面はもっと 強調されてよいとする叱そして,環境保全のための立法的・行政法的規番号 がはかばかしくないわが国において,行政の機能不全の構造に批判を投ず るとともに,司法の穫駆的役割についても再考すべき時期にあると述べ る錨。. また,従来環境権として説かれていた権利は,個人主義的権和の延長隷 上で理解されていたために,環境権の存在意義が薄れていたという認識を 示したうえで,当初の「環境権j の主張内容には, 1 毘人権的把握では捉え 切れない,集合的・共同体的,その意味で公共的利益(公益的規l t 面〉が含 まれていると捉えるべきであると主張する織。そして,この見解は,環境 権の公共的鶴面について, I 従来の私的所有理論の転換」の一場歪として泣 置づけうるとし齢,この「従来む私的所有理論の転換」について,アメリ カ法における「緑の所有論」の検討を行っている粍この検討のなかで,. 鋤 吉 田 ・ 前 掲 注 織2 5 0頁。. 制 ) 吉昌邦彦「環境権と所有理論の新展開J関『民法解釈と揺れ動く所有論J4 2 5 頁以下〈有斐閣, 2 0 0 0年,初出・ 1 9 9 8 年)。 紛 吾 自 ・ 前 掲 注6 ( ) 1 4 2 6頁。. 2 7頁。 駒 吉 田 ・ 前 掲 注 側4 4 2 7頁 。 (鵠吉罰・龍掲註組) (母吉田・前掲注射 4 4 0頁以下。. 9 8( 3 1 3 )一.

(15) 集合的・公共的利益に対する私法上の権利の法的構成についての一考察(1). アメリカ法における「緑の所有権j 論が「……,環境保護規制の基礎理論 として追求されるようになって Jいること,. I 緑 の 所 在 権j 論の論者がこ. れを所有権理論の延長線上で論じていること,及び「……,所有権法学者 の関心の重点が,従来の私的所有モデルの摂界,所有の公共性,社会的責 任の強調と,その共同体的(……〉な規制・制約のあり方に,移行し Jて. I ……,生宅規都,身体取ヲ i 規制(……),年金規制なども,私的所. おり,. 有法制の公共的コントロールという意味で理論的には共通する問題として 括」りうること,がそれぞれ示されている綿綿。. ( 4 ) 怠法上の権利としてむ環境権に関する近年の新たな議論に対する評 髄 前 述( 3 )に示したように近年の議論においても様々な克解は提示されてい るが,私権としての環境権は,現在の学説・判僚において承認されていな い織。その最大の理由として誌,. I ……,これを公益のための権利として構. 成すると,伝統的な民事訴訟の制度にのせにくい一方,環境権を個人の利 益に還元しようとすると,この権利の目的・実体から事離し権利の内容が 震小化される危険が存在するという二律背反の問題点に直面したこと j が 挙げられている勝。. 鶴 吉 E ・前掲注紛4 4 0頁以下。. 約. なお,吉田・前掲詮総4 5 2 頁以下では,環境法学における各論的・実銭的課題 が検討されているが,環境権あるいは「緑の所有権j 論とは切り離された部分 であると理解されうる。吉田・前謁注総 4 5 2夏以下の検討の始めにおいて,. r 環. 境法学には,その勉にも理論的課題は山積している J との文章が付されている こともこの理解を裏打ちするものといえよう。 鱒. J3 6 2頁〔大塚直執筆),同 3 7 5 荷部泰隆=淡路離久『環境法(第 3版捕訂版) 真以下〔荏原明副執筆J(有斐毘 2 0 0 6年),大塚亘『環境法く第 2販 ) J J5 4頁 ,. 5 9頁(有斐閣, 2 0 0 6年〉参照。 同5. r. 鱒 大 塚 ・ 前 掲 注( 3 ) 環境訴訟J68 頁 。. - 9 9(312)一.

(16) 近 畿 大 学 法 学 第5 4 巻第 3号. 三.集合的・公共的利益に対する私法上の権利の理論的構築に向けた考 察の視角. ( 1 ) ,まじめに 本節においては,集合的・公共的利益に対する私法上の権利の理論的構 築に向けた考察の視角を設定するために,集合的・公共的利益のーっと位 置づけうる環境利益について,これまで多くの議論が蓄積されている私権 としての環境権に関する議論を検討している。そして,本節二.にみたよ うに,学説上議論が発展し,様々な見解が提示されてはいるものの,多く の批判が示され,私権としての環境権は現在の判例・通説のもとで誌承認 されていな L 。 、 このような現状に鑑みれば,環護利益にとどまらない集合的・公共的利 益一般に対する私法上の権利の理論的構築を目的とする本語において,少 なくとも私権としての環境権に対して提示されている批判に適切に症対 し,それを解消しうるように,考察の視角を設定することが必要となる。 そして,その視角として,次の二つを示すことができる c ( 2 ) 行政法理論との関孫のなかで集合的・公共的利益に対する私法上の. 権利の持つ意味一一第ーの視角 第ーの視角は,行政法理論との関係のなかで集合的・公共的利益 i こ対す る私法上の権利の持つ意味を明らかにする,という考察の視角である。こ の視角からの考察においては,具体的に次の二つの論点が提示される O. ( 司. 行政法理論との関孫のなかでの集合的・公共的利益に対する私法上 の権利の位置づけ・意義. 私権としての環境権の議論においては,行政法領域との関連性を基礎と した見解・批暫が多く提示されている倒。しかし,抽象的にはその関連が示. 部本節二. ( 2 ),及び本節二. ( 3 ) ( a ),同 ( b ),同 ( c )参照。 一. 100(311)一.

(17) ω. 集合的・公共的和益に対する私法上の権利の法的構成についての一考察. されているものの,具体的な行政法理論との関連で私権としての環境権が 一体いかなる存在意義をもつのか,という点に関しては,私権としての環. 、. 境権を主張する立場からの応、接はな L. こむ点を踏まえれば,個人に専属的に帰属しない集合的・公共的利益に 対して,私人が私法上の権利を通じて関与することを援拠づける私法上の 権利の存在意義乞民法理論のみならず,行致法理論も踏まえて,より具 体的に法体系のなかで示すことが必要となる叱 ( b ) 行政法理論との関係のなかでの集合的・公共的利益に対する私法上. の権利を法的に構成する必要性 払権としての環境権の議論において誌,環境利益の実現に関する決定 は,民事裁判の役割ではなく,原則として国家や地方公共団体の役割であ ることから,私権としての環境権を否定したうえで,行政訴訟を通じた環 境権を提唱する見解が提示されている位。 このように行政訴訟を通じた実現が中心的役割を担うとする批判は,集 合的・公共的利益一般に妥当する内容を備えている。そのため,集合的・ こ対する私法上の権利を法的に構成するにあたっては,行政訴 公共的利益 i 訟を通じてではなく,私法上の権利を基礎とした民事訴訟を通じて集合 的・公共的利益が実現される必要性を提示することが必要となる憾。 仰. なお,このように位置づけを示すこと捻,本語において具体的に考察む対象 とする集合的・公共的利益に対する弘法上の権利の意義を提示するという意味 も持つ。. ぬ 本第二. ( 2 )参照。なお,近年このような見解をとるものとして阿部泰隆「景 ま私法的(司法的)に形成されるか〈上) ( 下) J 自研8 1巻 2号 3頁,毘 3 観 権i 号 3夏 ( 2 0 0 5年〉がある。. ぬ なお,環境法額域においては, ドイツでの環境私法の再評倍に関する議論の v o l l 検討から,の示唆として,国や行設の環境政策のいわゆる「執行不全 (. z u g s d e f i z i t )J の実態、と,そこにおサる私法的手段の護能の解明が重要な課題に なるとする見解が示されている(吉村長一「ドイツにおける環境致策と法の展 関 - 8本との比較j 詞. F 公害・環境私法の展開と今ヨ的課題Jl 5 4頁(法律文化ノ 101(310).

(18) 近 畿 大 学 法 学 第5 4巻第 3号. ( 3 ). 集合的・公共的利益に対する私法上む権利の根拠となりうる民法理. 論の提示一一第二の視角 第二の視角は,集合的・公共的利益に対する私法上の権利の根拠となる 民法理論を明確に提示する,という考察の視角である O 私権としての環境権の議論においては,集合的な利益である環境利益の 探護は,億人的利益の保護を本来の巨的とする従来の私法理論の範酉を超 えている,とする批判がある叱さらには,環境権の内容,すなわち環境権 の主体の範囲,客体の範囲,及び判断基準が明確でない,とり批判もある時。 これらの批判を克醸するために,私人が独主的に享受しうる私的利益を目 的とする既存の古典的な私法上の権利とは異なる性質をもっ権利として集 合的・公共的利益に対する私法上の権利を捉えたうえで,その根拠となる 民法理論を明示することが必要となる O ここで,この考察を進めるにあたってさらに重要となるむが,環境権に 関する議論において,ある具体的な解釈論を展開するためにいったんさか のぼって抽象的・理念的な環境権を設定し,つぎに逆にそれを根拠として 解釈論を展開するというのは~\わば逆立ちした思考様式であり,みせかけ. の理由付けに過ぎない,という方法論的な批判が提示されていることであ るG この批判に適切に対応するためには,集合的・公共的利益に対する私法 上の権利の理論的構築に向けた考察を行う i こあたって,私法上の権利とは 情であるのか,そしてその私法上の権剥と認められた場合になぜ私人が民 事裁判を通じてその実現を強制できるのか,という問題をそれぞれ根拠づ ける基礎理論に基づいて,私法上の権利として認められるか否かを論じ 、社, 2 0 0 2 年,初出・ 2 0 0 0年 ) ) 。 斡本節二.( 2 ),同 ( 4 )参黒。 持本節ニ.( 2 )参照。. - 1 0 2(309)一.

(19) 集合的・公共的和益に対する私法上り権利の法的構成についての一考察(1). る,という方法がとられなければならな L冊。すなわち, 1:こだ単に,主体の 範囲,客体の範囲,及び判断基準を明確にすることそれ岳体を呂的として 考察を進めるという方法をとるのではなく,そもそも私法上の権利とは向 かという問題に関する基礎理論にのっとって集合的・公共的利益に対する 私法上の権利を正当化して L、く過程のなかで,主体の範囲,客体の範囲, 及び判断基準が明確となっていく,と言う方法をとることが必要となる開。. 第三節本稿の棲或一一「行政法理論との関孫」と「榎拠となる民法理 論 Jの提示 本章第二第に示した考察の視角にしたがって,以下,第二章において, 拘. 近年,消費者契約法に定められた不当条項についてその使用を契約締結 i こ先 立って差し止めるための立法を念頭におきつつその法律構成む可能性を検討す. 3頁以下は,不当条項む差止という開題が,環境保護の差止 る森罰・前掲注(1)11 と毘様に集合的利益そのものの法的保護が社会的に求められていることを確認 夏),護数の法的構成の検討を行い,その結果 したうえでく森田・龍掲注ω120 以上のように,不当条項使患の事苗差し止めを盟体訴訟として認める として, I のには,実体法上越えなければならな L、ハードルは多く,そのいずれもが私権 競念の張本に関わる理論的な大問題であることが示された。言い換えればわれ われはわれわれの伝統的な私法の概念を再定義することなしには,不当条項捷 用の差止請求権を消費者国体に仔使させるという制度を設計できないわけであ. 2 9頁〉。また,藤需康弘・須加憲子「環 るj と指摘している(森田・荷掲注(1)1. J5 0夏(日 境和益の救済処理について J牛出古稀『環境・公害法の理論と実践I 本評論社, 2 0 0 4年〉では, I …,諸学説の検討から,景観利益む保護のために は,古典的権利とは異賓の新しい権利の確立が要語されると考える点で,コン センサスが得られていることが明らかになった。これは, 1 匝人的利益のみなら ず公共的利益を市民が自らむイニシアティブによる員事訴訟で実現するという 新しい法現象に対して泣,. r 新たな法技術』が必要であることを意味する Jと指. 摘されている。本文 i こ述べた方法 i こ基づいて行って L、く本稿における考察は, これらに指摘されている揖題に対する考察ともなる。 開. 宮津俊昭「現代立憲主義富家において国家法として民法を制定する意味〈ー〉. J 近 法5 3 巻 1号 5 5( 14 4 ) 頁,詞 2号 1 0 3( 4 0 2 ) 頁,同 3・4号 2 4 1 - (西・完 ). ( 2 7 2 ) 真,同 5 4巻 1号 l夏 ( 2 0 0 5 2 0 0 6 年〉は,本稿との関採において, I 私法 上の権利とは何かという需題に関する基礎理論」として註置づけられる。. 103(308).

(20) 近 畿 大 学 法 学 第5 4 巻 第 3号. 行政法理論との関係のなかで集合的・公共的利益に対する私法上の権利の 持つ意味を明らかにする O この考察を基礎において,第三章において,集 合的・公共的利益に対する私法上の権利の袈拠となる民法理論を提示する O. 第二章行政法理論との関係において集合的・公共的利益に 対する私法上の権利の持つ意味. 第一軍. 問題の既在と本章の構成. 本章においては,行政法理論との関係のなかで集合的・公共的利益に対 する私法上の権利の持つ意味を明らかにする,という視角から考察を行 う憾。具体的には,まず,第二擦において,個人 i こ専属的に帰属しない集合 的・公共的利益に対して,私人が私法上の権利を通じて関与することをき畏 拠づける私法上の権利の存在意義を行致法理論との関採のなかで明確に示 すことを目的として考察を行う冊。この第二節の考察を踏まえて,第三節 において,私法上の権利を基礎とした民事訴訟を通じて集合的・公共的利 益が実現される必要性について考察を加える織。. 第二第. 民法理論と行政法理論の交錯領域における集合的・公共的利益. に対する私法上の権利の存在意義一一環境秩茅に対する私人の役割に 関する議論の整理を基礎において. 一. I まじめに 本節においては,集会的・公共的利益に対する私法上の権利について, 時本積第一章第二節三. ( 2 )参照、。. 側. . ω糾参. この点についての考察のもつ意味については,本稿第一章第二節三 照。. 鱒. この点についての考察むもつ意味については,本稿第一章第二節三. ( 2 ) ( b )参 照。. 1 0 4(3 0 7).

(21) 集合的・公共的和益に対する私法上の権利の法的構成についての一考察部. その存在意義を,民法理論と行政法理論の両者を視野に入れて明示するこ とを目的として考察を行う O この考察においては,本積第一章第二節と罰援に,環境利益に対する私 人の栓置づけの議論を直接む考察対象とし,その考察から集合的・公共的 利益一般に対する私法上の権利の存在意義を示す,と言う方法をとる。 また,以下の考察においては,それぞれ独立した体系をもっ民法理論と 行政法理論の関係を適切に整理するために,. r 秩序形成に対する私人の泣. 置づけ」と「秩序維持に対する私人の泣置づけ」という視点から,それぞ れ議論を整理する制。なお,本語においては,この「秩序」という語を, 「実現されなければ実力としての強制力を通じて実現されうるという性費 を持つ規範の集合j という意味で用いる錨。そのため,. r 環境秩序Jの語は,. こ関して,実現されなければ実力と 「集合的・公共的利益としての環境利益 i しての強制力を通じて実現されうるという性質を持つ規範の集合」との意 味をもっ O また f 秩序形成j を「秩序に含まれる規範の内容を決定するこ とj という意味で,. r 秩序維持Jを「秩淳違反が生じた場合にその違反を. 是正すること」という意味で,それぞれ用いる O 以下,本節二.において「秩序形或 i こ対する私人の位置づけ」及び「秩 序維持に対する私人の位霞づけ」と言う視点から,それぞれ環境秩序に対 する怠人の役割に関する民法学及び行政法学における議論を整理し,検討 を加える O この整理を基礎において,本宣言三.において,集合的・公共的 宗j 益に対する私法上の権利の害在意義について考察を加える。 制. このように「秩序形成」と「秩序維持」という視点から整理を行うことは, 吉田克三『現代市民社会と民法学I J2 4 9頁(日本評論社, 1 9 9 9年,初出・ 1 9 9 6 年 ' " ' '1 9 9 8 年)の記述から示唆を得た。. 紛. このような「秩序J の用語法については,宮津俊昭「現代立憲主義富家にお いて富家法として員法を制定する意味 ( -)J近法 53巻 1号 116( 8 3 )1 1 8( 8 1 ) 頁 ( 2 0 0 5 年)における「弘法秩序j の用語法における「秩序」の持つ意味と毘 じである。. - 1 0 5(306)一.

(22) 近 畿 大 学 法 学 第5 4巻第 3号. 二.環境秩淳に対する弘人の役割に関する民法学及び行政法学における 議論. 手形成j と「秩序維持J という視点からの整理と検討 「秩F. ( 1 ) 秩序形成に対する私人の没嵩 ( a ) 整理の読点. 以下山では,これまでの環境秩序に対する私人の役割に関する議論のな かかふ環境秩序の形成に対する私人の役割に寵する従来の議論を整理す るO ここでは,秩序形成の型を次の三つむ型に分けて整理を行う O 第ーが 国家又ほ地方公共団体による法規の定立を通じた秩序形成であるく以下 ( b ) )。第二が,私人の合意を基礎としてなされる秩序影成である(以下( c ) )。. そして第三が,漬習法の形成という形での秩序形成であるく以下総)。 ( b ) 国家・地方公共団体による秩序形成と弘人. 環境秩序の形成が,国家あるいは地方公共団体によって行われることに ついて異論はないものと考えられる粍国家・地方公共自体による環境秩 序形成は,基本的には,民主的正当性を梓った国家による法律の定立,及 び法律に基づいた政省令の定立,並びに地方公共冨体による条例の定立, 及び条例に基づいた規期の定立によって行われる叱 鱒. 阿部泰藍は,被害の未探訪止という観点を強講して事前に基準を定める行致 法規が環境法の中心となることを示す(阿部泰隆=淡路開久『環境法〔第 3版. 描訂販は 4 7頁以下〔間部泰隆執筆) (有斐閣, 2 0 0 6 年),こむ他,間部泰墜『行 政の法システム(上) (新版)J 4頁以下〈有斐閣, 1 9 9 7年),大橋洋一『行政 法現代行政過程論[第 2版J J 7頁以下(有斐麗, 2 0 0 4 年)も参照)。他方,民 法学においても,広中竣雄培,環境からの生活利益の共司享受の仕組みを「生 活利益秩序」としたうえで,この生活利益秩序において重要な地位を占めるの が行政的規制である,とする(正中俊雄 F 新版畏法縞要第一巻総論 J8 9頁(創 文社, 2 0 0 6 年))。また,吉田克己は,生活科益秩序の在り方は公共的性語を有 し,その内容を定めることは公事に属する,とする(吉田・前掲注( 8 ) 12 4 4頁)。 鱗 この地,地方公共団体においては,地域環境に関する秩序の形成が,行政指 導の基準(要綱〉を制定するという形で行われる場合がある(久保茂樹「建築 9 0頁〈有斐閣, 1 9 9 0 確認と器発指導要綱j成田頼暁編『行政法の争点(新版)J2 年))。要嬬とは,行政当局が行政の指針として指定する内部規範〈行政規量的ノ. -1 0 6( 3 0 5 )一.

(23) 集合鵠・公共的利益 i こ対する私法上む権利の法的講或についての一考察(1). このような冨家又は地方公共団体による法規の定立という形での秩序形 成の手続きに対して私人の参加権〈手続的権利)が,環境秩序の形成に対 する私人の役割に関する議論において中心的な位置を占めつつあるとされ ている錦織。具体的には,住民投票,重接請求,同意権の付与,意見提出・ 聴取手続,公聴会,事前説明会,審議会,協議会,各種推進員の委嘱,オ 、であり,条椀や規則のような正規の法規で誌なく,住民の権利義務を直接拘束 する法議範ではない(塩野宏『行政法 1 [第四販]行政法総論J9 7買,毘 1 9 0頁. 0 0 5年),大田直史「要綱の法的性費J芝池義一=小早川元郎=宇賀 (有斐鴎, 2 克也編「行政法の争点[第 3頴 ] J4 6頁(有斐隠, 2 0 0 4年))。現在の行政法学に おいては,法律あるいは条例の整備,及び可能な限りでの要縞の条例北が必要 であるとされている(伊j えば,宇賀克也,. r 開発負担j 同『行政手続法の理論J. 1 2 9頁(東京大学出版会, 1 9 9 5年,初出・ 1 9 8 7年),阿部・前提在鰯 3 8 1頁以下, 0頁以下(第一法規, 2 0 0 3 年),環境 北村喜宣『自治体環境行政法〔第 3版江 5 問題に関する要網については磯野弥生「地方分権時代の環境行政の課題J 淡路 =阿部還暦『環境法学の挑戦J7 0頁(百本評論社, 2 0 0 2年))。しかし,このよ うな改善策を講じた後にもなお,行政の内部規範としての要嬬む持つ意義は残 るとされている(芝池義一「行政法 i こおける要縞および協定」芦部信喜他編 契約 J2 8 2頁以下〈岩波書庖, 1 9 8 3年),宇賀克悲「要綱行政と負 『基本法学 4 担金」同『行政手続法の理論I J1 0 8頁以下(東京大学出版会, 1 9 9 5年,初出・ 1 9 8 7年),阿部・龍掲注鱒 3 6 9頁以下,認 3 8 3夏,前掲北村 5 1頁,前掲磯野 7 0頁. 以下〉。 駒. 淡路部久『環境権の法理と裁判 J4 5頁以下(有斐題, 1 9 8 0年,初出・ 1 9 7 9年 ) , 同「環境法む課題と環境法学J淡路=河部還暦 F 環境法学の挑戦J2 2頁(呂本. 0 0 2年),磯野弥生「環境行政における国民・注民の環境共罰決定権」 評論社, 2 兼子仁=磯部力編 F 手続的行政法学の理論J3 5 6頁以下〈勤草書房, 1 9 9 5年 ) , 北村・前掲注鈍 1 1 0頁,大久保規子「市民参加と環境法j 淡蕗=持部還麿『環境 法学む挑戦J9 3夏以下 (8本評論社, 2 0 0 2年),畠出武道「環境権,環境と需. 6 9 号1 7頁以下 ( 2 0 0 3年)。なお,淡路間久は,このような環境 報・参加」法教 2 穫の手続的権利としての側面から,環境権に基づく私法上の差止請求権を解釈 論的に基礎づけることを主張している(本稿第一章第二節二. ( 3 ) ( b )参照リただ い解釈論として,手続違反を基礎として実体私法上の権利が生じると講或し うるかについては疑問があるとされる(大塚恵「環境訴訟の震関j 法教 2 5 8号槌 頁 ( 2 0 0 2 年)参照))。 ( 鱒 なお,荷揚注綿において触れた要綱に関しても,その制定に際する住民の参 加の必要性が示されている〔議野・前掲在綿 7 1頁 ) 。. 1 0 7(304)一.

(24) 近 畿 大 学 法 学 第5 4巻第. 3号. ンブズマン制度などが,秩序形成手続への私人の参加の手法として挙げら れている的。 ( c ) 合意に基づく秩淳形成と私人. 前述(防で示した法規等の制定による秩序彦或において拭,国家又は地方 公共団体が一律的な基準を定めることによって秩序形成がなされる G これ に対し,合意,すなわち当事者間の意思の合致を基礎として秩序が形成さ れる場合がある O 環境秩序に関するこのような秩序彦或として,建築協 定告書・緑化協定鱒・景観協定締による秩序形成,及び公害防止協定〈環境管 理協定問による秩序形成が挙げられる。. 的. 大久保・前掲注紛 9 5貢。なお,大久課規子はこの他に甫畏参加の手法として 協定を示している。しかし,公害防止協定は,合意を基礎とするという意味に おいて,本文に引用したものと異なる性賞を構えている。そのため,協定につ いて泣,別に後述( c )において検討を加える O. 鱒. 建築協定とは,建築物む和馬を増進し,かっ,土地の環境を改善するために, 一定区域の土地の所有者等む合意により締結される協定である〈建基法的条)。 建築協定に関する議論む状担に関しては,大橋洋一「建築協定の課題と昔日震設 計J法政 6 8 巻 1号 7 6貰以下 ( 2 0 0 1年),松本垣雄「毘体法理・共有法理・契約法. J 7 3頁以下(有 理 j池田真朗=吉村長一=松本垣雄=高橋異『マルチラテラル民法J 斐麗, 2 0 0 2 年〉参照。 鱒 緑地協定とは,市街地の長好な環境を確保するため,都市計画区域内におけ る走査記簿の一回の土地等において,土地頭有者等の全員の合意によって諦結 5条 l項)。 される協定である(都事隷培法 4 側. 景観協定とは,景観計画区域内のー屈の土地において,当該土地の丞域にお ける良好な景観の形成に関して,土地所存者等の全員の合意によって締結され る協定である〈景観法8 1条)。景観協定は,工作物に関する事項,屋外広告物に 関する事項,あるいは農用地に関する事事など建築協定や緑地協定で定めるこ とのできる事項も含めて,その対象としているく景罰法制研究会編. F 逐条解説. 7 2頁(ぎょうせい, 2 0 0 4 年 ) ) 。 景観法J 1 的. 公害訪止協定(環境管理協定〉とは,公害砂防止又は公害発生後の事後処理 を呂的として,地方公共団体や市民が,環境負荷物質排出者等との間で結ぶ取 り決めをいう〈松村弓彦『環境法 J3 3頁(成文堂, 1 9 9 9年入野津正光「公害拐 止協定の私法的効力」淡路ニ阿部還露『環境法学の挑戦J1 2 9頁(日本評論社,. 2 0 0 2 年),公害防止協定の存在理由及び機能については,芝池・前掲注総 2 9 3頁ノ -1 0 8(303)一.

(25) 集合的・公共的利益に対する私法上の権利の法的講或についての一考察。. ( d ) 慣習法と秩序形成. t l 2条〉によれば,公の秩序又は善 法の適用に関する通期法 3条〈旧法f7 良の愚裕に反しない慣習は,法令の規定によって認め§れたもの及び法令 に規定のない事項に関するものに隈札法律と同ーの効力を有する〈慣習 法〉倒。しかし,行致法学においては,慣習法の成立は法治行政ないし法律 による行政の原理に抵推しない譲りにおいて可能とされ,その成立は極め て国難であり,成立の余地は憧少であるとされている叱そこで,慣習法 、以下,北村・前掲注髄 5 8頁以下参照)。公害防止協定に泣,地方公共団体が環境 負荷物質排出者等と締結する協定と,払人が環境負荷物質排出者等と諦結する 協定がある〈芝池・前掲注斡 2 9 0頁,大橋・前掲注総 3 4 6頁)。 地方公共団体が一方当事者となる公害訪止協定の法的性費については,これ を法的持束力のない紳士協定と捉えるか,あるいは契約と捉えるか,という点 について議論があり,現在の判例及び学説の多数は契約説であるとされる(前 掲松村 3 5頁,北村・前掲注細部頁,龍掲野津 1 3 2頁以下,安達和志「行致上む契 約・協定の法的性費j 芝池義一=小早川光郎=宇賀克也編. F 行政法の争点[第. 3販 H3 6頁(有斐閣, 2 0 0 4 年〉参照) 0 この地方公共毘体が一方当事者となる 公害訪止協定については,その締結過程において私人が参加する必要性が示さ. れているく阿部泰窪「公害防止協定と住民の救済方法」朝時 9 8 8 号2 1頁 0981 年),議野・前掲注齢 7 1頁以下)。また,地方公共団体と環境負荷物質誹出者等 との揮の公害防止譲定によって形成された環境秩序の維持に関して,当事者で ない私人が協定を援用して地方公共司体む権利を行使できるのか,という論点 も提示されている(前掲阿部 1 9夏以下,前掲野津 1 3 7頁以下〉。 地方,私人が環境負荷物質排出者等と諦結する協定については,これを私法 上の契約と捉えることに争いがないとされる〈前掲松村 3 5頁,五田喜久夫「環. 6 2頁(成文堂, 2 0 0 1年),前掲野津 境保全協定j 同 『 現 代 の 契 約 法 増 補 競J1 1 3 4 頁〉。なお,弘人が環境負荷物質排出者等と結ぷ公害拐止協定に関して i , ま 当事者となる私人の私益む追求としての'性費だけでなく,公共的・公益的註震 が錆わりうることを指摘する見解がある〈芝池・前揚注総 3 0 1頁,前掲松村 3 5 頁〉。また,私人と環境負荷物費掠出者との揮の公害訪生協定によって形成さ れた環境秩序の誰持に関して,締結当事者以外の第三者が協定を援用できる か,という論点も提示されている(人見離「特設j 法教 1 9 1号 1 0 5頁(19 9 6年 ) , 前掲野津 1 3 7頁以下,大構・蔀謁注鱒 3 4 7夏以下〉。 倒 奥田昌道 f 事実たる 慣習と法例二条J加藤一郎=米倉明編 F 民法の争点 I J d. 3 8頁〈有斐閣, 1 9 8 5 年 ) 。 109(302).

(26) 近 畿 大 学 法 学 第5 4巻第 3号. が形成されるという形での秩序形成は,主に民法学における議論が検討の 対象となる O 民法学の議論において,慣習法とは,. r たびたび繰り返されるため,慣習. を守ることが,国民の義務意識を伴うこととなり,国家の裁判所により, 法として紛争解決の基準とするを要すると考えられるに至ったもの,ある いは,立法に擦してその事項を成文法化せず潰習に委ねるものとし,国会 が法捧として柔認を与えたもの」とされる倒。そして,漬習に法源性を認め ること誌可龍とされている民そして,裁判所は,このような慣習法を,異 鱒. 阿部泰経 F 行政の法システム〈下) (新設 ) J6 8 8頁(有斐麗, 1 9 9 7年),塩野・ 前掲注純 5 5夏,藤田宙靖『第四版行政法 1 (総論) (改訂版)J 5 5頁注(1) (青林. 0 0 5 年),原田詣彦 書院, 2. r 1'子政法要論〈全訂第六妓)j 3 5頁以下〈学陽書房,. 2 0 0 5年〉。例外的に行政詮において成立の肯定される慣習としては,法令の公 布を官報によるとする慣習,及び地域住民による公物等の長年の使用が権利と して承認される場合(地方的民衆的慢習法〉が挙げられている(前掲阿部・ 6 8 8 頁,塩野・前掲注働 5 5頁,前掲原田・ 3 6頁〉。 勝 谷口知平=石田喜久夫編『新版注釈民法(1)総期(1) (改訂版)J 3頁〔谷 口知平執筆) (有斐詔, 2 0 0 2年)むなお, r 慣習法j がこのように定義つn tられる 場合,子慣習法 JI ま,宮津・前掲注総 1 1 7( 8 2 )頁において示した f 私法秩序」 と同質む讃念となる O 栂 我 妻 栄 『 新 吉 民 法 総 別 J1 7頁以下(岩波書庖, 1 9 6 5年 ) , J I I島武宣 F 民法総 則 J2 1夏立下〈有斐閣, 1 9 6 5年),星野英-11 民法譲論 1 (序論・総期 ) J3 2頁 以下(員書普及会, 1 9 7 1年),西宮和夫 F 民法総剥〈第居版)j 7頁(弘文堂,. 1 9 8 6年),石田穣 F 民法総剥 J2 2頁以下〈悠々社, 1 9 9 2年 ) , 1 1 1井健 F 民法概論 1 (民法鎗期) (第二版)J 5頁〈有斐閣, 2 0 0 0年)など(なお,法源論自捧を. F 民法総則 2 0 0 5年),内田貴『民法 I 第 3抜総別・物権総論J(東京. 取り扱わない概説書も近年では多い〈例えば西宮和夫=詫見善久 〔 第 7版)J (弘文堂,. 大学出版会, 2 0 0 5年),北)IJ善太郎『員法総則第 2販(民法講要 I)j (有斐寵,. 2 0 0 1年)など))。 ただし,いかなる慣習に法源性が認められるか,という点については争いが ある。まず, 1 ' 震習法というためには,当該'讃習が法的確告を伴っていることを 必要とするか,という点が問題とされる(品要とする見解として,前掲我妻 1 7 頁,来摺三部九、わゆる事実たる慣習と法たる積習」鈴木古語 F 現代商法学の 課題(上)J2 4 0頁〈有斐閣, 1 9 7 5年),不必要とする見解として諦掲石田 2 3頁が ある O また奥田昌道は,規範註を必要とする(奥田・龍揖注側 3 9頁))。さらに,ノ. -1 1 0( 3 0 1 )一.

(27) 集合的・公共的和益に対する私法上の権利の法的構成についての一考察(1). 体的事件の解決の拠り所として適用しなければならない民このような意 味における震習法が,環境利益に関して形成された場合には,環境利益秩 序に含まれる規範が形成されたこととなる O このような環境秩浮の形成は,前述{ゆで述べた国家又は地方公共団体に よる一律的な基準の制定による秩序形成ではな t ' o この意味に指いて国家 でi まない私人〈の集合体〉による秩淳の形成と見ることができる O なお, c )に述べた建築協定・隷地協定・景観協定・公害訪止協定とは,明示 前述(. 的な合意による秩序形成で誌ないという点が異なる O ( 2 ) 秩浮維持に対する私人の役割. 糾整理の視点 以下( 2 )では,こむまでの環境秩序に対する弘人の役蔀に関する議論のな かから,秩淳違反が生じた場合にその違反を是正するという意味における 秩序誰持に対する私人の役割に関する従来の議論を整理する O 具体的に は,私人による裁判所を通じた秩淳維持を開題とする O 以下紛において,. 、慣習む法源性が認められるためには,国家機関たる裁判所によって当該'慣習が 相当と認められることが必要である,とする見解も主張されている(来栖三郎. f 法の解釈における慣習の意義」兼子還暦 F 裁 判 法 の 諸 開 題 下J6 2 9頁以下(脊 斐盟, 1 9 7 0年),苗掲来語 2 4 0頁,宮靖孝治郎九、わ捗る積習法は民法の法源た 私法学の新たな展開 J1 3 5頁〈有斐罰, 1 9 7 5年),前掲石 り得るかj 我妻追悼 F 司2 2頁)。このような論点を轄まえて,さらには法の適用に隠する通則法 3条 C I日法例 2条)と民法 9 2条の関採についての議論〈概要について奥田・前場注鱒 3 8頁参思〉も詰まえて,民法上の費習法についての考察を,宮揮俊昭「現代立 憲主義国家において富家法として民法を説定する意味(ー) ' " (四・完 ) J近 法. 5 3 巻 1号 5 5( 14 4 ) 頁,同 2号 1 0 3( 4 0 2 ) 頁,同 3・4号 2 4 1( 2 7 2 ) 頁,同 5 4 巻 1号 1頁 ( 2 0 0 5 2 0 0 6 年)に示した理論的枠組を基礎として行うことを今後 の諜題とする。 締. 法源の意味を裁判基準あるい泣そむ源泉とするものとして,川島・前掲注賜. 1 7夏,星野・蔀掲注鵠 3 0頁以下,西宮・前掲注錦 5頁,石田・前掲詮線 2 2頁。 谷口知平=石田喜久夫編. F 新版注釈畏法(1)議員U( 1 ) (改訂販J J 2頁〔田中. 実=安永正昭執筆) (有斐毘, 2 0 0 2 年)はこの克解を通説の一つに挙げる。. 1 1 1(3∞〉.

(28) 近 畿 大 学 法 学 第5 4 巻第 3号. 私人による行政訴訟を通じた秩序維持について,以下( c )において民事訴訟 を通じた秩序維持について,それぞれ議論を整理する O ( b ) 私人による行政訴訟を通じた環境秩序維持. 行政訴訟制度は,第一次的に,違法あるいは不当な行政活動によって侵 害された私人の権利・利益の回復のための手段,またはそのような場合の 紛争の解泊を通じた私人の救済をはかる手段と捉えられている叱さら に,これに加えて行政訴訟制度は,行政が法律上与えられた権隈を違法に 行便する場合,あるいは逆にそのような権限を仔使しないという場合に, この権限む行使または不行使を,司法権を通じて監読・矯正するという行 政統制の機能も備えているとされる憾。こ cような行政統制の機能は,行 致訴訟を通じた私人による秩序錐持を実現する機詑であると捉えることが できる O そして,私人による裁判所を通じた環境秩淳維持は,行政訴訟が その中心的役割を担うとされる倒。. 鰐. 雄川一郎「行政救済制度の基本原理j 同「行政争訟の理論I J 3頁以下〈有斐. 1 9 8 6年,初出・ 1 9 4 9年),南博方編『条解行政事件訴訟法〔第 3鼓 H 1頁 以下〔南執筆) (弘文堂, 2 0 0 6年),葉国・前掲注鱒 3 5 3頁以下,環器・前掲注鱒 3 4 0頁以下。 総 雄)1[・前掲注腕 4頁,南編・前揚注腕 1頁〔甫執筆),藤田・前掲注鱒 3 5 3頁 以下,阿部泰軽「基本科目としての行政法・行政救済法の意義〈三) J 自研 7 7巻 6号 3 4頁 ( 2 0 0 1年),詞 i(四)J 同 7号 5真 ( 2 0 0 1年〉。なお,近年では,国民 昆. の権利救済制度としての行政訴訟都度の機能のーっとして行設の違法性確保を 認めるので誌なく,行政の適法性確保鵠度としての行政訴訟制震に独自の意義 を認めるとする見解が有力である(中川丈久「行致事件訴訟法の改正」公法 6 3 号1 3 3頁 ( 2 0 0 1年),曽和俊文「行設訴訟制度の憲法的基礎j ジュリ 1 2 1 9号 6 3頁. 2 0 0 2年),亘理搭「行政訴訟の理念と自的J ジュリ 1 2 3 4号 1 4票以下 ( 2 0 0 2 以下 ( 年)),橋本尊之 F 解説改正行致事件訴訟法I J1 4 頁(弘文堂, 2 0 0 4 年)などを参 照。また,小早川光郎〈司会) =斉藤浩=芝池義一=鶴岡稔彦=中)1(丈久=村 I I光部編『改正行政事件 富斉志ニ亘理格「く研究会〉改正行政事件訴訟法J小阜 J 訴訟法研究I J2 7 3 1頁(脊斐龍, 2 0 0 5年)における議論も参照。 織原田尚彦 環境権Jと裁判所の役書む同『環境権と裁判I J1 3夏(弘文堂,ノ. i r. 1 1 2( 2 9 9).

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