「光物理学の基礎」というタイトルに表されるように, 本書の目指すところは光と物質がどのように相互作用する かという物理を学ぶことである.これは結局のところ,例 えば光領域の電磁場に対する誘電率とその分散関係とは, といった,光物理学において非常に重要な概念を学ぶこと を意味する.つまり本書が示すものは,光の回折や干渉な どの,どちらかといえば純粋な意味での光学ではなく,物 質の基本的なパラメーターが電磁場の周波数(波長)にど う依存するか,あるいは光と物質の相互作用の結果として 物質の基本的なパラメーターがどのように決定されるか, といった物性理論である.本書のまえがきに従えば,われ われが住む世界において,光によってもたらされる現象 は,光とモノとが関わることで初めて具現化するのであっ て,その本質は光(電磁場)に対して物質(原子や分子) がどのように応答するか,ということである.本書はこの ような視点に立って,光物理学の基礎が初学者にも理解し やすいようにまとめられている. 本書の構成を簡単に示すと,第 1 章では,光の電磁場と しての基本的な概念が示され,振動する電磁場が物質中に 誘起する分極のイメージと,物質中での光の振る舞いを記 述する上での基本的な光学定数である屈折率などの意味に ついて解説している. 2 章および 3 章においては,光の電磁気学的な取り扱い として,マクスウェル方程式から物質中での伝搬方程式を 導出し,物質内に誘起される分極と光電場の関係性につい て順を追って説明している.特に,応答関数の物理的意味 と数学的記述について詳細に説明されている. 4 章では,物質境界面における光の振る舞いとして,反 射と屈折について説明している.続く 5 章および 6 章にお いては,物質中での光の応答関数(誘電率)や屈折率・吸 収係数などの光学定数がどのように定式化されるかを,誘 電体(ローレンツモデル)および金属(ドルーデモデル) のそれぞれについて章に分けて記述している.いずれの章 においても,ただ結論の式を示すだけでなく,その導出過 程を示しながら物理的な意味と役割の理解に重点が置かれ ており,例えば物質の共鳴付近での光の伝搬において重要 な概念となるポラリトンの振る舞いなども非常にわかりや すく記述されている. 7 章では,ここまでに学んだ概念を踏まえて,物質中で の光パルスの伝搬について記述されている.特に,光パル スの伝搬において物質の分散特性がパルス幅に与える影響 (パルス幅の広がり)について詳細に議論されている.6 章 までの内容と比べると若干専門的な内容も含まれている が,初学者にも理解できるように基礎から説明されてお り,これまで学んだ内容の総復習として本章を読み進める ことができる.近年は,光を用いた物性研究においてフェ ムト秒やサブフェムト秒といった超短パルス光が用いられ ることも多く,本章で扱う内容は実践的な意味でも有益で ある.一方で,異常分散領域における光パルスの超光速伝 搬といったきわめて特異な現象も紹介されており,非常に 読み応えのある章である. このように本書の特徴は,物質中での光の振る舞いにつ いて,その基本的な原理や物理的イメージをつかむことを 第一に,やさしく説明されていることである.初学者が学 ぶ上で疑問に思うような箇所は,予期していたかのように 特に丁寧に解説されていると感じる.本書が対象とする読 者は光物性の基礎を学ぶ大学生および大学院生であること は間違いないが,光に関連する研究をこれから始める若手 研究者や技術者にとっても,基本概念の再確認のためのよ い手引きとなるであろう.光物性という観点からは,本書 が扱う範囲は決して広くはないものの,今後光物性を詳細 に学ぶ上での基本的な考え方を十分に身に付けることがで きる.本書は,さらに専門的な光物性論の教科書を読み進 めていくための導入としても,最適であると思われる. (東北大学多元物質科学研究所 小澤祐市) 153(41) 42 巻 3 号(2013)
「光物理学の基礎 ─物質中の光の振る舞い─」江馬一弘 著
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